法の下の平等~『リンカーン』

LINCOLN
1865年1月。再選を果たした第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リ
ンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)は、南北戦争を終結させる前に、なんとして
も合衆国憲法修正第13条を下院で可決させるべく政治工作を始める。奴隷制
度を葬り去るために。
ダニエル・デイ=ルイスが三度目のオスカー主演男優賞に輝いた伝記ドラマ。
「奴隷解放の父」 アメリカ合衆国で最も愛された大統領と言われる、エイブラ
ハム・リンカーン最期の数ヶ月間を描く。
DDルイスが主演ですから絶対に外さないけれど、正直、あまり期待はしてい
なかった。世界史には疎いし、大統領が主役の政治ドラマ、、、話の筋が理解
できない、多分(笑)。しかしこれは期待以上によかったです。ただ観て楽しめ
る娯楽作ではないけれど、「本物のリンカーン以上にリンカーンに成り切ってい
る」 DDルイスを観るためだけでも、料金の価値は有り。

1865年といえば、日本では幕末、明治維新直前の時代。アメリカでも、内戦
が続いていた。 『プライベート・ライアン』 を彷彿させる人海戦術的泥沼戦闘
シーンで幕を開けるこの映画で、スペクタクルな場面はこのオープニングのみ。
後はほとんど、陰影が際立つ室内でのシーンが続いてゆく。アカデミー賞では
美術賞も獲得している本作、 『ライフ・オブ・パイ』 に敗れはしたが、撮影賞
ものの映像も素晴らしい(カメラはご存じ、 「スピルバーグの目」 ことヤヌス・
カミンスキー)。音楽もお馴染みジョン・ウィリアムズではあるが、スコアは今回、
さほど耳に残るものではなかった。
そして、リンカーンを巡る男たち--政治家、ロビイスト、息子たち--の貌
がまたいい、涙モノ。デヴィッド・ストラザーン、トミー・リー・ジョーンズあたりは
序の口。ジャッキー・アール・ヘイリーにリー・ペイス、ジョン・ホークス(ティアド
ロップ!)にあら懐かしやのジェームズ・スペイダー。若手ではジョセフ・ゴード
ン=レヴィットと、さすがは映画小僧スピルバーグ、全方位に死角はございま
せん。

大統領といえども、末息子をかわいがり、妻と口論し、長男を心配する普通の
家庭人でもある。歴史の流れを変えた代償に、彼の血は流されなければならな
かったのか? 暗殺後のシーン、白いシーツに横たわる姿さえ 「本物」 に見
えてしまったDDルイス=リンカーン。神演技でした。
( 『リンカーン』 監督・製作:スティーヴン・スピルバーグ/2012・USA/
主演:ダニエル・デイ=ルイス、サリー・フィールド、トミー・リー・ジョーンズ)
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大・傑・作 ~ 『サイコ』

PSYCHO
トウの立ったOL・マリオン(ジャネット・リー)は、バツ一で結婚に煮え切ら
ない恋人サム(ジョン・ギャヴィン)との関係に疲れていた。出来心で会社の
金4万ドルを横領した彼女は逃亡。不気味な館が隣接する、寂れたモーテ
ルに辿り着く。そこに、ノーマン(アンソニー・パーキンス)と名乗る青年が現
れる・・・。
言わずと知れた、サスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督、1960
年の作品。映画 『ヒッチコック』 を観て俄然、興味が湧いたヒッチコック作品、
今までは恥ずかしながら 『鳥』 しか観たことがなかった。『裏窓』 を観て、グ
レース・ケリーのこの世のものとは思えないほどの美しさに溜息をついた後、本
作を鑑賞。衝撃でした・・・。こんなにも怖くて、こんなにも面白い映画があったと
は! 製作されてから50年以上が経つが、今後100年、200年、いやそれ以上
の長きに渡り、「サスペンスの金字塔」 として映画史に燦然と輝き続けるであ
ろうことは間違いない。モノクロではあるが、決して 「色褪せない作品」 という
表現を使わせていただきたい。
まず、タイトル・デザインのカッコよさに目を奪われ、その音楽に惹き付けられ
る。細かく演出されているのだろう、俳優たちは多様されるクローズアップに負
けない表情を作り、目線で語る。ひたひたと忍び寄る恐怖と狂気、思いがけな
い真相。元祖シリアルキラーにしてサイコパス、ノーマンを演じたアンソニー・パ
ーキンスが素晴らしい。
※ 以下、ネタバレで映画 『ヒッチコック』 にも言及します ※

