神の橋まで~『わたしに会うまでの1600キロ』

WILD
シェリル(リース・ウィザースプーン)は最愛の母ボビー(ローラ・ダーン)を亡
くした喪失感から自分自身を傷つけ、自暴自棄に陥っていた。乱交、ドラッグ、
妊娠、堕胎、離婚。そんな彼女は、アメリカ西海岸の自然歩道パシフィック・ク
レスト・トレイル(PCT)の1600キロもの道のりを、一人で歩こうと決める。
アメリカの作家シェリル・ストレイドの回顧録、実話の映画化。全く観る予定
はなかった。お決まりのダサ過ぎる邦題、リース・ウィザースプーンとローラ・
ダーンという、全く興味のない、敢えて出演作は避けたいくらいの女優。それ
なのに観に出かけたきっかけは、門間雄介氏の絶賛ツイート。いや~、観て
よかった・・・。シェリルに共感はできないけれど、リースとローラ・ダーンの演
技に脱帽。素晴らしい作品だけに、他作品とビジュアルまで丸被りの酷い邦
題が本当に残念で、腹立たしくさえある。

タイトルと内容から、ショーン・ペン×エミール・ハーシュの 『イントゥ・ザ・ワイ
ルド』 を思い出さずにはいられない。しかし文明社会に背を向け、悲劇的なラ
ストを迎えたあの作品とは対照的に、本作は前向きなエネルギーに溢れている。
そもそもシェリルが歩き始めたのは文明に背を向けるためではなく、この世界と
再び上手くやって行くため。どん底まで堕ちた自分自身をリセットし、リスタートす
るため。「私はホーボー(流れ者)じゃない」。シェリルの心の中には、「美しさの
中に身を置く」 という母の言葉があった。物事の良い面を見ること、たとえどん
なに困難な時でも。母の言う 「美しさ」 とは即ちwildなのだと、彼女は長い道
のりの果てに辿り着く。

エンドロールで目にしたNick Hornbyという名前に思わず納得。そして監督
は、なんと昨年の傑作 『ダラス・バイヤーズクラブ』 のジャン=マルク・ヴァレ
ではないか! う~ん、そう言われてみればフラッシュバックの使い方とか、
DBCと通じるところがあるなと思う。
How wild it was, to let it be.
( 『わたしに会うまでの1600キロ』 監督:ジャン=マルク・ヴァレ/
主演:リース・ウィザースプーン、ローラ・ダーン/2014・USA)
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夜に輝く~『ナイトクローラー』

NIGHTCRAWLER
The City Shines Brightest At Night
盗品を売って日銭を稼ぎ、糊口をしのいでいた青年ルイス・ブルーム(ジェイ
ク・ジレンホール)は、深夜の高速道路で事故現場を撮影する一行を見かける。
ジェイク・ジレンホールが過酷なダイエットで体型と人相を変え、スキャンダ
ラスな映像に取り憑かれた不気味な主人公を熱演したサスペンス。物凄く楽
しみにしていました! 観られてよかった~。監督はダン・ギルロイ、トニー・
ギルロイの弟さん。初監督作とは思えない完成度! GJです。

見どころは何と言ってもジェイクの演技、な作品なのだけれど、それと同じく
らい印象的なのが美しく切り取られた夜の街。寡黙なタイトルバックに映し出さ
れる、輝く夜の風景に心つかまれ、この異様な作品世界にすんなりと入り込む
ことができた。
スポンサー至上主義=視聴率ありきの構図は自ずと過激な報道を求め、追
い立てられるように夜の街を疾走するルイス。彼は人々の、デフォルメされた
「欲望」 そのもの。同業者を陥れ、アシスタントを使い捨て、一線を超えるルイ
ス。しかしどんなに姑息な手を使おうと、誰も彼を止められない。彼のギラつい
た眼は血の臭いと銃声に素早く反応し、不幸を嗅ぎつける。理路整然と、立石
に水の話術は、一体何処で身に付けたものなのか?
そう、この映画はルイスやニーナ(レネ・ルッソ)といった主要人物の造型に、
どこか薄っぺらさを感じる。コソ泥の割にルイスのアパートはそこそこだし、情報
強者な設定でもある。彼は今まで、何処で何をして生きてきたのか? 全く想像
がつかないのだ。

