頑固親父~『人生の特等席』
人生の特等席





 TROUBLE WITH THE CURVE


 メジャーリーグ、アトランタ・ブレーブス老スカウトマン・ガス(クリント・イー
ストウッド)
は、ある日視界がぼやけることに気づく。生来の頑固さから、医師
の忠告にも耳を貸さない彼を心配した一人娘のミッキー(エイミー・アダムス)
は、スカウティングの旅に同行する。それは疎遠だった父娘が、30年ぶりに
過ごす濃密な時間だった。

 グラン・トリノ を最後に俳優引退宣言をしたクリント・イーストウッドが、
クリーンに復帰
頑固親父キャラはそのままに、最愛の娘への愛情を素直に
表現できない 「不器用な男」 を演じている。

人生の特等席2

 スクリーンに映るイーストウッドの姿を目にした時、軽いショックを受けてしまっ
た。 「イーストウッドがおじいちゃんになってしまってる」、と。電脳の時代につ
いていけず、スカウティングの旅も、これで最後かな、、なんて哀愁漂う後ろ姿
には、寂しさが隠しきれない。しかし、自分の知らない間にすっかり逞しく成長
した娘の援軍
を得て、彼はどんどん若々しくなってゆく。声には張りが戻り、立
ち姿の背筋も、いつの間にかスっと伸びているのだ。そして遂に、プールバー
でミッキーに言い寄る男にキレる! 「娘に指一本触れたら、殺すぞ!」

 その娘を演じたエイミー・アダムス。修道女からディズニープリンセス料理
ブロガー
まで、何でもこなす器用で巧い、大好きな女優さん。ブルーアイにブロ
ンド、典型的なアメリカン・ビューティではあるのに、独特の場末感を漂わせて
いると思う。身体張って生きてます、みたいな。 サンシャイン・クリーニング 
や ザ・ファイター で演じた役柄が好きだな。青空の下、ホームラン打って
側転してる姿も、ビリヤードに興じている姿も活き活きとして素敵父の遺伝子
を受け継いだ彼女の相手がジャスティン・ティンバーレイク、っていうのだけは、
ちょっと軽いと思ったかな。

人生の特等席3

 ラストは、逆転ホームラン的なお約束のハッピーエンド。齢80にして 「俺も
これから変われるかな」
 なんて言えるガスが素敵。人生の曲がり角(THE
CURVE)
では何かと困難(TROUBLE)がつきものだけど、曲がり損ねて転ん
でも、変化球が打てなくても、まだまだ、これから! って思わせてくれる。
邦題は、娘視点からのセリフの引用。なので、人生の転機っていう意味合い
が含まれていない
のは、ちょっと残念。

 思いっきり余談ですが、アトランタ・ブレーブスのGMを演じたロバート・パト
リック
。彼が登場すると 「あ~、(T2の)T-1000 だ~」 って必ず思いま
せんか? ホント、あの役インパクト強過ぎだよね(笑)。

 ( 『人生の特等席』 監督・製作:ロバート・ロレンツ/2012・USA/
      主演:クリント・イーストウッド、エイミー・アダムス、ジャスティン・ティンバーレイク
スポンサーサイト

テーマ:アメリカ映画 - ジャンル:映画

[2012/11/30 15:54] | 映画 | トラックバック(40) | コメント(4) |
夢の跡~『ドリームハウス』
ドリームハウス






 DREAM HOUSE


 有能な編集者ウィル・エイテンテン(ダニエル・クレイグ)は、郊外に購入した
で文筆活動に専念しようと、惜しまれながら退職する。愛する家族、妻リビー
(レイチェル・ワイズ)と二人の幼い娘
と共に過ごす時間を大切にしていたウィル
だったが、彼らの周囲で奇妙な出来事が次々と起こり始める・・・。

 この映画も、予告を観るまでほぼノーチェックだった作品。本作の共演がきっ
かけで、ダニエル・クレイグとレイチェル・ワイズは本当に結婚してしまったらし
い。まぁ、物凄くお似合いな二人ですよね。。末長くお幸せに。

