長い夜~『ラン・オールナイト』

RUN ALL NIGHT
かつて 「墓掘り人」 の異名を取り、ニューヨーク・マフィアの殺し屋とし
て名を馳せたジミー・コンロン(リーアム・ニーソン)。しかし今は酒に溺れ、
組織の厄介者に落ちぶれていた。そんな彼を唯一気にかけているのは、
長年に渡る親友であり組織のドン、ショーン・マグワイア(エド・ハリス)だ
ったのだが・・・。
すっかりアクション俳優としての活躍が目立つリーアム・ニーソン。近頃
は正直、少々食傷気味ではあったが、これは久々の大ヒット! ニューヨ
ーク、一夜限りの逃走劇は親子の絆を再生する旅であり、長年の親友と
の決別も意味する。父にとって自身の分身である息子は唯一無二の絶対
的存在であり、どんな犠牲を払っても守り抜くべき命。その息子を守るため、
親友の息子を殺した男と、息子を殺された男。長年憎み、忌み嫌っていた
父に守られる息子。シンプルな関係に複雑な心理が絡み合い、ニューヨー
クの夜を疾走するノンストップアクション、ここに極まれり! 最高に面白か
った。

なぜここまで大絶賛するかというと、息子を演じた二人の俳優がめっちゃ
好みだったから(笑)。典型的なドラ息子ダニーを演じたボイド・ホルブルック
は、なんとあのエリザベス・オルセンの元婚約者! 偉大な父をどうあがい
ても超えられず、自身の小物さ加減に苛立ちをあらわにする、その徹底的
なクズっぷり。Dead OR Alive!
父を恨み、絶縁し、二人の娘と妊娠中の妻を愛するマイクを演じたジョエ
ル・キナマンは、父に向ける憎悪の中に時折愛着が滲み出る、その切なさ
たるや・・・! 「あんたが死ぬのが怖かった」。彼が父親のいない子どもた
ちにボクシングのコーチをするのは、誰よりも父のいない寂しさを知ってい
るから。父を名前で呼んでいた息子は、最後の最後にその言葉を口にす
るのだ。

この逃走劇に厚みを与えているのはもちろん、エド・ハリス、ニック・ノル
ティといった脇役たち。人が人を殺めるということ、一線を越えるということ
が、人生にどんな意味をもたらすのか。二度と熟睡はできない人生、ジミ
ーは息子マイクに、その十字架だけは与えたくなかったのだ。「お前は撃
つな!」 何度も何度も制止する父。その願いが叶えられたとき、長い夜
が明ける。
( 『ラン・オールナイト』 監督:ジャウマ・コレット=セラ/2015・USA/
主演:リーアム・ニーソン、ジョエル・キナマン、ボイド・ホルブルック、エド・ハリス)
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女を船に乗せてはいけない~『海にかかる霧』

海霧
SEA FOG
1998年、経済危機下の韓国・麗水。小さな漁船の船長(キム・ユンソク)は
金に窮し、中国からの密航に加担する。船長には絶対服従である5人の乗組
員たちは、密航者の中に若い女がいることに気付く。「女を船に乗せるな」 と
言った船長の不安は的中し、若い女・ホンメ(ハン・イェリ)を巡り、序列が守ら
れていた小さな船は、不協和音を奏で始める。
韓国サスペンス映画の金字塔 『殺人の追憶』 の脚本家の監督デビュー作
であり、異才ポン・ジュノプロデュース、とくれば・・・。一筋縄ではいかない映画
であろうことは想像がつく。観逃し厳禁作品であることも。予想通り、仕事帰り
の眠気も吹っ飛ぶ、戦慄のサスペンスだった。

船長は陸には居場所がなく、廃船寸前の船を自らの 「宝」 と呼び、乗組員
たちを家族のように考えている。その愛着ゆえに、視界ゼロの海霧の中で暴走
を始める、彼の狂気が恐ろしい。演じるはキム・ユンソク、破壊的キャラはお馴
染みの彼ではあるが、本作での 「狂いっぷり」 は正に貫禄。そして彼だけで
はなく、乗組員全員が徐々に狂い、死に至る描写には容赦がない。
しかしこの映画、実際に起こった事件に基づいているというのだから更に恐
ろしい。韓国で船の事件と言えば 「セウォル号事件」 が記憶に新しいところ
だけれど・・・。

