それでも人生を祝福する~『ポエトリー アグネスの詩』
ポエトリー





 POETRY

 韓国の田舎町に住む初老の女性・ミジャ(ユン・ジョンヒ)は、中学生の孫息子
と二人暮らし。ヘルパーをしながら詩作教室に通い始めた彼女は、物忘れが酷
い自分がアルツハイマーの初期状態であることを知る。同じ頃、孫息子の同級
生の少女アグネス
自殺する・・・。

 私の好きな監督ベスト3の一人、韓国の厳父ことイ・チャンドン監督の最新作。
一人の女性の生き方を通して、この世界のありのままの「美しさ」を見つめた秀
。監督の「最高傑作」と言うよりは、「集大成」と言ったほうが、私にはしっくり
くる。

 社会の底辺で生きる人々の厳しい現実を描きながら、決して後味の悪さを感
じることはなく、むしろ希望や光を感じて終わるのがイ・チャンドン作品の素晴ら
しいところ。それは、監督自身の懐の深さ、世界や弱者を見つめる視線の温か
ゆえ、なのだと思う。本作ももちろん、間違いなく今年のベスト作の一本です。

 カンヌ映画祭脚本賞受賞のほか、主演のユン・ジョンヒは世界各国の映画賞
主演女優賞を受賞した。恍惚と不安、少女のような幼さと老女の慈愛、言葉
の出ないもどかしさ、孤独、焦燥、美への憧憬
。力みや自己顕示欲とは対極に
あるような、人生経験に裏打ちされた抑えた演技が圧巻。

ポエトリー2

 「花が好き」だと言うミジャ。赤い花は苦しみを、白は純潔を、黄色は栄光を表
すのだと。その言葉を裏付けるように、アグネスの写真や、彼女の家や、食事処
の庭先に咲く赤い花人生とは、どうしてかくも苦しみの連続なのだろう?

  「アンズは上にあるのはおいしくなくて、下に落ちたのがおいしい。落ちて、
   人に踏まれて割れる。生まれ変わるために」


 ミジャの心は、次第に少女アグネスに寄り添ってゆく。慈しみ育てた孫息子を
愛し、葛藤しながらも、犯した罪には落とし前をつけさせる。しかし、イ・チャンドン
はミジャをただ聖母のように描いているわけではない。彼女が介護する老人に対
してした行為
、そこには哀れみや諦観と同時に、彼女自身の欲望や打算もあっ
たはず。猥雑さと純粋さ、清濁合わせ飲むのが人生なのだと。

ポエトリー3

 最後に、ミジャはアグネスと同化する。陵辱され、自ら身を投げた少女「純潔」
を表す白い花束を捧げて。ミジャが遺した、生涯でたったひとつの詩。一語一句
が心に突き刺さり、がこぼれる。それでも世界は美しいと言う、その魂の辿り着
いた先
が、安らかな場所でありますように。

  私は あなたを 祝福する

 ( 『ポエトリー アグネスの詩』 監督・脚本:イ・チャンドン
        主演:ユン・ジョンヒ、アン・ネサン、イ・デヴィッド/2010・韓国)
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[2012/03/15 13:00] | 映画 | トラックバック(10) | コメント(8) |
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コメント
たいへんご無沙汰しております。Ken-Uと申します。以前、ときどきやりとりさせていただいてました。

しばらく前に本作をみたんですが、間違いない出来でしたね。前作と同じようなテーマを扱いつつ、主人公が被害者側から加害者側に立場を変えて描かれているのが印象的でした。通じて、救済について考えさせられたり。

ぼくも、自ら身を投げる杏子を巡る詩には心打たれましたが、それを詩と気づかないままさまよい続けるミジャの姿がとても哀しくて。生きていくってたいへんだなあなんてひとり感傷にひたりました。
[2012/03/15 22:03] URL | Ken-U #- [ 編集 ]
Ken-Uさん、こんばんは! キャ~、超お久しぶりです!! コメントありがとうございます。
いや~、イ・チャンドン作品にコメントいただいて感激です。
『シークレット・サンシャイン』のとき、Ken-Uさん監督にお会いになってるんですよね、確か。
今作でも、祈りの場面がありましたね。「救済」は監督のテーマですね。

