大変なことになった
さよなら大好きなひと~『横道世之介』

1987年、バブル前夜の東京。長崎から上京してきた横道世之介(高良健吾)
は、法政大学に入学する。同級生の倉持(池松壮亮)や加藤(綾野剛)と出逢い、
サンバ同好会に入った世之介は、天然お嬢様の祥子(吉高由里子)に好かれ・・・。
「青春小説の金字塔」 吉田修一の同名小説の映画化。とにかく、原作が大
好きで(昨年読んだ小説の中ではベストでした)、公開を心待ちにしていた作品。
あの素晴らしき原作世界を、ここまで忠実に、というか原作以上に映像で表現
してくれた、沖田修一監督とキャストに感謝。大・感・動。
のっけからの長回し、独特の 「まったり」 と 「ゆるい」 空気感を醸し出す、
「沖田調」 は健在。この少々癖のある演出と、160分という長尺にたじろぐ方
もいらっしゃるかもしれない。しかし、この映画観終わっても全く 「長い」 とは
感じないのだ。むしろ、もっともっとこの世界に浸っていたかった、世之介を見
ていたかったと感じるほど。
「涙なんか流さずに 笑いながら観てください」。 そうしようと決めていたけ
れど、ラストでは自然と頬を伝う涙を、止めようもなかった。原作を読んだとき
も、最後のページで涙が溢れたんだよな・・・。あの手紙を、余貴美子さんが
読むのだもの。今思い出しても、涙が出てくる。
間違いなく、今年のベスト作の一本。おかしくて、愛おしくて、心が温かくな
る。私も、祥子に負けじと叫んでしまおう。




「よのすけ~、大好き~!!」
( 『横道世之介』 監督・共同脚本:沖田修一/2013・日本/
主演:高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、綾野剛、余貴美子)
超能力 vs. 科学 ~『レッド・ライト』

RED LIGHTS
大学で講義を持つ、物理学者のマーガレット(シガーニー・ウィーヴァー)と
助手のトム(キリアン・マーフィ)は、「超能力ハンター」 として似非超常現象
を暴き続けていた。そんなある日、30年前突然引退した盲目の超能力者、
サイモン・シルバー(ロバート・デ・ニーロ)が復帰する。
評判が芳しくないのは、重々承知の上。いいんです、私はキリアンが観た
かったんだから。。そのキリアンは勿論、デ・ニーロやシガーニー・ウィーヴァ
ーもさすがの貫禄だったし、マーシィ・メイ(超期待作!)ことエリザベス・オル
センも、サイキック級のかわいらしさ。それだけでも満足、と言えなくもないけ
れど、やはり、ちょっと残念な作品だった。

「あなた、何者なの?」 導入部は、マーガレットとトムの凸凹(疑似母子?)
コンビによる 「サイキックハンティング」。 いかにも、なオカルトテイストに引き
込まれ、一体何が始まるんだ? とワクワクしながら見入っていた。超常現象
やサイキックを、真っ向から全否定するマーガレット。「女傑」 のイメージ漂う
彼女はしかし、脛に傷を持つ繊細な人物だった。
マーガレットとトムの前にサイモンが現れ、さあどうなる、と期待したところで
なんと、マーガレットがいきなりの退場。それまで作品全体をドライブしていた
彼女の不在と相まって、物語は一気に失速してしまう。バランスを失ってしま
ったかのように迷走し、あー、やっぱりそうなのね、という結末に。
映像や雰囲気、もちろんキャストも悪くなかっただけに、なんとももったいな
い印象。そして、このやる気の全く見られないカタカナ邦題は一体・・・。