「6年後」 と字幕が出た時、「蛇足では?」 と危惧したけれどもさにあらず。
『殺人の追憶』 コンビが、凡庸な再会のシーンなど用意しているはずがない!
若く、正義感に溢れていたドンシク(パク・ユチョン)の、苦い表情のラスト。重苦
しいものを、重苦しいままに観る者に差し出す、容赦のない映画だった。
・・・ちなみに、本作はレディースデイに鑑賞。ほぼ満席の場内は、ユチョン
ファンと思しき女性たちばかり。終映後、皆一様にテンションが下がっている
のがわかった。うちわももらったよ。
( 『海にかかる霧』 監督・共同脚本:シム・ソンボ/2014・韓国/
主演:キム・ユンソク、パク・ユチョン、ハン・イェリ)
愛しかない~『Mommy/マミー』

MOMMY
2015年、架空のカナダ。シングルマザーであるダイアン(アンヌ・ドルヴァル)
の息子スティーヴ(アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン)は、ADHDのため矯正施
設に入所していた。しかし問題を起こした彼は施設から拒絶され、自宅へ戻
される。時として暴力衝動を起こすスティーヴと日々対峙し、疲弊していたダ
イアンは、ある日隣人のカイラ(スザンヌ・クレマン)に助けられる。
本作で監督・製作・脚本・衣装・編集を手掛け、カンヌ映画祭において審査
員賞を受賞したグザヴィエ・ドラン。彼は 「若き(美しき)天才」 と称されるこ
とが多いが、まさに 「映画を撮るために」 生まれてきた人だと思う。過剰に
エモーショナルかつ過剰にカラフルなその作風、その画風は観る側を選ぶだ
ろうし、毀誉褒貶相半ばするだろう。意図的に鳴り響く音楽も騒々しい。しかし
個人的には、全面的に支持したい。139分の長尺を感じさせない力作。

その背景が全く語られないことで、逆にカイラに強く心惹かれた。演じるスザ
ンヌ・クレマンは 『わたしはロランス』 が記憶に新しい。一見、何の問題もな
いように見える彼女と夫と幼い娘の三人家族に、どんな怪物が潜んでいるの
か。その怪物と共存する道を選ぶしかないカイラの人生にも、「希望」 があっ
て欲しいと願う。もちろん、ダイアンとスティーヴの人生にも。
もがき苦しむ彼ら、すれ違い、思い通りに行くはずもない人生。1:1、正方形
に切り取られたスクリーンを(泣きながら)見つめながら、私自身の過去、ある
出来事を思い出していた。

「お母さん、何歳まで生きる?」 9歳だった息子に、そう尋ねられた。
それは私の祖父母が相次いで亡くなった頃。息子も幼いなりに、「死」 という
ものを意識したのだろう。
「う~ん、80歳くらいかな?」
「そのとき、僕は何歳?」
「う~ん、まだ若いね・・・。じゃあお母さん100歳まで生きるわ!」
「うん、絶対やで」 「約束な」。
◆◆◆
光陰矢のごとし。今息子は15歳、思春期の嵐は凪ぎつつあり、とうに私の背丈
など超えてしまった。一人息子を案ずる母は疎ましい存在に他ならず、私の死を
畏れた幼い頃の彼とはまるで別人のように、寡黙にそこにいる。
それでも私は忘れない。「100歳まで生きて」 と、彼が願ってくれた日のことを。
ただ、それだけのことだ。親子なんて、ただそれだけ。
愛しかない。

Xavier Dolan
( 『Mommy/マミー』 監督・製作・脚本・衣装・編集:グザヴィエ・ドラン/2014・加/
主演:アンヌ・ドルヴァル、アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン、スザンヌ・クレマン)
公園のとなり~ 中国食堂261
騙し騙され~『フォーカス』

FOCUS
天才詐欺師ニッキー(ウィル・スミス)は、近づいてきた若い美女ジェス(マ
ーゴット・ロビー)の詐欺を見破り、逆に彼女を自らの詐欺集団のメンバーに
加える。
劇場予告でロドリゴ・サントロの顔を久々に観て、彼目当てに鑑賞。数年の
ブレイクを挟んで、アメリカとアルゼンチンで繰り広げられるコン・ゲーム。
面白かったかと言われると即答しかねるけれど、つまらなかったとも言い切
れない、ちょっと微妙な作品。しかしヒロインであるハリウッドの新星、マーゴ
ット・ロビーは観る価値大いにアリ。この人、ホントに完璧な美人だと思う。
劇中、「胸が小さい」 とdisられていたが、それも御愛嬌。昔々のブルック・シ
ールズに似ているな、と思いながら眺めていた。

