チェブとか、ブログ5周年とか ~ よいお年をお迎え下さい ~

昨日、『チェブラーシカ』観てきました。あまりのかわゆさに、観ているこっち
が「バッタリ倒れ屋さん」になりそうでした(笑)。悶絶かわいい。反則。チェブ
グッズ欲しい。
さて。今年も残すところ、あと4日となりました。
そして毎年忘れてしまうのですが、当ブログも22日で5周年を迎えました。
6年目に突入です。早!
この1年で、ブログを巡る状況もすっかり様変わりしましたね。ツィッターに
流れる方が多いのか、休止されたり開店休業状態の方も多く、寂しいな~、
なんて思ったりもします。しかし、ずっと変わらず仲良くさせていただいてい
る方もたくさんいらっしゃいますし、新しい出会いもありました。コメント、TB
を下さった方々、ありがとうございました。私自身は文章を書くことが好きな
ので、これからもできる限り、自分のペースでthinkingdaysを続けていき
たいと思っています。
今年は4月から半年ほど病院通いをしたため、映画が思うように観られ
なかったことが残念です。しかし、いい作品にはたくさん巡り会えました。
もう決まっている(1位は迷ってますが)年間ベストは年明けにアップしま
すね。
というわけで、冷蔵庫の中にすっぽりと入ってしまったかのような日本
列島ですが、皆様風邪などお召しになりませぬよう。。心暖かな年末年始
をお過ごし下さい。
ではまた、新年に。
真紅拝
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血しぶきの桜~『モンガに散る』

艋舺
MONGA
1986年、台北市一番の歓楽街・艋舺(モンガ)。母子家庭に育った転校生の
モスキート(マーク・チャオ)は、極道の親分の息子ドラゴン(リディアン・ヴォー
ン)とその幼馴染モンク(イーサン・ルアン)に誘われ、彼らの仲間となる。
台湾で記録的な大ヒットを飛ばし、アカデミー賞外国語映画賞の台湾代表に
選出、主演のイーサン・ルアンに金馬奨主演男優賞をもたらした青春群像劇。
義兄弟の契りを交わした5人の少年が、黒社会の抗争に巻き込まれ、互いを
思いながらも傷つき、挫折してゆく。血に染まる絆が切なくやるせなく、辛過ぎ
る青春の蹉跌。これはガツンと来ました・・・。涙なしには観られない傑作。
まず、驚いたのはその映像の美しさ。撮影監督はジェイク・ポロックという「第
二のクリストファー・ドイル」の異名を持つ人らしい。娯楽作でありながら、ワンシ
ーン、ワンカットがまさに「画」であり、「シャシン」であった。そして台湾映画特有
の「空気」も感じさせて、素晴らしい。

生まれて初めてできた「友だち」に、夢中になるモスキート。学校も家も眼中なく、
ひたすら5人でつるみ、ケンカに明け暮れる日々。父親のいない彼は、ドラゴンの
父、極道のゲタ親分(マー・ルーロン)に、父に対するような思慕を抱く。
頭脳明晰で切れ者のモンクは、5人のリーダー的存在。表向きのリーダーはドラ
ゴンだが、実は彼は仲間を仕切る器ではない。モンクはそんな彼を支え、見つめ、
全身全霊で守ろうとする。自らを犠牲にして。
この、モンクのドラゴンに対する思いが切な過ぎる。。。どんなに募らせても、出口
のない一方通行の思い。自らの父と、ドラゴンの父との間に隠されてきた因縁。モン
クがドラゴンを真っ直ぐに見詰め、一呼吸置いて「廟口(ヨウカウ)のためにやった!」
と叫ぶ場面が痛い。胸が張り裂けそうに痛い。オマエノタメニヤッタンダアイシテルアイシテ
ルアイシテル
「意味なんか知るか、義兄弟だけが大事だ」 「今日やらないといつかやられる」
「鉄砲は意気地がない奴の使う武器だ」 印象的なセリフが繰り返され、5人の少年
を待つ悲劇が暗示される。顔に痣を持つ娼婦シャオニン(クー・ジャーヤン)と、心を
通わせるモスキート。彼がシャオニンの部屋に描いた絵は、赤い桜の花。。。
実はこの映画、企画したのはジェイ・チョウで、モスキート役は彼が演じるはず
だったが『グリーン・ホーネット』出演のために降板、マーク・チャオにオファーさ
れたらしい。彼の演技も、イーサン・ルアンに負けず劣らず素晴らしかったと思う。

