ああ青春~『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室』

CHARLIE BARTLETT
チャーリー・バートレット(アントン・イェルチン)は大邸宅に住み、専属の
リムジン運転手や精神科医を持つ高校生。彼は私立校で問題を起こして
退学となり、地元の公立校に編入することになる。
人気者になりたいと願うセレブな高校生が、荒れた公立高校で自らの人生
を模索する青春コメディ。公開時、タイトルから観に行く気も起こらずスルー
していたのだが、アントン・イェルチンくんが大好きなので鑑賞。しかし、この
映画単館とはいえよく劇場公開されたなぁ。。アントンくんは日本ではさほど
知名度があるわけでなし、監督も無名だし、オスカーに絡んだわけでもなし。
と思っていたら、ロバート・ダウニー・Jrがご出演とは。そして配給は、なん
と今は無きワイズポリシー!! そうだったのね~、しくしく。。
ロバダウの役どころは、チャーリーが通う公立校の校長先生。妻に逃げら
れて酒浸り、今や一人娘のスーザン(カット・デニングス)だけが生き甲斐。
なのに娘は問題児チャーリーと付き合っている! 監視カメラを導入してみ
たものの、学内の治安は一向に好転することもなく、教育委員会からの突き
上げは厳しく、悩んではアルコールに逃避し、、という中間管理職の悲哀が
滲むキャラ設定。実生活で麻薬中毒からの大復活を遂げた彼が、「人生や
り直せる、何者にだってなれる」というメッセージを若い人々に伝えるために、
この(恐らく)低予算コメディ出たんだろうな、としんみり観てしまった。
しかし、スーザン役のカット・デニングスは唇が赤過ぎ、体つきもボリュー
ムがあり過ぎてとてもティーンには見えない。チャーリーをリードする姿は、
ほとんど熟女(爆)、なのだった。その彼女に、喰われてしまうチャーリーよ。。
強く生きていくんだゾ。

( 『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室』 2007/USA/
監督:ジョン・ポール/主演:アントン・イェルチン、ロバート・ダウニー・Jr)
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恐怖のフルコース~『劇場版 怪談レストラン』

闇のギャルソンがお出迎えする、怪談レストランへようこそ--。童心社から
刊行されている人気シリーズ『怪談レストラン』。TV放映されていたアニメシリ
ーズが、実写を加えて劇場版として帰ってきました。夏休みも終盤、シネコンは
子ども連れでごった返し、熱気ムンムン。シアターはほぼ満席で、このシリーズ
の人気の高さに改めてビックリ。キャストは以下です。
闇のギャルソン 西村雅彦・・・白塗り
エンマ大王 長友光弘(響)
占いガラス 山根良顕(アンガールズ)
解剖模型 田中卓志(アンガールズ)
紫ババア 片桐はいり・・・やっぱり顔が四角い
おきくちゃん さくらまや・・・前髪バサリに爆笑
アンガールズの二人が、すっごくはまってました。
主役のハルを演じたのは、国民的美少女コンテスト優勝者だという工藤綾乃
ちゃん。この子がですね、、個人的には好みじゃなかったですね。国民的美少
女といえば、かの「ゴクミ」後藤久美子とか、宮沢りえだとかを連想してしまう世
代ゆえ、綾乃ちゃんはいかにも「普通の子」に見えて、私にはオーラも魅力も
感じられませんでした。残念!
でも、劇場内の子どもたちはすっごくウケてたなぁぁ。それでいいんですよね。

