どんなに大切な人でも~『心はあなたのもとに』

”I'll always be with you, always”
小さな投資組合を主宰する西崎は、妻と二人の娘を持つ50過ぎの男。定宿
のホテルで、ある日彼は「風の人」香奈子と出逢う。
村上龍の小説を、本当に久しぶりに読んだ。彼と村上春樹が「W村上」なんて
呼ばれていた頃は、新刊が出ると必ず読んでいたものだけれど。しかし龍さん
はいつの間にか私の中では「経済の人」になってしまって、新刊を手に取ること
はほとんど無くなった。
しかし、このタイトルには惹かれてしまった。いかにも恋愛小説、といった趣。
これは香奈子から西崎へ送られたメールの末尾に、約束のように添えられて
いた言葉から採られている。
冒頭、西崎に突きつけられる香奈子の死。そこから、物語は二人が出逢った
日へと遡る。
1型糖尿病という持病と向き合いながら生きる香奈子。自らの人生を「終わ
った」と感じながら生きていた彼女に、西崎は管理栄養士という夢を与え、経
済的援助をする。会いたい、傍にいたいと願う香奈子を思いながら、西崎は複
数の愛人を持ち、家庭円満を第一に考える。香奈子の気持ちは痛いほどわか
るのだけれど。。男の人って、うなるほどお金があったら誰でもこうなるのかな。
「金銭で幸福や信頼は買えないが、経済的困窮は不幸に直結している」
登場人物の死で始まった物語は、その死に向かって進んでゆく。読みながら、
思わず投げ出しそうになってしまうほど、重苦しいトーンで。
「意思や決意は、秘められていなければならない」
読み終わって改めて表紙を見れば、間違いなくそこに愛はあったのだと感じ
ることができる。どんなに大切な人でも、ずっと一緒にいることはできないのだ。
これが大人の恋愛ならば、大人って随分、孤独で哀しい生きものだな。。

( 『心はあなたのもとに』 村上龍・著/文藝春秋・2011)
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ビギニング;~『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』

X-MEN: FIRST CLASS
裕福な家庭に育ったチャールズ(ジェームズ・マカヴォイ)は、強力なテレパ
シー能力を持つミュータント。彼は金属を自在に操ることができるエリック(マイ
ケル・ファスベンダー)と出逢う。
『X-MEN』シリーズのビギニングもの。とは言っても、実はワタクシ、『X-MEN』
って一回も、一作も観たことなかったんです!(驚) しかし本作は、なんだかヒ
ジョーに評判が良さげなので、エピソードZEROだしわかるかな? と思い鑑賞。
ミュータントとは、遺伝子の突然変異により超能力を得た人間のこと。彼らの
苦悩や敵対する相手との闘い、仲間内の分裂などなど、王道ストーリーと言う
か物凄く既視感はあれど、面白く観られました。ただ、、やはり、シリーズの内容
や登場人物について、ある程度の知識があったほうが断然楽しめることは間違
いないでしょうね。なんだかサラっと観終わってしまった自分が残念。。豪華キャ
ストだし、監督は今を時めくマシュー・ヴォーンだし、観て損はない作品だと思い
ますよ!

個人的にはジェームズ・マカヴォイに関心はないのですが、悪役のケヴィン・
ベーコンとか、最近やたらよく観る気がするジャニュアリー・ジョーンズとか、
ニコラス・ホルトとか出てきてお腹いっぱい。そしてエリックの幼少期を演じた
少年、この子どこかで、、と思っていたら、『リトル・ランボーズ』のウィル(ビル・
ミルナー)じゃない! すっごく得した気分♪

( 『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』 監督・共同脚本:マシュー・ヴォーン/
主演:ジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダー、ケヴィン・ベーコン/
2011・USA)
いま生きているということ~『奇跡』