第87回アカデミー賞ノミネーションにおいて、ジェイクが主演男優賞候補から
漏れたことに涙した私。しかし、この作品を観て、なんとなくその理由がわかっ
た気がした。
成熟した都市社会が産み落とした 「恥部」 のような 「モンスター」 よりも、
イラク歴戦の 「伝説のスナイパー」 の方が当然好感度は高く、華やかなレッ
ドカーペットにふさわしいのは一目瞭然。しかし、本国でもナンバーワンヒット
を記録したというこの作品で、名実ともにジェイク・ジレンホールが 「看板」
となったことに疑いはない。彼の今後に、大いに期待しています。
( 『ナイトクローラー』 監督・脚本:ダン・ギルロイ/
主演:ジェイク・ジレンホール、レネ・ルッソ/2014・USA)
『ジュラシック・ワールド』

JURASSIC WORLD
南米コスタリカ沖の孤島。そこでは遺伝子操作で新種の恐竜を作り出し、連日
二万人もの人々が世界中から訪れるテーマパーク 「ジュラシック・ワールド」
が運営されていた。パークで働くクレア(ブライス・ダラス・ハワード)の元に、クリ
スマス休暇を利用して二人の甥っ子がやって来る。
『ジュラシック・パーク』 を初めて観た時の衝撃は忘れられない。スクリーンで
恐竜が 「動いている!」 のだ。まるで、生きてそこに存在するかのような臨場
感。あれから20年の歳月が流れ、映画は今やUSJの人気アトラクションとして
定着し、まさかのシリーズ第4作の登場である。CGは遥かに進歩し、「作りモノ」
とはにわかに信じられないほどの実物感。技術の進歩って、凄いですね。面白
かった。

クリス・プラット(スター・ロード!)がいい役。GOTGといい本作といい、彼
はもうハリウッドのスター街道まっしぐら! に違いない。ブライス・ダラス・
ハワードはどうしてもお父様の顔がチラついて好きになれないのだが、一作
目もこのポジションはローラ・ダーンだったから、これでいいのか?
世界中で超メガヒットを飛ばしているらしいから、きっとパート5、パート6も
作られるのでしょうね。

( 『ジュラシック・ワールド』 監督・共同脚本:コリン・トレヴォロウ/
主演:クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード/2015・USA)
愛と慈悲~『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』

LOVE & MERCY
1960年代、カリフォルニア。ブライアン・ウィルソン(ポール・ダノ)は兄弟
や従兄弟たちと 『ザ・ビーチボーイズ』 を結成、その美しいメロディーライ
ンとハーモニーで瞬く間に人気者となる。しかし20年後、ブライアン(ジョン・
キューザック)は精神科医(ポール・ジアマッティ)の監視の下で薬漬けにさ
れ、廃人のような生活を余儀なくされていた。
村上春樹が大ファンであることを公言していることでも知られる 「真の天
才」 ブライアン・ウィルソンを、ポール・ダノとジョン・キューザックが 「二人
一役」 で演じ、長きに渡る不遇の時代を経て復活を果たした 「生きる伝説」
の人生を描く。
誰もが耳にしたことがあるだろう、ザ・ビーチボーイズのメロディ。美しい音
楽を耳にすると、自然と涙が流れるのは何故なのだろう? ブライアンの苦
痛に満ちた人生から産み落とされた、奇跡のマスターピース 『ペット・サウ
ンズ』。その製作過程を60年代パートで描き、精神を病んだブライアンがメリ
ンダ・レッドベター(エリザベス・バンクス)という聡明で勇敢な美しい女性に
よって、束縛と搾取から救済されるまでを80年代パートで描く。感動、感動。
涙、涙。今年のマイベスト作の一本。
奇跡のマスターピース~『ペット・サウンズ』(ジム・フジーリ:著/村上春樹:訳)

