アメイジング・エイミー~『ゴーン・ガール』

GONE GIRL
アメリカ中西部・ミズーリ州のある町。結婚5周年を迎えた朝、ニック・ダン
(ベン・アフレック)の妻エイミー(ロザムンド・パイク)が、忽然と姿を消した。
すぐさま警察に通報したニックだが、逆に妻殺しの嫌疑をかけられてしまう。
全米ベストセラー小説を、鬼才デヴィッド・フィンチャーが映画化。脚色を
原作者ギリアン・フリンが担当したためか、はたまた安定のフィンチャーゆ
えか、149分の長尺をものともしない、極上のサスペンスに仕上がっている。
期待値MAXで鑑賞しても、決して裏切られることはないだろう。「この映画
を観るまでは、年間ベストに言及するなかれ」 と言われていたのも納得。
怖いです(笑)。

この映画の凄いところは、前半と後半でストーリーが反転するにも関わら
ず、トーンが終始一貫していること。呼応するファーストシーンとラストシー
ンは全く同じ構図であるが、被写体である妻エイミーと、彼女を見つめる夫
ニックは、全くの別人となっている。彼らを見つめる私たち観客は、2時間
半の間引き込まれ、混乱しかき乱され続ける。
キャストも 「完璧主義者」 フィンチャーらしくて素晴らしい。間抜けで浮
気者で、女たちに振り回されるニックはベン・アフレックのパブリックイメー
ジそのままだし(失礼)、狂気じみていると言うしかないパラノイア・エイミ
ーも、ロザムンド・パイクが ”アメイジング” な演技を披露している。そう、
正直なところ、ロザムンド・パイクがここまで凄い女優だとは知らなかった。
結婚に固執し、幸せな妻で在り続けることに執着し、実体よりもイメージを
優先する冷血な女。自分とは180度違う、などと思いながら観ていた。
しかしラスト近く、傷つけ合い、支配し合う関係はおかしい、と喚き散らす
ニックを、私は 「それが結婚やん・・・」 と冷めた目で観ていた。すると次
の瞬間、エイミーが言ったのだ。 ”That's marriage. ”
えーー!! 同意見(爆)。
この映画、独身の人が観たらダメですね、、あと、結婚前提のカップル
がデートで観るとか、最悪(笑)。夫婦で観て、笑い合えたらその二人は
いい関係かも。

そう、夫婦は結局他人。だけど逆に、兄妹っていいなと思った。 「何があっ
てもあなたの味方よ」 「君だけが僕の理性を保ってくれる」 な~んて、身内
でもなかなか言えることじゃない。「生まれる前から一緒だもの」 ダンとマー
ゴ(キャリー・クーン)、この二人は双子だから、余計絆が強いのかな? ダン
が愛情を込めて呼ぶ 「ゴー」 って響きがステキ。
胎児の心音のようなエンディングサウンドを聞きながら思った。エイミーよ、
うまくやったと思ってるだろーが、神は見ているぞ! 悪人は久しからず。エ
ミリーが殺したデジー・コリンズ(ニール・パトリック・ハリス)は夫婦の子ども
として転生し、いつか母親を殺すだろう、と。
( 『ゴーン・ガール』 監督:デヴィッド・フィンチャー/
主演:ベン・アフレック、ロザムンド・パイク/2014・USA)
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「チーム三蔵」 ができるまで~『西遊記~はじまりのはじまり~』 【吹替え版】

大話西遊之三藏付魔
JOURNEY TO THE WEST:
CONQUERING THE DEMONS
後に三蔵法師となる玄奘(ウェン・ジャン)がまだ剃髪する前、妖怪ハンターと
して修業中だった頃。妖怪の中にある善を呼び覚ますため、わらべ唄を歌って
働きかけていた彼は、当たり前だが常に大苦戦。そこに、美人だが滅法腕っ節
の強い段(スー・チー)が現れ・・・。
チャウ・シンチー監督の新作は、(40代以上の)日本人なら誰でも知っている
であろう西遊記。そう、夏目雅子の三蔵法師に、堺正章の孫悟空、ゴダイゴの
Monky Magic! ああ、ノスタルジー(笑)。楽しみにしていたけれど、時間が
合わなかったので渋々吹替え版で鑑賞。オープニングの 「西遊記、はじまり
のはじまりの、はじ~ま~り~~ぃ」 というナレーション(山寺さん?)にかなり
不安がよぎったものの、違和感はすぐに消えました。面白く観られて大満足。
続編が待ち遠しい~♪

