考える人人~『六つの星星』
六つの星星

 作家・川上未映子と、6人のゲストによる対話集

 × 斎藤環
 言語と身体、母と娘、哲学と文学精神科医として、斎藤氏が川上未映子を
 「非常に興味深い」研究対象として観察しているよう。

 × 福岡伸一
 生物とは何か、実在とは何か。細胞、分子と細分化されてゆく身体において、
 「記憶」はどこに存在するのか。自己と自我の成り立ちについて。

 × 松浦理英子
 『たけくらべ』から始まる、ことば、文字、文体のループ。性差も種も超越
 する、文学の可能性

 × 穂村弘
 「ワンダーとシンパシー」驚嘆と共感の配剤。言葉の使い方、表現者が希求
 する「絶対性」について。

 × 多和田葉子
 文字の「からだ」、言葉の力について。ここで川上未映子の語る本の「模様」
 について、私もヘヴンを読んでいるときに実感した。クライマックスであ
 る「それはただの美しさだった」並木道のシーン。ページ自体がなんとも美し
 く
、ずっとそのままページを眺めて、飽きなかった記憶がある。

 × 永井均
 哲学対話。後半は『ヘヴン』未読の方は避けた方がよいです。ネタバレにつき。

 全体的に、こんなにも常に何かを「考えて」生きている人たちがいることに
圧倒された。考えずにはいられない人たちが発する、白くまばゆい光に。

 ( 『六つの星星 川上未映子対話集』 川上未映子・著/文藝春秋・2010)
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[2010/04/29 00:00] | 読書 | トラックバック(1) | コメント(2) |
エイリアンVS.~『第9地区』
第9地区



 DISTRICT 9


 南アフリカ・ヨハネスブルク上空に、巨大な宇宙船が飛来した。乗っていたエイ
リアン
たちが「第9地区」隔離されて20年、増え続ける彼らを「第10地区」に移
送しようという計画が実行されることになる・・・。

 アカデミー賞作品賞はじめ、4部門にノミネートされた異色作。監督は南ア出身、
ピーター・ジャクソンの後ろ盾があったとはいえ、本作が初の長編とは凄い。疑似
ドキュメンタリー
の手法で始まり、主人公にある「変化」が起こったあたりから、物
語は一気に加速する。この「ギアチェンジ」が巧妙で、冒頭では微妙に違和感を
憶えたものの、最後まで引き込まれて観ることができた。

第9地区2


 実は、SF映画はさほど好きなジャンルではない。だから本作の「エイリアン」の
ビジュアル(エビ似)にも最初は引いてしまった。しかし慣れ(?)とは恐ろしいもの
で、最後(ラストシーン)には「かわいい」とさえ思ってしまった(笑)。ツッコミどころ
も多く、「あり得ない」の一言で片づけてしまえなくもないけれど、「エイリアン」
象徴、もしくは内包するものが何であるかに思いを馳せてみれば、決して絵空事
だと笑ってばかりもいられない。

 しかし、そんな小難しいことは考えずとも、エンタメ作品として十分楽しめる。
『ザ・フライ』して苦痛のどん底にあったヴィカス(シャルト・コプリー、なんと
演技は素人らしい)がパワード・スーツに身を固め、「人間」と闘う覚悟を決める
場面が最高! 3年経ったら、クリストファーは本当に戻ってくるのか? その
時、ヴィカスは「人間」に戻れるのか。増え続ける「エイリアン」は、人類と地球
に何をもたらすのか・・・。

 過去の作品の数々を思い起こさせながら、どこにもないユニークな作品。3D
うんぬんではなく、映画はアイデア次第で、まだまだ斬新なものが作れるんだ。
そう感じさせてくれた作品だった。

第9地区3


 ( 『第9地区』 監督・脚本:ニール・ブロムカンプ
           主演:シャルト・コプリー/2009・米、ニュージーランド)

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[2010/04/28 20:24] | 映画 | トラックバック(68) | コメント(14) |
宙ぶらりんの僕の人生~『マイレージ、マイライフ』
マイレージ、マイライフ


 UP IN THE AIR


 リストラ宣告人ビンガム(ジョージ・クルーニー)年間322日も出張し、
1000万マイル貯めることだけを目標に生きる独身男。そんな彼の元に、
ットによる解雇通告
を提案する新人ナタリー(アナ・ケンドリック)が現れる。