観た映画に 「GOD ONLY KNOWS」 が使われていたら、私はその映画の
評価を少し上げてしまう。思うに、ブライアン・ウィルソンの悲劇は、神(の音楽)
に近づき過ぎたが故にもたらされた代償ではなかったのか? 彼の紡ぎ出すメロ
ディーを耳にすると、「神」 を感じるのだ。美し過ぎて怖いほどに。
そして純粋で繊細だからこそ、悪意に狙われ利用される。青年期までは暴力
で支配しようとする実父に、長じては薬で自由を奪う精神科医に。正気を保て
と言う方が無理だと感じるほどに、苦難と苦悩に満ちた人生でも、たった一つ
の出逢いが救いをもたらすこともある。肩パッドやゴージャスなブロンドの巻き
髪で、80年代ルックを体現したエリザベス・バンクスが気高く、美しい。メルロー
ズ・アベニューで彼女を待つブライアンの、子どものような表情もたまらない。
彼が失った長い長い歳月を、これからは二人で埋めてゆくのだ、と。
ご本人が登場し、唄うエンドロールも素晴らしい。沁みました。村上春樹の
感想が聞きたいな、と思った。

( 『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』 監督・製作:ビル・ポーラッド/
主演:ポール・ダノ、ジョン・キューザック、エリザベス・バンクス/2014・USA)
隣のサイコパス~『人生スイッチ』

RELATOS SALVAJES
WILD TALES
飛行機の乗客全員がある人物を介した知り合いだったと気付いた時、悲劇
の幕は上がっていた・・・。
アルゼンチン発、大ヒットしアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた、
高評価のオムニバス。『しかえし』 『おもてなし』 『エンスト』 『ヒーローになり
たくて』 『愚息』 『Happy Wedding』 の6編から成り、理不尽で不条理な
日常を、あり得ないほどの怒りのエネルギーで暴発させる人々を描く。しばし
呆然。

さすがラテン気質というか。。どの作品も、笑ったり、ビックリしたり、同情し
たりで退屈はしなかったのだけれど、後味が良いとは言い難い。「やられたら
やり返す」 「(この、私を!)コケにした奴は許さない」 これが国是なのか?
と思うほどの、怒りのエネルギーの凄まじさ。そこまでやるか? 正直、ウェッ
トで島国根性な典型的大和民族の私には、とてもついていけない。そして、相
手にそこまで強烈なエネルギーを放った本人とて、無傷でいられるはずがな
い。怒りと暴力は連鎖反応を起こし、更なる悲劇を産むのだ。

アルゼンチンってサッカーとタンゴ以外、あまり馴染みのない国。映画もほと
んど観ていないと思うが、『ヒーローになりたくて』 の主演俳優だけは知って
いた。『瞳の奥の秘密』 の人。どのパートも、それぞれに言いたいことはある
けれど。。『Happy Wedding』 の花嫁が凄過ぎた。ラテンのノリって凄いなぁ。
花婿の疑惑の行動の中、流れているのが 『禁じられた遊び』 のテーマだった
のには笑った。それ、結婚式にかける曲じゃないでしょー、って(笑)。音楽は、
グスターボ・サンタオラヤ。
しかし、、、意味不明な邦題ですね。
( 『人生スイッチ』 監督・脚本:ダミアン・ジフロン/
主演:リカルド・ダリン、エリカ・リバス/2014・アルゼンチン、スペイン)
ならず者国家 VS.~『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』

MISSION: IMPOSSIBLE ROGUE NATION
イーサン・ハント(トム・クルーズ)が所属するスパイ組織IMFは、上部組織
であるCIAから解散を命じられていた。しかし、イーサンは謎のテロ集団シン
ジケートを単独で追い続けていた。
トム・クルーズによる 「スパイ大作戦」 シリーズも5作目。歳は取っても、
アクションは回を追うごとにパワーアップしている超人トム。そう、ハリウッド
のトムといえばやっぱりハーディでもハンクスでもなく(あとトムヒもいたけど、
フルネームが憶えられない^^;)、クルーズなんです! 最高に面白い、安定
のスパイアクション。これがシリーズ最高傑作で、間違いないでしょう。監督・
脚本は、地味ながら本作との共通点もある 『アウトロー』 のクリストファー
・マッカリー。GJ!!