イ・チャンドンの映画は、観た後しばらく抜けられません。
繰り返し考えさせられるというか、、。観客に丸投げしてるわけでは決してなくて、ヒントは与えてくれてるんだけど、答えは自分で見つけて下さい、という感じで。
観た者一人ひとりが、「自分で考える」ことが大切なのだ、ということなのだと思います。
本当に、素晴らしい監督です。尊敬しています。

>生きていくってたいへんだなあ
それに尽きますね。。私もこれから、ミジャのように老いていくのかなぁ、なんて。

コメントいただいて、本当にうれしかったです。
ブログの方はあまり更新されてないですが、リンクはずっとそのままにさせて下さいね。
またいつでもいらして下さい。大・歓・迎です。
[2012/03/16 00:58] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、

憶えていただいて感謝です。その後もチェックはさせていただいていて、こちらも更新を復活させたいと思ってます。
[2012/03/17 01:16] URL | Ken-U #- [ 編集 ]
Ken-Uさん、こちらこそありがとうございます。
ブログのほう、是非また復活されるとうれしいです。新記事楽しみにしていますね。
また私もお伺いします!
[2012/03/17 10:18] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さ~ん、、、
いやぁ~~。なんというか・・・
まいった==。
これ、それほど感動とか出来なくて、、、残念だわ・・・。
うん・・・。
言葉がみつからない(^^ゞ

ただ、アルツは、私も自分自身、すごく危機感?を感じているの。
まだこの年で、こんだけボケちゃったら、20年後には本当にヤバイのでは?!
どうしよう~~~!!!
[2013/05/04 17:15] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさん、こんにちは! コメント&TBありがとうございます。
これ、ご覧になったのね? やっとDVD化されたんだね~^^
でも、お気に召さなかったのは残念。

認知症ね、、私も、100から7づつ引いていく、、、っていうの、絶対できないよ^^;
映画とか本の感想って、よっぽど印象的な本じゃなかったら、覚えてないっていうのはわかるよ。
同じ本2冊買ってしまったとか、よく聞く話だし。
感想は、なるべく読んですぐメモでも書いとくようにすれば、思い出しやすいんじゃないかな?

ちょうど今朝ね、女優の白石加代子さんが
「(年を取ってセリフを)覚えるのに時間がかかるようになったけど、その分覚えたら深く入る」
とおっしゃっていたよ。
大丈夫だよ~。
[2013/05/05 18:57] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
TB返し&コメント有難うございました。

>観客に丸投げしてるわけでは決してなく
ありゃ、僕と全く同じ表現ですよ。
何だかうれしいな^^

リンクの件、全く問題ありません。真紅さんなら、まして大歓迎でございます^^/
こちらもリンクしようと思いますが、ご支障ないですか?

しかし、お休み中ですか。
ゆっくりで良いですからご復帰の日をお待ちしております。

一年遅れの鑑賞ですので、まだまだTBする作日があると思います。
一緒にコメントもできれば入れたいですが、とにかく毎日記事をUPするだけで精一杯という感じなので、その辺りは平にご容赦を<(_ _)>
[2013/06/13 20:05] URL | オカピー #jHSMZ1/Y [ 編集 ]
オカピーさん、こんばんは。
こちらこそコメント&TBいただきありがとうございます。
リンク、お言葉に甘えて早速貼らせていただきました♪
もちろん、貴ブログにも相互リンクをお願い致します。

イ・チャンドン作品でご縁をいただけてうれしいです。
次の作品が待ち遠しい監督です。

まさか自分がブログ休止するとは思ってなかったのですが、
映画を観てもなかなかじっくり感想を書く余裕がなく、、
今日も朝一で(仕事を半休してまで)レオとデートしてきたのですが、
感想UPはいつのことやら、です。

コメントはご無理なさらず。私も失礼することが多いので・・・。
また再開しましたら、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。
[2013/06/14 20:24] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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