最上のわざ~『ツナグ』

歩美(松坂桃李)は幼い頃に両親を亡くし、祖母(樹木希林)と二人暮らしの
高校生。彼は死者とこの世を繋ぐ使者「ツナグ」である祖母に弟子入りし、後継
者になるべく経験を積んでいた。
満月の夜、生涯ただ一度だけ死者と会える。その仲介役として生きようとする
青年の、葛藤と成長を描くファンタジー。原作(未読)は、直木賞作家・辻村深月
の同名小説。観てきました、もちろん、松坂桃李くん観たさに・・・(照)。そして、
泣いた。
シックス・センス的題材であるだけに、軽い気持ちで万人にオススメできる作
品ではない。しかし私にとっては、「好き」がたくさんある映画だった。脚本も手
掛けた平川雄一朗監督の作品は初見。
「人は死んだら、何処へ行くのだろう?」 誰もが一度は抱いたことがあるだろ
う、根源的な問い。誰にもその答えはわからないからこそ、人はこの命題に取り
つかれる。 「もう一度会いたい人は、誰ですか?」

やはり何よりもまず、松坂桃李を讃えたい。演技力ではなく、その素材として
の素晴らしさ--旬の若者だけがまとえるオーラを存分に放っていた--彼の、
初主演作を寿ぎたい。 ジュンヤワタナベ(コム・デ・ギャルソン)のコートを着た、
とびきっりハンサムで、物静かな高校生。不可解な両親の死を憂い、ツナグと
して生きることに迷いながらも、自らの道を選択する歩美。 「ばあちゃんのせい
じゃないよ」。祖母の震えを止めるためにそう言う彼もまた、両親と同じ 「やさ
しいひと」 なのだ。
歩美と祖母、二人で囲む食卓が、本当に美味しそうで和む。この映画、フード
スタイリストは飯島奈美さんなのか? タジン鍋の蒸し野菜、常備菜のきんぴら、
目玉焼きを乗せたトースト、朝のコーヒー。食事をする彼らは、紛れもなく「生き
ている」 のだと感じさせてくれる。そして、老いた祖母を労う歩美の、温かいま
なざし。おばあちゃんになっても、こんな素敵な男の子(孫だけど)と暮らせるな
んてうらやましいこと。私も、樹木希林みたいな、クールで飄々としたおばあちゃ
んになりたいな。

