思い出すと、心が温かくなる人~『横道世之介』

18歳の横道世之介は、大学進学のために九州・長崎の港町から上京した。
新宿駅前の雑踏、初めて見る人混み。それは 「青春」 と呼ぶしかない、キラ
キラ輝く日々の始まり。
日本中が好景気に沸き、ハイテンションだった懐かしの80年代。お人好しで
何にでも取り敢えず「YES」と言う、前向きな希望の塊のような男の子、横道世
之介。夢中で読み進むうちに、私は彼の虜になった。第23回柴田錬三郎賞受
賞作。
沖田修一監督、高良健吾&吉高由里子主演で映画化されると知り、手にと
ってみたのです。いや~、しかしこれは。。ここ数年で読んだ本の中で、ベスト
かも。吉田修一さんって、こんな面白い小説書けるんですね(失礼)。 だって
これ『悪人』 とは真逆ですもん。。主人公の世之介はじめ、登場人物が皆い
い人で、やさしくって。
だから、272ページをめくった時、「え!」と叫んでそのまま涙、涙。。そこか
らは、(20数年後の)現在が過去を回想するシーンではもう、笑って、泣いて・・・。
最後のページなんて、我を忘れて泣いていました。小説を読んで、こんなに泣
いたのは久しぶり。
もう会えないけれど、思い出すと心が温かくなるような人。誰の心の中にも、
「私の世之介」 が住んでいたら。世界はほんの少しだけ、やさしくなれるよう
な気がする。
( 『横道世之介』 吉田修一・著/毎日新聞社・2009)
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いつか本物になろう~『人生はビギナーズ』

BEGINNERS
LAに住むアートディレクターのオリヴァー(ユアン・マクレガー)は、75歳
にしてゲイであることをカミングアウトした父、ハル(クリストファー・プラマ
ー)を癌で亡くす。失意のオリヴァーは、あるパーティでフランス人女優の
アナ(メラニー・ロラン)と出逢い、恋に落ちるのだが・・・。
クリストファー・プラマーが、今年度の映画賞助演部門で総なめの勢い
な本作。マイク・ミルズ監督の自伝的作品だそう。主演のユアンとメラニー
はヨーロッパ人ですが、アメリカ映画です。思わず花を買って家に帰りたく
なるような、素敵な映画・・・。公開一週目のレディーズデイは満席でした。

エキセントリックな母親と、影の薄い父親の仲を「愛が無い」と感じて育った
オリヴァーは、内向的で繊細な青年。恋愛してもいつも上手くはいかず、38歳
にして独身。いつも印象が「普通の兄ちゃん」なユアンが、この役に激ハマリ。
ユアンって、観る度にいい役者になってく気がするなぁ。彼が夢中になるアナ
も、メラニー・ロランが小悪魔全開で、超魅力的。
44年連れ添った妻を喪い、長年クローゼットだった自らのセクシュアリティ
をカミングアウトし、若い恋人(アンディ~♪って呼ぶ声、最高!) を得、活き
活きと暮らすハル。幸せ全開なハル。でも、少し切なくもある。
オリヴァーの母はハルにプロポーズし、こう言ったという。「私が治してあ
げる」。若かった彼女は、自分を無敵だと思っていたのだろう、不可能なこ
となどない、と。差別と偏見に満ちた時代、ハルも「普通に」生きられるのな
ら、と結婚した。しかし、オリヴァーが生まれてからの二人は、決して幸せ
ではなかった。「生まれ変わったら、ユダヤ人と結婚するわ」 息子に愚痴
る母。愛がなかったわけではない。誰のせいでもない。でも、どうしようもな
いからこそ、辛いのだ。

そしてこの映画、一番の功労者はジャック・ラッセル・テリアのアーサーで
しょう。何て愛らしく、芸達者なワンちゃんなんだ・・・。彼の「心の声」の字幕
がまた、要所要所で効いている。ツボを心得ていますね、監督。
人生、いくつになっても初心に帰れば、いつか「本物」になれる。あなたが
そう望むのならば。
( 『人生はビギナーズ』 監督・脚本:マイク・ミルズ/2010・USA/
主演:ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー、メラニー・ロラン)
ある終末の詩~『メランコリア』

MELANCHOLIA
豪華な披露宴の主役として、幸せいっぱいなはずの新婦ジャスティン(キル
ステン・ダンスト)は、次第に憂鬱な気分に囚われ始める。姉のクレア(シャル
ロット・ゲンズブール)はそんな彼女を気にかけるのだが・・・。
デンマークの鬼才、ラース・フォン・トリアーの新作。主演のキルステン・ダン
ストがカンヌ映画祭で主演女優賞を受賞し、監督は失言によりカンヌを追放さ
れる、といういわくつきの作品。しかしストーリーは(トリアーにしては)そう過激
でもなく、パニックが起こらないディザスター映画、と言えるかもしれない。これ
は監督自身の、メランコリックな心象風景の映像化なのだろう。

