死にゆく者への祈り~『BIUTIFUL/ビューティフル』

BIUTIFUL
サグラダ・ファミリアを遥かに望む、スペイン・バルセロナの貧民街。幼い二人
の子どもを抱え、裏社会に生きる男ウスバル(ハビエル・バルデム)。彼は末期
癌に侵され、余命2ヶ月と宣告される。
主演のハビエル・バルデムがカンヌ映画祭男優賞を受賞したヒューマンドラマ。
監督のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥにしては正攻法な語り口ではある
が、彼自身のパーソナルな感情(思い入れ)がじわじわと伝わってくる作品。
ささやくようなウスバルの語りで始まる物語は、148分の長尺を感じさせない、
強い磁力を帯びていた。陰影のくっきりと際立つ映像は、名手ロドリゴ・プリエト
によるもの。
確かに「重く」 「暗い」、死に縁取られた物語ではあるが、決してそれだけで
はない。観ている間中、そして観終わってしばらく、終わりなく考えを巡らせて
しまう。生と死、父と息子、親子の絆、それぞれの人間にふさわしい居場所に
ついて。

ウスバルは、死者の「声」を聴くという特殊な能力を持っている。彼は度々葬儀
を訪れる。人生半ばで倒れた者の言葉を、遺された者に伝えるために。彼が見
送った死者たちは、蝶となってウスバルの部屋の天井に留まる。
見送る側だった者が、いつかは死にゆく者となる必然。しかし、それは幼い子
どもと双極性障害を抱える元妻を養うウスバルにとって、あまりにも突然で残酷
な宣告だった。子どもを遺しては死ねない、死にたくない。。金の為に、彼は危険
な仕事に手を染める。中国やアフリカからの不法滞在者を、肉体労働に従事さ
せて上前を撥ねるのだ。そしてそれは、取り返しのつかない更なる不幸を呼ぶ・・・。

「死」が人間にとっての必然であるならば、「何故」 人は生まれるのか、生き
なければならないのかと、問わずにはいられない。故国を追われ、希望を求め
て異国に渡っても、志半ばで倒れてしまう弱者たち。裏社会で生きるしかない
彼らは、同じ国で「富裕層」と呼ばれる人々と、どこがどう違うというのか。それ
でも人は、この世界を、人生を「美しい/ビューティフル」と思うべきなのだろうか。
父親を知らずに育ったウスバルが、自らも子どもたちの前から去らざるを得な
い無念。「死なないで」 「死にたくない」 娘に指輪を託し、ウスバルは天国の「父」
と出逢う。若いままの父は、ウスバルの幼い息子と同じ言葉を語る。父と子の絆
は、確かに存在している。姿は見えなくとも、命は確かに受け継がれているのだ。
スペインの名優、ハビエル・バルデムを、初めてハンサムだと思った。彼なしで
は、恐らく成り立たなかったであろう作品。個人的には、今年のベスト作の一本に
挙げたい。

( 『BIUTIFUL/ビューティフル』
監督・製作・原案・共同脚本:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ/
主演:ハビエル・バルデム/2010・メキシコ、スペイン)
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『バベル』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督がハビエル・バルデムを主演に迎え、闇社会に生きる男が自身の余命を知ったことから愛する子どもたちのために懸命に生き ...
2011-07-15 21:55 :
カノンな日々
この世に居場所のない男の帰る場所
公式サイト。原題:BIUTIFUL。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、ハビエル・バルデム、マリセル・アルバレス、エドゥアルド・フェルナ ...
2011-07-15 22:04 :
佐藤秀の徒然幻視録
おやじが主人公の映画2本まとめて。
まず、結論から
2011-07-15 22:05 :
あーうぃ だにぇっと
2010年:スペイン+メキシコ合作映画、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、ハビエル・バルデム、マリセル・アルバレス、 エドゥアルド・フェルナンデス、ディアリァトゥ・ダフ、チェン・ツァイシェン出演。
2011-07-15 22:22 :
~青いそよ風が吹く街角~
「Biutiful」 2010 メキシコ/スペイン
ウスバルに「宮廷画家ゴヤは見た/2006」「コレラの時代の愛/2007」「それでも恋するバルセロナ/2008」「食べて、祈って、恋をして/2010」のハビエル・バルデム。
マランブラにマリセル・アルバレス。
アナにハナ・ボウチャ...