「何故自分を仲間にした?」 と問うモスキートに、モンクは答える。指は5本揃
って初めて、拳になると。そして彼ら5人は一輪の桜でもあった。5枚の花弁。美
しく咲き誇り、短い命を散らす桜。ただ、友情のために。
( 『モンガに散る』 監督・共同脚本:ニウ・チェンザー/2010・台湾/
主演:イーサン・ルアン、マーク・チャオ、リディアン・ヴォーン)
テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画
普通の人々~『願い』

9つの物語から成る短編集。藤野千夜さんの作品は、芥川賞受賞作の『夏の約
束』の後、『少年と少女のポルカ』を読んで以来。のんびり、ゆったりした文体は変
わらず、ごく普通の、市井の人々を描いて好感度大。
以前、山崎ナオコーラの『カツラ美容室別室』を読んだとき、『夏の約束』に似て
いるな、と感じた。そしてこの短編を読みながら、「なんか山崎ナオコーラの小説
みたい」と思ってしまったのだった(笑)。
9篇の中では、「願い」 「妹思い」 「ノーチャンス」 の3つが好きかな。特に「ノー
チャンス」 の綱渡り感が好き。邪な欲望って、そんなに罪はないんじゃないか、
と個人的には思うんだけど。
( 『願い』 藤野千夜・著/講談社・2010)
伝説となった無法者~『ロビン・フッド』

ROBIN HOOD
12世紀末。ロビン・ロングストライド(ラッセル・クロウ)はイングランド王リチ
ャード一世の十字軍遠征に従軍していた。帰国途中、ロビンは瀕死の騎士、
ロバート・ロクスリーから、父の元に届けて欲しいと剣を託される。
名匠リドリー・スコットが描く、伝説の義賊。主演は彼の映画製作上のパート
ナーと言えるラッセル・クロウ。『レッドクリフ』を彷彿させる、膨大な量の矢が
飛び交う肉弾戦は圧巻。
既視感のある映画なんですが、脚本は『ロック・ユー!』などでお馴染み、ブ
ライアン・ヘルゲランドなんですね。ちょっとワル(?)な俗気のある修道士役
で、マーク・アディも出ています。

当時のイングランドは、遠征による財政の悪化で当然のように重税が課され、
庶民は苦しい生活を強いられていたのです。それはノッティンガムの領主の元
に嫁いだ、レディ・マリアン(ケイト・ブランシェット)とて同じこと。盲目の義父、
ウォルター・ロクスリー卿(マックス・フォン・シドー)を介護しながら、結婚後僅
か一週間で戦地に赴いた夫を待つ身。そして10年の後、夫の訃報と剣を携え
て訪れた男に、義父は「ロバートとしてこの家に残れ」と言う。最初は(形だけ)
反発していたマリアンとロビンの心の距離が徐々に縮んでゆく辺りは、予定調
和と知りつつドキドキしたり。
しかしいつも思うのですが、この時代(かなり近代まで)の英国の女性に対す
る扱いってホント酷いですよね。。本作では、英国を侵略しようとしたフランス軍
も、かなり鬼畜に描かれています。リドリー・スコットって英国人なんですね、、
なるほど~。
ケイト・ブランシェットは本当に美しいひと。外見だけじゃなくて、芯の強さと
ブレなさが滲み出ていて。いつもながらウットリです。ラッセルさんのほうは
残念ながら「素敵」と思ったことはないのですが(ファンの方ごめんなさい)、
声がいいな~と思います。入場者プレゼントで「俺の着ボイスをゲットしよう」
っていうカードを貰ったんですけど、何てささやいてくれるのでしょうか?
「やさしく誘えよ」かしらね、やっぱり(照)。

( 『ロビン・フッド』 監督・製作:リドリー・スコット/2010・USA、UK/
主演:ラッセル・クロウ、ケイト・ブランシェット、マーク・ストロング)
噛めば噛むほど~『するめ映画館』

「まぁ、基本的に映画は一人で観るものだから」 by 吉本由美
スタイリストでありライターである吉本由美氏をホステスに、ゲストとの対談、
鼎談で語り尽くす、古今東西の「するめ映画」。この「するめ映画」とは、噛め
ば噛むほど(個人的に)味の出る映画のこと。大作、名作、ヒット作は「お呼び
じゃない」んだそうです。ゲストがそれぞれの思い入れある「私のするめ映画」
を紹介する第一部と、「するめ映画連続上映」と称し、ノワール、ミュージカル
などのテーマ別に映画を語る第二部から成る。
和田誠、村上春樹、リリー・フランキーなどなど、ゲストが凄い面子です。特
に、和田誠と村上春樹の映画オタクぶりが凄まじい。春樹さんがシネフィルで
あることは存じていましたが、ここまでとは思わなかった。春樹さんが語るのは
私が全く知らない映画がほとんどで、まさに「あなたの知らない世界」という感じ。
春樹さんと和田さんの頭の中には、IMDBがそのまま入ってるんじゃないかと思
えるほどです。
この本の一番面白いところは、吉本さんの春樹さんに対する「タメ口、(やや)
上から目線、突っ込み」ぶり。吉本さんは春樹さんと同世代で、都築響一さんと
三人で「東京するめクラブ」という不定期ユニットを結成している仲。そのせいか、
世界的文豪に対して、いいの、この物言い?と感じるところが多々あり、かなり
笑える。
そして、読んでいてやっぱり「私のするめ映画」を考えてしまうのは映画好き
の性ですかね。う~ん、オールタイムベストとはまた違う、観れば観るほど味の
出る映画・・・。アキ・カウリスマキの『浮き雲』なんかどうでしょう? 名作なんだ
けどね。
( 『するめ映画館』 吉本由美・著/文藝春秋・2010)
それぞれの欠落~『ひそやかな花園』

