バック・トゥ・ザ・異次元~『マーシャル博士の恐竜ランド』【吹き替え版】

LAND OF THE LOST
独自のタイムワープ理論を提唱するリック・マーシャル博士(ウィル・フェレル)
は、テレビのトークショウで失態を演じ、失意の日々。そこにケンブリッジ大学
で彼の理論を研究していたという女性、ホリー(アンナ・フリエル)が現れる。
ウィル・フェレル主演の、思いっきりB級コメディ映画(製作費はかかってそう
だけど)。いや~、ここまで突き抜けたチープさ、下らなさは逆に凄いと言える
かも? 監督がまた、あの感動作『ムーンライトマイル』のブラッド・シルバー
リングというのも驚き(製作まで兼務してるし)。吹き替え版にて鑑賞、ウィル
・フェレルの声は「バリトンボイスの異端児」こと、ご存知ケンドーコバヤシが
担当。全く違和感なく、さすがでございました。

邦題の付け方から、ファミリー向け映画として売りたいのはわかるのだけれど、、
ちょっと無理があるんじゃないかな(汗)。下ネタも多い(吹き替えでかなりごまか
してる?)し、第一ウィルの顔がファミリー向けじゃない!(爆)
まぁ、ちびっこの皆さんはドッカン、ドッカンうけてましたし、私自身も「さぁ、大笑
いして帰るゾ~」っていう意気込みで観ましたけども。。面白かったのは、博士が
恐竜のおしっ○をかぶるシーン(「目にしみる~」)と、恐竜の卵の間をすり抜けて、
タイムワープ装置の奪還に向かうところ。笑えた~。コーラスライン♪
恐竜の動きはかなりリアルでビックリですけど、あの「埴輪」のような爬虫類(ト
カゲ?)人間の着ぐるみのチープなこと! 脱力しそうだったわ。そこが狙いなん
でしょうけど・・・。
そして一番驚いたのが、博士たちがワープした「異次元の世界」、なんと月が
3個浮かんでた! あれがホントの「200Q」年って、違うか・・・。

(『マーシャル博士の恐竜ランド』 2009・USA/
監督・製作総指揮:ブラッド・シルバーリング/主演:ウィル・フェレル)
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あのキスは何?~『男と女の不都合な真実』

THE UGLY TRUTH
サクラメントの地元テレビ局に勤める敏腕プロデューサーのアビー(キャサリン
・ハイグル)。美人だが理想が高く「仕切り魔」な性格が災いし、恋愛方面はサッ
パリ。そんな彼女の前に、ワイルドでセクシーな「性愛伝道師」マイク(ジェラル
ド・バトラー)が現れる・・・。
主演のキャサリン・ハイグルが製作総指揮を兼務した、ちょっとHな王道ラブ
コメ。しかし、これは面白かった! 95分というすっきりした尺で、主演の二人
も役柄にピッタリ。下ネタ方面の会話が多いけれど、R15のレイティングはキツ
過ぎるんじゃないかな? カラっと大笑いして、文句なしに楽しめる快作だと思
う。私は例のレストランでの「パラダイス経由エ○スタシー行き」にもう、大笑
いでした。オ・ス・ス・メ。

キャサリン・ハイグルの作品を観るのは初めて。『幸せになるための27のドレ
ス』は全編観た気になるくらい予告を観ましたが(苦笑)。。そこそこのブロンド
美人で、いかにも「有能な秘書」という印象。本作ではそんなイメージをかなぐ
り捨てて(?)、キワどい(と言うかトンデモない)シーンも、楽しそうに演じてい
ます。
性格は正反対、水と油のようなアビーとマイクだけれど、この二人って実は
似た者同士なんだよね。弱音を吐く相手に向かって、自信満々に鼓舞する言葉
をかける姿や、他人に対して「自分の言う通りにすれば物事は必ず上手く行く」
と思っているところもおんなじ。恋愛に関しては自信満々に見えたマイクが実は
臆病だったり。キスして初めて自分たちの本当の気持ちに気づいたり。この辺
り、本当にラブコメの王道を行く作りで、どんなハッピーエンディングに着地して
くれるのか、ワクワクしながら観られます。「ジェリーさんって足、長~」とか、思
いながら(笑)。