なんと言っても、あの 「飛行機しがみつき」 シークエンスを冒頭に持って
くるとは! トムは出オチでつかみはオッケー、これぞ最高のオープニング。
開けるドアを間違うベンジー(サイモン・ペッグ)もおいしい! カワイイ!!
イーサンが 「ベンジー!」 って呼ぶたびに、「ワン!」 って吠えそう(ベン
ジーって犬の名前ですよね。そんな映画があったような)。
ウィリアム(ジェレミー・レナー)は現場を離れ、背広組になっているのがちょ
っと寂しい、と思ったのも束の間。彼がずっとコントロールセンターにじっとし
ていられるわけがありません。今回、何故ジェレミー・レナーがこのシリーズ
にキャスティングされたのかわかった気がした。トムと並ぶと、背丈が同じくら
いでバランスがいいんですよね。
そして何と言っても、ヒロイン(?)、峰不二子みたいな女スパイ、イルサ(レ
ベッカ・ファーガソン)が最高にカッコイイ!! 本当の主役は彼女では? と
思うほどに、アクションよし、スタイルよし、トムとの相性もピッタリ! こんな
女優さん、よく見つけてきたな~、と感心します。『カサブランカ』 オマージュ
の名前やトレンチ姿も素敵。イーサンと彼女の恋愛要素がゼロっていうのが、
また好感度高し! キスシーンとか、こういう映画にはホンマいらんからね。

しかし改めて、トム・クルーズって役者バカというか、最早狂気の域に達して
いるんじゃないでしょうか。飛行機に生身でしがみついたり、ノーヘルでバイク
や車をぶっ飛ばして、ひっくり返って、でも常に顔は笑っている。ちょっと怖い
・・・。もしか狂ってる? でも、私はそんなトムが好きです。
彼の本望は、多分、映画を撮りながら死ぬことなんじゃないかと思う。24時間
365日、ハリウッドスターのトム・クルーズであり続け、主役を張り続けること。
前のめりに走り続けること。オッケー、最後まで観届けますゼ!
( 『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』
監督・脚本:クリストファー・マッカリー/2015・USA/
主演:トム・クルーズ、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン)
怪物か英雄か~『チャイルド44 森に消えた子供たち』

CHILD 44
1953年。スターリン政権下のソ連。レオ・デミドフ(トム・ハーディ)は秘密警察
MGBのエリート。しかし、最愛の妻ライーサ(ノオミ・ラパス)にスパイ容疑がか
けられ、レオは僻地に左遷されてしまう。
"There is no murder in paradise." (楽園に殺人は存在しない)
同僚の息子が殺害されたにも関わらず、それが 「事故」 として処理されて
しまう社会。「殺人だ」 と声を上げることは、国家に対する反逆と見なされてし
まう・・・。そんな 「楽園」 が舞台の陰鬱なサスペンス。
なんと、主演作が同時期に3本も劇場公開されていたトム・ハーディ主演作。
危うく逃しかけたが、観に行って本当によかった。。なぜなら、『ラン・オールナ
イト』 で目がハートになったジョエル・キナマンが出ていたから! キャ~、聞
いてないし!!(嬉)

ウクライナ飢饉で孤児となり、獅子のように勇敢に生きるべく 「Lion=LEO」
という名を授けられたレオ。(私の)トム・ハーディは、国家と家族と正義感の
狭間で翻弄される、複雑なレオの感情を演じ切っていてさすが! しかし、そ
の彼の最愛の 「美しい」 妻がノオミ・ラパスって、、、違う。それはない。それ
だけはない。ノオミ・ラパスを見ると、ハムスターを連想するのは私だけだろう
か? 暴言すみません
しかも、ジョエル・キナマン=ワシーリーが彼女に横恋慕するなんて・・・。
ないない! 絶対。てか、そういうことなんですよね? ワシーリーの気持ち
がさっぱりわからなかった(汗)。もちろん、ノオミさん素晴らしい演技派女優
だとは思いますよ。。しかし、レオとワシーリーが(しつこいので以下略