両親の離婚により、鹿児島と福岡で離ればなれに暮らす兄弟。「九州新幹線の
一番列車がすれ違うとき、奇跡が起こる」。そんな噂を耳にした二人は、その瞬間
を目撃しようと、友人たちとの短い旅を画策する。
思慮深い兄・航一(前田航基)と、お調子者の弟・龍之介(前田旺志郎)。「もう
一度、家族4人で暮らしたい」。二人の願いは叶うのか?
是枝裕和監督の作品に、外れはないですね。素晴らしい作品でした。子役たち
も、彼らを温かく見守る大人(の俳優たち)も、みんなみんな生きていた。

しかし、、本作でのオダギリジョーの、只ならぬ色気はどうよ?! 無精髭に
ボサボサ頭、作業着をまとっただけで、悩殺されそうな色っぽさ・・・、これはどう
いう計算ですか、監督?! 彼と「まえだまえだ」のDNAにはかなりの隔たりが
ありそうなんだけど、、大塚寧々のDNAと掛け合わせたとしても(笑)。
火山灰の降る街で、「どうしてこんな山の近くに住むんや、意味わからん」と
ブー垂れている航一。そんな彼が、冒険に出発する前後、鹿児島駅から桜島を
望んで「いってきます」 「ただいま」と挨拶していたのが印象的だった。家族より
「世界」を選んだ彼は、父が望んだ「生活よりも大切なものがある」人間に、きっと
成るのだろう。「無駄なもんも必要や、ぜ~んぶに意味があったら、息苦しいやろ」
うんうん。
女優になりたい、愛犬を生き返らせたい、脚が速くなりたい。幼い夢を語る彼
らを、やさしく包み込むように見守る大人たち。彼らの身勝手が、子どもたちを
傷つけることもある。でも、子どもって結構、タフなんだよね。傍目には悲惨な
状況に映ろうと、案外本人はケロっとしているもの。温室の中で純粋培養される
より、雨風にさらされて、雑菌の中で育ったほうが強いに決まっている。リュウ、
(歯の生え揃っていない)君の笑顔は最高だよ。

そして、子どもたちはただ、大人に守られているだけの存在ではない。彼らが
そこに生きているということ、存在してくれているということ、それ自体が既に
「奇跡」なんだ。
( 『奇跡』 監督・脚本・編集:是枝裕和/2011・日本/
主演:前田航基、前田旺志郎、オダギリジョー、大塚寧々、樹木希林、橋爪功)
いくつになろうと、自分らしく~『Little Secret』

コスメサイトに「平子理沙さん愛用」カテゴリがあるほどの大人気モデル・
平子理沙。彼女の「美」の秘密に迫ったライフスタイル・ブック。愛用のコス
メから、プライベートに至るまで。
今まで何度も立ち読みはしていたのだけれど、思うところあって改めて、
じっくり読んでみた。彼女の実年齢に驚きながら、そのメッセージに感動。
「人がこうだから・・・とか、もう○歳だから・・・って、自虐的になって自分で
言い訳をつくるのもやめたいよね。
若く見られるより、自分らしくいることのほうが大切だし、何よりハッピー
だもんね。」
年齢なんてただのナンバーに過ぎない、いくつになろうと自分が好きなこと
をすればいい。う~ん、背中を押された気分。とっても励まされる。
かと言って、「平子理沙になりたい!」って何もかも彼女の真似をするわけ
じゃない。グロスやマスカラなんかは、使ってるメーカーがカブってたりはす
るけれどね。それでも、読み終わってすぐにDHCの歯ブラシは買いに走りま
した(笑)。確かに、超極細の毛にグリップは握りやすく、色・デザイン、そして
価格もやさしい! これは私も買い占めたいわ。
( 『Little Secret』 平子理沙・著/講談社MOOK・2009)
私を忘れないで~『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』

