港町の神様~『ル・アーヴルの靴みがき』

LE HAVRE
フランス北部の港町、ル・アーヴルで靴みがきを生業とする初老の男・マル
セル(アンドレ・ウィルム)は、妻アルレッティ(カティ・オウティネン)と愛犬ライ
カと、つつましくも幸せに暮らしていた。ある日、密航者の少年イドリッサ(ブロ
ンダン・ミゲル)と出逢ったマルセルは、彼を匿うことになる。
フィンランドの
た本作、やっとこさ観に行くことが出来ました。監督の最高傑作との呼び声も
高く、相変わらずの「カウリスマキ節」が観ていてうれしい。
不法移民の少年がロンドンを目指し、それを手助けする男、というストーリー
は『君を想って海をゆく』 でも描かれていた。現実をシビアに、悲観的に描い
たフィリップ・リオレのあの作品は、今もトゲのように、私の心に突き刺さって
いる。しかしフィンランドの自称ペシミスト、酔いどれ詩人の手にかかると、同
じ題材がこんなにもやさしい、心温まるファンタジーになってしまう。

カウリスマキの映画は、ワンシーンを観れば「あ、これは監督の作品だな」っ
てわかる。どちらかと言うとあまり見映えのよくない(そしてどこまでも無表情な)
お馴染みの登場人物、少ないセリフ、大がかりなCGやVFXはなし。特に凝った
映像だったり、プロダクションデザインではないのに、画面が非常に印象的なの
は、きっと色彩設計が素晴らしいのだろう。マルセルの自宅にある赤いアイロン
台、あれ欲しい~。貧しい暮らしでも、食卓に花を欠かさない感覚もステキ。そ
して、登場人物たちがこれほどプカプカと煙草を吸う映画も、今どき貴重です。
本作で描かれるのは、下町人情噺に出て来そうな、市井の情に厚い人々の
物語。パン屋の奥さんも、八百屋のおじさんも、ツケを溜めるマルセルをやさし
く見守っている。そしてマルセルは、最愛の妻アルレッティが入院してそれどこ
ろじゃないのに、見ず知らずの密航少年を助けようと奔走する。その日のパン
と煙草と食前酒があって、なんとか生きて行くことができるのなら、そんなに大
金を儲ける必要は無い。それより、困った人がいたら助けてあげる。そんな「当
たり前のこと」を、密告者(ジャン=ピエール・レオ!)や警視(ジャン=ピエール
・ダルッサン! 実はいい人!)の目を潜りながら飄々とやってのけるマルセル
が、なんだか妙にカッコよく見えてくる。

物語の最後に起こる「奇跡」に、「神」の存在を感じずにはいられなかった。
「羊飼いと靴磨きは、最も神に近い職業だ」 というマルセルの言葉を思い出
す。そして映画監督は、世界で一番素晴らしい職業ですね、カウリスマキさん。
( 『ル・アーヴルの靴みがき』 監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ/
主演:アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン/2011・フィンランド、仏、独)
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誰かを助け、誰かに助けられて生きてゆく
原題 LE HAVRE
製作年度 2011年
製作国・地域 フィンランド/フランス/ドイツ
上映時間 93分
脚本: 監督 アキ・カウリスマキ
出演 アンドレ・ウィルムス/カティ・オウティネン/ジャン=ピエール・ダルッサン/ブロンダン・ミゲ...
2012-06-13 19:12 :
to Heart
公式サイト。フィンランド・フランス・ドイツ合作。原題:Le Havre。アキ・カウリスマキ監督、アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン、ジャン=ピエール・ダルッサン、ブロンダン ...
2012-06-13 19:35 :
佐藤秀の徒然幻視録
フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキの新作「ル・アーヴルの靴みがき」は心温まる現代のおとぎ話。移民問題を“善意”を主人公に描ききる名人芸に唸る。フランス北部の港町ル・ ...
2012-06-13 20:10 :
映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
《港町ル・アーブル》と聞けば、モネの《印象・日の出》である。つまり、僕は《タイトルが醸し出すイメージに惹かれて》観たようなわけで、多くを期待した訳ではないが、予想以上に《豊かで幸福なイメージ》を感じさせてもらった。カウリスマキ監督の仕掛けた《メタファー...