「理想の男性」ことマネキン人形みたいなコリン(エリック・ウィンター)。彼が
登場した時から「これは、、実はゲイでした、っていうオチやな」という私の推測
は、見事に大外れ(爆)。結局、どんなに努力して自分を巧く飾り立てて、理想
の男性をゲットしたところで、それは本当の幸せじゃない。って言うか、そんな
こと自分が一番、よ~くわかってるんだよね。マイクの妹親子の登場や、過去
の大失恋についてはあまり深くは触れられず、不要なエピソードだったかな。
しかし、下ネタ満載でも決してお下劣にはならず、コンパクトによくまとまってい
たと思う。マイクの恋愛指南、勉強になりました。
(『男と女の不都合な真実』 監督:ロバート・ルケティック/
主演:キャサリン・ハイグル、ジェラルド・バトラー/2009・USA)
シャネル前史~『ココ・アヴァン・シャネル』

COCO AVANT CHANEL
孤児院で育った少女ガブリエル(オドレイ・トトゥ)は、昼はお針子、夜は酒場
で歌を唄い、パリでの生活を夢見ていた。酒場で出会った裕福な将校・エティ
エンヌと出逢った彼女は、新しい人生を歩み始める。
シャーリー・マクレーン主演の英語作品『ココ・シャネル』に続く、こちらは
全編フランス語の伝記映画。主演は「アメリちゃん」ことオドレイ・トトゥ。
タイトルにある「アヴァン」とは、英語の「Before」に相当する単語らしい。
つまり、デザイナーとしてモード界に君臨する前の「ココ・シャネル」を描いた
作品。そんなこととは露知らず、どちらかと言うと「After」が観たかった私は
ちょっと期待外れ。『ココ・シャネル』が今一つだっただけに、こちらの作品は
気合入れて初日に観たのだけれど・・・。

つい先月観たばかりの『ココ・シャネル』とどうしても比較してしまうけれど、両
作品とも「有名になる前の、若き日のカリスマの姿」を中心に描いた点では同
じアプローチの映画。エピソードも、登場人物もほとんどかぶるけれど、本作の
ほうがよりシャネルの実像に近いのだろうな、と思わせる部分が多かった。
裕福な将校・エティエンヌとは熱烈な恋愛関係だったわけではなく、ココの方
からの「押しかけ愛人」関係だったこと。自らの出自や、あだ名の由来について
平気で口先の嘘を語るココ。驚きつつも、多分それが真実の姿だったのだろう
な、と思う。
コネクションも身寄りもない若い娘が、パリの中心でメゾンを開こうと思えば、
強力なパトロンの一人や二人は当然、必要だろう。ココとエティエンヌの身分
を考えれば、表向き、エティエンヌがココに執心するわけにもいかなかったの
も理解できる。ただ、彼女には人並み外れた強靭な「意志」があった。働きた
い、自分の実力で有名になりたい・・・。彼女は生涯独身を貫き、シャネルとい
う帝国を作り上げた。それはほとんど「奇跡」と言うべき偉業。私が観たかった
のはその「偉業」が如何になされたか、であって、ココの恋愛なんて(ぶっちゃ
け)どうでもいいのだった。ココが生涯、たった一人愛したのであろうボーイ・カ
ペル(アレッサンドロ・ニヴォラ)が男前だったのだけは、目の保養的楽しみだ
ったけれど・・・。

