Keep on Dancin'~『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』

「はじめから認めておこう。私は村上春樹ファンだ」
こんな一文から始まる、元ハーバード大学日本文学教授にして、村上春樹作品の
英訳者でもあるジェイ・ルービンによる村上春樹論。と言っても小難しい話は一切
なく、「本当に元ハーバードの先生が書いたの?」と思ってしまうほどわかり易く、読み
易い本。言い換えるとすれば「究極のハルキ・ムラカミおたくが語り倒した、村上春樹
全作品!」という感じだろうか。
冒頭の一文を読んでもわかる通り、著者の「村上春樹愛」に溢れた作品である。日本
でも、これほど愛情を持って語られる村上春樹論にはそうお目にかかれないのでは
ないかと思う。本当に、村上春樹が好きでたまらないという著者の気持ちが伝わっ
てくるのだ。(私もそうだから、その気持ちがとってもわかるんです)
先日のノーベル賞騒ぎ、フランツ・カフカ賞受賞のニュースは映像でも流れたし、
朝日新聞は数日間特集記事を掲載していた。村上春樹に興味が無い人でも、彼の作品が
世界的に評価され、各国に受け入れられていることは認識されつつあると思う。
村上作品を評してジェイ・ルービンはこう言う、
「文学はもう死んでいる、と言われるが、果たしてそうだろうか。もしそうだとすれ
ば、誰かがその葬儀に村上春樹をよび忘れてしまったのだろう」
「たしかに村上の長編小説は、独特の、心に変化をもたらすような旅を続け、読者を
引き込む」
「国籍も、超自然現象をどれだけ信じるかということも関係なく、事実上あらゆる人
が共有している、人生の一瞬一瞬の「意義」という感覚を彼は捉えることができるのだ」
私が村上春樹の作品の中で一番読み返したのは『ねじまき鳥クロニクル』か『ノルウェイ
の森』だと思う。しかし一番好きな作品、となると『羊をめぐる冒険』かもしれない。
面白くてどうしようもなくて早く読みたいんだけど、終わりのページがくるのは嫌で、
残りのページ数を確認しながら読み進む、優れた長編小説を読むときに必ず囚われる
この「逆説的な魔力」に初めてはまった本だった。その日から今日まで約20年間、村上春樹
の作品はずっとその魔力を失わない。昨年一年間で読んだ本の中で、ベストはやっぱり
『東京奇譚集』だったし、近年の世界的評価の高まりを見聞きするにつけ、この地球の
いろんな国で、自分と同じ気持ちで村上作品を読んでいる人がたくさんいるのだと思う
と不思議に温かい気持ちにもなる。(ちなみにジェイ・ルービンの一番のお気に入りは
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』のようだ)
この本は元々海外の、日本語が読めない村上春樹作品の愛読者のために書かれている
から、村上の生い立ちや作品の年代順の展開、村上の翻訳作品についての情報が網羅さ
れている。(私のような)古くからの読者にとってはおなじみの情報でもあり、日本語が
読める、新しい読者にとっても格好の読書案内にもなり得るだろう。もちろん、村上春樹
(と陽子夫人)個人と親しい著者ならではの情報も盛り込まれているから、春樹ファンなら
誰でも受け入れられると思う。
読み進みながら、今まで読み込んできた村上作品を追体験している気分になった。
同時代に、この稀有なる作家のオリジナルを読める幸せを、改めて噛み締めている。村上
春樹の言葉の音楽で踊り続けたい、これからもずっと、ずっと。
ジェイ・ルービンに感謝。
(『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』ジェイ・ルービン著/畔柳和代・訳/新潮社・2006
"Haruki Murakami and the Music of Words" by Jay Rubin /2002・USA)
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- 春樹をめぐる冒険~『A Wild Haruki Chase 世界は村上春樹をどう読むか』 (2006/11/23)
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- 廻る命の環~『星々の生まれるところ』 (2006/11/01)
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突然お邪魔します。
今回はじめて拝見させていただきました。
これからもちょくちょくお邪魔します。
それでは。応援ポチ^^
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あいさま、拙ブログへようこそ。
これからもよろしければお立ち寄り下さいませね、ありがとうございました。
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真紅さん★「村上春樹さんが近々フィッツジェラルドの「グレート・ギャッツビー」の新訳を出す、という記事が週刊誌に出ていました(11月10日に中央公論社から発売だとか)。既に新潮文庫から翻訳本がでていますが、この「グレート・ギャッツビー」の有名な冒頭部分(おまえが人を批判したくなった場合には、まず、この世の人がみんなお前と同じように恵まれているわけではないのだということを思い出してみるように、という文章)を、村上さんがどのように訳されるのか、とても楽しみです。
「読書の秋」と言いますが、この秋はまだ1冊しか小説を読んでいなくて、今年はもっぱら「真紅さんの見事な映画評&書評」を“読書”する秋です。そしてこれは私の心を充分に満たしてくれる“読書の秋”なのです。毎回ありがとうございます~★
「読書の秋」と言いますが、この秋はまだ1冊しか小説を読んでいなくて、今年はもっぱら「真紅さんの見事な映画評&書評」を“読書”する秋です。そしてこれは私の心を充分に満たしてくれる“読書の秋”なのです。毎回ありがとうございます~★
2006-11-08 23:05 :
メグ URL :
編集
メグさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうなんですよ、村上氏が翻訳本を出す、というのは以前ホームページで予告されて、楽しみにしているんですよ。
特にレイモンド・チャンドラーは未読なので、絶対読もうと意気込んでいます。
ギャッツビーも読んだのはかなり前なので、今読んだらどう印象が変わっているか楽しみです。
「映画評&書評」、アハハ、評というより感想なんですけど、拙文を読んでいただいてコメントまでいただき感謝しています。
またお話しましょうね。いつもありがとうございます。ではでは。。
そうなんですよ、村上氏が翻訳本を出す、というのは以前ホームページで予告されて、楽しみにしているんですよ。
特にレイモンド・チャンドラーは未読なので、絶対読もうと意気込んでいます。
ギャッツビーも読んだのはかなり前なので、今読んだらどう印象が変わっているか楽しみです。
「映画評&書評」、アハハ、評というより感想なんですけど、拙文を読んでいただいてコメントまでいただき感謝しています。
またお話しましょうね。いつもありがとうございます。ではでは。。
こんな本が出ていたとは!
今から図書館に行ってリクエストしてきます^^
(図書館にはまだはいっていなかった…買っていただきます)
わたしはチャンドラー『ロング・グッバイ』の翻訳本が楽しみ☆
カフカ賞授賞式の写真に陽子夫人が写っているものがありました。
やっぱり独特の雰囲気を持った方ですね。
今から図書館に行ってリクエストしてきます^^
(図書館にはまだはいっていなかった…買っていただきます)
わたしはチャンドラー『ロング・グッバイ』の翻訳本が楽しみ☆
カフカ賞授賞式の写真に陽子夫人が写っているものがありました。
やっぱり独特の雰囲気を持った方ですね。
miyucoさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
リクエストできましたでしょうか? 楽しみですね♪
今、手元にあと2冊、村上春樹論があります。
面白かったらまた記事にしますね。
3月にあったシンポジウムに行きそびれたので、今せっせと本で追いかけてるところです。
またこちらからも伺いますね。ありがとうございました。
リクエストできましたでしょうか? 楽しみですね♪
今、手元にあと2冊、村上春樹論があります。
面白かったらまた記事にしますね。
3月にあったシンポジウムに行きそびれたので、今せっせと本で追いかけてるところです。
またこちらからも伺いますね。ありがとうございました。