武士の本懐~『一命』

江戸時代初期。井伊家に津雲半四郎(市川海老蔵)と名乗る浪人が現れ、切腹
を願い出る。井伊家家老・斎藤勘解由(役所広司)は狂言切腹であると考え、数ヶ
月前に井伊家を訪れた若い浪人の話を始める。
御家取り潰しとなり、浪人の身となった武士たちの「一分」を描いた時代劇。実
は鑑賞をかなり迷ったのですが、三池崇史監督作品ということで行ってきました。
結果、観てよかったです。個人的には監督の同じ時代劇『十三人の刺客』 より好
き。監督らしい肉体的な痛々しさ、血生臭さは健在でも、全編を貫く静謐な緊張感
が凄い。そして役者・市川海老蔵を観直しました。立ち姿が様になる役者は大勢い
るけれど、そのオーラでスクリーンを「支配」し、君臨できる役者はそう多くない。
本作の海老蔵は、間違いなくその一人。もちろん、瑛太も、満島ひかりもとっても
よかった! 迷っている方は、大きなスクリーンで是非。

竹光で切腹させられた求女(瑛太)のハラキリ場面は壮絶過ぎて、正直、「これ
がカンヌで、全世界に向けて発信されたのか~」 と少々憂鬱にもなりました。傘
貼りの内職をし、質屋に通って日々の糧を得る浪人たち。士農工商とは名ばかり
で、貧しいお侍さんも多かったのですね。「熱いうちでないと喰えぬ味かもしれぬ
ぞ」っていう半四郎の台詞がよかったなぁ。武士は食わねど高楊枝。
義理の息子を殺めた井伊家に単身乗り込み、本懐を遂げる半四郎。降りしきる
雪の中、多勢を相手に屋敷に乗り込む様は気迫みなぎる名シーン。「美しい」とさ
え感じてしまった。

井伊家に仕える若武者三人の顔もうれしい。『龍馬伝』 で知り、時代劇向けの
役者さんだと思う青木崇高。邦画界の若き名バイプレイヤー、波岡一喜。そして、
たとえ画面の端っこに居ても、存在感は群を抜く新井浩文。彼は瑛太と親友らし
く、以前松田龍平と三人でトーク番組に出演していた。マイペースでタバコなんか
ふかしてる二人の隣で、大汗かきながら一生懸命、場を盛り上げようと必死でしゃ
べっていた姿が忘れられない。邦画も、時代劇も、そして若い俳優たちも捨てた
もんじゃあないな、と思わせてくれた一作だった。

( 『一命』 監督:三池崇史/主演:市川海老蔵、瑛太、満島ひかり/2011・日本)
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大河ドラマ「それからの武蔵」風
公式サイト。英題:Hara-Kiri: Death of a Samurai。滝口康彦「異聞浪人記」原作、小林正樹監督「切腹」(1962)のリメイク。「十三人の刺客」に続くジェレミー ...
2011-10-26 20:51 :
佐藤秀の徒然幻視録
市川海老蔵と瑛太が主演。
海老蔵が津雲半四郎。
瑛太が千々岩求女を演じます。
満島ひかり 役所広司 竹中直人
青木崇高 新井浩文 波岡一喜等が共演。
監督は三池崇史。
時代劇初の3D作品ということですが
2Dで見ました。
半四郎(市川海老蔵)が
娘婿、千々岩...
2011-10-26 21:28 :
花ごよみ
☆『十三人の刺客』を見たとき、ノリ気じゃない姪っ子だったが、観終えて、「悔しいけど、面白かった^^;」と言った。
で、今回、半ば無理矢理に彼女を、
「名作『忍たま乱太郎』と同じ監督だからさ^^」
と言って、連れて行ったら、観終えて、「『忍たま乱太郎...
2011-10-26 21:46 :
『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭
猫様は見ていた。
「一命」は、滝口康彦の短編小説「異聞浪人記」を原作に、1962年に発表された小林正樹監督の「切腹」のリメイクである。
舞台は豊臣氏の滅亡により、天下太平の世が訪れた寛永年間の江戸...