ボーイ亡き後、ココがガンガン仕事して、パリのファッション界でのし上が
って行く・・・、みたいな映画が観たかったな。オドレイ・トトゥは「老けた?」
と思いつつハマリ役だったと思うし、コンパクトにまとまっていたとは思うの
だけれど・・・。なんだか「・・・」が多い記事になってしまった。残念!!
(『ココ・アヴァン・シャネル』 監督・脚本:アンヌ・フォンテーヌ/
主演:オドレイ・トトゥ、ブノワ・ポールヴールド/2009・仏)
愛をこめて~『お母さんという女』

人気イラストレーター・益田ミリさんが、自身の「大阪のオカン」について綴っ
たエッセイ漫画。この本は2004年に光文社・知恵の森文庫から出版されたも
のが、5年後の今年、ソフトカバーの単行本として新装された。イラストは全て
描き直してあるとはいえ、『すーちゃん』でブレイクした益田ミリさんの今の人気、
需要に応えた出版だと思う。
「わたし、どんだけオカンが好きなんや?!
男だったら完全にマザコン扱いされているところである」
ミリさんがこうつぶやいてしまうのも無理はないほど、ほんっと~に素敵なお
母さん! 始めのうちは、「大阪のおばちゃん」らしいオカンの面白おかしい行動
に笑ってばかりだけど、だんだんその笑いに涙が混じるようになる。そして最後
には、ボロボロと泣いていた私なのだった。
佐野洋子さんの『シズコさん』とは、あまりに対照的なお母さん。いつも呑気
に笑い、娘たちを温かく見守るお母さん。でも、その温かさの内には、きっとた
くさんの我慢や、淋しさが沈澱しているのだろうな。私も、こんなオカンになれ
るかな、、自信ないけど、お弁当作りだけは頑張ろうと思うのだった。
(『お母さんという女』 益田ミリ・著/光文社・2009)
君がいた永遠~『九月に降る風』

九降風
WINDS OF SEPTEMBER
1996年、台湾の地方都市、新竹。竹東高校3年のイェン(リディアン・ヴォーン)
は、親友のタン(チャン・チエ)や後輩たちとクループでつるんでいた。
男女9人の高校生が過ごした、一瞬の夏。恋をし、無邪気に笑い、はしゃぎ合
った、二度と帰らない日々。「台湾発の青春映画に外れなし」私の中で、このジン
クスは生きている。「瑞々しい」という言葉がこれほどピッタリとはまる映画も、そ
う多くはないだろう。いつまでも大切に、胸に抱いていたいような佳作。
「飯島愛、引退早過ぎ」 どうして幸せな時間は、長続きしないのだろう?

タイトルが出る直前、スクリーンに「曾志偉」の文字が映し出されて、え?と驚
く。香港映画界の「ボス」エリック・ツァンがプロデュースしている作品とは知らな
かった。彼は主人公イェンの父親として、出演もしているのだった。
不良とは言えないまでも、サボリや喫煙は常習犯の7人組。学年はバラバラ
で、初めて見る顔ばかりの彼らの物語について行けるか一瞬、不安がよぎるが、
そんな心配は杞憂だった。
リーダー格でナンパ男なイェン、その彼女ユン、イェンの親友でありながら、
ユンに密かな想いを寄せるタン。ダブリのヤオシン、NSXのポーチュー、「超人」
チンチャオ。メガネにメタボ体型、いじられキャラのチョンハン、委員長から思い
を寄せられるチーション。屋上に集まりタバコをふかし、夜更けのプールで素っ
裸で泳ぎ、野球観戦する彼ら。連絡手段はポケベル、というのがなんともノス
タルジック。そして彼らのアイドルは、今は亡き飯島愛なのだった。いつも一緒
に過ごし、永遠に続くかのように思われた彼らの友情は、意外な方向へと微妙
に変化してゆく。。

