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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

戦争が生んだ苦悩~『父親たちの星条旗』

20061212232011.jpg

 太平洋戦争の激戦地だった「硫黄島」を、日米双方の視点から描いた2部作の第一作
硫黄島、擂鉢山の山頂に兵士たちが星条旗を掲げる一枚の写真。長引く戦争に疲弊し
ていたアメリカ国民の戦意を高揚したこの写真の裏側にある、英雄として祭り上げら
れ、戦時国債キャンペーンに利用される兵士たちの苦悩を描く物語。原作は、主人公
ドクの息子であるジェイムズ・ブラッドリーが著した『硫黄島の星条旗』(文春文庫)。
製作はスティーブン・スピルバーグ、脚本はポール・ハギスウィリアム・ブロイレスJr.
クリント・イーストウッド製作・監督・音楽を手がけている。

 ジョー・ローゼンタールの撮影した『硫黄島での国旗掲揚』は、ロバート・キャパの
『崩れ落ちる兵士』、沢田教一の『自由への逃避』などと並ぶ、世界で最も有名な戦争
報道写真
の一つだ。ジェイク・ジレンホールの『遠い空の向こうに』にも、ジェイク演
じる主人公ホーマーとその仲間が自分たちのロケット製造地に旗を立てる、この写真
の構図とそっくりな場面
がある。アメリカでは知らぬ者のないだろう有名な写真だ。

20061212232041.jpg

 その写真に写り込んでしまったばかりに、自ら望んだわけではない「英雄」という立場
に投げ込まれてしまった若者たち。衛生兵であったドクライアン・フィリップ)は、
戸惑いつつ淡々と「英雄」としての任務をこなしながらも、死者の呼び声を聞き、戦地
で見失ってしまった戦友イギー
ジェイミー=ビリー・エリオット=ベル)を探し続け
る。伝令係であったレイニージェシー・ブラッドフォード)は嬉々として全米を廻る
が、戦争が終われば過去の人であり、一介のブルーワーカーとしてその人生を閉じる。
ネイティブ・アメリカンであるアイラアダム・ビーチ)は、人々の表面的な賛辞の裏
に在り続ける「インディアン」への差別に傷つき、アルコールに溺れて行き倒れる。
戦地の記憶がフラッシュバックする、時間軸をバラバラにした手法が彼らの苦悩を
鮮明に浮かび上がらせていく


 原題は『FLAGS OF OUR FATHERS』。写真の中で翻る星条旗は一枚なのに、
FLAGSと複数形になっている理由も明らかになる。偶然の重なりで生まれた写真、
そこに在る風景は真実であるけれども、写真から生まれるものは必ずしも真実とは限ら
ない
。それは戦争における「英雄」であり、「勝利」だ。
 
 どんなに悲惨な場面を描こうと、クリント・イーストウッドの作品からは品の良さ
感じられるのはどうしてだろう? 音楽も手がけるこの巨匠の映画への情熱は、果てる
ことがないかのようだ。戦場には決して英雄はいない、ただ戦友がいるのみだという
メッセージ。ドクが生涯心に留めた、海で戯れる戦友たちの無邪気な姿を切り取った
ラストシーン
が悲しく、そこだけ美しい。

 主演のライアン・フィリップは、抑えた演出に抑えた演技で応え、ドクの苦悩と悲し
みを十分に表現していたと思う。部下思いの「最高の海兵隊員」マイク軍曹を演じたバリー
・ペッパー
も印象的。「もうイヤだ」という一瞬の感傷が生死を分ける戦争の惨い現実。
地味ながら決して目を背けるべきでない、語り継ぐべき真実を描いた秀作。2部作の
もう一方『硫黄島からの手紙』も是非観たいと思う。

(『父親たちの星条旗』監督:クリント・イーストウッド/主演:ライアン・フィリップ
         ジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチ/2006・USA)
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テーマ : 硫黄島二部作
ジャンル : 映画

