失われた時代~『華麗なるギャツビー』

THE GREAT GATSBY
1920年代、好景気に沸くアメリカ。ウォール街に勤務するニック・キャラウェ
イ(トビー・マグワイア)は、NY郊外の一軒家に引っ越す。対岸には、従妹にし
て大富豪の妻デイジー・ブキャナン(キャリー・マリガン)が、そして隣の大邸宅
には、ジェイ・ギャツビー(レオナルド・ディカプリオ)という謎めいた紳士が暮ら
していた。
異端の人、バズ・ラーマン渾身の一作。まさか3Dで来るとは・・・(私は2D
での鑑賞だったが)。実を言うと私、この監督あまり得意ではない。『ロミオ+
ジュリエット』 が、ちょっと合わなかったのだ。しかし、あの作品の中のレオは、
儚いまでに美しい。当時の彼をスクリーンに刻んでくれただけでも、監督には
感謝しなければならないかもしれない。しかし本作では、レオには監督から減
量指令が出たとか(笑)。貫禄出たもんね。
F・スコット・フィッツジェラルドの原作は、野崎孝訳、村上春樹訳ともに読ん
でいる。ロバート・レッドフォード&ミア・ファローの1974年版も観ている。
しかし、本作を観てやっと 「こういう話だったのか」 と理解できたような気が
する。滑稽なまでに一途な男と、どこまでも現実的な女の話である。

映画が始まっても、ギャツビーはなかなか姿を見せない。引っ張って引っ張
って、やっと登場したと思ったら 「オールド・スポート」 連発。うれしくなる。
とにかく、派手派手しく豪華絢爛なバズ・ワールドは健在である。「美し過ぎ
るシャツ達」 にデイジーがさめざめと泣く、村上春樹が 『トニー滝谷』 でオ
マージュを捧げた場面もある。しかし、「温室まるごと持ってきた」 ような部屋
でデイジーを待つギャツビーの挙動不審ぶりは、ほとんどギャグであった。
時代の熱に浮かされたように、過去の恋にうつつを抜かす男女を冷静に見
つめる、ニック・キャラウェイの存在。彼こそが、この物語の肝であるようにも
思った。たった一人の 「夢の女」 のために人生を捧げ、その女に裏切られ
たことも知らずに死んでゆく男を、ニックは 「グレイト」 だと書き残す。客観
的に見れば、ギャツビーは一途過ぎてバカな男である。しかしニックは、ギャ
ツビーを主観的にしか見ていない。それはニックとギャツビーが、二人とも原
作者・フィッツジェラルドの分身であるからに他ならない。

そうそう、ギャツビーとトム・ブキャナン(ジョエル・エドガートン)が偶然
遭遇した店、MJのショートフィルム 『スムーズ・クリミナル』 みたいでした。
( 『華麗なるギャツビー』 監督・製作・共同脚本:バズ・ラーマン/2013・米、豪/
主演:レオナルド・ディカプリオ、トビー・マグワイア、キャリー・マリガン)
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映画監督・木下恵介~『はじまりのみち』

第二次大戦下、戦意高揚映画を撮ることを強いられた映画監督・木下恵介(加
瀬亮)は、松竹に辞表を提出する。故郷・浜松に帰った恵介は、病に伏している
母(田中裕子)を疎開させるため、リヤカーで山越えしようとする。
アニメ作品を作り続けてきた原恵一監督が、初の実写映画を撮ると知り。興味
津津、期待そこそこで劇場へ駆け付ける。
恥ずかしながら、木下恵介という名前は知っていても、映画は観たことがない。
『二十四の瞳』 や 『楢山節考』 も、タイトルやあらすじを知っているだけ。しか
し先入観がない分、物語を純粋に捉えられるだろう、とプラス思考で。
失意の青年が、病身の母をリヤカーに乗せて山越えする。ただ、それだけの
話である。都落ちした次男坊は、ヤケを起こして母や、兄(ユースケ・サンタマリ
ア)や、家族に甘えている。無意識に。寝たきりの母は、そんな息子を丸ごと受
け入れ、兄は共にリヤカーを曳く。どんな慰めの言葉よりも、「共にある」 こと
を示し、改めて背中を押すのだ。いい家族・・・。