ユンを演じたジェニファー・チュウは、ジョウ・シュンそっくりの可憐さ。彼女に
想いを寄せるタンの、どうしようもない、何処にも行きようがない恋心が切な過
ぎる! 親友の彼女(彼)に惹かれてしまった、という経験を、記憶の片隅にし
まい込んでいる人は案外多いのではないか。渡せなかった手紙、言えなかった
言葉、擦れ違う思い。卒業を待たず去りゆく者、残される者。一筋の涙、バラバ
ラになる仲間たち。しかし、普遍的な青春の痛みを描いたこの映画が苦い後味
だけを残さないのは、砕け散った憧れを呼び戻す奇跡が、最後に用意されてい
るからかもしれない。
誰もがそれが過ぎ去った時、懐かしさと後悔、もどかしさの混ざり合った複雑
な思いで、自らの青春を回想するだろう。永遠に続くものは何ひとつない、命も、
恋も、友情さえも。しかし、いやだからこそ、一瞬の感情の中に永遠は在る。
(『九月に降る風』 監督・脚本:トム・リン林書宇/
主演:リディアン・ヴォーン鳳小岳、チャン・チエ張捷/2008・台湾、香港)
テーマ : ☆.。.:*・゚中国・香港・台湾映画゚・*:.。.☆
ジャンル : 映画
ニートなファンタジー~『モサ』

カルガリ族のモサは14歳のニート。彼は学校をエスケープし、ケーブルカーに
乗って、丘の上の天文台に向かう・・・。
山崎ナオコーラの文章に、(初めて知ったけど)日本を代表する絵本作家・荒井
良二が画をつけたファンタジー。主人公のモサは、両親も妹のミサも、学校も嫌い。
14歳にして「ニート」という設定が、いかにもナオコーラ、という感じ。
反発ばかりしていたモサが、女の子に恋をすることで前向きに生を受け止める
決意をする物語。単純といえば単純な、思春期の男の子の成長物語、なのだろ
う。荒井さんの画がかわいいし、サラっと読める手軽な本。
(『モサ』 山崎ナオコーラ、荒井良二・著/2009・メディアファクトリー)
藪の中~『TAJOMARU』

室町時代、京の都。代々管領職にある畠山家の次男・直光(小栗旬)は、盗賊
の子を家臣とし、桜丸(田中圭)と名付ける。兄・信綱(池内博之)と幼馴染の許嫁
・阿古姫(柴本幸)と、幸せに暮らしていた直光だったが・・・。
芥川龍之介の小説『藪の中』をモチーフに、大胆な脚色を加えた時代劇。私は
小栗旬のファンであるが故、初日に駆け付け鑑賞。プロデューサーが「小栗旬の
舞台を映画にしたい」と語っていた通り、舞台を観ているような感覚の映画。
上映時間は131分と決して短い映画ではないのだが、全く飽きることなく引き込
まれた。
タイトルロールを演じた小栗旬は、文句無しの大熱演。『クローズZEROⅡ』では
迷いの感じられた演技だった彼だけど、本作では前のめりに役に入り込んでいる
印象。やっぱり小栗旬はいい! やられた。彼の舞台は観たことがない私、DVD
を「ぽち」っとしてしまいそう・・・。ファン目線での感想、ご容赦下さい!

全ては世間知らずの「お坊ちゃん」である直光の言動が招いた悲劇。目をか
けた家臣に謀られ、兄に裏切られ、たった一つの「愛」さえ彼に背を向ける。
その「愛」さえあれば生きていけると信じる直光が、あまりにストレートで新鮮。
観ようによっては弱っちい「ヘタレ」と言えなくもないが・・・。しかし、失われた
かに見えた愛には、一つの真実が隠されていた。
小栗旬の相手役・柴本幸、敵役・田中圭ともに、悪い演技ではないのだけ
れどビジュアルでインパクトに欠ける。この辺りのキャスティングを、もう少し
主役級の俳優さんを持ってきて欲しかったと思う。しかし、脇を固めるベテラ
ン勢は流石の演技。短い出演時間ながら、松方弘樹はコミカルさの中にも
貫録を見せ、「御所さま」を演じた萩原健一はまさしく「怪演」。
やべきょうすけ、綾野剛が登場するのは『CZⅡ』を彷彿させてご愛嬌なの
だけれど、彼らが多襄丸のために命を捧げるほどの「絆」は描き切れてない
ような気がした。だから彼らの最期のシーンは、唐突感が拭えない。しかし
まぁ、いいんです、小栗旬がカッコよければ・・・。