 ジェイソン・ライトマン&ジョージ・クルーニーによる、アカデミー賞5部門
ノミネート
のドラマ。家族とも女性とも距離を保ち、「人生において、バックパ
ックに入らない荷物は持たない」
ことを信条とするクールな男。そんな彼が
二人の女性との出会いを通じて、少しだけ人生を見つめ直す。この「少しだけ」
加減が絶妙で、なんとも言えない味わいを残す秀作。惜しくもオスカー受賞は
ならなかったけれど、個人的には作品賞受賞作より、ずっと好きな映画です。

マイレージ、マイライフ2

 まず何より、原題、邦題ともにタイトルがイイ! 原題「UP IN THE AIR」
「宙ぶらりん」から転じて「未解決の」という意味だけれど、どこにも属さず、
の上を「我が家」だと感じているビンガムの人生そのもの
を表わしている。そして
邦題は、ビンガムの人生において唯一の価値あるもの、マイレージとマイライフ
語感がピッタリで、もう、最高! 原題よりいいかも(笑)。こんな素敵な邦題、
珍しいよね?

 そして、まるでジョージ・クルーニーのためにあて書きされたような脚本が、
イイ! キャリアウーマンのアレックス(ヴェラ・ファーミガ)とビンガム、これ男
女が逆転してたら、アレックスの行動って不倫男の常套手段だよね。「人間、
誰でも死ぬときは一人だ」
って言うビンガムは、離婚歴もなく心配してくれる姉
妹もいるのに、どうしてあんな醒めた人生観なんだろう? アレックスは、ビン
ガムが初めて感情を剥き出しにした女性なんだろうか? 生まれて初めて、
自分と同じ種類の人間を見つけた、と思えたのかな。でも、相手は彼より、も
っと醒めた価値観の持ち主だった。

マイレージ、マイライフ3

 ビンガムの部下ナタリーも、得難いキャラ。西海岸の大学を首席で卒業しなが
ら、彼氏のためにネブラスカの小さな企業に就職。結婚に理想を抱き、誰かと共
に生きる人生を夢見ている。デジタルネイティヴでありながら、ちょっと古風な
人生観
を持つ女の子。カラオケで歌うのが「タイム・アフター・タイム」ってアンタ、
いくつやねん、と(笑)。ナタリーのこのまっすぐさ、ニヒルなリストラ宣告人さえ
も揺り動かしてしまうような前向きな熱意、人の善性を信じる汚れなさが、なん
だか眩しいような、昔の自分を見ているような。。この、男女三人、三者三様
キャラクター、キャスティングも見事。

 遂に1000万マイル達成しても、虚しさしか感じられないビンガム。人は結局、
自分のためだけに生きても、大した幸せは感じられないんだろうな。喜びも悲
しみも、健やかなるときも病める時も。分かち合いなさい、ということなんですね。

 (『マイレージ、マイライフ』 監督・製作・脚本:ジェイソン・ライトマン
   主演:ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック/2009・USA)

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[2010/04/23 20:21] | 映画 | トラックバック(57) | コメント(10) |
君が僕を見つけた~『1Q84』 【BOOK3】
1Q84-3

 月が空に二つ浮かぶ「1Q84」の世界。そこに迷い込み、互いを求め合う青豆
天吾。彼らは再び出会い、まみえることができるのか? 村上春樹の最新長編、
待望の第三部


 BOOK3の発売日は、1、2と同じく雨だった。今回はずっと以前から書店で予
約していたので、余裕でゲット。夜、ひとりページをめくりながら「今、この日本で、
30万人くらいの人が自分と同じ本を読んでいるんだ」
と思うと、なんともシュール
な気分。思わず空に月が何個浮かんでいるか、確認したくなる。そして世界中の
ハルキストたちに、ちょっとだけ優越感
。ハルキ・ムラカミの新作を、何処の国よ
りも早く母国語で読めることに。日本人に生まれてよかった。

 BOOK1、2を読んだとき、美しきスナイパー・青豆にすっかり感情移入していた
私は、BOOK3の目次を読んだだけで、泣いてしまったのだった。3日間かけてゆ
っくり、じっくり読み進む。そして読み終わった後、しばし軽い虚脱感

 青豆→天吾、と章ごとに交互に語られていた物語は、BOOK3では牛河という
お馴染みのキャラクターを加え、31章からなる。牛河? そう、あの奇妙な容姿
の「闇からの使者」。目次に彼の名を見つけたときは、驚きの一言。しかし誰から
も好かれることのない、孤独な彼の容貌を描写するハルキさんの筆は容赦ない。
徹底して、彼を「忌まわしきもの」のイメージの総体として描こうとしているように
感じて、牛河が気の毒に思えてくるほど。