 物語は、郊外の一軒家に起こるサスペンス「よくあるパターン」 なのかもし
れないけれど、ミステリーやサスペンスはあまり観ない私には、なかなか面白
い作品
だった。尺もすっきりと短い(92分)し。監督はジム・シェリダン

 ★☆★☆★☆  以下、ネタバレしています  ★☆★☆★☆

ドリームハウス2

 郊外に買った新居は、数年前に一家惨殺事件が起きていた。妻と二人の子ど
もは殺され、夫だけが生き残っているという。見知らぬ男の影、床下から聴こえ
る物音、隠し部屋に残る遺品、時折廃屋のように見える家
「エイテンテン」 と
いう奇妙な名前、隣人アン・パターソン(ナオミ・ワッツ)の訝しげなまなざし・・・


 真相が明らかになったとき、様々な疑問が腑に落ちる。ウィルが職場を去る時
の、同僚たちの言葉や振る舞い。矯正施設を訪れたウィルに対する、職員の態
度。帰宅したウィルに 「寂しかったわ」 と言うリビー
。「新婚夫婦じゃあるまいし」 
と思っていたら、ウィルの帰宅は5年ぶりだったのだ。しかし、なぜ? ウィルは、
こんなにも愛おしげな家族を、本当に殺したのだろうか? ならば、彼は元々
イコパス
なのか。

ドリームハウス3

 更なる真相が明かされる、切ないラスト。こんなにも美しい家族を、突然(し
かも勘違いで)奪われたら。記憶を消去したくもなるだろう。そう思えるほど、
レイチェル・ワイズは美しく、子役のふたりはかわいかった!

 ( 『ドリームハウス』 監督:ジム・シェリダン/2011・USA/
          主演:ダニエル・クレイグ、レイチェル・ワイズ、ナオミ・ワッツ

テーマ:アメリカ映画 - ジャンル:映画

[2012/11/27 16:19] | 映画 | トラックバック(14) | コメント(2) |
今年も残すところ
今年も残すところ2012

 いつの間にか・・・。あと1ヶ月余りとなりました。

 早い。というか、今年は本当にいろいろなことがあったので、長かった
あれって、まだ今年の出来事なんだなぁ、と思うこともしばしば。
そして、まだ立ち直っていない(引きずっている)私。ずるずる

 夏から少し忙しくなって、読書の感想が全然書けていない。
 「○月に読んだ本」シリーズ(?)も、6月を最後にストップしたまま。
なので、バタバタですがいちおう記録だけでも残したいと思っています、
備忘的なものですけど。

 ipadはやっと買ったけど、今年中にiphone5にできるかな? 
ベル、PHS、携帯と、長~いお付き合いになってしまったNTTdocomoとも、
遂にサヨナラですが。

 インフルエンザの予防接種もまだだし、Tigerにもまだ行けてないし。
昼間はまだ入店に並ぶのですが、夕方以降は空いているらしい。早く行きたい! 
部屋の模様替えもしたいし、エル・グレコフェルメールも行かなくちゃ。

 とか言いながら、時間ができたらすぐ映画館に走るんだけどね(笑)。

テーマ:季節を感じる - ジャンル:ライフ

[2012/11/25 11:30] | 徒然 | コメント(0) |
リフレインが叫んでいる~『その夜の侍』
その夜の侍

 小さな鉄工所を営む健一(堺雅人)は、5年前妻の久子(坂井真紀)交通事
で亡くしていた。ひき逃げした木島(山田孝之)服役し、出所。事故当日、助手
にいた小林(綾野剛)の部屋に居候し、自堕落な生活を送っていた。

