この美しく騒々しい世界で~『イノセント・ラブ』
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 マイケル・カニンガムの小説『この世の果ての家』(角川文庫刊・原題:A Home
at the End of the World
)の映画化である本作は、2004年にアメリカで製作・
公開された。日本では未公開であり、2006年11月、DVDが発売(レンタルも有り)。
監督は本作が初メガホンのマイケル・メイヤー、脚本は原作者であるマイケル・
カニンガム
が書き下ろしている。主演はボビーコリン・ファレルクレア
ロビン・ライト・ペンアリスシシー・スペイセクジョナサンは『ウォーク・
ザ・ライン/君につづく道
』のレコーディング・ディレクター役印象的だった
ダラス・ロバーツが演じている。

 私はこの映画の原作に入れ込みすぎているので、冷静な眼で観ることができて
いないかもしれない。まず、その点はご容赦いただきたい。

 映画を「読んでから観た」場合、大抵頭の中で創り上げたイメージと違う、と
ガッカリすることが多いものだ。しかし、この映画では不思議とキャストに違和感
はなかった。コリン・ファレル、ダラス・ロバーツの名前を聞いたときは心底驚い
が、映画を観ているうちに、自然とこの二人はボビーとジョナサンなんだ、と思
えてくる。自分が魅了された小説世界が映像化されている、それだけで感無量

★以下ネタバレバレ、しかも長文!失礼します★

 しかし、言いたいこともある。映画と小説は別のもの、と考えるのは当然だけれ
ど、映画の脚本を原作者が書いた、となるとちょっと話が変わってくるのではない
だろうか。まず、原作では重要な登場人物であるエリックが切られ、彼のキャラク
ターはジョナサンへと吸収されている。そのためか、クレアが彼らの元を去る理由
がかなり単純に見えてしまって残念。クレアが去る場面では、それが一時的な里帰
りではないとボビーが悟る(そしてジョナサンを選択する)演出になっている。
 ジョナサンの母アリスの、女性として、母として生きる苦悩が深く描かれなかっ
たのは仕方ないにしても、ジョナサンがボビーとクレアの間に生まれた娘、レベッ
に対して抱いていた底抜けの愛情と、レベッカが一番愛していた人物はジョナサ
であったことは、もっと描写して欲しかったと思う。
 クリーブランドでは常にジョナサンをリードしていたボビーが、成人してからは
いきなり無垢そのものとなるように感じられるのも解せない。実はこの疑問は原作
を読んだときにも感じていた。ボビーは兄の死によって死者の世界に惹かれ、兄が
生きていた年齢までは現実的に生きられたが、その年齢を超えた時点で、成長する
術を見失ってしまったのかもしれない
、と今は理解できるのだけれど。
 そして何よりも、ジョナサンがエリックと四月の冷たい水の中に入り、自分の人生
が何であったのかを悟る、感動的なラストシーン
あの場面が映像で観られなかっ
たこと
が一番残念だ。尺は100分弱と短めなのだから、あと20分少々足すことで、
なんとかもう少し原作を消化できなかったのかな、と思ってしまう。映画のラスト
シーンも、原題の『A Home at the End of the World』を象徴しているようで
素晴らしいとは思うのだけれど・・。
(それにしても、一番気に入らないのは邦題イノセント・ラブ』だ。何かダサく
ないですか?センスなくない??)
 
 ジョナサンとボビーのダンスシーンの美しさは特筆ものだし、音楽が二人を繋い
でいる
様がわかる演出はよかったと思う。それにしても、原作の愛読者としては
どうして?」と言う思いを打ち消せないし、脚本を書いたのが原作者であるマイ
ケル・カニンガム
であればこそ、尚更その思いは強くなる。

20061115223416.jpg


 ボビー・モローと言う不思議に魅力的な人物を肯定できるかどうかがこの映画を
評価できるかどうかの分かれ目のような気がする。コリン・ファレルは、好き嫌い
がはっきり分かれる俳優だと思うのだが、本作では常に受け身で、心やさしいボビー
と言うキャラクターを巧く演じていたと思う。私はジョナサンが好きで、だから彼
に「あなたがどんなに欲しかったか!」と感情をぶつけるクレアに思いっきり感情
移入して号泣
してしまった。新しい家族を作ろうとしながら、それを放棄してしま
ったクレア。そこにはジョナサンとボビー、二人への決別だけでなく、死への恐れ
娘への思いがあったことも、やはり描写して欲しかったと思うのだ。

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 ラスト近く、父の遺灰を撒くジョナサンとボビー。死者は自分達と同じ、この
しく騒々しい世界
にいる、とジョナサンに話した遠い日の自分を回想するボビー。
自分の遺灰もここに撒いて欲しいと言いながら、「この美しく騒々しい世界では、
何でも起こりうる
」と、遠い日のボビーと同じ言葉を口にするジョナサン。全てを
口に出さなくても分かり合えるこの二人はまさしく互いの半身であり、そう遠くな
い日にがジョナサンを連れ去っても、彼のはずっとボビーと共にあるのだろう。