2011-07-15 22:32 :
ヨーロッパ映画を観よう!
2011年6月30日(木) 16:00~ TOHOシネマズシャンテ2 料金:0円(シネマイレージカード ポイント利用) パンフレット:未確認 『BIUTIFUL ビューティフル』公式サイト 「21グラム」、「バベル」の監督の人の新作。赤の他人が、どこかで関わりあっていく話が得意な...
2011-07-15 23:44 :
ダイターンクラッシュ!!
『21グラム』、『バベル』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督最新作。バルセロナを舞台に、移民や不法滞在者への仕事のブローカーで稼いでいる男が末期がんに冒される。絶望に打ちひしがれながらも、残された子供たちの為に生き抜こうとする姿を描いている。...
2011-07-16 00:05 :
LOVE Cinemas 調布
1日のことですが、映画「BIUTIFUL ビューティフル」を鑑賞しました。
バルセロナの裏社会で生計を立て 暮らしている男
しかし 余命が少ないと知り・・・
2人の子ども、情緒不安定な妻
霊媒師、闇取り引き
生きるために、子どもたちのために
まだ 死ねないと
必至に...
2011-07-16 03:36 :
笑う学生の生活
ランキングクリックしてね ←please click
チラシのバビ様の顔アップ、目だけでも十分訴えられる説得力とその凄い存在感
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作「BIUTIFUL ビューティフル」は6/25~公開決定
アカデミー賞主演男優賞、英国...
2011-07-16 08:34 :
我想一個人映画美的女人blog
「BIUTIFUL ビューティフル」★★★★
ハビエル・バルデム、マリセル・アルバレス、
エドゥアルド・フェルナンデス、
ディアリァトゥ・ダフ、チェン・ツァイシェン 出演
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督
146分、2011年6月25日,
2010,スペイン、メキシコ,フ
2011-07-16 11:08 :
soramove
生きる事は痛みを伴う。
しかし、それでも人は生きなければならない。
「BIUTIFUL ビューティフル」は、メキシコの鬼才アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督が、スペインの名優ハビエル・バルデムを...
2011-07-16 13:36 :
ノラネコの呑んで観るシネマ
『BIUTIFUL ビューティフル』---BIUTIFUL---2010年(スペイン/メキシコ)監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:ハビエル・バルデム 、マリセル・アルバレス 、エドゥアルド・フェルナンデス、ディアリァトゥ・ダフ 「21グラム」「バベル」...
2011-07-16 15:23 :
こんな映画見ました~
【ネタバレ注意】
「成仏」とは仏教用語である。
カトリック教徒が圧倒的に多いスペインを舞台とした映画を語るのに、あまり適した言葉ではないが、あいにくと日本語には他にこれといった表現がない...
2011-07-17 07:11 :
映画のブログ
原題: BIUTIFUL
監督: アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演: ハビエル・バルデム 、マリセル・アルバレス 、エドゥアルド・フェルナンデス 、ディアリァトゥ・ダフ 、チェン・ツァイシェン
公式サイトはこちら。
こういう感じの作品って予告からす...
2011-07-17 07:38 :
Nice One!! @goo
“絶望”の中にも必ず“光”は存在する。
東宝シネマズ二条にて鑑賞。
「21グラム」「バベル」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督最新作です。今回は群像映画ではなく、一人の男の生きざまに焦点を当てた...