超能力者。サイキック。「自称」 が100人いるとしたら、99人まではインチキ
だと思う。でも、もしかしたら、1人くらいは 「本物」 がいるんじゃないか? と
も思う。いや、むしろいて欲しい。 「本物」 を探し続けたトムの孤独感、疎外
感。誰も自分をわかってくれない。どんなに寂しかっただろう・・・。これは観る
人の 「超常現象」 に対する立ち位置によって、評価が全く違ってくる作品
なのかも。
( 『レッド・ライト』 監督・製作・脚本・編集:ロドリゴ・コルテス/2012・西、米/
主演:ロバート・デ・ニーロ、キリアン・マーフィ、シガーニー・ウィーヴァー)
町山さんの 「クローズアップ考」 が素晴らしい
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20130219
『映画 鈴木先生』 は、なかなか面白い映画だった。原作もドラマも知らな
いままに鑑賞したけれど、気持ちよく劇場を後にした記憶がある。
映画評論家・町山智浩氏のブログに、その 『映画 鈴木先生』 を、率直に
批評した文章がアップされている。目から鱗、とはこのこと。特に、「是非、
自分の目で観て、『桐島、部活辞めるってよ』 と見比べることをお勧めする」
という一文に続く記述が。
『桐島』 は昨年公開された映画の中で、個人的にベスト作に挙げた作品
だった。観ている間も、観終わってからも、「映画的興奮」 とでも言うべき高
揚感に包まれた。しかし、何故そう感じたのか、あの映画のどこが、そこまで
自分を惹き付けたのか。悲しいかな、素人の身では、それを巧く言葉にでき
なかった。
町山さんのこの文章には、その理由がズバリ、書かれている。これはまさ
しく、映画批評を生業とする 「プロ」 の技。参りました。どちらもご覧になっ
た方は、是非読んでみて下さい。
『映画 鈴木先生』 は、なかなか面白い映画だった。原作もドラマも知らな
いままに鑑賞したけれど、気持ちよく劇場を後にした記憶がある。
映画評論家・町山智浩氏のブログに、その 『映画 鈴木先生』 を、率直に
批評した文章がアップされている。目から鱗、とはこのこと。特に、「是非、
自分の目で観て、『桐島、部活辞めるってよ』 と見比べることをお勧めする」
という一文に続く記述が。
『桐島』 は昨年公開された映画の中で、個人的にベスト作に挙げた作品
だった。観ている間も、観終わってからも、「映画的興奮」 とでも言うべき高
揚感に包まれた。しかし、何故そう感じたのか、あの映画のどこが、そこまで
自分を惹き付けたのか。悲しいかな、素人の身では、それを巧く言葉にでき
なかった。
町山さんのこの文章には、その理由がズバリ、書かれている。これはまさ
しく、映画批評を生業とする 「プロ」 の技。参りました。どちらもご覧になっ
た方は、是非読んでみて下さい。
テーマ : 町山智浩のオススメ映画!
ジャンル : 映画
午前零時半~『ゼロ・ダーク・サーティ』

ZERO DARK THIRTY
9・11以降、止まないテロ事件と行方知れずのアルカイダの首謀者、ビン・
ラディン容疑者に、CIAは苛立ちを募らせていた。パキスタン支局に派遣され
た若き分析官マヤ(ジェシカ・チャステイン)は、狂気じみた執念深さで、ビン・
ラディンの隠れ家を突き止めようとする。
『ハート・ロッカー』 でオスカーを受賞したキャスリン・ビグローが、更なる
骨太な作品を携えて還ってきた。ビン・ラディン殺害の影にあった、10年に
渡るCIAの暗躍を描く、事実に基づく物語。2時間半を超える長尺を、緊張
感を途切れさせることなく最後まで走り抜ける手腕はさすが。