監督がジャスティンに自己投影しているとしたら、結婚式は映画撮影現場。
高揚感は次第に鬱気へと取って代わり、義兄のジョン(キーファー・サザー
ランド)は小うるさいスポンサー。言いたい放題の両親や社長は、我儘なキャ
スト。新婦(監督)は遂に、披露宴(撮影現場)を抜け出す・・・。
監督はこの憂鬱の元凶を、地球に大接近する惑星「メランコリア」に求める。
医者(科学者) は鬱(惑星) が改善している(遠ざかっている) と言うけれど、
やっぱり状況は悪くなっている(近づいている)! しかしジャスティンは、冷静
にこの事態を受け止めている。邪悪な生命は、惑星の衝突で全て無くなって
しまえばいい、とばかりに。
壮大な音楽と、映像美に圧倒される。思えば、私が初めて観た監督の作品
は『奇跡の海』。エミリー・ワトソンの演技、映像、ストーリー、全てに、完膚な
きまでに叩きのめされた映画だった。ラース・フォン・トリアー、ちょっと(かなり
?)変人だけど、やっぱりその才能はダテじゃない。

しかしこの映画、豪華キャストなことに驚いた。 シャーロット・ランプリング、
ジョン・ハート、ステラン・スカルスガルドにその御子息のアレキサンダー・ス
カルスガルドまで! 彼がまた、めちゃくちゃ男前なんです。。キルステン・ダ
ンストとシャルロット・ゲンズブールが、あまりにも似てない姉妹なのは御愛嬌
(笑)。
( 『メランコリア』 監督・脚本:ラース・フォン・トリアー/
主演:キルステン・ダンスト、シャルロット・ゲンズブール/
2011・デンマーク、スウェーデン、仏、独)
鍵穴を探す旅~『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』

EXTREMELY LOUD
AND
INCREDIBLY CLOSE
"Are you there?"
2001年、NY。9歳の少年オスカー(トーマス・ホーン)は、最愛の父(トム・ハ
ンクス)を9.11テロで亡くす。一年後、オスカーは父のクローゼットで1本の鍵
を見つける。
ジョナサン・サフラン・フォアによる同名小説の映画化。実は、昨年原作を読
もうと手にとってみたのだが、残念ながら挫折。文体も装丁も、少し風変わりな
雰囲気の小説だった。大好きなスティーヴン・ダルドリー監督作品ということで、
映画は絶対に観たいと楽しみに待っていた。監督以外も、脚色のエリック・ロス
はじめ、撮影・衣装とオスカー級のスタッフが揃った鉄板作品となっている。

人並み外れた頭の良さと記憶力を持ちながら(いや、持っているが故に)、閉所
や人混みに恐怖を感じ、対人関係が巧く築けない、孤独な少年オスカー。そんな
彼にとって、この世界とのたったひとつの「橋」だった父の、突然の死。到底受け
入れられないオスカーは、偶然見つけた「鍵」に合う穴を探す旅に出る。父からの
メッセージを受け取るために。
オスカーを演じた新人、トーマス・ホーンが素晴らしい。この映画の全ては、彼
の演技にかかっていると言っても過言ではない状況で、演技経験ゼロとは信じ
難いような表情を見せる。公式サイトに、「ものすごく可愛くて、ありえないほど演
技が素晴らしい少年」と紹介されているのも納得。オスカーの孤独、慎重さ、繊細
さ、痛み、喪失感、飢餓感。それら全てを大きな瞳と細い身体で体現する様は、
並みいるオスカー俳優たちにも全く見劣りしていない。

鍵穴の行方よりも大切なこと。人は、決して一人では生きてゆけないという、
当たり前過ぎて普段は観過ごしている真理。オスカーは、たくさんの人に守ら
れていた。母(サンドラ・ブロック)、おばあちゃん、おばあちゃんちの間借り人
(マックス・フォン・シドー)。NYに住む、何百人ものブラックさんたち。そして、
記憶の中の父。9.11から10年、二十歳になったオスカーは今、どうしている
のだろう・・・。
人は人を愛し、愛するが故にその不在に傷つき、また傷つける。喪失の傷を
癒す過程は人それぞれだけれど、全てを、いつかはきっと受け容れられる。自
らを信じ、扉を開き、一歩踏み出せれば。
勇気を持って、ね。
( 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 監督:スティーヴン・ダルドリー/
主演:トーマス・ホーン、トム・ハンクス、マックス・フォン・シドー/2011・USA)
淀んだ血~『共喰い』

