『ザ・ギフト』

THE GIFT
シカゴからカリフォルニア郊外に越してきたサイモン(ジェイソン・ベイトマン)
とロビン(レベッカ・ホール)夫婦は、買い物途中に見知らぬ男から声を掛けら
れる。男はサイモンの高校時代の同級生、ゴード(ジョエル・エドガートン)だと
名乗る。
「お前が過去を忘れても、過去はお前を忘れない」
昨年観逃した作品をWOWOWで鑑賞。映画は映画館で、とは思うのだけれど、
観たい作品全てを観ることはできない。だからなるべくWOWOWをチェックして
フォローしている。そうすると大抵 「あー、、これ無理してでも映画館で観れば
よかった」 と思うことになるのだけれど。この映画もまたそのひとつ。
監督・製作・脚本・主演は近年スクリーンでよくお目にかかるネズミ顔(失礼)の
ジョエル・エドガートン。彼にこんな才能があったとは・・・。マッスル系だとばかり
思っていたのに、御見それしました。スリル&サスペンス。実に巧いと言わざるを
得ない。
◆◇ ラストに言及しております ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
しかしちょっと後味が悪いというか、これロビンが気の毒過ぎやしませんか?
私の個人的な想像だけど、精神に不安を抱えるロビンは、シカゴでサイモンから
モラハラを受けていたんじゃないだろうか。サイモンの転職でカリフォルニアへ越
してきて、彼女なりにやり直そうと思っていたんだと思う。過去は水に流して。
ゴードがサイモンを許せないのは当然だし、サイモンは罰を受けて当然の人間
だとは思う。でも、たとえ夫婦とはいえそこにロビンを巻き込むなと言いたい。しか
もあんな最悪な方法で。もちろん(ロビンが産んだ)子どもにも罪はない。なのに
生まれ落ちた瞬間から 「何か」 を背負わされた赤子が不憫でしょうがない。
そのロビンを演じるレベッカ・ホール、髪をショートにしてなんとも魅力的。今まで、
「何でこのひと女優なん?」 とさえ思っていたのに(土下座)。髪型でここまで変わ
るんですね。ジョエル・エドガートンの才能と、レベッカ・ホールの美貌。この映画に
は二つの発見があった。
( 『ザ・ギフト』 監督・製作・脚本:ジョエル・エドガートン/
主演:ジェイソン・ベイトマン、レベッカ・ホール/2015・米、豪、中)
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人を壊すもの。~『ヒメアノ~ル』

ビル清掃のアルバイト青年・岡田(濱田岳)は、先輩の安藤さん(ムロツヨシ)
から 「僕の運命の女性を紹介する」 と言われる。安藤が見染めたカフェ店員
ユカ(佐津川愛美)は、金髪の不気味な男(森田剛)に付きまとわれていた。岡田
は、その男が高校の同級生で、いじめられっ子だった森田であることに気付く。
監督の吉田恵輔、主演の森田剛とも、作品を鑑賞するのは初めて。そしてとて
も驚かされた。特に森田剛は、(J)事務所的には大丈夫だったのだろうか? と
こちらが心配になるほどの猟奇的な演技を披露している。V6といえば岡田くんや
イノッチに目が行くので、今までほとんど彼のことを意識したことがなかったのだ
が、こんなポテンシャルを持った俳優さんだったとは・・・。(J)ってホント、あなど
れない。凄い。必見。
前半のライトなラブコメ調から、後半のシリアスなバイオレンス描写の落差た
るや・・・。闇夜に森田の姿が浮かび、心を掻き乱すような音楽とともに現れる
タイトルバック。その瞬間、ああここから物語が始まるのだと、それまではアヴァ
ンタイトルだったのだと気付き、震えるような寒気を覚える。森田の佇まいには、
何をしでかすかわからないような、過去も未来もない、刹那にしか生きていない
者の 「虚無」 が取り憑いている。
破壊と快楽(バイオレンスとセックスのカットバック!)が絶え間なく映し出され、
過去が回想されるうちに、森田が何故こういう生き方をしているのか、人生を諦
めているような、絶望しているような、生きながら 「死んでいる」 ようなのかが
わかってくる。彼を壊したものが何だったのか。同情も肯定もできはしない、ただ
辛く、苦しい思いが残る。
※ 以下、ラストに触れています ※
暴虐の限りを尽くし、怪物となった森田の心を呼び覚ましたのは白い犬だった。
生まれつきの悪者など、いないと信じたい。
◆◆◇ ◆◆◇ ◆◆◇ ◆◆◇
・ムロツヨシの超音波は笑えるが、森田剛の怪演の前ではいささか分が悪い。
・佐津川愛美、ただのブリっ子じゃありません!
・濱田岳は還暦過ぎても高校生役、できるんじゃないだろうか・・・。
・近年の邦画でのリリー・フランキー枠を、大竹まことが演じている。
( 『ヒメアノ~ル』 監督・脚本:吉田恵輔/
主演:森田剛、濱田岳、佐津川愛美、ムロツヨシ/2016・日本)
『スウィート17モンスター』

