扉の向こうのもう一つの世界~『コララインとボタンの魔女 3D』 【吹替え版】

CORALINE
築150年の「ピンクパレスアパート」へ引っ越してきたコララインは、勝気な
女の子。ある日彼女は、壁紙で封印された小さな扉を見つける。。
『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』の監督、ヘンリー・セリックによるストップ
モーション3Dアニメ。ナイトメアは大好きで、通常版のDVDは持っている。
しかし、数年前に公開されたデジタル3D版は観逃してしまった。メガネがダメ
なので3Dはなるべく避けたいと思いつつ、メガネを手で支えながらの鑑賞。
相変わらず画面は暗いし目は疲れるけれど、これは期待以上に面白かった!
できればもう一回、劇場で観たいくらい。

ナイトメアの原題って、「TIM BURTON'S」って頭に付くんですよね。だから
ティム・バートンの映画だ、と認識されている方も多いと思うんだけど、実は
監督はこのヘンリー・セリック。冒頭のソーイングイメージはツギハギ人形の
サリーやジャックの口元を思い出させるし、満月の夜に象徴されるダークな
世界観は間違いなくナイトメアの系譜。あのストップモーション・アニメの名作
は、この監督あっての作品だったのだ、と改めて感じさせられます。
扉の向こうにもう一つの「理想的な」世界があって、たちまち魅了される主人
公。でも、そこには魔女の罠が仕掛けられていて・・・、というわかりやすいス
トーリー。黒猫やスノードームっていう小物の使い方も楽しいし、冒頭でコラ
ラインが探している「井戸」も最後に重要な意味を持つんですよね。原作モノ
だけあって、その辺りの流れはとっても巧いと思いました。ただ、これナイトメ
ア(76分)くらいコンパクトにまとめてもよかったかな? とも思います。前半、
ちょっと間延びしていたかも。

吹き替え版キャストは違和感なく、いい仕事されてると思いました。魔女は
戸田恵子さん、やっぱり巧い! 榮倉奈々さんも意外に。劇団ひとりもなか
なか。
ストップモーション・アニメって一コマひとコマ人形を動かしながら撮影す
る手法なわけで、気が遠くなるくらいの手間と時間がかかっている。昔から、
クレイアニメに何故か心惹かれていた私。クリエイターの皆さんの情熱で、
この愛すべきアナログな手法を守り続けて欲しい、と願います。
(『コララインとボタンの魔女 3D』 2009・USA/
監督・製作・脚本・プロダクションデザイン:ヘンリー・セリック)
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作家のまなざし~『カラーひよことコーヒー豆』

雑誌『Domani』の連載エッセイに、書き下ろしを加えたエッセイ集。まぁこの
何ともかわいらしい装丁・装画を観て下さい! 読む前から、手に取っただけで
うれしくなるようなラブリーさ。そして、内容もとっっっても素敵です。
女性作家のエッセイというと、各界セレブとの華麗な交流録だったり、高級食
材、高級レストランでの美食録だったり、あるいは全くの身辺雑記だったりする
ものですが、小川洋子さんのこのエッセイは一味違います。まず、そのまなざし
の比類なきやさしさ! 社会の片隅で、ただ黙々と地道に働く人々や、流行に乗
り遅れて愚直に生きる人々への温かいエールには、胸がいっぱいになってしま
いました。
映画評・書評がまた、巧いんです。ロードショーや新刊を追いかけるわけでは
なく、自分が過去に観、過去に読んだ、忘れ難い作品を語る文体の熱。ブロガー
の端くれとして、こんな風に感想が書けたらなぁ、と心底思わされます。
小川洋子さんといえば、おかっぱ頭の文学少女がそのまま(純粋なまま)大人
になったような人、というイメージ。本書で私のその勝手な想像は、全く裏切られ
ることはありませんでした。しかし、巻末の著者プロフィールを読んで愕然・・・。
彼女の著作は『博士の愛した数式』くらいしか読んでないんです! 少しずつで
も、読んで行きたいな。
( 『カラーひよことコーヒー豆』 小川洋子・著/小学館・2009)
超常現象~『パラノーマル・アクティビティ』