便利屋を演じた、濱田岳がいい。お調子者で正直者で、元気いっぱいだけれ
ど頭は空っぽに見える彼こそが、実は真実を見ている。遅まきながら、この映
画で初めて俳優・濱田岳の良さがわかった気がする。
一昼夜かけて山越えする彼らを淡々と写し撮る前半は、小さなロードムービ
ーである。そして後半は、木下作品の数々がスクリーンに映し出される。終戦
直後のモノクロ作品から、大原麗子のセリフが印象的なカラー作品まで。
「戦争に行く船じゃなくてよかった」。我が子を戦地に送りたいと願う母がいるだ
ろうか? 子を持つ親なら、誰だって子の幸せを願うもの。「戦争反対」 と言え
ない世の中になって欲しくない。改めて、そう思わせられた作品だった。
全体に、音楽が煽り過ぎていると感じられたのは少々、残念だった。しかし、
原監督の情熱と誠意、巨匠に対する敬意は十二分に感じられた佳作。

( 『はじまりのみち』 監督・脚本:原恵一/2013・日本/
主演:加瀬亮、ユースケ・サンタマリア、濱田岳、田中裕子)
天上大風~『風立ちぬ』

1920年代の日本。少年・堀越二郎は空に憧れ、「美しい飛行機を造る」 こと
を夢見る。帝大に進学した彼は大震災の日、美しく利発な少女・菜穂子と出逢う。
宮崎駿監督5年ぶりの新作映画、スタジオジブリ作品。初日に鑑賞。沁みた。
泣いた。
「宮崎駿「の」の字の法則」 を破り、初めて実在の人物をモデルにしたこの
作品、まさしく監督の 「集大成」 と呼ぶにふさわしい傑作でした。「美しい夢」
を追う、純粋さを描いた映画だと思う。
宮崎駿が、どれほど 「空」 を愛しているのか、もう痛いほど伝わってきた。
2013年7月20日、公開初日。大阪では、夕焼け空がとても美しかった。そして
映画の中の空は、現実のそれ以上に美しく描かれ、様々な表情を見せてくれ
たのだった。
飛行機は、その 「憧れ」 の空を駆けるための、夢をかたちにするための道具。
その夢が美しければ美しいほど、砕かれた時の痛みも大きい。
どんな逆境にあっても精一杯 「力を尽くして生きる」 ということ。一日一日
を、大切に生きようと努めること。それでも夢破れ、愛した者は去り、何度挫折
しても、「生きる」 ことを諦めず、人生に 「ありがとう」 と言う二郎。そう、夢を
見て、夢に向かって生きられた人生は、それだけで価値あるものに違いない。
この映画の中で一番好もしく思ったのは、二郎が何よりも仕事を優先していた
こと。「男は仕事をしなければ」 というセリフもあったが、病に伏せる妻に付き添
うよりも、仕事場に向かう二郎が好きだった。図面に涙をこぼしながらも、計算尺
を手放さない姿が好きだった。男は、いや人間は、働かなければ生きてはゆけ
ないのだから。
賛否両論は必至の、庵野監督起用について。ところどころ、棒読み過ぎて笑
ってしまったが、個人的には聞き苦しくはなかった。むしろ、意外と若々しい声
をしているのだな、と感心したほど。彼以外のボイスキャストは知らず、観終わ
ってビックリ! 貰いタバコばかりしている本庄は、西島秀俊だったのね。カプ
ローニは、野村萬斎だったなんて! 黒川の西村雅彦も、菜穂子の父の風間
杜夫も、課長・服部の國村隼も、みな素晴らしい仕事をしていたと思う。もちろ
ん、ヒロイン・瀧本美織も。
久石譲の音楽は、相変わらずの安心印。耳に心地よく、ストーリーに寄り添
う。そして何より、エンディングテーマ 『ひこうき雲』 。零戦の残骸を見下ろす
丘にたたずむ、二郎とカプローニのラストシーンから、荒井由実の歌声が導く
エンドロールまで。涙を止めることが、難しかった。