2011-10-26 21:48 :
ノラネコの呑んで観るシネマ
狂言切腹を通して武家社会の矛盾とそれに立ち向かう侍の運命を描く時代劇。静かな静かな3D映画だ。江戸時代初頭。相次ぐ大名家の御取り潰しにより、仕事を失い困窮した浪人たち ...
2011-10-26 21:52 :
映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
一命を懸けて問う。武士の面目とは何か。
これは現代社会にも通ずる、同時に泰平の世だからこそ薄れていく人としての義を問う映画。三池崇史監督が映画人として、一人の人として ...
2011-10-26 21:58 :
こねたみっくす
映画 「一命」
2011-10-26 22:04 :
ようこそMr.G
『十三人の刺客』でエンターテイメントなアクション時代劇を成功させた三池崇史監督が再び時代劇に挑み1968年に『切腹』というタイトルで映画化された滝口康彦の『異聞浪人記』を原 ...
2011-10-26 22:05 :
カノンな日々
一命@丸の内ピカデリー1。
9月26日(月)舞台挨拶付き3D試写会。
チケットはネットオークション1,540円で入手。
舞台挨拶付き完成披露試写会のわりに安かったのでカサキケイくんに落札してもらって二人で観に行った。
2011-10-26 22:35 :
あーうぃ だにぇっと
戦国の世は終わり、平和が訪れたかのようにみえた江戸時代初頭、徳川の治世。その下では大名の御家取り潰しが相次ぎ、仕事も家もなくし生活に困った浪人たちの間で“狂言切腹”が流行していた。それは裕福な大名屋敷に押し掛け、庭先で切腹させてほしい...
2011-10-26 22:35 :
beatitude
『十三人の刺客』、『クローズZERO』の三池崇史監督最新作。滝口康彦の「異聞浪人記」をベースに作られた武士の世界を批判的に描いたヒューマンドラマだ。1962年に仲代達矢主演で公開された『切腹』と同一原作でもある。主演は歌舞伎俳優・市川海老蔵。共演に『まほろ...
2011-10-26 22:40 :
LOVE Cinemas 調布
武士の誇りとは何か。命とは何か。
家族を愛する若き武士の切腹をめぐって繰り広げられる壮絶な人間ドラマに、我を忘れてのめり込んだ2時間だった。
2011-10-26 23:29 :
SOARのパストラーレ♪
「一命」江戸時代にお家が改易となった貧しい武士の家で貧しいながらも暮らしていた武士の家族がある事がキッカケに切腹をしたいと武家の家に申し出た事からそれを巡る武士の在り ...
2011-10-26 23:53 :
オールマイティにコメンテート
今回は「Yahoo!映画 ユーザーレビュアー試写会」に招かれました。試写会の客入りは平日の昼間と言うことで6割くらい、観客の年齢層は高い。
2011-10-27 00:03 :
新・辛口映画館
井伊家こそイイ迷惑。
2011-10-27 00:47 :
だらだら無気力ブログ!
□作品オフィシャルサイト 「一命」□監督 三池崇史 □脚本 山岸きくみ □原作 滝口康彦(異聞浪人記)□キャスト 市川海老蔵、瑛太、満島ひかり、役所広司、竹中直人、 新井浩文、笹野高史、中村梅雀■鑑賞日 10月16日(日)■劇場 TOHOシネ...
2011-10-27 08:27 :
京の昼寝~♪
哀しみの果てに・・・
2011-10-27 10:05 :
Akira's VOICE
1952年に発表され、1968年には「切腹」として映画化された滝口康彦の『異聞浪人記』を原作に「十三人の刺客」の三池崇史監督が武士の誇りと家族愛を描く時代劇。音楽を「シルク」の ...
2011-10-27 18:31 :
パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ
映画「一命」観に行ってきました。滝口康彦の小説「異聞浪人記」を原作とし、江戸時代初期に蔓延したと言われる「狂言切腹」を題材に「武士の生き様」に対し疑問を投げかける作品。...
