「私は二度と飢えません」

母が朝からソワソワしている。
「今夜 『風と共に去りぬ』 って映画があるから、今日は晩御飯もお風呂も早くすませてテレビの前に集合よ!」
まだ小学生だった私も、ウキウキしている母を見てうれしくなった。
それってどんな映画? 楽しみ!
『風と共に去りぬ』 といえばスカーレット・オハラの最後のセリフ
「明日は明日の風が吹く(明日のことは明日考えよう)」 After all... tomorrow is another day.
が有名だけれど、私を打ちのめしたのはこちら。
「神よ、私は二度と飢えません。盗みをしても、人を殺してでも、私も家族も飢えさせません」
スカーレット・オハラの強烈キャラと相まって、夕空に向けて放たれたこのセリフ、この場面は私の心に刻み込まれた。
当時、テレビでは二日か三日に分けて放映されたと思う。
長い長い映画を観終わった私は母に問うた。
「スカーレットはどうしてアシュレーのことが好きなん? レット・バトラーのほうが絶対いいのに」
母は困った顔をしながら 「どうしてかねぇ」 と応えてくれたのを憶えている。
この映画史上の名作は大人になってからリバイバル上映でも観たけれど、幼い頃に感じた疑問は答えが見つからないまま、私の中でくすぶり続けている。
そして燃えるような夕焼けを見るたび、あのセリフを思い出す。
「私は二度と飢えません」
家族でテレビの中の物語に夢中になった、幸福な時間を思いながら。
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