しかし、原典に触れると、この映画を観るに至ったきっかけである映画 『ヒ
ッチコック』 に対する見方が少々、変わってしまった。感想には 「女優ふた
りが美しい」 と書いたが、あの二人(スカーレット・ヨハンソン&ジェシカ・ビー
ル)は完全にミスキャストではないだろうか? スカジョは 「トウの立った、薄
幸の三十路OL」 なキャラでは全くないし(どちらかと言えばピチピチ・イケイケ
系)、彼女の 「妹」 がジェシカ・ビール、ってアナタ・・・。絶対にあり得ない。
ないない!
百歩譲ってスカジョがジャネット・リーだとしても、ジェシカ・ビールはないわ。
他にいくらでもいるじゃない? シエナ・ミラーとかさぁ。
撮影の帰り、車の中でジャネット・リーがヒッチコックに勧める 「キャンディ
コーン」 は、ノーマンが食べていて私立探偵に勧めたお菓子なんですね。
映倫がなかなか認めなかった 「水洗トイレ」 も、このシーンだったか、と納得。
嗚呼、これは映画館で観たかった・・・。7月に 「午前10時の映画祭」 で上
映されるようなので、観に行ってしまうかも?しれない。

( 『サイコ』 監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック/1960・USA/
主演:アンソニー・パーキンス、ジャネット・リー、ヴェラ・マイルズ、ジョン・ギャヴィン)
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女たちの解散

一年間、週一回一緒に仕事をしていた3人のチームが解散することになった。
(私を含め)それぞれ転職するのだ。
年齢も、出身地も育ってきた環境も趣味も家族構成も、何もかも共通項のない
3人だったのに、不思議と気が合った。決して楽な仕事ではなかったが、3人が
顔を合わせる木曜日が楽しみだった。家族や自分自身の悩み、好きな芸能人の
話、美味しいもののお店、そして、これからどう生きていきたいのか。
ただ 「女」 だというだけで、これほど話題が尽きないものかと自分たち自身
で呆れながら、どれだけしゃべっても足りない気がした。
3人が揃う最後の日。昼休みはランチして、帰りにまたお茶して。。出逢えた
ことに感謝し、名残を惜しみながら、再会を期して別れた。やはり、仕事は人間
関係だと、つくづく感じながら。本当にありがとう、それぞれの未来が、明るい
日々でありますように。

サスペンスの巨匠/メイキング・オブ・サイコ~『ヒッチコック』

HITCHCOCK
1959年。『北北西に進路を取れ』 の大ヒットを受け、ヒッチコック(アンソ
ニー・ホプキンス)は新作のアイデアを練っていた。実在のシリアル・キラーが
主人公の小説 『サイコ』 に魅せられた彼は、映画化を決意。しかし映画会
社から出資を断られ、ヒッチコックは自己資金で撮影を始める。
映画史に刻まれた名作の数々。言わずと知れたサスペンスの巨匠、アルフ
レッド・ヒッチコック。彼の代表作 『サイコ』 はいかにして生まれたか?
「天才」 と呼ばれた男の影で、彼を支え続けた妻アルマ(ヘレン・ミレン)と
の夫婦関係を描き、何が彼を 「神」 たらしめたのかを浮き彫りにする。
私にとって、ヒッチコックといえば 『鳥』 なのです。幼い頃、テレビの洋画
劇場か何かで観た。モノクロの、とにかく 「怖い」 映画。あれ以来、かなり
大きくなるまで鳥(の群れ)が怖かった。 『サイコ』 は未見ですが、観たい、
滅茶苦茶観た~い!

