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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

あの頃は・・~『地下鉄(メトロ)に乗って』

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 直木賞作家浅田次郎同名小説を映画化した本作。平凡な営業マン長谷部真次
堤真一)はある日、死んだ兄に似た面影の少年に惹かれて地下鉄の階段を上がる。
そこは東京オリンピックを間近に控え、高揚した昭和39年の東京だった・・。タイム
スリップ
を題材にし、過去に向かい合った主人公が父との軋轢兄の死を乗り越え、
未来に向かって生きていく物語。

 原作小説は、かなり以前に読んでいた。シニカルな友人(男)が「泣いた」と言った
のが意外で読んでみたのだが、私も落涙した記憶がある。しかし、東京の地下鉄を
舞台にするタイムスリップ作劇
、という以外、ストーリーの細かい部分は忘れてし
まっていた。映画は親と子、特に父と息子の間にある溝その底に確かに存在するは
ずなのに掴めない愛情
と、人が生まれて生きていくことの不思議その尊さを描いた
作品となっていた。

 自分が子どもだった頃の親の年齢になって初めて、あの頃の親の気持ちがわかる
気がする。自分が生まれたときから親は親だけれど、親になる前の父母の人生
確実に存在していたはずで、例え「ワケあり」なんかじゃない、傍から観れば平凡
な人生でも、人はひとりひとり、その来た道にドラマがある。純粋な一人の青年が
戦争を経て傷つき、戦後の混乱を生き抜くためにどれほどの犠牲を払ったか。物語
として観ている間は誰にも感情移入できなかったけれど、自分と親の人生として引
き受けたとき
初めて涙がこぼれ、ラストまで止まることはなかった。

 キャストはそれぞれはまり役で、素晴らしかったと思う。真次の父である小沼佐吉
を演じた大沢たかおは、「カッコイイけど大根」(失礼!)という思い込みがあったの
だが、3人の息子の父として、愛人と家庭の間を揺れる男として、自分の運を信じて
成り上がろうとする鬼気迫る演技
が素晴らしかった。また、映画の最初と最後に登場
する老教師役の田中泯天使のようにも闇からの使者のようにも取れるその表情は、
ブックエンドの役割を果たすに十分な存在感だ。
 そして私は堤さんファンなので甘いかもしれないけれど、彼の演技はいつだって
安心して観られる。自分を「舞台人」だと言う堤さんだけれど、彼の立ち姿の美しさ
は映画のスクリーンで、たとえ冴えない中年男を演じていても輝いている。ヒロイン
みち子を演じた岡本綾も、憂い顔の内に愛しさと悲しみを秘め、抑えた演技が光って
いたと思う。
 そう、十分いい映画だとは思うのだけれど、それでも納得行かない部分もあった。

★以下重要ネタバレします、ご注意下さい!★

 一つは、時代設定の問題。真次とみち子がトリップする時代はわかるのだが、彼ら
が生きる現代が、いつ頃の年代設定なのかはっきりしないのだ
 昭和39年、事故死した昭一は大学受験を控えていたわけだから17歳くらい、弟真次
15歳くらいか。その頃みち子はお時のお腹にいたわけだから昭和40年生まれ、と
すると平成18年の現在では41歳になっている。劇中では田中泯の「この平成の世に」と
いうセリフがあるから時代設定が平成であることは間違いないが、みち子の容貌から
して25歳としても平成2年頃ということになる。その時真次は41歳、これで時制の辻褄
は合う
が、小道具の設定がいただけない
 映画冒頭、真次が携帯電話の留守電を聴く場面がある。その携帯のコンパクトさは、
どう見ても平成2年頃のものではない。この場面があることで、観るものは時制に混乱
を来たしてしまうと思う
(私も泣きながら彼らの歳を計算していた)。

 もう一つは、真次とみち子が異母兄妹だと知ったときの真次の反応。常識的に考え
れば、不倫相手が妹だった、というのはかなりショッキングな事実ではないだろうか?
しかしそれを知っても、真次はさほどショックな素振りは見せない(ように私は感じた)。
これはどういう演出意図なのか、監督に聞いてみたいと思ったほど、違和感が残った

