『あゝ、荒野 後篇』

(承前) 『あゝ、荒野 前篇』
「新宿新次」 「バリカン建二」 としてプロデビューした新次(菅田将暉)と建二(ヤン・
イクチュン)は、相変わらずトレーニング漬けの日々を過ごしていた。そして遂に、新次
は復讐を誓った裕二(山田裕貴)との対戦が決まる。 「新次、殺してもいいぞ」
後篇を待ちに待った二週間。初日の初回に観て来ました。前篇は157分、こちらも
147分の長尺。しかし前篇と同じく長さは感じない。
※以下、ネタバレします
ボクシング映画に外れなし、と言うけれど、ボクシングって本当に素晴らしい・・・
殴り合いなのに。「一番汚くて、一番美しい」 ものが白い四角いマットの上にある。
それはこの世界そのもの。人生そのもの。この国のかたち。
でも、そこはあくまでも 「男たちの居場所」 なんだ。新次のもとを去る芳子(木下
あかり)の疎外感が、痛いほどわかる。拳に万感の思いを込めて、新次と繋がろう
とするバリカン。父の死の真相を知ってなおバリカンを 「兄貴」 「親友」 と呼び、
その思いを受けて立つ新次。宿命が絡み合い、孤独な魂はただゴングを待つ。燃
え尽きるまで。
バリカンが恵子(今野杏南)に 「あなたとは繋がれない」 と言うシーン。あれは
やはり、そういう意味なのだろうか? バリカンを引き抜く二代目は 「いかにも」
な人物に描かれているし、高級マンションに住まわせる、というのも 「囲う」 とい
う意味だろう。新次の血がついた包帯を、後生大事に持っている、というのも意味
深だし。
キャストは皆演技賞もの。誰がどんな賞を受けても驚かない。高橋和也、本当に
いい役者になったなぁ。彼がまだ瑞々しかった 『ハッシュ!』 が懐かしい。木村
多江の 「殺せ!」 も凄い。でんでんとユースケも、味があるいいコンビ。ヤン・
イクチュンは言わずもがな、だけれど、やはりこの作品は日本の宝・菅田将暉あっ
てこそ! 演技者としてだけでなく、「いきもの」 としての彼に惹かれるのだ。
「背負う」 シーンが何度かあるのが印象的。人は皆、何かを背負って生きていく
ものだから。
しかしあの結末はモヤるなぁ。バリカ~~~~ン!!
( 『あゝ、荒野 後篇』 監督・共同脚本:岸善幸/2017・日本/
主演:菅田将暉、ヤン・イクチュン、ユースケ・サンタマリア、でんでん)
スポンサーサイト
先導せよ。
And reason, said to her, "Silence. What do you hear?"
And she said, "I hear the sound of feet. A thousand times,
ten thousands of thousands of thousands and they beat this way."
They are the feet of those that shall follow you.
Lead on.

And she said, "I hear the sound of feet. A thousand times,
ten thousands of thousands of thousands and they beat this way."
They are the feet of those that shall follow you.
Lead on.

2017-10-22 :
徒然 :
「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」SPECIAL SHOW@NHK大阪ホール

一番好きな(そう 『ラ・ラ・ランド』 より!)ミュージカル映画、オールタイムベストの
一作 『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。
ゼロ年代ベストにももちろん入れているこの作品を生み出したジョン・キャメロン・ミッ
チェル本人が来日公演する! 先行でチケットGETしました。なんだか開演前から涙
が出そうでヤバい。ドキドキ。