主役のウェン・ジャンくんは初めてお目にかかりましたが、トニー・レオンの
若い頃に似ていないですか? 「いいひと」 キャラがハマる仔犬系の童顔が
かわいい。よく見ると変わった顔なのだが(すみません)、そのスタイルのよさ
と身のこなしで常に 「美人」 枠にカテゴライズされるスー・チーも、文句なし
に素敵! 彼女は今までの作品で、これが一番のハマり役なんじゃないだろ
うか。「やることある?」 「ある。ハウス!」 「ワン!」 このくだりに大爆笑。
アクションはもちろん、この映画とにかくギャグのキレがいいです。
やべきょうすけみたいな孫悟空も面白いけれど、玄奘の師匠の無意味なヅラ
に一番笑ったかもしれない。体型的には、この師匠が猪八戒かと思ったんだけ
どなぁ。

最後までシンチーは出てこないけれど、ラストに衝撃が待っていました。
三蔵法師って、男だったんだ・・・。←当たり前だろ!(笑)
( 『西遊記~はじまりのはじまり~』 監督・製作・共同脚本:周星馳チャウ・シンチー/
主演:文章ウェン・ジャン、舒淇スー・チー、黄渤ホアン・ボー/2013・中国)
テーマ : ☆.。.:*・゚中国・香港・台湾映画゚・*:.。.☆
ジャンル : 映画
戦地の父、その息子たち~『フューリー』

FURY
1945年4月、第二次大戦末期。ヨーロッパ戦線では、連合軍がドイツ軍を追
いつめていた。戦車 「フューリー号」 には、ウォーダディー(ブラッド・ピット)
を中心として兵士たちが乗り込んでいたが、副操縦士の戦死により、新兵の
ノーマン(ローガン・ラーマン)が配属されて来る。
戦争映画は苦手なので、好んでは観ない。ブラッド・ピットも、特に好きな
俳優というわけでもない。しかし本作のポスタービジュアルには、何故か惹
かれるものがあった。

始まってすぐに、観たことを後悔してしまった。悲惨で残忍な戦闘場面。戦
争の生み出すリアルな死や、傷の数々。ブランジェリーナは夫婦で、かつて
敵国だったドイツと日本をティスるのか、なんて考えも頭をよぎる。身動きの
取れない暗闇の中で、しかし次第に、映画に引き込まれていく自分に気付く。
監督・脚本は、傑作と誉れ高かった(そして観逃して悔しい思いをした) 『エ
ンド・オブ・ウォッチ』 のデヴィッド・エアー。戦争体験のない私たち観客に、
新兵ノーランの視点を与える構成が巧い。悲劇的な結末を迎えるこの作品だ
が、彼が生還することでほんの少し、救いを得られる。ほとんどの観客は、彼
に心を寄せているはずだから。

一番感動的な場面は、終盤のあるシーン。バイブル(シャイア・ラブーフ)
を常に冷淡に見ていたウォーダディーが実は、彼と同様に敬虔なクリスチャ
ンであったとわかったときの、バイブルの表情。ブラッド・ピットは言うまでも
ないが、初めて、シャイア・ラブーフがいい役者だと思った。
粗暴な言動を繰り返すグレイディ(ジョン・バーンサル)も、決して生まれつ
いての悪人ではないことに気付かされる。彼もまた、戦争の、死の恐怖から
必死で目をそらそうとする、一人の小心な男に過ぎないのだ。
「ここが家だ」 と宣言するウォーダディと、彼の 「息子」 たちは行動を共
にする。しかし、これはヒロイズムを描いた映画ではない。戦争という 「地獄」
の真っただ中で、生を全うするしかなかった男たちの悲劇。そのことを、戦争
を知らない私たちに伝える映画だと信じたい。
( 『フューリー』 監督・製作・脚本:デヴィッド・エアー/2014・英、中国、米/
主演:ブラッド・ピット、シャイア・ラブーフ、ローガン・ラーマン、マイケル・ペーニャ)
惑星間移動/重力最強説~『インターステラー』

INTERSTELLAR
近未来。頻発する大砂嵐によって小麦やオクラが絶滅し、人類は存亡の危機
に瀕していた。元宇宙飛行士で、今は農夫をしているシングルファーザーのクー
パー(マシュー・マコノヒー)は、政府が秘密裏に復活させていたNASAにより、人
類が移住できる惑星を探すプロジェクト 「ラザロ計画」 のパイロットに選ばれる。
頭脳派映画監督クリストファー・ノーランのSF大作。上映時間169分、しかし
全く、その長さを感じない。ワームホール、ブラックホール、量子力学に相対性
理論。「難解そうな映画」 だと、思い煩うことなかれ。本当に解けない 「宇宙
の謎」 が何であるか、この映画を観れば誰でもわかるはず。恒星の重力より
強く私たちを引きつけるのは、方程式では解けない 「愛」 という抽象的な概
念なのだと。
これからこの映画を観る方へ。ファースト・シーンをよく憶えておいて下さい。
※ 以下、内容に触れています ※