先日放映されたNHKの『トップランナー』では、ひと頃のギスギス感が消え、
すっきりといい表情をしていた小栗旬。自分を見失うほどの多忙さを乗り越え、
役者としての自信と余裕を得たような印象を受けた。舞台『ムサシ』は来年、
ロンドンとニューヨークでの公演が決まったそう。水嶋ヒロと共演の月9も楽
しみではあるのだけれど、彼の魅力はテレビサイズには収まり切らないスケ
ール感にあるような気がする。ますますエンジン全開で、映画に、舞台に、
貪欲に「役者道」を突っ走って欲しい。応援してるよ♪
(『TAJOMARU』 監督:中野裕之/
主演:小栗旬、柴本幸、田中圭、萩原健一/2009・日本)
翻訳の神様はインタビューの名手~『代表質問 16のインタビュー』

Sixteen Interviews
Motoyuki Shibata
東京大学教授にして、超売れっ子翻訳家の柴田元幸氏によるインタビュー集。
インタビューを受ける13人は、今をときめく村上春樹をはじめ、国内外の作家・
翻訳家・研究者。柴田先生の人柄のよさと、人脈の広さ、超人的仕事ぶりなど
も垣間見えます。
とにかく内容がギッシリ詰まっている本なので、読み飛ばすのはもったいな
くて、読了するのにとても時間がかかりました。やっぱり一番興味深いと言う
か、気になってしょうがない村上春樹の発言目当てに読んでみたわけですが、
他の方々もとても楽しそうに、フレンドリーに語らっている様子が目に浮かぶ
ようでした。
ハルキさんは、『キャッチャー』を訳した後に「『ナイン・ストーリーズ』を訳し
てみたい」と発言されているのですね。。これはもう、柴田先生が新訳された
わけですが、『フラニーとゾーイー』関西語訳は是非実現していただきたい!
内田樹氏の「ファン目線丸出しの村上春樹論」も面白かった! しかし、
内田先生って頭が良すぎるせいなのか、時々(しょっちゅう)何言ってるか
意味不明なんですけど(笑)。岸本佐知子さんとの「翻訳稼業談義」、ジョン
・アーヴィングの架空インタビューなんかも手が込んでいる。20年前のテキ
ストもあるので、多少古びた感じのする部分が無きにしも非ずですが、それ
を差し引いても、とても濃い内容の良書だと思います。一読推奨。
(『代表質問 16のインタビュー』 柴田元幸ほか・著/2009・新書館)
泣かない男はいない~『ノーボーイズ、ノークライ』

THE BOAT
NO BOYS, NO CRY
韓国の釜山から日本の山口まで、小さなボートで「ボス」のために荷物を運ぶ
ヒョング(ハ・ジョンウ)。彼を出迎えるのは、「ヨボセヨ(もしもし)」と挨拶する亨
(妻夫木聡)。「ヨボセヨは電話の時だ。今はアンニョンハセヨ!」
(実は私もヒョングと同じ突っ込みを入れていた、心の中で)
母親に捨てられ、家族を知らない男と、家族を捨てられない男。韓国と日本、
国境を超えて育まれる、友情以上の家族的絆。日韓のキャスト・スタッフが集結
した合作映画。
実はこの作品、観るかどうか随分迷った。チケットカウンターに立っても、まだ
迷っていた。と言うのも、同じ上映時間帯でとても惹かれている作品があったか
ら。しかし、ここ最近の気分は「東アジア的湿潤傾向」なので、シャンソニア劇場
に幸せになりに行くのはヤメ。

