これほどの愛~『リリーのすべて』

THE DANISH GIRL
1926年、デンマーク。コペンハーゲンで暮らす風景画家のアイナー・ヴェイ
ナー(エディ・レッドメイン)は、肖像画家の妻ゲルダ(アリシア・ヴィカンダー)
にモデルの代役を頼まれる。
自分の性別に耐え難い違和感を抱き、世界で初めて性別適合手術を受け
た人物と、その妻の実話の映画化。小柄で、(たまに前田敦子に見える)アイ
ドル的なルックのアリシア・ヴィカンダーが、これ以上ないほど複雑な状況に
置かれたゲルダの感情を演じ切り、絶賛されたのも納得の佳作。
前半はややスローと思える(いつものトム・フーパー)展開だったが、パリ、
ドイツと舞台が移るに連れ、リリーとゲルダの感情も激しく動き始める。ルシ
ンダ・コクソンの脚本、衣装、20年代ヨーロッパを再現した美術、アレクサン
ドル・デスプラの音楽も素晴らしく、心揺さぶられる。後半は、エンドロール
が終わり、場内が明るくなるまで泣き通しだった。アカデミー賞助演女優賞
受賞作。

「アイナーに初めてキスしたとき、妙な気分だった。自分にキスしてるみたいで」
ゲルダとアイナーが惹かれ合ったのは、男女としてというより、最初から互い
に 「人として」 だったのだと思う。マイノリティであることに、意識的に無自覚
であろうとしていたアイナーは、本能的に(自分の理解者としての)ゲルダを選
んだのだ。
「沼地は僕の中にある」
アイナーの幼馴染であり、初恋の相手であるハンス(マティアス・スーナール
ツ)も、幼いアイナーの中に、既にリリーがいることを察していたのだろう。共に
鋭敏な感覚の持ち主であるアイナーとハンスは田舎では暮らせず、パリで再会
する。ハンスがゲルダを気にかけるのは、ゲルダの中にアイナー(=リリー)を
見ているからでもある。
「人生で友人は少なかったけれど、君はそのうちの ”ふたり” だ」
ゲルダとハンスという理解者を得て、アイナーは心身ともにリリーに成り切ろ
うとする。命を賭けて。

映画はアイナーの故郷の風景画を笑顔で見つめるゲルダの表情に始まり、
風に舞うスカーフを笑顔で追うゲルダの表情で終わる(その瞳には涙が表面
張力になっている)。ハンスに ”DANISH GIRL” と呼ばれたのはゲルダで
あり、この映画のタイトルロールは、実はゲルダなのだ(実際、ゴールデング
ローブや英国アカデミー賞では主演カテゴリでノミネートされている)。リリー
を受け入れることは最愛の夫を失うことであり、リリーを否定することは夫を
否定し、画家としての成功とミューズを失うことでもある。混乱し、時に悲嘆に
暮れながら、ゲルダはアイナーとの決別を選び、リリーを支えて二度と後戻り
することはない。
私は、これまでの人生で、これほど誰かを愛したことがあるだろうか? ゲ
ルダのように誰かを理解し、その生き方を尊重したことがあるだろうか。スク
リーンを見つめながら自問自答し、私もゲルダに会いたいと思った。
”No, leave it. Let it fly.” 「いいの。好きにさせて」
( 『リリーのすべて』 2015・英、米、ベルギー、デンマーク、独/
監督・製作:トム・フーパー/主演:エディ・レッドメイン、アリシア・ヴィカンダー)
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虎の穴~『インサイダーズ/内部者たち』

INSIDE MEN
裏社会で権力者たちの闇仕事を請け負っていたアン・サング(イ・ビョンホン)
は、義兄弟と慕っていた祖国日報の主筆イ・ガンヒ(チョ・スンウ)に裏切られる。
復讐を誓ったサングに、検事のウ・ジャンフン(チョ・スンウ)が近づく。
いや~、面白かった! R指定作品としては韓国歴代1位のヒット作というこ
とを鑑賞後に知り、めっちゃ納得。コネと学歴と裏金が支配する韓国社会のア
ウトローが、エリートコースとは無縁の検事と手を組み、「映画を撮る」。胸のす
くようなどんでん返しは、韓国映画お得意の 「痛み」 を伴う残忍さを、補って
余りある。「モヒートはどこにある?」 ラストも最高。