( 『劇場版 怪談レストラン』 監督:落合正幸/2010・日本/
主演:工藤綾乃、森崎ウィン、剛力彩芽、冨田佳輔)
「ほぼすべての映画」って?
昨日の新聞に興味深い記事を見つけた。 「高層階に最大級シネコン」
JR大阪駅北ヤードの再開発区域に建設中の新ビルに、シネコンが入る
らしい。その名も「大阪ステーションシティシネマ」。松竹、TOHOシネマズ、
東映系の三社が共同で運営し、「ほぼすべての映画が上映されるという」。
「ほぼすべての映画」って、どういう意味なんだろう? シネコン系の大手
配給会社の映画のこと? それとも、ガーデンやシネマートでしか上映しな
いような、単館系の映画も上映するのだろうか?
梅田には既にシネコンもいくつかあるし、ミニシアターもある。観に行く側
としては、改札に直結した映画館ができるのは大歓迎。だけど、あの長い
長い地下道を通って映画を観に行くこともなくなるのかも? と思うと、少し
寂しい気もするのだった。
JR大阪駅北ヤードの再開発区域に建設中の新ビルに、シネコンが入る
らしい。その名も「大阪ステーションシティシネマ」。松竹、TOHOシネマズ、
東映系の三社が共同で運営し、「ほぼすべての映画が上映されるという」。
「ほぼすべての映画」って、どういう意味なんだろう? シネコン系の大手
配給会社の映画のこと? それとも、ガーデンやシネマートでしか上映しな
いような、単館系の映画も上映するのだろうか?
梅田には既にシネコンもいくつかあるし、ミニシアターもある。観に行く側
としては、改札に直結した映画館ができるのは大歓迎。だけど、あの長い
長い地下道を通って映画を観に行くこともなくなるのかも? と思うと、少し
寂しい気もするのだった。
存在証明~『ふたりの証拠』

おばあちゃんの家に一人戻ったリュカ(LUCAS)は、茫然自失の日々を過ごし
た後、党書記局のペーテルと知り合う。大晦日の夜、ヤスミーヌと彼女の赤ん坊
を、リュカは家に招き入れる。
アゴタ・クリストフ『悪童日記』の続編にして、三部作からなる第二作。『悪童日
記』に衝撃を受け、すぐにこの続編も読了してしまった。構成は異なるが、感情
や装飾を排した、透明な水のような文体は変わらず、人間存在の絶望や葛藤、
悲哀は重みを増している。そして前作に劣らぬ衝撃の、読む者を混乱に陥れる
ラスト。凄い小説です。
冒頭から、少々戸惑ってしまった。何故、あれほど一心同体だった「ぼくら」の
別離を、誰も訝しがらないのか。どうして、誰よりも聡明なはずのリュカが「白痴」
と呼ばれているのか。謎は謎のままに、リュカはヤスミーヌと、彼女の赤ん坊マ
ティアスと暮らし始める。そしてリュカの兄弟の名は、クラウス(CLAUS、LUCAS
のアナグラム)だと明かされる。
不具であるマティアスを溺愛するリュカ。リュカに対する激しい愛憎と独占欲
に苛まれるマティアス。彼もまた「書く」ことを始め、本屋のヴィクトールは「すべ
ての人間は一冊の本を書くために生まれてきた」と言い、リュカは夫を亡くした
図書館員のクララを求める。クラウスを永遠に待ち続けながら・・・。
物凄く飛躍した妄想だと自分でもわかっているのだけれど、この物語を読み
ながら私の頭に浮かんでいたのは、萩尾望都による漫画『ポーの一族』なの
だった。リュカも、クラウスもマティアスもバンパネラではないし、永遠の命を
有するわけではない。しかし、私には彼らの関係が、エドガーとメリーベルと
アランの関係にダブってしまったのだ。彼らの持つ浮世離れした妖気や、ヨ
ーロッパの街並みの雰囲気が、そう感じさせたのだろうけれど。
「死者はどこにもいなくて、しかもいたるところにいる」 そして、生きている
人たちは帰ってくる。クラウスは帰って来た、そしてリュカは、何処にいる?
( 『ふたりの証拠』 アゴタ・クリストフ/著、堀茂樹・訳、早川書房・2001)
ぼくらの作文~『悪童日記』

