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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

愛の崩壊、家族の再生~『パリ、テキサス』

20061128061731.jpg

アメリカ、家族のいる風景』を観たら、やはりどうしても再見したくなってしまった。

 初見がいつだったのか、全く記憶がない。劇場で観たのか、ビデオ鑑賞だったのか
さえ定かでない。実は、あまりいい印象を持たなかったのだ。

 とにかく、ハリー・ディーン・スタントン演じるトラヴィスという人物が、当時の
私にとっては理解不能だった。どうして砂漠を歩いているのか、どうしてまた去って
ゆくのか。(精神的に)今よりずっと子どもだった私に理解できたのは、ナスターシャ・
キンスキー
息を呑むほどの美しさだけだったのかもしれない。

 少しだけ、大人になった今はわかる。どうしてトラヴィスが去らなければならなか
ったのか
。ようやく打ち解けた父と旅に出るハンターの気持ち、一人男たちの声に耳
を傾け続けるジェーンの辛さ、「会いたくて死にそう」になるくらい、細胞の一つ一つに
沁み込んでいる彼女の息子への思い。可愛い盛りの3歳から4年間育てたハンターが
消えてしまうのではないか、というアンの不安。息子と妻と、兄への思いに引き裂か
れ、苛立つウォルトの苦悩。決して多くは語らない彼らの心の中が、美しい映像を通
して響いてくる。ライ・クーダーのギターのように

 そしてやはり、白眉は覗き部屋でのシーン。トラヴィスのモノローグにより、彼ら
の過去がゆっくりと明かされてゆく。頬に流れる涙、背を向けて語る真実、マジック
ミラー越しに重なる二人の顔。愛しすぎた故の不安と嫉妬、そこから生じた狂気と悲劇

新しい家族は二人の結びつきを強めるかすがいではなく、決定的に引き裂く原因とな
ってしまった。しかしそれは誰にも、どうしようもなかったことなのだ

 静かな母子の再会と抱擁。それを確認して夕陽の中を去ってゆくトラヴィスの横顔
には、涙ではなく微笑がかすかに浮かんでいる。彼は再び「国境の南」を目指すのか。
約束の地、テキサス州パリに辿り着き、そこから彼自身も再生してゆくと信じたい。

 乾いたアメリカの風景、透明な空の青、トラヴィスとハンターの着る赤いシャツ
ああ、これは星条旗の色なんだ・・、と気付く。望遠鏡が探す視線の先にはためく星条旗
がここでも印象的だ。モノクロの8ミリビデオの映像も美しい。ジョン・ルーリーの顔
が一瞬でも観られたのも、懐かしくうれしかった。

名作」「傑作」は数あれど、多くの人にとって、そして私にとっても忘れられない映画
のひとつであることは間違いない。映像と音楽が調和した、美しさ以上の何かがそこに
ある。


(『パリ、テキサス』監督:ヴィム・ヴェンダース
     主演:ハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー/
                        1984・西ドイツ、フランス)
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テーマ : 色あせない名作
ジャンル : 映画