もうひとつヒッチコックといえば、あの容貌。黒いスーツ、黒いネクタイに太鼓
腹。大食漢で、ワインが大好きで、ブロンドの美女(グレース・ケリー!)に執着
した 「覗き魔」。そんな彼自身の性癖を描いてはいるものの、この映画には
「暴露」 という言葉は全くふさわしくない。偉大な映画作家への敬意を感じる
のは、そっくりメイクのアンソニー・ホプキンスが醸し出す 「品格」 ゆえかもし
れない。
そして、彼以上に素晴らしいのはヘレン・ミレン。(恐らく)夫以上の才能の持
ち主でありながら、夫のために内助の功を惜しまなかった妻アルマ。そりゃあ、
ストレス発散! とばかりに赤い水着で泳ぎたくもなるでしょうよ。。。
そんなアルマが久々に自分と離れて 「仕事」 をすれば、たちまち嫉妬する
ヒッチコック。自分のことを棚に上げて奥さんの浮気を疑う、って古今東西、夫婦
喧嘩のパターンですね(笑)。ヒッチコックは、アルマがいないと自分は 「神」
にはなれない、と悟っていたのだろうな。
しかし、映画史上の名作 『サイコ』 は関係者試写の後、再編集によって生
まれたとは・・・。編集って大事なんですね、すごく。

本作の綺麗どころはスカーレット・ヨハンソンとジェシカ・ビール。ヒッチコック
に気に入られた、往年の女優さんたち。お二人とも、もちろん文句なしに美しい
けれど、私の目を釘付けにしたのはトニ・コレットの紅いくちびる&黒縁メガネ。
もう今後、ハリウッドの秘書役のオファーは全部、彼女に行くんじゃない? と
思うほどのハマリ役だった。見るからに有能そうな、ニコリともしないハイミス。
脇にこういう人がいると、映画に彩りが出るんだなぁ。
( 『ヒッチコック』 監督:サーシャ・ガヴァシ/2012・USA/
主演:アンソニー・ホプキンス、ヘレン・ミレン、スカーレット・ヨハンソン)
大渡海~『舟を編む』

大手出版社・玄武書房では、新しい辞書 『大渡海』 の編纂作業が本格的
に始まろうとしていた。営業部から辞書編集部へ転属となった馬締光也(松田
龍平)は、「辞書とは、言葉という大海を渡るための舟である」 という監修者の
松本(加藤剛)の言葉に感銘を受け、辞書製作にのめり込んでゆく。
三浦しをんの同名小説(未読)にして、本屋大賞(第一位)受賞作の映画化。
面白かった! これはきっと原作が素晴らしいのでしょうね、、、なんて言うと
監督に失礼ですね。
(満島ひかりと結婚して)気になる人物だった、石井裕也監督の作品は初め
て観ました。一見、奇をてらったところのない、極々オーソドックスな作りの映画
である印象。しかしその裏では、133分という長さを感じさせない絶妙な仕掛け
が、綿密に施されている感じ。監督、丁寧な仕事してます! 拍手!!

実はこの映画、さほど期待していたわけでもないのです。原作は未読だし、キ
ャスティングを知った時は正直 「やれやれ、また宮崎あおいか」 と思ったし。
でも、オダギリジョーが出ているし、監督の作品にも興味があったし。
そして観てみると意外にも、いい意味で予想が裏切られました。これはポスタ
ービジュアルで強調されている、松田龍平&宮崎あおいのラブストーリーではな
い。この映画の主題は、辞書の編纂という気の遠くなるほど細かく、大量の、儲
からない、地味な作業に人生を賭けた仕事人たちの、15年に渡る 「プロジェクト
X」 なのでした。私も言葉が好きで、本が好きな人間の端くれとして、辞書を引く
ことはかつて日常でした。でも、今はほとんどネットで調べて終わり。紙の材質に
までこだわる馬締の姿を見て、久しぶりに辞書を引きたくなった。