2012-06-13 21:11 :
KATHURA WEST
フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキ監督がフランスの移民問題をテーマに描くヒューマンドラマだ。ひょんなことから不法移民のアフリカ人少年を匿うことになった主人公は近所の人々と協力して彼をロンドンに送るべく奮闘するのだが…。主演はアンドレ・ウィルム、共演に...
2012-06-13 21:37 :
LOVE Cinemas 調布
「マッチ工場の少女」「浮き雲」「過去のない男」「街のあかり」で定評のあるアキ・カウリスマキ監督。
その彼が、フランスの港町 ル・アーヴル Le Havre に生きる庶民を描いた人情ドラマ。
いつも通り、登場人物、場面、などの密度が濃く、一つのシーンだけで取って...
2012-06-13 22:19 :
日々 是 変化ナリ ~ DAYS OF STRUGGLE ~
アキ・カウリスマキ節、健在。
サイレント映画より少ないんじゃないか、と思えるほど最小限に刈り込んだセリフ。
サイレント映画は、セリフが少ない分、動きとか人の表情でカバーしているけど、アキ・カウリスマキ映画は、動きや表情さえ最小限に抑えている。
ほとんど...
2012-06-13 22:20 :
【映画がはねたら、都バスに乗って】
★ネタバレ注意★
フィンランドの名匠、アキ・カウリスマキ監督が、フランスの小さな港街ル・アーヴルを舞台にフランス語で撮った、フィンランド・フランス・ドイツ合作映画。
マルセル・マルクス(アンドレ・ウィルム)はル・アーブルの靴みがき。かつてはホ...
2012-06-13 22:36 :
キノ2
『ル・アーヴルの靴みがき』を渋谷のユーロスペースで見ました。
(1)本作は、フィンランドのカウリスマキ監督の作品で、前作『街のあかり』(2007年)をDVDで見て印象深かったので(注1)、この作品もと思いました。
物語は、コンテナに隠れて密入国しようとしたア...
2012-06-13 22:50 :
映画的・絵画的・音楽的
心をみがけば、奇跡はおこる。
好き度:=60点
京都シネマにて鑑賞。
う~ん不消化な感じです。前作「街の灯り」がとても好きだったもんでかなり期待度大で観たのですが。過去の作品ほどではありませんでした。まず意外に普通ぽかった。
この監督さん、セリフがあ...
2012-06-13 23:06 :
銅版画制作の日々
世界の巨匠アキ・カウリスマキ監督の『街のあかり』以来の5年ぶりとなる本作はヨーロッパの移民問題を背景にするヒューマン・ドラマだそうです。アキ・カウリスマキ監督の作品大好 ...
2012-06-13 23:40 :
カノンな日々
「Le Havre」 2011フィンランド/フランス/ドイツ
マルセル・マルクスに「仕立て屋の恋/1989」「Ricky リッキー/2009」のアンドレ・ウィレム。
アルレッティに「街のあかり」のカティ・オウティネン。
モネ警視に「ダニエラという女/2005」「サン・ジャックへの?...
2012-06-13 23:54 :
ヨーロッパ映画を観よう!
ル・アーヴルの靴みがき(2011 フィンランド・フランス・ドイツ)
原題 LE HAVRE
監督 アキ・カウリスマキ
脚本 アキ・カウリスマキ
撮影 ティモ・サルミネン
出演 アンドレ・ウィルム カティ・オウティネン
ジャン=ピエー...
2012-06-14 22:44 :
映画のメモ帳+α
現代のお伽噺のような素敵な内容。
2012-06-14 22:49 :
だらだら無気力ブログ!
北フランスの港町ル・アーヴルでマルセル・マルクス(アンドレ・ウィルム)は
靴磨きをして生計を立てていた。
収入は微々たるものだが、家で自分の帰りを待つ妻アルレッティ(カティ・オウティネン)と
愛犬ライカとのつつましくとも平和な暮らしに彼は満足していた。...