 今回BOOK3を読む前に、1、2を再読することはしなかったけれど、自然と記憶
が甦ってくる。不思議な話し方をする美少女ふかえり、リトルピープル、空気さな
ぎ、猫の町
。拳銃をくわえた青豆は引き金を引かず、「さきがけ」はリーダーを失
った。そして、青豆の身体にはある「変化」が起こっていた・・・。

 1Q84年の10月から12月を描いた本作は、非常に展開が遅い。主人公の二人
は、一つ所に留まってほとんど行動を起こさず、天吾くんは相変らず徹底して「受け
身」
書き過ぎだと感じてしまうほどの詳細な描写と反復は、登場人物たちの心理
描写
だけで物語をドライブしようという、ハルキさんの新しい挑戦なのかもしれない。
これほどまっすぐでゆるぎなく、純粋な「愛」が描かれたことも。いや、表面的には
究極の純愛物語として読めるかもしれない。しかしこの作品は、ハルキさんなりの
「近過去の総括」なのだと思う。

 大ベストセラーとなり、社会現象を巻き起こした長編小説1Q84は、これで
完結なのだろうか? 4月-6月、7月-9月、10月-12月、とくれば、どうしても1月
-3月
を期待してしまう。そこに描かれるのは前日譚か、それとも「小さきもの」
含めた、三人の物語なのか。

 ( 『1Q84』 【BOOK3】 村上春樹・著/新潮社・2010)

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[2010/04/21 18:27] | 読書 | トラックバック(3) | コメント(4) |
雛の才能~『カッコウの卵は誰のもの』
カッコウの卵は誰のもの

 オリンピック出場経験もある元スキー選手緋田には、19歳の娘、風美がい
た。彼女もまたスキー選手として才能を開花させようとしていた矢先、緋田はあ
る依頼を受ける。それはスポーツ医学の観点から、緋田と風美の遺伝子パター
を研究させてほしい、というものだった。

 才能とは、スポーツとは、遺伝子親子の絆とは何か。相変わらず「読み出し
たら止まらない」東野圭吾
らしいサスペンス。才能溢れる若きスポーツ選手の
出生の秘密に思わぬ事件が絡み合い、推理物としても、スポーツ物としても、
親子の情を描いた作品としても楽しめる。さすが、「国民的作家」東野圭吾だと
思う。

 クロスカントリースキーの才能を見いだされたものの、自分がやりたいこと
は他にある、と才能を生かそうとしない高校生、伸吾のエピソードが印象的。
彼が大人になってどう変わっていくかはわからないけれど、何かをずっと「好
き」でいられること
も、一つの才能だと思う。ギターで世に出ることはできなく
ても、彼には好きなことを続けて欲しいと思う。親目線で見れば、才能を生か
さないなんて勿体ない(溜息)、、というのが本音だけれど。 

 著者の『新参者』は未読だが、ドラマが始まったそう。本作も、映像化されそ
うな題材だな、と思う。タイトルに込められた問いかけには、ラストで作者自ら
が答えを出している。

 ( 『カッコウの卵は誰のもの』 東野圭吾・著/光文社・2010)

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[2010/04/19 19:39] | 読書 | トラックバック(3) | コメント(4) |
血と暴力~『息もできない』
息もできない2



 BREATHLESS


 借金の取り立て屋として社会の底辺で生きるサンフン(ヤン・イクチュン)は、
暴力衝動を抑えられない孤独な男。ある日、彼は勝気な女子高生ハン・ヨニ
(キム・コッピ)
と出逢う。

 第10回東京フィルメックスにて、最優秀作品賞観客賞ダブル受賞した
韓国映画。本作は主演ヤン・イクチュンの、ヤン・イクチュンによる、ヤン・
イクチュンのための映画
、と言っても過言でないかもしれない。初監督作とは
思えない完成度だが、R15指定されるほどの容赦ない暴力描写はかなりキツ
イ。好き嫌いが分かれる作品だろうし、私も手放しで「大好き」とは言い切れな
い。しかし、どうしてこの映画を観ている間中、心が泣いていたのか。その
のわけ
を、自分でも巧く説明できないのだ。これは理屈抜きで、感情で、心で、
魂で観るべき映画
、なのかもしれない。