松田龍平は凄くカッコイイ人なのに、コミュニケーション能力に難ありの朴訥
青年を好演。若奥様役が定着した感アリの宮崎あおいもよかった(人生って皮
肉なものですね)。八千草薫との 「良妻対決」 は五分かな? オダギリジョ
ー、彼もよかったなぁ。映画によっては全開の色気や、主役オーラのスイッチを
切って、一見チャラ男の情に厚い(そして実はダサイ)先輩をサラリと。ツワモノ
・池脇千鶴を相手に、身体の使い方が本当に巧い。やっぱり好きです! しん
がりは黒木華。蒼井優に、強烈なライバル出現、という感じかな。ピース又吉
くんも出ています。オススメ♪
( 『舟を編む』 監督:石井裕也/原作:三浦しをん/2013・日本/
主演:松田龍平、オダギリジョー、小林薫、加藤剛、宮崎あおい、伊佐山ひろ子)
ヒーローになりたい!/壊し屋ラルフ~『シュガー・ラッシュ』 【2D・吹替え版】

WRECK-IT RALPH
レトロなゲーム 「FIX-IT FELIX」(原題と対になっている) の悪役である
大男のラルフは、壊し屋であるゆえに、皆から疎んじられることに飽き飽きし
ていた。ヒーローの証、ゴールドメダルが欲しいと望む彼は、お菓子の国の
カートレースゲーム 「シュガー・ラッシュ」 に入り込んでしまう。
歴代の人気ゲームをモチーフに、閉店後のゲームセンターに、ゲームキャ
ラたちの生きる世界があったら? という夢のような物語が展開するディズ
ニー・アニメ。いや~、もう、最高でした! 文句なしに面白かった! こんな
にのめり込めるアニメを観たのって、いつ以来だろう? 『トイ・ストーリー3』
だ! これは今年のベスト作の一本かも。

しかし、アカデミー賞の長編アニメーション賞を受賞したのは、本作でなく
『メリダとおそろしの森』 なんですね・・・。う~ん、私はこちらのほうが何倍
も好きだなぁ。『メリダ』 も悪くはなかったし、映像は確かにあちらが勝って
いるとは思います(解像度が)。でも、そのメッセージが心にダイレクトに響
いたのは断然、『シュガー・ラッシュ』 だったなぁ。
逆に、本編前の併映短編 『紙ひこうき』 は短編アニメ賞を受賞していま
す。こちらはYou Tubeか何かで観ていたけれど、大きなスクリーンでまた
観られてよかった!

実は私、ゲームセンターが大嫌いなんです。息子が小さい頃は、長期の休
みなんかにはせがまれて連れて行ったりしたものだけれど、私はゲームしな
いから後ろで見ていても退屈で・・・。そんなゲーム嫌いな私でも、悪役のグル
ープ・セラピーにクッパを見つけて大喜びしてしまった。シューティングゲーム
も、レースゲームも、よくやってたなぁ。。(遠い目)
ラルフやヴァネロペはもちろん、フェリックスやカルボーン軍曹やキャンディ
大王と、この映画キャラ立ちが凄いんです! それぞれの来し方(プログラ
ミングね)がキチンと描かれていて、それが伏線となり、ストーリーが動いて
ゆく。だからこそ、このラストメッセージが心を打つのですね。
誰だってヒーローになりたいけれど、それぞれが与えられた役割を果たさな
ければ、この世界は成り立たない。でも、心の内をわかってくれる友だちさえ
いれば、なんとか今日もやっていける・・・(涙)。
大御所・山寺宏一さんはじめ、吹替えの質もよかったと思う。これは 『TS3』
以来の傑作アニメ、と言い切ってしまいます! オススメ♪
( 『シュガー・ラッシュ』 監督:リッチ・ムーア/2012・USA)
猛獣使い~『君と歩く世界』

DE ROUILLE ET D'OS
ほぼ無一文の男・アリ(マティアス・スーナールツ)は、5歳の息子サムを抱え、
姉の住む南仏に辿り着く。姉の家に居候し、ナイトクラブの用心棒として働くよ
うになったアリは、マリンランドでシャチの調教師をしている美女・ステファニー
(マリオン・コティヤール)と出逢う。
アカデミー主演女優賞受賞以来、ハリウッドでも大活躍。今、世界で一番輝
いている女優の一人、マリオン・コティヤール主演作。美人の代名詞のような
彼女が、私は大好き。フランス語をしゃべる彼女を、久しぶりに観に劇場へ。
すっぴんでも、ゆがんだ表情でも 美しい人は美しい。本作でマリオン演じる
ステファニーは、美しいだけでなく、強い。しかし、本作は両足を失った女性が
主人公の感動作ではない。邦題がミスリードする、ロマンティック・ラブな展開
でもない。セザール賞はじめ、高く評価されている作品のようだけれど、残念
ながら私のツボではなかった。