PARANORMAL ACTIVITY
サンディエゴに住むミカとケイティのカップルは、夜になると聞こえる不審な音
や気配に悩まされていた。寝室にカメラを設置し、何が起こっているのか知ろう
とする二人だったが・・・。
超低予算で製作され、アメリカでナンバーワンヒットを飛ばしたホラー。無名
俳優を起用したドキュメンタリータッチの映像と、舞台は家の中のみというシン
プル(ワンシチュエーション)な、言い換えるとお金のかかっていない作品。日曜
日に観たせいか、劇場は結構な入り。年齢制限なしということもあって、小中学
生らしきチビッ子の集団もいたり。結構ざわついた雰囲気が、かえっていい感じ
だったかも。
正直な感想は、「う~ん、、これ、アメリカでそんなにヒットしたんですか?」。
私はホラーはほとんど観ないのですが、「見せない」ことに徹している部分は
天晴れだと思う。しかしね、、あの扉! あれどうしてず~っと開いてるんです
か? 閉めて寝るやろ、フツー(笑)。「その扉を閉めて寝なさい!」って心の中
で叫んでたよ。
ヒロインはすっごい肉感的な人で。。英語教師を目指している学生さんなん
ですが、車がマツダ・ロードスターですよ! デイトレーダーの彼氏が稼いでる
んでしょうか。この子がね、彼氏が何か提案するたびにキレるのが不思議だっ
た。○○に操られていたんだろうか、既に? それにどう考えても、あの家から
は一刻も早く逃げ出すべきだよねー。。それに彼氏、あそこで十字架焼いたら
アカンやろ!!
と、結構私は冷静に観られたかな。
でも、チビッ子たちはギャーギャー大騒ぎしてましたよ(笑)。そして最後のテロ
ップが出たとき、「え!! これホンマにあった話なん?!」と叫んでる人がいまし
た。。んなワケねーだろー!! しかし、あの「空白のエンドロール」は怖かったな
~。。「絶対、この後また何か怖い映像出してきそう!」って、もう顔背けてたもん。
何事もなく場内が明るくなって、拍子抜けしたけど・・・。
あ、画像は貼りません。怖いから。 ← やっぱり怖かったんか。。
(『パラノーマル・アクティビティ』
監督・製作・脚本・編集:オーレン・ペリ/2009・USA)
幸せって何だっけ~『しがみつかない生き方』

副題は『 「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール』。10章立てで、「~しない」
という「10のルール」が述べられる。特に第10章「<勝間和代>を目指さない」が
大きな話題を呼び、「カツマーvs.カヤマー」という対立の構図(?)が出来上がっ
て現在に至る。
しかしこの本はタイトル通りの「自己啓発本」と言うよりは、香山リカ氏による
「現代日本人論」といった趣。80年代から失われた90年代、ゼロ年代を通じて、
日本とそこに暮らす日本人がどう変化、変貌していったのか。そこがこの本の
読みどころではないだろうか。村上龍の『ラブ&ポップ』とか、イラク人質バッシ
ングとか、小泉&竹中コンビの構造改革路線とか。ああ~、そうそう、こんなこと
あったよな~、と懐かしがりつつ、自分の人生を振り返るもよし。日本の転換点
について思いを馳せるもよし。
「ふつうが一番幸せよ~」 というのは、ずっと前からの私の母の口癖でもあっ
た。そうね~、ポン酢醤油があればいいのかも。旭ポン酢はおいしいよ。
(『しがみつかない生き方 「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール』
香山リカ・著/2009・幻冬舎)
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ジャンル : 本・雑誌
人生、込み入ってます~『恋するベーカリー』

IT'S COMPLICATED
人気ベーカリー経営者のジェーン(メリル・ストリープ)は、三人の子どもたち
の独立に寂しさを感じていた。別れた夫ジェイク(アレック・ボールドウィン)と
ホテルのバーで遭遇したジェーンは、酔った勢いで彼と関係を持ってしまう・・・。
「私の人生、何かが足りない」。経済的にも子宝にも、友人にも恵まれた一人の
シングルマザーが、その「何か」を満たそうともがき、自分の人生を見つめ直す。
そう書くといかにもシリアスドラマのようだけれど、本作はR15指定、大人のラブ
コメディ。主題は「恋」ではなくズバリ、大人の性愛。どうやら、邦題はまた映画
を観ていない人がつけたようですね。

離婚しても、結局は元の伴侶と復縁する、いわゆる「モトサヤ」は結構あるらし
い。離婚時は頭に血が上っていても、いざ別れてみると相手の良さが見えてくる、
ということなのだろう。ジェーンほど自立した女性でも、やっぱり「独り身」って寂
しいんだろうか? 彼女の場合、「空の巣症候群」でもあったのだろうし、離婚は
してもジェイクに心を残していたのだろうが。日々衰えてゆく自らの容姿に、不安
を覚える気持ちはよくわかる。
そんなジェーンの三人の子どもたち。ちょっと幼な過ぎではないか? と思っ
てしまった。私も、子どもは三人以上欲しかったナ~、という独り言は置いとい
て(笑)、離婚した両親が復縁する、というのは子どもにとっては嬉しい出来事で
はないのだろうか? 行事ごとに顔を合わせる両親がもう一度夫婦になったとし
ても、何も変わらないように思えるのだけれど。彼らは成人して独立しているの
だし、親には親の人生があるのだし・・・。その辺りの感覚は、アメリカンにしか
わからない部分なのかな。精神分析医に助言(断言?)を求めるところも、アメ
リカらしいなぁと思ってしまった。いかにも。
元夫との情事に悩むジェーンは、すっごく真面目な女性なんだと思う。自分が
忌み嫌っていた「不倫」、浮気する夫の「相手」という立場になってしまったなん
て! しかし、ジェーンもジェイクも、とても女性経営者や敏腕弁護士には見え
ないよね。いつ仕事してるんですか?って(笑)。