川沿いの町に住む遠馬は17歳。両親は離婚し、遠馬は父と、琴子さんという父
の愛人と暮らす。産みの母の仁子さんは、近所で魚屋を営んでいる。仁子さんに
は、右腕の手首から先がなかった。
言わずと知れた、第146回芥川賞受賞作。田中慎弥氏は受賞会見での「発言」
で一躍時の人となった。いや~、あの一連の言動は、久々に「来た!」って感じで。
楽しませていただきました。ちなみに、芥川賞は新人賞だと私は捉えています。
しかし・・・。この方のプロフィール、凄いですよね。39歳、職歴なし。高卒後、
ただの一度も、アルバイトもしたことないってどんだけ。。ずーーーっと家にい
て本読んで、小説書いていたんだそうです。
でも、偉いのは田中さんのお母さんだと思うんですよね。普通(てか私だった
ら)、高校卒業したいい大人の息子がずーーーっと家にいたら、カサが高くて
たまりませんよ。。小言の一つも言いたくなるでしょう、「バイトくらいしたら?」
とかさぁ。
いや、きっと(多分)言ったこともあったのだろうけど、田中さんの才能を結果
的に開花させたのは、この環境だと思うんですよね。ただ、読んで、ただただ
書き続ける。それだけ。お母さんは一番近くにいて、苦しいときも、切羽詰まっ
たときもあったでしょう。それでも20年間、息子を支え続けて・・・。本当に立派
だと思います。芥川賞、さぞうれしかったことでしょう。。
受賞作は、一言で表すと「血生臭い」小説です。淀んだ川水、魚や人間の血、
体液、夏の雨。行間から、蒸せるようなそれらのにおいが立ち上ってくる。「血」
というものが運ぶ、どうしようもない人間の業を浮かび上がらせながら。
なるほど、これは 「もらって当然」 かもね。
( 『共喰い』 田中慎弥・著/集英社・2012)
『ブエノスアイレス』 配給期限切れ最終上映
『サウダージ』 が観たいんだけど、時間が合わね~、、と思いながらシネ・
ヌーヴォのスケジュールを見ていた午前1時。。
私の目に飛び込んできました。 『ブエノスアイレス』 の文字が。
え?? まぢで?? うっそーーー!!

一番好きな映画の一つ 『ブエノスアイレス』。 先月 『ブエノスアイレス
飛行記』 を再読して、私の心はウィンとファイのいるアルゼンチンへと飛ん
でいたのでした。。本編のDVDは持っていないので、、また観たいな、、と
願いつつ。。
配給期限切れ最終上映、なのだそうです。ということはスクリーンで観ら
れる機会はこれが最後。3/24(金)から、レスリーの命日を挟んでの上映
とのこと(泣)。
春休みか、、厳しいな~~、、、でも・・・、観たいなあ。。
ヌーヴォのスケジュールを見ていた午前1時。。
私の目に飛び込んできました。 『ブエノスアイレス』 の文字が。
え?? まぢで?? うっそーーー!!

一番好きな映画の一つ 『ブエノスアイレス』。 先月 『ブエノスアイレス
飛行記』 を再読して、私の心はウィンとファイのいるアルゼンチンへと飛ん
でいたのでした。。本編のDVDは持っていないので、、また観たいな、、と
願いつつ。。
配給期限切れ最終上映、なのだそうです。ということはスクリーンで観ら
れる機会はこれが最後。3/24(金)から、レスリーの命日を挟んでの上映
とのこと(泣)。
春休みか、、厳しいな~~、、、でも・・・、観たいなあ。。
テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画
晴れたらいいね~『キツツキと雨』

木こりの岸克彦(役所広司)は、ある日山でゾンビ映画の撮影隊と出会う。若
く気弱な監督、田辺幸一(小栗旬)をサポートするうち、いつしか岸は撮影現場
に魅入られてゆき・・・。
役所広司と小栗旬の初共演作。旬くんは自分に自信が無い、ダメダメな新人
監督、という役どころで、スターオーラを完璧に消し去っている。よって、「カッコ
いい小栗旬」のファンにはオススメできない映画です(笑)。 その分(?)、役所
さんが素敵。妻に先立たれ、定職に就かない一人息子に手を焼いている「よく見
るとカッコいい」男やもめ。ウフフフフ。
しかし、この映画のまったり、ゆったりのゆるゆるモードはかなり手強い。結構
な睡魔との闘いでした。面白いんだけど、長いのよ。沖田修一監督は 『南極料
理人』 もそうだったので、覚悟はしていたのですが。。

偶然にも、息子・浩一(高良健吾)と同じ名前(読み)の幸一に、岸は親目線
の愛情を抱く。がんばれ、君ならきっとできる。岸の無言の励ましが、幸一と、
撮影隊全体の志気をいつしか高めてゆく。役所広司の、最初は嫌々、それで
も徐々に映画撮影現場に惹きつけられてゆく、何気ない表情の変化が巧い。
朝食をとり、お弁当をこしらえ、仏壇の妻に手を合わせて山に向かう日常。そ
こへ降って湧いたように現れた「映画撮影」という非日常。岸や村の人々が、嬉
々として撮影に参加する様が微笑ましい。
カメラマン(嶋田久作)や助監督(古館寛治)にやられっ放しだった幸一も、い
つしか大声で指示が出せるようになる。クランクアップ。そしてまたそれぞれの
日常へ・・・。