彼らがまだ小さな子どもだった頃、毎年必ず、夏にはキャンプに出かけた。
一緒にバーベキューをし、滝つぼに飛び込み、コーヒーにアイスクリームを
入れて飲んだあの日々。あれは何処で、どんな親子の集まりだったのだろう?
「女同士の友情は成立するか」という問いに、明確にイエスと答えたと上野
千鶴子氏を感嘆させた、角田光代氏の作品。隔絶された聖域のような場所
での「特別な」幼い子どもたちの日々、という題材に、思わずカズオ・イシグロ
の『わたしを離さないで』を思い浮かべてしまった。彼らの「夏の記憶」が丁寧
に描写された後、それぞれ大人になった彼らは、自らの「生命の根源」につい
て知りたい、と願い始める。
子どもを産む、産まないという命題は非常にデリケートで、百人百様の考え
方があると思う。21世紀の現在、生殖技術の向上はまさに「神の領域」を超え、
その進歩の速度に心(哲学や倫理)の部分がついて行っていない状態ではな
いだろうか?
本作に登場する7人の「子どもたち」は、それぞれの内に欠落感を抱えて生
きている。しかし、その「欠落」は、出自によって奪われた特別なものではない。
人間ならば誰でも持ち得る不安。それでも、その欠落に何らかの意味を見出
そうとする彼らが切ない。自分は何者で、何処から来たのか・・・。それを知る
権利は、誰にも侵されてはならないと思う。たとえ、「親」であっても。
( 『ひそやかな花園』 角田光代・著/毎日新聞社・2010)
映画だと 割り切ることの 難しさ~『ノルウェイの森』 #2

(承前)
17歳の夏、自殺したキズキ(高良健吾)。彼は直子(菊地凛子)にとって、幼い
頃から身も心も重なり合うように育ってきた恋人であり、ワタナベ(松山ケンイチ)
にとってはほとんど唯一の友人だった。東京で偶然再会した直子とワタナベは互
いに惹かれ合うが、二十歳の誕生日の夜を境に直子は心を閉ざし、京都の山深
い療養所に行ってしまう。なすすべもなく、ワタナベは直子に手紙を書き続ける。
直子の死の理由。彼女はキズキくんのところへ行ったのだと、ずっとそう解釈
していた。ワタナベくん曰く、直子はワタナベくんのことを「愛してさえいなかった」
のだし、直子は元々「キズキのもの」だったのだから。しかし、スクリーンの中の
直子を見つめていると、それだけではないんじゃないか、と思えてきた。
直子は、ワタナベくんを喪うのが怖かったのだ。キズキくんが死んでから、ど
んな風に人を愛していいのかわからなくなった、と直子は泣いた。それは嘘で
はないし、キズキくんへの思いに比べれば、ワタナベくんのことは愛してさえい
なかった、と言えなくもないだろう。彼女が心底恐れたのは、自分が身体を開け
ないことで相手を傷つけ、損ない、喪ってしまうことだったのだと思う。もう二度
と、そんなことには耐えられないと。
一緒に暮らそう、とワタナベくんは言う。そうできたら、本当にそんなことが
できるならどんなに嬉しいか。結果的に、その言葉が直子を追い詰めてしま
った。ワタナベくんには、直子を愛することはできても、彼女を理解することも、
救うことも、慰めることさえできなかったのだ。どうしようもなく悲しいけれど。
(しかしワタナベくんは、直子と暮らすためにあのようなマンションを選んだだ
ろうか? あまりにも薄暗く湿っぽく、閉塞感のある建物だったことが残念。)
そしてこの映画で唯一にして最大の難点は、レイコさん(霧島れいか)のキャ
ラクターに無理がある(全く描けていない)こと。何故レイコさんが阿美寮で暮
らしているのか、彼女の身に何が起こったのか。直子がどれほどレイコさんを
信頼していたか、レイコさんがどれほど直子を大切に思っていたか。
そしてそして、レイコさんとワタナベくんによる「直子のお葬式」という、この
物語で一番大切な、美しいシーンが描かれていない! これは、この映画の
決定的な瑕疵だ。これでは、レイコさんを貶めていることになる。レイコさんは
ワインを飲みながら煙草を吸って、ヘンリー・マンシーニの『ディア・ハート』を、
ビートルズの『ノルウェイの森』を、『イエスタディ』を、『ミシェル』を弾かなけれ
ばならない。レイコさんがどうしてワタナベくんと寝なければならなかったのか、
それは彼女からの一方的な「お願い」なんかではなく、あの時ワタナベくんは
こう言わなければならなかったのだ。 「僕も同じこと考えてたんです」
133分という決して短くはない時間を、意識させない佳作だったとは思う。し
かし、原作は原作、映画は映画、と割り切って観ることの難しさを、改めて感
じずにはいられなかった。