小児連続殺人のサスペンスと、社会主義国家の闇と、夫婦愛の物語がペレ
ストロイカ?なんだけど焦点が絞り切れず、やや散漫な印象になってしまった
のは残念。ゲイリー・オールドマンもいて、豪華キャストなのに。ちょっともったい
なかったな。
( 『チャイルド44 森に消えた子供たち』 監督:ダニエル・エスピノーサ/
主演:トム・ハーディ、ノオミ・ラパス、ゲイリー・オールドマン/
2015・米、英、露、チェコ、ルーマニア)
落下する夏~『共犯』

PARTNERS IN CRIME
いじめられっ子の高校生、黃立淮ホアン・リーファイ(巫建和)は、ある日の
登校途中、道端に倒れている女子高生を見つける。彼女は同じ高校に通う
夏薇喬シャー・ウェイチャオ(姚愛寗)だった。偶然その場に居合わせた、ちょ
っとワルの葉一凱イエ・イーカイ(鄭開元)と、優等生林永群リン・ヨンチュン
(鄧育凱)とともに、黃立淮は夏薇喬の死の原因を探ろうとする。
白い半袖シャツの胸に刺繍された青いネームを目にすれば、かつて心揺さ
ぶられた数々の青春映画が浮かぶ。国境の南の島で生まれる、青臭く愛おし
い映画たち。本作も期待に胸を膨らませながら初日に鑑賞したが、残念なが
ら私のツボとは少しずれた作品だった。

いじめられっ子で友達のいない孤独な少年黃立淮が、偶然知り合った自分と
は違うタイプの葉一凱と林永群を繋ぎ止めるために、嘘を重ねたことは理解で
きる。保身に走る林永群と、友情のため、もしくは自身の信条のために寡黙に
中傷に耐える葉一凱のどちらも、学生にはよくある姿だと思う。しかし私が解せ
ないのは、夏薇喬は何故、死ななければならなかったのか? ということ。
仕事で多忙な母に金品だけ与えられて、彼女は寂しかったのか? しかし高
校生にもなれば、心は家や家族よりも、外の世界に向くのではないだろうか。
ママが仕事でいない、ラッキー☆くらいに捉えて、夜遊びするなり友だちを家に
呼ぶなり、何だってできただろう。ましてや夏薇喬ほどの美しい子なら。そんな
にも若く、可能性を秘めた命を散らすなんて・・・。そこが納得行かなかったため
か、最後までモヤモヤとした気分で劇場を後にしてしまった。

映画を客観視できず、日々高校生男子と接している 「私」 の目線で観て
しまうのは悪い癖かもしれない。冷静に観れば、いい映画なのかもしれない
(多分そうなのだろう)。でも、どうしても他人事とは思えないんですよね。
( 『共犯』 監督:張榮吉チャン・ロンジー/2014・台湾/
主演:巫建和ウー・チエンホー、鄭開元チェン・カイユアン、鄧育凱トン・ユィカイ)
テーマ : ☆.。.:*・゚中国・香港・台湾映画゚・*:.。.☆
ジャンル : 映画
『ターミネーター:新起動/ジェニシス』

TERMINATOR: GENISYS
2029年、人類はジョン・コナー(ジェイソン・クラーク)をリーダーに、機械
軍との闘いを続けていた。彼は自らを産んだ母、サラ・コナー(エミリア・クラ
ーク)を守るべく、カイル・リース(ジェイ・コートニー)を1984年に送り込む
のだったが・・・。
ご存知 『ターミネーター』 シリーズ第5弾。もしくは1、2のリブート、と
言ったほうが的確かもしれない。多世界解釈というか、シリーズの設定を
ふまえつつ新たなタイムラインで物語が進行する。”Pops”となったシュワ
ルツェネッガーの復帰は大歓迎だけれども、消化不良感は否めない作品
だった。