 しかしこれらの疑問点を差し引いても、十分鑑賞に値する作品だと思う。エンドロ
ールとともに流れる主題歌、Salyuの『プラットホーム』がまた素晴らしい余韻を残す。
音楽は小林武史、彼の音楽世界はやはり、掴みどころを心得ています

  あの頃は 夢の向こうに見えて
  音の隙間を流れていく
  そっと そっと 追いかける

  空の果て 世界の向こう側
  そんな場所で 出会えるときが
  きっと きっと やってくる

  あの時 あたしが選んだ道の端は
  途切れて 見えなくなってしまっても

  あなたを呼ぶそのために
  歌い続ければ
  隔てられた世界にも

  二人のプラットホームは
  きっと現れる
  そこでまた出会ってる


(『地下鉄(メトロ)に乗って』監督:篠原哲雄/
       主演:堤真一、岡本綾、常盤貴子、大沢たかお/2006・日本)
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テーマ : 地下鉄(メトロ)に乗って
ジャンル : 映画

2006-11-09 : 映画 : コメント : 6 : トラックバック : 7
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真紅さん、こんばんは。
大好きな小説だけに、映画化されて過剰な演出でもされたら嫌だ、と思っていたけれど、
意に反して、これを観た多くの方の、ストーリーそのものへの批判と反発の激しさに、
相当に凹んでしまったわたしでした。
いい小説なんだけれどなぁ・・・

だけど、やはり「現代」の描き方をあんな風にしたばっかりに、
いい評価の方でも疑問が残ることになってしまって、
それがとても残念でした。もっと曖昧に描くこともできたのにね。

いろいろと納得できないところがあっても、
それでもやっぱり堤さんは素敵だ!と、いい気分で終わりましょうか。
2006-11-09 20:36 : 悠雅 URL : 編集
悠雅さま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
ストーリーそのものへの反発の激しさ・・、そうなんですか。。私もショックです。
タイムトラベルっていう仕掛けが気に入らないのでしょうか?
でも、身体は時空を超えていなくても、心はいくらでも超えられますよね。
いい小説だと私も思いましたよ!読んだのはかなり前ですが・・。
堤さんの映画、ここ数年は劇場で観ることができていてうれしいです。
来年もG.W.あたりにクドカン脚本の映画にご出演だそうで、楽しみです!
ではでは、また遊びにいらして下さいね。ありがとうございました。
2006-11-09 23:49 : 真紅 URL : 編集
こんにちは♪
TB&コメントありがとうございました。
確かに年齢設定があやふやで
昭和39年という年だけがはっきりしていただけに、
残念だったなぁと思いました。
でも、別にいいやぁ~とも思いながら観ていたのも確かで(笑)
堤さんが映画で観れたらそれで満足でした♪
原作、未読なので近いうちに読んでみたいと
思っています。
2006-11-10 16:37 : ひらで~ URL : 編集
ひらで~さま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
そうですね、もう少し、現在が何年で・・というのをわかりやすく描いてくれていたらな、と思いますね。
でも堤さん、よかったですよね、それも同感です(笑)
原作、私もかなり前に読んだので、もう一度読みたいと思っています。
文庫を購入したはずなのですが、見つからないんですよ、それくらい昔です。
主題歌もよかったですよね、CD欲しいくらいです。
では、また遊びにいらして下さいね。ありがとうございました。
2006-11-10 19:42 : 真紅 URL : 編集
真紅さんコメントありがとう
タイムスリップを利用した父と息子の物語と解釈しています。原作を読んでいたにもかかわらず、僕も大泣きでしたよ。
またよろしくね。
2006-11-12 00:10 : ケント URL : 編集
ケントさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございました。
大泣きされたのですね~、よかった(笑)
この作品、辛口に評価される方が多いようですね。
私は甘口、大甘かもしれません。
また遊びにいらして下さいね、ありがとうございました。
2006-11-12 00:17 : 真紅 URL : 編集
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