苦界に生まれて~『アシュラ』

中世、応仁の乱の頃の京都。度重なる飢饉と水害に見舞われ、庶民は飢餓
と貧困に喘いでいた。そんな世に生まれ落ち、親に捨てられた一人の少年がい
た。彼は言葉を知らず、生き延びる為にはどんな手段も厭わなかった。
「アニメ」 といえばジブリかディズニー/ピクサーか、という志向の私は、全く
ノーマークだった東映アニメーション作品。40年以上前に発表され、「有害図書」
として物議を醸したというジョージ秋山氏の原作漫画も知らなかった。 しかし、
敬愛するブロガー「龍眼日記」のsabunoriさんが絶賛され、平成の天才画家
・中村佑介氏もブログで「必見」 と書かれている。これは万難を排して観るしか
ない! と劇場に駆け付ける(大阪では単館上映)。
いやはや、これは凄い! 「生きる=食べる」 という人間の本能、そのため
に他の生き物の「命」 を奪うという人間の根源的な罪、そして、どんなに飢え
ても、人間が人間を食べてはいけないのは何故なのか。原作にどこまで忠実
なのかはわからないが、半端ではない「覚悟」 を持って描かれた作品だと感
じる。瞠目。その分刺激も強いが、生きることや命について、改めて、深く考え
させられる映画だと思う。

「心」 を持てず、ただ本能の赴くままに殺生を重ね、生き延びてきた少年。
彼に「南無阿弥陀仏」 という題目を教え、「アシュラ」 と名付けた法師の存在
感が強烈。彼がアシュラに「何故人間を食べてはいけないのか?」 を身を持っ
て教えるシーンはもう、圧巻の一言に尽きる。人として生まれたならば、理性を、
心を持て。そして獣のようにではなく、人間として生きろ、と。どんなに飢えても、
最後までアシュラの持ってきた肉を食べることを拒否し、力尽きた若狭は「人間
として」 命を全うしたのだ。
「いただきます」 という言葉がある。それは目の前の食事や、料理を作って
くれた人に対して言う言葉ではなく、「生命」 をいただきます、という意味だと
いう。他の生き物の命を奪って自らが生きるという「罪」 を懺悔し、感謝してか
ら食事を始めるのだと。つまり、人が生きるという行為自体が、日々「罪」 を
重ねることなのかもしれない。「何故生まれた? こんな苦しい世の中に!」
というアシュラの叫び。それは悲惨な境涯にある彼だけでなく、「心」 を持つ
全ての人間が感じるべき「痛み」 なのかもしれない。

( 『アシュラ』 監督:さとうけいいち/原作:ジョージ秋山/
声の出演:野沢雅子、北大路欣也、林原めぐみ/2012・日本)
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テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画
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ジョージ秋山さんの原作コミック「アシュラ」をTVアニメ版「TIGER & BUNNY」のさとうけいいちさんがアニメ映画化した作品です。ジョージ秋山さんの作品で唯二知っていたのが「アシュラ ...
2012-10-26 22:14 :
カノンな日々
映画 アシュラ オリジナルサウンドトラッククチコミを見る人間の業と生命力を、圧倒的な筆致で描く異色のアニメーション「アシュラ」。こういう作品もまたジャパニメーションの側 ...
2012-10-26 23:11 :
映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
----ちょ、ちょっと…。
これってスゴく怖いんですけど…。
「そりゃ、そうだよ。
この映画は、かのジョージ秋山原作の『アシュラ』を映画化したモノ。
1970年から71年にかけて『少年マ
2012-10-27 00:13 :
ラムの大通り
煉獄のイノセンス。
人間にして、人にあらず。
乱世、幼くして人喰いとなり、ケダモノの様に育った少年アシュラを描く、ジョージ秋山原作の知る人ぞ知る70年代カルトコミック、ま
2012-10-27 14:14 :
ノラネコの呑んで観るシネマ
☆ジョージ秋山原作の「人肉食い」などで話題になり、主人公の世を恨んだような立ち居振る舞いとともに問題作とされてきた作品。
残念ながら、そのマンガ作品を、私はタイムリー
2012-10-28 00:32 :
『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭
1400年代半ばの京都。
人々は飢饉により飢えに苦しんでいた。
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あまりの飢えから我が子を焼いて食
2012-10-28 21:59 :
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2012-11-12 00:02 :
ふじき78の死屍累々映画日記
2012年
日本
75分
ドラマ
劇場公開(2012/09/29)
監督:さとうけいいち
アニメーション制作:東映アニメーション
原作:ジョージ秋山
主題歌:小南泰葉『希望/Trash』
声の出演:
野沢雅子
北大路欣也
林原めぐみ
玄田哲章
<ストーリー>
応仁の乱によって荒...
2013-09-22 20:34 :
銀幕大帝α
独特の絵柄です。秋山ジョージさん原作の漫画を脚色してアニメ化。お話の流れはだいぶ違う様子…。
狂女から産み落とされた赤ん坊、極限まで腹をすかせた母親が赤ん坊を食べようと火の中に落とすところから話ははじまる。8年後、少年となった人の子はケダモノのように人肉を喰う事で生きながらえていた。
しかし旅の法師は少年の中に阿修羅の姿を見、ケダモノではない、人なのだと諭し、そっと見守るのだった。
...
2013-10-20 08:58 :
いやいやえん
コメントの投稿
お返事遅くなってスミマセン!
真紅さん、こんばんは。
ブログ内でリンクしていただき恐縮です。
胸をえぐられるような力強いメッセージのある作品でした。
>人が生きるという行為自体が、日々「罪」を
重ねることなのかもしれない
その通りだと思います!
「心」「理性」を持ってこそ人間という法師の言葉は重かったですね。
ブログ内でリンクしていただき恐縮です。
胸をえぐられるような力強いメッセージのある作品でした。
>人が生きるという行為自体が、日々「罪」を
重ねることなのかもしれない
その通りだと思います!
「心」「理性」を持ってこそ人間という法師の言葉は重かったですね。
2012-10-28 21:50 :
sabunori URL :
編集
sabunoriさん、こんばんは! コメント&TBありがとうございます。
お忙しいのに、遅くなって、、とか全然気にしないで下さいね! 無問題ですよ。
先月なのですが、さるお寺のお坊さんのお話を伺う機会がありまして。。
本作の法師様と同じようなことをお話されていたので、余計ガツーーーンと来ました。
命を使う、と書いて「使命」なのですよ、ともおっしゃっていました。
アシュラの成長した姿を見て、ああ、彼は命を大事に使ったんだな~、と思いました。
ともあれ、この作品sabunoriさんが紹介して下さらなかったら絶対スルーしていたと思います。
改めて、いつもありがとうございます~。
お忙しいのに、遅くなって、、とか全然気にしないで下さいね! 無問題ですよ。
先月なのですが、さるお寺のお坊さんのお話を伺う機会がありまして。。
本作の法師様と同じようなことをお話されていたので、余計ガツーーーンと来ました。
命を使う、と書いて「使命」なのですよ、ともおっしゃっていました。
アシュラの成長した姿を見て、ああ、彼は命を大事に使ったんだな~、と思いました。
ともあれ、この作品sabunoriさんが紹介して下さらなかったら絶対スルーしていたと思います。
改めて、いつもありがとうございます~。