ピッチピチに若返りしたサラ・コナーはまだ良しとするにしても、ジョン・コ
ナーとカイル・リースはせめて 『T4』 のふたり、クリスチャン・ベイルとア
ントン・イェルチンが続投するわけには、、、いかなかったんでしょうね。大人
の事情? しかし今やT4ってなかったことにされてるような気が・・・。ヒドイ
イ・ビョンホン(大出世!)もせっかくセリフなしでいい感じにT-1000を演じ
ているのに、2のロバート・パトリックとはあまりにも扱いが違うような・・・。
無表情で無慈悲な感じがよかったのに、過去作オマージュのためだけの
ような登場はちょっと残念。そして一番の不満は、ダークサイドに落ちたジョ
ン・コナーですよ。あ、あり得ん!!(怒)
もう、「そりゃないよ~」 と思いながら観ていました。人類の救世主となる
はずのジョン・コナーを守るんだ、ジョン・コナーこそが人類の希望であり、
未来のリーダーなんだ、ってのがこのシリーズの肝なんじゃないの?? そ
こだけは筋を通して欲しかった。彼だけは 「絶対的」 な存在でなければ。
オリジナルを改変、改悪してしまうリブートなんて、、、無理に作らなくていい
んじゃない? ネタ切れ? なのにJ・キャメロン絶賛て、、マジですか。

まぁ、シュワルツェネッガーの”I'll be back.”と、ダダン、ダン、ダダン、
はよかったけど。でも、それも過去作の遺産だよね。
( 『ターミネーター:新起動/ジェニシス』 監督:アラン・テイラー/
主演:アーノルド・シュワルツェネッガー、ジェイソン・クラーク、エミリア・クラーク)
テーマ : ターミネーターシリーズ
ジャンル : 映画
みんなでうちへ帰ろう! ~『ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』

SHAUN THE SHEEP THE MOVIE
ひつじのショーンは、牧場で仲間たちと楽しく暮らしてはいるものの、ルー
ティンな生活に退屈していた。牧場主を眠らせて休日を楽しもうとしたショー
ンたちだったが、偶然が重なって牧場主は街へ出、記憶喪失となってしまう・・・。
クレイアニメは昔から大好き。子どもの頃、ビフィズス飲料のコマーシャル
(ビフィズス、ビフィズス、キンキンキ~~ン♪ ってやつ) がテレビで流れ
る度に目が釘付けで、「凄い!」 と感動していた。本作もとっても面白かっ
た~。これEテレでやっているのですね? 知りませんでした。

何せ、ショーンたちキャラクターがかわい過ぎる(悶絶)。擬人化された彼ら
は二足歩行するし、人間に変装しても誰も怪しまない(笑)。『ウォレスとグル
ミット』 に似ているな、と思っていたら同じスタッフだったという。。こういう映画
を真面目に(?)作る大人って、好きだなぁ。ひつじたち以外の人間さえもセリ
フなしなのに、感情や面白さはビシバシ伝わってくる。シンプルなストーリーで
あることを差し引いても、ディレクションが素晴らしいんだと思う。
しかし・・・。夏休み真っ最中のシネコンは、自由過ぎる幼児たちで阿鼻叫喚
状態(汗)。それもまた、いい思い出です。

( 『ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』 2015・英、仏
監督:マーク・バートン&リチャード・スターザック)
ヨロコビとカナシミ~『インサイド・ヘッド』 【2D・吹替え版】

INSIDE OUT
両親に慈しみ育てられた11歳のライリーは、アイスホッケーが大好きな、
明るくお茶目な少女。しかし生まれ育ったミネソタからサンフランシスコへ
引っ越すことになり、彼女の内面に変化が起こり始める。
毎夏恒例、ピクサーの新作アニメーション。本国でも当然のごとく大ヒット
&高評価らしく、めちゃめちゃ楽しみにしていました。そして当然ですが、よ
かった、、、物凄くよかった、、、。子どもの成長、というテーマに、ちょっと
だけ 『TS3』 を思い出したかな。おもちゃとイマジナリー・フレンドの違い
はあるけれど。