<大きな町>から、おばあちゃんの住む<小さな町>の外れの家にやってきた
双子の「ぼくら」。厳しい自然、戦争の足音、並外れて不潔で吝嗇で、夫殺しの魔女
と呼ばれるおばあちゃん、そして何より彼らが幼い子どもであること。そんな過酷
な環境下で、「ぼくら」は如何に学習し、鍛錬し、生き延びたか。著者アゴタ・クリス
トフの出生地ハンガリーの現代史を背景に、「恐るべき子どもたち」のサバイバル
が活写される、20世紀の残酷童話。
初版の発行から20年近くが過ぎようとしているこの名作を、初めて読み通した。
日本でも話題のベストセラーとなり、本木雅弘(モックン)がこの本を手に『ダ・ヴィ
ンチ』誌の表紙に登場したこともあったと(私の記憶が確かならば)思うのだが、何
故か未読のままだった。しかし、思わず「あっ」と声を上げてしまうまさに「衝撃の」
ラストまで、引き込まれて夢中で読んでしまった。名前を与えられていない主人公
たち、一切の感情移入、自己投影を許さないソリッドな文体、短編の集積のようで
いて、全体が一つの完璧な世界を形作る構成は、恐るべき処女作としか言いよう
がない。主人公の「ぼくら」の作文として、著者は本作中で以下のように宣言する。
ぼくらには、きわめて単純なルールがある。作文の内容は真実でなければなら
ない、というルールだ。ぼくらが記述するのは、あるがままの事物、ぼくらが見た
こと、ぼくらが聞いたこと、ぼくらが実行したこと、でなければならない。
感情を定義する言葉は、非常に漠然としている。その種の言葉の使用は避け、
物象や人間や自分自身の描写、つまり事実の忠実な描写だけにとどめたほうが
よい。
この無骨にして繊細な「作文」を、「悪童日記」と名付けた翻訳者のセンスも素晴
らしい。誰もが驚愕するであろう最後の一文を読み終えた瞬間、心は続編に飛ん
でいた。
( 『悪童日記』 アゴタ・クリストフ/著、堀茂樹・訳、早川書房・1991)
悪徳と知恵~『ワンダーラスト』

FILTH AND WISDOM
ご存じクィーン・オブ・ポップ、マドンナの初監督作。めちゃめちゃトンガった
パンクな映画なんじゃないだろーか、という予想は外れ、意外にオーソドック
スな青春映画でした。
ロンドンでルームシェアしている、AK(アンドレ)、ホリー、ジュリエットの三人
が主人公。ミュージシャンを目指すアンドレは盲目の作家のヘルパーをしなが
ら、SMの調教師として糊口をしのいでいます。バレリーナを目指すホリーは喰
いつめてポールダンサーとなり、アフリカの貧しい子どもたちを助けようという志
を持つジュリエットは、インド系英国人が営む薬局で働いています。
夢を抱いて進路を模索するこの若者三人が、マドンナの分身であることは自明。
ホリーとジュリエットの間には同性愛的感情もほのめかされ、アンドレの口から
は、自ら脚本も担当したマドンナらしい人生哲学も語られます。処女作にはその
作家の全てが現れると言われますが、50代になったマドンナが人生を振り返り、
若い世代にエールを送っているような印象も受けました。
意外だったのは邦題。てっきり原題まんまのカタカナ邦題かと思ったら、劇中
に登場する小説(アンドレの愛読書、盲目の作家の著作)のタイトルから採って
いるんですね。映像も綺麗で、なかなか好感できる映画でした。AKを演じたユ
ージン・ハッツが、時々オダギリジョーに見えたのはご愛嬌(笑)。

( 『ワンダーラスト』 監督・製作総指揮・脚本:マドンナ/2008・UK/
主演:ユージン・ハッツ、ホリー・ウェストン、ヴィッキー・マクルア)
裸一貫!~『フル・モンティ』

THE FULL MONTY
英国北中部、シェフィールド。かつて鉄鋼業で栄えたこの街は、すっかり寂れ
て失業者ばかり。最愛の息子の養育費も払えないガズ(ロバート・カーライル)
は、男性ストリップで稼ごうと画策するのだったが・・・。
英国産コメディ映画の代表と言っても過言でないこの名作を、今日まで観ず
に生きてきました(懺悔)。公開当時、劇場鑑賞した友人からオススメもされて
いたし、BS放映なりビデオなりDVDなりでいくらでも観る機会はあったはず、
なのに・・・。
そしてやっとやっと、観ることのできた本作は、本当に素晴らしく面白い作品
でした! いや~、もう、最高。英国アカデミー賞やヨーロッパ映画賞受賞も
納得。これは映画史クラスの名作と言ってもいいでしょう。