VINCERE
1907年、イタリア。中産階級の女性イーダ(ジョヴァンナ・メッゾジョルノ)は、
社会党員のムッソリーニ(フィリッポ・ティーミ)と出逢う。数年の後、再会した
二人は恋に落ち、イーダはムッソリーニの子を身ごもる。
イタリアの独裁者、ファシスト党の党首ムッソリーニを愛し、私財を投げ打ち
全身全霊で支えながらも、捨てられて歴史の闇に葬られていた一人の女性。
彼女の壮絶過ぎる闘いの記録を、光と影が交錯する映像で描き出したドラマ。
こ、これは、重い・・・。圧倒され、叩きのめされたような気分で劇場を後にした。
監督はマルコ・ベロッキオ。実は監督の前作『夜よ、こんにちは』にも完璧にノッ
クアウトされ、感想は書けていない。

イーダは何度もムッソリーニに言う、「愛している」と。しかしムッソリーニはそれに
は応えず、三白眼で虚空を睨む。彼には妻子がいたのだ。息子を産んだイーダは
ムッソリーニに邪険にされ、妹夫婦の元に送還されて警察の監視下に置かれる。
それでも抵抗を止めないイーダは精神病院に隔離され、息子と引き離されてしまう。
どんなに過酷な状況に追いやられても、イーダは全くぶれない。どんな仕打ちを
受けても、命以外全て奪われても、主張を曲げない。「私はムッソリーニの妻だ」。
そんな彼女に、芸術を愛し、人道的な治療をモットーとするロベルト・ベニーニ似
の精神科医は言う。「あなたは攻撃しかしない。愛する息子のために、演じることも
必要ですよ」、と。彼はイーダのために、チャップリンの『キッド』を院内で野外上映
する。涙するイーダ。それでも、彼女の中で燃えたぎる炎を消すことはできない。

イーダの激情は「愛」が生み出したものなのか。彼女を「恋愛体質」などという、
温い言葉で定義づけることはできない。彼女にとってムッソリーニと交わした愛
は唯一無二、疑いの余地のないものだった。たとえ彼女以外、誰も認めなくても。
イーダは愛に殉じたのだろうか? 私のような凡人からすれば、彼女は「恋愛ファ
シズム」の体現者であり、この映画は愛ではなく「闘争」の記録に見えてしまう。
逃亡し、再び捉えられた彼女に向けられる、村人たちのいたわりの眼差し。そ
んな彼らに「私を忘れないで」と語りかけたイーダ。彼女が恐れたのは、捨てられ
ることでも、命を奪われることでもなく、ただ「忘れ去られる」ことだったのだ。
原題は『勝利を』。この映画が作られたことで初めて、イーダの願いは叶えられ
たのかもしれない。
( 『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』 監督・脚本:マルコ・ベロッキオ/
主演:ジョヴァンナ・メッゾジョルノ、フィリッポ・ティーミ/2009・伊、仏)
テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画
世俗から遠く離れて~『妻の超然』

超然--とりすまして問題にしないさま。
妻、下戸、作家。三者三様の「超然」を描いた短編集。「妻」と「下戸」の、何とも
リアリティある面白さ!
「妻」理津子は48歳、結婚10年目。夫は5歳年下で、子どもはいない。マンショ
ン暮らしで夫婦の寝室は別、夫は明らかに浮気を繰り返している。そんな状況に
憤っているわけでも、悲しんでいるわけでもなく、ただ淡々と日々をやり過ごす。
超然とした理津子の心理描写が、不気味なほどのリアルで迫ってくる。夫婦って
こんなもんだよね。
「下戸」の広生は九州出身。大学院を出て家電メーカーに就職し、つくば市の
工場に配属された。社内恋愛で美咲という彼女を得るが、酒を嗜む彼女と広生
との時間は、どんどんずれていく・・・。
私も下戸だからわかる。どうして呑んべえの父の遺伝子を受け継がなかった
んだろう。お酒が呑めたら人生楽しいだろうな。しかし、広生は超然と思う、僕に
ポジティブを、不毛を求めるな、と。冷たいようだけど、これが広生の、下戸とし
ての処世術なんだと思う。
「作家」だけは少し手触りが違う。作家本人を「おまえ」と呼ぶ神視点が奇妙で、
ラストは主人公である作家も、読者をも置き去りにするかのような神語り。ちょっ
と不気味な幕引きだった。
( 『妻の超然』 絲山秋子・著/新潮社・2010)
幸福な偽家族~『うから はらから』