クーパーの娘マーフ役の女の子が 「佐藤健そっくり」 と予告編を観た時か
ら感じていたけれど、彼女が長じてジェシカ・チャステインになるとは! 全く
違和感がない(佐藤健とジェシカ・チャステインは全く似ていないが)。そして、
クーパーの息子トムはケイシー・アフレック! これには驚いたが、もっと驚く
のは天才科学者・マン博士。カプセルから出てくるとき、「まさかブラピ!?」
と色めきたったが(笑)、なんとビックリ、マット・デイモン。悪役な彼って、初め
て観た気がする。宇宙飛行士たちの孤独を癒すAI、TARSも印象深い。
「墜落する夢」 だけでクーパーの過去を語っているので、彼がNASAの計
画を承諾するのに全く葛藤してないように見えるのがやや駆け足、やや難点
に思うが、前半の 「伏線」 が回収されていく様は見事。ファースト・シーンで
いきなり老女が過去を語っていて違和感を憶えるのだが、ラストでその種明
かしがされるに至っては、感心しきり。全く、クリストファー・ノーランって一体
どういう頭の構造しているんだろう。彼がある種の天才であることは、間違い
ないと思う。

記憶に新しい昨年の傑作 『ゼロ・グラヴィティ』 を彷彿させる場面もあり。
娘への愛、「必ず帰る」 という約束を貫くマシュー・マコノヒーが素晴らしい。
ハンス・ジマーの音楽とマイケル・ケインの声は、宇宙空間に谺しながら私の
耳に還る。起こるべきことは必ず起こる。期待以上の傑作だった。
( 『インターステラー』 監督・製作・共同脚本:クリストファー・ノーラン/
主演:マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステイン/2014・UK、USA)
小さな放浪の科学者~『天才スピヴェット』 【2D・字幕版】

THE YOUNG AND PRODIGIOUS
T.S. SPIVET
L'EXTRAVAGANT VOYAGE DU JEUNE
ET PRODIGIEUX T.S. SPIVET
モンタナ州の分水嶺近く、広大な牧場に家族と暮らす10歳のT・S・スピヴェ
ット(カイル・キャトレット)は、科学が大好きな天才少年。「永久機関」 の発明
により、彼はスミソニアン学術協会から表彰されることになったが・・・。
二卵性双生児の弟をライフルの暴発事故で亡くし、自らを責め続けている孤
独な少年が、首都目指して北米大陸横断の旅に出るロード・ムービー。主役の
少年、カイル・キャトレットのかわいらしさと、ジャン=ピエール・ジュネが描き出
すビジュアルが最高! 監督初の3D作品ではあるが、2Dを選択。ごめんなさ
い。しかし十二分に堪能できます。飛び出さなくても大丈夫。

とにかくスピヴェットがかわいいのだ。父のカウボーイ気質を受け継がなかっ
た自分は、家族に愛されていないと感じる繊細な少年。どんなに頭が良くても、
添加物まみれのホットドッグが食べてみたいと願う10歳の子ども。私も幼い頃、
自分は家族に愛されていない、必要とされていないと感じ続けていたので、彼
の気持ちは本当によくわかる。私も、私だけの松の木が欲しかった。
貨物列車が走る、アメリカの壮大な風景が美しい。小さな放浪者は困難をく
ぐり抜け、アウトサイダーたちの助けを借りながら目的地に辿り着く。しかし、
そこで彼を待っていたのは彼の理解者ではなく、純粋な天才科学者を利己的
に搾取しようと企む大人だった。

青い鳥は案外近くにいた、という古典的な家族愛のストーリーではあるけれ
ど、マジカルでありながら奇抜には傾き過ぎない映像世界が、この映画に独特
の色合いを与えている、、、なんて解釈はどうでもいい! スピヴェット、かわい
い~! と、ただただ叫びたい(母目線の)私なのだった。この映画、大好きで
す。
( 『天才スピヴェット』 監督・共同脚本:ジャン=ピエール・ジュネ/
主演:カイル・キャトレット、ヘレナ・ボナム=カーター/2013・仏、豪、加)
少年時代~『6才のボクが、大人になるまで。』