前半、アメリカパートでちょっとうとうとしてしまったのだが、ロドリゴ・サント
ロは後半しか出てこないからいいんです(いいのか?)。改めて思ったけど、
ロドリゴ・サントロって中田英寿に似ていますね。。。相変わらずカッコイイ♪
と、それくらいしか感想のない映画だったな~^^; まぁ、マーゴット・ロビー
は今後も要チェック、ということで。新バットマンでは、ベン・アフレックやジャ
レット・レトと共演らしく。楽しみです♪

( 『フォーカス』 監督・脚本:グレン・フィカーラ&ジョン・レクア/
主演:ウィル・スミス、マーゴット・ロビー/2015・米、アルゼンチン)
連帯/橋をかける~『パレードへようこそ』

PRIDE
1984年、サッチャー政権下のロンドン。二十歳の誕生日を迎えたジョー(ジョ
ージ・マッケイ)は生まれて初めてゲイ・プライドに参加し、そこでマーク(ベン・
シュネッツァー)やマイク(ジョセフ・ギルガン )と出逢う。彼等は、ストで疲弊す
る炭鉱労働者を支援しようと、募金活動 (LGSM = Lesbians and Gays
Support the Miners)を始めようとしていた。
MinersをMinorの複数形だと勘違いしていることに、映画の中盤辺りで気
付いた。炭鉱労働者とマイノリティの発音が似ているのは、ただの偶然とはい
え何かの符丁のようにも思える。
同性愛者たちが、政府と警察に抑圧されている同志として炭鉱労働者を支
援し、大きなうねりとなって世界を動かした、驚くべき実話の映画化。ノー・ス
ター(ビル・ナイやイメルダ・スタウントンは、役者ではあるがスターではない)
の小品ではあるものの、どんな大作にも負けないインパクトと感動をもたらす。
この映画がくれた笑いと、涙、涙、涙の余韻が消えることはないだろう、私が
生きている限り。80年代の懐メロ(I miss disco!)も満載、素晴らしい作品
でした。今年のベスト作の一本。

サッチャー政権に抗う炭鉱労働者たちの物語は、様々な映画で繰り返し語
られて来ている。しかしまだ知られていない、こんな逸話があったとは。イング
ランドとウェールズの間にかかる大きな吊り橋を、主人公たちがミニバスで渡
るシーン。空撮からの美しく壮大な情景は、異なる来歴の人々を繋ぐ象徴とし
て、深い印象を残す。
登場人物全てが主人公と言える群像劇であり、それぞれがとっても魅力的
に描かれている。ロンドンのクィアたちも、ウェールズの小さな村の人々も。
特に同性として、古今東西、図々しくても憎めない姦しい女たちの生態は変わ
らないな、と大笑い。おばさん最強!
個人的には、日本の岡田将生のようなウブなジョー(ジョージ・マッケイ)に
魅了され、彼を目で追ってしまった。チャリティライブの後、朝焼けの中を彼
が家路につくシーンが最高。初めての朝帰り、世界が変わったと感じながら
歩く彼の成長とともにこの映画はあり、避けては通れないエイズ禍を描きな
がらも、ラストシーンでは爽やかな希望に満たされる。それは、彼らが皆、精
一杯生きているから。ゲイの詩人の会のパレードに恐る恐る参加する、クロ
ーゼットだったクリフ(ビル・ナイ)も愛おしい。

ストレイトも、ゲイもレズビアンも、そしてまだどちらか決めかねている人も、
誰もが生き易い世界が本当に実現すればいいな。そしてこの映画は、自由
や権利は予め与えられるものではなく、自らの手で勝ち取るものなのだと改
めて教えてくれる。英国映画万歳!
( 『パレードへようこそ』 監督:マシュー・ウォーチャス/2014・英、仏/
主演:ビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、ジョージ・マッケイ、パディ・コンシダイン)
キラ☆キラの魔法~『シンデレラ』 【字幕版】