THE EDGE OF SEVENTEEN
17歳の高校生ネイディーン(ヘイリー・スタインフェルド)は、口が悪くて劣等
感の塊。イケメンでスポーツ万能、「勝ち組」 な兄ダリアン(ブレイク・ジェナー)
とは犬猿の仲なのに、たった一人の親友クリスタ(ヘイリー・ルー・リチャードソ
ン)が、その兄と付き合うことになり・・・。
うちにも一人いますから。ビター17モンスターが(笑)。
思春期って、こういう感じだよね~、と思う。自意識過剰で妄想激しくて。傷
つくことに敏感で。甘えたいくせに意地張って。本音は誰にも言えなくて。しか
しこういうモンスターが家にいたら、親は大変だよね、、、ってウチにもいるわ
(爆)。
◆◇ ラストシーンに言及しています
不安なんだと思う。いつまでも子どもではいられないし、いたくもない。親に
干渉されたくはないけど、自立できるわけもない。自分は何者なのか、どんな
価値があるのかもわからず、答えは何処にもないし誰も教えてくれない。一体、
何をどうすればいい?! って。でもネイディーンにはいたんだよね、ミスター・
ブルーナー(ウディ・ハレルソン)が。正直、ウディ・ハレルソンこんな演技でき
るんだ! って驚きだった。
ダリアンが 『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』 (最高! リンクレイター万歳!)
のルーキーで眼福♪ 彼、マット・ディロンに似てると思ったけど本作ではジェイ
ク寄りだったわ~(嬉)。
しかし、ネイディーンがクラスメイトの韓国系男子のでっかいお家を見て 「な
んや、お金持ちやん」(関西弁に意訳してます) って言うところ、最高だった(笑)。
サイバラ先生が喜びそう。そうそう女の子たち、お金は大事だよ~。
ラストシーンはネイディーンの、笑顔のクローズアップ。アイデンティティの危機
にさらされ、自己崩壊スレスレだった主人公が映画に救われるなんて・・・。
思えば自分だって、彼女と似たような高校時代を過ごしてたな。エンドロールの
間中、涙が出て仕方ない元セブンティーンなのであった。

( 『スウィート17モンスター』 監督・脚本:ケリー・フレモン・クレイグ/
主演:ヘイリー・スタインフェルド、ウディ・ハレルソン/2016・米、中)
キャプテン・ファンタスティック~『はじまりへの旅』