拷問に目を背けていたマヤ。彼女は同僚の死をきっかけに、CIA長官(ジェ
ームズ・ガンドルフィーニ)も一目置くほどの 「キレ者」 へと変貌してゆく。
情報網と最新機器を駆使し、丹念に事実を積み重ね、彼女は確信を得る。こ
の隠れ家には、「100%」 ビン・ラディンが潜んでいると。
失敗を恐れ、腰が引けている男たちを横目に、彼女はただ、まっしぐらに
「殺害」 へと突き進んでゆく。それは故国アメリカをテロから守るための 「
愛国心」 という大義名分の下の行動に見えて、その実、彼女を突き動か
していたのは 「復讐」 の二文字だった。報復と言い換えてもいい。
「ビン・ラディンを殺して。私のために」。決行の日、百戦錬磨のネイビー・
シールズの兵たちは、首尾よく殺害作戦を成功させる。ターゲットはそこに
居たのだ。

全てが終わったとき、マヤには行くべき場所も、帰るべき場所もなかった。
ただ静かに頬を伝う涙、それは安堵なのか、後悔なのか、虚しさなのか。
テロとの闘いは終わったのか? 世界は平和を取り戻したのか? 報復
の連鎖は、断ち切ることができたのか。私にはわからない。この結末が、ハ
ッピー・エンディングだとも思えず、「アメリカ万歳」 なんて言う気もない。
ただ、こういう映画が作られるアメリカという大国の 「自由」 だけは、失わ
れて欲しくないと思う。そこに、多くの犠牲が払われているのだとしても。
( 『ゼロ・ダーク・サーティ』 監督・製作:キャスリン・ビグロー/
主演:ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラーク、マーク・ストロング/2012・USA)
小さな恋の王国~『ムーンライズ・キングダム』

MOONRISE KINGDOM
1965年。ニューイングランド沖、周囲約26キロの小島。12歳のサム(ジャ
レッド・ギルマン)とスージー(カーラ・ヘイワード)は駆け落ちをする。出会って
すぐに惹かれ合った孤独な二人は、一年間の文通を経て、二人だけのサンク
チュアリ 「ムーンライズ・キングダム」 を目指す。
小さな恋人たちの逃避行に、豪華キャストが脇を固める。才人ウェス・アンダ
ーソンの新作は、心温まる箱庭的冒険譚、とでも言いましょうか。とにかく素敵
な作品でした。期待していたけれど、期待以上に満足、満足。音楽、色彩、カ
メラワーク、小道具に描かれたキャラクターから、クレジットのレタリングまで。
彼の美意識が、深く、細部にまでしっかりと浸透している。この映画大好きです。

仏頂面のスージーと、メガネ男子なサムのカップルがかわいい。好きなセリ
フは、「双眼鏡は彼女の魔法なんだ!」 と、もちろん 「僕と結婚してくれてあ
りがとう」。 子どもなんだけど、彼らは大人以上に切実で、真剣なんだよね。
大人たち、ブルース・ウィリス(哀愁漂う役どころだが髪の毛多め)、エドワ
ード・ノートン(気弱キャラが激ハマリ!)、ビル・マーレイ(パパというよりおじ
いちゃん)、フランシス・マクドーマンド(自転車で密会場所へ)、ティルダ・ス
ウィントン( 「ベリーグッド!」 )、みんなみんな最高。中でも、ハーヴェイ・
カイテルがお久しぶりで、登場には思わずビックリ! でもうれしかった。
赤いコートのおじさんも好き☆
子どもの視線、大人の事情。ファンタジックな映像の中にも、世知辛く残酷
な現実が見え隠れしている。道ならぬ恋に身をやつすシャープ警部が、天涯
孤独なサムを救うラストには心が和んだ。その手を、絶対に離さないで!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ウェス・アンダーソン。お金持ちでルックス良し、いつもスーツな印象で、
独特のカラーを持つ才人(キャラ的にスパイク・ジョーンズとかぶる)。これ
からも、ずっと注目したい、新作が待ち遠しい映画人のひとりだ。

( 『ムーンライズ・キングダム』 監督・製作・共同脚本:ウェス・アンダーソン/
主演:ジャレッド・ギルマン、カーラ・ヘイワード、ブルース・ウィリス/2012・USA)
2013年1月に読んだ本/6冊