喪失と再生~『ノルウェイの森』

1967年。親友のキズキ(高良健吾)を喪ったワタナベ(松山ケンイチ)は、上京し
大学生活を送っていた。ある日、ワタナベはキズキの恋人だった直子(菊地凛子)
と再会する。
村上春樹による、世界的ベストセラー小説の映画化。自作の映像化を拒み続け
ていた村上氏が、製作にGOサインを出したと知ったときは本当に驚いた。キャス
ティング発表、ヴェネチア映画祭での上映。不安と期待が混じり合った、複雑な
気分で公開を待っていた。監督・脚本はトラン・アン・ユン。
私の本棚には、「もちろん」、クリスマスカラーの『ノルウェイの森』の単行本が
並んでいる。1987年9月10日、第一刷発行。大学の生協で平積みになっていて、
見つけるなり即買いしたのを憶えている(私はその当時、既にバリバリのハルキ
ストだった)。友だちはもちろん、親や兄弟やゼミの教授(!)にまで貸して、物語
について語り合った大切な本。だからこの文章は、映画の感想と言うよりは個人
的な追憶になってしまうだろうことを許して欲しい。ここ10年ほど、読み返すこと
はなかったけれど、ワタナベくんも直子も緑も、私にとっては大切な、旧い友人の
ようなものだから。

不安だったキャスティングは、概ね素晴らしかったんじゃないだろうか。松ケ
ンのワタナベくんは文句なし。高良健吾のキズキも最高(松ケンとの学生服姿
での2ショットには、感動さえ覚えた)。玉山鉄二の永沢さんもGood。そして、
不安で堪らなかった女優陣。
キャスティングを知り、一番不満だったのが菊地凛子。素の彼女は、全くもっ
て直子のイメージじゃない! と思ったから。しかし、スクリーンの中には間違
いなく、疵だらけの心を抱えて彷徨う直子が立っていた。二十歳の誕生日の夜
から、直子が嗚咽を漏らすたびに、その苦しさが痛いほど伝わって来て・・・。
私もずっと、泣いていたよ。
そして演技は初挑戦だというモデル、水原希子。キャスティング発表のとき、
監督の言った「美しい緑をお見せします」というコメントには違和感があった。
緑は別に美しいだけじゃないんだけど。監督、「私の」緑をどうしてくれる気?
それに水原希子ってどことなく監督の奥様に似てる。自分の好みってだけで
選んだんじゃないでしょうね?! そんな疑心暗鬼でいっぱいだった私だけれ
ど、これは水原希子を追ったTV番組『情熱大陸』で払拭されていたのだった。
確かに、緑は美しかった。そして魅力的だった。瑞々しい小悪魔のように。

そして何よりも素晴らしかったのは、クローズアップを駆使した李屏賓によ
る映像と、時として繊細に、時として不安を煽るように登場人物を包み込んだ、
ジョニー・グリーンウッドによる音楽。糸井重里、細野晴臣、高橋幸宏ってい
うのは一体、どういう人脈なんだろう? ところで坂本龍一は?(笑)
終盤まで、「これは今年の邦画ベスト作では?」と思うほどのめり込んで観
ていたのだけれど・・・。続く。
( 『ノルウェイの森』 監督・脚本:トラン・アン・ユン/原作:村上春樹/2010・日本/
主演:松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子、高良健吾、霧島れいか、玉山鉄二)
蔑視と嫌悪の法則~『女ぎらい ニッポンのミソジニー』