アリ。血と汗を流し、女と交わり、自らの肉体が望むままに自分を投げ出す
男。ステファニー。自らの美しさを自覚し、男を誘惑はしても、そこから先に興
味はないと言い放つ女。そんな二人の 「フィジカル」 でいてハードボイルド
な生き方は、頭でっかちの自分とは何光年も隔たっているような気がする。
愛情がないわけではないことは知っている、しかし幼い息子を邪険に扱うアリ
に、「なぜ引き取ったの?」 と問わずにはいられない姉。私は彼女に共感し
てしまう。
獰猛なシャチを調教していたステファニーにとって、アリの生きる世界は近し
いものだったのだろう。殴り合い、痛めつけ合うアリを見つめる彼女の瞳は、愛
というより、親近感に満ちていた気がする。彼女は 「猛獣使い」 なのだから。
「身体のいいなり」 になって生きる二人。両足を失くした絶望は、自らの身
体が 「機能している」 ことを確認することで癒された。紆余曲折がありなが
らも、共に生きることを選択する二人。ステファニーが、マリンランドのシャチに
別れを告げるシーンは胸を打つ。

これは義足を付けたステファニーが新しい人生を歩き始め、めでたしめでたし、
で終わる映画ではない。南仏独特のまばゆい 「光」 と、「闇」 の世界が共存
している映画。その南仏と日本との距離ほど、私には遠い映画だった。
( 『君と歩く世界』 監督・共同脚本:ジャック・オーディアール/
主演:マリオン・コティヤール、マティアス・スーナールツ/2012・仏、ベルギー)
2013年3月に読んだ本/8冊 其の弐

続き。
先日、『サワコの朝』 に作家の小川洋子さんが出演されてましたね。私は
小川さんのあまり熱心な読者ではないのですが、その 「書物への愛」 を語
る姿に感動しました。意外にも、小川さんの生まれたおうちは、『家庭の医学』
くらいしか本がなかったそうです。やっぱり人間って環境も大事だけれど、「持
って生まれたもの」、生まれ持った資質が大きいと感じます。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『B級恋愛グルメのすすめ』 島本理生・著 ★★★
理生ちゃんのエッセイは、『CHICAライフ』 以来の2冊目。相変わらず、シ
リアスな小説作品とは真逆な、どちらかと言えばトホホ方面、ラーメン小池的
な奔放生活が綴られています。本作のハイライトは元夫との再会・再婚の過
程。ここに多くのページが割かれています。理生ちゃん、(今度こそ)お幸せ
に~。
『藝人春秋』 水道橋博士・著 ★★★★
話題の本。やっと順番が回ってきました。評判に偽りなし。
一番驚いたのは、博士が甲本ヒロトと中学の同級生だった、ということ。そ
して、朝日新聞に掲載され、私も衝撃を受けた稲川淳二さんの 「告白」 が、
博士の手によってとうの昔に文章化されていたとは・・・。
笑いあり、涙あり。一気に読んでしまいました。「辛抱」って、「辛さを抱き
しめる」 ことなんですね(感動)。しかし、、、この後に読んだ本↓の印象が、
あまりにも強く。
『安井かずみがいた時代』 島崎今日子・著 ★★★★★
ノンフィクションライター、島崎今日子さんの文章が好きで、著作を見つけ
ると必ず読みます。そして本作は、個人的に島崎さんの「最高傑作」では
ないかと。
安井かずみ、愛称ZUZU。「芸能界」 や 「歌謡曲」 が一般人の手の届
かない 「憧れ」であり、キラキラ輝いていた時代のフロントランナー。1939
年生まれといえば、私の母と同世代。こんなにも 「ブっ飛んでいた」 女性
がいたのですね。
「安井かずみがいた時代」 というよりは、安井かずみという女性そのもの、
もっと言えば 「ZUZUとトノバン」 安井かずみ&加藤和彦という元祖ワーキ
ング・カップルの真実を、彼らを取り巻いていた綺羅星のごとき面々へのイン
タビューであぶり出してゆきます。それはまるで 小説 「藪の中」 のように
スリリングで痛ましく、謎めいて映る。果たして、彼女(たち)は幸せだったの
か? 華々しくも時代を駆け抜けた 「寵児」 の、恍惚と苦悩がそこに在りま
す。
「ZUZUはずっとジュリーに片思いしていた」 という証言に驚き。彼女の最も
有名な 「同志」、加賀まりこのインタビューがないことが「画竜点睛を欠くの
では?」との思いも、無きにしも非ずです。しかし、語らないのもまた、加賀さ
んらしいのかな、と。
『安心毛布』 川上未映子・著 ★★★☆
WEB連載をまとめた 「漢字4文字」 シリーズ完結編。川上さんのエッセイ
の中では、私はこのシリーズが一番好きです。『発光地帯』 買おうかなぁ。
2013年3月に読んだ本/8冊 其の壱

