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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

これが私の生きる道~『いつか読書する日』

 一般論として、この物語は悲劇と捉えられるのだと思う。一般論として、
主人公が少し前に流行った『負け犬』という名でカテゴライズされるのと
同じ意味合いで。私もラストシーン、「なんて酷い終わり方なんだ」と思
いながら観ていた。
 しかし、大写しになった大場美奈子(田中裕子)の表情からは、否定的
なものは一切読み取れない。控えめだけれども、何かを「成し遂げた」も
のだけが作ることができる至福の笑顔がそこにある。

「生まれ育ったこの町で生きていく」15歳のときに立てた自分の未来予
想図に、忠実に生きる美奈子。独身を通し、牛乳配達とスーパーのレジ、
夜のラジオと読書が彼女の生活の全てだ。しかし、彼女は心の中に秘めた
思いを抱え、それが彼女を動かしていると言っても過言ではない。
 ある意味、これは「理想の人生」と言えるのではないだろうか? 自分
のやりたいことだけをやり、好きなものだけに囲まれている。時には興味
本位の、心無いセクハラ発言に傷つき、涙する夜もあるだろう。しかし、
それでも彼女は自分の生きる道を貫く。並大抵の意志ではない。

「平凡な人生」など無いのだというのが監督のメッセージであろう。人が
100人いれば100通りのドラマがあり、いいことばかりも無ければ悪いこと
ばかりでもない。みんなみんな、心の中には様々な思いを抱えて生きてい
るのだ。

 黙々と自転車を漕ぎ、坂道の階段を駆け上がる田中裕子の姿。それだけ
でも感嘆するが、彼女の抑えた演技は素晴らしいの一言。初めて田中裕子
という女優の魅力が理解できた気がする。仁科亜季子も負けず劣らず、驚
くべき名演技と美しさ。
 個人的には認知症の元英文学者のエピソードが少し長いのでは、と感じ
たが、キネマ旬報ベストテン第三位も納得の佳作、一人でも多くの人に観
てもらいたい作品だ。

(『いつか読書する日』監督・緒方明/主演・田中裕子、岸部一徳/2004・日本)
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テーマ : 邦画
ジャンル : 映画

2006-03-21 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 4 : トラックバック : 3
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★「いつか読書する日」、重き荷を背負いて立つ丘★
「いつか読書する日」(2004)監督:緒方明プロデューサー:追分史朗  畠中基博原作:青木研次原案:青木研次  緒方明脚本:青木研次撮影:笠松則通美術:花谷秀文衣装:宮本まさ江音楽:池辺晋一郎照明:石田健司出演:田中裕子  岸部一徳  仁科亜季...
2007-04-14 16:57 : ★☆カゴメのシネマ洞☆★
いつか読書する日
 コチラの「いつか読書する日」は、田中裕子と岸部一徳の共演で描かれる30年来の初恋を描いたメロドラマです。とは言っても、主演がこの2人ですから、メロメロなメロドラマなハズもないのですが、ナニゲに沢田研二つながりっつ~のが、気になるところです(´▽`*)アハハ...
2008-06-25 20:24 : ☆彡映画鑑賞日記☆彡
いつか読書する日 (2004)
ある程度の年令になった男女の、恋物語が成立するには、かなり、キャステキングと存在感、演技力に負うとkじょろが大ですよね。そういう意味では、田中裕子の色気とミステリアスさは、ピッタリ。岸部一徳、タイガース出身で、大林作品で活躍した時は、ややオトボケで頼りない役だったのですが、昨今は「相棒」の官房長役といい「ドクターX」といい、ちょっと癖のある美味しいところを独特の味で好演してますした。そういう...
2019-07-11 14:58 : のほほん便り
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TB、感謝です♪
カゴメは、ここ10年・20年の邦画を心のどこかで見くびっていたように思うです。
だもんで、これにはズンッと底響きするほど驚きを感じたし、
心から感動しました。
今の日本でも、こんな素晴らしい作品が撮れるんだ!!
有り難いなぁぁ~、嬉しいなぁぁ~♪

でも、他の人のレビューなんぞを見てみると、
結構、若い人には「??」らしいですね(苦笑)。
まぁ、登場人物の平均年齢が馬鹿っ高いので、仕方が無いですが、
今後何十年たっても色あせない傑作だと確信したですよ。

カゴメのレビュー本文には書き忘れてますが、
死んだ槐多の無人の家に、
毎日牛乳を届る場面も、とってもイイですね。
「私は貴方のお陰で生きてけます」
という感謝の気持ちを篭めた、
“生命の証=牛乳”という符号だと思いました。
まだまだ教えてくれる事の多そうな作品ですね。
2007-04-14 17:06 : カゴメ URL : 編集
カゴメさま、こちらの記事に記念すべき初コメントとTBをありがとうございます。
この映画を観た頃はブログやる気ゼロで、映画を観てもめったに感想など書かなかったのですが、これは思わずエントリしてしましましたね。
地味ですけど、素晴らしい作品だと私も思いました。
田中裕子の存在が大きいですね。
他の方のレビューはあまり読んでいないのですが、若い人にわからないというのはあるかもしれませんね。
若いときの自分が喪失したものの大きさを感じるのは、ある程度年齢がいってからですから。
なんて言うと自分がすご~いトシみたいなんですけど(苦笑)

牛乳配達のこと、美奈子が「生きがいだもん」って言いますよね。
愛する人を喪っても、ああやって生きていける彼女は幸せだと思いました。
ラストの笑顔で観るものも救われるんですよね。彼女は不幸じゃないって。
一度しか観なかったと思うのですが、隅々まで結構憶えているんですよ。
これってやっぱり「色あせない傑作」ってことなのでしょうね。

たくさんコメント、ありがとうございました。私もまたお伺いします。
ではでは~。
2007-04-14 17:53 : 真紅 URL : 編集
真紅さん おはようございます♪
事後報告になってしまいますが、幣ブログからも真紅さんのブログをリンクさせてくださいね!
ってか、もうしちゃってますm(_ _)m
たった一つ残念なことは、こちらからのTBがどうしても送信できないという点です。
それだけをお許し頂いて、今後とも末永く仲良くしてくださいね!

さて、こちらの作品は秀作でありました!
それでもこれを今ではなく、もっと若い頃に鑑賞していたら、きっとこの作品の持つ良い所は感じないままに終っていただろうと・・・。

主人公の二人は50歳ということでしたね。
人生80年としても、すでに折り返しを回ってしばらくした年代。
こんな男女の秘めた恋って、若い人たちの情熱以上のものがありましたよねぇ。
しかもそれを演じきってた田中裕子の名演技には絶賛したいです!

真紅さんの的を得たレビューに魅了されました!
2007-06-26 08:56 : なぎさ URL : 編集
なぎささま、こんにちは。コメントありがとうございます。
リンクの件、ありがとうございました♪ TBはこちらからバンバン送らせていただきますので、どうぞ気になさらずに♪
そうですね、この作品「R-40指定」ってカゴメさまがおっしゃったのですけど、まさにそういう感じですね。
美奈子のような人も、塊多のような人も、実はたくさんいるのかもしれないですね。
というか、誰の心の中にも彼らはいるのかもしれません。
田中裕子は、今まであまり好きな女優さんではなかったのですが(と言うか、彼女の魅力がサッパリわからなかった)、この一作で凄い女優さんなんだということがよくわかりました。
取り立てて美人と言うわけでもないのに、なんとも言えない雰囲気がありますよね。

こちらこそ、今後ともよろしくお願いします!ではでは。
2007-06-26 09:34 : 真紅 URL : 編集
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