映画撮影という、忘れ難い「非日常」を体験した岸は、きっとまた幸一のスタ
ッフとして撮影現場に戻るんじゃないかな。浩一も林業を継ぐようだし。岸さん、
幸一のディレクターチェア、運んであげて下さいね。
( 『キツツキと雨』 監督・共同脚本:沖田修一/主演:役所広司、小栗旬/2011・日本)
現在、過去、真実 ~『サラの鍵』

ELLE S'APPELAIT SARAH
1942年7月、パリ。フランス警察が何千ものユダヤ人を逮捕し、屋内競技
場に収容した日。少女サラは弟ミシェルを納戸に匿い、鍵をかけた。
2009年、夫と娘の3人でパリに暮らすアメリカ人ジャーナリスト・ジュリア
(クリスティン・スコット・トーマス)は、祖父母所有のアパートがかつてユダヤ
人一家の住まいだったことを知る。
「ニューヨーク生まれの闘士」である女性ジャーナリストが、かつてフランス
がナチスドイツに協力した過去を追ううち、自らの家族の秘密に迫ってゆく。
過去と現在を交互に描きながら、ヨーロッパの抱える根深い傷と、それでも再
生してゆく人間存在の希望を照らし出す感動作。最前列のシートには私以外、
誰もいなかったので、思う存分泣きました。感情の蛇口を全開にして。
クリスティン・スコット・トーマスは英国人という印象が強いので、アメリカン
の役は多少の違和感があった。しかし、それも最初のうちだけ。流暢なフラン
ス語に安定感のある演技。本当に、いい感じに年を重ねている女優さんだと
思う。

『ドラゴン・タトゥーの女』 然り、ヨーロッパ発の映画にはナチズムの影が見
え隠れする作品が、本当に多い。それだけヨーロッパの人々の心に、深い傷
を遺した「事件」だったのだろう。そしてその「事件」そのものは、未だに終わっ
ていないのだと感じる。終わらせてはいけないのだと、彼らが心に決めている
かのように。そしてまた、映画が生まれる。
聡明で利発な少女・サラ。家族の中で、自分だけが生き残ってしまったとい
う事実。結果的に、弟を死に至らしめてしまったという後悔が、彼女を苛む。
息子ウィリアムがミシェルの死んだ年頃になったとき、彼女は自分自身の生
と決別する。それは彼女なりの「贖罪」であったのかもしれない。
サラの人生を追ううち、サラと同化し、罪の意識に苛まれるジュリア。ただ
生きる、それさえも許されなかった何万人もの子どもたちの存在を知ったと
き、彼女に堕胎などできるはずがなかった。 「この子だけは産みたいの」

「真実を知ることは代償を伴う」。 知りたくもない真実の前に人は傷つき、
関係は破綻する。しかし、「過去」と「現在」を繋ぐ「真実」を知らずして、人は
果たして「生きている」と言えるのだろうか? 真実を知った瞬間は、衝撃を
伴う痛みを感じるかもしれない。しかし、その痛みはいつの日か、自分自身
の人生を生きているという誇りに変わるだろう。
ウィリアムの流した涙、ジュリアへの感謝、生を受けたサラ。時が過ぎて
命は巡り、また新しい季節が始まる。人間って、とても悲しい生き物だけれ
ど・・・。どんな時も、前を向いて歩いていける存在なんだな、きっと。
( 『サラの鍵』 監督・共同脚本:ジル・パケ=ブランネール/
主演:クリスティン・スコット・トーマス/2010・仏)
白い闇~『ドラゴン・タトゥーの女』

THE GIRL WITH THE DRAGON TATTOO
北欧・スウェーデン。雑誌『ミレニアム』記者のミカエル(ダニエル・クレイグ)
は、執筆した記事を巡る裁判で敗訴。全財産を失い、会社も存続の危機に立
たされる。失意の彼の元に、国内随一の同族企業会長ヘンリック(クリストファ
ー・プラマー)から、ある依頼がもたらされる。
スウェーデン発の世界的ベストセラー『ミレニアム』三部作、ハリウッドリメイ
ク第一弾。原作未読、北欧版映画オリジナルも全て未見という「ミレニアム素
人」な私であるが、デヴィッド・フィンチャーという希代の名監督に敬意を表し、
本作は敢えてリメイクでなく「フィンチャー版」と呼ばせていただきたい。
艶めく黒一色、タイトルバックのデザインと音楽のカッコいいこと! 超・超
クール! 一気に引き込まれたと思ったら、スクリーンは北欧の冬、白い雪
景色に反転する。携帯の電波も届かない小島で、邪悪な一族を巡る闇の謎
解きが始まる。案内役は、龍のタトゥとボディピアス、眉毛を脱色した「何もか
も普通じゃない」孤高の天才ハッカー、リスベット(ルーニー・マーラ)。
もう、最高! あっと言う間の158分。お見事でした。