2006-12-12 : 映画 : コメント : 14 : トラックバック : 11
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父親たちの星条旗
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2007-05-27 07:57 : ポコアポコヤ 映画倉庫
独断的映画感想文:父親達の星条旗
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『父親たちの星条旗』-映画は日本の勝ちですか
Flags of Our Fathers『硫黄島からの手紙』とバック・トゥ・バックで観てしまったが、『硫黄島・・・』が、期待以上に素晴らしかったのに対して、こちら『父親たちの星条旗』は、結構平均的なアメリカの戦争映画といった印象
2007-08-11 20:23 : 姫のお楽しみ袋 
父親たちの星条旗
 『アメリカから見た硫黄島 戦争を終わらせた一枚の写真。その真実。』  コチラの「父親たちの星条旗」は、硫黄島の戦いをアメリカ側の視点で描いたクリント・イーストウッド監督作品なんですが、10/28公開になったので、観てきちゃいましたぁ~♪  確か教科書にも
2007-12-21 21:28 : ☆彡映画鑑賞日記☆彡
『父親たちの星条旗』 FlagsofOurFathers
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父親たちの星条旗
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2009-08-06 13:52 : Addict allcinema 映画レビュー
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非公開コメント

真紅さん
ラストの海辺のシーンは本当に美しかったですね。ああいうごく普通の若者たちが、本人の意思とは無関係に無意味に命を落としていく、または奪っていく事の悲しさが伝わってくる作品でした。 そのテーマは「硫黄島」も同じで、
2作を通じて結局どちら側も状況はちがえど、
末端の兵士や家族の人生はどれもかけがえのないものだってのが浮き上がってきていると
思いました。
本作も「硫黄島」もとても素晴らしい映画なので
ぜひご覧になってください!
2006-12-13 08:46 : kazupon URL : 編集
kazuponさま、こんにちは。コメントとTB、ありがとうございます。
同じように悲惨で不条理な戦争を描いていても、なんだか深く考えさせられるような映画でした。
どんなに轟音や銃声が響いても、静かな印象なんですよね。
これってやっぱりイーストウッドの「腕」なのかな、と思ったり・・。
『硫黄島』も是非観たいと思っています。観たらまたお話に伺いますね。よろしくお願いします。
ではでは、ありがとうございました。
2006-12-13 09:10 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんにちは。
ここ数日、バタバタするばっかりの毎日で、
お邪魔するのが遅くなってごめんなさい。

まず、こちらをご覧になったんですね。
イーストウッド監督作品をあまり観ていなかったので、
どういう視点で作品を造る人かという信頼もないまま、
「アメリカ人が描く日本」を当初はかなり眉唾で観始めたのですが、
見えない敵として扱うだけで、思わせぶりなまでに日本を描写せず、
『硫黄島からの手紙』を是非観なくては!と思わせられました。
内容は、予想していたものよりずっとシビアで、
アメリカ人が過ぎるくらいに冷静にこういう作品を作れることに、
ただただ感服し、敬意を表するものでした。

もう、これ以上、大事な男たちを戦場へ送りたくない。
この作品で強く思ったことは、
『硫黄島~』ではさらに強くなり、戦争に対する悲しみより怒りが沸いてきました。
2006-12-13 09:46 : 悠雅 URL : 編集
悠雅さま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
お忙しいのですから、返信が遅くなったとか気になさらないで下さいね!
来ていただけるだけでうれしいです。ありがとうございます。
さて。この作品、日本側の描写は皆無でしたね。双方からの視点で二部作にするというのは凄いアイデア、慧眼だと思います。
イーストウッドって、たしか昔、アメリカのどこかで市長さんでしたよね。
才能があって頭がいい人だから政治にも興味があったのだと思いますが、映画の世界に戻ってきてくれて本当によかったな~、と思います。
『硫黄島』ますます観なければなりません!観たらまたお伺いしますね。
ではでは、ありがとうございました。
2006-12-13 14:44 : 真紅 URL : 編集
真紅さま、こんばんは~♪
コメントをいただき、ありがとうございました。
TB飛びました~(嬉)
でも、私の、ちょっと私情に走りすぎなのでどうかとも・・。
「硫黄島」のほうも、絶対に見たいのでなんとか時間をとろうと画策中です。
イーストウッドは、ほんと骨太の作品を撮りまくっていますね。おかげで勉強になってしまいます。
2006-12-14 00:55 : 武田 URL : 編集
武田さま、こんにちは。TBとコメント、ありがとうございます。
TB、どうも武田さまのほうから成功したエントリのみ可能のようですね・・?
よくわかりませんが、今後もトライしてみますね。
感想、私情に走ってもいいですよ!
映画に限らず、自分自身に引き受けて感情が動くというのは真の意味でその作品を味わったということだと思いますから。
『硫黄島』観たらまたお話しましょうね!ではでは、ありがとうございました。
2006-12-14 08:50 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんばんは。

