舞台挨拶付き上映~『裸足で鳴らしてみせろ』 #3


(承前)
昨年観逃して一番残念だった本作を映画館で鑑賞することができました!
しかも場所は京都みなみ会館、ずっと憧れていた映画館です
大好きな 『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』 にも登場する 「みなみ会館」 ですよ〜
そしてなんと、工藤梨穂監督の舞台挨拶付き上映です
WOWOW放映分を録画して繰り返し観ているのですが、やはり映画館で観るのは格別です
特に本作は 「音」 に関する映画でもあるので、自宅鑑賞で拾いきれていなかった音が聞こえて感無量
舞台挨拶に続いてQ&Aもあり、監督のお話をたくさん聞くことができました
工藤監督はネットに上がっているインタビュー動画などで拝見していた通り、素朴な雰囲気の小柄な方
小さな身体にすごい才能と映画愛が宿っているなと
彼女は日本映画界の宝ですよ!
「クィアな愛を捉えたい、これは自分が一生背負っていくテーマ」 とおっしゃっていたのが印象的でした
以下、Q&A 備忘録(記憶が曖昧な部分もあり)
☆ネタバレ☆

質問 「ラストシーンを観て、彼女(朔ちゃん)は幸せになれるのかと感じましたが」
監督 「朔子役の伊藤歌歩とも話し合いましたが、朔子は直巳の中に触れられない秘密があるとは感じていて、それでも直巳と生きていくことを選択しているよね、という感じです」
・う~ん、これは 「朔ちゃん蚊帳の外」 問題ですね。あの内気な直巳が罪を犯したことについては仲間内でも相当な衝撃だったとは思いますが…。詳細は聞けないよね。てか聞くべきでもないと思うし。誰にだって色々あるよね、人生。
質問 「(いくつかのシーンを挙げて)反復が多いですが、その意図は?」
監督 「ラストでまた会う、再会するという部分を表現するために、敢えてシーンやセリフで反復を多く取り入れて「繰り返す」ということを表現しました」(大意)
・ここはもう少し 「記憶」 についても言及されていたかも?しれません。反復については私も観ていて気になる部分だったので納得でした。
質問 「①直巳と朔ちゃんが映画館を出た後、誰もいないシートが長めに映っていますが何か意図があるのですか? ②パスタのシーンは 『ゴッズ・オウン・カントリー』 へのオマージュですか?」 (僭越ながらこれは私が質問しました)
監督 「①撮影の佐々木(靖之)さんとも話をして、直巳の隣(左隣)にいた槙はもういないんだ、ということを表現したくて(誰もいない)シートを映すあの画にしました」
「②オマージュではないです。ゴーグルに残る塩を使いたくて、何の料理があるかなと考えパスタが思い浮かびました」
・①は初見のときから引っかかったので、やはり意図があったのかとわかってスッキリ! ②はなんと偶然の一致なのですね〜、ビックリ!
質問 「タイトルはどう決められたのですか?」
監督 「脚本を書きながらもなかなかいいタイトルが思い浮かばなくて、ずっと仮タイトルでした。命令形のタイトルがいいなとある時思って、音に関する物語でもあるので 「鳴らす」 がいいなと」 (以下、裸足については忘れてしまいましたすみません)
・とってもいいタイトルですよね~。素晴らしいです!
質問 「直巳と槙は格闘でしか愛を確かめられなかったのに、直巳と彼女は簡単に触れ合えているように見えましたが、この解釈は?」(大意)
監督 「男同士でも男女間でも、性愛だけに向かわない愛の形というものもある、ということを表現したくて格闘という形をとりました。一緒では苦しすぎるが、1人では生きていけない、という愛の矛盾というものを表現したかった」(大意)
・この 「性愛(キスとかSEXとか)に向かわない愛もある」 という事が、監督が一番表現したかった部分なのかな、と個人的には感じました。
質問 「愚問かもしれませんが、直巳と槙が一緒にいられる、というラストは考えられなかったのでしょうか」 (私、このストレートな質問に感動しました。愚問なんてとんでもないです!)
監督 「考えたことはないです(キッパリ)。人は生きていく中で、辛いことだったり大切な人と離ればなれにならざるを得なかったり、誰にでもあると思うのですが、それでも人生は続いていくんだ、ということをこの映画で描きたかったんです」
・監督のこの答えに思わず泣いてしまいました…。「それでも人生は続いていく」 というのはまさにラストシーンで私が感じたことだったから。わかります。監督の思い、しかと受け止めましたよ!
一つひとつの質問に、誠実に(一生懸命)言葉を探すように答えてくれる工藤梨穂監督
とても好感しました
舞台挨拶って滅多に行けないですけど、本当にいい経験、思い出になりました
京都みなみ会館さんにも、監督にも感謝ですね
ありがとうございました(ぺこり)。


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2023-04-21 :
LET ME HEAR IT BAREFOOT :
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Stay Blue.〜『裸足で鳴らしてみせろ』 #2