全てを受け入れた歩美の穏やかな表情がクローズアップされた後、エンドロー
ルとともに金環食が始まる。太陽と、月。それは生と死のように重なり合い、ひと
とき交錯する。そこに劇中、祖母が口ずさんでいたヘルマン・ホイヴェルスの詩
「最上のわざ」 を、樹木希林が朗読する声が重なる。
この世の最上のわざは何?
楽しい心で年をとり、
働きたいけれども休み、
しゃべりたいけれども黙り、
失望しそうなときに希望し、
従順に、平静に、おのれの十字架をになう。
若者が元気いっぱいで神の道を歩むのを見ても、ねたまず、
人のために働くよりも、
謙虚に人の世話になり、
弱って、もはや人のために役だたずとも、
親切で柔和であること。
老いの重荷は神の賜物、
古びた心に、これで最後のみがきをかける。
まことのふるさとへ行くために。
JUJUが唄う主題歌は 『ありがとう』 、まさに直球ど真ん中。もう、涙が止め
られない。2012年に観た、忘れられない映画のひとつになった。
( 『ツナグ』 監督・脚本:平川雄一朗/2012・日本/
主演:松坂桃李、樹木希林、橋本愛、佐藤隆太、遠藤憲一、仲代達矢)
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trackback
映画「ツナグ」を観ました!!
2012-10-19 09:10 :
馬球1964
ゴースト もういちどつながりたい
公式サイト。辻村深月原作、平川雄一朗監督、松坂桃李、樹木希林、佐藤隆太、桐谷美玲、橋本愛、大野いと、遠藤憲一、別所哲也、本上まなみ、浅 ...
2012-10-19 09:43 :
佐藤秀の徒然幻視録
映画『ツナグ』オリジナル・サウンドトラック(仮)クチコミを見る死者と生者を再会させる案内人が見た3つの物語を描くファンタジー・ドラマ「ツナグ」。これは見習い“ツナグ”の ...
2012-10-19 09:48 :
映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
ツナグ@ニッショーホール
2012-10-19 10:20 :
あーうぃ だにぇっと
第32回吉川英治文学新人賞を受賞した作家・辻村深月さんの同名小説を『ラブコメ』の平川雄一朗さんが映画化したファンタジー・ドラマです。辻村深月さんの小説は『凍りのくじら』 ...
2012-10-19 10:39 :
カノンな日々
□作品オフィシャルサイト 「ツナグ」 □監督・脚本 平川雄一朗 □原作 辻村深月 □キャスト 松坂桃李、樹木希林、佐藤隆太、桐谷美玲、橋本 愛、遠藤憲一、大野いと■鑑賞日
2012-10-19 11:59 :
京の昼寝〜♪
《 ツナグ 》  久しぶりに映画館で映画を見る事にしました この映画は 結構宣伝されていました 特別 「見たい!」と思った訳でもなかったのですが 言ってみれば
2012-10-19 18:52 :
Maria
「ツナグ」は辻村深月原作の「ツナグ」を映画化した作品で生涯1度だけ会いたい死者に会す事ができる使者が3人の依頼主の死者との出会いを通じて使者としての役目、そして使者に ...
2012-10-19 20:59 :
オールマイティにコメンテート
ツナグ ユナイテッド・シネマ浦和
生きている者が、もう一度だけ会いたいと強く願う、すでに亡くなってしまった者。
その再会の機会を設けることができる、“ツナグ”と呼ばれる...
2012-10-20 00:33 :
単館系
映画「ツナグ」を鑑賞しました。
2012-10-20 00:36 :
FREE TIME
2012年10月7日(日) 15:50~ TOHOシネマズ川崎3 料金:0円(フリーパスポート) 『ツナグ』公式サイト フリーパスポート25本目。 「黄泉がえり」とか「スープ~生まれ変わりの物語~
2012-10-20 17:36 :
ダイターンクラッシュ!!
歩美はなぜ何度も死人に会える?
【Story】
“ツナグ”という、たった一人と一度だけ、死者との再会を叶えてくれる案内人。そんな都市伝説のような噂にすがり依頼に訪れたのは
2012-10-20 22:41 :
Memoirs_of_dai
映画「ツナグ」観に行ってきました。辻村深月の同名小説を原作とする、人の死と死後の再会をテーマとするファンタジー要素を含有した人間ドラマ作品。その街には、ひとつの都市伝説...
2012-10-20 23:17 :
タナウツネット雑記ブログ
人生は一期一会。
その真の意味がわかるのは、死によって大切な人との永遠の別れを迎え、会いたくても会えなくなってからかもしれない。
だけどもし、亡くなった人と一度だけ現世...
2012-10-21 15:17 :
ノラネコの呑んで観るシネマ
ツナグ 監督: 平川雄一朗 出演: 松坂桃李、樹木希林、佐藤隆太、桐谷美玲、橋本愛、大野いと、遠藤憲一、別所哲也、本上まなみ、浅田美代子、八千草薫、仲代達矢 公開: 2012
2012-10-22 03:58 :
映画@見取り八段
「ツナグ」★★★☆
松坂桃李、樹木希林、佐藤隆太、桐谷美玲、
橋本愛、大野いと、遠藤憲一、別所哲也、
本上まなみ、浅田美代子、八千草薫、仲代達矢出演
平川雄一朗 監督、
129分
2012-10-22 07:18 :
soramove
松坂桃李が出ていると聞いたもんで、興味を持って見てみた『ツナグ』
今回は主人公・歩美の成長物語で、最後に突然死した両親と再会するのかと思ったら、違った。
祖母の口から両...
2012-10-27 22:21 :
早乙女乱子とSPIRITのありふれた日常
直木賞作家、辻村深月の吉川英治文学新人賞受賞作を松坂桃李主演で映画化。出演はほかに樹木希林、佐藤隆太、桐谷美玲など。
死者と生者を一度だけ引き合わせる能力を持つ“ツナグ
2012-11-11 21:12 :
まてぃの徒然映画+雑記
12-82.ツナグ■配給:東宝■製作年・国:2012年、日本■上映時間:129分■観賞日:10月20日、TOHOシネマズ渋谷■料金:0円
□監督・脚本:平川雄一朗◆松坂桃李(渋谷歩美...
2013-01-06 18:15 :
kintyre's Diary 新館
JUGEMテーマ:邦画
 