先月は上下巻ものが2冊あったので、結構ガッツリ読みました。そして私に
しては珍しく、漫画を6冊。
漫画はたま~に、ちょこちょこ読む程度ですが、今年からは記録していこう
と思います。ミシェル・ゴンドリーが映画化したという 「うたかたの日々」、
岡崎京子版を注文しちゃったぜィ~♪ 楽しみ楽しみ。。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『水のかたち』(上)(下) 宮本輝・著 ★★★☆
主人公があまりにラッキー過ぎるきらいはありますが、「清々しい」という
言葉がぴったりな作品。読後感がいいです。今話題の「糖質制限ダイエット」
についても記述あり。「あとがき」 には、作品誕生の秘密が。
『歓喜の仔』 (上)(下) 天童荒太・著 ★★☆
タイトルから、作者の代表作 『永遠の仔』 を想起しますよね。本作でも、
「弱者」 であるがゆえに子どもたちが宿命的に背負う哀しさ、強さ、苦しみ、
絶望そして希望が描かれています。でも、期待したほどではなかったかな。
歓喜より永遠でした。
『これが本当の 「冷えとり」 の手引書』 進藤義晴、進藤幸恵・著 ★☆
「私たちが 「冷えとり」 の元祖だ!」 とおっしゃっています・・・。
『東大生だけが知っている 「やる気スイッチ」 の魔法』 岡田真波・著 ★★☆
タイトル買いでしたが。
『何もかも憂鬱な夜に』 中村文則・著 ★★★★★
ご存じ、ピース又吉直樹が大プッシュしている作品。半分近くまで 「(タイ
トル通り)暗い・・・」 と思いながら、どよ~ん、と読んでいました。しかし。。
あるところから涙が止められなくなり(しかもその時、電車の中だったのに)、
お昼休みに泣きながら読み終え、文庫本を買って帰りました。又吉くんの解説
が読みたくて。帰りの電車で 「文庫版あとがき」 と、解説を読んでまた涙。
こんなことは、本当に久しぶりです。本はいつも図書館で借りて読むのです
が、「これは!」 と思った本は買います。またいつか、読み返したい作品。
『非道に生きる』 園子温・著 ★★★★★
いや~、もう、最高! 小学校時代のエピソード(裸で登校した、とか)は知
っていたのですが、いやはや、園子温がここまで大天才だったとは。。
「刹那に生きる」 人生哲学を語り、批判上等、むしろ既成の映画概念をぶち
壊すために映画を撮っているんだと言い切っています。
しかし、そんな彼でも震災後の映画作りには迷いがあったようで、原作とは
異なる 『ヒミズ』 のラストはあれでよかったのか、今も迷っていると正直に語
っています。そこにまた、彼の真摯さや覚悟を感じて好感するのでした。彼の
映画が好きな人も、嫌いな人も、是非読んでみて下さい。
ニッポンに、園子温あり。うれしいですねぇ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『銀の匙』 ①~⑥ 荒川弘・著
アニメ化が決定したという人気漫画。面白かった~。7巻が待ち遠しい!^^
ぼくのツマ~『きいろいゾウ』

三重県の田舎町に暮らすツマ(宮崎あおい)とムコ(向井理)は、結婚したば
かりの夫婦。出会ってすぐに結婚したふたりは、お互いの 「秘密」 を知らず
に寝食を共にしていた。そんなある日、差出人のない手紙がムコ宛てに届く。
ソテツや犬の声が聞こえる不思議ちゃんのツマと、売れない小説家のムコ。
若い夫婦が 「過去」 と向き合い、「これから」 を共に生きようと決意する
まで。
原作者の西加奈子ちゃんが大好きなので、原作は未読にしたまま、公開を
楽しみに待っていた作品。期待通り、いや期待以上に、とても、とてもよかった
です・・・(涙)。しかしこれは、女優・宮崎あおいの独壇場ですね。改めて、彼
女の演技力に脱帽。ちょっと巧過ぎて、向井理が気の毒に見えたほど(ゴメン)。