(承前)
劇伴を担当したsoma(藤井草馬)の音楽が素晴らしいのですが、主題歌 『Primula Julian』 はサクラソウ科の花の名前
花言葉は 「青春の喜びと悲しみ」 なんだそう
この映画のために書かれたわけではない既成曲なのに、驚くほど作品世界にマッチしていますよね
リピートしてずっと聴いています
☆以下、引き続きネタバレ☆
どん底だった直巳と再会し、直巳と生きていく朔ちゃん(伊藤歌歩)
彼女の人物造形がリアルでとても好感しました
男性二人が主人公の物語に登場する女性は、恋敵だったり浮気相手だったりして 「憎まれ役」 なことが多いけど、本作の朔ちゃんは憎めないどころか救世主なのです
朔ちゃんは直巳のことをずっと思っていたのだろうけど、(自信のなさゆえに)煮え切らない直巳の元を去り、カナダへと旅立ちます
大好きで、(多分)生きがいだったギターも断ち切って
だから海辺で直巳が言ってくれた 「朔ちゃんの曲が一番好きだった」 「カナダでいい曲書けたら、また聴かせてよ」 という言葉が本当にうれしかったんだと思う
でも、砂山で朔ちゃんが差し出した手に直巳は触れられない
時が流れて、直巳は槙と再会するのか?と思いきや物語は予想外の方向へ進んでいく
カナダ帰りの朔ちゃんがコンビニでアルバイトしているのもすごくリアル
(ワーホリから帰ってきて、そのスキルや英語力を活かせずになんとなくバイトや派遣を続けている人を何人も見てきました)
朔ちゃんの背中にやさしく触れる直巳の手に安堵している私がいた
ラストシーンで彼女は 「蚊帳の外」 だけれど、それもまたリアルな描写だった
もう一人の主要な女性登場人物・美鳥ちゃん(風吹ジュン)もとっても素敵でした
夢見るように旅を語る美鳥ちゃんを見つめるふたりのまなざしのやさしさ
看取れなかったことを槙は悔やんでいたけれど、人生の最期に彼女は安らぎを得ていたよね
暴力や犯罪も内包しながら、この映画はとてもとてもやさしいのです
ゆるやかな円環構造のようにもみえる反復の多さは監督の作風なのかな
今年のマイベスト作の一本
Stay Blue.
☆トリビア(工藤梨穂監督インタビューより)☆
① 直巳は23歳、槙は20歳の設定
② 直巳と朔ちゃんが映画館で観ているのは監督の前作『オーファンズ・ブルース』(音声だけフランス語をかぶせたのか?)
③ 直巳と朔ちゃんは中・高の同級生
(つづく)
2023-04-17 :
LET ME HEAR IT BAREFOOT :
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青のままで〜『裸足で鳴らしてみせろ』 #1