「男も惚れる」ダニエル・クレイグのカッコよさは文句なし! 個人的にはあま
り趣味ではない(と言うか、私には「渋み」というものがわからないのです)俳優
さんなのですが、本作の彼には参りました。傷ついた心と身体をハリネズミのよ
うに武装し、身構え、たった一人で生きてきたリスベット。彼女が惹かれ、「初め
ての友達」だと感じるに説得力十分!
しかし・・・。ミカエルはあまりにも普通の「大人」なんですね。不倫もすれば嘘
もつく。悲しいかな、社交性のないリスベットの「純真」は、無残にも砕け散る。
嗚呼。
「誰がハリエットを殺したか?」 この謎は意外にも早々に目星がつく。R15+
指定ではあるけれども、暴力・残虐描写はさほどハードでもない。流される血や
凄惨な殺人よりも恐ろしく、忌まわしいのは、未だ消え去ったとは言い難きナチ
ズムの影・・・。

原作や北欧版映画に触れて、満を持して鑑賞された方々にも、本作は満足の
いく出来だったのでしょうか? 続編、そして完結編が、今から楽しみです。もち
ろん、スタッフ・キャストは続投で!
( 『ドラゴン・タトゥーの女』 監督:デヴィッド・フィンチャー/
主演:ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ/2011・米、スウェーデン、英、独)
テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画
タワー強盗~『ペントハウス』

TOWER HEIST
ニューヨーク、マンハッタンにある超高級マンション「ザ・タワー」。そこに
は富裕層の人々が暮らし、マネージャーのジョシュ(ベン・スティラー)以下、
多くの従業員が働いている。
ベン・スティラー&エディ・マーフィー主演のクライムコメディ。ここ数年、
アメリカを端緒に世界中を揺るがした金融危機や、「1%VS.99%」デモに
見られる社会状況をうまく題材に取り入れている、さすが懐の深いアメリ
カらしい映画。しかし、前半かなりウトウトしてしまった・・・。これは決して
作品が面白くなかったわけでなく、私が異常に疲れていたせい。
思えば、昨年も何本かこういうことがあって、その時の作品は感想すら
書いていない。今年は、疲れているときは無理して劇場に行くのは止め
ようと決めていたのだけれど・・・。反省。
というわけで大した感想も書けないけれど、ケイシー・アフレックってこう
いうオトボケキャラがハマるなぁ。あの声のせいだと思うけど・・・。
私は結構好きです、彼。

( 『ペントハウス』 監督:ブレット・ラトナー/2011・USA/
主演:ベン・スティラー、エディ・マーフィー、ケイシー・アフレック)
永遠の永遠の永遠 ~ 草間彌生

YAYOI KUSAMA
Eternity of Eternal Eternity
国立国際美術館にて開催中の「草間彌生 永遠の永遠の永遠」に行ってきま
した。
いやはや、なんと言いますか・・・。とにかく凄い、の一言です。圧巻。

草間彌生は幼い頃から「幻覚」に苦しめられたと言われています。 しかし、彼女
の観ている世界を「幻覚」とするのは我々一般人の感覚であって、常人でない天然
全身前衛芸術家である彼女にとっては、この「水玉の世界」こそが今、生きている
世界そのものに他ならないのでしょう。

カラフルであっても、モノクロであっても、草間彌生の描く精緻な無限の世界
は、宇宙創生や生命誕生のイメージを喚起します。彼女の頭の中は、人類が
「発生」するずっとずっと以前、ビッグバン直後の宇宙と繋がっているかのよう
です。
途切れることなく膨張し続け、繰り返し現れては増殖し続ける「永遠」に似た
命--後に「魂」と名付けられる、私たちが決して見ることのできないものを、
彼女は描き続けているのかもしれません。
好き嫌い以前に、草間彌生の作品には「畏れ」を感じます。それは「宇宙」や
「死」や「神」を、本能的に畏れる気持ちと似ている。彼女に与えられた「才能」
が、正しく天から与えられた「天才」であるがゆえに。



バレンタインと「日曜始まり」

もうすぐバレンタインですね。。ということで(どういうことで?)なかたに亭の
チョコレートケーキ、定番「カライブ」。最高。
2月に入って、やっとやっと新しいスケジュール帳を購入しました。
最近は4月始まりとか、年中いろんな種類があるスケジュール帳事情ですが、
どういうわけだかほとんどが「月曜始まり」です。私は「日曜始まり」派なので、
なかなか気に入ったスケジュール帳が見つけられない。。
土日が繋がってるほうがいい、という理由で月曜始まりが多いのでしょうか?
でも、普通カレンダーって日曜始まりですよね? カレンダーとスケジュール帳
がズレるわけで、日にち間違いませんか? 実は、デザインが気に入ったもの
があったので「月曜始まり」には目をつむって使い始めたのですが、やはり使い
辛くて・・・(と言うか日にちを間違えた)。
結局、昨年と同じ「日曜始まり」のものに買い替えました。気分を変えたかった
んだけどなー。。
さあ、今年はどんな「スケジュール」になるんだろう?