雑誌編集者の未来は、離婚した元夫のムロさんと、つかず離れずの関係。母の
珠子が家を出、男やもめの父・茂と暮らす実家に、倫土(ロンド)という連れ子の
いる、若い後妻のマリィがやって来た。
「阿川佐和子の小説をお嬢さん芸だと思っている人は反省して本書を読むべし」。
新聞書評で福岡伸一氏が絶賛した本作。やっと読めました。最高に面白かった。
実は私も、アガワさんのことをずっと「親の七光り」的な色眼鏡で観ていた。エッ
セイすらもまともに読んだことがなかったし、作家というよりはタレント、もしくは雑
誌対談のホステス、という認識だった。
それが変わったのは『スープ・オペラ』を読んでから。活き活きとした登場人物、
繊細な心理描写、リアリティとウィットに富んだ会話。読み始めたら止まらない
面白さに、正直驚いた。「偽家族」というテーマが、『スープ・オペラ』と本作は共通
している。
魅力溢れる、ややデフォルメされた登場人物たちの一人称が引き継がれながら、
賑やかに物語は回ってゆく。元警察官で、堅物かに思えたシゲルさんのキャラが
笑える。更年期障害に苦しむ看護師・内藤さんを救った「おまじない」最高! こ
まっしゃくれた倫土、ホルスタイン体型のマリィ、未来のボーイフレンド・香港人の
周さん。女好きのムロさん、勝ち気で食いしん坊な未来。みんなみんな、やさしく
って、騒がしくって、少しだけわがままな、幸せな人たち。広島、京都、山形のお国
言葉の楽しさ。誰が読んでも笑顔になれそうな、尖ったハートがまぁるくなりそうな、
素敵な物語です。
( 『うから はらから』 阿川佐和子・著/新潮社・2011)
どうしてそんなに愛される? ~『軽蔑』

歌舞伎町で遊び暮らし、ギャンブルで借金を重ねるカズ(高良健吾)。ポールダン
サーの真知子(鈴木杏)をさらい、彼は生まれ故郷・新宮に逃げる。
「五分と五分、だからね」
映画主演作が目白押し、朝ドラにまで出演、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの高良健
吾と、天才女優・鈴木杏のW主演作。互いを唯一無二の相手として愛し抜きなが
らも、破滅へと堕ちてゆくしかなかった男と女。彼らの、短くも強烈過ぎる生き様を
描いた恋愛映画。主演の二人は役柄に成り切り、熱く激しくぶつかり合い、入魂
の演技を見せてくれた。長回しを多用する演出の監督は、廣木隆一。

正直、高良健吾が観たかったのです。。神経質そうな骨格。隠しきれないやさ
しさ。自らを「神の子」と呼ぶ傲慢さ。資産家のボンボンで、甘ったれで節操のな
いダメ男、カズ。それでも私だって彼に出逢ってしまったら、真知子やマダム(緑
魔子)のように、ただただ盲目的に愛さずにはいられないだろう(マダムのそれは
ほとんど狂気だった)。
親も兄弟も親戚もなく、ポールダンサーという職業に誇りを持って、身一つで
生きる真知子。カズの実の母(根岸季衣)よりも何倍もの大きな母性で、彼女は
包み込むようにカズを愛し抜く。
もしももう一度21歳に戻れるなら、何もかも捨てて、こんな風に誰かを愛して
みたい。この映画を観てそんな風に思う自分がいる。けれども心のどこかで、
この二人を「バカだな」って、醒めた目で観ている自分もいる。「軽蔑」っていう
タイトルの意味は、この感情を指しているのだろう。感情的で無計画で、どうし
ようもないバカ男、カズ。そんな彼を無条件で愛する真知子。いや、本当にこの
感情は「軽蔑」なのか?
実は私は、この無防備過ぎる二人に「嫉妬」しているんじゃないだろうか。高
利貸しの山畑(大森南朋、最高!)がそうだったように。
本当はみんな、動物みたいに、狂った女みたいに、誰かを愛してみたいんだ。
それが叶わない山畑の苛立ちは、炎となってカフェ・アルマンを焼く。椿姫とい
う愛の亡霊が住む、旧い館を。