ご近所の桜・満開
春休みです。母が来たり、甥っ子(新生児じゃないほう、弟の子)が遊びに来
たりで落ち着かない日々を過ごしております。とは言っても仕事は毎日だし、
隙を見て映画観に行かなくちゃだし・・・。バタバタ。
先月読んだ本は8冊。4冊づつ、2回に分けて記録します(長くなるので)。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『ちょうちんそで』 江國香織・著 ★★★☆
本作でも、変わることのない江國ワールドが展開されます。私のそれとは
全くかけ離れた主人公の人生が、こんなにも身につまされ、胸に迫ってくる
のは何故なのだろう。飴子の「いま」はすぐに予想がつきます。幕切れが少
し、物足りない気がして残念(雛子が救われない気がしたので)。
『ぼくらの近代建築デラックス』 万城目学&門井慶喜・著 ★★★★
作家二人の、近代建築を巡る旅。大阪・京都・神戸・横浜・東京の5都市で、
門井氏が蘊蓄満載の弾丸トークをかまし、万城目さんが(天然)ボケをかまし
ながらそれを受け、かつ突っ込みを入れるという、大阪人の面目躍如な高等
話術を披露しています。
私は大阪に住んでいるので、淀屋橋のサンマルクカフェって、そんな由緒
ある建造物やったんか、、、という驚きもあり。面白かった! こんな旅がして
みたくなる。オススメ本です。
『掏摸(スリ)』 中村文則・著 ★★★
『何もかも憂鬱な夜に』 がとてもよかったので、中村さんの作品、次はどれ
を読もうかな? と考えていた矢先。新聞の書評コーナーに、今をときめく人
気俳優・綾野剛くんが登場。この作品を紹介していたのです。まぁ、何という
偶然! ということで、主人公はもう、綾野くんの顔を当てはめて読んでしま
いました(笑)。
『ザ・万字固め』 万城目学・著 ★★★☆
先日の 『偉大なる、しゅららぼん』 映画化決定のニュース。NHKの朝の
ローカルニュースで流れたからビックリ。公共放送でアナウンスされるなん
て、万城目さんすごいやん、と少し感動。
まぁ、過去に映像化された万城目作品、全てが関西地方を舞台にしてい
るので、地方の活性化(経済波及効果?)的な慶事として捉えられている
のでしょうね。
さて本作は、『ザ・万歩計』 『ザ・万遊記』 に続くエッセイ集。瓢箪への
偏愛ぶりや、お嬢さんや奥様のことにも言及されていて相変わらず面白い
んだけど、ちょっと物足りなかったかな。
ご本人は変わらなくても、読者の方はどんどんハードルが上がってしまう、
ってことありますよね。万城目さ~ん、ずぅ~っと応援してるからね~。
てなわけで 「其の弐」 につづく。

花より団子