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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

人生の最期に愛があれば~『アイリス』

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 イギリスの女性作家アイリス・マードック大英帝国勲章を授与され、デイムの
称号を得た偉大な作家であり、哲学者でもあり、「イギリスで最も素晴らしい女性」と
称えられていた彼女は、アルツハイマーに侵されその人生を閉じた。同じく作家で
ある夫のジョン・ベイリー回想録を元に、夫婦の永遠の愛と人間の尊厳を描き出
した物語。
 若き日のアイリスをケイト・ウィンスレット、晩年をアイリスと同じくデイムの
称号
を持つ大女優ジュディ・デンチが演じている。夫のジョンは若き日をヒュー・
ボネヴィル
、晩年はジム・ブロードベントが演じ、アカデミー助演男優賞を受賞した。
 水中を泳ぐ二組の男女、幻想的なオープニングにかぶるクレジットにアンソニー
・ミンゲラ、シドニー・ポラック
の名前を見つけて驚く(二人は製作総指揮を務めて
いる)。監督はリチャード・アール

★以下ネタバレします★

 この作品、何の予備知識もなく、NHKBS-2で放映されたものを観たのだが、地味
ながら心に残る作品
だった。一時間半ほどの尺が、私には珍しく「短い」と感じられ
たのだ。
 アイリスとジョン、二人の若き日々と晩年が交互に描写される、その繋ぎと対比
絶妙。輝くばかりの若かった日々、傷つきながらも一途にアイリスを愛そうとする
ジョン自由奔放に生きながらもジョンの朴訥な誠実さに惹かれていくアイリス
二人で生き、老いてもなおアイリスへの愛と尊敬の眼差しに溢れたジョン、作家とし
て、学者として称えられ、旺盛に活躍するアイリス。そんな二人にアルツハイマー
いう病魔が忍び寄る。

 主演の4人がそれぞれ、本当に素晴らしい演技を見せてくれる。ケイト・ウィンスレ
ット
は、今作のような自由奔放で気高く強い女性に見事にハマる。全裸で泳いでも、
複数の男女と寝る役柄でも、品の良さと知性を感じさせる演技はさすが。ジュディ・
デンチ
も、知性と自信に溢れたアイリスが徐々に病に冒されて無表情になっていく様
を自然に、誰もが納得するであろう渾身の演技で見せてくれる。
A Lark in the Clear Air』を唄う、二人の澄んだ歌声はいつまでも耳に
残るだろう。
 ジョンを演じたヒュー・ボネヴィルジム・ブロードベント、この二人は容貌も似
ており、少し吃音が出るしゃべり方もそっくりで違和感が全く無い。若き日々、魅力
と才気に溢れ、自由に生きるアイリスを愛し、彼女の全てを引き受けようとするジョン。
時々疼く痛みを抱えながら、終生アイリスを見守り愛し抜く彼の寛容さ魂の深さ
打たれる。晩年まで、アイリスが作家として数々の作品を書き得たのも、結局はジョン
との愛の交歓がその源であったのだと思う。記憶を失いつつあるアイリスに、オース
ティン
の『高慢と偏見』をジョンが読み聞かせる場面は感動的だ(マーク・ダーシィ
と聞こえて一瞬『ブリジット・ジョーンズ』が頭を掠める。ジム・ブロードベントは
ブリジットのパパでもあるから)。

 イマジネーションを言葉に託し、自由と幸福を追い求めたアイリス。彼女が自らの
分身でもある「言葉と思考」を失う病に冒されているという事実は、死刑宣告に等し
残酷さだ。徘徊し、失禁し、人間としての尊厳をも失っていくアイリス。それでも
ジョンは葛藤しながらも彼女を受け止め、赦し、献身的に支え続ける
 人間同士が愛し合ったとき、その愛は周囲の動物や植物や、さえも慈しむと語っ
たアイリスの言葉。彼女が人生を閉じたとき、ベッドから滑り落ちた石が水の中に還
る。命は終っても、アイリスが追い求めた愛と自由の精神は果てることなく受け継が
れるだろう


 老いは他人事でなく、誰の身にもやがて訪れる。人生の最期をどう生かされ、誰と
何処で迎えるのか。私は受け継がれるべき愛を残せるのだろうか。しばし考え込んで
しまった。