2012-02-12 :
パンとか、カフェとか。 :
コメント : 0 :
魂の望む方へ~『ALWAYS 三丁目の夕日'64』

1964年(昭和39年)、東京。オリンピック開催を目前に、街は好景気に沸き
立っていた。夕日町三丁目に暮らす人々も、それぞれに成長し、日々の暮らし
を営んでいる。
大ヒットシリーズ 『ALWAYS 三丁目の夕日』 第三弾。前作から5年、大好
きな夕日町の人々との再会に心ときめく。このシリーズ、役者が本当に皆巧く
てハマリ役なんですよね。。チームワークも素晴らしく、活き活きと演じている
のが伝わってきて、観ているこちらもうれしくなる。通常版にて鑑賞。

茶川(吉岡秀隆)とヒロミ(小雪)夫婦の間にはもうすぐ赤ちゃんが産まれる
予定で、高校生になった淳之介(須賀健太)は東大目指して勉強中。鈴木オ
ートは相変わらず怒ると大変なことになる社長(堤真一)と奥さん(薬師丸ひろ
子)、エレキに夢中な息子の一平(小清水一揮)がいる。挙動不審な六子(堀
北真希)の恋に気付く、たばこ屋のおばちゃん(もたいまさこ)。みんな元気で
幸せそうで、子どもたちの成長に5年の歳月を感じる。そして相変わらず「へば
~」なんて言ってる六ちゃんの綺麗になったこと! 宅間先生(三浦友和)と、
それからピエール瀧もちゃんと登場して、安心したりして。
新しい仲間は、鈴木オートの新人ケンジ(染谷将太)。誰かと思ったら住田く
んじゃないか~! いや~、いいとこ就職したねえ。「立派な大人」まで、あと
少しだね。六ちゃんが恋に落ちる医師・菊池(森山未來)。誰かと思ったら幸世
くんじゃないか~。森山未來って意外と昭和30年代の顔、してますね。そして、
茶川の担当編集者富岡(大森南朋)。なんとも豪華キャストです。

描かれるのは家族の絆。思いを残して死にゆくもの、離れてゆくもの、新し
く生まれ来るもの。それぞれの思いは巡り、次の世代に受け継がれてゆく。
そしていつもそこには、彼らを見守る夕日があった--。 ベタで、クドくて、
予定調和な物語。でも、そこがいいんじゃない! 次は何年後に、愛しい彼ら
に再会できるのだろう。
( 『ALWAYS 三丁目の夕日'64』 監督・共同脚本・VFX:山崎貴/
主演:吉岡秀隆、堤真一、薬師丸ひろ子、堀北真希、小雪/2012・日本)
1月に読んだ本/8冊
先月はいろいろあって、読んだ本の感想を書くことができなかった。今年から
は、本の感想までもう手が回らないかも。。しかし、紹介だけはしたいと思いま
す、自分の備忘も兼ねて。

『かわいそうだね?』
綿矢りさ・著
前作『勝手にふるえてろ』 以来、コミカル方面に作風の舵を切ったように見え
る綿矢さん。本作では、ライトな文体の中に女子の切ない本音を散りばめ、感情
の生まれる瞬間の本質を突いてくる。なかなか。

『ジェントルマン』
山田詠美・著
紳士の仮面の下にある、悪魔の貌。その悪魔の僕となって生きることを望んだ、
一人の青年の悲劇。映画になりそう、R18+で。

『日々の100』
松浦弥太郎・著
「暮らしの手帖」 編集長である著者に興味を持って読んでみました。日々の
生活の中に、自分はいくつ人に紹介できるようなものを置いているだろうか、、
などと考えながら。
『偏差値30からの中学受験 合格記』 /鳥居りんこ・著

『ブエノスアイレス飛行記』
/クリストファー・ドイル
何度目かの再読。これから何度読み返すのだろう・・・。

『君のいない食卓』
川本三郎・著
評論家・川本三郎氏による、食を巡る回想記。人生で最も多くの食事を共にした、
亡き妻への隠し難い思慕が哀切。『いまも、君を想う』 と対になる本。