2011-10-27 20:16 :
タナウツネット雑記ブログ
1962年に仲代達矢主演で公開された『切腹』と同一原作
リメイクではないらしい。
狂言切腹というのが有るらしい。
切腹を申し出て面倒事を避けたい大名はお金や職を与えて
思いとどませるらしい。
と...
2011-10-27 21:58 :
単館系
2011年10月15日(土) 15:00~ TOHOシネマズ川崎6 料金:300円(フリーパス+3D料金(メガネ持参)) パンフレット:未確認 『一命』公式サイト TOHOシネマズのフリーパスポート鑑賞。25本目。 海老蔵で時代劇で3Dもないだろうと思ったのだが、三池なら何かギミッ...
2011-10-27 22:37 :
ダイターンクラッシュ!!
『一命』を吉祥寺のバウスシアターで見ました。
(1)原作の滝口康彦著「異聞浪人記」(注1)を映画化したものとしては、小林正樹監督の『切腹』(1962年)があり、それに甚だ感銘を受けたことがあり、また『十三人の刺客』の三池崇史監督の作品ということもあって、映画...
2011-10-30 18:47 :
映画的・絵画的・音楽的
「一命」★★★
市川海老蔵、瑛太、満島ひかり、役所広司主演
三池崇史 監督
127分、2011年10月15日公開
2011,日本,松竹
(原作:原題:滝口康彦の小説『異聞浪人記』)
>→ ★映画のブログ★どんなブログが人気なのか知りたい←
「江戸時代初頭、戦国の世は終...
2011-11-02 09:17 :
soramove
それは、こんなに気合いの入った映画の撮影が終わったら、ちょっとハメを外したくもなるよね…。
と、ちょっと市川海老蔵の心境に思いを馳せてしまうこの映画『一命』。
この映画にはやっぱり海老蔵の才能が必要だったし、海老蔵がいなくてはなりたたない作品だと思う...
2011-11-03 07:13 :
Viva La Vida! <ライターCheese の映画やもろもろ>
「切腹」を観たときも、竹光痛そうと思ったけど、この映画も、やっぱり竹光痛そう。
2Dで観たけど、3Dで観るともっと痛そうなのかしら。
それは、どうかな。そもそもこの映画、うざったいめがねかけてまで3Dで観たほうがよかった、って思えるシーンあったか。
・・?...
2011-11-03 22:32 :
【映画がはねたら、都バスに乗って】
五つ星評価で【☆☆☆こういうゴツゴツした映画は三池の資質に合っている】
瑛太も満島ひかりも貧乏が似合う。
瑛太の生卵のシーンなんて目を覆いたくなる。
瑛太の切腹シー ...
2011-11-06 23:13 :
ふじき78の死屍累々映画日記
HARA-KIRI: Death of a Samurai/11年/日本/126分/時代劇ドラマ/劇場公開(2011/10/15)
-監督-
三池崇史
過去監督作:『十三人の刺客』
-原作-
滝口康彦『異聞浪人記』
-音楽-
坂本龍一
-出演-
◆市川海老蔵…津雲半四郎
◆瑛太…千々岩求女
過去出演?...
2012-04-15 02:08 :
銀幕大帝α
同じ原作を使ってるため、実質的に「切腹(1962年)」のリメイク作品になってると思う。…なのでどうしても比べてみてしまいますが、残念ながら「切腹」ほどのただならぬ緊張感や迫力をどうしても感じ取れなかった。
市川海老蔵さん主演。仲代達矢さんが演じた津雲半四郎...
2012-04-16 09:54 :
いやいやえん
先日『一命』を観ました。
この映画は随分前に、
ある演出家から勧められて観たのですが、
もう一度観たくなって、観てみました。
寛永七年十月、
井伊家上屋敷に津雲半四郎と名乗る浪人が訪れた。
切腹のためにお庭拝借させて欲しいとの申し出を受けた家老斎藤...
2012-05-01 03:00 :
映画、言いたい放題!
☆☆☆(6点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・三池崇史
ネタバレあり
2013-01-10 10:31 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
2011年 日本 127分
監督:三池崇史
出演:市川海老蔵 瑛太 満島ひかり
竹中直人 青木崇高 新井浩文
波岡一喜 天野義久 大門伍朗
平岳大 笹野高史 中村梅雀
役所広司
1...