主人公はライリー、そしてストーリーを動かすのは彼女の内面、ヨロコビ、
カナシミ、イカリ、ムカムカ、ビビリという5つの擬人化された感情。「ヨロコ
ビでいっぱい」 に祝福されて生まれてきたライリーは、ヨロコビが主導す
る人格。しかし、引っ越し、転校という思いがけない試練が、彼女の性格
に影響を及ぼして・・・。
吹き替えで観たけれど、声優はとってもよかったと思う。ヨロコビの竹内
結子はもちろん、やっぱりカナシミの大竹しのぶですね・・・。最後まで彼女
が演じているとわからなかったし、はじめのうちはカナシミの 「傍若無人」
な空気の読めなさにほんっと~にイライラさせられた。でもね・・・。
ヨロコビとカナシミは 「表裏一体」、INSIDE OUTな関係なんだな。そし
てヨロコビの髪がブルー、ということはヨロコビはカナシミに含まれていて、
カナシミから生まれた感情なのかも? しれない。人生って、うれしい楽し
いことばかりではないものね。悲しいときに、きちんと悲しめないと心によ
くないんだと思う。

エンドロールの一文、“this film is dedicated to our kids. please
don’t grow up. ever.”に心を打たれてしまった。私も子どもに対して、
「そんなに早く大きくならないで」 とずっと思いながら子育てしていたよう
に思う。子どもの成長はうれしい反面、寂しさも連れてくるものだから。
本編前のドリカムの主題歌と、併映短編はあまり好みではなかったかな。
監督のコメントも、”INSIDE HEAD”と言っていてビックリ^^;;
とは言え、本作は子どもから大人へ生まれかわるための 「思春期」 とい
う、誰もが通過する時間について描かれた素晴らしい作品。必見ですよ!
( 『インサイド・ヘッド』 監督・共同脚本:ピート・ドクター/2015・USA)
ひとりじゃない~『きみはいい子』

小学校の新任教師・岡野(高良健吾)は、学級崩壊やいじめ、モンスターぺア
レントの対処に疲れ果てる毎日。夫が海外へ赴任し、3歳の娘と二人暮らしの雅
美(尾野真千子)は、娘に手を挙げてしまう。小学校近くに独居する老婦人(喜多
道枝)は、「こんにちは、さようなら」 とあいさつする少年と出逢う。
中脇初枝さんの原作は、3年前に読んだ。『そこのみにて光輝く』 の呉美保
監督が映像化するというニュースに、楽しみにしていた反面、少しの不安もあ
った。辛い思いをしている子どもがたくさん登場するはずで、暗く、救いのない
気分になるのは嫌だな、と思っていたから。

私もかつては小学生の母だったから、4年生のクラスのカオスな雰囲気はよく
わかる。高良健吾が、新任教師のオタオタぶりを好演していて、、、。この子は
本当に、世之介みたいにいい子なんだろうな、と思ってしまう。
その新任教師の姉は離婚して、幼い息子と実家に出戻っている。「あたしが
子どもにやさしくしたら、子どもは周りにやさしくする。どんどんやさしさが伝わ
って、世界が平和になる。だからお母さんってすごいんだよ!」
正論だと思う。その通りだと思う。でも、離婚しても戻る実家があって、やさし
いおじいちゃんおばあちゃん(おい、じーちゃんと一緒に風呂入ろう!)が孫を
見てくれる環境にあるから言えるんだろうな、とも思う。
結婚生活や子育てが辛くても、帰る実家のない母親はどうすればいいんだ
ろう? 逃げ場のないストレスは、どうしても弱い者=子どもへ向かうだろう。
そもそも、どうして子育てって楽しくないんだろう? 子どもって、もともと母親
が一人で育てるものじゃないんじゃないか? と思う。まったく、尾野真千子を
見ていたら・・・。心が痛くてたまらなかったよ。

そこに、二児の母大宮さん(池脇千鶴)の登場、である。もう、最強。怖いも
んナシ!! 一体何なんだ、あのリアル過ぎる人物造形は(笑)。この映画
の憂鬱モードは、全て大宮さんが一人で吹っ飛ばしてくれる。しかも、彼女の
夫が高橋和也、って・・・。同じ画面には登場しないけれど。
硬質な、暗い色調だった世界が、ある抱擁によって色を取り戻す。虐待す
る父兄に、回れ右して逃げるように去った岡野も、「扉を叩く人」 になれた。
少しづつでいい、一人ひとりがやさしくなれたら。子どもはきっと、大人の
写し鏡だから。
( 『きみはいい子』 監督:呉美保/2015・日本/
主演:高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴、喜多道枝、高橋和也)