イ・ビョンホンの映画は何本かは観ているが、本作がベストアクトではない
だろうか? 正直、今まで興味もなかったのだが(すみません)、彼が韓国人
初のオスカープレゼンターになったのも、しっかりした裏付けがあるのだなぁ、
と(今更)納得。ビルの屋上で、サングが片手で食べるラーメンのおいしそう
なこと! 大スターなのに、下ネタも嫌みなく演じ切っていて素晴らしい。
『マラソン』 以来のチョ・スンウは、相変わらずの 「いい人」 オーラ全開。
そんな彼が、虎の穴に入るときの 「悪人」 ぶりにはすっかり騙されてしまっ
た。
そして実はこの映画、一部では 「BL映画」 と言われているようで、それ
が気になって走って観に言ったのだが(汗)。確かに、男女間の恋愛要素は
ゼロ。元アイドルの美女に言い寄られても、全く動じない、てか引いている
サングは同性愛者、なのかもしれない。しかし、彼のイ・ガンヒへの感情に、
恋愛的なものは(私は)感じられなかったし、もちろんウ・ジャンフンとも同志
以上の関係ではない。そこは期待しないほうがいいと思います(個人の見
解です)。

( 『インサイダーズ/内部者たち』 監督・脚本:ウ・ミンホ/
主演:イ・ビョンホン、チョ・スンウ、ペク・ユンシク/2015・韓国)
『ショート・ターム』

Short Term 12
"You're going to make a great mom."
「いい母親になれる」
幸せになれるよ。

『ルーム』 でアカデミー主演女優賞を受賞した、ブリー・ラーソンの出世作。
WOWOWにて鑑賞。RottenTomatoes.com では驚異の 99%Fresh!
必見。
( 『ショート・ターム』 監督・脚本:デスティン・ダニエル・クレットン/
主演:ブリー・ラーソン、ジョン・ギャラガー・Jr/2013・USA)
世紀の空売り~『マネー・ショート 華麗なる大逆転』

THE BIG SHORT
2005年、アメリカの金融市場は好景気に沸き、ウォール街はバブルに浮か
れていた。元医学博士の金融トレーダー、マイケル・バーリ(クリスチャン・ベ
イル)は、この状況は長続きせず、経済破綻が近いことを見抜く。
サブプライム・ローンの破綻を引き金に、世界中を恐慌に陥れたリーマン・
ショック。しかし、この事態を予測し、巨額の富を得た者たちがいた。彼らの
実話を元にしたドラマ。アカデミー賞脚色賞受賞作。

経済オンチの自分には、少し難しかったというのが正直なところ。マーゴッ
ト・ロビーやセレーナ・ゴメスがカメラ目線で説明してくれるのだが、金融市
場の仕組みはよくわからなかった(汗)。
映画を観ている私たちは、アメリカの市場が弾け、その後世界がどうなっ
たかを知っている。だから、経済のプロであるはずの当時の金融マンたち
が、どうしてここまで事態を悪化させてしまったのか、不思議で仕方なかっ
た。
住宅ローン破綻と言うと、借りた人は被害者で貸したほう(銀行)が悪い、
と思われがちな気がする。しかし、観ていてつくづく借りるほうも悪いよな、
と思う。何も考えず、疑わず、お金を借りて家を買う人々。これだけ借りたら
何年先にどうなるかなんて、思いもしないで。結局彼らは救われず、銀行は
公的資金と言う名の税金で救済される。考えていたら腹が立つし、やりきれ
ないので普段は考えないようにしているがマジで許せない。自分を守るため
には、ある程度賢くならないとダメだと思う。自戒。