CAPTAIN FANTASTIC
人里離れた森の中で6人の子どもたちと自給自足で暮らすベン(ヴィゴ・モーテ
ンセン)は、入院中だった妻が自ら命を絶ったことを知る。母親の死を嘆き悲しむ
子どもたちを連れ、ベンは妻の故郷を目指すのだが・・・。
アカデミー賞主演男優賞ノミネート、カンヌ映画祭 「ある視点」 部門監督賞
受賞作。一応、ヴィゴファンですから公開初日、映画の日に鑑賞。長男ボウ(ジョ
ージ・マッケイ)が 『パレードへようこそ』 の気弱な兄ちゃんだ! と気付いて、
のっけからめっちゃテンション上がった(笑)。
どちらかと言うと、各方面大絶賛、批評家が 「五千億点」 とか公言するよう
な映画より、賛否両論ある映画のほうが好きかもしれない。この映画もそう。し
かしこの邦題では、この映画のよさが全く伝わってこない。いっそ原題そのまま
のほうがいいのでは? と思うレベルで残念。
ベンも亡くなった妻も、相当頭のよい人だったんだろうな。しかもオールマイ
ティに。芸術もスポーツも科学も、全てバランスよく子どもたちに体得させるな
んて、並大抵ではないですよ。もちろん子どもたちも皆、聡明で健康だったの
だと思う。
しかしね、、、家族以外と接触することなく育つっていうのは、やっぱり無理
があるんじゃないかと思う。スーパーでドロボウするのを 「○○を救え!」 っ
ていやいやアナタ、それ犯罪ですから(汗)。一番違和感があったのは、ベンが
子に合衆国憲法を暗唱させるところ。イタイケな幼子が、「合衆国憲法修正第何
条ハ、、、」 って気持ち悪いよ! 正気か? 「チョムスキーの誕生日を祝うなん
て、変だよ?」 って言う次男クンの気持ち、私はわかるなぁ。
その次男の反発や、長女の大怪我があり、ベンの信念も揺らぎ始める。この辺
りのヴィゴの演技がもう、素晴らしいのです・・・。子育てに悩まない親、後悔のひ
とつもしない親なんて、私はどうかと思うね。いくら自らの遺伝子を継ぐとはいえ、
子どもは自分とは違う、一人の人間なのだから。親の思い通りになんて、育てら
れるわけがない。そこに至る苦悩の表情がもう、、、素敵すぎるの! しかも柄の
シャツに真っ赤なスーツって(笑)。ヴィゴって特別な種別だよね、人類の。ヴィゴ
属的な。
最終的にこの家族は町に下りて生活することを選ぶのだけど、学ぶ場所が森か
ら学校に変わっただけ。スクールバスが到着するまでの数分間、食卓の風景を捉
えたラストショットが忘れられない余韻。上の娘ふたりが赤毛なのもナイス。色彩が
美しい映画だったな、緑に映えてね。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
実は、この映画にはある衝撃を受けた。それはアカデミー賞授賞式。主演男優賞
にノミネートされて最前列に座るヴィゴの隣に、ロンゲで小太りのオッサン(失礼)
が。親しげにヴィゴの肩に手をまわして、テンション高め。そう、JBみたい。「誰?」
後で知ったらそのオッサン(失礼)、なんとヴィゴの息子さんなんだって・・・。
えええええ~??? ちょ全然似てないんですけど。。。
お~い、ヴィゴの遺伝子や~い。どこ行った?