鈴木杏が、巧い女優さんであることはわかる。体当たりの熱演、というのも疑
いの余地はない。しかし、高良健吾とのケミストリーは、残念ながら感じられな
い。脚は綺麗なんだけど、ポールダンサーとしてはどうしても骨太感がぬぐえな
い。じゃあ、真知子を他のどんな若手女優が演じられるんだ、と言われても、答
えが見つからないのだけれど・・・。キャスティングって大事で、つくづく難しい。
高良健吾は、睫毛だね。
( 『軽蔑』 監督:廣木隆一/原作:中上健次/
主演:高良健吾、鈴木杏、大森南朋、緑魔子、小林薫/2011・日本)
セレブ仕分け人がゆく!~『石川三千花の勝手にオスカー』

雑誌『SPUR』の名物企画として15年に渡って連載されている、イラストレータ
ー・石川三千花のオスカー特集。満を持して単行本化されました! 1997~
2011、オスカー・クロニクル。新刊が出たらとにかく読む、大好きな作家さんは
何人かいるけれど、石川三千花さんももちろんその一人。今回も彼女は期待を
裏切りません。この本、面白過ぎる!
ミチカさんによる「吹き出しコメント」に大爆笑。ホント、スターはちゃかされてナ
ンボ、を実感するわ。今は別れて、それぞれに再婚してたりするセレブカップル
の、15年前のラブラブぶりが懐かしかったり。時の流れはシビアですなぁ。。
いくつになっても「ガールズトーク」大好きな、(私のような)ミーハー映画ファン
には絶大なるオススメ印。ただ、惜しむらくはこの本、ボリューム感がない!
もう少し、「オスカーを観て悪口を言う会」(笑)のトークが聞きたかったです。
( 『石川三千花の勝手にオスカー』 石川三千花・著/集英社・2011)
巻末に特別エッセイ収録ですよ~『プリンセス・トヨトミ』 文庫版

息子 「プリンセストヨトミの本買ってきて」
私 「え、原作読みたいの? お母さんな、マキメさんの本全部読んでんねんで」
息子 「え?! マキメ? まんじょうめ、じゃないの??」
私 「ハハハ・・・わかるわかる。お母さんも最初そう思ってたわ~」
というわけで、マキメ・マナブさんの『プリンセス・トヨトミ』文庫本を購入。
アールグレイとチェリーのカントリーケーキ、おいしゅうございました♪
スタンダードブックストア@心斎橋にて
2011-06-07 :
パンとか、カフェとか。 :
コメント : 1 :
大阪国国民、蜂起せよ~『プリンセス・トヨトミ』

会計検査院の調査官、松平(堤真一)、鳥居(綾瀬はるか)、旭ゲンズブール(岡
田将生)の3人は、新幹線で大阪に向かう。OJOという名の財団法人を調査中、松
平はある違和感に囚われる。
万城目学の同名小説の映画化。万城目さんは、新刊が出ると必ず読む作家さん。
小説が、と言うより、万城目さんご本人が大好きなんです。昨年の製作発表から、
映画化をずっと楽しみに待っていました。個人的には大満足の出来!
「鬼の松平」を演じる堤さんは原作イメージそのもの。岡田くんも、綾瀬さんもとっ
てもよかった。。並んだ3人の絵になる事! これは、キャスティングの大勝利です
ね。茶子を演じた沢木ルカちゃんがまた、フォトジェニックな男前!
全編大阪ロケ、他の地域の方がイメージするであろう「大阪」らしい風景満載の、
奇想天外エンタテインメント。これは大ヒットするでしょう。
番宣出まくりだった主演の三人は、息もピッタリ。いつもは緊張しっぱなしの岡田
くんが、堤さんと綾瀬さんと一緒だととってもリラックスしているように見えたのが印
象的でした。個人的には、堤さんの「結婚したい」発言が気になるところですが(笑)。