マイケルの部屋にかかっていた 「恐」 「欲」 の色紙が気になった。ブラ
ッド・ピットはおいしい役どころ。ゴズりんの髪型がヘン(笑)。そしてまさか
マーク・トゥエインと並んで、村上春樹の言葉が引用されるとは。。。
多分、映画を観ないで(粗筋だけ読んで)つけたのだろう副題とは真逆の、
華麗さのカケラもない、苦味の残る映画だった。
( 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 監督・共同脚本:アダム・マッケイ/
主演:クリスチャン・ベイル、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング/2015・USA)
Think different.~『スティーブ・ジョブズ』

STEVE JOBS
1984年、Macintosh。1988年、NeXT Cube。そして1998年、iMac。
米Apple社の創業者にして稀代のカリスマプレゼンテーター、スティーブ・ジョ
ブズは2011年、56歳の若さでこの世を去った。彼が世に出した三製品の、
新作発表会直前の舞台裏を描いた会話劇。三幕構成の舞台のようでもあ
る。タイトルロールを演じたマイケル・ファスベンダーは、言うまでもなく素晴
らしい。アクセルを踏み込まずいつものスピードは抑えめに、ほぼワンシチュ
エーションで偉人の光と影を演出した監督、ダニー・ボイルにも拍手。脚本は
『ソーシャル・ネットワーク』 のアーロン・ソーキン。
私はコアなアップル信者、というわけではないが、スマホはiphone以外持
ちたくない、という程度のファン。スティーブ・ジョブズのキャラクター--変人、
性格破綻者、完璧主義者、などなど--とアップル解任劇や復帰については、
一般常識程度に知っていた。

娘リサに対する、父ジョブズの屈折した感情が、鈍い痛みを伴って胸に残る。
私自身も(ジョブズほどではないにしろ)不完全な親であるから、子どもと上手
く関係性が作れないジョブズを、批判的には観られなかった。
偉人として永遠に語り継がれるであろう彼の業績は、普通の人間ではとても
成し遂げられるものではない。誰にも似ていない、言わば空前絶後の人物でな
ければ。彼はまさしく、「世界を変えた」 のだから。映画の善し悪しよりもむしろ、
スティーブ・ジョブズの偉大さを改めて感じた作品だった。

クレージーな人たちがいる 反逆者、厄介者と呼ばれる人たち
四角い穴に 丸い杭を打ちこむように 物事をまるで違う目で見る人たち
彼らは規則を嫌う 彼らは現状を肯定しない
彼らの言葉に心をうたれる人がいる
反対する人も 賞賛する人も けなす人もいる
しかし 彼らを無視することは誰もできない
なぜなら、彼らは物事を変えたからだ
彼らは人間を前進させた
彼らはクレージーと言われるが 私たちは天才だと思う
自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが
本当に世界を変えているのだから
( 『スティーブ・ジョブズ』 監督:ダニー・ボイル/2015・USA、UK/
主演:マイケル・ファスベンダー、ケイト・ウィンスレット)
HONG KONG NIGHT SIGHT~『香港はもう明日』

ALREADY TOMORROW IN HONG KONG
初めて香港を訪れたLA生まれのルビー(ジェイミー・チャン)は、NY出身で
香港在住の金融マン、ジョシュ(ブライアン・グリーンバーグ)と出逢う。
開催11回目にして、大阪アジアン映画祭初参戦。3月12日土曜日、ABC
ホールにて鑑賞。80分弱の小品で予備知識もなく、スタッフ・キャストも全て
真っさらな状態だったけれど、もう大満足。とっても素敵な作品でした。上映
後にはエミリー・ティン監督とプロデューサーの登壇があり、ティーチ・インも
初体験。貴重な機会を下さった 「龍眼日記」 のsabunoriさん、本当にあ
りがとうございました。