BOYHOOD
テキサスに住むメイソン(エラー・コルトレーン)は、口数が少なく内向的な
少年。姉サマンサ(ローレライ・リンクレイター)とは、喧嘩しながらも仲がい
い。ミュージシャン志望だった父メイソンSr(イーサン・ホーク)は家族と離れ
てアラスカで放浪し、たまにしか会えない。母オリヴィア(パトリシア・アーク
エット)はシングルマザーとして自立すべく大学に復学を決意し、メイソンと
サマンサを連れて実家近くへと引っ越す。
一人の少年とその家族、周囲の人々の12年間を綴ったドラマ。12年間、
一人の俳優が同じ役を演じ続けるという、気の遠くなるようなプロジェクト
ではあるが、「壮大な」 とか 「大河」 などという形容とは、最も遠いとこ
ろに在る作品。仕掛け人はリチャード・リンクレイター、伴走するのはイー
サン・ホーク。間違いなく映画史に刻まれるであろう165分間、今年のベ
ストワン。

12年間、年に数日スタッフ・キャストが集合して撮り続けたというこの作品。
驚くほど年月の経過に違和感がない。キャストの醸す空気が、本物の家族の
様なのだ。メイソンはどんどん成長して、顔も、身体つきも変わっていくけれど
も、サマンサはある時期からあまり変わらない。女の子は早熟、男の子は晩成、
ということなのだろうか。
個人的に一番好きな場面は、サマンサ15歳の誕生日。初めてのボーイフレ
ンドが出来たと言う彼女に、父は言う。「いいか、よく聞くんだ。どうすれば妊娠
せずにすむか、わかるか?」 顔を覆って恥ずかしがるサマンサ、かわい過ぎ
る。ローレライ・リンクレイターは、監督の実の娘なのらしい。
しかしどうもわからないのは、オリヴィアはなぜ、結婚と離婚を繰り返すの
か? ということ。彼女ほど強い意志を持った女性が、手痛い目に遭ってもな
お、再婚するのかがわからない。アメリカはカップル文化だから、シングルで
いると都合が悪いのか(風当たりが強いとか)。再婚・離婚のたびにステップ
ファミリーが増えて、最早収拾がつかなくなっているではないか(笑)。自由人
・メイソンSrでさえ再婚する。超リベラルだった彼が、ライフルと聖書を抱えた
両親に育てられた女性を選ぶなんて・・・! あの場面は、ほとんどシュール
でさえある。そしてスポーツカーを売ってしまったロックな父は、ほんの少し、
ダサい大人になっている。これも歳月--。

15歳の少年と二人で暮らしている私に、オリヴィアに感情移入するなと言う
のは、土台無理な話である。数年前、我が息子が13歳の時、二人で夕食をと
りながら突然頭に浮かんだ。「この子にハンバーグを作ってやれるのも、あと
5年しかないんだ」 と。子育てって、たった18年しかできないんだ!
もっとマシだと思っていたと、息子が旅立つ日が人生最悪の日だと泣くオリ
ヴィアの気持ちが、痛いほどわかる。自分の時間がないと嘆いていたのに、
子どもがいたから、生きてこられたのだと今ならわかる。親はいつも、過去に
思いを馳せるけれど、子どもは未来を向いている。一瞬は永遠であり、その
一瞬の連なりが人生だと、この映画は教えてくれる。決して巻き戻せない時
間、その 「一回性」 は映画に通じる。時間とは人生であり、映画のことでも
ある。
流れゆく時間を描くことが映画を作ることであると、リチャード・リンクレイタ
ーは知っていたのだ。165分、かなりの長尺と言えるけれど、全く長く感じな
かった。むしろ、もっともっと、ずっとずっと観ていたいとさえ思った。愛おしい
時間について。

リチャード・リンクレイターという作家は、クリストファー・ノーランのような
頭脳派ではないし、タランティーノのような破天荒さもなく、映画の神様の
寵愛を一身に受けているタイプでもない。しかし彼ほど映画の可能性を信
じ、映画でしかできないことを見極めたチャレンジャーはいない。
アメリカの現代史とも言える12年間は、コンピュータやゲーム機器の進化
の歴史でもある。XBOXに熱中していた少年たちはもれなくwii sportsに
ハマり、スケルトンのマッキントッシュはiphoneとなり、彼らの手の中にある。
しかし、最後にメイソンが手にしているのがcanonのEOSだったことが少し、
誇らしかった。

最後にいらんこと言います。邦題がダサ過ぎる。『ボーイフッド』 で、何が
いけないんですか?
( 『6才のボクが、大人になるまで。』 監督・製作・脚本:リチャード・リンクレイター/
主演:エラー・コルトレーン、パトリシア・アークエット、イーサン・ホーク/2014・USA)