ヘドジョンが登場、いきなり背中に 「Hello OSAKA」 のロゴ!! 感涙です
よ~。前から5列目、何度もジョンと目が合った(と思いたい、笑)。
何百回、いや何千回聴いたかわからないほど大好きなスコアの数々。改めて
聴くと、歌詞も本当に素晴らしいんですよね。韻を踏んでいるのは当然だけど、
一語一句に意味があって。
公演はミュージカルというよりは、中村中さんを語り部にしたshow、という感じ
だった。中村中さん、さすがでしたよ。ジョンに 「My other half goth girl」 と
か言ってもらってチョーうらやましい! 二人とも細身なんだよね。ジョンはホント、
あの(どの?)まんま!
ウィッグとド派手なメイク&コスチュームでシャウトしていたヘドウィグが、全て
を脱ぎ捨て、素のままの姿で歌い上げるラストに心が震えます。映画と同じ。皆
がジョンへと手を伸ばす。
ヘドウィグは私の人生観を変えた映画のひとつだけれど(好きな映画は全て、
私の人生に影響を与えているけれど、もちろん)、同じように感じて、ここでこう
してジョンを求めている人がこんなにいたんだ、っていうのも感動だった。
やっぱり、ミッドナイト・レイディオが一番好きだな~。しかし、まぁ名曲揃いで。
この作品間違いなくクラシックになる、と改めて思いました。
ああ~、夢だけど、夢じゃなかった。ありがとうジョン! 新作映画、必ず観に
行くからね!

『あゝ、荒野 前篇』

東京オリンピックの翌年、震災から10年後の東京・新宿。少年院から出所したばかりの
新次(菅田将暉)は、自分を裏切った元仲間を襲い、返り討ちに遭う。そこに居合わせた
理髪師の建二(ヤン・イクチュン)とともに、新次は元ボクサーの堀口(ユースケ・サンタ
マリア)が営む歌舞伎町のボクシングジムでトレーニングを始める。
寺山修二が遺した唯一の長編小説(未読です)を、今を時めく菅田将暉×息もできない
ヤン・イクチュンで映画化、しかも前・後篇で5時間超の長尺作品! 昔寺山修二の詩集
にドハマリした元・文学少女(笑)としては、観に行かずにいられよーか! それなのに、
全国で37館でしか上映していないとは何事? 大阪市内の上映は一館のみという。。目
を疑いましたよ、なんと勿体無い! もちろんムビチケを買って劇場鑑賞。
でも、先行配信もしてるし円盤が来月1日には出るし、製作サイドは 「劇場で観て欲し
い」 などとは思ってないのですね・・・。しくしく(配信や映画の上映形態について、思う
ところは書き出すと長くなるのでまた改めて)。
で、作品はと言うと・・・最高でした。エンドロール後に後篇の予告が流れるんだけど、
もう頭抱えましたよ、 「早く観せてくれ!(絶叫)」 って。私はこれ前後篇、5時間ぶっ
通しでも全然オッケーです。いやむしろ観たい。
狂ったように饒舌で荒々しい新次と、吃音ゆえにか寡黙で引っ込み思案な建二。母
のないふたり。彼らの関係は対ではなく、友情とも呼べない。新次は建二を 「兄貴」 と
呼ぶけれど、兄弟のようでもない。同志でもない。敢えて定義はしないけれど、建二の
新次への強烈な思慕だけははっきりと感じ取れる。 『藍宇』 のオマージュ(?)かと見
まがうようなシーンもある! 多分新次は、建二にとって初めての 「ともだち」 だったの
かもしれない。
鑑賞前は菅田将暉に目が釘付け、かと思っていたが、すっかり建二=ヤン・イクチュン
に魅了されてしまった。虐待されて父を 「捨て」 ながら、給料袋すべて父の枕元に置き、
手描きのノートにだけ本当の気持ちを吐露する、心優しい建二に。彼らとは真逆に母を
捨て、捨てた母と同じく春をひさぐ芳子(木下あかり)もまた、新次に惹かれ愛し合うよう
になる。
今から数年後の近未来を描きながら、タブーに正面から斬り込んでいる脚本が潔く、作
り手の覚悟を感じる。奨学金返済という名目の経済的徴兵、原発事故と被災の問題、少子
高齢化による介護人材不足。登場人物は全て高潔とは言い難い、社会の底辺で蠢く人々
だが、彼らを決して悪者には描かない温かさも感じる。新次と建二を 「スカウト」 し、育て
ようとする堀口=ユースケ・サンタマリアの飄々とした存在感も得難い。彼が通うバー 「楕
円」 のシーンで、観ている私もほっと息がつけるようだった。あゝ、後篇が待ち遠しい!
( 『あゝ、荒野 前篇』 監督・共同脚本:岸善幸/2017・日本/
主演:菅田将暉、ヤン・イクチュン、ユースケ・サンタマリア)