2006-11-28 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 6 : トラックバック : 1
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パリ、テキサス
どこまでも続く砂漠と青空の色彩、ライ・クーダーの心地よいギターの音色、心象風景を映し出すかのようなヴェンダースのロードムービー!!
2009-10-08 23:26 : Addict allcinema おすすめ映画レビュー
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真紅さん、こんにちは。
私も「パリ、テキサス」好きです。「ランド・オブ・プレンティ」を見たあと久しぶりに見てみました。「アメリカ、家族のいる風景」は新作扱いが外れたら見るつもりです。(せこい)
ジェーンの美しさとトラヴィスのしょぼさ、すごい取り合わせだと昔は思いました。
私はなんといっても父子で旅するシーンが好きです。乾いた空気感の中に登場する人物たちの存在感がまるで砂漠に落ちる奇跡の雨の滴のように心に沁みてきます。誰も悪くなくて誰も責める事ができない、と若くない今は思います。
今読んでいる(まだ読んでるンです、泣)「この世の果ての家」もそうですが、家族という言葉で括られる集合体の条件は何だろうと考えさせられる映画でした。
覗き部屋のマジックミラーをつかった演出、あんなにトリッキーだったことも今回気付いた事です。最後に去って行くしょぼいはずのトラヴィスが、荒野をさすらうガンマンのようにかっこよく見えたのは私だけでしょうか?音楽もベストマッチでした。
2006-11-28 15:44 : kママ URL : 編集
kママさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
この作品と『ランド・オブ~』、『アメリカ、家族の~』はそれぞれリンクしていると私も思いました。
星条旗が、どの作品でも印象的です。そしてどの作品も家族、血縁の物語なんですよね。
私も、『パリ、テキサス』が理解できなかった自分はなんて子どもだったのだろうと恥ずかしいです。
でも、少しだけ人生経験を積んだ今ならばわかる、年をとるのもそう悪くないことだと思えました。
なんだか、自分の文章で説明すると、この作品のよさ、本当のよさがどんどん損なわれるような気もしました。
言葉では説明できない「何か」がある作品だと思ったんです。
『アメリカ、家族のいる風景』是非ご覧になって下さいね。
そして『この世の果ての家』、どうぞゆっくり、味わって下さい。
では、また覗いてみて下さいね!ありがとうございました。
2006-11-28 16:08 : 真紅 URL : 編集
真紅さん★ずいぶん昔の映画ですよね。一人で映画館で観ました。それより前に「テス」を見て、その美しさに思わずのけぞってしまったナスターシャをどうしても大スクリーンで見たかったからです。予備知識はなく、ロードムービーだと言うから「テキサスからパリへ旅する映画」かと最初は思ってました。この作品を「名作」と呼ぶ人は多いですね。もちろん私にとっても(久しく見ていませんが)「忘れられない映画のひとつ」です。たしか「もはやアメリカ人が撮れなくなったアメリカ映画」という評価がなされていたと思います。ナスターシャ、ほんとに綺麗・・・私も真紅と同様、この記憶が残っています★
2006-11-28 16:53 : メグ URL : 編集
メグさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
本当に随分昔の作品ですよね。。なんたって製作国が「西ドイツ」ですから(笑)
ナスターシャ・キンスキー、本当に綺麗でした。今はどうしているのだろう・・。
この作品は「ロードムービーの頂点」とか言われていますが、家族の愛の物語だと思いました。
最近、デジタルリマスター版DVDが出ましたよね。さぞ綺麗な映像だと思います(私はBSを録画したものを観ました)。
再見できてよかったです。ミシェルに感謝しなければ(笑)
ではでは、またいらして下さいね!ありがとうございました~。
2006-11-28 17:02 : 真紅 URL : 編集
真紅さん★きゃっ!ごめんなさい!
先ほどのコメント、わたしったら「真紅さん」の「さん」を抜かして呼び捨てにしてるぅ~~。なんて失礼なことを。どうかお許しを~。

ところで(汗)、11/23の村上さん関連で追加コメントです。今日我家に来た夕刊の文芸欄で、文芸評論家の加藤典洋さんという方が村上さんの訳した「ギャツビー」を取り上げ、「この訳を読んで筆者は初めてこの作品のすばらしさを理解した。心に残る、名作、そして名訳である」と書いています。これは何としても読まなくては・・。私も愛蔵版にしようかしら。
ではではおじゃましましたー★
2006-11-28 20:35 : メグ URL : 編集
メグさま、こんにちは。再びコメントありがとうございます。
あ、呼び捨ての件は気になさらないで下さいね(笑)
私もその記事、読みました!加藤氏は村上春樹イエローページとか出されている方ですよね?好意的な記事でうれしいです。
実は今、手元に『ギャツビー』愛蔵版があります~♪今はちょっと時間が取れないので、週末にでもじっくり読もうと思っております。
ではでは、またいらして下さいね、ありがとうございました~。
2006-11-28 23:21 : 真紅 URL : 編集
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