七色に輝く香港の夜景が、本当に美しい。エスカレーター、重慶マンショ
ン、男人街、スター・フェリー。なんだか胸がいっぱいになってしまった。
偶然出逢った男女が意気投合し、会話しながら街をさまよう。一旦は別
れたものの再会し、惹かれ合って・・・、というストーリーはまさに、リチャー
ド・リンクレイターの 「ビフォア」 三部作 『サンライズ』 『サンセット』 の
縮小版、という感じ。コリアン・アメリカンのジェイミー・チャンはスタイル抜
群でキュートだし、クライヴ・オーウェン+ジェイク・ジレンホールなルックの
ブライアン・グリーンバーグは私の好みどストライク! しかもこの主演二人、
昨年10月にリアルで結婚した、っていうんだから、、、。私はドキュメンタリー
を観たのかもしれない(笑)。

この映画、村上春樹の影響を受けているのではないかな? スター・フェ
リーの中でジョシュが読んでいる本が一瞬映り、赤いカバーにHARUという
文字が見える。ルビーは前半は緑、後半は赤のトップスが印象的だが、こ
れって 『ノルウェイの森』 上下巻のカバーの色。香港が舞台と言えば、の
王家衛 『重慶森林(恋する惑星)』 も、タイトルは 『ノルウェイの森』 から
取られとか。この映画も、その影響下にあるのですか? と監督に質問して
みたかった。ティーチインは初体験だったので、さすがに様子見だったのだ
けれど。
香港のスター・フェリーで、100%の女の子と出逢うことについて。ミッドナ
イトな続編が観てみたい気がする。
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆
そして今回一番うれしかったのは、長年お付き合いしていただいている敬
愛するブロガー、sabunoriさんにお会いできたこと。中之島で待ち合わせ、
ランチして福島のABCホールまで歩き、お茶のち映画。チケット手配をお任
せしていたのに、お土産までいただき恐縮してしまった。初めてお目にかか
ったのだがとてもそうは思えず、もっとずーっと話していたかった。実際、映
画の時間が迫っていることを忘れてしゃべり続けてしまった私なのだが(笑)。
そしてその後の、映画祭の雰囲気にも感動・・・。来年は、もう少し色々な作
品に触れられるといいな。
sabunoriさん、次お会いしたら続き、しゃべらせて下さいね! 今度はガッ
ツリ、ケーキも食べましょうか♪
( 『香港はもう明日』 監督:エミリー・ティン/2015・香港、米/
主演:ジェイミー・チャン、ブライアン・グリーンバーグ)
テーマ : ☆.。.:*・゚中国・香港・台湾映画゚・*:.。.☆
ジャンル : 映画
QT,No.8~『ヘイトフル・エイト』

THE HATEFUL EIGHT
This is the eighth film by Quentin Tarantino.
南北戦争後、雪のワイオミング。賞金稼ぎのジョン・ルース(カート・ラッセル)
は、1万ドルの賞金がかかった女ギャング、デイジー・ドメルグ(ジェニファー・ジ
ェイソン・リー)を手錠に繋ぎ、レッドロックを目指していた。そこへ、元騎兵隊の
賞金稼ぎマーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)が立ちふさがる。
映画オタク(褒めてます)クエンティン・タランティーノのウェスタン、密室ミステ
リー風味、R18+のバイオレント&スプラッタ作品。しゃべりまくる登場人物た
ち、章立て&逆回転の作劇はいかにもQTの映画。エンニオ・モリコーネに初
のオスカー(作曲賞)をもたらしたことで、後世に残るであろう作品。プロダクシ
ョンデザインは種田陽平。彼もいつの日か、オスカーを手にできるのだろうか?