キャストの中では、何と言ってもアレック・ボールドウィン。熊みたいな胸毛
全開、メタボ体型を自虐ネタに、身勝手な元夫を嬉々として演じている彼。あの
ウェブカメラにはもう、爆笑させていただきました。バスルームに携帯を持ち込
もうとして、幼稚園児にチェックされるセコさにも。長女の婚約者、ジョン・クラ
シンスキーもコミカルな演技が巧い! この人、エミリー・ブラントの彼なんだ
よね。ジェーンの友人役をトム・ハンクスの妻、リタ・ウィルソンが演じていたの
にも注目でした。
(『恋するベーカリー』 監督・製作・脚本:ナンシー・マイヤーズ/
主演:メリル・ストリープ、アレック・ボールドウィン/2009・USA)
マクベス!?~『バンデラスと憂鬱な珈琲』

アメリカ大統領夫人との情事が発覚することを恐れた元帥は、何故かロシア
攻撃を発令する。交渉人バンデラスは、米ロ開戦を阻止すべく動き始めるが・・・。
2009年11月、世田谷・パブリックシアターで上演された舞台劇。7人の出演者
が何役もを演じ分け、最後はミュージカル(!)で締めるコメディ。テレビ画面で
舞台を観るのは久々。私の「最愛」の人、堤真一さん主演。いや~、歌い踊る
堤さんが観られて、最高でした! やっぱり舞台はいいな~、本当は生で観た
い、でも東京はあまりに遠く・・・。WOWOWさん、ありがとう。
コメディとしての「笑い」のツボはちょっと外れていたけれど、ラストに至るまで
「小ネタ」の集積(コント)のように見せかけ、実は周到に伏線が張られている。
なかなか見事な作劇でした。マギーって飄々としているようで、才能あるんだな
~。オリジナル作品ではあるけど、キューブリックの『博士の異常な愛情』が下
敷きなのかな? という気もしました。
堤さん以外の出演者の感想を覚え書き。
高橋克実:ジョン・マクレーン、もしくはテニスボール。声がいいですね~。
小池栄子:イーオン・フラックス。スタイル抜群、がんばりました。
村杉蝉之介:Mr.ビーン。大人計画の人。よく見ると男前?
中村倫也:初見。22歳だそう。ツルリとした現代的イケメン?
高橋由美子:アイドルだったのに、すっかり女優さん! ビックリ!
段田安則:演劇界の至宝(by 堤さん)。確かに。
衣装もいいな~、と思っていたら、伊賀大介さんなんですね。堤さん、スー
ツ姿が素敵だったな~。。夢に見るほどでした。普段は旬く~ん、将生く~ん、
とわめいている私だけれど、やっぱり堤さんが一番好きだ、と再認識したので
した。
♪仕方ない~、夢のためなら仕方ない~♪
( 『バンデラスと憂鬱な珈琲』 作:福田雄一、マギー/演出:マギー/
主演:堤真一、高橋克実、小池栄子、村杉蝉之介、
中村倫也、高橋由美子、段田安則/2009)
口は災いのもと?~『言えないコトバ』

益田ミリさんのエッセイマンガ。「何となく、口に出して言うのははばかられる」
言葉たちについてのあれこれ。「おひや」 「パンツ」 「結婚しないんですか?」
「さばさば」などなど・・・。うんうん、わかるわかると共感したり、それは考え過ぎ
ちゃうん? と思ったり。あっという間に読めます。なんだか、益田さんのジミ~
な性格(ごめん!)が滲み出てる本です。
世間でよく使われている言葉で、私が「言えないコトバ」を考えてみると・・・。
・「うざい」 この言葉を聞くと、なんだか自分が責められているようで怖い。
・「ババア」 どんなに腹が立っても言いたくない! でも「ジジイ」は言えます。
・「パパ、ママ」 誰が?(笑)。
・「○○ちゃんのママ」 ○○さん(苗字)、でいいやん。
・「まずい」 食べるものに対しては使いたくない。「おいしくない」と言います。
あと、以前はよく映画の感想で「~に圧倒された」って書いてたと思うのですが、
最近は意識して書かないようにしています。「圧巻」は使うけど。なんだか、感想
もパターン化してくるんですよね。違う映画を観ているのに、同じ言葉で表現した
くない、と思って。なるべく、簡潔に、詩のように書きたい。でも、なかなかうまくい
かないんですけど。。難しいですよね、コトバって。
( 『言えないコトバ』 益田ミリ・著/集英社・2009)
テーマ : 気になる本をチェック!!
ジャンル : 本・雑誌
~ 真紅的ゼロ年代ベスト10 ~
この10年間(ゼロ年代)に公開された映画の中から、個人的なベスト作を選んで
みました。
「ゼロ年代の前半は暗黒時代だったので、選べません」ととらねこさんチでコメント
し終わった瞬間から、もう考え始めていた私(笑)。う~ん、映画好きの性ですかね。
シネフィルでもない私には縁遠い作業だと思っていました。しかし、ほとんどすん
なりと決まり、難しかったのは最後の一作! 悩んだ末、09年のベスト作を入れる
ことに。次点はなし。キリがないからね。
映画史的な評価とは全く違う次元で、私真紅の個人的ベストです。洋画ばっか
りじゃなくてアジア映画も入れよう、とか、バランスだけはちょっとだけ考えたかな。
覚え書きを兼ねて選んでみましたので、よろしければ覗いてみて下さい。
それでは、カウントダウン♪
10.マイケル・ジャクソン THIS IS IT (09・アメリカ)