( 『風立ちぬ』 監督・原作・脚本:宮崎駿/2013・日本/
声の出演:庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊、西村雅彦、風間杜夫、野村萬斎)
生きねば。 (追記あり)
もうすぐ映画館に風が吹く。

楽しみ過ぎて涙が出そう。
生きねば。
§ § § § § § § § § § § § § § § § § §
風は、「吹く」 のではなく 「立つ」 ものなのですね。
初日に鑑賞。泣きました。(感想は後日)

楽しみ過ぎて涙が出そう。
生きねば。
§ § § § § § § § § § § § § § § § § §
風は、「吹く」 のではなく 「立つ」 ものなのですね。
初日に鑑賞。泣きました。(感想は後日)
2013-07-19 :
映画 :
グッバイ・マイ・ラブ~『くちづけ』

かつて人気漫画家だった愛情いっぽん(竹中直人)は、知的障害のある娘・
マコ(貫地谷しほり)とともに、グループホーム「ひまわり荘」にやってきた。そこ
には、やたらテンションの高いうーやん(宅間孝行)がいて、マコは彼に心を開
く。
全くノーチェックの邦画だったけれど、なんだか評判がよさそう・・・。堤幸彦
監督を信じて、いざ劇場へ。
舞台作品の映画化らしく、物語は全て「ひまわり荘」の中で展開する。パー
ティの準備をしながら、かつてアン・ルイスが歌った名曲「グッバイ・マイ・ラブ」
をひとり口ずさむうーやん。しかし、そこにマコの姿はない。
※ ※ 結末に言及します ※ ※
ユーモアやギャグにくるみながら、知的障害のある人々を巡る、厳し過ぎる
この社会の現実が語られる。実際、この映画を観た数日後に、この映画その
もののような「事件」を新聞紙上に見つけ、言葉を失った。
いっぽんのしたことを、赤の他人が糾弾することはたやすい。正義や道義や、
倫理観を振りかざして。人は何とでも言うだろう、それが「我がこと」でない限
りは。愛し過ぎてしまうと、冷静に、客観的に状況を把握するのは難しい。特
に、余命を告げられていたいっぽんは、全てに絶望していたのだろうから。

貫地谷しほりは苦手だったが、巧い女優さんなんだな、と認識を改める。真
理子ママ(麻生祐未)のような、明るくて厳しくてやさしい、大らかなお母さん
になりたいな。智ちゃん(田畑智子)は強いな、国村先生(平田満)って神様
みたい。そして一番興味を惹かれたのは、作・主演の宅間孝行さん。こういう
社会的な題材を選んで、物語を紡いで、自らが演じて・・・。すごい才能の持ち
主なんだな、と。でも、彼が主宰していた劇団は、残念ながら昨年末に解散し
てしまったらしい。
ラストシーン、カメラは俯瞰して、天空からひまわり荘を見下ろす。マコといっ
ぽんの魂が、天国に昇ってみんなを見守っているかのように。そう、きっと天国
で、二人は幸せに暮らしているよね? それくらいの夢想は、許して欲しいと
思う。現実があまりに厳しく、辛いからこそ。

( 『くちづけ』 監督:堤幸彦/原作・脚本:宅間孝行/2013・日本/
主演:貫地谷しほり、竹中直人、宅間孝行、田畑智子、橋本愛、麻生祐未、平田満)
母の懐~『嘆きのピエタ』

