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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

息ができない~『ムサン日記~白い犬』

ムサン日記





 THE JOURNALS OF MUSAN


 北朝鮮から韓国「脱北」してきたスンチョル(パク・ジョンボム)は、寡黙
青年。脱北者仲間のギョンチョル(ジン・ヨンウク)の部屋に居候しながらポス
ター貼り
の仕事に勤しみ、聖書を読み、白い犬を拾ってペックと名付ける。そ
んなスンチョルは、教会で見かける聖歌隊スギョン(カン・ウンジン)憧れ
を抱くのだが・・・。

 「125」で始まる住民登録番号で区分けされ、韓国を「南朝鮮」と呼ぶ人々。
彼らの置かれた厳しい現実と、孤独な魂の彷徨を描いた本作は、脚本を書き、
自ら主演も務めたパク・ジョンボム監督長編デビュー作。世界中の映画祭
で観るものに衝撃を与え、絶賛を浴びたという。

 神と祈りを背景に、社会的弱者「真実」リアリズムで描く作風は、韓国の
名匠イ・チャンドンを彷彿させる。対象を見つめ、映像を切り取る「目の高さ」
同じだなあ、と感じたのだ。実際、パク・ジョンボムは、イ・チャンドンの下で
監督
を務めていたらしい。

ムサン日記2

 マイナーな韓国映画を好んで観る私だが、本作には久々に、完璧に打ちのめ
された
。さほど期待はしていなかった分、この衝撃には参った。万人に「よかった
よ」 とオススメできる映画ではない
。映画を観終わってのこの感情を、どう表現
していいかわからない。感動、ではない。共感でも、憐憫でもない。あまりの衝撃
に、心が宙に浮いたような、とでも言おうか・・・。しかし、記憶にしっかりと刻まれ
た作品
であることだけは間違いない。力強いがあり、信念を持って作られた映
画だけが放つ、磁力と熱を感じる。

 あり得ない「おかっぱ頭」に、ダサい服オドオドした言動、いつもうつむき加減
で、「しっかりせーよ!」 と背中を叩きたくなるような、覇気のない姿。新天地で
根を張る処世術もなく、どんどん社会からはみ出してゆくスンチョル。ペックを抱
きしめ、愛おしむ姿
が切ない(監督自身の愛犬だという、この仔犬のかわいさ!)。

 しかし、ある場面で私たちは、彼の「真実」を知ることになる。彼の背負うもの
「北」に残し切れなかった計り知れないその「重さ」を。背中で語るスンチョルに、
息を呑み、涙が溢れる。彼に冷たく接していたスギョンも、のスンチョルを知
ることで、心を開くようになるのだが・・・。

ムサン日記3

 ラストシーンの衝撃は、スンチョルが信じ、祈り続けた「神」が与えた「罰」
のか。見たこともないような大金が差し、友を裏切り自分を変えようとし
たスンチョル。ケン・ローチばりの、断ち切るような幕切れ。彼の未来を暗示
るかのような、監督による献辞息が止まる。涙が止まらない音もないエン
ドロール
淡々と流れる中、嗚咽を堪えるのに必死な私。

 ムサンからソウルへ脱北した青年の憧れと孤独。そして純粋さの死。」

 厳しく、残酷な映画ではある。それでも、多くの人に観て、何かを感じて欲し
い。その「何か」が、否定であれ肯定であれ。語られるべき、意義のある作品
だと、私は思う。

 ( 『ムサン日記~白い犬』 監督・製作・脚本・主演:パク・ジョンボム/2010・韓国)
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2012-06-23 : 映画 : コメント : 4 : トラックバック : 3
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『ムサン日記~白い犬』
----この映画って『ポエトリー アグネスの詩』の助監督をやっていた人が 監督しているんだって? 「そう。パク・ジョンボム。 本作では製作・脚本、そしてなんと終焉までこなしている。 ヒロインのスギョンを演じているカン・ウンジンが イ・チャンドン監督に見出されて...
2012-06-22 23:18 : ラムの大通り
『ムサン日記~白い犬』 (2010) / 韓国
原題: THE JOURNALS OF MUSAN 監督: パク・ジョンボム 出演: パク・ジョンボム 、チン・ヨンウク 、カン・ウンジン 観賞劇場: シアターイメージフォーラム 公式サイトはこちら。 「製作・監督・脚本・主演の1人4役を務めたのは、名匠イ・チャンドン監督の助...
2012-06-23 07:18 : Nice One!! @goo
ムサン日記~白い犬・・・・・評価額1650円
ただ、幸せになりたかっただけなのに。 名匠イ・チャンドンの元で、「ポエトリー アグネスの詩」の助監督を務めた、パク・ジョンボムの長編監督デビュー作は、心に深く染み入る秀作である。 監督自身が演...
2012-06-23 23:56 : ノラネコの呑んで観るシネマ
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非公開コメント

TBありがとうございました。
おっしゃる通り、衝撃でしたね。
あのラストのスンチョルの背中の何秒かの間に、観客は多くのことを感じ取るに違いないでしょう。

生きるためには従わないといけない。でもそれだけでは生き残れないんですね。
脱北の厳しい現実を見ると共に、拭い去れない野望の前にはどんなに綺麗事を並べても無駄だってことも、残酷ですが真実だったりします。
2012-06-23 07:22 : rose_chocolat URL : 編集
rose_chocolatさん、こんにちは。こちらこそコメント&TBありがとうございます。
あのラストシーンに至る長回し、凄かったです。
立ち尽くすスンチョルの背中・・・、数秒だと思うんですが、彼の中で渦巻くいろんな感情が伝わってきました。

自分を変える選択をしたスンチョルですが、私はむしろこれからの方が大変なんじゃないかと思いました。
それでも、どんな事をしても生き延びようとし続けるのでしょうが・・・。
なんとも過酷ですね。厳しいです。
2012-06-23 18:22 : 真紅 URL : 編集
ラストシーン・オブ・ザ・イヤーがあるとすれば本作ですね。
後姿の長回しから不穏な空気が漂っていましたが、身構えていても衝撃でした。
この世界で生きる事の残酷さ、厳しさ、悲しみ。
しかしそれでも人生は続いてゆくのだという事を、映像が雄弁に物語っていました。
2012-06-24 22:30 : ノラネコ URL : 編集
ノラネコさん、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
この映画、観られた方が少ないので寂しいですー。もっとたくさんの方に観ていただきたいな。。

>ラストシーン・オブ・ザ・イヤー

本当にそうですね。。私も年末にそういう賞を設けようかな(笑)。
すごいシーンでしたね。あのラストシーンに至る長回しからして、半端ない緊張感でした。
私が観た劇場では、道路が映った瞬間に小さく叫んだ方がいらっしゃいました。

コンビニの袋の持ち手を、半分離してしまうんですがスンチョルは落とさないんですよね。
彼の覚悟・・・。
すごい演出でした。もう、脱帽です。
2012-06-25 18:42 : 真紅 URL : 編集
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