 「お前を殺して、俺は死ぬ。」

 これは劇場で予告を目にするまで、実は全く知らなかった作品分厚いメガネに
汗まみれ、薄汚れた作業着姿
清潔感ゼロの堺雅人は、最初は誰だかわからな
かったほど。しかし、(UAによる)力強い歌声の 『星影の小径』 が流れる、異様
なエネルギー
に満ち満ちた予告編に惹き付けられた。それは確かに 「負」 のパ
ワー
ではあるけれども、心をグッと掴まれた気がしたのだ。

 愛する人を突然奪われ、5年間時が止まったままの男が、スクリーンで立ち往生
している。途方もなく切羽詰まりながらも、「それでも生きていく」 男の姿を描いた
佳作。監督は、本作が初メガホン赤堀雅秋。彼が主宰する劇団の、舞台劇の
映画化
である。

その夜の侍2

 これは確かに、復讐劇であるかもしれない。「仇討ち」 という意味で、健一は
「侍」 なのかもしれない。しかし一面では、純度の高い愛の物語でもある。

 「サバ味噌だな」。事故現場から一転、画面は遺骨の置かれた健一の部屋
切り替わる。留守録をリピートし、久子の下着を抱きしめる姿に、青木(新井浩
文、相変わらずこの人が出てくると間違いない)
の 「5年ですよ!」 という声
が重なる。 え? 5年?? そんなにも長い間、健一の時は止まっていたのか。

 そんな彼を、奇妙だと思うことも、滑稽だと思うことも、哀れだと思うことも
できるだろう。しかし、私やあなたには、こんなにも誰かを思うことや、恋しが
ることができるだろうか?
 誰かを、思い続ける強さ、ただひたすらに。そして、
その強さはまた、自分自身を縛る枷にもなる。

 たとえ被害者の肉親であっても、脅迫状を送り付けることや、包丁を隠し持
ってストーキング
することは、法的に許される行為ではないだろう。いや、間
違いなく狂気の沙汰である。 「8月11日、お前を殺して、俺は死ぬ。」 その
思いだけが、健一をこの世に繋ぎ止めていた。

その夜の侍3

 そしてもう一つ、この映画は人間の、本質的な 「孤独」 を描いている。暗
く、底なしの。 「他愛のない話がしたいんだ」

 昨日観たテレビの話や、食べたものの話さえする相手がいない人たちがい
る。彼らは生きている、「孤独」 という言葉さえ、甘っちょろく感じるほどの痛々
しさで
星さん(田口トモロヲ)や、警備員の彼女(谷村美月)のように。

 そんな彼らの心に、巧妙に入り込んでゆく術を知っている、悪魔のような人間
もいる。「人間じゃない、生きる価値のない奴」一人じゃ何もできないから、い
つも誰かを携えている卑怯で、声の大きい、サイテーな奴。木島! アンタの
ことだよ
山田孝之が、巧い腹が立つほど、それはそれは、憎々しくて・・・。

 その木島に翻弄されながらも、共依存している小林。彼を演じた、綾野剛がま
た、素晴らしい。撮影前、彼の衣装合わせの後、監督はガッツポーズをしたとい
う。木島の狂気に触れ、揺らぎ、身動きが取れない小林の心情。監督の目論見
通り、それは綾野剛の肉体から発せられる確かな息遣いとなって、スクリーンの
こちら側に伝わってくる。

その夜の侍4

 思い(仇討ち)は果たせなかったように見えるけれど、健一には、木島との
対峙がどうしても必要だった。殺してしまいたいほどの憎しみと怒りを、体当
たり
で、洗いざらいぶちまけることが。そうすることでしか、あの日から止まっ
てしまった健一の時間を進めることはできなかったのだ。無様でも、情けなく
ても


 呪縛は解けた。それでも、どうしても、プリンが好きなんだな。

  静かに 静かに
  手をとり 手をとり

  アイラブユー アイラブユー
  いつまでも いつまでも


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 

 鑑賞後、同じような経緯で、同じシアターで、同じようにわけのわからないエ
ネルギーに満ちた映画を観
たことを思い出した。 監督失格。どちらの作品も、
荒削りで、技巧や映像美を感じる作品ではない。しかし、作り手の 「信念」 だ
けはヒリヒリと感じる。これからも、こんな作品を観たいと思う。