たった一人の死んだ人と一度だけ会える。
 
一見、良いようなチャンスに思えるが、あってしまったことで
 
別のわだかまりが出てしまうこともありますね。
人の死んだ人と一度だけ会える。
これは、良い機会なのか、悪いことなのかは一概に言えません。
&n...
2014-02-23 15:24 :
こみち
現在、樹木希林は「おばあちゃんは、私にだけ見える」のCMで好演してますが、彼女といい、松坂桃李、不思議な力の持ち主にピッタリですね。原作は、第32回吉川英治文学新人賞に輝く、辻村深月の小説を実写化したファンタジー・ドラマ。後味、爽やかでした。個人的には、橋本愛を筆頭に、大好きな面々の共演が見られて嬉しかったです。八千草薫が出演してると、佳作、間違い無し。でも、こんな風に生きる世界を隔たった同...
2017-02-06 14:19 :
のほほん便り
これでもか、と泣いて気持ちよかったわー。
2019-05-13 23:37 :
或る日の出来事
“ツナグ”とは生きている人と死んでしまった人との再会を仲介する“使者”で、連絡が取れるか否かはその人の運次第という、都市伝説のような存在である。 半信半疑の依頼者の前に現れた使者は、ごく普通の男子高校生・歩美。 彼は祖母アイ子から“ツナグ”を引き継ぐ予定の見習いだった…。 ヒューマン・ファンタジー。 ≪死んでしまった人に一度だけ会えるチャンスがあるとしたら、あなたはどうしますか?≫
2019-05-16 09:49 :
象のロケット
コメントの投稿
真紅さま
お久しぶりです
でも時々覗かせて頂いていますよ
映画館は遠くなってしまって…久しぶりに映画館で観ました
生きていること、この世を去ってからの事
今の自分たちには分からないことばかりだけれど
最後の詩 がこの作品の集約なのでしょうね
皆がそうありたい…と心の中で願う
それこそが祈りかもしれません
TB させて戴きました!
お久しぶりです
でも時々覗かせて頂いていますよ
映画館は遠くなってしまって…久しぶりに映画館で観ました
生きていること、この世を去ってからの事
今の自分たちには分からないことばかりだけれど
最後の詩 がこの作品の集約なのでしょうね
皆がそうありたい…と心の中で願う
それこそが祈りかもしれません
TB させて戴きました!
2012-10-19 18:57 :
Maria URL :
編集
Mariaさま、こんにちは! こちらこそお久しぶりです、コメント&TBありがとうございます。
お忙しいのですね。私も夏から仕事が忙しく、あまり劇場に足を運べませんでした。
でも、これから暇になりそうなので、年末までの短い期間ですが、足繁く通いたいと思っています。
あの世のことはもちろん、今日、明日のこともわからないのが人生ですよね。
だからこそ、このような作品が生まれるのだとも言えると思います。
最後の詩にはもう、涙、涙で。。
自分も、人生の秋にさしかかっているのだな~、と改めて感じました。
後ほどお邪魔しますね。
お忙しいのですね。私も夏から仕事が忙しく、あまり劇場に足を運べませんでした。
でも、これから暇になりそうなので、年末までの短い期間ですが、足繁く通いたいと思っています。
あの世のことはもちろん、今日、明日のこともわからないのが人生ですよね。
だからこそ、このような作品が生まれるのだとも言えると思います。
最後の詩にはもう、涙、涙で。。
自分も、人生の秋にさしかかっているのだな~、と改めて感じました。
後ほどお邪魔しますね。