息もできない3

 言葉より先に手が出る、狂犬のようなサンフン。しかし、彼のパンチを喰らい、
道端に倒れたヨニの頭の下には、カバンがそっと置かれている。サンフンはただ
の暴力男ではない
。しかし一体何が、誰が、彼をそうさせたのか? 彼の心の裏
側にある影
は、何なのか。観る者は徐々に、サンフンの心の傷と向き合うように
なる。

 母と妹を奪った暴力。誰よりもそれを憎みながら、暴力に憑かれ、暴力でしか
自分を表現できない哀しい男
。長い付き合いのマンシク(チョン・マンシク)といて
も、かわいがっている甥といても決して笑わない男は、この物語の中で一度だけ
笑い、一度だけ泣く
。変えることのできない、自らの「血」因果は巡り、贖罪とし
てのが流され、微かに見えかけた「希望」は打ち砕かれ、未来は閉ざされる

 しかしつくづく思う、韓国映画独特のこの「激しさ」は、一体何なのだろう?
時に激昂し、時に号泣し、その激情を隠そうともしない彼ら。胸やけしそうにな
りながらも、その「熱さ」が時々、まぶしい

息もできない4

 初めて予告編を観た時、何とも言えない面構えのヤン・イクチュンから、目が離
せなかった。今時の女子高生とはかけ離れた風貌、いかにも冴えない女の子だ
と思ったキム・コッピも、その微笑みが次第に、女神のように見えてくる。彼らは
憐憫の情も、温もりも、さえも求めていない。サンフンとヨニの人生には、ひと
かけらの甘みも、救いも、カタルシスもない。血と、暴力と、絶望とが産み落とした
ような映画
の中で、孤独な魂が呼び合う一瞬だけが、光り輝いている。

 ( 『息もできない』 監督・製作・脚本・編集:ヤン・イクチュン
               主演:ヤン・イクチュン、キム・コッピ/2008・韓国)

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[2010/04/16 13:54] | 映画 | トラックバック(33) | コメント(14) |
閉ざされた島~『シャッターアイランド』 【超日本語吹き替え版】
シャッターアイランド



 SHUTTER ISLAND


 1954年、ボストン湾に浮かぶ孤島精神を患った犯罪者を収容する施設があ
るこの島に、連邦捜査官テディ(レオナルド・ディカプリオ)と、その相棒チャック
(マーク・ラファロ)
がやってくる。

 マーティン・スコセッシ×レオナルド・ディカプリオ、4度目のタッグの本作は、
製作総指揮を担当した原作者デニス・ルヘインの個性際立つ、陰惨なサスペン
。断崖絶壁の島で、一人の患者が失踪放火によってを亡くし、トラウマ
苛まれる連邦捜査官が、犯人の手掛かりを追ってやってくる。しかし島の医者や
警官たちはどこか怪しげで、何かが意図的に隠されていた・・・。

 事情があって、例の「超日本語吹き替え版」にて鑑賞し、激しく後悔。この映画、
「謎解き」のために画面に集中して下さい、と宣伝されているけれど、ちょっとそ
れは観客を見下してるんじゃない?と思ってしまう。字幕版でも、十分に堪能で
きる作品
だと思うのだけれど・・・。あの吹き替えは、どの辺りが「超」なんだろう?

 以下、物凄くネタバレします。

シャッターアイランド2

 仕掛けがわかれば、映画冒頭から「なるほど」と思える描写が多くある。大量
の水を怖がるテディ、拳銃の扱いが下手なチャック、手を振る親しげな患者
。し
かし、気になったのに意味がわからないところもあった。

 ・テディの額の絆創膏。てっきりロボトミー手術の跡?と思ったのだけど。
 ・「ポートランドは寒かったか?」 「俺がいたのはシアトルだ」 繰り返される
  この会話の意味が不明
 ・水の入ったコップ、あれはどういうこと? 幻覚ってことなのかな。 

 この辺りを確認しに字幕版で再見したいけれど、「また観たい!」って思うタイプ
の映画じゃない
な~、私にとっては。陰鬱で、ちょっと気分が悪くなるような作品
だった。しかしさすがは巨匠スコセッシ、キャストの豪華なこと! いきなりマー
ク・ラファロ
ジョン・キャロル・リンチが登場するし、ゾディアックかと思ってし
まった(笑)。その他、ベン・キングズレー、ミシェル・ウィリアムズ、エミリー・モー
ティマー、パトリシア・クラークソン、ジャッキー・アール・ヘイリー
まで! レオが
主演、としか知らなかったので、なんとも得した気分。彼らの「声」が聴きたかっ
た・・・。