イーストウッドの映画には、
本当に品がありますよね。
まぁ女性遍歴はかなり華麗なようですが(笑)。
そんな人間味がまた俺は好きだったりします。

本作も、
メッセージの押し付けのないとこが、
普遍性につながっているんだと思います。
2006-12-14 21:55 : 栗本 東樹 URL : 編集
栗本さま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
クリント・イーストウッドは何回もテイクを重ねることを好まないそうですね。
彼のシンプルさや、しつこ過ぎない撮り方、信念がフィルムに焼きついて、品よく見えるのかな・・と思ったりしました。
女性遍歴・・、まぁ、かっこいい方ですから(笑)
ではまた遊びに来て下さいね。ありがとうございました。
2006-12-14 22:31 : 真紅 URL : 編集
真紅さま~こんにちは!
うん、うん!品が良いっていう表現が、とても当たります♪
>戦場には英雄はいない・・・・戦友が・・・
のセリフ、私もガツーンと来ました。
見応えのある映画でした。

PS 暮らしの手帖の沢木さんの映画の評論のところ、終わっちゃっていたんですね。
暮らしの・・・は、図書館にあるので、見たりしてるのです。沢木さんの評論は、ズバズバ本音で書いているので読んでいて楽しかったです。
一度、山の郵便配達(私のお気に入りの映画なのです)のことを、ちょっと批判してる部分があったんです。この登場人物なら、絶対こうするはずがないのに・・・と書いていて、とってもとっても気になったので、確かアドレスがあったので、質問してみましたが、スル~されました(爆)
ま、お忙しいでしょうし、お返事頂けるとは、思っていませんでしたが^^
2007-05-27 08:03 : latifa URL : 編集
latifaさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
イーストウッドって本当にいい映画撮りますよね。俳優さんからも凄く尊敬されているし、志の高い方なのだと思います。
最初、この映画の企画を知ったときは、日本を批判する内容なのかな・・と不安だったんです。
でも、そんなことは全く杞憂で、日米双方を公平に描こうと二部作にしたんですよね~、素晴らしいです、感謝ですね。

そうなんです、今発売中の『暮らしの手帖』には、もう沢木さんの映画評は載っていないんですよ。
『山の郵便配達』をちょっとだけ批判している文章、本に載ってましたよ!
私もどの部分を指しているのかわかりませんでした。いい映画だけど、そこだけダメ、みたいな書き方でしたよね。
あの映画は私も印象的で、レンタルビデオ店にも置いています。感想は書いてないんですけどね。
お返事いただけなかったのですね~、残念!
昔沢木さんの講演に行ったことがあるのですが、お話はそんなに得意な感じではありませんでした。
文章は、とてもいいですよね。私も大好きです。
ではでは、またお伺いします~。
2007-05-27 10:06 : 真紅 URL : 編集
真紅様,TB有り難うございました.
僕が一兵士として戦争に行ったら,というのが戦争映画を見るときの僕の視点の一つです.戦場では一方で人間の丸裸の勇気が試されますが,一方で人間が人間を見る視点がどうなのかもあからさまになります.
この2部作ではその点がいずれも鮮明に描かれていたように思えます.
2007-06-24 00:27 : ほんやら堂 URL : 編集
ほんやら堂さま、こんにちは。こちらこそTBとコメントをいただきありがとうございました。
私はいつも「愛するものを戦場に見送った」ものの視点で観ているような気がします。
人間が人間を見る視点、それは敵を自分と同じ人間として見られるか、ということなのでしょうか。
戦争映画は尽きないですね、それは地球上で戦争が尽きないからだとしたら悲しいことです。
ではでは、またお話しましょう。
2007-06-24 00:39 : 真紅 URL : 編集
TBサンクスです!私は『硫黄島』を先に観ちゃったせいか、こっちはすごーくベタに感じられてしまいました。アメリカ人のノスタルジーを満足させてくれそうな・・・。
2007-08-11 20:21 : ちゅちゅ URL : 編集
ちゅちゅさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
アメリカ人を身近に感じているちゅちゅさまだから、ちょっと類型的に感じられたのかな?
映画としては優れた作品だと思うのですけどね、本国では全然評価されなかったみたいだけど・・・。
ではでは、またです~。
2007-08-11 21:29 : 真紅 URL : 編集
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