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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

港町の神様~『ル・アーヴルの靴みがき』

ル・アーヴルの靴みがき





 LE HAVRE

 フランス北部の港町、ル・アーヴル靴みがきを生業とする初老の男・マル
セル(アンドレ・ウィルム)
は、妻アルレッティ(カティ・オウティネン)愛犬ライ
と、つつましくも幸せに暮らしていた。ある日、密航者少年イドリッサ(ブロ
ンダン・ミゲル)
と出逢ったマルセルは、彼を匿うことになる。

 フィンランド酔っ払い巨匠、アキ・カウリスマキ監督の新作。4月公開だっ
た本作、やっとこさ観に行くことが出来ました。監督の最高傑作との呼び声も
高く、相変わらずの「カウリスマキ節」が観ていてうれしい。

 不法移民の少年がロンドンを目指し、それを手助けする男、というストーリー
君を想って海をゆく でも描かれていた。現実シビアに、悲観的に描い
フィリップ・リオレのあの作品は、今もトゲのように、私の心に突き刺さって
いる。しかしフィンランドの自称ペシミスト、酔いどれ詩人の手にかかると、
じ題材
がこんなにもやさしい、心温まるファンタジーになってしまう。

ル・アーヴルの靴みがき2

 カウリスマキの映画は、ワンシーンを観れば「あ、これは監督の作品だな」っ
てわかる
。どちらかと言うとあまり見映えのよくない(そしてどこまでも無表情な)
お馴染みの登場人物、少ないセリフ、大がかりなCGやVFXはなし
。特に凝った
映像だったり、プロダクションデザインではないのに、画面が非常に印象的なの
は、きっと色彩設計が素晴らしいのだろう。マルセルの自宅にある赤いアイロン
、あれ欲しい~。貧しい暮らしでも、食卓に花を欠かさない感覚もステキ。そ
して、登場人物たちがこれほどプカプカと煙草を吸う映画も、今どき貴重です。

 本作で描かれるのは、下町人情噺に出て来そうな、市井の情に厚い人々
物語。パン屋の奥さんも、八百屋のおじさんも、ツケを溜めるマルセルをやさし
く見守っている。そしてマルセルは、最愛の妻アルレッティが入院してそれどこ
ろじゃないのに、見ず知らずの密航少年を助けようと奔走する。その日のパン
と煙草と食前酒があって、なんとか生きて行くことができるのなら、そんなに大
金を儲ける必要は無い。それより、困った人がいたら助けてあげる。そんな「当
たり前のこと」
を、密告者(ジャン=ピエール・レオ!)警視(ジャン=ピエール
・ダルッサン! 実はいい人!)
の目を潜りながら飄々とやってのけるマルセル
が、なんだか妙にカッコよく見えてくる。

ル・アーヴルの靴みがき3

 物語の最後に起こる「奇跡」に、「神」の存在を感じずにはいられなかった。
「羊飼いと靴磨きは、最も神に近い職業だ」 というマルセルの言葉を思い出
す。そして映画監督は、世界で一番素晴らしい職業ですね、カウリスマキさん。

 ( 『ル・アーヴルの靴みがき』 監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ
     主演:アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン/2011・フィンランド、仏、独)
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2012-06-13 : 映画 : コメント : 6 : トラックバック : 22
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ル・アーヴルの靴みがき
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2014-03-31 10:18 : いやいやえん
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真紅さん、こんばんは。
そうなんです!色彩設計がたまらないのです。
なかでも「赤」ですね。
もう。これは小津安二郎の「赤」と共通ですね。
2012-06-13 21:16 : 筆致刻久 URL : 編集
筆致刻久さん、おはようございます! コメントありがとうございます。
監督の前作『街のあかり』でも、赤がとっても印象的でした。
でも、小津安二郎ってモノクロ作品以外も撮っているのですね?
知りませんでした・・・(汗)。
2012-06-14 08:08 : 真紅 URL : 編集
「神」はいましたね
真紅さん、こんばんは。
マルセルの暮らしは決して裕福ではないのですが(それどころかかなり貧しい)
それを感じさせないゆとりや豊かさを感じられてステキでした。
人生で本当に必要なものなんてそれほど多くはないんですよね、きっと。
マルセル一家のおそらく全財産が入ったあの缶の味わい深さといったら・・・。
マルセルがランチで食べる簡素なサンドウィッチとフルーツもものすごく美味しそうでしたね。
思わずダンナのお弁当でも真似しちゃおう!と思ってしまいました。
2012-06-14 23:24 : sabunori URL : 編集
sabunoriさん、こんにちは~。コメント&TBありがとうございます。
そうですね、確かに神はいました・・・。

貧しい暮らしの中でも、妻に見栄を張り、妻は妻で夫に「一杯やってきなさいよ」的なおおらかさで接する・・・。
愛らしい犬がいて、ほ~んと理想の暮らしだな、、と思いました。
ただ、全財産を少年の密航に遣ってしまったから、妻の入院費はどうするのよ~?といらぬ心配をしてしまった私です(笑)。
あと、そうなんですマルセルのランチすんごく美味しそうだったんですが、「ゆでたまご」が入っていたと思ったのは私の見間違いでしょうか?
なんだかやたらと「赤卵」が置いてあった気がするんですよね。。
密航少年も茹でてましたし^^
2012-06-15 09:54 : 真紅 URL : 編集
真紅さ~ん、こんにちは!
これ、去年の6月にご覧になられたのねー。
やっぱり真紅さんも「君を想ってーー」を連想されましたね。
あちらは、実話で、あんなラストだったから、私的には、ちょっと悲しすぎた感じがあったんだ・・・。
本作はハッピーエンドだから、後味はとても良かったけど、でも、うまく行き過ぎかな?とも少々思ったりもしちゃった(勝手なやっちゃ~)

そうそう。赤い色使い、いつも凄く上手だよね!!
2013-05-01 11:03 : latifa URL : 編集
latifaさん、こんばんは! コメント&TBありがとうございます。
そうそう、これ劇場鑑賞したんだったわ。。
『君を想って~』は、私も物凄くやるせない気分にさせられたけど、こちらはハッピーエンドでよかったですよね♪
まぁ、巧くいき過ぎっちゃいき過ぎだけど(笑)。
そうそう、ネタバレだけど、春樹さんの新作に『アキ・カウリスマキの映画』が出てくるんだよ!
もう、私フィンランドに行きたくて行きたくて。。。マリメッコ大好きだし。。
latifaさんは行かれたことあるんだよね、いいなー。
一時期は、アイスランドに移住したいくらい、行ってみたかった・・・。
2013-05-01 20:49 : 真紅 URL : 編集
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