大阪は、実は戦国時代から「大阪国」という独立した国家で、大阪城の地下に
は議事堂があり、豊臣家の末裔を400年に渡って守り続けている。その秘密は、
大阪に住む父親から息子へと代々語り継がれ、有事にはひょうたんを手に国民
が蜂起する、、というのが原作者の考えた法螺話。財団法人OJOから、大阪国
には毎年5億円もの補助金が流されている。会計検査官である松平は、その事
実を認めるのか。そこに、実は大阪出身である松平自身の父親への思いや、プ
リンセス・茶子と幼馴染の大輔(森永悠希)との友情が絡み合う。しかし、ここで
大輔のキャラ設定が弱い、と感じたのは原作と同じ。彼が女の子の制服を着た
がる動機が、今一つわからない。彼の言動は全くフェミニンなものではないから、
彼の心が女の子なのか、女の子の服装がしたいだけなのかがよく伝わって来な
いのだ。しかし、これは原作の弱さだから仕方ないのかな。そして本作は壮大な
ホラ話であるだけでなく、普遍的な「父と子」のあり方を描いてもいるのだった。

中井貴一。巧い俳優さんなのは認めるけれど、彼は大阪の下町のお好み焼き
店の主人、というイメージじゃない。総理大臣らしい威厳はあるけれど、彼と大阪
という土地柄に、どうしても違和感があったのが残念。「鹿男」こと玉木宏がたこ
焼き屋さんの兄ちゃん役、というのも御愛嬌。観終わって、ああ、たこ焼きが、お
好み焼きが食べたいな、と思ったあなた。是非大阪にいらして下さい。
( 『プリンセス・トヨトミ』 監督:鈴木雅之/原作:万城目学/
主演:堤真一、綾瀬はるか、岡田将生、中井貴一/2011・日本)
「若さ」という熱病~『マイ・バック・ページ』

東大を卒業し、念願のジャーナリストになるべく東都新聞に入社、雑誌記者と
して働く沢田(妻夫木聡)。1971年、彼は梅山と名乗る学生運動の活動家(松山
ケンイチ)と接触し、ある事件に巻き込まれる。
川本三郎氏による同名の回想録『マイ・バック・ページ ある60年代の物語』の
映画化。若者たちが熱く「理想」を語り、大学解体や安保反対を叫んで学生運動
を繰り広げた60年代末から70年代初頭。あるジャーナリストの葛藤と挫折を、
実際に起こった事件の顛末を描きながらあぶり出してゆく。青臭い政治の季節に、
誰もが発熱し、浮かされていた時代。「取材源の秘匿」という職業倫理を優先した
がために、職を追われた若者の真っ直ぐ過ぎる愚かさが、痛々しくも愛おしい。
原作は既に読んでいるが、映画化は納得の出来栄え。主役の二人はもちろん、
脇役の誰もが骨太で誠実な演技を見せてくれた。原作者の川本三郎氏は、試写
を観て涙を流したという。今も慙愧に堪えないであろう痛恨の記憶を、映像化によ
って「青春の墓標」として弔うことができたのかもしれない。あの時代を実際に生
きた、還暦前後の方の感想が知りたい気分だ。

東大出のエリートである沢田が、何故、どう見ても胡散臭い(そして実際、た
だの喰わせ者だった)梅山を信じてしまったのか。本作では、徹頭徹尾、梅山
は「しょうもない」人物として描かれている。揚げ足取りの議論しかできないくせ
に、後輩や知人を利用するための口だけは巧い。そして自らの破壊・暴力衝動
を正当化するためには手段を選ばない。何の罪もない人間の命が奪われたと
しても。
そんな梅山を信じた沢田は、音楽や映画、文学を愛する「感性」の人だった。
彼のそのナイーブ過ぎる、センチメンタルで青臭い直感は、自らを破滅へと導
いてしまう。「俺だけに取材させてくれ」。ジャーナリストとしての、特ダネへの
渇望。そこには、地に足のついた生活者としての視点が、徹底的に欠けていた。