シャッターアイランド3

 「無冠の帝王」などと呼ばれ、いまだにアイドル扱いされて演技そのものが評価
されていない感があるレオナルド・ディカプリオ。そろそろ、眉間に皺が寄らない役
にもトライして欲しいな。応援してます。

 (『シャッターアイランド』 監督・製作:マーティン・スコセッシ
    原作・製作総指揮:デニス・ルヘイン/主演:レオナルド・ディカプリオ、
                 マーク・ラファロ、ベン・キングズレー
/2010・USA)

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[2010/04/14 10:07] | 映画 | トラックバック(66) | コメント(12) |
誰かが泣くとき~『真綿荘の住人たち』
真綿荘の住人たち

 大学入学のため、北海道から上京した天然キャラの少年・大和葉介は、真綿荘
という古めかしい木造二階建ての下宿に入居する。そこで彼を待っていたのは、
個性豊かな住人たちとの、奇妙で心温まる日々・・・。

 島本理生の新作は、東京の下宿に住まう人々の心模様、人間模様を描き出した
連作小説。「島本理生応援団」を自称する私だけれど、素晴らしい作品だと心から
思う。過去に受けた、肉体的、精神的暴行による傷、身体的なコンプレックス、コン
トロールできない感情、親に愛されなかった子ども、様々な愛のかたち
。そのどれ
もが過去作で語られてきた素材でありながら、既視感やマンネリ感は全くない。
文章の巧さは言うまでもないが、彼女の選ぶ言葉は「理解」や「共感」を越え、私の
心の裸の部分にダイレクトに響いて、涙腺を刺激する。

 どこかな、真綿荘の住人たち。謎めいた画家の真島晴雨と、大家であり小説
家の綿貫千鶴内縁関係にあるこの二人の頭文字を取って、「真綿荘」なんだろう
か。性格と恰幅のいい鯨井小春、「天然の空気清浄機のような」女子高生八重子
と付き合う山岡椿。皆どこか「わけあり」で、付かず離れずの彼らの生活。そこに
飛び込み、さざ波を立てる葉介。読み進むにつれ、続編が読みたい、彼らの「それ
から」
が知りたい、と強く思っていた。最後のページを読むまでは

 最後の1ページ。この、閉じ方。この、落とし前のつけ方。これ以上も、これ以外
にも絶対にない
、このラストシーン参った

 ( 『真綿荘の住人たち』 島本理生・著/文藝春秋・2010)

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[2010/04/13 00:00] | 読書 | トラックバック(3) | コメント(4) |
境界線を越える~『シリアの花嫁』
シリアの花嫁



 THE SYRIAN BRIDE


 1967年第三次中東戦争以来、イスラエルに占領されているゴラン高原。そ
の小さな村で、境界を隔てたシリアへ嫁ごうとする娘がいた。結婚式当日、花嫁
のモナ(クララ・フーリ)
も、その姉アマル(ヒアム・アッバス)も浮かない表情。
彼らにとってシリアへの入国は、今生の別れを意味していたのだった。

 劇場公開を観逃した本作は、どうしても観たかった作品。大好きな女優、ヒア
ム・アッバス
が主演だから。気品と憂い、哀感が滲み出る瞳の表情が素晴らしい
女優さん。高圧的で男尊女卑的思想の夫と「もはや会話もない」アマル。しかし
彼女は、秘かに自立への道を模索していた・・・。

 ゴラン高原に住む人々は、シリアへの帰属意識が高いためにイスラエル国籍
の取得を拒否
していて、無国籍状態なのだという。境界線をはさんで、親族と
声器(!)
を使って会話しているのを観て、心底驚いてしまった。こんなの悲し過
ぎる、酷過ぎるよ・・・。

シリアの花嫁2

 国際情勢政治のことは、個々人にはどうしようもないし、様々な国の様々
な思惑があるのだろう。アマルたちの父・ハメッドのように、何年も投獄されて
家族を犠牲にしても、信条を曲げない人もいる。しかしほとんどの市井の人々
は、妥協を重ねて生きているのだろう。自らの家族と、生活を守るために。

 国家と男社会二重に抑圧されながら、子どもたちのために忍従生活を余儀
なくされていたアマル。幸せを掴めない姉を気遣うモナ。女が生きていくために
は、家族と身を裂かれるような別れをしてまで、「結婚」という道を選ぶしかない
のかと、暗澹たる気持ちになる。モナの不安を思うと、泣けて、泣けて・・・。