「いかにも」 QTの映画だな~、っていうのが一番の感想。章立てになってい
るのでさほど長さは感じないが、168分もある(笑)。血と暴力にまみれた、悪人
だらけの非道徳的なこの映画を、嬉々として撮っているQTはとても善人には思
えないが、何故か憎めない。好きなことを、好きなように、全身全霊で満喫して
いるように見える彼が、うらやましくてたまらない。
曲者揃いの役者陣の中で、サミュエル・L・ジャクソンは別格の存在感。近頃
出まくりの感アリの彼だが、QT作品では他の映画とは顔つきが全く違う。露骨
なほど、気合いの入り方が半端ではない。まだまだやれるね。
「10作撮ったら引退する」 とQTは宣言しているとか。いやいや、そんなワケ
ないでしょう! ただ、次回はもう少し、血糊少なめでお願いします。。

( 『ヘイトフル・エイト』 監督・脚本:クエンティン・タランティーノ/
主演:サミュエル・L・ジャクソン、ジェニファー・ジェイソン・リー/2015、USA)
私の天使~『キャロル』

CAROL
1952年、ニューヨーク。フォトグラファーに憧れながらも百貨店のおもちゃ
売り場で働くテレーズ(ルーニー・マーラ)は、娘へのクリスマスプレゼントを
買いに来た貴婦人キャロル(ケイト・ブランシェット)と出逢う。
我らがケイト・ブランシェットと、ルーニー・マーラが恋に落ちる。原作はパ
トリシア・ハイスミス、監督は 『アイム・ノット・ゼア』 でケイト・ブランシェット
と組み、彼女から最高の演技を引き出したトッド・ヘインズ。ある意味、ケイ
ト様を一番 「わかっている」 監督かもしれない。これだけの役者が揃えば、
期待値はストップ高、鉄板の良作でないはずがない・・・。そして、その期待
が裏切られることはなかった。
ちなみに、2月14日に鑑賞。バレンタインデー、女一人で観るのにこれほ
どふさわしい映画があるだろうか?

50年代の風俗を再現した衣装や、プロダクション・デザインが素晴らしい!
古い名画を観ているような感覚にさえ陥る、完璧な映像だったと思う。主演女
優ふたりはその演技を競うことなく、互いを見つめ合い、尊重し合って呼吸を
合わせる。時にスロー過ぎるとさえ感じるほどに、ゆっくり、ゆっくり、ふたりの
距離は縮まってゆく・・・。
ゴージャスなセレブリティであり、羨望の的であるキャロルが、可哀想で堪
らなかった。飾り物として振舞うことだけを求められ、「本当の自分」 を抑え
つける日々。若いテレーズには夢も時間もあるのに、キャロルは唯一の希望
であり、宝である娘すら奪われてしまう。

それでも、自らのセクシャリティと、テレーズへの愛を堂々と貫くキャロル
に感動する。テレーズは、様々な意味でキャロルによって道を開かれ(ca
nonのカメラ!)、自立した大人の女へと変貌する。その上で、彼女がラス
トシーンに下した決断に、深い安堵と感銘を覚えた。これは、カバーこそ同
性愛だけれど、実は女の自立がテーマの物語なんじゃないだろうか。
( 『キャロル』 監督:トッド・ヘインズ/2015・UK、USA/
主演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ)
神が与えしもの~『サウルの息子』

SAUL FIA
SON OF SAUL
1944年、アウシュビッツ。ユダヤ人強制収容所には、「ゾンダーコマンド」=
秘密の運搬人と呼ばれ、同胞の死体を処理するために働かされていた囚人た
ちがいた。その一人であるサウル(ルーリグ・ゲーザ)は、ガス室から虫の息と
なって運ばれてきた少年を息子だと主張し、彼を 「正しく埋葬」 しようとする。
ホロコーストを描き、カンヌ映画祭で監督賞を受賞した話題作。第88回アカ
デミー賞外国語映画賞をも受賞したハンガリー映画。初日に鑑賞。
スタンダードサイズのスクリーンに、至近距離で主人公のアップが映し続け
られる、「異様」 としか言いようのない作劇。『Mommy/マミー』 でグザヴィ
エ・ドランが近いことをやっているが、この映画は自身が 「自撮り棒」 で撮
っているかのように、カメラは徹底してサウルから離れることはない。結果、私
たちはサウルに同化したかのような、居心地の悪さを感じ続けることになる。