昨年の映画賞を席巻した『悪人』で名を上げたとはいえ、アイドル顔の妻夫木
聡よりも、変幻自在の成り切り俳優・松山ケンイチを褒め称えるほうが、映画ブ
ロガーとしては「通」なのかもしれない。しかし私は敢えて言う。妻夫木くん、君
は素晴らしいよ! 偶然の再会から、否応なく沢田が過去を回想する、ラストシ
ーンの長回し。感動した。暗転でなく、ホワイトアウトで沢田の過去を断ち切り、
未来への希望を感じさせてくれた山下敦弘監督のやさしさにも。
( 『マイ・バック・ページ』 監督:山下敦弘/
主演:妻夫木聡、松山ケンイチ/2011・日本)
もしも、あの時・・・~『ジュリエットからの手紙』

LETTERS TO JULIET
NYでリサーチャーをしながら記者を夢見るソフィ(アマンダ・セイフライド)。
婚約者ヴィクター(ガエル・ガルシア・ベルナル)との婚前旅行に「ロミオとジュ
リエット」の舞台・ヴェローナを訪れた彼女は、「ジュリエットの秘書」と呼ばれ
る女性たちに出逢う。
50年前のジュリエットへの手紙を見つけたヒロインが、その返事を書いたこ
とで「初恋のひと」探しに加わることになり、自らの恋愛を見つめ直す。予告編
で観たイタリアの風景の美しさに惹かれて鑑賞。イタリアは何度か訪れたこと
がある国だが、本作のロケ地であるヴェローナとシエナへは行ったことがない!
ああ、いつかまたイタリアに行きたいな・・・。旅情と人恋しさが募るロマンス。

ソフィを演じたアマンダ・セイフライドがめちゃくちゃかわいい&綺麗です。
『マンマ・ミーア!』で初めて観た時は全く惹かれるものがなかったけれど、
本作では何とも魅力的(眉間の皺がちょっと怖いけど)。婚約者がガエルく
んって、羨まし過ぎるんですけど・・・。しかしガエルくん演じた彼は、仕事に
夢中でソフィが全く目に入っていない。これはダメでしょう。そもそもこの二人、
何故婚約にまで至ったのかが謎。見ているものが全く違うし、互いを求めて
いるようには見えないもの。
初恋を50年間胸の中で温め続けたクレア(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)が、
とってもかわいい。外見は変わっても、彼女の心はいつまでも15歳の少女
のまんまなんだな。その初恋の相手、ロレンツォを演じたフランコ・ネロって、
実生活でもヴァネッサ・「貫禄」・レッドグレーヴのパートナーなんですと!
いや~、やけに「印象的」なオジサマだなぁ、こりゃタダものではないな? と
思ったはずだわ。農園の中でクレアがロレンツォを見つけるシーン、涙、涙
でありました。クレアの表情が素晴らしいのッ!

「かつてそれが真実であったなら、今も真実であるはず」。幸せを掴むため
には、勇気が必要。だけど、若い頃ってどうして愛に臆病になってしまうんだ
ろう? でもきっと、気付いた時が「その時」なんだよね。たとえそれが50年後
でも・・・。ソフィがクレアに宛てた手紙は、そのままソフィ自身をも励ます内容
になっている。
「女性にとって指輪は大切よ」。この言葉にジーンと来たから、チャーリー(ク
リストファー・イーガン)にはソフィへの指輪を用意しておいて欲しかったな。
どうぞお幸せに♪
( 『ジュリエットからの手紙』 監督:ゲイリー・ウィニック/2010・USA/
主演:アマンダ・セイフライド、クリストファー・イーガン、ヴァネッサ・レッドグレーヴ)