( 『はじまりへの旅』 監督・脚本:マット・ロス/2016・USA/
主演:ヴィゴ・モーテンセン、フランク・ランジェラ、ジョージ・マッケイ)
アカデミー賞授賞式が好きなワケ。
「実は初めて知ったけど、マイク・ミルズってミランダ・ジュライと結婚している
んですね! ビックリ・・・。すごいアート系カップル。」
と前記事で書いたあと、そういえば今年のアカデミー賞授賞式、まだ録画消し
てないなと思い出した。もしかして↑のふたりが映ってたりして?! と早速観
てみることに。
アカデミー賞授賞式を観るのは大好きで、毎年楽しみにしている。生中継は
日本時間の月曜になるから、生中継はあきらめて職場のPCで速報をチェック
し、その夜字幕版を観るのがいつものパターン。そのためにWOWOWに加入
し続けていると言っても過言ではない。今年の授賞式も、もう何度も観ている。
そして件のカップル、映ってました! 脚本賞を受賞したケネス・ロナーガンの
後ろあたり。
そのロナーガンが受賞スピーチで、「ケイシー、ケイシー、ケイシー・アフレ
ック」 って言ったのがすんごい印象に残っていて、「大事なことだから3回言
いました」 的なのかと思っていた。しかしふと、「もしかしてあれはラ・ラ・ラン
ド的な?」 言葉遊びだったのかも?
そして今回観直してみたら、ノミニー紹介でマットが 「いい映画に必要なもの
は脚本、脚本、そして脚本」 と言っていて、それを受けたスピーチだったのね!
とわかった。いいわ~この連携プレイ(笑)。更によくよく聞いてみると 「ケイシ
ー・アフレック、ケイシー・アフレック、ケイシー・アフレック」 とフルネームで3回
繰り返している!
どうしてこんなに授賞式が好きなのか? 答えはシンプルにミーハーだから、
なんだけど、受賞スピーチが好きなのかもしれない。興奮、歓喜、感謝、感動。
ポジティブな感情がいっぱいに詰まった言葉を聴くと、こちらまでうれしくて涙が
出てくる。これも前記事と少し被るけど、皆大抵ママに感謝するよね。今年の
授賞式では、歌曲賞受賞した彼の 「サッカースクールじゃなく、ミュージカルを
習わせてくれたママ! ありがとう!」 のスピーチが一番よかったな~。もう全
身歓びに溢れていて。涙涙。
改めて受賞者のみなさん、おめでとう~ \(^o^)/
んですね! ビックリ・・・。すごいアート系カップル。」
と前記事で書いたあと、そういえば今年のアカデミー賞授賞式、まだ録画消し
てないなと思い出した。もしかして↑のふたりが映ってたりして?! と早速観
てみることに。
アカデミー賞授賞式を観るのは大好きで、毎年楽しみにしている。生中継は
日本時間の月曜になるから、生中継はあきらめて職場のPCで速報をチェック
し、その夜字幕版を観るのがいつものパターン。そのためにWOWOWに加入
し続けていると言っても過言ではない。今年の授賞式も、もう何度も観ている。
そして件のカップル、映ってました! 脚本賞を受賞したケネス・ロナーガンの
後ろあたり。
そのロナーガンが受賞スピーチで、「ケイシー、ケイシー、ケイシー・アフレ
ック」 って言ったのがすんごい印象に残っていて、「大事なことだから3回言
いました」 的なのかと思っていた。しかしふと、「もしかしてあれはラ・ラ・ラン
ド的な?」 言葉遊びだったのかも?
そして今回観直してみたら、ノミニー紹介でマットが 「いい映画に必要なもの
は脚本、脚本、そして脚本」 と言っていて、それを受けたスピーチだったのね!
とわかった。いいわ~この連携プレイ(笑)。更によくよく聞いてみると 「ケイシ
ー・アフレック、ケイシー・アフレック、ケイシー・アフレック」 とフルネームで3回
繰り返している!
どうしてこんなに授賞式が好きなのか? 答えはシンプルにミーハーだから、
なんだけど、受賞スピーチが好きなのかもしれない。興奮、歓喜、感謝、感動。
ポジティブな感情がいっぱいに詰まった言葉を聴くと、こちらまでうれしくて涙が
出てくる。これも前記事と少し被るけど、皆大抵ママに感謝するよね。今年の
授賞式では、歌曲賞受賞した彼の 「サッカースクールじゃなく、ミュージカルを
習わせてくれたママ! ありがとう!」 のスピーチが一番よかったな~。もう全
身歓びに溢れていて。涙涙。
改めて受賞者のみなさん、おめでとう~ \(^o^)/
女たちよ~『20センチュリー・ウーマン』

