『山の焚火』

スイスアルプスの人里離れた場所で、ある一家が暮らしている
年老いた両親と姉は聾唖の弟を「坊や」と呼び、愛情深く育てていた
思春期を迎えた弟は度々癇癪を起こし、遂に父の逆鱗に触れ家を出てしまう
スイスの巨匠フレディ・M・ムーラー監督、1985年の作品
ロカルノ国際映画祭で金豹賞(グランプリ)を獲得した本作は、スイス映画アカデミーよりスイス映画史上最高の一作に選定されたのだそう
2020年には監督の作品3作が「マウンテン・トリロジー」特集として35年ぶりに日本でリバイバル公開されている
U-NEXTにて鑑賞(しかしU-NEXTは無双してるよね、もう無しでは生きていけないかも笑)
山登りに興味はないのですが、山の映画や登山家には何故か惹かれます
しかし寡聞にして本作は知らず
きっかけはグラフィックデザイナー・大島依提亜さんのツィート
『LAMB/ラム』 を観て真っ先にこの映画を想起したと(個人的には 『LAMB/ラム』 は特に好きな映画というわけではないのですが)
5月に観た 『帰れない山』 がとても好きで、山の映画をまた観たいと思ったときこのツィートを思い出した
何故か心に引っかかっていたのです
いやぁ、、凄い映画を観ました
こんな作品があったのか、、としばし呆然
スイスアルプスと言えば 『ハイジ』 のおかげで日本人の心のふるさと的な場所ですよね
山肌の緑や雲、湧き水などはアニメそのままの風景です
そこで暮らす一家の、静謐かつ激烈な物語でした
幸い私は核心(ネタバレ)に触れることなく鑑賞できたのですが、あらすじ紹介にもそこははっきりと書いてありますのでなるべくググらずに観ることをお勧めします
※ 以下、やんわりとネタバレ
時代背景は1980年代、しかし一家はテレビも車も所有していない
両親は耳の聞こえない弟を 「下」 の施設にはやらず、山仕事を教えている
教師を目指し一度は 「下」 の学校に通った姉も中退して山に戻り、両親とともに弟の面倒を見ている
自然に抱かれて暮らすということ
描かれていることはタブーですが、何故か 「自然」 に 「そうなるだろうな」 という感覚だった
確かに衝撃ではあるのですが、、、高所には 「下」 の民である自分には計り知れない 「時間(時の流れ)」 や生命の営みがある気がした
人はみな命の炎を燃やし生きているはず
しかし 「下」 にいるとそのことを忘れてしまう
ゆらゆらと揺れる山の焚火を見ながら、姉弟はただ 「自然」 に、シンプルに生きただけなのだろう
息をするように
眠るように
叶わない母の祈り
それでも娘に告げるのは否定の言葉ではない
(自分にはこの母の台詞が一番の衝撃だった)
私に娘がいたら、こんな言葉をかけられるだろうか?
「下」 を最も拒絶していたはずの父の怒りが、「下」 の倫理観に最も近いのもまた皮肉な話
セリフは少なく、余白が多い作品です
悲痛でもあるけれど、どこか神々しくもあり不思議な余韻が残る
観る者に委ねるナラティブは直近で観た 『aftersun/アフターサン』 に近いと感じた(もちろん全く違うストーリーですが)
映画って、いや人間ってほんとうに計り知れない存在ですね
ちっぽけな自分の想像の範疇をはるかに超えていて畏怖さえ覚える
「マウンテン・トリロジー」 の他の作品も観たいと思います
( 『山の焚火』 監督・脚本:フレディ・M・ムーラー/
原題:HOHENFEUER・ALPINE FIRE/1985・スイス)
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第95回アカデミー賞作品賞候補作 好きな順

6月2日公開 『ウーマン・トーキング 私たちの選択』 鑑賞をもって第95回アカデミー賞作品賞候補10作をコンプリート
以下、好きな順です
1.フェイブルマンズ
1.TAR/ター
3.トップガン マーヴェリック
4.イニシェリン島の精霊
5.ウーマン・トーキング 私たちの選択
6.西部戦線異状なし(劇場未公開・Netflix)
7.エルヴィス
8.逆転のトライアングル
9.エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
10.アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
1位が決められませんでした(汗)
3位と4位もほぼ差はないです
6位はNetflix 鑑賞だったので、劇場で観ることができていたら順位は入れ替わっていたかも?しれません
7位以下は個人的にはハマれなかった作品
9位は超期待していたのですが寝てしまった、、、無念
作品賞はじめ総なめ状態でしたが、主演女優賞は 『TAR/ター』 のケイト・ブランシェットが獲るべきだったと思います(ケイト様はミシェル・ヨーに獲らせるためにオスカーキャンペーンをしなかった、みたいな話も聞きましたけど)
10位は世界中で大ヒットして5部作になるそうですが、、
今後はもう観ないかな
パフォーマンス・キャプチャーの映像ってあまり好みではないです
今回HFRが売りでしたけど通常版で観たからなぁ
でもまた続編が公開されたら映画館に走ってるかも(笑)