最期のときに~『終の信託』
終の信託

 呼吸器内科の医師・折井綾乃(草刈民代)は、検察庁から召喚を受ける。自身
が担当し、3年前臨終に立ち会った喘息患者・江木(役所広司)の家族から、彼女
殺人罪で告発されたのだ。

 周防正行監督の新作は、終末期の延命治療を巡るサスペンス。医療訴訟が繰
り返し起こされている現実を反映し、生命の尊厳、本人の意思、家族の思い、医
療者の苦悩
など、様々な角度から考えさせられる作品になっている。観る人それ
ぞれの経験生命観によって、感想が180度変わりそうな問題作。しかし、さすが
は周防監督。144分の長尺を、説得力十分に引っ張ってくれた。全く長く感じない
ので、多くの方に観ていただきたい

終の信託2

 主人公である綾乃は、東大医学部卒のエリート中のエリートでありながら、
同僚医師(浅野忠信)との不倫に破れ、自殺未遂を図る孤独な女性。心に
があり、誰かに依存せずにはいられない性質なのだろう、担当患者である江
木に「最期は早く楽にして下さい」 と懇願されて肯きながらも、「私は江木さ
んがいなくなったら、どうすればいいの?」
 なんて言ってしまうような女性。
死を覚悟している人に対して、それを口にするのは違うと思う。感じたり、思っ
たりすることは自由だけれど。

 経済的な問題や、長く看病し続けてくれている妻(中村久美)の負担を考え、
江木は半ば自殺のような形で、心肺停止のまま救急車で運ばれる。綾乃は
悩みながらも、呼吸器を外す決断をし、家族に覚悟を促す。

 役作りのためか、少し痩せた役所広司の演技が凄い。特に、臨終場面の苦
しみようは正視できないほど。あの姿を見たら、家族は到底納得できる最期だ
とは思えないだろう
し、激しく後悔すると思う。江木はどんなに苦しかったか・・・。
あれはほとんど拷問でしょう。

 しかし、一番いけないのは江木が家族(特に妻)に意思表示を明確にしてい
なかったこと
だと思うのだ。いくら信頼していたとはいえ、他人である医師に、
自分の死の全責任を負わせるのは酷というものでしょう。せめて文書の形で
でも、彼は家族向けに、きちんとしたリビング・ウィルを遺しておくべきだった
と思う、自戒を込めて。

終の信託3

 検事役の大沢たかおも、「こんな怖い人だったのか・・・」と思ってしまうほど
迫真の演技。この映画、とにかく長セリフなので、役者の皆さんは大変だった
のではないかな。草刈さんも頑張っていました。

 検事のペースで取調べは進み、彼の望む通りのストーリーで「罪」 が生み
出されて行く過程は背筋が寒くなる。生命は尊重すべきだけれど、「たくさんの
管につながれた、ただの肉の塊になってまで生きていたくない」
 江木のこの
言葉に、深く肯いている私がいるのだった。

 ( 『終の信託』 監督・脚本:周防正行/2012・日本/
      主演:草刈民代、役所広司、大沢たかお、細田よしひこ、浅野忠信
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テーマ:考えさせられた映画 - ジャンル:映画

[2012/11/02 09:44] | 映画 | トラックバック(23) | コメント(8) |
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コメント
真紅さん、当方にいらして下さって感謝です。
「書類の不備に尽きる!」
おそらく多くの鑑賞者が思われたでしょう。
ただ単に理解を助けるための答えとしては
そうなんですけれど、本作はやはり
「よかれと思った」人間の仕業の甘さと弱さに
キリもみ状態にさせられる正統派人間ドラマでもありますね~

巧みな物語を見せてくれる周防監督も
こと奥方に関してはそれこそ“詰めが甘い”。
本作ヒットでまた次回作も喜んで奥方さまを
お使いになるんでしょう、きっとそうですよ。
(笑)
[2012/11/02 11:16] URL | vivajiji #kzLu3bv6 [ 編集 ]
いくら江木さんが「あいつ(自分の奥さん)は弱いから」と綾乃に信託したとはいえ家族に何も言わなかったのかなぁ?いくら江木が優しくとも家族でもない綾乃に負担させてしまうことに気付かなかったのか。それに息子さんも「うんざり」したような様子だったし。

わかる気もするが。綾乃は患者の心に寄り添いすぎたんだろうね。

[2012/11/03 15:16] URL | ブリ #- [ 編集 ]
vivajijiさん、こんにちは! こちらこそコメント&TBありがとうございます。
>人間の仕業の甘さと弱さ

そこですよね~。綾乃は江木との会話の中で、自分が何とかしないと、、みたいな使命感が芽生えてしまったのですよね。
でも、家族にしたら「なぜ、あなたがそこまで?」ってことになるでしょうし。
難しいですね。