 ( 『その夜の侍』 監督・脚本:赤堀雅秋/2012・日本/
       主演:堺雅人、山田孝之、綾野剛、田口トモロヲ、新井浩文

テーマ:この映画がすごい!! - ジャンル:映画

[2012/11/23 21:05] | 映画 | トラックバック(16) | コメント(6) |
マック・ザ・ナイフ/大殺戮 ~『悪の教典』
悪の教典

 高校の英語教師、蓮実聖司(伊藤英明)は生徒たちから「ハスミン」 と呼ばれ、
そのカリスマ性とルックスにより絶大な人気を得ていた。同僚からも一目置かれ
る存在である彼はしかし、生まれつき共感力に欠け、反社会性人格障害の殺人
という 「裏の顔」 を持っていた。

 国民的大ヒットシリーズ 『海猿』 の主役にして、体育会系爽やか俳優の代名
詞的存在の伊藤英明
が、ハーバード卒のサイコパスを演じる、、しかも監督はあ
鬼才・三池崇史。なんともミスマッチなキャスティングに期待半分、興味半分
シアターへ。

 いやこれは・・・、傑作ではないだろうか? 原作は未読『バトル・ロワイヤル』 
や 『ハンガー・ゲーム』 などの類似(?)系作品も未見なので比較のしようはな
いが、さすがは 「世界のミイケ」 と言い切ってしまいたい、素晴らしい作品だと
思う。伊藤英明は、散弾銃を手にした時の 「何も映っていない」 狂気の瞳が最
。いい意味で期待を裏切ってくれた彼を、思わず見直してしまった。

悪の教典2

 明朗快活で爽やかな本人のルックとは対照的な、カラスの集まる蓮実の住居
廃屋加減が半端ではない。しかも、自宅では常に全裸、車もあり得ないほど
古くてボロい軽トラ
。あの車で、平気で学校に通勤する彼の神経に 「異常」 を
感じてしまう。

 それぞれに 「闇」 を抱えた同僚教師、久米(平岳大)、釣井(吹越満)、柴原
(山田孝之)
の人物造型もGood! 校長が岩松了、教頭が篠井英介、っていう
のもGreat! 職員会議の後、蓮実に話しかける先生は、原作者の貴志祐介
ではなかったかな? エクセレ~ント(笑)。

 生徒たちもそれぞれに熱演。何せ(ほぼ)全員殺される、と言うか蓮実に 「卒
」させられるわけだが、死ぬ直前まで 「ハスミン」 を信じている彼らが哀れ
と言うか・・・。ヒミズ のマルチェロ・マストロヤンニコンビ(二階堂ふみ&染谷
将太)
に 桐島 チーム(浅香航大、松岡茉優) と、今年公開の映画と出演
する若手俳優たちが被りまくっている
ので、二階堂ふみが「住田最高!」とか、
松岡茉優が「桐島、どこ?」 とか言い出しそうだな、なんて前半は思っていた。
しかし、阿鼻叫喚の後半には、そんな邪念も吹っ飛んでしまう。

悪の教典3

 そして一番素晴らしかったのが、音楽蓮実のテーマ 『モリタート/マック・ザ
・ナイフ』
 の使い方が、何とも言えない。これは是非劇場で 「体感」 して欲しい
映画
です。

 ( 『悪の教典』 監督・脚本:三池崇史/原作:貴志祐介/2012・日本/
       主演:伊藤英明、二階堂ふみ、染谷将太、林遣都、平岳大、吹越満、山田孝之

テーマ:この映画がすごい!! - ジャンル:映画

[2012/11/20 07:27] | 映画 | トラックバック(37) | コメント(4) |
この世の「果て」の家~『最終目的地』
最終目的地






 THE CITY OF YOUR FINAL DESTINATION


 イラン系アメリカ人のオマー(オマー・メトワリー)は、博士号取得のために
自殺した作家の伝記を執筆しようとしていた。作家の家族の許諾を得るため、
彼は南米ウルグアイに向かう。人里離れた邸宅に、作家の兄アダム(アンソ
ニー・ホプキンス)、その恋人のピート(真田広之)、妻キャロライン(ローラ・リ
ニー)、愛人アーデン(シャルロット・ゲンズブール)
と、その幼い娘が暮らして
いた。