20TH CENTURY WOMEN
1979年、カリフォルニア州サンタバーバラ。55歳のシングルマザー、ドロシア
(アネット・ベニング)は、思春期を迎えた15歳の一人息子ジェイミー(ルーカス・
ジェイド・ズマン)と向き合うことに限界を感じていた。
初日にシネコンで鑑賞。昼の回だったのに、観客が5人だったことに衝撃(?)
を受けた。しかも全員おひとり様。確かにこの作品、ミニシアター案件ではある
と思うのだがあまりに寂しい。アカデミー賞で脚本賞にもノミネートされていたの
にね。セリフがいいし、登場人物それぞれの人生を俯瞰する構成もいい。マイク
・ミルズのフェミニズム講座、そしてTシャツ映画でもある。
母は何故、かくも息子を愛するのか? 或いは息子は何故、かくも母を想うのか。
才人マイク・ミルズの前作 『人生はビギナーズ』 はとても素敵な映画だった。
確かその年のマイベスト10にも入れたと思う。前作では父が、本作では母が描か
れている。そしてもちろん、本作も今年のベスト作の一本になりそう。
正直、、、身につまされる。私はドロシアほど(精神的にも経済的にも)自立した
女性ではない。しかし、一人息子の思春期に戸惑い、悩み、心配が尽きないと嘆
く姿は、自らを鏡で見ているようだった。
アネット・ベニング、年とったなぁ。そしてそれを全く隠さないところが潔い。売れっ
子エルちゃん。すっかり脇役界の大御所(?)となった感のビリー・クラダップ兄貴。
そして正直、あまり好きな女優ではなかったグレタ・ガーウィグが今回、赤毛でいい
感じ。キャストがいい味。
実は初めて知ったけど、マイク・ミルズってミランダ・ジュライと結婚しているんです
ね! ビックリ・・・。すごいアート系カップル。
近頃は、反抗期のない子どもが増えているらしい。ずーーーっと可愛く、聞き分け
のいいままでいてくれたら、子育ても楽だろうなぁ。息子に嫌われているんです、と
悲しがっていたら、「今はそう見えても二十歳過ぎたら、男の子は母親のことが愛お
しくなるものだよ」 と言ってもらったことがある(慰めてくれただけかもしれないけど)。
自分が死んでから、息子にこの映画のように回想してもらえたら・・・。最高だよね。

( 『20センチュリー・ウーマン』 監督・脚本:マイク・ミルズ/
主演:アネット・ベニング、ルーカス・ジェイド・ズマン/2016・USA)
あなたの人生の物語~『メッセージ』

ARRIVAL
ある日突然、巨大な未確認飛行物体が地球上の12の地点に現れる。言語学者
のルイーズ(エイミー・アダムス)は軍に請われ、理論物理学者のイアン(ジェレミー
・レナー)とともに飛行物体内部の生命体と接触を試みる。
感動に打ち震えた。ノン・ゼロサムゲーム。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ、、、やはり彼の映画は凄い。観終わってすぐに原作(『あな
たの人生の物語』by テッド・チャン)を読んだが、この映画化は天晴れと言うしか
ない。
そう 私たちは知っている
私たちがどこから来て どこへ行くのかを
何を見 何を聴き 何を為すのかを
”Come back to me.”
Hannah.
円環。
私たちの思考、知覚は 「言語」 に規定されている。私たちの世界では、時間は
「流れてゆく」 もの。しかし彼らの世界では、時間は 「そこにある」 もの。
それでも人生に 「Yes」 と言う。
ジェレミー・レナーが、今まで観たどの映画より素敵に見えた。エイミー・アダムス、
今回は惜しかったけどいつかはオスカー、獲れますように。

( 『メッセージ』 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ/2016・USA/
主演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー)
破壊(と再生)~『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』