周防監督、ホントもうどんだけ奥さん好きなんや、、って感じですものね。
バレリーナとしては素晴らしい才能の持ち主だったと思うのですが、女優さんとしてはどうなのでしょう。。
まぁ、アルタミラという後ろ盾(?)がありますから、そうですね次回作もきっと主演されるのでしょうね~。
使わなかったら使わなかったで「夫婦の危機か?!」みたいに書かれるかもですし。
大変ですね(笑)。
[2012/11/03 23:16] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
ブリさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
江木は、家族とはあまり関係が良くない感じでしたね。
息子はよそよそしいし、娘も臨終間際に会いに来ただけだし。
妻とはイタリアに旅行に行ったりする仲だったのに、私もちょっと家族関係が謎だな~、と思いました。

医師とか臨床の現場にいる方々は、患者との距離の取り方が難しいのでしょうね。。う~ん
[2012/11/03 23:26] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは

実は周防監督ファンなもので(特に90年代のガハハと笑えるシーンもあるけれど人間関係や情にほろりとさせられるテイストが)、この作品も鑑賞しました。

正直言って、江木の奥さんを見ていると、この人には託せないなぁって思ってしまう部分も私ありました。
何言われても「はい」って言ってそうだし、自発性がなさそうだし、介護と看病だけに生きた結果ちょこっと世間知らずなカンジもするし・・・
それよりも、幼少時代の話や自分の好きなオペラの話を聞いてくれたりする綾乃に託したくなったんだろうなぁって。

私はそれまで尊厳死とか安楽死って機械を止めたらすーっと死ぬものだと思っていましたが、そんなことはなくてそれはそれで苦しむものなのですね。
あのシーンは正視できなかったです。
結局、管につながれて生きるのも管につながれずに生きるのも、死ぬ時はみんな相当苦しまなきゃいけないのが人間の運命なんだろうなぁということを考えました。

大沢たかおの演技、彼が声を張り上げるたびにビクッとなっていました。
この辺は監督のライフワークが活きた場面だろうなぁというか。
結局今でもこんな取調べが日常茶飯事なんでしょうね。
それだけに綾乃が検察の被害者になったようにも思えてラストシーンで絶望してしまったのです。
その後の字幕を読んだとき、「江木さん、綾乃を救ってくれてありがとう」って思ってしまいました。

今回は“いつものメンバー”が登場しなければ笑いも一切なしでしたが、監督ファンとしてはまたいつものメンバーに脇を固めてもらって笑える映画も創ってほしいなぁと思います。
[2012/11/03 23:38] URL | cynthia #- [ 編集 ]
cynthiaさん、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。

私も、周防監督大好きなので~。。(私の場合、作品もですがご本人が好きなのですが)

江木さんの奥さんに対してのcynthiaさんの見方もわかるのですが、それではあまりにも奥さんが気の毒だよ~、と私は思います。
20年以上も旦那さん(とご両親)の看病してきて、、世間知らずかもしれないけど苦労はいっぱいしてる分、人間的にはやさしい方だと思いますよ。
それを江木さんは「弱い」と表現してるわけですが、もうこれ以上奥さんに負担かけたくない、、って思いでいっぱいだったのでしょうね。
江木さんも、奥さん以上にやさしい方だったのでしょうね。
そういう江木さんに、綾乃は惹かれたのでしょうが、、旦那の臨終に、担当の女医さんがすがりついて号泣したら(子守唄つき)、そりゃショックですよ。。

少し前に『大往生したけりゃ医療とかかわるな』っていう本を読んだのですが、人が死ぬ時、決して苦しくはなくむしろ「いい気持ち」らしいです。
しかしそれは無理な延命治療をしなかった場合で、、自然に死ぬときはそんなに苦しまないらしいですよ。
この本を読んで、私自身は人工呼吸器や胃ろうは絶対しないと決めました。
かなりオススメの本です。

いつかまた、竹中直人が大暴れするような周防監督の映画も観たいですね^^
[2012/11/06 07:16] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さーん、こんにちは!
年末に近づいてきて、お仕事もますます多忙かな・・・。
やっとこれ見たよー。
うーん・・・・・ 本を読んだ時よりも、さらに、この女医さん、ちょっとなあ・・・って思っちゃった。
死ぬ間際に、あんなに苦しむなんて、可哀想で、見てられなかったよ・・・。
ああなるとは予測してなかったのだろうけれど・・・。

今ね、「母の遺産」を読書中なんだ。
この前の「アムール」といい、ここんところ、偶然なんだけど、老いと最期についての作品が続いてしまってるよー
[2013/10/25 14:15] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさん、こんにちは~。コメント&TBありがとうございます。
気がつけばもう10月も終わり^^;  早過ぎる。

この映画ね。。そうそう、この女医さんかなり問題ありよね。
東大医学部卒って日本一のエリートなのに、あまりにも自分に自信がない感があったよね。
役所さんのあの最期は、ホント観ていられなかった。
しかもその後泣き崩れる担当医、、、って家族はそりゃ告発もするって。。。

『母の遺産』すごくない?
もー、読むの止められなくてずーーーっと読んでたよ。
すごい小説だったな。。
なんか今年、いい本たくさん読んだんだけど、紹介できてなくて残念。
年末までに、読書記録だけでもアップしたいなー。
[2013/10/27 05:22] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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