シリアの花嫁3

 しかし、落ち込みがちな私の心を揺さぶったのはやはり、ラストシーンのヒア
ム・アッバス
なのだった。全てが徒労に終わるかに見えた夕暮れ、たった一人、
花嫁姿で境界線を越えてゆく妹。その姿にしながらも、夕陽を背に境界線を
去る姉、アマル
。茫然と、悲しみに打ちひしがれた表情は、やがて柔らかい微笑
みに変わる。たとえ女でも、一人でも歩いてゆけるんだ。自らの幸せを掴み取る
ために。ヒアム・アッバスの、凛とした美しさ、希望を湛えた口元。私も、勇気
もらったような気がした。

 ( 『シリアの花嫁』 監督・製作・脚本:エラン・リクリス
        主演:ヒアム・アッバス、クララ・フーリ/2004・仏、独、イスラエル)

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[2010/04/12 11:27] | DVD/WOWOW | トラックバック(8) | コメント(4) |
ばんざ~い♪ ~ 『プリンセス・トヨトミ』 映画化 ~
 ワ~イ、ワ~イ♪ 思わず「ヤッタ~!!」ってPCの前でバンザイしてました。
万城目学氏のプリンセス・トヨトミ映画化されるんですってよ、奥さん!
記事はこちら⇒  大阪ロケだって~~ウレシイ。。エキストラ募集、ないかな? あ、
あっても男子限定か(笑)


プリトヨ映画化

 何がうれしいって、大好きな堤真一さん岡田将生くん共演すること! 
松平役に堤さん、ってベストキャスティングだと思います。私、綾瀬はるかさん
も結構好きなんですよ。。彼女は『トップランナー』のときのトークが、好感度
100%
でした。しかし、鳥居と旭の性別が、原作と逆転しているような・・・。ま、
いいか(爆)。

 万城目っちの作品は、映像化されることが多いですね。奇想天外なんだけ
ど、無軌道では決してないので読んでいて安心感があるし、読後感もいいで
す。特にこの『プリンセス・トヨトミ』は、スケールが大きくて立体的なお話でし
たからね。映像作品に向いてるのかも。。 とにかく、映画楽しみにしています
よ~~。

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[2010/04/09 20:14] | 映画雑談 | コメント(6) |
女性映画の最高峰~『ジュリア』
ジュリア


 JULIA


 第二次大戦前夜上流階級に生まれながら、反ファシズム・ナチ抵抗運動
身を投じた、美しく聡明なジュリア(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)幼なじみの劇作
家リリアン(ジェーン・フォンダ)
の視点から描かれる、気高き闘士の壮絶な生涯

 映画好きなら誰でも、「忘れられない映画」というものを心に持っているだろう。
大人になる少し前、テレビの画面や小さなホールで出会い、鮮烈な印象を残し
ていった作品たち。私にとっては、フレッド・ジンネマン監督による、1977年製作
のこの傑作もその一つ。長らくDVD化されていなかった本作を、数十年ぶりに
再見した。感動は全く褪せることなく、心の深い場所から涙が溢れる。マスター
ピース


 アメリカを代表する劇作家、リリアン・ヘルマン回想録を映画化した本作は、
アカデミー脚色賞、助演男女優賞を獲得している。初見からしばらく経ってその
ことを知った私は、「ヴァネッサ・レッドグレーヴは、あんな短い出演時間でオス
カーを獲ったんだ!」
と驚いたものだ。幼かった私は、ベルリンの食堂での、ジュ
リアとリリアンの再会場面しか記憶になかったのだ。しかし、それだけあのシー
ンのインパクトは強烈だった。映画史クラスの名場面だとも言えるだろう。食堂
の奥の席にジュリアを見つけたその瞬間から、もう涙が止まらない

 打算や損得とは、無縁の友情。敬愛以上の、迷いなき信頼。テーブルマナ
ーから詩心まで。リリーにとってジュリアは、無二の親友である前に「人生の師」
でもあった。 「子どもがいるの」 「女の子ね? 名前は?」 「リリー」。この
い会話
だけで、リリアンは自分の人生が全肯定されたと感じただろう。幼い日々
を共に過ごしながら、遠く、手の届かない場所に行ってしまったジュリア。彼女
にとっても、自分はかけがえのない、大切な存在だったのだと。