『つらい時は「やってらんな~い」て叫べばいいのよ』
水無昭善・著
オネエ阿闍梨のガールズ説法。結構いいこと、書いてます。

『人は死なない ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索』
矢作直樹・著
現役東大教授が書いた、人が生きること、死ぬこと。科学の限界、魂の不思議。
さあ~、2月は何冊読めるかな?
は、本の感想までもう手が回らないかも。。しかし、紹介だけはしたいと思いま
す、自分の備忘も兼ねて。

『かわいそうだね?』
綿矢りさ・著
前作『勝手にふるえてろ』 以来、コミカル方面に作風の舵を切ったように見え
る綿矢さん。本作では、ライトな文体の中に女子の切ない本音を散りばめ、感情
の生まれる瞬間の本質を突いてくる。なかなか。

『ジェントルマン』
山田詠美・著
紳士の仮面の下にある、悪魔の貌。その悪魔の僕となって生きることを望んだ、
一人の青年の悲劇。映画になりそう、R18+で。

『日々の100』
松浦弥太郎・著
「暮らしの手帖」 編集長である著者に興味を持って読んでみました。日々の
生活の中に、自分はいくつ人に紹介できるようなものを置いているだろうか、、
などと考えながら。
『偏差値30からの中学受験 合格記』 /鳥居りんこ・著

『ブエノスアイレス飛行記』
/クリストファー・ドイル
何度目かの再読。これから何度読み返すのだろう・・・。

『君のいない食卓』
川本三郎・著
評論家・川本三郎氏による、食を巡る回想記。人生で最も多くの食事を共にした、
亡き妻への隠し難い思慕が哀切。『いまも、君を想う』 と対になる本。

『つらい時は「やってらんな~い」て叫べばいいのよ』
水無昭善・著
オネエ阿闍梨のガールズ説法。結構いいこと、書いてます。

『人は死なない ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索』
矢作直樹・著
現役東大教授が書いた、人が生きること、死ぬこと。科学の限界、魂の不思議。
さあ~、2月は何冊読めるかな?
ひとつだけ~『しあわせのパン』

北海道・月浦。洞爺湖を望む静かなこの土地に、夫婦ふたりが営むカフェ「マー
ニー」はある。「水縞くん」(大泉洋)が焼くパンと、「りえさん」(原田知世)が挽くコ
ーヒー。好きな場所で、好きな人と、好きなことをする暮らし。夏、秋、冬、そして
春。今日もマーニーにお客さんがやってくる・・・。
「カンパーニュが焼けました」
自称・無類のパン好きな私。劇場予告を観たときから焼き立てのパンの香りが
漂ってくるようで、とっても楽しみにしていた作品。おいしいパンが食べたくなる。
おいしいコーヒーが飲みたくなる。こんな素敵な夫婦がサーブしてくれるなら、言
うことないのだけれど。私もマーニーに行ってみたい。

しかし残念ながら、季節ごとに訪れるお客様たちのエピソードは類型的で作り
ものめいていて、よくできているとは言い難い。特に、夏のお客様・香織さん(森
カンナ)には、ちょっとイライラさせられた。常連のお客さん--硝子作家で地獄
耳の陽子さん(余貴美子)、子だくさんの広川さん夫婦(中村靖日、池谷のぶえ)、
謎のアコーディオン弾き・阿部さん(あがた森魚)。彼らだけでも十二分にキャラ
が濃いから、水縞夫婦の物語に絞って描いてもよかったのでは? と言うか、私
はそれが観たかったのだ。永遠の時かけ少女・原田知世と、北海道が生んだ大
スター・大泉洋は本当に、素晴らしく素敵なカップルなのだから。

人は、一人じゃないことに気づいて、「分けあう」ことができたとき、初めて「幸
せ」になれるんだな。
欲しいものはただひとつだけ 君の心の黒い扉開く鍵
離れている時でも 僕のこと 忘れないでいてほしいよ ねぇ お願い
あのラストシーンに、この曲を持ってくるなんて、、反則だよ。忘れるわけない
じゃん。幸福の絶頂ともいえるエンディングなのに、逆に涙が止まらなくなって
しまった私なのだった。
( 『しあわせのパン』 監督・脚本:三島有紀子/2012・日本/
主演:原田知世、大泉洋、余貴美子、あがた森魚、光石研)
FBIを創った男~『J・エドガー』

J. EDGAR
初代FBI長官J・エドガー・フーバー(レオナルド・ディカプリオ)は、老境に
差し掛かってもその地位に君臨していた。彼は、半世紀近くに渡るFBIでの
出来事を、自らの回想録として口述しようとする。
毎度お馴染み、ピアノソロによる「イーストウッド・チューンズ」 で幕を開け
る本作は、20世紀アメリカ史とともにあった、実在の人物を描く伝記ドラマ。
レオナルド・ディカプリオが主人公の24歳から最晩年までを、特殊メイクを
施して熱演している。