本物の天才、マイケル・ジャクソン生涯最後の記録。
9.花様年華 (00・香港)

キスシーンすらないのに、こんなにも官能的な映画を
他に知らない。
トニー・レオンに感電した、記念すべき作品。
8.リトル・ダンサー (00・イギリス、フランス)

ビリー・エリオット最高!
7.ラブ・アクチュアリー (03・イギリス、アメリカ)

ラブコメの最高峰、奇跡の群像劇。
6.ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ (01・アメリカ)

破天荒でパワフルで切実な、魂の叫び。
5.パンズ・ラビリンス (06・メキシコ、スペイン、アメリカ)

これぞダーク・ファンタジー!
4.オアシス (02・韓国)

「姫」と「将軍」の恋。私の涙腺は破壊されました。
衝撃的な傑作。
3.千と千尋の神隠し (01・日本)

問答無用、空前絶後の名作アニメ。ジブリ万歳!
2.エターナル・サンシャイン (04・アメリカ)

何度でも観たい、思い入れ映画ベストワン。
1.ブロークバック・マウンテン (05・アメリカ)

これから先、この映画以上にのめり込める作品に
出逢えるのかな?
生涯ベストワン、かも。マスターピース。
------------------------------------
~ 真紅的ゼロ年代ベスト10 ~
1.ブロークバック・マウンテン (05)
2.エターナル・サンシャイン (04)
3.千と千尋の神隠し (01)
4.オアシス (02)
5.パンズ・ラビリンス (06)
6.ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ (01)
7.ラブ・アクチュアリー (03)
8.リトル・ダンサー (00)
9.花様年華 (00)
10.マイケル・ジャクソン THIS IS IT (09)
みました。
「ゼロ年代の前半は暗黒時代だったので、選べません」ととらねこさんチでコメント
し終わった瞬間から、もう考え始めていた私(笑)。う~ん、映画好きの性ですかね。
シネフィルでもない私には縁遠い作業だと思っていました。しかし、ほとんどすん
なりと決まり、難しかったのは最後の一作! 悩んだ末、09年のベスト作を入れる
ことに。次点はなし。キリがないからね。
映画史的な評価とは全く違う次元で、私真紅の個人的ベストです。洋画ばっか
りじゃなくてアジア映画も入れよう、とか、バランスだけはちょっとだけ考えたかな。
覚え書きを兼ねて選んでみましたので、よろしければ覗いてみて下さい。
それでは、カウントダウン♪
10.マイケル・ジャクソン THIS IS IT (09・アメリカ)

本物の天才、マイケル・ジャクソン生涯最後の記録。
9.花様年華 (00・香港)

キスシーンすらないのに、こんなにも官能的な映画を
他に知らない。
トニー・レオンに感電した、記念すべき作品。
8.リトル・ダンサー (00・イギリス、フランス)

ビリー・エリオット最高!
7.ラブ・アクチュアリー (03・イギリス、アメリカ)

ラブコメの最高峰、奇跡の群像劇。
6.ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ (01・アメリカ)

破天荒でパワフルで切実な、魂の叫び。
5.パンズ・ラビリンス (06・メキシコ、スペイン、アメリカ)

これぞダーク・ファンタジー!
4.オアシス (02・韓国)

「姫」と「将軍」の恋。私の涙腺は破壊されました。
衝撃的な傑作。
3.千と千尋の神隠し (01・日本)

問答無用、空前絶後の名作アニメ。ジブリ万歳!
2.エターナル・サンシャイン (04・アメリカ)

何度でも観たい、思い入れ映画ベストワン。
1.ブロークバック・マウンテン (05・アメリカ)

これから先、この映画以上にのめり込める作品に
出逢えるのかな?
生涯ベストワン、かも。マスターピース。
------------------------------------
~ 真紅的ゼロ年代ベスト10 ~
1.ブロークバック・マウンテン (05)
2.エターナル・サンシャイン (04)
3.千と千尋の神隠し (01)
4.オアシス (02)
5.パンズ・ラビリンス (06)
6.ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ (01)
7.ラブ・アクチュアリー (03)
8.リトル・ダンサー (00)
9.花様年華 (00)
10.マイケル・ジャクソン THIS IS IT (09)
偏差値72の男~『京大芸人』