ミソジニー。「女性嫌悪」 「女ぎらい」 「女性蔑視」 と訳される。性別二元
制の元では、この言葉から逃れられるものはいない、と著者は言う。
東大大学院教授にして、日本一過激(?)なフェミニストの論客、社会学者・
上野千鶴子氏の最新作。「非モテ」から児童性虐待、皇室、春画、東電OLま
で、縦横無尽に語り尽くす、現代社会の核心。難解な言葉を用いることなく、
立て板に水、の潔い語り口。フェミニズム論やジェンダー論、社会学に疎い私
のような読者にも、非常に分かり易く、すとん、と腑に落ちる一冊だった。「女
でなくてよかった~」、と思ったことのある男性、「女に生まれて損した~」、と
思ったことのある女性、佐野洋子さんの『シズコさん』に涙した女性は必読。
著者は「あとがき」において、本書を「不愉快な本」だとおっしゃるけれど、決
して「読んで気分が悪くなる」ような本ではありません。
吉行淳之介からイ・ビョンホンまで、俎上にのせられた有名人は数知れず。
とにかく盛りだくさんな本ではあるけれど、一番インパクトが強いのはやはり、
ホモソーシャル(性的でない男同士の絆)、ホモフォビア(同性愛嫌悪)、ミソ
ジニーについて論じた項。「男であること」、「男になること」、そして女を「女に
する」こと。これらの果てない乖離に目眩を覚えながらも、著者の「揺るぎな
さ」に身震いしてしまう。やっぱり必読の一冊です。
( 『女ぎらい ニッポンのミソジニー』 上野千鶴子・著/紀伊国屋書店・2010)
誇り高く生きよう~『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』

元戦場カメラマンの塚原(浅野忠信)は、アルコール依存症が原因で漫画家の
妻(永作博美)と離婚。二人の子どもたちとも別れ、実家の母(香山美子)の元で
生活していた。どうしても酒が断てない彼は、大量吐血して病院に担ぎ込まれる。
人気漫画家・西原理恵子氏の元夫、故・鴨志田穣氏(通称カモちゃん)による私
小説の映画化。原作は2007年に読んだ。深刻かつ衝撃的な題材を、飄々とした
文体で(他人事のように)軽々と紡いであるぶん、深く心に残る小説だった。待望
の映画化、監督は東陽一。
塚原を演じる、浅野忠信が激ハマリ。極々自然に、アルコール依存症という病
に侵された一人の男を演じている。せん妄、記憶障害、不眠、様々な合併症に苦
しみながらも、塚原がどこか飄々として見えるのは原作と同じ。鴨志田さんも、き
っと浅野くんくらいいい男だったんだろうな(あの西原センセイが惚れ抜いた男だ
もの)。

断酒目的で精神科病棟に入院した塚原は、かわいい看護師(柊瑠美)に鼻の
下を伸ばしたり、個性的な入院患者たちと交流しながら、ゆるやかに回復してゆ
く。しかし、その先に彼を待っていたのは、残酷な現実だった。「腎臓癌」の告知。
しかも外科治療は「不可能」という、末期の。
塚原の主治医、衣田を演じた高田聖子がとってもいい。包容力があって、患者
に対していい感じで力が抜けていて、何でも話せる雰囲気を醸し出しながらも、
治療する方とされる方の線引きは明確で。こんな先生がいたらな~、って思う。
彼女のやわらかい関西弁も心地よい。
塚原の妻と、彼女のファンであると言う医師(利重剛)との会話だけが引っかか
る。西原氏の名言「一度好きになった人は、なかなか嫌いになれない」だとか、
「悲しさで心が満たされていたら、うれしいんだか悲しいんだかわからない」だと
か、医師との会話にはちょっとそぐわない印象を受けた。言葉だけが綺麗で、
宙ぶらりんな感じ、とでも言うか。。患者(とその家族)の内面に、踏み込み過ぎ
た発言をする医師にも違和感。原作では丁寧に描写された、アルコール病棟に
おける様々なエピソードが、随分とアッサリ流されていたのも残念。

光溢れる、幸福感に満ちたラストシーンに、ラブソングの帝王・忌野清志郎の
歌声が重なる。鴨志田さんの死後、アルコール依存症について啓蒙活動をし
ている西原さん。いろいろあっても、最後は本当に、いい関係が築けた二人な
んだな、って思う。
誇り高く生きよう、君のために・・・。
( 『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 監督・脚本・編集:東陽一/
主演:浅野忠信、永作博美、高田聖子、光石研、香山美子/2010・日本)
女装の歌姫~『スプリング・フィーバー』 #2