 ジェームズ・アイヴォリーが南米ウルグアイを舞台に描く、少し奇妙な人間
ドラマ
共同生活を送る血の繋がらない人々を結びつけるのは、今は亡き作
家の幻影
。彼の記憶に支配されながら、漂うように生きる彼らの暮らしぶりは、
ひどく現実離れしている。25年間異人種の同性とパートナーとして暮らし、
「この生活以外考えられない」 と囁くピート。夫の愛人を受け入れ、「見捨て
られなかった。孕んだ猫のようで」
 と呟くキャロライン。遠い異国から来た客
人に「生まれつき孤独ね」 と共感を送り、惹かれてゆくアーデン。遥かなる
ヴェネツィアから来たゴンドラ・・・。ああ、ロマンちっく過ぎてめまいがする。

最終目的地2

 四十路を過ぎているシャルロット・ゲンズブールが「28歳」、五十路を過ぎ
ている真田広之が「40歳」 という設定は、彼らがいくら若く見えると言って
も、少し無理がある気がした。しかし、ロングヘアにノースリーブのコットンワ
ンピを着て、ロングブーツを履いたアーデンは「キュート!」以外の何物でも
ないから、許そう。彼女と、セレブ感バリバリのキャロライン。対極にあるよう
なこの二人の女性が惹かれた作家ユルスとは、どんなひとだったのだろう。

 『最終目的地』 という邦題はあまりに素っ気なく、色気がないような気が
したけれど、新潮社クレストブックスから出ている原作と、同じにしてあるの
ですね(だったら 愛を読む人 も 『朗読者』 のままにしてほしかったが)。
原作も、読んでみたいと思った。

最終目的地3

 世の中には、「飛行機に乗り遅れたこと」 がある人とない人、2種類の人間が
いる
のですね。人生をだと捉えるならば、愛する人がいる場所が、終着点なん
だろうけれど・・・。いつまでも、いくつになっても、次に乗る飛行機のことを考えて
いる人間には、この映画は理解し難い世界を描いているかもしれない。

 ( 『最終目的地』 監督:ジェームズ・アイヴォリー/2009・USA/
      主演:オマー・メトワリー、アンソニー・ホプキンス、ローラ・リニー、
         シャルロット・ゲンズブール、真田広之、アレクサンドラ・マリア・ララ

テーマ:アメリカ映画 - ジャンル:映画

[2012/11/17 15:54] | 映画 | トラックバック(5) | コメント(2) |
金塊を強奪せよ~『黄金を抱いて翔べ』
黄金を抱いて翔べ

 裏社会の調達屋として生きる幸田(妻夫木聡)は、高校時代からの友人・北川
(浅野忠信)
に請われ、大阪に帰ってくる。システムエンジニアの野田(桐谷健太)、
北朝鮮の元スパイ・モモ(チャンミン)、北川の弟・春樹(溝端淳平)
らとともに、北
川と幸田は大銀行の地下に眠る金塊を強奪しようとしていた。

 大阪在住の作家・高村薫氏のデビュー小説を、井筒和幸監督が豪華キャスト
で映像化。ハードボイルドなサスペンスの合間に、関西らしい抜け感のある会話
が挟まれ、緊張と緩和のバランスがいい。冒頭、ヨドバシカメラのビルを皮切りに、
地下街や中之島公園の見慣れた情景が映し出されるのは、大阪在住者にはう
れしいもの。あまり期待はしていなかったけれど、面白かった