「ムコさんには、忘れられない恋人がいる」。ツマの不幸は、彼女にはそうい
う人がいなかったことかもしれない。初恋の人と結ばれるような、純粋培養さ
れた結婚をする人もいるだろう。しかし、ほとんどの人は、大なり小なり、色ん
な「過去」 を抱えて結婚する。ツマにもそんな過去があったなら、身体に刻み
つけざるを得ないほどの恋愛をしたムコさんの苦しさを、責めずにいてあげら
れたのに。病弱に育った彼女は、多分、両親から大切に大切に育てられた
「箱入り」 だったのだろう。
メルヘンちっくな外観とは裏腹に、この映画は死の影に濃く彩られている。
ファーストシンからして、蟹の 「死」 だ。ない姉ちゃんの死、緑(!)の娘
の死、足利さんの死。「早く大人になりたい」。大地くん(濱田龍臣)と洋子
(浅見姫香)はそう嘆く。大人になるって、恥をかきながら人を好きになる
こと。誰かの過去をゆるすこと。そして、死に近づくこと。人はみな死ぬ
瞬間まで、大人になり続けているのかもしれない。

ムコさんの不在に苦しみ、満月に願いをかけるツマ。スクリーンいっぱいに
映し出される素顔の宮崎あおいを見つめながら、「幸せになって欲しい」 と
強く願う私がいた。その言葉を、そっくりそのまま大地くんが言ってくれて・・・。
私も、ツマを好きになったのかもしれない。
彼女の 「きいろいゾウ」 は、ムコさんだったんだね。「大丈夫ですよ」 素敵
な言葉だなぁ。。。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
廣木隆一監督は、すっぴん顔がお好きですね。
木村充揮の 『グッドナイト・ベイビー』 、いいもの見れました!
( 『きいろいゾウ』 監督:廣木隆一/2013・日本/
主演:宮崎あおい、向井理、柄本明、濱田龍臣、松原智恵子)
さんでぃ。
私 「で、最近映画は観てないの?」
母 「あ~、観た観た、ホラあの歌劇と・・・」
私 「歌劇? あ、『レ・ミゼラブル』 ね」
母 「あと、ホラあのトラの映画・・・。初めて さんでぃ で観たわ」
?? さんでぃ? もしかして 3D のこと?!
私 「ちょ、、お母さんそれ スリーディ やろ!! (爆笑)」
母 「あ~、それそれ。凄かったワ~トラが襲いかかってきて・・・(爆笑する
娘を無視して 『ライフ・オブ・パイ』 について話し続ける。以下略)」
さんでぃ、て。。ハリケーンか。
しかし・・・。今これを書きながら気付いた。自分も 2D のことを 「にーでぃ」
と言っていることに。 お母さんごめんなさいっっ。
母 「あ~、観た観た、ホラあの歌劇と・・・」
私 「歌劇? あ、『レ・ミゼラブル』 ね」
母 「あと、ホラあのトラの映画・・・。初めて さんでぃ で観たわ」
?? さんでぃ? もしかして 3D のこと?!
私 「ちょ、、お母さんそれ スリーディ やろ!! (爆笑)」
母 「あ~、それそれ。凄かったワ~トラが襲いかかってきて・・・(爆笑する
娘を無視して 『ライフ・オブ・パイ』 について話し続ける。以下略)」
さんでぃ、て。。ハリケーンか。
しかし・・・。今これを書きながら気付いた。自分も 2D のことを 「にーでぃ」
と言っていることに。 お母さんごめんなさいっっ。
ほとばしる命~『駆ける少年』