PIETA
町工場経営者からの借金取り立てを生業とするイ・ガンド(イ・ジョンジン)は、
天涯孤独な青年。30年間独りで生きてきた彼のもとに、ある日突然 「母」 を
名乗る女(チョ・ミンス)がやってくる。
人は皆、女から生まれ、子を産んだ女は母となる。母のない子はいない。血
肉を分けた母と子が、求め合うのは当然のこと。しかし我らがギドクが描くのは、
甘美で、感動的なだけの母子関係ではない。ギドク爆弾が炸裂する、ヴェネチ
ア国際映画祭金獅子賞受賞作。キム・ギドク完全復活! 私はうれしい(嬉泣)。

『悪い男』 に衝撃を受け、貪るように観続けたギドク作品。『弓』 まではほと
んど心酔し、熱狂状態だった。しかし 『絶対の愛』 で小さな疑問符が浮かび、
徐々にギドクの撮る作品に距離を感じるようになる。そして、3年のブランクを経
て発表された 『アリラン』 は観ていない。ギドクも苦しんでいたのだろう、その
苦しみに寄り添えなかった自分は 「ギドク好き」 ではあっても、ギドクマニア
とは言えないのかもしれない。
ギドクの映画は、観る者に緊張を強いる。一筋縄ではいかない登場人物たち、
血と暴力、痛み、あっ、と思わず息を呑むエンディング。少ないセリフと絵画的
な映像の中に、隠された寓意。その映像体験は、スリリングと言っても過言で
はない。本作は、久々にその緊張感がラストまで持続した秀作、だと思う。

息子の肉片を喰う母。『受取人不明』 で示された、この「究極」の愛情表現が
再現されている。債務者たちから 「悪魔」 と罵られるガンド。彼の魂を迷わせ
たのは彼を捨てた母であり、「母」 を乞うことで彼は束の間 「人間」 になる。
残忍な行為を繰り返すガンドを見つめながら、「可哀想」 だと思う私がいた。
私が被害者の母であるなら、彼を鬼畜と怨むだろう。しかし、そんな彼にも母が
いるのだと思い至ったとき、憐憫の情を禁じ得ない。母としてガンドを憎み、「母」
としてガンドを憐れむ女。チョ・ミンス演じる母性の激情は、安易な感情移入や、
救済を拒んでいる。そんな彼女と、深いところで繋がる自分を感じる。
( 『嘆きのピエタ』 監督・脚本:キム・ギドク/2012・韓国/
主演:チョ・ミンス、イ・ジョンジン、カン・ウンジン)
テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画
恋愛遊戯 ~『グランド・マスター』

一代宗師
THE GRANDMASTER
1930年代、中国。北部八卦掌の宗師・宮宝森は引退を決意し、南部との統
一を視野に後継者を探していた。闘神・李小龍ブルース・リーの師であり、詠春
拳の宗師である葉問イップ・マン(トニー・レオン)を中心に、父と娘、師と愛弟子、
そして流派を超えた武術家たちの「頂点」を巡る争いを描く、ウォン・カーウァイ
待望の新作。
国際版の海報が発表されて2年半。製作発表が一体何年前だったのか、もは
や覚えていない。相変わらず待たせてくれます、ウォン・カーウァイ。「何年かけ
とんじゃ!」 誰か言ってやって下さい(笑)。何年待とうが、ストーリーがグダグ
ダなのはもはやお約束。一線天(チャン・チェン)の存在意義は? 彼、葉問と
絡んでない気がするのは気のせいでしょうか。

しかし、つくづく思う。ウォン・カーウァイって究極のロマンチストだな、って。
葉問と宮若梅(チャン・ツィイー)の格闘シーン、二人の感情が恋愛モードに
変化して、まるでラブシーンのようなんだもの。あんないかついルックの監督
の中に、叶わぬ恋を抱き続ける繊細さが隠されているなんてね。だからこそ、
私はいつもウォン・カーウァイの映画を観たい、と思うのだけれど。東北部の、
雪景色のシーンも美しい。
優男代表のようなトニーがカンフー映画、って正直驚いたけれど、ちゃんと
強そうで素敵でした。
そう、、、監督の気持ちもわかるんですよね。トニーも、チャン・チェンも最高
だもん。チャン・ツィイーも、アジアのトップ女優であることを認めないわけに
はいかない。ウォン・カーウァイにしてみれば、「彼らと映画を作りたい! ス
トーリーは二の次!」 なのかもしれない。そして結局、私もそれで納得、な
のだった。