2012-06-14 23:25 :
龍眼日記 Longan Diary
2011年:フィンランド+フランス+ドイツ合作映画、アキ・カウリスマキ監督、アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン、ジャン=ピエール・ダルッサン、ブロンダン・ミゲル、ジャン=ピエール・レオ出演。
2012-06-15 19:54 :
~青いそよ風が吹く街角~
もっきぃです。
映画の感想は3ヶ月ぶりでしょうか?早いものです。
今日は実家に帰って、今年88歳になる母と映画をみてきました。
数年前まではひとりで京都から東京に行っていた母も、今では映画館に
ひとりでいくことは難しく、体調がよく、他の予定もない日は、
「も...
2012-06-20 23:21 :
もっきぃの映画館でみよう(もっきぃの映画館で見よう)
★★★★★ “素朴だけど裏通りで幸せに暮らす人々のちょっとした好意のおすそわけが奇跡へとつながる人情味は見ていて気持ちがいいです”フランスの港町ル・アーヴルで靴磨きを生業とする初老の男マルセルは、不法難民の取締から逃亡したアフリカから来た少年イドリッサ?...
2012-07-29 08:22 :
映画とライトノベルな日常自販機
12-40.ル・アーブルの靴みがき■原題:Le Harvre■製作年・国:2011年、フィンランド・フランス・ドイツ■上映時間:93分■字幕:寺尾次郎■観賞日:5月19日、新宿武蔵野館(新宿)
□監督・脚本・製作:アナ・カウリスマキ◆アンドレ・ウィルム(マルセル・マ?...
2012-09-14 23:44 :
kintyre's Diary 新館
見ながら、少し前のフランス映画 「君を想って海をゆく」を思い出していました。
2013-05-01 11:00 :
ポコアポコヤ 映画倉庫
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年フィンランド=フランス=ドイツ合作映画 監督アキ・カウリスマキ
ネタバレあり
2013-09-23 10:23 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
素朴で優しい港の人々が主人公。
基本的に悪い人はでてこない。パン屋のおばちゃんも八百屋のおやじさんもカフェのおばちゃんも靴磨きの仲間も、警視も、みんな良い人なのだ。そんなわけなかろうと思いきや、主人公老夫婦もとても良い人で、でもってそれが不思議としっくり来る作風なのだ。
社会問題となっている難民問題を扱ってはいるものの、目線がとても優しい。フランスの港町ル・アーヴルを舞台に、靴みがきで生...
2014-03-31 10:18 :
いやいやえん
コメントの投稿
真紅さん、こんばんは。
そうなんです!色彩設計がたまらないのです。
なかでも「赤」ですね。
もう。これは小津安二郎の「赤」と共通ですね。
そうなんです!色彩設計がたまらないのです。
なかでも「赤」ですね。
もう。これは小津安二郎の「赤」と共通ですね。
筆致刻久さん、おはようございます! コメントありがとうございます。
監督の前作『街のあかり』でも、赤がとっても印象的でした。
でも、小津安二郎ってモノクロ作品以外も撮っているのですね?
知りませんでした・・・(汗)。
監督の前作『街のあかり』でも、赤がとっても印象的でした。
でも、小津安二郎ってモノクロ作品以外も撮っているのですね?