LET ME HEAR IT BAREFOOT
実家の不用品回収会社で働く直巳(佐々木詩音)は、目の不自由な養母・美鳥(風吹ジュン)と暮らす槙(諏訪珠理)と出逢う
「どこへ行こう?」 「どこへでも行ける」
『オーファンズ・ブルース』 でPFFグランプリを受賞した工藤梨穂監督の商業映画デビュー作
何処にも行けないふたりの青年が世界の 「音」 を探して彷徨うロードムービー
(青年と言うよりは Boy meets Boy が正しいかな)
PFFスカラシップ作品です
昨年劇場公開を観逃して一番残念だった映画をWOWOWにて鑑賞
粗削りで万人受けする作品ではない(多分)ですが、私は愛おしくて堪らない
しばらくはこの映画のことしか考えられない状態でした
なぜこんなにも心奪われ、涙が止まらないのか?
この映画には、私が創作に求める 「切実さ」 が溢れているからだと思う
誠実で、真摯でひたむきで青臭くて
このポスター見てくださいよ
「部屋に飾りたい」 と久々に思った
☆以下、内容に言及(ネタバレ)します☆
直巳の避難所の光がブエノスアイレスだなと思ったら 『天使の涙』 が置いてある
ビデオ、レコード、カセットテープ、ブラウン管テレビ
スマホが出てこず、家電が鳴る現代劇を久しぶりに観た気がする
直巳(ナオミ)と槙(マキ)って名前がいい(ふたりのセリフに同感)
語感だけだと男女どちらでも通る名前なのは敢えてそうしたのかな
もちろん美鳥(ミドリ)も素敵
役名と俳優名が併記してあるエンドロールで初めて音と漢字がリンクして、とても好感しました
直巳の所在なげでオドオドした感じを、佐々木詩音が繊細に表現していた
典型的なモラハラ気質の父(甲本雅裕)と向き合う時の上目遣いとか
直巳の母は、そんな夫から逃げるために家を出たのではないかな
残された直巳が 「触れるものしか信じない」 と言うのもわかるような気がする
その 「触れること」 についての映画でもありました
直巳も槙も、首に触れる仕草が癖
でも、お互いには触れられない
「抱きしめられる人がいるって、どんな感じ?」 「どうしてみんな、触れられる人を見つけられるんだろう」
孤児だったのだろう槙の孤独が痛いほど伝わってくる
それは直巳も同じ
ゴーグルのシーンでは私のほうが泣いていた
ふたりで食べるパスタは 『ゴッズ・オウン・カントリー』 へのオマージュ?と思わず前のめりになった
幸せなひととき
束の間の世界旅行
「一緒に居たかったから、止められなかった」
同じ磁場を持つふたり
だから強い力で反発しあう
甘噛みのようなじゃれ合いから始まった格闘が、互いを傷つける暴力にエスカレートしてしまう展開は観ていて辛かった(同時に、このバトルが少し長いとも感じた)
「俺に触れよ!」 「できないよ」
ああいう形でしか愛情を表現できない彼らに共感はできないのに、私まで胸を抉られるようで
何処へも行けないから、「今しかない」 と焦る直巳
「何処にも行けなくても」 一緒にいられればいい、と願う槙
(特に直巳の)爆発しそうな激情は滅びへと一直線に堕ちてゆく
お金持ちの佐渡さんの登場で 「そうなる」 ことは予想がついたけれど、「そうなってほしくない」 と願いながら観ていたのに
そして何度も何度も観てしまうラストシークエンス
投げ出された裸足
見上げる直巳
見下ろす槙
青いままのふたり
そこに言葉はない、でも
槙はずっとカセットをトラックに乗せて、ひとりで聴いていたのかな
直己は髪型も雰囲気も変わったけれど、槙はなんにも変わっていない
忘れてないよ
今までも
今も
これからもずっと
こんな愛の告白ってある?(号泣)
「愛してる」 でも 「好き」 でもない
言葉にしなくても、それはふたりだけにはわかる
永遠の約束
こういうシチュエーションってありますよね?
心を残して離れた相手と何年も経って偶然再会して、しこりが溶けてゆく感覚
一番好きな人とずっと一緒にはいられない
すぐ傍にいる相手とは別の場所に心がある
「一緒では苦しすぎるが、ひとりでは生きていけない」
未来を信じて、記憶に残ればそれでいいと言った槙
今しか信じられず、触れるものしか信じないと言った直巳
やさしい嘘、苦しい嘘
夕日の先のそれぞれの道
それでも人生は続いてゆく
(つづく)
( 『裸足で鳴らしてみせろ』 監督・脚本:工藤梨穂/主演:佐々木詩音、諏訪珠里/2021)
「裸足」の前に~『オーファンズ・ブルース』

記憶障害を抱えたエマは幼馴染のヤンから届いた絵の消印を頼りに、彼を探す旅に出る
昨年観逃して一番残念だった映画 『裸足で鳴らしてみせろ』 を観ました(WOWOWありがとう)
週末に二回観て、それから何度もリピートしています
本作は「裸足」の監督・脚本を担った工藤梨穂(28歳)の京都芸大映画学科卒業制作作品
失われゆく記憶とともに漂う若者たちのひと夏のロードムービー
商業デビュー作である「裸足」の前の作品であり、PFFグランプリ受賞作
学生の卒業制作(自主映画ですよね)でこのクオリティ、小規模ながら全国公開もされたとは凄い!
才能、天賦の才ってやっぱりあるんだなぁと思う
U-NEXTにて鑑賞(アマプラにもあります)
「処女作にはその作家の全てがある」 と言いますが、本作にも「裸足」に繋がるモチーフがたくさんある
タイトルでもある孤児
日本なのにどこか異国のような風景
カセットテープ、レコーダー
多用されるバックショット
その背中に触れようとして触れられない指
そして何より携帯電話、スマホが出てこない
鳴るのは家電、かけるのは公衆電話!
時代設定が気になるところ
「裸足」の主人公のひとり、佐々木詩音が全く違う印象を受けることに驚きます
何この半端ない色気は?
彼が演じるアキみたいな人が現実にいたら伝説的モテ男でしょうよ
やっぱり役者さんって凄いなぁ
彼が独り踊るタンゴ、イエローがかった色調は 『ブエノスアイレス』 を彷彿させる
(監督のTwitter、トプ画がまさにブエノなのです)
その後の疾走は 『汚れた血』 ですね
セリフでも映像でも多くを語らず、想像の余地の中に物語を託した作劇は賛否分かれるところかもしれません
私はとても好きでした
何もかもわかろうとしなくてもいいんじゃないかな
映画も人生も
象が好きなヤンに、もういないフー・ボーを重ねてしまった
ロードムービーだしね(あちらは冬でこちらは夏だけど)
工藤梨穂監督、ずっと撮り続けてください
「裸足」も必ず言葉にします
( 『オーファンズ・ブルース』 監督・脚本:工藤梨穂/
主演:村上由規乃、上川拓郎、佐々木詩音、窪瀬環、辻凪子/2018)