高校三年のある日、菅広文は宇治原史規にこう言った。「京大入ってや」。
「なんで?」 「芸人なったとき売りになるやん」
人気お笑いコンビ・ロザンの菅広文が書いた、京大卒芸人・宇治原史規ができ
るまで。ああ~、やっとこの本、読めました! 続編である『京大少年』のほうが
先になってしまったけど、満足、満足。。前作では、ひたすら宇治原くんの「天才」
ぶりに感心したけれど、菅ちゃんも賢い子ォなんやなぁ、と改めて思う。だって
「天才」宇治原の運命を決めたのは菅ちゃんなんだから。
菅ちゃんが宇治原くんを見染め、いつも一緒にいた高校時代。宇治原くんと帰
りの電車でしゃべりたいから三年までバスケ部を止めなかった、などなど、菅ち
ゃんの「宇治原愛」が炸裂しています。一応、二人とも付き合っていた彼女はい
たらしいけど、二人の絆の強さって尋常じゃないですね。うらやましいくらい。
上本町の予備校とか、難波とか心斎橋とか、こんな身近な場所で二人が頑張
っていたんだなぁ、と思うとなんだか不思議な気分。
菅ちゃんの書いた2冊の本を読めば誰もが思うだろうな、「次は宇治原くん視点
の本が読みたい!」って。高校時代、大学時代、宇治原くんは何を考えて、どう
過ごしていたんだろう? 望めばどんな会社にだって入れただろうし、どんな資格
だって取れただろうに。宇治原くんが、その人生において望んだものとは・・・?
彼の本音が聞いてみたいな。
( 『京大芸人』 菅広文・著/講談社・2008)
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ジャンル : 本・雑誌
天使たちの街~『バレンタインデー』

VALENTINE'S DAY
バレンタインデーの朝、ロサンゼルス。花屋のオーナー、リード(アシュトン・
カッチャー)は恋人のモーリー(ジェシカ・アルバ)にプロポーズする。リードの
親友である小学校教師のジュリア(ジェニファー・ガーナー)は、新しい恋人で
心臓外科医のハリソン(パトリック・デンプシー)に夢中だが・・・。
ハリウッド発、バレンタインデーの一日を、様々な人間模様で描く群像劇。
豪華キャストに惹かれ、全く期待もせずに観たけれど、なんとも幸せな気分に
浸れた。愛を探す人、愛に疲れた人、愛に迷う人、みんなみんな「愛」でできて
いるんだなぁ。思わず「Love actually is all around」と呟きたくなる、、
ってそれは違う映画だけど(笑)。ラブコメ好き、アンサンブル好きな私は大い
に楽しめました。ちょっと心が不安定になる春先、こういう人間の善性を信じた
くなる映画、いいですね。

世界一ピンクの似合う男、アシュトン・カッチャーみたいな人、大好きです。
アシュトン「が」好きなんじゃなくて、「みたいな人」が、ですよ(笑)。彼って演技
が巧いのか下手なのかわからないけど、いつも「素」に見える俳優さんだと思
う。多分、素顔もものすごく素敵な人なんじゃないかな・・・想像ですが。
バリキャリウーマンに見えないジェシカ・アルバはミスキャストかな? ジャ
グリングせずにはいられないパトリック・デンプシー、笑える。ジェシカ・ビール
って実はあんまり好きな女優さんじゃないのですが、歌も巧いしなかなかいい
かも? と思ってしまった。サッカー場から見えるハリウッドサインも、いい感じ。
何故か墓場で野外上映されているモノクロ映画は『Hot Spell』。知らない
映画ですが、ゲイリー・マーシャルってシャーリー・マクレーンが大好きなん
ですね。50年以上もトップ女優で居続ける、って並大抵ではないこと。大女優
に敬意を表したのかな。

面白かったのはアメフトのスター選手、ショーン・ジャクソンのエピソード。
演じるエリック・デインって俳優さんは初めて観たけど、レオナルド・ディカ
プリオを逞しくしたような容姿。男物の歯ブラシを捨てるファーストシーンで
「あれ?」と思わせ、リードの店の配達の車に追突した(オカマを掘った)こと
でカミングアウトを決意する、って何なのこの流れは(笑)。ジュリア・ロバー
ツの「彼」が誰かはすぐに察しがついたけど、彼女の隣の席の紳士(レイフ・
ファインズとジョン・タートゥーロを足して2で割ったようなブラッドリー・クーパー)
が、歯ブラシの「彼」だったとは・・・。
親友と結婚することがベストな選択かどうかはわからないけど、相手のこと
を丸ごと受け入れるのが愛、っていうのはわかる気がする。考えてみれば、こ
れまでバレンタインデーをテーマにした映画って、あまりなかったんじゃない
かな? おまけのNG集も楽しい、Happy気分になれる映画。みなさん、素敵
なバレンタインデーを・・・♪
(『バレンタインデー』 監督:ゲイリー・マーシャル/2010・USA/
主演:アシュトン・カッチャー、ジェニファー・ガーナー、他)
美しすぎる女~『抱擁のかけら』