 メイキングや、キャストインタビューが観られる特典映像では、シシー・スペイ
セク
が「原作はとても深い話。読んでない人は今すぐ買いに走るべき」と語ってい
るのがうれしい。しかし今更ながら、原作の世界観をあそこまで映像化した傑作
めぐりあう時間たち』は、つくづく奇跡的に成功した映画だったのだなぁ・・・と
思うのであった。

(『イノセント・ラブ』監督:マイケル・メイヤー/原作・脚本:マイケル・カニンガム
        主演:コリン・ファレル、ダラス・ロバーツ、ロビン・ライト・ペン/2004・USA)
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[2006/11/15 22:50] | DVD/WOWOW | トラックバック(7) | コメント(16) |
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コメント
真紅さん、こんにちは。
ご覧になられたのですね~♪いいな~♪
実は私、まだ見てないのです(泣)。先日の「指定型バトン」にコメントさせて頂いてから風邪が治らずPCも原作読むのもお休みしてました。当然DVDもお預け状態です。きっと真紅さんがご覧になって記事がアップされるだろうと待っておりました。でも、今は序文と後文だけ読ませていただきました。どうしようかなと迷ってます。私もこれまでに原作ありの映画で読んでから見てもガッカリしなかったのは「BBM」と「スタンド・バイ・ミー」くらいなものです。小説はとても私好みなので本当にどうしよう、、、。DVDを見たらまたコメントに来ますね。すみません、半端なコメントで。
六花亭のバターサンド、私も大好きで時々注文してます♪
[2006/11/16 16:48] URL | kママ #7iSbDyII [ 編集 ]
kママさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
体調、もう大丈夫なのですか? これから風邪やインフルエンザの季節に向かいますし、ご自愛下さいね。
さて。この映画に関しては、もう「映画と小説は別!」と割り切って鑑賞するしかないと思います。
私も最初はちょっと(かなり)ガッカリしました。小説にすごく思い入れがありますから、自分なりにこだわりがあったんです。
2回観てようやく納得し、今では何回も観たいと思っています。
『めぐりあう時間たち』やBBMは奇跡的に映画化が成功した例だと思いますよ。
原作の世界観を損なわずに映画化するのって難しいのだな、とつくづく思いました。
でも、映画も(当然ですが)一つの作品として観れば佳作ではないでしょうか。
小説も映画も、どうか楽しんで下さいね。観終り、読了されましたらまた感想をお聞かせ下さいね。
お待ちしてます。お身体に気をつけて。ありがとうございました。
[2006/11/16 22:04] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さま、こんばんは。
今日はどどーんと冷え込んで、さぶいさぶいですね。(アホな文章でごめんなさい)
うわぁ、ものすごく見たくなってしまいました!
全然知らなかった映画です。
コリンがそんなのに出ていたなんて・・。
来週、探しにいってきます♪
ジェイク君の新作、楽しみですけど、怖そうですよね^^;
[2006/11/18 23:29] URL | 武田 #4ARdecsc [ 編集 ]
武田さま、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうなんですよ、この作品未公開だったので、原作のファンか、コリンのファンかしか知らないと思います。私は前者です。
武田さまの感想が聞きたいなぁ・・。ダラス・ロバーツ出てますから!いいですよ!!
もし映画を観られたら、原作も是非是非オススメしたいです。
私、ものすごくしつこいですが、『この世の果ての家』という小説が大・好きなんです。
私は『ニューワールド』未見なので早く観たいな・・・。
寒いですね、膝が冷える~←オバサン発言
ではでは、また遊びに来て下さい。ありがとうございました。
[2006/11/19 00:33] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さま、こんばんは~。
(TBさせていただこうと思ったら、例の開かずの時間帯だったようで、また改めて挑戦しますね。)
早速見ました、この作品♪
面白かったのですけど、ちょっと腑に落ちない点も多かったので、ぜひ原作を読もうと思いました。エリックという人物がいたのですね。
クレアとジョナサン、もっと描きこんでくれてもよかったのに・・という感じでしたけど、とりあえずコリンは良かったので安心しました。
[2006/11/22 02:08] URL | 武田 #qs0owOX6 [ 編集 ]
武田さま、こんにちは。コメントありがとうございます。
わ~い、早速ご覧になったのですね♪
原作を未読の方は、この作品どう感じるのだろう・・と思っていたんです。
やはり、よくわからないところありますよね。
そうなんです、エリックっていう人物が、終盤の展開のカギになるんですよ。
原作は本当に素晴らしいと思いますので、是非オススメです。
では、早速お伺いします。TBできるといいのですが。ありがとうございました。
[2006/11/22 12:48] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
うう、もうなんかわたしが云いたかったことをすべて書いてくれたような気がします(自分ではうまく文章にできなかった分なおさら)。
そうなんです。カニンガム自身が脚本を書いたのでないならまだ納得できたのに…。
どうしてもエリックの不在とラストシーン変更が受け入れられず。
『めぐりあう時間たち』はほんと凄い良いできばえだったのに。まあわたしはこっちの原作は未読なのですが。