老けメイクのレオがジュディ・デンチに似ているな、、と思って観ていたら、エド
ガーの母親役で彼女が登場して驚いた。そしてラストシーン、床に横たわる彼は
フィリップ・シーモア・ホフマンかと思った(爆)。そっくりですよね。。いっそ最晩年
は主役交代してPSHがやればよかったのに、朝ドラ『カーネーション』 みたいに
(嘘です)。
冗談はさておき。さすがイーストウッドというか、キャスティングから映像、編集、
そしてもちろん音楽に至るまで「穴」のない作品だったと思う。それまで全くなかっ
た科学捜査という概念を打ち立て、剛腕だけれど傲慢で強引な「独裁者」J・エド
ガー。その痛々しいまでの鎧は、吃音症とマザー・コンプレックス、そして自らの
セクシャリティを隠すための、彼なりの盾だった。
彼は人を見る目も確かだった。最後まで彼の有能な個人秘書だったヘレン(ナ
オミ・ワッツ)、そして公私ともに「パートナー」であったクライド(アーミー・ハマー)。
エドガーと彼の「関係」は終生変わらず、死後も傍らに眠るという。エンドロールで
脚本のクレジットを観て納得。『ミルク』 でオスカーを獲った、ダスティン・ランス・
ブラックじゃないの。なるほどね。

しかし、どんな事情があるにせよ、このJ・エドガー・フーバーという人物に好感
することはできなかった。目的の為には手段を選ばず、自らの敵は口汚く罵り、
「盗聴」してでも潰しにかかる。 FBIという巨大組織の基盤を揺るぎないもの
にした彼の功績は計り知れないかもしれない。彼自身、自らの人生を誇り、一片
の後悔もないと言い切るに違いない。それでも、どうしても彼を「偉大な人物」だ
とは思えない私なのだった。そしてその感覚は、この映画の評価とイコールでも
ある。
( 『J・エドガー』 監督・製作・音楽/クリント・イーストウッド/
主演:レオナルド・ディカプリオ、ナオミ・ワッツ、アーミー・ハマー/2011・USA)
黄海~『哀しき獣』

THE YELLOW SEA
黄海
中国・延辺朝鮮族自治州。タクシー運転手のグナム(ハ・ジョンウ)は韓国に
出稼ぎに出た妻と連絡が途絶え、苛立ちを募らせていた。借金に苦しむ彼は、
裏社会の黒幕ミョン(キム・ユンソク)から殺人をもちかけられる。
鷲掴み映画『チェイサー』 監督・主演コンビの新作。この映画を観ないこと
には2012年の映画生活は始まらない、くらいの気持ちで期待していた作品。
オープニングに20世紀フォックスのテーマ曲とロゴが現れ、一瞬劇場を間違
えたかと戸惑う。本作は韓国映画史上、初めてハリウッドメジャースタジオが
出資した作品なのだと言う。しかし・・・。
やり切れない、救いがない、容赦ない。なんとも辛く、重苦しい映画だった。

「タクシー運転手」 「殺人者」 「朝鮮族」 「黄海」 の4部構成ではあるが、
ストーリーが分断しているわけではない。朝鮮族のタクシー運転手が、殺人者
となるために黄海を渡る。中国でも、韓国でも「朝鮮族」と特別視される彼ら。
中国内の朝鮮族を描いた作品に、『キムチを売る女』 があった。あの映画も
辛く、救いのない映画だった。
R15+に指定されているだけに、暴力描写は容赦ない。斧や包丁による力
任せの肉弾戦は、まさに血みどろ。「そんな理由で?」 と拍子抜けするような
殺人の動機とともに、その激しさは韓国映画新時代の幕開けを世界に知らし
めた記念碑的傑作『オールド・ボーイ』 を彷彿させる。そしてあの映画でさえ
まだ手ぬるかったと思わせるほどに、主人公たちは逃げまどい、破壊し、これ
でもか、と血で血を洗う。
暴力描写だけでなく、カーチェイスの激しさも半端ない。製作費や編集にかけ
た手数は、『チェイサー』 を軽く凌駕している。140分の長尺を、スクリーンに
釘付けにする剛腕映画であることは認める。しかし、荒々しさは増していても、
『チェイサー』にあったシンプルさ、シャープさといった切れ味が、この作品から
は失われてしまっているのが残念だ。更に登場人物が多く、ストーリーが煩雑
で、観終わってもスッキリしない。エンドロール後のワンシーンも蛇足で、モヤ
モヤに拍車をかける。これはデビュー作で大ホームランを打ってしまった監督
の、2作目のプレッシャー故、なのか。

いい映画ってなんだろう。定義は人それぞれだろうけれど、観るものを置き去
りにしない作り、というのも、大切な要素なんじゃないだろうか。
力作であることに疑いはない。けれど、どうにも割り切れなさだけが残る作品
だった。
( 『哀しき獣』 監督・脚本:ナ・ホンジン/主演:ハ・ジョンウ、キム・ウンソク/2010・韓国)