(『アイリス』監督:リチャード・アール/主演:ジュディ・デンチ、
 ジム・ブロードベント、ケイト・ウィンスレット、 ヒュー・ボネヴィル
/2001・英)
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テーマ : 心に残る映画
ジャンル : 映画

2006-11-11 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 12 : トラックバック : 5
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アイリス☆幾千の言葉を失って、私たちはやっと愛に辿り着いた。
NHK-BS2で観ました♪
2006-11-12 19:07 : ☆お気楽♪電影生活☆
アイリス
お友達がこの作品を観るということで感想をこちらにもってきました。テレビ放映・・先日あったのですね。私はBSは観ることができないけれど、これはビデオ持っているから・・いいわ・・♪ アイリス   
2006-11-12 19:54 : ちょっとお話
アイリス
『IRIS』2001年イギリス人間は愛し合う。愛すると慈しむ。
2006-11-14 18:45 : 終日暖気
アイリス
病が彼女を変えても、愛おしさは変わらない
2007-01-27 08:55 : 悠雅的生活
アイリス
 コチラの「アイリス」は、イギリスを代表する女流作家アイリス・マードック(1919~99)をイギリスを代表する2人の女優ジュディ・デンチとケイト・ウィンスレットが競演したバイオグラフィー映画です。この2人がかのアイリス・マードック女史の若かりし頃と、アルツハイ...
2010-01-26 21:10 : ☆彡映画鑑賞日記☆彡
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非公開コメント

真紅さま♪
TBありがとうございました。
愛されて人生を終わりにできるのが、
一番幸せですね。
わたしもそう終わりの時を迎えられるよう、
いろんな人や物を愛して生きたいです。
2006-11-12 19:14 : ひらで~ URL : 編集
こんばんは。主演の4人は適役
でしたね。ジュディ・デンチとジム・ブロード
ベントは今まで私が観てきたどの役柄とも
違っていたので、驚きの部分も
多かったです。どんな状況下でもお互いを
思いやることができる・・そんな夫婦像が
やっぱり理想ですね。いい作品でしたね。
P.S  真紅さんのブログをリンクさせて
いただきたいのですがよろしいでしょうか。
2006-11-12 19:52 : みみこ URL : 編集
真紅さま、こんばんは~♪
まだTVがあかなくて見られないままなのですけど・・ああ、最初の数行だけ読ませていただきました。それだけを言いにきてごめんなさい。
2006-11-12 20:37 : 武田 URL : 編集
ひらで~さま、みみこさま、武田さま、こんにちは。コメントありがとうございます。コメントレスをまとめさせて下さい。

☆ひらで~さま
TBもありがとうございました。
否応なしに自分の人生についても考えさせられる作品ですね。
私ももちろん、愛されて人生を終わりたいです。
でも私はすごく、身勝手な人間なので、そのためには課題が多いような気がします。
もっと成長しなければならないな~と思いました。
こんな私ですが、またお話して下さいね。ありがとうございました。

☆みみこさま
TBをありがとうございます。こちらからも成功したようで、よかったです!
近頃は熟年離婚される方も多いようですが、この二人のように葛藤しながらも添い遂げるのが理想ですよね・・。
お互いを尊重する気持ちが大事ですよね。
残酷な現実も描きつつ、人間の尊厳を描くいい作品でした。
リンク、本当ですか~!うれしいです、ありがとうございます!
私、つい最近までリンクの意味がわからなくて(恥)
自分もそろそろ整理しないといけないな~と思っていたところです。
その時はまた改めてお願いに参りますね。今後ともよろしくお願いします。
ありがとうございました。