ロバート・カーライル、いいですね。相変わらず神経質な立ち姿と、やさぐれ
感がなんとも言えません。一人息子ネイサン(男前♪)に、親心を切々と訴える
シーンをはじめ、名場面がテンコ盛り。このムショ帰りのダメ男をここまで突き
動かしている全てが、息子への愛っていうのがまた、いいんですよ~。
不況に伴う失業、離婚、破産、老親の介護などなど、現代日本の諸問題を先
取りして描いているかのようで、13年前の映画ですが古臭さは感じません。英国
映画ではお約束(?)のゲイ愛シーンもあり、想定内ではありますがまさに「これ
しかない!」であろう、一発勝負のラストシーンには大喝采です。
『ロック・ユー!』でチーム・ウィリアムの一人だったマーク・アディと、トム・ウィ
ルキンソンも出ていたんですね。実は今回、最近のヒュー・グラントの演技がトム
・ウィルキンソンのそれに似ていることに気付きました(爆)。ヒューも英国を代表
する名優への道をまっしぐら、だといいんですけれど。。
英国映画っていいな~、と改めて思いました。派手なロケーションもVFXも
ない、狭くて小さな世界を描いているのですが、そこには普遍的な人生の真実
や、愛がいっぱい詰まっているのですよ。。いい作品は、時代を越えて残るの
ですね。繰り返し観たい傑作だと思います。

( 『フル・モンティ』 監督:ピーター・カッタネオ/1997・UK/
主演:ロバート・カーライル、トム・ウィルキンソン、マーク・アディ)
聖なるもの/守られたもの~『小さいおうち』

昭和5年の春。山形の尋常小学校を卒業したタキは、東京へ女中奉公に出る。
小説家の「小中先生」のお屋敷に奉公した後、平井家の「時子奥様」と過ごした
濃密な日々。戦前・戦中の激動の時代を背景に、市井の人々の暮らしと、東京
の中流家庭で起こった「ある恋愛事件」が回想される。
中島京子氏による、第143回直木賞受賞作。タイトルから、バージニア・リー・
バートンによる『ちいさいおうち』が想起されるが、あの名作絵本と本作がどう
関係しているのかは、最終章までのお楽しみ。林真理子ちっくな「家政婦は見
た!」的話なのかと思いきや、その壮大な仕掛けと昭和初期の風俗の見事な
描写には脱帽。お盆休みに読了したのだけれど、読み終わってしばらく、この
物語から現実に戻って来ることができなかった。嗚咽をこらえきれない、心に
残る感動作です。レトロな切り絵風の装丁も美しい。一読推奨!

しかしこれは間違いなくドラマか、映画化されるでしょうね。オファー殺到中
でしょうが、時子奥様のキャスティングだけは納得のいくものにしてほしい!
でも正直、今の日本の女優さんの中で誰が適役か、と考えても、なかなか思
いつかないんですけれどもね。。
タキにとっては、ほとんど人生の全てだったともいえる、平井家での日々。
若く美しい時子奥様と、「そういうことのない」旦那様、奥様の連れ子である恭一
ぼっちゃんとの暮らし。二間しかない女中部屋を「終の棲家」だと信じていたタキ
は、一体どんな思いで、戦後の長い長い時間を生き抜いたのか。「第三の路」を
ゆくしかなかったタキ。彼女を終生さいなんだ後悔、自ら「頭の良い女中」であろ
うとしたあの日の選択、それは愛する人を守ろうという「決意」だったのか、それ
とも・・・。
答えがないからこそ、余韻のある物語が生まれるのかもしれないですね。
( 『小さいおうち』 中島京子・著/文藝春秋・2010)
~ 再開します ~
~ 夏休みに入ります ~
ブラッディ・アンジー~『ソルト』

SALT
優秀なCIA分析官のイヴリン・ソルト(アンジェリーナ・ジョリー)は、夫のマイ
ク(アウグスト・ディール)と幸せな結婚生活を送っていた。そんな彼女が、ロシ
アとの二重スパイであるとの嫌疑をかけられてしまう。
アンジー姐さん主演のアクション映画。いや~、アンジーが血まみれで逃げ
る、飛ぶ、走る殴る撃つ! ストレートで面白かったです。劇場も大入り、アン
ジーって人気あるんですね。
物語は、イヴが北朝鮮の収容所で拷問されているところから始まります。
「お前はスパイだろう?!」 しかし彼女は夫マイクの尽力によって釈放されま
す。夫に自分がCIA諜報員だと泣きながら告白するイヴ。彼女は知っていた
のでした、秘密を共有してしまうことは、何も知らない一市民である夫を大国
間の諜報戦に巻き込んでしまうことだと。そしてその不安は的中してしまうの
でした。