2013-02-10 21:56 :
RE940の自作DVDラベル
一命
病気の妻子の為、狂言切腹を願い出た男が
武士の面目・誇りを守る為、
自害を強要される...
【個人評価:★★★ (3.0P)】 (自宅鑑賞)
原作:滝口康彦 『異聞浪人記』
2013-07-17 21:50 :
cinema-days 映画な日々
コメントの投稿
魂のプレゼント
なんて静かな映画だろうと思いました。
描かれている家族は、一般常識で言えば決して幸せな人生ではなかったかもしれない。
でも父親は娘の幸せを思い、夫は妻子の為に命を投げ出し、その家族の元に父は躊躇いもなく旅立つ。
三池監督はこれをリメイクとせず、原作者の精神により近く書き換え、キャスティングしたとしか思えません。
津雲半四郎が出来る俳優を現俳優陣からを考えたら、恐らく市川海老蔵しかいなかったと思われます。
あの貫禄と佇まいの清浄感からか、彼が実は若いとか考える暇がありませんでした。
音楽・美術・カメラが押しつけがましくないまさに日本の美を演出してくれました。
本年度第一位の神作でした。
描かれている家族は、一般常識で言えば決して幸せな人生ではなかったかもしれない。
でも父親は娘の幸せを思い、夫は妻子の為に命を投げ出し、その家族の元に父は躊躇いもなく旅立つ。
三池監督はこれをリメイクとせず、原作者の精神により近く書き換え、キャスティングしたとしか思えません。
津雲半四郎が出来る俳優を現俳優陣からを考えたら、恐らく市川海老蔵しかいなかったと思われます。
あの貫禄と佇まいの清浄感からか、彼が実は若いとか考える暇がありませんでした。
音楽・美術・カメラが押しつけがましくないまさに日本の美を演出してくれました。
本年度第一位の神作でした。
2011-10-27 00:29 :
昴 URL :
編集
昴さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
この映画本当に素晴らしかったですね。三池監督の力量は凄いです。
『切腹』は観ていないのですが、リメイクじゃなく「再映画化」だとされているとか。
実は海老蔵のスキャンダルでちょっとがっかりで、観に行くかどうしようか迷ったのですが、観て本当によかったと思っています。
彼のオーラは並々ならぬものがありますね。。もちろん、音楽や美術も一級品でした。
「魂のプレゼント」ですか・・・。そんな風に思える映画に出逢えるから、映画館通いは止められないですね!
私はベストに入れるかどうかはわからないですが、素晴らしかったと思います。
この映画本当に素晴らしかったですね。三池監督の力量は凄いです。
『切腹』は観ていないのですが、リメイクじゃなく「再映画化」だとされているとか。
実は海老蔵のスキャンダルでちょっとがっかりで、観に行くかどうしようか迷ったのですが、観て本当によかったと思っています。
彼のオーラは並々ならぬものがありますね。。もちろん、音楽や美術も一級品でした。
「魂のプレゼント」ですか・・・。そんな風に思える映画に出逢えるから、映画館通いは止められないですね!
私はベストに入れるかどうかはわからないですが、素晴らしかったと思います。
TB有難うございました。
スタッフロールを見るまで三池監督作品と知らなかった(汗)
てっきり、山田洋次系の作品と思っていたのである。
ラストの雪のシーン。降らせ方が実に場面にマッチしていました。
てっきり、山田洋次系の作品と思っていたのである。
ラストの雪のシーン。降らせ方が実に場面にマッチしていました。
Hiroさん、こんばんは。コメント&TBありがとうございます。
確かに、武士の一分っぽい感じのタイトルですよね。
三池監督は、もう、映画職人ですから・・・。
なんでもこなすマルチディレクター。これからも色んなジャンルに挑戦して欲しいですね♪
確かに、武士の一分っぽい感じのタイトルですよね。
三池監督は、もう、映画職人ですから・・・。
なんでもこなすマルチディレクター。これからも色んなジャンルに挑戦して欲しいですね♪