☆武田さま
いやいや何でもコメントありがとうございます。
「今日の晩御飯、カレーでした」とかでも歓迎ですから(笑)
まもなくご覧になれそうですか? 『きみ読む』の後にピッタリかも・・。
ケイト・ウィンスレットがますます大好きになりました。
武田さまの感想も、楽しみにしておりますよ♪
ではでは、また伺いますね。ありがとうございました。
2006-11-12 23:16 : 真紅 URL : 編集
真紅さま、こんばんは~♪
TBとコメントいただき、ありがとうございました。
この映画、とてもよかったですねぇ(最近泣いてばかりで目が腫れますワ)
「アクターズ・スタジオ」のケイトのインタビューについていろいろと教えてくださって、ありがとうございました。
「きみに読む物語」も「アイリス」も、どちらも美しい、いい映画ですね。
あ、「ウェディング・シンガー」にも心惹かれます(笑)私には、あのアダムがめちゃくちゃ男前に見えます~。好き好き~♪
2006-11-14 18:52 : 武田 URL : 編集
武田さま、こんにちは。再びのコメントとTBをありがとうございます。
TB、こちらからも再トライしましたら受け付けてくれました♪
『きみ読む』では若い二人のほうに感情移入していたのですが、この作品ではどちらかと言えば晩年の二人のほうが印象的でした。
『きみ読む』も原作込みで大好きなんで、再見して記事にしようかな、などと・・。
アダム・サンドラー、好青年でしたね~。同じコンビの『50回目のファースト・キス』は更によい、と聞いたので、観たくて・・。
そうなったらもうプチ・ドリュー祭りですわ(笑)
また遊びに来て下さいね。ありがとうございました~。
2006-11-14 22:27 : 真紅 URL : 編集
老いは誰にでも訪れるものですね・・・
私もアイリスのように!とまでは言わないけれど、愛し愛されおいていけたらと思います!

愛はどちらかが重くてもダメ、いつも同じくらいがいいなと思っているDでございます♪
2006-11-17 15:04 : D URL : 編集
Dさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
愛の無い人生は悲しいですよね・・。
でもDさまは大丈夫ですよ!いつもエントリに愛が溢れていて、羨ましい限りです♪
そうですね、同じくらい思い合えたらずっと側にいられそう・・。
「少し愛して、長く愛して」というコマーシャルを思い出してしまいました(あんまり関係無い?)
Dさまのお宅にもまたお邪魔しますね!ありがとうございました。
2006-11-17 16:36 : 真紅 URL : 編集
遅くなりました
真紅さん、こんにちは。
お邪魔するのが遅くなってごめんなさい。
やっと何度目かの再見で感想をUPできました。

先日、50歳の誕生日を迎え、
最近とみに記憶力に自信がなくなった夫と一緒に観たのですが、
偶然だったとは言え、大正解でした。
口でいくら説明してもわかり難いところ、
あのディムの素晴らしい演技のおかげで、
容易に自分をジョンに置き換えたのか、またはその逆か、
お互いに、手を握り合わんばかりに、
気持ちが近くなった気がしました。
大昔、情熱のあった時代とは全く違う、
「頼むから、元気で仲良く暮らそうね。
 なるべく、子どもに迷惑かけないで、助け合って行こうね」
という気持ちですが(笑)

若い時に観たら違う感想かもしれないですが、
『きみに読む物語』といいこれといい、
妙に切実で現実的な内容に、
確かな不安を感じる今日この頃なのでした。
2007-01-27 09:15 : 悠雅 URL : 編集
悠雅さま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
最近では『明日の記憶』など、認知症の問題を真摯に描いた作品が気になりますね。
映画で旦那さまとの絆が深まるって素晴らしいですね。
熟年離婚とか、再婚率が上がっているとか、生き方も様々になってきてますけれども、やはり「共白髪まで」が理想ですよね。。
人生のパートナーですから、熱はなくとも情は絶対、必要ですから。。
確かに、若いときに観たら他人事、そもそも観ようともしなかったかもしれません。
『きみ読む』も大好きですわ。。原作もオススメですよ。
ではでは、またお伺いしますね。来週は私も必ず王妃に会いたいと思っていますので!
2007-01-27 15:57 : 真紅 URL : 編集
そうですね。何をもって生きているとするかは
色んな考え方があるとは思うのですが、
やはり考えることを失うのは一番怖いかなぁ。
頭のいい彼らには余計につらいことなのかなと
思いますし、感じることは出来てもそれを
表現しなくなったら愛する人ならなおさら辛いのでしょうね。
2010-01-26 21:12 : miyu URL : 編集
miyuさん、こちらにもありがとう。
自分が自分でなくなっていく感覚・・・。
才能に恵まれていたアイリスには、恐怖だったと思います。
でも、彼には終生愛してくれた夫がいたんだよね~。
夫婦愛ってすごいと思いますよ。
愛があるからこそ辛いとも言えるんだけど、それでも愛って素晴らしい。
そんな映画でしたね。
2010-01-26 22:53 : 真紅 URL : 編集
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