黄金を抱いて翔べ2

 桐谷健太って、存在そのものが物凄く興味深い。何を演じても「桐谷健太」本人
が消えないけれどそれが決してマイナスではなく、役を自分に引き付けている
言うか。私にはそれが不思議な魅力に映る。
 彼をはじめ主要キャストは皆好演だったと思う。しかし個人的には、溝端淳平
だけちょっと浮いていたと思ったかな。彼が悪いわけではなく、春樹という人物
の立ち位置が、今一つ不明瞭
だったのではないか、と。対して、わかり易過ぎる
役柄の青木崇高って、本当に巧いな~。彼は大阪出身なので、あれが地?(笑)

 アウトローとしてしか生きられない幸田の昏い瞳を、妻夫木聡は真摯に演じて
いたと思う。その演技は 悪人 よりも数倍、バージョンアップしている印象。
北川と「ジャイアン」 「のび太」 と言い合うシーンには笑ってしまった。

 そんな、過去にも未来にも影が差しているような幸田が、モモに対してだけ見
せる優しげな笑顔が堪らない。アパートで作業に没頭するモモの頭を、くしゃく
しゃにする幸田の仕草
にはドキリ。「日本でやり残したことは?」 「鯖の寿司が
食いたかった」 と言うモモに、バッテラを買ってくる幸田。あんた、どんだけモモ
が好きなのよ・・・


黄金を抱いて翔べ3

 しかし残念だったのは、じいちゃん(西田敏行)の正体が明かされるあのシー
ン。唐突感が先立ち、さほど衝撃や驚きが湧いてこなかった。幸田の根っこにあ
る、悲しみや厭世感がもう少し詳細に描かれていたら、違った印象を受けていた
んじゃないかと思うのだけれど。

 「この計画は楽しみたいんだ」 と言っていた北川。「子どもにうつされて、俺も
去年おたふく風邪やったんだ」 。え? じゃあ、圭子(中村ゆり)のお腹の子は、
一体・・・?
 と思ってしまったのは、私だけ?

 ( 『黄金を抱いて翔べ』 監督・共同脚本:井筒和幸/2012・日本/
      主演:妻夫木聡、浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、チャンミン、青木崇高、西田敏行

テーマ:日本映画 - ジャンル:映画

[2012/11/13 08:48] | 映画 | トラックバック(26) | コメント(4) |
フロイトとユング、その妻と愛人~『危険なメソッド』
危険なメソッド






 A DANGEROUS METHOD


 1904年。カール・ユング(マイケル・ファスベンダー)の勤務する病院に、錯乱
した女性患者が運び込まれた。彼女の名はザビーナ(キーラ・ナイトレイ)。ユン
グは、と仰ぐフロイト(ヴィゴ・モーテンセン)の提唱する「談話療法」をザビー
ナに試みるが・・・。

 デヴィッド・クローネンバーグが描く、20世紀のヨーロッパが生んだ偉大な
二人の心理学者と、その愛人「危険な」関係史実に基づいた物語。

 クローネンバーグと聞けばどこかおどろおどろしいと言うか、不気味でダーク
な作風
を連想する。本作はそういった「クローネンバーグ風味」は随分と抑え
気味で、20世紀初頭のヨーロッパ中流階級の人々を一見、麗しく映し出して
いる。しかし、彼らが内包する不穏な深層心理が、スクリーンに漂っていると
言えなくもない。

危険なメソッド2

 実はこの作品、物凄く期待していたのですよ・・・。「花婿候補ナンバーワン」
ことヴィゴでしょ、今をときめく最旬の男・ファスベンダーでしょ。キーラの熱演
も凄いと評判だったし、この三人の化学反応をクローネンバーグがどんな風に
導演してくれるのか、と興味津津で。しかし、、少々、寝てしまいました(懺悔)。

 ザビーナのエキセントリックな演技には引き込まれるのだけれど、学者同士
であるフロイトとユングの会話は感情を抑えた長セリフだけに、睡眠誘発剤的
な効果があると言いましょうか・・・。ヴァンサン・カッセルの出演シーン、あまり
記憶にありません(懺悔)。ユングとザビーナの関係に、冷めてしまったところ
もあり。高尚そうな言葉を並べているけれど、結局それって「痴話喧嘩」なんじ
ゃないの? と。