DAVANDEH
THE RUNNER
イランの小さな港町に住むアミル(マジッド・ニルマンド)は、天涯孤独な少年。
廃船にひとりで住み、水売りやビン拾いで生計を立てている。
イラン出身の映画監督、アミール・ナデリによる1985年の作品。27年の時を
経て劇場公開されたのは、『cut』 を撮った監督の、日本への愛情のたまもの
だろう。劇場の壁には、監督へのたくさんのメッセージが貼り出されていて、
思わずパチリ。

海辺の町に暮らす、天涯孤独な少年。そう聞いて思い出すのは、トニー・ガト
リフの名作 『モンド』。瑞々しい宝石のようなあの作品に対し、本作は荒削り
で、生命力に満ちた力強さを感じる。何より、アミル少年のはみだしそうなあの
笑顔! 貧困・無学という劣悪な環境に育っているというのに、彼の笑顔は
「心底」 のもの。働くこと、働いて対価を得ること。そのことに何の疑問も抱か
ず、ただ 「生きる」。ポジティブなエネルギーが充満している彼は、とにかく走
る、走る、走る! そして叫ぶ。飛行機に、船に、列車に。「ここではない何処
か」 へ連れ出してくれる 「何か」 に向かって。
この、無尽蔵とも思えるエネルギーの源は、一体何なのだろう? 細く未完
成な身体からほとばしる 「命」 という不思議。走るシルエットは完璧で、溜息
が出るほど美しい。現代の日本では、到底お目にかかれそうもない野性味あ
ふれる少年。彼に出会えただけでも、この映画が劇場公開された意味はあっ
たと思える。

しかし、彼はある日気付くのだ。この世界には 「文字」 という、今より更に
深く広く、面白い場所へ連れて行ってくれる手段があることに。読み書きは、ア
ミルを今とは違う場所へ誘うだろう。それは幸福だけでなく、荒波のような困難
をも伴う旅かもしれない。
「自分の力を試したかった」。勝負のついた競走の後、アミルはつぶやく。彼
ならきっと、もっともっと大きな世界で、必ず幸せを掴むだろう。そう願わずには
いられない。

( 『駆ける少年』 監督・脚本:アミール・ナデリ/1985・イラン/主演:マジッド・ニルマンド)
没後10年
2013-02-06 :
YOU GUYS ARE KILLING ME :
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俺はヒーローじゃない~『アウトロー』

JACK REACHER
ピッツバーグの川沿いで、5人が銃撃される事件が発生。容疑者として、元
陸軍兵士のジェームズ・バーが逮捕されるが、彼は 「ジャック・リーチャーを呼
べ」 とだけ記して黙秘する。数日後、そのジャック・リーチャー(トム・クルーズ)
を名乗る男が姿を現す。
トム・クルーズが超人的な記憶力・知力・戦闘力を備えた、元陸軍兵士の一
匹狼、 「アウトロー」 =無法者ではない流れ者を演じる、新シリーズ第一弾。
いや~、さすがは大スター、トム・クルーズですよ。かっこええ~。
『M:I』 シリーズのイーサン・ハントより、ジャック・リーチャーの方が私は好き
だなぁ。大国の隠密組織に属して世界中を飛び回り、ハイテクを駆使して 「あ
り得ねぇ~」 アクション乱れ打ちのEHよりも、身ひとつで現場に乗り込み、
自らの身体能力(交渉力、推理力、運動能力etc...)で事件を解決してゆくJR
のほうが、地に足のついた 「ヒーロー」 だと感じるから。その分、アクション
映画としては幾分 「地味」 な作品かもしれない。しかし見応えは十分。