2011-07-17 10:39 :
銅版画制作の日々
我が家は淀川のスーパー堤防の上に建っているマンションの川側の8階。
そういえばこの夏、夕食にお鍋をやった日以外にクーラーは一度も使っていない、寝室もだ。
扇風機だけで平気、昼間だと俺ならさすがに我慢できないかも知れないけど、妻は別にへっちゃらだそうだ、...
2011-07-19 08:59 :
労組書記長社労士のブログ
第63回カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞、アカデミー賞主演男優賞・外国語映画賞ノミネートの、
2010年メキシコ映画です。
日経夕刊「シネマ万華鏡」で黒澤明の「生きる」へのオマージュと紹介されていたので見ることに。
の数・・・いくつだったか、忘れました
...
2011-07-19 23:34 :
映画の話でコーヒーブレイク
かねてより交際のあったスペインの名花ペネロペ・クルスととうとう結婚し、私生活でもノリにノッているハビエル・バルデム。
この映画『BIUTIFUL ビューティフル』は、そんな彼にカンヌ国際映画祭主演男優賞をもたらした作品。
『ノーカントリー』でアカデミー賞助演
2011-07-25 04:12 :
Viva La Vida! <ライターCheese の映画やもろもろ>
『BIUTIFUL ビューティフル』をヒューマントラストシネマ渋谷で見てきました。
(1)映画の主人公ウスバル(ハビエル・バルデム)は、よくもまあこれだけあるものだと見ている方が感心してしまうくらい、たくさんの問題を次から次へと抱え込みながら、それらをなんとか解...
2011-07-31 07:40 :
映画的・絵画的・音楽的
バルセロナの闇社会で生きる男が余命2ヶ月と知らされ、子供たちのために奮起する姿を描く感動の人間ドラマ。監督は、「バベル」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。出演は ...
2011-09-09 20:19 :
パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ
人は、人生最後の日々に何をするのだろう
という謳い文句の映画である。末期がんの宣告をされて余命二ヶ月。こういう男の物語は「生きる」を出すまでもなく幾つも作られた。しかし、予想に反して男は何かを...
2011-09-18 18:04 :
くまさんの再出発日記
11-43.BIUTIFUL ビューティフル■原題:Biutiful■製作年・国:2010年、スペイン・メキシコ■上映時間:148分■鑑賞日:7月10日、TOHOシネマズ・シャンテ■料金:1,600円□監督・脚本・製作:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ□脚本:アルマンド・?...
2011-09-28 22:57 :
kintyre's Diary 新館
BIUTIFUL ビューティフル'10:メキシコ・スペイン◆原題:BIUTIFUL◆監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ「バベル」◆出演:ハビエル・バルデム、マリセル・アルバレス、エドゥア ...
2012-01-13 13:54 :
C'est joli~ここちいい毎日を~
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2010年スペイン=メキシコ映画 監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
ネタバレあり
2012-05-16 11:31 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
コメントの投稿
TBありがとうございます。
非常に力強さを感じさせる作品でした
まさに 死から生きることについて
ハビエル・バルデムの演技は素晴らしかったですね
監督にとっても新境地といった作品だと思います
非常に力強さを感じさせる作品でした
まさに 死から生きることについて
ハビエル・バルデムの演技は素晴らしかったですね
監督にとっても新境地といった作品だと思います
リバーさん、こんにちは! こちらこそコメント&TBありがとうございます。
これまでの監督の作品は、群像劇だったり、時制を複雑にしたものが多かった印象でした。
本作は、オープニングとエンディングが繋がる「ブックエンド」ではありましたが、物凄くストレートな作りで、とっても新鮮に感じました。
それだけ、思い入れがあるのだろうな、、と感じましたです。
ハビ様の演技、、さすがでした。
これまでの監督の作品は、群像劇だったり、時制を複雑にしたものが多かった印象でした。
本作は、オープニングとエンディングが繋がる「ブックエンド」ではありましたが、物凄くストレートな作りで、とっても新鮮に感じました。
それだけ、思い入れがあるのだろうな、、と感じましたです。
ハビ様の演技、、さすがでした。