知りませんでした・・・(汗)。
「神」はいましたね
真紅さん、こんばんは。
マルセルの暮らしは決して裕福ではないのですが(それどころかかなり貧しい)
それを感じさせないゆとりや豊かさを感じられてステキでした。
人生で本当に必要なものなんてそれほど多くはないんですよね、きっと。
マルセル一家のおそらく全財産が入ったあの缶の味わい深さといったら・・・。
マルセルがランチで食べる簡素なサンドウィッチとフルーツもものすごく美味しそうでしたね。
思わずダンナのお弁当でも真似しちゃおう!と思ってしまいました。
マルセルの暮らしは決して裕福ではないのですが(それどころかかなり貧しい)
それを感じさせないゆとりや豊かさを感じられてステキでした。
人生で本当に必要なものなんてそれほど多くはないんですよね、きっと。
マルセル一家のおそらく全財産が入ったあの缶の味わい深さといったら・・・。
マルセルがランチで食べる簡素なサンドウィッチとフルーツもものすごく美味しそうでしたね。
思わずダンナのお弁当でも真似しちゃおう!と思ってしまいました。
sabunoriさん、こんにちは~。コメント&TBありがとうございます。
そうですね、確かに神はいました・・・。
貧しい暮らしの中でも、妻に見栄を張り、妻は妻で夫に「一杯やってきなさいよ」的なおおらかさで接する・・・。
愛らしい犬がいて、ほ~んと理想の暮らしだな、、と思いました。
ただ、全財産を少年の密航に遣ってしまったから、妻の入院費はどうするのよ~?といらぬ心配をしてしまった私です(笑)。
あと、そうなんですマルセルのランチすんごく美味しそうだったんですが、「ゆでたまご」が入っていたと思ったのは私の見間違いでしょうか?
なんだかやたらと「赤卵」が置いてあった気がするんですよね。。
密航少年も茹でてましたし^^
そうですね、確かに神はいました・・・。
貧しい暮らしの中でも、妻に見栄を張り、妻は妻で夫に「一杯やってきなさいよ」的なおおらかさで接する・・・。
愛らしい犬がいて、ほ~んと理想の暮らしだな、、と思いました。
ただ、全財産を少年の密航に遣ってしまったから、妻の入院費はどうするのよ~?といらぬ心配をしてしまった私です(笑)。
あと、そうなんですマルセルのランチすんごく美味しそうだったんですが、「ゆでたまご」が入っていたと思ったのは私の見間違いでしょうか?
なんだかやたらと「赤卵」が置いてあった気がするんですよね。。
密航少年も茹でてましたし^^
真紅さ~ん、こんにちは!
これ、去年の6月にご覧になられたのねー。
やっぱり真紅さんも「君を想ってーー」を連想されましたね。
あちらは、実話で、あんなラストだったから、私的には、ちょっと悲しすぎた感じがあったんだ・・・。
本作はハッピーエンドだから、後味はとても良かったけど、でも、うまく行き過ぎかな?とも少々思ったりもしちゃった(勝手なやっちゃ~)
そうそう。赤い色使い、いつも凄く上手だよね!!
これ、去年の6月にご覧になられたのねー。
やっぱり真紅さんも「君を想ってーー」を連想されましたね。
あちらは、実話で、あんなラストだったから、私的には、ちょっと悲しすぎた感じがあったんだ・・・。
本作はハッピーエンドだから、後味はとても良かったけど、でも、うまく行き過ぎかな?とも少々思ったりもしちゃった(勝手なやっちゃ~)
そうそう。赤い色使い、いつも凄く上手だよね!!
2013-05-01 11:03 :
latifa URL :
編集
latifaさん、こんばんは! コメント&TBありがとうございます。
そうそう、これ劇場鑑賞したんだったわ。。
『君を想って~』は、私も物凄くやるせない気分にさせられたけど、こちらはハッピーエンドでよかったですよね♪
まぁ、巧くいき過ぎっちゃいき過ぎだけど(笑)。
そうそう、ネタバレだけど、春樹さんの新作に『アキ・カウリスマキの映画』が出てくるんだよ!
もう、私フィンランドに行きたくて行きたくて。。。マリメッコ大好きだし。。
latifaさんは行かれたことあるんだよね、いいなー。
一時期は、アイスランドに移住したいくらい、行ってみたかった・・・。
そうそう、これ劇場鑑賞したんだったわ。。
『君を想って~』は、私も物凄くやるせない気分にさせられたけど、こちらはハッピーエンドでよかったですよね♪
まぁ、巧くいき過ぎっちゃいき過ぎだけど(笑)。
そうそう、ネタバレだけど、春樹さんの新作に『アキ・カウリスマキの映画』が出てくるんだよ!
もう、私フィンランドに行きたくて行きたくて。。。マリメッコ大好きだし。。
latifaさんは行かれたことあるんだよね、いいなー。
一時期は、アイスランドに移住したいくらい、行ってみたかった・・・。