アンジーはほとんどのアクションをスタントなしでこなしたそうですが、特に
凄かったのはハイウェイでのカーアクション。ジョン・マクレーンばりの不死身
っぷりには、さすがに「あり得ねぇ~」という声が上がっていましたが(笑)。
しかしまぁ、あの折れそうな細い身体のどこから、あれほどのパワーが生まれ
るのでしょうね? ウィンター(リーヴ・シュレイバー)とのファイトは、ほとんど
ガチバトルか、っていうほどの迫力。NATO少佐の扮装は、マイケル・ジャク
ソン+プリンス÷2、みたいに見えて面白かったけど。
KGBが大国ロシアの世界制覇を目論む、という冷戦時代の残滓のようなプ
ロットでしたが、男前なアンジーの熱演、アクションだけでも観る価値はあり。
続編への含みを大いに持たせたラスト。不死身のソルトよ、何処へ行く?

( 『ソルト』 監督:フィリップ・ノイス/2010・USA/
主演:アンジェリーナ・ジョリー、リーヴ・シュレイバー)
侍パティシエ~『ちょんまげぷりん』

シングルマザーのひろ子(ともさかりえ)は、保育園児の友也を抱え、仕事と
家事・育児の両立に孤軍奮闘の日々。そんなひろ子が出逢ったのは、江戸時
代からタイムスリップしてきたお侍さんだった・・・。
「木島安兵衛、直参でござる」
文政九年、180年前の江戸からやってきた若侍が、お菓子作りの才能を発揮
して人気パティシエとなる。なんとも奇想天外なプロットだけど、劇場予告の面
白さに惹かれて鑑賞。原作は、荒木源の同名小説。なかなか面白かったでご
ざる。

TVドラマではすっかり人気者の錦戸亮くん、私はドラマはチラ見程度しかし
ないのであまり印象はなかったけれど、なかなかいい役者さんですね。彫り
の深い顔立ちに、翳りある瞳。異世界に迷い込んだ若者の不安と矜持を、誠
実な演技で見せてくれたと思います。武士の所作も、お菓子作りの手つきも、
なかなか様になっていましたよ。映画は初出演・初主演だそうで、ジャニーズ
は、やっぱり人材の宝庫だと再認識です。
戸惑いながらも安兵衛を受け入れるひろ子の苦悩も、ちゃんと描かれてい
る。目いっぱい仕事がしたいのに、上司に嫌味を言われながら定時で会社を
後にしなければならない。子が熱を出したと言っては呼び出され、お迎えのた
め残業できない故に、仕事は自宅にお持ち帰り。どんな時代になっても、女に
はしなければならない用事が多過ぎる。離婚の理由があまりにも安直な気も
したけれど、働く母は、本当に大変です。。しかし、この雇用不安の時代に、正
社員であり、尚且つプロジェクトのマネージャーを任されたりもするひろ子は、
とても運がいい(才能ある)女性だとも言える。母と子が暮らすマンションは、な
かなか立派な建物だったし。お布団の周りにプラレールが敷いてあったり、「ポ
ケモン観れなかった~」と友也が泣くシーン、個人的にあまりにリアルで笑えま
した。

ケーキコンテストのシーンではちょっと中だるみもあったけれど、時空を超え
た約束が果たされるラストは、巧くまとめた感じ。そしてこの映画、エンディング
がなんとも豪華なんですよ。NG集のおまけに、流れるテーマ曲は忌野清志郎
の『REMENBER YOU』。思わぬプレゼントをいただいた気がしました。
( 『ちょんまげぷりん』 監督・脚本:中村義洋/
主演:錦戸亮、ともさかりえ/2010・日本)
ボーイズ・ビー・アンビシャス~『おれのおばさん』