DEMOLITION
突然の事故で妻を亡くしたエリート銀行員のデイヴィス(ジェイク・ジレンホール)。
しかし、彼は自分に妻の死を悲しむ感情がないことに気づく。
この映画をヒースに見せたかった。
ジェイクとナオミ・ワッツ×クリス・クーパーとかもうね、、、涙腺崩壊ですよ。
ジャン=マルク・ヴァレの映画はやはりいい。どん底から這い上がる、逞しくも
繊細な主人公たち。映像は登場人物のクローズアップが多いにも関わらず、押
しつけがましさがなく、やわらかい。ノクターンで始まるサウンドトラックも最高。
思春期真っ盛り、中二病全開のクリス(ジュダ・ルイス)がかわいい。そしてこ
の映画、実は手紙の映画でもあるのだった。テキストメッセージが当たり前の
時代、手書きの文字が登場する映画は今や貴重かも。Warmest regards,
しかし相変わらず邦題は酷いですね。(個人の感想です)

( 『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』 監督:ジャン=マルク・ヴァレ/
主演:ジェイク・ジレンホール、ナオミ・ワッツ、ジェダ・ルイス/2015・USA)
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

MANCHESTER BY THE SEA
ボストン郊外。アパートの便利屋として世捨て人のように孤独に生きるリー
(ケイシー・アフレック)のもとへ、兄ジョー(カイル・チャンドラー)の訃報が届
く。帰郷したリーは、兄が遺した息子パトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見
人に、自分が指名されていることを知る。
マンチェスター・バイ・ザ・シーは、マサチューセッツ州の北岸に実在する
港町。5月13日、公開初日に鑑賞。
”ケイシー、ケイシー、ケイシー・アフレック”. (by ケネス・ロナーガン)
『ムーンライト』 よりも 『ラ・ラ・ランド』 贔屓の私だけれど、今はこの作品
がアカデミー賞作品賞でもよかったのでは? と思っている。小さな、しかし
美しい港町の海と空が、いつまでも胸に残る名作。思い返すだけで、涙が溢
れてくる。
◆◇ ラストシーンに言及しています
今までずっと、なぜ芸術作品には 「死」 を扱ったものがこれほど多いのか、
自分は理解できていなかったと思う。しかし、今ならわかる。人は、ごく身近な
愛する者の死を受け入れ難く、「なぜ?」 と自問し続けずにはいられない。答
えなどないとわかっていても。だから非日常であり、現実ではない芸術に、救
いや共感や、癒しを求めるのだと。(これは 「芸術」 を 「宗教」 と言い換える
こともできるだろう。私は映画という芸術を 「信仰」 しているのかもしれない)
”I can't beat it. I can't beat it.”
終盤、リーが絞り出すこのセリフはある意味衝撃であり、救いであり、真理で
あると思う。乗り越えられない、、乗り越えられるわけがない! それでも時は
流れ、人生は続く。「死なないで!」 リーの元妻ランディ(ミシェル・ウィリアムズ)
の慟哭。そう、生きていてくれるだけでいい。
永遠の弟キャラ、ケイシー・アフレック。本作のキャストは全て素晴らしいと感
じたが、特にケイシーは各演技賞総なめも納得の演技。しかしオスカー授賞セ
レモニーで、なぜか微妙な会場の雰囲気を感じてしまった。そしてそれが、彼が
過去に起こしたスキャンダルが原因であることを知るのに、さほど時間はかから
なかった。
この映画が描いている通り、「起きてしまったこと」 を 「なかったこと」 にする
ことはできない。人生には乗り越えられない悲劇も、生涯背負わなければならな
い過ちもあるだろう。全ての俳優が、善良で模範的な社会人であるべき、とは必
ずしも思わない。それでもケイシーには、自分が数々の栄誉にふさわしい人間
であると、これからの人生と、その演技で示してほしいと思う。

( 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』 監督・脚本:ケネス・ロナーガン/
主演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、ルーカス・ヘッジズ/2016・USA)