 裕福な妻を持った若きユングは、狭いアパートに暮らすフロイトに対し、優越
を抱いていたのかもしれない。NYに向かう客船で、一人特等客室に向かう
ユングに、選民意識を感じてしまった。彼はプロテスタントであり、ユダヤ系
のはフロイトの方なのだけれど・・・。

危険なメソッド3

 「アーリア人を信じるな」 というフロイトのセリフ、ユングの見た「血の海」 の夢
は、20世紀前半のヨーロッパに起こった二つの世界大戦を想起させる。心理学
や精神医学に明るい人ならば、彼らの専門的な会話を分析して深読みするもよし。
私はただただ、美しい映像に酔うばかりだったけれど。

 ( 『危険なメソッド』 監督:デヴィッド・クローネンバーグ/2011・英、独、加、スイス/
        主演:キーラ・ナイトレイ、ヴィゴ・モーテンセン、マイケル・ファスベンダー

テーマ:ヨーロッパ映画 - ジャンル:映画

[2012/11/09 11:49] | 映画 | トラックバック(15) | コメント(2) |
素朴な人生~『桃(タオ)さんのしあわせ』
桃さんのしあわせ




 桃姐

 A SIMPLE LIFE


 60年間、同じ家庭で住み込みの家政婦として働く春桃(タオさん:ディニー・
イップ)
。家族の多くは外国へ移住し、香港に残るのは映画プロデューサーの
ロジャー(アンディ・ラウ)
だけ。ある日、桃さんは脳卒中で倒れてしまう。

 本作のプロデューサー、ロジャー・リーの実体験に基づく物語。ヴェネチア国
際映画祭
においてディニー・イップが主演女優賞を受賞、中華圏の国々で大ヒ
ット
したという話題作。シアターは、立ち見が出る盛況ぶり。素晴らしい作品
した。これは 「やさしさについての映画」 です。必見

桃さんのしあわせ2

 スクリーンに向かいながら、終わって欲しくない、ずっとずっとこの映画を観
続けていたい
と願った。この映画が終わるのは、きっと桃さんとロジャーが「永
遠のお別れ」
 をする時なのだろう、とわかってしまったから。

 なぜか懐かしい気分だった。桃さんにも、ロジャーにも、どこかで会ったこと
があるような
、彼らを知っているような気持ちになった。それはきっと、彼らの
存在が 「やさしさ」 そのものであるから。それはかつて私がもらった、祖母
や母や、叔父や叔母からのやさしさ
なのだろう。

 各国の映画賞が証明するまでもなく、主演二人の演技が素晴らしい。いや、
演技を超えた、二人の存在そのもの、が。この映画の中で、ディニー・イップは
桃さんの、アンディ・ラウはロジャーの人生を
、間違いなく生きている。技術や
理屈ではなく、ただ心が満たされたと感じる映画がある。老いや死を描いた、
地味と言えばあまりにも地味な映画なのに、暗さや悲惨さは微塵もない。肉体
は消えても、桃さんの魂はずっとロジャーを見守っていると、ラストシーンは教
えてくれる。

桃さんのしあわせ3

 桃さんとロジャー二人のシーンは全て名シーン、と言っても過言ではない。
あ・うんの呼吸の食卓、プレミア上映会で手をつなぐ二人、老人ホームでロジャ
ーを待っている桃さんの表情
。 「僕と桃さんは運がいい」 とロジャーは言う。
伴侶を持たない二人が、親子以上の絆で結ばれてゆく様は、人間の善性を信
じさせてくれる。この映画を観られてよかった。

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ 

 サモ・ハンアンソニー・ウォンの顔が観られるのもうれしい。キョン(チャップ
マン・トー
)が、歯医者さんだったのには笑った。娯楽映画とは言えないけれど、
久しぶりに、しみじみ香港映画観たな~、って気がしたのだった。