冒頭から事件の 「種明かし」 はされているため、観どころは 「いかにして
JRが真相を暴くか」。美人過ぎる弁護士・ヘレン(ロザムンド・パイク)と恋愛ギ
リギリの共闘関係を築き、ヘレンの父で地方検事のロディン(リチャード・ジェ
ンキンス)、事件の担当刑事(デヴィッド・オイェロウォ)らの動きも絡めながら、
JRは次第に核心に近づいてゆく。射撃場主のキャッシュ(ロバート・デュヴァル)
と、事件の黒幕ゼック(ヴェルナー・ヘルツォーク)、この老優ふたりの存在感も
堪らない! ヘルツォークは、北杜夫に似ているなぁ、などと思いながら観てい
ましたが(笑)。
一番好きなのは、ヘリとパトカーに追跡されたJRが車を乗り捨て、バス乗り
場で乗客に紛れるシーン。見知らぬ男がJRにキャップを手渡す。バスの発車
後、男にキャップを返すJR。粋だねえ!

トム・クルーズだけに、毀誉褒貶、賛否両論は想像に難くないけれど、私は面
白く観られました。土曜の朝9時台の上映だったせいか、客席が半分も埋まって
いなかったのが残念だった。
( 『アウトロー』 監督・脚本:クリストファー・マッカリー/2012・USA/
主演:トム・クルーズ、ロザムンド・パイク、ロバート・デュヴァル)
少年と海、リチャード・パーカー ~『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』 【2D・字幕版】

LIFE OF PI
インド・フランス領区に住む少年パイ(スラージ・シャルマ)は、動物園を営む
家庭に育った。一家でカナダに移住することになったパイは、家族と、動物たち
とともに日本の貨物船に乗り込む。航海の途中、嵐で船は遭難。救命ボートに
乗り込んだパイだったが、そこには、ベンガルトラの 「リチャード・パーカー」
が潜んでいた・・・。
ブッカー賞を受賞した世界的ベストセラー小説を、名匠アン・リーが映画化。
「キング・オブ・ザ・ワールド」 にして3D映画の旗振り役、ジェームズ・キャメ
ロンも大絶賛、アカデミー賞も11部門ノミネートという前評判に、超楽しみにし
ていた作品。
凄い。唖然、呆然、我らがアン・リー監督に大拍手! 必見。

とにかく、映像が・・・。「未だかつて観たこともない」 という表現は、決して
大袈裟ではないと思う。魔術的とか、驚異的とか、「幻想的な映像」 といった
形容詞的な表現ではなく、映像が幻想している、とでも言うか。映像自体が生
きていて、自律的に、能動的に、信じられないほど美しいものを見せてくれて
いる。そんな感覚だったかもしれない。
しかし、3D映像と吹替えが苦手な私は、2D・字幕で観てしまった。。これは
多少無理をしてでも、3Dで観るべきだったかもしれない。再見?あるかも。
オーディションで抜擢されたという主役の少年・パイを演じたスラージ・シャ
ルマは、演技経験が皆無とは信じられない好演。差別主義者の厨房係を演
じたのが、最近ロシア国籍取得で話題となったジェラール・ドパルデューであ
るのも見どころ。

物語は、カナダ人作家(レイフ・スポール)が大人になったパイ(イルファン・
カーン)の自宅を訪ねるところから始まる。インドでの幼少期、遭難して漂流
したサバイバルな日々、辿り着いたメキシコで語った 「真実」。それは映像
に魅了され続けた頭に、ガツンと来る衝撃でもある。寓話の中に散りばめら
れた、人生における普遍的な教訓。それらは、重層的で味わい深い、この一
筋縄ではいかない物語を、「神話」 と言っても過言ではないほどの高みに
押し上げている。
パイは回想する。トラへの恐怖が緊張感をもたらし、生き延びるための工夫
に繋がったと。彼は多くの才能を備えていたが、特筆すべきは二つ。希望を
失わない才能と、神を信じる才能。冒険譚であり、宗教的であり哲学的でも
あるこの作品が、アン・リー監督の新たな代表作であることは間違いない。
( 『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』 監督・製作:アン・リー/
主演:スラージ・シャルマ、イルファン・カーン、レイフ・スポール/2012・米、台湾)
テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画