LOS ABRAZOS ROTOS
BROKEN EMBRACES
盲目の脚本家ハリー・ケイン(ルイス・オマール)は、ある日ライ・Xと名乗る男
から映画を共作しようと持ちかけられる。ハリーの記憶は、映画監督として活躍
していた14年前に遡る・・・。
スペインの巨匠、ペドロ・アルモドバルが彼のミューズ、ペネロペ・クルスを主演
に迎えて撮った作品。「運命の女」と出逢い、愛し合うも光を失い、名前を捨てた
映画監督。過去を封印して生きてきた彼が真実と向き合い、「本当の自分」を取り
戻すまで。複雑な入れ子構造になった人間関係、絡まり合う愛憎の果ての、さり気
ないラストシーンに感動する。過去を赦し、赦され、狂おしいまでに求め続けた「愛」
は、映画という「作品」に昇華する。ハリーとレナ(ペネロペ・クルス)の関係を、複雑
な思いで見守るシングルマザー、ジュディット(ブランカ・ポルティージョ)の視点で
観ていた私は、じんわりと胸が熱くなった。

映画監督は世界中に数多存在するけれど、映像を観て「この人の作品」だとわ
かるような、個性的な作家は意外と少ないのかもしれない。ペドロ・アルモドバル
は、そんな数少ない作家の一人。その作品は、直情的で情熱的で、性を超越した
愛憎を包み隠さず描く。思わず引いてしまうような作品もあるけれど、新作が公開
されれば吸い寄せられる。スクリーンの中に彼が残した刻印を眺めながら、やっ
ぱりうれしくなる私。
赤を基調にした色彩設計、コントラストのはっきりした「寄り」を多様する映像、
ちょっと「変態ちっく」なテイスト。今回、その「変態テイスト」は富豪の息子、エ
ルネストJr.に振られている。ハリーへの憧憬のあまり、「のぞき魔」と罵られる
ほどのしつこさで盗撮し、ストーカーのようにハリーとレナを追う。自動車事故
を目撃した直後の彼の「動き」は、実にゲイが細かくて、思わず笑ってしまった。
この異様な粘着性は、彼の父親であるレナのパトロンから受け継いだもの。父
を憎みながら、父と同じことを繰り返す息子。。
個人的には、ジュディットに感情移入して観てしまった。未だ見ぬ父、母一人、
息子一人の関係は『オール・アバウト・マイ・マザー』を思い出させる。クラブで
DJをしている息子ディエゴは、同性愛者なのか? 真実を明かされた後も、母
ジュディットとの濃い絆と愛情が揺るぎなくて。それを異様に感じる人もいるかも
しれないけれど、私はなんだかグッと来てしまった。

しかしまぁ、ペネロペ・クルスの美しさときたら・・・!!! この↑画像、髪型
のせいかオードリー・ヘップバーンに似て見える。脱ぎっぷりも凄いし、完璧に
美しい女優だと思う。もちろん、演技も素晴らしい。『NINE』も楽しみ。
劇中劇のモチーフになった、アルモドバルの初期の作品は『神経衰弱ぎりぎ
りの女たち』。燃えるベッドや、赤いスーツの女が懐かしい。「映画は完成させな
ければ」。輝くばかりに美しいレナの姿が、見えないマテオ(ハリー)の瞳に映る。
激情は凪ぎ、映画という永遠が残る。
( 『抱擁のかけら』 監督・脚本:ペドロ・アルモドバル/
主演:ペネロペ・クルス、ルイス・オマール/2009・スペイン)
奇跡のゴール~『インビクタス/負けざる者たち』

INVICTUS
1990年、27年間に渡って投獄されていた南アフリカの指導者、ネルソン・マン
デラが解放された。初めての全国民投票によって大統領に就任した彼は、長年
のアパルトヘイト政策で分断状態にある祖国をまとめようとする。
1995年、自国開催のラグビー・ワールドカップで優勝した南アフリカの代表
チーム。そのチームを支え、鼓舞した「導師」ネルソン・マンデラ(モーガン・フリ
ーマン)と「キャプテン」フランソワ・ピナール(マット・デイモン)。
人種間の対立により荒廃した人心と社会を改革するために、スポーツという
世界の共通語を選んだ偉人の道程を描く感動作。監督は巨匠、クリント・イー
ストウッド。
「大事なルールは一つだけ。ボールは横か、後ろに向かって投げること」。
ラグビーはTVのニュースで観るくらいでルールもわからず、何人制のスポーツ
かも知らない。実話であるという本作のエピソードも全く知らなかったが、感動
しました。スポーツってやっぱり、素晴らしい。選手たちの鍛え上げられた肉体
は嘘をつかないし、決して裏切らないから。国中が一つの目標(夢)に向かって
熱くなれる事なんて、他に思いつかない。