CINDERELLA
両親を亡くしたエラ(リリー・ジェームズ)は、継母(ケイト・ブランシェット)と義
理の姉妹に 「シンデレラ」=灰かぶり姫と呼ばれ、召使同然の扱いを受ける。
辛い日々を送っていたある日のこと、彼女は森で王子(リチャード・マッデン)と
出逢うのだが・・・。
誰もが知っている名作童話 『シンデレラ』 の実写映画化。いや~、素晴らし
い。エンドロールが始まって、私は心の中で絶叫していた。「サンディ・パウエル
!」 「スワロフスキーーーーー!!!」 と。この名衣装デザイナーとクリスタル
メーカー、そしてフェアリー・ゴッドマザー(ヘレナ・ボナム=カーター)の 「キラ
キラの魔法」 にかかると、忘れかけていた乙女心が爆発する。「優しさと勇気」
がテーマの、ディズニーらしさ全開の王道作品。超オススメ!

可憐な新人、リリー・ジェームズもGoodだけれど、邪悪な役どころを嬉々と
して演じているように見えるケイト・ブランシェットが美しくも哀しく、貫禄たっ
ぷり。リアルフェアリー・ゴッドマザーなヘレナ・ボナム=カーターは超ハマり
役。そしてステラン・スカルスガルドの登場にニンマリ。ケネス・ブラナー監督、
やりますね!!
幼い頃、シンデレラの物語を知った私は、少しだけ悲しかった。「足の大き
な女の子は、幸せになれないのかなぁ?」 と。夢見る頃はとうに過ぎ、白馬
に乗った王子様は永遠に現れないことを知っている今の私だけれど、この映
画を観ている間だけは、キラキラの魔法で幸せを感じていられた。映画って、
そういうモノですよね?
ああ、あのブルーのドレス・・・! スワロフスキー・クリスタルが散りばめら
れた、辺りを払うほどの輝きを放つドレス! 溜め息が出る。

併映短編は 『アナと雪の女王/エルサのサプライズ』。吹替え版の上映が
やたら多いと思ったら、この作品のせいなのですね(多分)。ディズニーランド
にもアナ雪エリアができるらしいし、これはディズニーの定番作品になりそう。
もちろん、大歓迎です。
( 『シンデレラ』 監督:ケネス・ブラナー/2015・USA、UK/
主演:リリー・ジェームズ、ケイト・ブランシェット、ヘレナ・ボナム=カーター)
( 『アナと雪の女王/エルサのサプライズ』 2015・USA/
監督:ジェニファー・リー&クリス・バック)
ファミリー/さよならも言わずに~『ワイルド・スピード SKY MISSION』

FURIOUS 7
『ワイルド・スピード』 シリーズ第7作。実はこのシリーズ、劇場では観た
ことがない。しかし今回はどうしても観たかった。ポール・ウォーカーの遺作
になってしまったから・・・。もちろん字幕版にて鑑賞。
本作は全世界で特大級のメガヒットを記録しているらしいが、それも納得
の面白さ。「ありえねぇ~~」 映像の乱れ打ちではあるけれども、今日び
カーアクション映画はこれくらいやらないと、インパクトに欠けるのだろうと
思う。悪役がジェイソン・ステイサム兄貴、っていうのももう、最高。最強で
した。

そして何と言っても本作の見どころはポール・ウォーカー(涙)。撮影が未完
のまま、なんと自動車事故でこの世を去るという・・・。皮肉な運命に言葉を失
ったのが昨日のことのよう。でももう2年も前になるのですね。彼の実の弟が
ボディ・ダブルを務めて撮了した、と聞き、一体どうなっていることやら、と心配
したが、映像に不自然さはほぼなかったと思う。彼の一挙手一投足を、目に焼
き付けよう。
ジーンズに白いTシャツ、スニーカーという、プロポーション命のシンプルな
スタイリングが、完璧に似合っている。長身金髪碧眼、非の打ち所のないこん
なにも美しい青年が、こんなにも早くこの世を去ってしまうとは、、、。返す返す
も、残念で仕方がない。
ラストシーンはまさに、ポール・ウォーカー・トリビュート。さよならも言わずに
去った盟友に、チームの、いや 「ファミリー」 の全員が涙したことだろう。この
映画の大ヒットで、ポール・ウォーカーという俳優が世界中の多くの人の心に
刻まれたことが、せめてもの慰めかな、とも思うけれど・・・。RIP.

( 『ワイルド・スピード SKY MISSION』 監督:ジェームズ・ワン/
主演:ヴィン・ディーゼル、ポール・ウォーカー、ジェイソン・ステイサム/2015・米、日本)