「おれ」高見陽介は、母親の姉の「恵子おばさん」が運営する、札幌の児童養護
施設で暮らしていた。中学受験を経て、東京の名門私立校に通っていた陽介だっ
たが、銀行員の父が横領罪で逮捕されて一家は離散、絶縁状態だった「おばさん」
の元へ預けられたのだった。
14歳の多感な少年が、わけありの仲間たちと強烈な押し出しの「おばさん」とと
もに暮らしながら、自らの人生を模索してゆく青春小説。こんなにも読後感がよ
く、一気に読ませる「爽やかな」物語は珍しいかも。
温室育ちの少年が、規格外かつ破天荒でありながらも人間味溢れる「おばさん」
の背中を通して、一筋縄ではいかない人間関係や社会性を学んでゆく。「勉強が
できる」そのことに自らのアイデンティティを見出し、環境が激変しても、勉強する
ことだけは決して手放さない、陽介の努力に感動する。身を粉にして、身寄りのな
い子どもたちのために献身する「おばさん」の姿にも。ここには、『告白』や『ヘヴン』
に描かれた陰湿な「14歳」とは真逆の「清々しさ」がある。
「卓也と並んで恵子おばさんを見つめながら、おれもおばさんのように全力で生
きたいと思った。どこでなにをするのかはわからない。というか、おれはなんにだ
ってなれる気がする。きっとおばさんだってそう思って医学部をめざし、役者に
なって、芝居にのめりこんだのだ。だからおれも自分がこれだと思う仕事に全力
で取り組んで、その結果どれほどみじめな目にあおうとも、おばさんや卓也に胸
を張れるだけの生き方をしたい。」
がんばれ、14歳の子どもたち! 私も彼らを信じ、見守り続ける「おばさん」であ
りたいな。
( 『おれのおばさん』 佐川光晴・著/集英社・2010)
~ 旬刊小栗 ~
夢の途中~『インセプション』

INCEPTION
他人の夢に侵入し、アイデアを盗む産業スパイ・ゴブ(レオナルド・ディカプリオ)。
彼の元に、サイトーと名乗る男(渡辺謙)が依頼を持ち込む。相棒のアーサー(ジョ
セフ・ゴードン=レヴィット)らとともにチームを組み、アイデアを盗むのでなく植え
付ける「インセプション」というミッションに挑むゴブだったが・・・。
『ダークナイト』でその才能を名実ともに全世界に知らしめたクリストファー・ノー
ランの新作は、人間の無意識と「夢」を自在に駆け抜けるサスペンス・アクション。
主演のレオをはじめ、オスカー級の名優、新鋭が勢揃いした大作映画。日本から
は渡辺謙が参加している。音楽はTDKに引き続き、ハンス・ジマー。

『シャッター・アイランド』に続き、レオはサイコな妄想に取り憑かれた男。亡き妻
の幻影に悩まされ、眉間の縦皺も深く正気を失っていく姿は既視感あり。しかし私
は基本的にレオを応援しているので、「またこういう演技(役柄)か・・・」と思いつつ、
批判する気にはなれないのだった。複雑な内面を持つ役柄に偏っているとはいえ、
彼の作品選びや演技力はやはり、一流だと思っているから。
ややお久しぶりのキリアン・マーフィ、本当にお久しぶりのトム・ベレンジャー、
登場すると途端に画面に風格が加わるマイケル・ケインなどなど、キャスト的には
観応えたっぷりの本作、一番光っていたのはジョセフ・ゴードン=レヴィットでしょ
う。監督が、故ヒース・レジャーに彼が似ていると思っているかはわからないけれ
ど、『(500)日のサマー』とは真逆な、クールでワイルドな一面を魅せてくれたと
思う。

夢がいくつもの階層に分かれていて、侵入した者は自ら他の階層に移ることがで
きる。夢の中で死ぬと目覚めるが、「虚無」に落ちると心は戻らず、廃人となる。現実
はもちろん、夢の中でも時間の経過にはずれがあり、数分が何十年に値することさ
えある・・・。冒頭からいきなりの日本語シーンに戸惑い、複雑に枝分かれしたストー
リーはかなり難解で、「理解」しようとすると楽しめない。途中から私は、無重力だっ
たり、雪山だったりする場面、それぞれを楽しめればそれでいいと思ってしまい、辻
褄を合せることは放棄してしまった。
それゆえ、自分がこの映画を果たして「観た」と言い切れるかは自信がないのだ
けれど、観終わって心に残るのは、ゴブとモル(マリオン・コティヤール)との少し、
ねじれた夫婦愛なのだった。美しいマリオンを観れば、エディット・ピアフのシャン
ソンで「キック」するという納得しがたい設定も腑に落ちる。振り向いた子どもたち、
回り続ける駒。結局のところ、何が現実で何が夢なのか。それは誰にもわからな
い。
( 『インセプション』 監督・製作・脚本:クリストファー・ノーラン/2010・USA、UK/
主演:レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョセフ・ゴードン=レヴィット)