ネルソン・マンデラについても知識がないので、彼がどうして孤独な私生活
を送っているのかがわからなかったのが残念。彼について、また南アの歴史と
現状について、少し知識を得てから鑑賞したほうがより楽しめたかもしれない。
しかし、自国開催のワールドカップで優勝するなんて・・・! 最高じゃないで
すか。ラグビー・オンチの私でも、オール・ブラックスくらいは知っている。試合
前に踊る「マオリ族」の舞も本当なのかな? すっげー、強そう! 怖いくらい。
彼らを倒したなんて信じられない。同じ大会、日本は彼らに145-17で負けて、
国際試合の点差の記録を作った、っていうのがちょっと悲しかった。そして、あ
の飛行機のエピソード。あれも、実際にあったことなのかな・・・? スプリング
ボクスが優勝したから、きっとあの機長もお咎めなし、だったことでしょう。

ミスター「質実剛健」マット・デイモンはこの役にピッタリ! 彼の「This is
it! This is our destiny!」っていうセリフには痺れた。マンデラ役のフリー
マンと合わせて、ハリウッド映画ならこれしかない、と思わせるキャスティング。
リーダーは孤独でなければ務まらない。フランソワもマンデラも、そのことを
よく理解していたのだと思う。英国の詩人、ウィリアム・アーネスト・ヘンリーに
よるという、獄中のマンデラを励まし続けた詩も、とてもいい。私もこれから辛
い時は、この詩を暗唱してみようかな。
I thank whatever gods may be /どんな神であれ感謝しよう
For my unconquerable soul. /不屈の魂を授けてくれたことに
I am the master of my fate /私の運命は私が決める
I am the captain of my soul. /私の魂は私が導く
どんな境遇にあっても、魂(人の心)はどこまでも自由だということ、運命は自分
で選び取るものだ、という力強いメッセージ。マンデラの「赦す」ことから全ては始
まる、という言葉とともに、大切にしていきたい詩だ。
(『インビクタス/負けざる者たち』 監督・製作:クリント・イーストウッド/
主演:モーガン・フリーマン、マット・デイモン/2009・USA)
乙女絵巻~『Blue』 中村佑介画集

イラストレーター・中村佑介の初作品集。アジカンのCDジャケットや、森見登美
彦などの単行本表紙カバーを手掛けている彼の画を、誰もが一度は目にしたこ
とがあると思う。
「僕のブルー、愛してる」
んの『植物図鑑』を読んだとき。超ラブリーなカバーとイラストは、ベタ甘ラブな
有川調にほのぼのマッチしていて、なんとも印象的だった。
NHK「トップランナー」に中村くんが御出演。彼が登場した瞬間、私の目はその
姿に釘付けになったのだった。
「まことちゃん」のような髪型、げっ歯類のような前歯、くるくる動く好奇心に満
ちた瞳。どこか「アホの坂田」師匠を思わせる動き(ゴメンナサイ)。何の根拠も
なく「関西人の匂いがする・・・」と感じた。サービス精神旺盛な人だなと思った、
ってことなんですけどね。
宝塚市出身、大阪芸大卒。フリーのイラストレーターに転身するとき、「東京に
出なさい」とどんなに進言されても断固拒否。今も阿倍野に住み続けている、とい
うエピソードも好感度大。年齢不詳、性別不詳、既成の枠やしがらみを超越した、
人間としての大いなる魅力を感じてしまった。
そんな彼の初作品集は、質・量ともに圧巻。レトロモダン、かつシュールでサ
イケデリックな色の世界。なのに「乙女」だとか「浪漫」なんていう、ちょっと古め
かしい漢字で形容したくなる、万華鏡のような不思議が詰まっている。
中村佑介が表現し続け、描き続けている「青」の秘密。「真紅」な私も、思わず
涙、の「あとがき」なのだった。
おまけ:中村佑介ブログ「僕のアベノライフ」
常々、エキサイトブロガーさんはハイセンスでアート系だと思っていた
けど、中村くんもそうなのだった。やっぱりね。
★ 追記:14/May/2010 ★
有川浩さんの『植物図鑑』は、中村佑介さんでなく「カスヤナガト」さんの
イラストでした! ↑で訂正しておりますが、管理人の勘違いでした。
ごめんなさい! 教えて下さった方、ありがとうございました。
(『Blue』 中村佑介・画/飛鳥新社・2009)
天国と地上の間~『ラブリーボーン』

THE LOVELY BONES
幸福な家庭で両親に愛され、美しく成長した14歳のスージー・サーモン(シア
ーシャ・ローナン)。ある冬の日、彼女は隣家の住人ハーヴィ(スタンリー・トゥッ
チ)に声をかけられる。
製作にスピルバーグの名を冠した、ドリームワークスのファンタジー大作。監督
はピーター・ジャクソン。惨殺された少女が自らの「死」を受け入れ、天国に旅立つ
まで。彼女の視点で家族の悲嘆と崩壊、再生が描かれる。スージーが彷徨う幽界
の映像が圧巻。美しい。荘大。しかしストーリーは、どこか引っかかりのある、カタ
ルシスのない結末だったような・・・。