※ この記事は超・ネタバレです。未見の方はご注意下さい!
前回の記事で、この映画を「笑いどころもある」と書いたのですが、正確には
「笑いどころ」は一箇所だけです。しかしかなり衝撃的な可笑しさで、私は笑い
ながら椅子から転げ落ちそうになりました。声を殺すのに必死。
張震チャン・チェンくん似と噂(?)の秦昊チン・ハオ演じるジャン・チョンは、
南京のゲイ・コミュニティでは「女装の歌姫」として有名な存在である、という
設定。ウィッグにフルメイク、得意満面で彼が舞台で唄い出すシーンがある
のですが、、、。これがもう、ビックリするどころじゃない「下手っぴぃ」でして。
どんだけ調子っぱずれやねん、っていうくらい。これマジでNGテイクなんじゃ
ないかと。(しかし、後にカラオケで唄うシーンはちゃんと聴けましたが)
そして、この秦昊チン・ハオくん、凄く素敵な俳優さんなのですが私は狩野
英孝に見えて仕方なかったんです。。ファンの方ごめんなさい。。
↓このシーンなんかもう、いつ「スタッフ~!」って言いだすんじゃないかと、
気が気じゃなかった(ウソです)。
と、おちゃらけて書いてしまいましたが、本当に素晴らしい作品でしたよ。
もう一回観たいな。。

泥に咲く花~『スプリング・フィーバー』

SPRING FEVER
春風沈酔的晩上
南京。春三月、啓蟄の過ぎた頃。愛し合うジャン・チョン(秦昊チン・ハオ)と
ワン(呉偉ウー・ウェイ)。しかしワンには妻リン(江佳奇ジャン・ジャーチー)が
いた。リンは私立探偵ルオ(陳思成チェン・スーチェン)に依頼し、夫を尾行す
る。
大阪上映中止騒動で気を揉んだ本作、シネマート心斎橋での限定上映は
立ち見も出る満席となり、無事通常上映が開始された。この件に関しては様
々な意見があるとは思えど、兎にも角にもこの作品を映画館のスクリーンで
観られたことに、映画好きの端くれとして純粋な歓びを感じる。関西の映画
ファンの皆さん、本当にありがとう。
中国当局から5年間の映画製作禁止処分を受けた監督がその通告を無視、
家庭用ハンディカメラでゲリラ的に撮り上げ、カンヌ映画祭で脚本賞を受賞
--本作にまつわるこの「枕詞」になるべく身構えず、過剰な期待もせずフラ
ットな気持ちで鑑賞しようと決めていた。結果、非常に文学的・芸術的であり
ながらもシリアス一辺倒でもなく、笑いどころもある美しい映画だったことに
大満足。これは今年のベストに入れます。監督・キャストの勇気と志に、敬意
を表したい。

ジャン・チョンという捉えどころのない、魅惑的な人物を中心に、5人の男女が
愛憎劇を繰り広げる。嫉妬に狂い刃傷沙汰を起こす女、去ってゆく恋人を思い
ながら、自ら命を絶つ男。恋人がいながら、「女装の歌姫」に惹かれてゆく男、
そんな男を責めることもなく、静かに消えた女。そこに描かれる愛の形は、スト
レート過ぎて品行方正ではないかもしれない。しかし、この映画はその「愛」と
いう掴みどころのない概念を定義づけようとするものではなく、「愛」を生み出す
「人間」そのものを、包み隠さず描こうとしている。家族や性差や、国家という様
々な枠組みの中にあっても、人間の感情や欲望は、どこまでも自由なのだと。
それは泥の中に咲く睡蓮の花にも似て・・・。春の嵐に揺られ、彼らは何処へ
向かうのか。
美しき春が終わる頃。旅の果て、新しい土地で、新しいパートナーと生きるジ
ャン・チョン。疵を包み込むように、彼は花のタトゥーを彫る。それは彼の、「泥
に咲く花」として生きる決意のように映る。たゆたい、しがみつかず、真っ直ぐに
上を向いて、美しく咲き誇ろうと。

「こんなにもやるせなく、春の風に酔うような夜は・・・」
( 『スプリング・フィーバー』 監督:婁ロウ・イエ/2009・中国、仏/
主演:秦昊チン・ハオ、陳思成チェン・スーチェン、譚卓タン・チュオ)
突き進む母~『レオニー』

LEONIE
1901年、ニューヨーク。平凡な人生を嫌い、自然と芸術への強い憧憬を持つ
レオニー・ギルモア(エミリー・モーティマー)は、ヨネ・ノグチ(中村獅童)という
名の詩人と出逢う。
世界的彫刻家イサム・ノグチの母、レオニー・ギルモアの生涯を描いたドラマ。
ジャパンプレミアには皇后陛下が臨席されたことでも話題の作品。非凡な才能
を持ちながらも子どものために生きることを誓い、異国の地でも自らの生き方を
貫き通した一人の女性。静かな語り口の中に、レオニーの類まれな強さと潔さ
が滲む佳作。この映画、なんと言っても映像が素晴らしく美しい! 撮影監督は
永田鉄男氏と知り、大納得。スチールカメラマンには松村映三氏のお名前も。
松井久子監督は、この作品のために7年を捧げたという。是非劇場で!