( 『グランド・マスター』 監督・製作・原案・共同脚本:王家衛ウォン・カーウァイ/
主演:梁朝偉トニー・レオン、章子怡チャン・ツィイー、張震チャン・チェン/
2013・香港、中国、米)
落ちる ~『さよなら渓谷』

静かな渓谷の町で暮らす尾崎(大西信満)とかなこ(真木よう子)の夫婦。一見、
仲睦まじいふたりにはしかし、昏い秘密があった。
吉田修一の同名小説(未読)の映画化。モスクワ映画祭審査員特別賞受賞で
話題の作品。
絶賛されているだけに、原作者と監督の 「美意識」 が反映された佳作である
とは思う。しかし、残念ながら私の心にはさほど響かなかった。多分、本作は男性
に支持されるタイプの映画なのではないかと思う。実際、シアターは男性の 「お
ひとりさま」 多し。真木よう子のファンなのだろうか。

人間というのは一筋縄では語れない、不可解な存在だと思う。皆がみな、「幸
せ」 になるために生きているものでもない。むしろ 「不幸せ」 になろうと、自分
を罰しながら生きているつもりの人間もいる。人間がそうなのだから、夫婦だって
似たようなもの。100組の夫婦がいれば、100通りの関係がある。尾崎とかなこも、
渡辺(大森南朋)とその妻(鶴田真由)も、「ひと組の夫婦」に過ぎない。
若かりし頃の、身を滅ぼすほどの激情も、時がゆけば穏やかに凪ぐ。どれほど
過去に苛まれようと、空腹を覚えればそれを満たし、まぐわうことで誤魔化すこと
もできるのが人間というもの。人生の全てを賭けていた(つもり)のものを奪われ
ても、命まで失くしてしまうわけでもない。それを 「悲しい性(さが)」 と捉えるか、
「だから人生は素晴らしい」 と捉えるのか。
吊り橋から飛び降りてしまえば、全てが終わる、しかし敢えて留まることを選
び、苦しみ続けることを自らに課す人間もいる。死、よりも辛い 「罰」。もし、あ
の日に戻れるのなら--、「あなた」 はどうしますか?

主演の三人はいづれも力演。彼らの脇を固めるのも、邦画では 「お馴染み」 の
役者たちなので、安心して観ていられる。特に短い出演時間ながら、新井浩文が
相変わらず強烈な印象を残してくれる。そして、なんと言ってもすごいのは真木よう
子の 「胸」 ですね。。。「もち」 みたい。つきたての。
とまれ、文字通りの 「体当たり」 演技で全身全霊を役に捧げた彼女には、最大
級の賛辞を贈りたい。
( 『さよなら渓谷』 監督・共同脚本:大森立嗣/2013・日本/
主演:真木よう子、大西信満、大森南朋、鈴木杏、井浦新、新井浩文)
少女が目覚めるとき~『イノセント・ガーデン』

STOKER
広大な屋敷に住まう、鋭敏過ぎる感覚を持つ少女インディア(ミア・ワシコウス
カ)は、18歳の誕生日に唯一人の理解者だった父を亡くす。葬儀の日、心の通
わない母(ニコール・キッドマン)といた彼女の前に、長年所在知れずだった叔父、
チャーリー(マシュー・グード)が現れる。
闇夜の帝王、パク・チャヌクのハリウッド進出デビュー作。彼はパワフルで勢い
のある作風だと思っていたが、本作ではそのパワーを抑え、ハイブリッドな余裕
の走り。猟奇的で戦慄を催す物語であるにも関わらず、上品でノーブルな雰囲
気をたたえているのはさすが。主演俳優三人三様の魅力を、最大限に引き出す
ことに成功しているのもお見事です。