強制収容所で、ガス室で何があったのか。ドイツ兵の言う 「部品」 がクロ
ーズアップされることはない。しかし、はっきりと映し出されないからこそ、私
には見えてしまう。想像の目で、惨劇を目撃してしまうのだ。
息子を正しく埋葬しようと死体を隠し、ラビを探して奔走するサウルは、ま
るで 「狂人」 のように見える。しかし、本当に狂っているのは誰なのか?
ユダヤ人とは、「ユダヤ教を信仰している人」 のことだと聞いたことがある。
特に、イスラエル建国前だったこの時代、宗教だけが彼らのアイデンティティ
だったことは想像に難くない。細かな灰になるまで焼き尽くされ、川に流され
る同胞たちを、どんな思いでサウルは見つめていたのか。少年を、「息子」 を
正しく埋葬したい---。全感情、全感覚を麻痺させて生き長らえていた彼
は、人間としてそう願ったのだ。強く。

これが初の長編映画だというネメシュ・ラースロー監督も凄いが、サウルを
演じたルーリグ・ゲーザの存在感は只者ではない。顔、立ち姿、彼一人の演
技がこの重量級の作品をけん引している、と言っても過言ではないだろう。し
かも、彼は専業の俳優ではなく、詩人だというからさらに驚かされる。重過ぎ
る、リアル過ぎるこの107分間、『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』 で父
親役だった俳優が医者を演じていると気付いたとき、「これは映画なんだ」 と
安堵している自分がいた。
ラストシーン。森に遊んでいた地元の少年を見て、サウルは微笑む。息子が
転生して現れたのだと思ったのかもしれない。銃声が轟き、何事もなかったか
のように、木々は揺れている。
( 『サウルの息子』 監督・共同脚本:ネメシュ・ラースロー/
主演:ルーリグ・ゲーザ、ジョーテール・シャーンドル/2015・ハンガリー)
Leo's Big Night ~第88回アカデミー賞授賞式・雑感

レオ~~~、おめでとう!! やっと、、、やっと獲れたね~!
うれしかった、、全世界が祝福したよね。本当によかった。
スライはちょっと気の毒だったけど、マーク・ライランスがスピルバーグと抱き
合ってるのを観て、じ~~~ん。。。
6冠達成マッドマックスFR。監督賞はジョージ・ミラーに獲って欲しかったなー。
ドレスコードを無視して、イモータン・ジョーエンブレムを背負った衣装デザイナ
ー、ジェニー・ビーヴァンさん。最高にCOOL! だったわ♪
外国語映画賞は下馬評通り 『サウルの息子』。客席にサウルがいたよ^^
エンニオ・モリコーネのスピーチもよかったな~。うるうる
クリス・ロック、案外マトモなこと言ってたな、、、あんま面白くはなかったけど(汗)。
アリシアちゃん、ファッシーと付き合っているなんて、、、知らなかった!! ガーン
この子マジでかわい過ぎるやろ、、。で、何 『エクス・マキナ』 は公開してくれるワケ?
そして 「私のT」 ことトム・ハーディ。カッコよ過ぎ!!! レオが彼にいの一番に感謝
の言葉を述べて、ビックリしてたのもかわいかった~♪
でも、、でもね、、、奥様同伴していたんだよね、、(←当たり前) ハートブレイク。しくしく
マイベストドレッサーはケイト・ブランシェット様&ジャレット・レトー!!
しかし全体的に、イマイチ盛り上がりに欠ける授賞式だと思ったのは私だけ?
ノミニーは皆素晴らしかったのに、「ホワイトオスカー」 とか言われて心底楽しめなかっ
たのかな? そうだとしたら残念。引け目なんか感じないで、正々堂々と誇ってほしい。
ノミネート&受賞作品、既に何作か観てはいるけど、これから公開されるものも本当に
楽しみ♪
ああ。映画って、本当にいいですね~。(^O^)/