レオニーを演じたエミリー・モーティマーは大好きな女優さんなのだけれど、
実はこの映画、観るかどうか少し迷った。イサムの父、ヨネ役の中村獅童が
苦手で。。監督はヨネ役に彼を熱望していたらしいが、予感的中。個人的には
ベストとは言い難いキャスティングなんじゃないかと思う。そもそも、聡明なレ
オニーが何故あれほどヨネに惹かれたのか。彼からは詩人らしく自然を描写
する繊細さも、永遠の悲しみを文字にする魔力も、人間としての誠実さも感じ
られなかった。自己中心的で身勝手な、ただのインテリ男。そうとしか感じられ
なかったのが残念。例えば本木雅弘だとか、仲村トオルだとか。。もっとヨネに
合う役者さんがいたのではないかと思う。
しかし今から100年以上前に、これほど強い意志と信念を持つ女性がいたと
は。。イサムを生んだ8年後、日本で二人目の子どもを妊娠・出産したことにも
驚愕。生まれた娘・アイリスに懇願されても、父親の名を明かさないレオニー。
戦争の靴音、最愛の息子との別離。「侮蔑されてもわからない」と微笑んでい
た彼女の内には、どれほど深い悲しみが巣食っていたことだろう・・・。
偉大な芸術家を生みだした、名もなき母。これも一つの、女性の生きる道で
あり、誇り高き人生でもある。母を持つ全ての人に、観て欲しい。

( 『レオニー』 監督・製作・脚本:松井久子/2010・日本、アメリカ/
主演:エミリー・モーティマー、中村獅童、原田美枝子、竹下景子)
いかにして詩人・銀色夏生は生まれたのか?~『銀色夏生 その瞳の奥にある自由』

詩人・銀色夏生による初めてのムック本。ロングインタビューからお馴染みの
家族写真、対談、一問一答など、ファンサービス満載の一冊。
最初は詩と写真に惹かれ、20年以上銀色さんの本(つれづれノート)を読み
続けていた私。でも実は最新刊の「つれづれ 19」は読んでいません。
前作「つれづれ 18」には「これはちょっと違うんじゃないか」っていう違和感
が大きく、近年は銀色さん自身の(文章の)魅力というよりも、カーカやさくち
ゃん(銀色さんのお子さんたち)の成長ぶりが知りたくて購読していたようなも
でした。だからもう、買ってまで読まなくていいかな、と。
しかし、このムックは発売を知ってから、ずっとずっと、楽しみにしていまし
た。もちろん発売日にゲット。付録のポストカードの写真、懐かしい!
一番うれしかったのは、銀色さんの詩の中で一番好きな「君のそばで会お
う」と「夢の嵐」が再録されていたこと。泣きました・・・。あと、一問一答の中の
「海」という詩にも、泣かされた。
巻末には本人による略歴もあり、いかにして詩人・銀色夏生が生まれたの
か? という謎(?)が解明された感じ。
これからも「つれづれ」シリーズは続いていくようだし、次はまた読んでみよ
うかな、、な~んて思ってしまう、私なのでした。
( 『銀色夏生 その瞳の奥にある自由』 銀色夏生・責任編集/河出書房新社・2010)
老上海二題~『紫胡蝶/パープル・バタフライ』 『茉莉花開/ジャスミンの花開く』


劉リウ・イエ出演作のうち、章子怡チャン・ツィイーと共演したこの二作は
何れも1930年代の上海が舞台(『茉莉花開』は第一章の部分)。ちなみに、
このおふたり中国中央演劇学院の同期生なんだそう。どちらも主演はチャン・
ツィイー。
リウ・イエは、恋人と手をつないだり、見つめ合ったり、幸せそうな表情をし
ている演技よりも、シリアスに苦悩したり、傷めつけられたり、悩んだりしてい
る演技のほうが断然光る役者さんだと思う。幸せそうなリウくんって、何だか
居心地が悪そうに見える(笑)。苦しんでいるときの彼のほうが、あの黒い瞳
が爛々と光って、何故か活き活きして見える。私の気のせいかしらん?
『紫胡蝶』では、降りしきる雨の中、雨粒をピアスのように光らせながら歩く
姿が好きだった。じっと虚空を見つめ、引き金を引くべきか懊悩する姿も。
片や『茉莉花開』。何ですかこの不誠実を絵に描いたようなしょーもない男
は! 「誰の子?」ってアンタどの口が言う・・・(怒)。しかし第三章のオープ
ニング、電車の中で「花(ホァ)」って呼びかける声が「あ、りうくんだ!!」。
一瞬でも、ときめきをありがとう。
今や世界的女優に成長した章子怡チャン・ツィイー。『初恋のきた道』での
鮮烈なデビューは忘れられない。「こんなかわいい子がいるんだ・・・」って、
物凄い衝撃だった。並外れた身体能力と、気のキツそうな表情は天下一品
(ほとんど「地」じゃないか、と)。 『茉莉花開』第一章での、子どもを抱いて
美容院に乗り込んで行く、凛々しい姿が白眉だった。
『ラスト・コーション/色・戒』でも描かれていたように、この時代を物語るに
不可欠な背景を目にすると、複雑な気分にならざるを得ない。特に『紫胡蝶』
のラストの映像には、、、沈黙。。。
( 『パープル・バタフライ』 監督・製作・脚本:婁ロウ・イエ/
主演:章子怡チャン・ツィイー、仲村トオル、劉リウ・イエ/2003・中国、仏)
( 『ジャスミンの花開く』 監督・共同脚本:候咏ホウ・ヨン/
主演:章子怡チャン・ツィイー、劉リウ・イエ、陳冲ジョアン・チェン/2004・中国)
テーマ : ☆.。.:*・゚中国・香港・台湾映画゚・*:.。.☆
ジャンル : 映画
英国の宝たち~『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』 【吹き替え版】