ジュリア2

 そして、もう一つ重要なシーンがある。ジュリアとリリアンの親密な関係を揶揄
する男友達に対して、リリアンが平手打ちを喰らわすシーン。リリアンは回想す
る。ジュリアに対する自分の感情は、本当に「ただの」友情だったのだろうか?
この感情は、パートナーのダッシュ(ジェイソン・ロバーズ)に対する「愛情」と、
何が違うのか。答えは出ない。しかし、リリアンにはわかっている。自分が心底
愛したもの、自分を形作ったもの、生涯忘れ得ぬもの
が、誰であるのかを

 タイトルロール「ジュリア」を演じたヴァネッサ・レッドグレーヴの、神々しい
までの輝き
は言うまでもない。しかし実質的な主役であるジェーン・フォンダ
もまた、言いようもなく素晴らしい。ヘヴィスモーカーで、激情型の劇作家
瞳に星が瞬くような、アップの多用にも耐えうる美しさ。彼女にとって、これ以
上のはまり役があるだろうか? 

 女同士の友情なんて・・・、と、食わず嫌いされる方もいるかもしれない。し
かし、私にとって生涯忘れ難い印象を残すこの映画は、性別や時代を越えて、
人として成すべきこと、守るべき正義と勇気について語っている。ヨローッパの
暗い時代、命を賭して権力に立ち向かった人々がいたことを。そしてもちろん、
サスペンスとしても一級品。未見の方は是非、是非

ジュリア3

 ( 『ジュリア』 監督:フレッド・ジンネマン/1977・USA/
            主演:ジェーン・フォンダ、ヴァネッサ・レッドグレーヴ

テーマ:心に残る映画 - ジャンル:映画

[2010/04/08 23:06] | DVD/WOWOW | トラックバック(4) | コメント(2) |
星に願いを~『プリンセスと魔法のキス』 【吹き替え版】
プリンセスと魔法のキス



 THE PRINCESS AND THE FROG


 古き良き時代のアメリカ南部、ストリート・カーの走るニューオーリンズ。貧し
いながらも両親の愛に包まれて育ったアフリカ系女性のティアナは、レストラ
ンを開くという亡き父の夢を叶えるため、懸命に働いていた。そんなある日、街
にマルドニア王国の王子ナヴィーンがやってくる・・・。

 ディズニー作品と言えば、「星に願いを」をバックに大写しされるシンデレラ城。
それを観る度に「またディズニーランドに行きたい!」と思ってしまう私。本作は
まさしく、その「星」に見守られながら展開するファンタジー。悪魔によってカエ
に姿を変えられた王子が、ヒロインのキスによって元通りの姿になる、はずが
・・・。ピクサーの御大、ジョン・ラセターも製作に参加した、今どき貴重な手描き
の2Dアニメ
。なかなか楽しめました!

プリンセスと魔法のキス2

 予告編は何度か観ていたのですが、これミュージカルなんですね~。黒いジャ
ズの街、ニューオーリンズが舞台なだけに、音楽もスウィング(?)系吹き替え
だったのがやや残念ですが、いつか必ず字幕で再見したいと思います。

 を実現させることだけを考え、身を粉にして働く一人の女性が、人生に本当
「必要なもの」を見つけるまで。真面目に働くだけでもダメ、お気楽に生きるだ
けでもダメ。完璧な人間なんていない。だからこそ、人生には互いを補い合える
パートナー
が必要なんだ、ということを教えてくれます。自立したワーキングウ
ーマン
を描きつつ、王子様とハッピーエンド、めでたしめでたし、、というところが、
やっぱりディズニーですね♪

 中盤、多少のダレはありますが、ママ・オーディが登場する辺りからは怒涛の
展開。ホタルのレイの献身に涙、互いを思いやるティアナと王子のやさしさに涙、
親友シャーロットの意外な計らいにまた涙、ナミダ、でありました。白人でお金
持ちのお嬢のシャーロットは、イライザ(@キャンディキャンディ)キャラかと思
いきや、結構いい子なんですね~。ハッピーエンドでよかった。

プリンセスと魔法のキス3

 ブードゥーの魔術師サミュエル・L・ジャクソンに、ママ・オーディはジュディ
・デンチ
にそっくり。この作品、舞台化されてもいいんじゃないかな~、もうなっ
てたりしますか? 年度替わりの慌ただしさを束の間忘れさせてくれる、素敵な
作品でした。予告編上映で、『借りぐらしのアリエッティ』が流れたのも、うれしか
ったな♪

 ( 『プリンセスと魔法のキス』 監督:ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ/2009・USA)

テーマ:アニメ - ジャンル:映画

[2010/04/06 22:59] | 映画 | トラックバック(19) | コメント(2) |
~ 桜 ~
桜

テーマ:季節の話題 - ジャンル:ブログ

[2010/04/05 18:35] | 徒然 | コメント(0) |
~ R.I.P. ~
ヒース2010





  CANDY


  Heath Ledger








  NEVER END.