「美し過ぎる母」 ニコールと、情緒過敏少女ミアちゃんが母娘、というのは
まさにキャスティングの勝利。マシュー・グードの、サイボーグ級にパーフェク
トなスタイルと相まって、この三人の醸す雰囲気がなんとも不穏で邪悪なの
です。私も高校生の頃、サドルシューズが好きでずっと履いていたなぁ、と懐
かしかったり。↑画像の、ハクション大魔王みたいなハンモックも面白かった。
そしてこの映画一番の驚きは、ミアちゃんのシャワーシーン、と言いたいとこ
ろだけれど、脚本があの、ウェントワース・脱獄・ミラーであること! 観終わ
って知ってもう、驚愕。ウェンティったらすごい才能の持ち主だったんですね。。
きっと彼、スタバで脚本書いてたんじゃない(笑)。
原題は主人公たちのファミリー・ネームだけど、邦題もいいです◎。監督、次
も頑張ってね。

( 『イノセント・ガーデン』 監督:パク・チャヌク/2013・UK、USA/
主演:ミア・ワシコウスカ、ニコール・キッドマン、マシュー・グード)
【業務連絡】 再開します。
父の背中を~『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』

THE PLACE BEYOND THE PINES
天才的なバイクのドライビング・テクニックを持つルーク(ライアン・ゴズリング)
は、サーカスの曲乗りで生計を立てる流れ者。ある日、かつての恋人ロミーナ
(エヴァ・メンデス)と再会した彼は、彼女が自分の息子を生み育てていること
を知る。
正直、デレク・シアンフランス監督の前作 『ブルーバレンタイン』 は苦手な
映画だった。誠実で良質な作品であることはわかるのだけれど、リアル過ぎて、
痛過ぎて。しかし、監督が主演のライアン・ゴズリングと再びタッグ、W主演が
ブラッドリー・クーパーと知れば、万難を排してシアターに駆け付けねば。今を
ときめくハリウッドの2トップ、期待以上の作品だった。いや、いい意味で期待
を裏切られたと言ってもいいかもしれない。
観終わって、140分超の長尺だったのだと知り、驚く。悲しい物語であるは
ずなのに、何故か後味は悪くない。前作同様、この映画は 「純粋な愛情」 を
描こうとしているからだと思う。ただ、真摯に。公開初日に鑑賞。

刺青だらけのルークの背中を、延々と追うカメラ。その視線は、父の背中を追う
ジェイソンの眼差しと呼応している。ルークは、現実社会を生きるスキルを持たな
い、どうしようもない男。しかし観る者は、彼を決して切り捨てることはできないだ
ろう。洗礼を授かる我が子を見つめながら、嗚咽する姿を知ってしまったのだから。
どんなに 「育ての父」 が 「いい人」 でも、息子は 「血のつながり」 を追い
求めるものなのか。ただひたすらに、ルークの影を追い求めるジェイソンの姿が
切ない。犯した罪に苛まれながら、15年の歳月とともに純粋さを失ってしまった
かのように見えたエイヴリー(ブラッドリー・クーパー)。しかし彼もまた、贖罪の
ときを待っていたのかもしれない、一枚の写真とともに。
悪役を、いかにも悪そうに楽しそうに演じるレイ・リオッタ、親子を繋ぐベン・メ
ンデルソーンの二人は 『ジャッキー・コーガン』 で観たばかり。情感を高める
音楽、何も解決はぜずとも、余韻の残るラストシーンは胸を打つ。その道の先
には、未来があると信じさせてくれる。
人はそれを 「因果」 と呼ぶ。胸にじんわりと広がる 「感動」 と呼ぶべき
ものを抑えながら、確信している私がいた。意味のない人生など、どこにもな
いのだと。

( 『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』 監督・原案・共同脚本:デレク・シアンフランス/
主演:ライアン・ゴズリング、ブラッドリー・クーパー、エヴァ・メンデス/2012・USA)