HARRY POTTER AND THE DEATHLY HALLOWS
: PART I
闇の帝王ヴォルデモート(レイフ・ファインズ)の魂の断片を納めた「分霊箱」
を探すべく、旅に出るハリー(ダニエル・ラドクリフ)、ロン(ルパート・グリント)、
ハーマイオニー(エマ・ワトソン)の三人。彼らを待ち受ける試練とは?
英国が生んだファンタジーノベルの傑作、『ハリー・ポッター』シリーズ最終章
の第一作。3D化は間に合わなかったそうですが、そんなことは無問題。前作
同様、ダーク・ファンタジーの様相を呈してきた本作。冒頭から引き込まれ、
146分の長尺も全く気にならず。久しぶりに「潤沢な資金」で撮られ、最先端
の技術を駆使した「良質」な映画を観た感じ。いや~、面白かったです。この
シリーズ、字幕版で観たことが無いのですが、もう一回字幕で観てもいいかも?
映画館で是非♪

WBのロゴから、いきなりビル・ナイのアップですよ(嬉)。このシリーズでは
お約束ですが、英国の有名俳優がテンコ盛り♪ リス・エヴァンス、ピーター・
ミュランのお顔が観れた日には。。小躍りしたくなりましたわ。
今回、ダンブルドア校長(マイケル・ガンボン)亡き後、ハリーらが分霊箱を
探す旅に出る、という設定であるため、新しい登場人物も比較的少なく、スト
ーリーもシンプルで非常にわかり易い。ただ、かなりダークでPG指定気味な
映像もあるため、大人向けな印象。実際、劇場では小さなお子さんが号泣し
ていました(すぐ退席していたけど)。私も泣きましたけどね、、ドビーーー!!
しかしまぁ、ハーマイオニー・グレンジャーことエマ・ワトソンの美しいこと!
ワタクシ、実はこの『ハリポタ』シリーズの最大の功績は、エマ・ワトソンという
美少女を世界中にintroduceしたことにあると思っていますよ。。彼女をはじ
め、まさに「英国の宝」たちが拝める本作。PART2が待ち遠しい。もう撮り終
わってるなら、来年7月と言わず早く公開してくれ~。。

( 『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』 監督:デイヴィッド・イェーツ/
主演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン/2010・UK、USA)
テーマ : ハリー・ポッターシリーズ
ジャンル : 映画
公園生活~『パーク・ライフ』

日比谷公園。地下鉄で話しかけてしまった女と再会した「ぼく」。名前も知らない
彼女との、束の間の時間。
『悪人』で大ブレイクした作家、吉田修一の芥川賞受賞作。併録は『flowers』。
都会に生きる男女の掴みどころのない日常を描いた表題作は、正直「これが芥川
賞?」と思ってしまった(すみません)。しかし、選考委員の村上龍氏によれば、
「現代に特有の居心地の悪さと、不気味なユーモアと、ほんのわずかな、あるの
かどうかさえはっきりしない希望のようなものを獲得することに成功している」らし
い。
『flowers』も共感し難い物語ではあるが、九州出身の主人公(と、その従兄)
がしゃべる九州弁が、『悪人』を思い出させる。小さな会社の中の、複雑怪奇な
人間関係。こういう人たちって、いるんだろうなぁ、、と妙に納得させられる、物
悲しいリアリティ。きっと作者は、年賀状を眺めながらこの物語を思いついたん
だろうな。映画化されたら面白いかも。。
( 『パーク・ライフ』 吉田修一・著/2004・文藝春秋)