テーマ:俳優・男優 - ジャンル:映画

[2010/04/04 00:00] | ブロークバック・マウンテン | コメント(4) |
「愛の讃歌」へのアンチテーゼ~『この世は二人組ではできあがらない』
この世は二人組ではできあがらない

 1978年生まれの墨田栞は、作家志望の大学生。同年生まれの先輩で、大学
卒業後フリーターをしている紙川さんと付き合うことになるのだが・・・。
2001年から、2005年の夏まで。21世紀の初めの、アバンギャルドな女の子
の物語。

 新聞広告や本書の帯に「無冠の帝王」と書いてあって、笑ってしまう。山崎ナ
オコーラ
はデビュー作人のセックスを笑うな文藝賞を受賞しているはずだ
が、文藝賞はのうちに入らないのだろうか? 芥川賞や直木賞だけが、文学
賞でもあるまいに・・・。

 山崎ナオコーラはずっと応援している作家なのだが、前作『あたしはビー玉』
は初めて挫折してしまった。評判がよさそうなのでできれば再挑戦したいけれ
ど、本作も特に印象的な作品でもなく、ちょっとガッカリ。作家志望の女の子、
ラテ欄を作る会社、アジアへの一人旅
。過去作で繰り返されたモチーフが本作
にも使い回されていて、既視感は否めない。旧態依然とした家族観や恋愛観、
制度へのアンチテーゼなのだということはよくわかるのだけれど、どうしても
「半径100メートル」なつぶやき以上のものは感じ取れない。コーラは、もっと
もっと炭酸がキツくてもいい。
もう少し遠くへ、行ってみようよ。

 ( 『この世は二人組ではできあがらない』 山崎ナオコーラ・著/新潮社・2010)

テーマ:文学・小説 - ジャンル:小説・文学

[2010/04/03 00:00] | 読書 | トラックバック(0) | コメント(0) |
どれだけ夢に似ているか~『ユングのサウンドトラック』
ユングのサウンドトラック

 音楽家、音楽講師、文筆家としてマルチに活躍する、菊池成孔氏による映画
批評
饒舌で長文な文体、癖のある独特な言葉遣いは川上未映子氏のようで、
クラクラしながら読み進む。映画へのディープな愛情と、過剰な妄想にも似た
音楽の夢。興味のある方は耳を傾けてみて下さい。甘い悪夢が匂い立ちますよ。

 まえがきに続く大日本人 しんぼるがなんともユニーク。こういう視点で
松本人志監督作を論じている人が、他にもいるなら教えてほしい。前者が傑作で、
後者が失敗作だという捉え方自体は目新しいものではないだろうけれど、如何に
して『大日本人』が傑作となり得たのか、松本人志の「無意識」にまで切り込んだ、
封印されかかった「深読み」炸裂している。逆に、『しんぼる』が失敗作だと断罪
する切り口も、なんとも潔くて拍手喝采

 ゴダール、フェリーニ、タランティーノからSATCまで。震撼するほどの博識
隠そうともしない映画と音楽への偏愛ぶり。著者が音楽を担当した『パビリオン
山椒魚』
『パンドラの匣』を未見なことが悔やまれる。両作ともに、監督は「僕の
理想は、一本の映画の中にベルナルド・ベルトルッチとサモ・ハン・キンポーの
世界が同居していること」
と語る冨永昌敬。いつか必ず観ます。

 そして本作の白眉は、やはり『8 1/2』についての解説。「崇拝」という名の滅
びにも似た陶酔が、甘く、美しく満ちる。著者はNINEをどう観たのだろう? 
ダニー・ボイルに言うように、「反省しろ!」と毒づいているのだろうか、ロブ・
マーシャル
に対しても。

 近い将来、既に「映画作家」である「菊池成孔監督作品」が観られますように。

 (『ユングのサウンドトラック 菊地成孔の映画と映画音楽の本』
                      菊地成孔・著/イースト・プレス・2010)

テーマ:オススメの本の紹介 - ジャンル:本・雑誌

[2010/04/02 14:00] | 読書 | トラックバック(0) | コメント(2) |
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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