ほとばしる命~『駆ける少年』

DAVANDEH
THE RUNNER
イランの小さな港町に住むアミル(マジッド・ニルマンド)は、天涯孤独な少年。
廃船にひとりで住み、水売りやビン拾いで生計を立てている。
イラン出身の映画監督、アミール・ナデリによる1985年の作品。27年の時を
経て劇場公開されたのは、『cut』 を撮った監督の、日本への愛情のたまもの
だろう。劇場の壁には、監督へのたくさんのメッセージが貼り出されていて、
思わずパチリ。

海辺の町に暮らす、天涯孤独な少年。そう聞いて思い出すのは、トニー・ガト
リフの名作 『モンド』。瑞々しい宝石のようなあの作品に対し、本作は荒削り
で、生命力に満ちた力強さを感じる。何より、アミル少年のはみだしそうなあの
笑顔! 貧困・無学という劣悪な環境に育っているというのに、彼の笑顔は
「心底」 のもの。働くこと、働いて対価を得ること。そのことに何の疑問も抱か
ず、ただ 「生きる」。ポジティブなエネルギーが充満している彼は、とにかく走
る、走る、走る! そして叫ぶ。飛行機に、船に、列車に。「ここではない何処
か」 へ連れ出してくれる 「何か」 に向かって。
この、無尽蔵とも思えるエネルギーの源は、一体何なのだろう? 細く未完
成な身体からほとばしる 「命」 という不思議。走るシルエットは完璧で、溜息
が出るほど美しい。現代の日本では、到底お目にかかれそうもない野性味あ
ふれる少年。彼に出会えただけでも、この映画が劇場公開された意味はあっ
たと思える。

しかし、彼はある日気付くのだ。この世界には 「文字」 という、今より更に
深く広く、面白い場所へ連れて行ってくれる手段があることに。読み書きは、ア
ミルを今とは違う場所へ誘うだろう。それは幸福だけでなく、荒波のような困難
をも伴う旅かもしれない。
「自分の力を試したかった」。勝負のついた競走の後、アミルはつぶやく。彼
ならきっと、もっともっと大きな世界で、必ず幸せを掴むだろう。そう願わずには
いられない。

( 『駆ける少年』 監督・脚本:アミール・ナデリ/1985・イラン/主演:マジッド・ニルマンド)
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真紅さま こんにちは。
このレビューを全文翻訳してナデリ監督に読ませてあげたい!
素晴らしい。映画館で、うるっと来て、このブログで泣きました。
読むこと、書くこと。その積み重ねが人を“今より更に深く広く面白い場所へ”導いてくれるということを、Thinkingdaysが証明してくれています。『別離』のときも同じことコメントしましたが、この映画を見た人のすべての思いがここにあります。そう思いました。
駆ける少年の姿と真紅さんに乾杯だっ
!
あぁ、私も子供の頃のようにまた、思いっきり走りたい。
たぶん50メートルいかないうちにでバテるだろうけれど(^^ゞ。
このレビューを全文翻訳してナデリ監督に読ませてあげたい!
素晴らしい。映画館で、うるっと来て、このブログで泣きました。
読むこと、書くこと。その積み重ねが人を“今より更に深く広く面白い場所へ”導いてくれるということを、Thinkingdaysが証明してくれています。『別離』のときも同じことコメントしましたが、この映画を見た人のすべての思いがここにあります。そう思いました。
駆ける少年の姿と真紅さんに乾杯だっ


あぁ、私も子供の頃のようにまた、思いっきり走りたい。
たぶん50メートルいかないうちにでバテるだろうけれど(^^ゞ。
2013-02-08 21:32 :
メグ URL :
編集
メグさん、おはようございます。コメントありがとうございます。
この映画ご覧になられたのですね! うれしいです。
上映館が本当に少ない作品ですし、これ観てる人少ないだろうな~と思いながら劇場に足を運びました。
私は『cut』は観逃していますし、監督の作品は初めてだったんです。
ちょっとこれ好きそうな感じかも、、、でもあまり期待しないようにしよう、、と思っていたのですが、素晴らしかったですね。
アミル少年はほぼ監督自身の姿だとか。。
逞しいですね。
ゆっくり、走りましょう。
歩いてもいいんですよ。動くことが大事なんだな~、と思います。
この映画ご覧になられたのですね! うれしいです。
上映館が本当に少ない作品ですし、これ観てる人少ないだろうな~と思いながら劇場に足を運びました。
私は『cut』は観逃していますし、監督の作品は初めてだったんです。
ちょっとこれ好きそうな感じかも、、、でもあまり期待しないようにしよう、、と思っていたのですが、素晴らしかったですね。
アミル少年はほぼ監督自身の姿だとか。。
逞しいですね。
ゆっくり、走りましょう。
歩いてもいいんですよ。動くことが大事なんだな~、と思います。