残念ながら、私はこの美しい14歳の少女に感情移入することができなかった。
日本の14歳と言えば、カギカッコで括りたくなるような微妙なお年頃。中学生の
女子なら当然、自意識過剰、反抗期真っ盛りのはず。なのにあんなに父親と
仲良しって・・・。アメリカでは普通なんだろうか。パパがマーキー・マークだか
ら? 違うって。
アメリカ東部の中流家庭で何不自由なく育ち、挫折を知らない少女にとって、
あまりにも運命は理不尽だった。しかし、その運命をスピリチュアル・パワーで
逆転するかと思いきや、彼女の声は通りすがりの風ほどの力しかない。霊感の
強い同級生も、サイキック・パワーで犯人捜しに貢献することもない。スージー
の母(レイチェル・ワイズ)が逃げるように家を出るのも悲しい。

シアーシャ・ローナンは広末涼子に似ていると思う、特に横顔が。スキンヘッ
ドでないスタンリー・トゥッチは、最初誰だかわからなかった。善人顔した凶悪
犯役が意外。そしてスーザン・サランドン。彼女が「おばあちゃま」か・・・。時の
流れを感じます。
日本では、いや世界中の国で、猟奇的な殺人事件は起こり続けている。極悪
非道な犯人は社会の渦にまぎれ、法によって罰せられることもなく、ハーヴィの
ように今日も逃げおおせているのだろう。被害者の家族でなくとも、そんな理不
尽に怒りが込み上げてくる。キスさえも知らない、14歳の死。それは、あまりにも
多くのものを彼女から、そしてその家族から奪い去ってゆく。ブライアン・イーノ
の音楽も、陰鬱な気分に拍車をかけるようだった。
(『ラブリーボーン』 監督・製作・脚色:ピーター・ジャクソン/
主演:シアーシャ・ローナン/2009・米、英、ニュージーランド)
板尾創路のプリズン・ブレイク~『板尾創路の脱獄王』

昭和初期、胸に逆さ富士の刺青のある男、鈴木雅之(板尾創路)が収監される。
彼は何度も逮捕・投獄されては、脱獄を繰り返していた。
「お前、一体何から逃げてんだ?」
マルチ芸人・板尾創路が企画、主演、監督をこなした、初めての長編映画。特
に板尾や130Rのファンというわけでもないのですが、どうしてもどうしても、気に
なってたまらなかったのです、この映画。演技者としての板尾創路の評価には確
たるものがあると思うけれど、正直、所属会社主導の映画製作路線に乗っただけ
なのかも、という不安もありました。でも、これが大正解! ものすごくちゃんと
「映画」になってます。
少なくとも自身のこだわる「笑い」、もしくは「表現」を押しつける、独りよがりな
作品ではない。映画の方法論や観客の視点も考慮した、真っ当な映画だと思う。
面白かったです。しかし、万人受けするとは思わないし、シネフィルの方々が観
ても価値は見出せないかもしれないですね。個人的には、タイトルは二度出さな
くても・・・、とは思いました(笑)。あと、子ども時代の鈴木のモノローグもいら
ない。
しかし、自身の名前をタイトルに持ってくるとは。。相当なこだわり? 自信?
覚悟? あってのことでしょうね。

主人公であり、板尾監督自身が演じる鈴木は、最初から最後まで一言もしゃべ
りません(ただし、叫んだり歌ったりはしますが)。しゃべらないこと、独房での身
のこなしなんかはキム・ギドクの『うつせみ』を彷彿させます。そもそも「脱獄」と
いう主題は、古今東西映画では何度も描かれてきたこと。逃げ続け、捕まり続け
る鈴木の狙い、目的は何なのか? 刑務所での虐待シーンは、正直「勘弁してく
れ!」という感じですが、ラストまで明かされないその「秘密」だけで、観る者を引
っ張る力技はなかなかのもの。そして板尾さん、決して男前ではないのに、何故
か「ドアップ」に耐えうる容姿の持ち主なのでした。
芸達者であるからこそ「芸人」さんなのですが、宮迫、松之助師匠はじめ、お笑
い畑の方々は皆さん本当に演技が巧い! オール巨人まで出てます。エンドロー
ルでは大西ライオンの名前を発見、どこにいたんだ? ぼんちおさむの凝り固まっ
た笑顔も不気味で・・・。そしていぶし銀俳優・國村隼。彼が昭和初期の刑務官役
にピタリとハマって、映画にリアリティの分銅を乗せてくれたのがよかった。

そして、あのラスト。笑った~、やられた! 金村のセリフが最高! 生涯を
賭した「奪還」に成功(実は失敗なんですが)した、鈴木の優しげな微笑みも。
なんだか人間・板尾創路について、もう少し知りたくなった私。これってファン
心理?(笑)
(『板尾創路の脱獄王』 監督・企画・脚本・主演:板尾創路/2010・日本)