 ( 『桃(タオ)さんのしあわせ』 監督・製作:許鞍華アン・ホイ
        主演:劉徳華アンディ・ラウ、葉嫻ディニー・イップ/2011・香港)

テーマ:★おすすめ映画★ - ジャンル:映画

[2012/11/06 10:09] | 映画 | トラックバック(12) | コメント(6) |
最期のときに~『終の信託』
終の信託

 呼吸器内科の医師・折井綾乃(草刈民代)は、検察庁から召喚を受ける。自身
が担当し、3年前臨終に立ち会った喘息患者・江木(役所広司)の家族から、彼女
殺人罪で告発されたのだ。

 周防正行監督の新作は、終末期の延命治療を巡るサスペンス。医療訴訟が繰
り返し起こされている現実を反映し、生命の尊厳、本人の意思、家族の思い、医
療者の苦悩
など、様々な角度から考えさせられる作品になっている。観る人それ
ぞれの経験生命観によって、感想が180度変わりそうな問題作。しかし、さすが
は周防監督。144分の長尺を、説得力十分に引っ張ってくれた。全く長く感じない
ので、多くの方に観ていただきたい

終の信託2

 主人公である綾乃は、東大医学部卒のエリート中のエリートでありながら、
同僚医師(浅野忠信)との不倫に破れ、自殺未遂を図る孤独な女性。心に
があり、誰かに依存せずにはいられない性質なのだろう、担当患者である江
木に「最期は早く楽にして下さい」 と懇願されて肯きながらも、「私は江木さ
んがいなくなったら、どうすればいいの?」
 なんて言ってしまうような女性。
死を覚悟している人に対して、それを口にするのは違うと思う。感じたり、思っ
たりすることは自由だけれど。

 経済的な問題や、長く看病し続けてくれている妻(中村久美)の負担を考え、
江木は半ば自殺のような形で、心肺停止のまま救急車で運ばれる。綾乃は
悩みながらも、呼吸器を外す決断をし、家族に覚悟を促す。

 役作りのためか、少し痩せた役所広司の演技が凄い。特に、臨終場面の苦
しみようは正視できないほど。あの姿を見たら、家族は到底納得できる最期だ
とは思えないだろう
し、激しく後悔すると思う。江木はどんなに苦しかったか・・・。
あれはほとんど拷問でしょう。

 しかし、一番いけないのは江木が家族(特に妻)に意思表示を明確にしてい
なかったこと
だと思うのだ。いくら信頼していたとはいえ、他人である医師に、
自分の死の全責任を負わせるのは酷というものでしょう。せめて文書の形で
でも、彼は家族向けに、きちんとしたリビング・ウィルを遺しておくべきだった
と思う、自戒を込めて。

終の信託3

 検事役の大沢たかおも、「こんな怖い人だったのか・・・」と思ってしまうほど
迫真の演技。この映画、とにかく長セリフなので、役者の皆さんは大変だった
のではないかな。草刈さんも頑張っていました。

 検事のペースで取調べは進み、彼の望む通りのストーリーで「罪」 が生み
出されて行く過程は背筋が寒くなる。生命は尊重すべきだけれど、「たくさんの
管につながれた、ただの肉の塊になってまで生きていたくない」
 江木のこの
言葉に、深く肯いている私がいるのだった。

 ( 『終の信託』 監督・脚本:周防正行/2012・日本/
      主演:草刈民代、役所広司、大沢たかお、細田よしひこ、浅野忠信

テーマ:考えさせられた映画 - ジャンル:映画

[2012/11/02 09:44] | 映画 | トラックバック(23) | コメント(8) |
| ホーム |
真紅のthinkingdays


いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

Recent Entries

Categories

What's New?

真紅

Author:真紅
Every cloud has a silver lining.

Recent Comments

Recent TrackBacks

Archives

My Favorite

Search this site

RSS

Thank You!