イノセント・ラブって邦題は噴飯ものですよね!
センスなさすぎです(泣)。
[2007/01/15 23:07] URL | リュカ #- [ 編集 ]
リュカさま、こちらにもコメントとTBをありがとうございます。
映画自体はそれほど酷い出来、というわけではないと思うのですが、どうしても原作と『めぐりあう~』と比較してしまったらもうダメ!って方向になりますよね。
それに邦題が許せない(怒)
私は『この世の果ての家』命なんです。素晴らしい小説ですよね、知名度は低いけど。
『めぐりあう~』、あれは凄いです、ホント原作通りですよ。でも私は翻訳文がちょっと・・でした。
また遊びにいらして下さいね。私もお伺いします。ではでは。
[2007/01/16 04:45] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、おひさしぶりです。
先日は「イノセント・ラブ」記事にコメントをありがとうございました。TBの件は申し訳ありません、記事に真紅さんの原作への記事を追加で紹介させていただきました、URLを貼っておきますね。

私は先に映画を見たので違和感はなかったのですが。脚本もカニンガムでよかったと思います。
[2007/02/26 11:24] URL | びあんこ #w4Ib0zSU [ 編集 ]
びあんこさま、お久しぶりです!わ~、コメント!ありがとうございます♪
いえいえこちらこそご紹介ありがとうございます。お手数かけました。
そうですよね、「観てから読む」ほうが絶対いいですよね。
原作、本当に素晴らしいですよ、是非是非読んで下さいませ!
ではでは、またお伺いしますね。
[2007/02/26 14:58] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こちらにもお邪魔します。
わたし、何も知らずに観たのですけど、
真紅さんがそんなにお好きな小説の映画化だったんですね。
わたしは、ジョナサンの母の立場で観ていたかしら…
小説が原作なんだろうなと思いつつ、
何も過不足を感じることもなく、余韻の残るいい作品だと思って観ました。
知らないことがかえって幸いしたのかもしれませんね。
[2007/08/31 20:18] URL | 悠雅 #- [ 編集 ]
悠雅さま、こちらにもコメント&TBありがとうございます。
(『Dear フランキー』には反映されないのですね、残念です)
そうなんです、この映画の原作は私の人生ベスト10に入れたいくらい好きな小説なんです。
とても美しい文章の素晴らしい小説なのですよ。
映画は絶対「観てから読む」ほうがいいですね。。自分なりに小説世界を映像化してしまいがちですから。
映画としてもよくできていると思いました。未公開が残念です。
ではでは~。
[2007/09/01 06:53] URL | 真紅>悠雅様 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こちらにも。
実は少し前に観たのですがなかなか感想が
書けずにいました。真紅さんの感想拝見して
背景が色々わかった気がします。
どうも映画だけでは、わかりづらいところ
もあって・・。ボビー役がコリンになってから
雰囲気が変わったというのも私も気になっていました。↑そういう理解なのね・・。
原作読んでもう少し勉強したいわ・・。
[2007/09/25 13:18] URL | みみこ #mQop/nM. [ 編集 ]
みみこさま、こんにちは。こちらにもコメント&TBをありがとうございます。
ご覧になったのですね。感想を読ませていただくのが楽しみです~。
私は原作が先でしたので色々と思うところもありました。
もう少し尺を伸ばしてでも、原作の内容を盛り込んで欲しかったとも思います。
原作は、本当に素晴らしい小説です。間違いなくオススメですよ!
是非読んでみて下さいませ~。
ではでは、後ほどお伺いしますね。
[2007/09/25 13:54] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
なんだか必死に書いたわりに、なんだか的外れなレビューになってしまったようですが、TBを送りましたので、よろしくおねがいします。

私は、ジョナサンとクレアとの三角関係より、なんか人生の深遠さを感じさせる部分が、この映画では印象的だったので、そんな感じに書きました。

素直なキモチで書いて、と励ましてくださってありがとうございました(〃⌒-⌒〃)

[2007/10/01 04:24] URL | ゆきちママ #Qgbz5rXI [ 編集 ]
ゆきちママさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
「人生の深遠さ」ですか~。。それは的外れどころか、この作品の本質を捉えているのでは?
後ほど楽しみにお伺いしますね。
そうそう、素直に書けばいいよね。配慮は必要だけど、取り繕ったって無意味ですよね。
自分の書きたいこと、思ったことを書けばいいと思います。
ではでは~。
[2007/10/01 05:00] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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