隣のシアターから流れてくる音楽に後ろ髪引かれながら観た本作は、不思議な
映画だった。救いのない境遇で生きる、社会からはぐれた二人の男。行くあても、
未来に希望もない彼らの話なのに、どうしようもなく愛おしい。ファンタジックですら
ある。途中まではイライラさせられる部分もあるのに、ラストで全て許せてしまう、
そんな印象の映画なのだ。
妻夫木聡は嫌いな俳優さんでは決してない(むしろ好きだ)けれども、彼の誠実
そうな、おっとりとした雰囲気には、この役柄がどうも合っていない気がした。元カ
ノ(貫地谷しほり)とのエピソードは丸ごといらないような。。本作ではどうしても、
ハ・ジョンウの方に目が行く。美形でも、スマートでもないトボケた兄ちゃんなのに、
なんかいい役者だな、気になるな、と思わせる。声もいいから、時々挿入される
ヒョングの独白が効いている(私は、どちらかと言うとヴォイスオーバーは嫌いな
のだけれども)。今後も要チェックの俳優さん。
自分は何故母に選ばれなかったのか、心にしこりを持つヒョング。重い荷を背
負った異国の男である亨(とその家族)に、彼は今まで誰にも感じたことのなか
った安らぎを見出す。「素」で『アジアの純真』を熱唱する二人を見ながら、なん
とも言えない、幸せな気分になった。しかし、幸福な時間は、そう長くは続かない。

セリフのほとんどは韓国語。妻夫木聡はかなり、韓国語を頑張ったのではな
いかな。亨の韓国語は拙いのかもしれないけれど、ネイティヴのヒョングとの
会話に違和感は全くない。少なくとも、感情のこもった言葉だ。家族のために
人生を諦めてきた彼の怒りや、哀しみが伝わってくる。
ラストシーン。雨に打たれる二人の王子。願わくば目を覚まして、自由な王国
に旅立って欲しい。これ以上ない笑顔で。
(『ノーボーイズ、ノークライ』 監督:キム・ヨンナム/
主演:妻夫木聡、ハ・ジョンウ/2009・日本、韓国)
サブウェイ・パニック~『サブウェイ123 激突』

THE TAKING OF PELHAM 1 2 3
ニューヨーク。地下鉄運行管理官のガーバー(デンゼル・ワシントン)は収賄
容疑で告発され、管理職から降格中の身。ある日の午後、ペラム駅発の電車
が突然停止し、1千万ドルを要求する犯人ライダー(ジョン・トラヴォルタ)によっ
て一両目の乗客が人質となる。
『サブウェイ・パニック』という映画のリメイクらしいが、オリジナルは未見。
デンゼル・ワシントン(大好き)とジョン・トラヴォルタ(好き)というアメリカの
二大俳優の共演に惹かれて鑑賞。デンゼル・ワシントンはちょっと太ったか
な。NY市警の交渉人にジョン・タートゥーロ(怖い)、NY市長にジェームズ・
ガンドルフィーニ(トニー賞にノミネートされてた)。監督はリドリーじゃなくて
トニー・スコット。トゥルー・ロマンス!

地下鉄を乗っ取った犯人が交渉人役を指名し、デッドラインまで互いの腹を
探り合う攻防戦。しかし知的で切れる犯人・ライダーには、本当の狙いがあっ
た。ライダーに気に入られ、利用されるガーバーもまた、瞬発力と洞察力に優
れた男。ライダーの言葉の端々から、犯人像に繋がるキーワードを拾い上げ
てゆく。
デンゼル・ワシントン、ジョン・トラヴォルタ共に見応えある演技。互いが見え
ない状況下で、刻一刻と迫るリミットに緊張が高まる。よほど深くキャラクター
を作り込み、感情移入しなければ演じられない役どころだと思う、お見事。
しかし、観ているこちらは「地下鉄」と「司令室」という密室状態に、次第に
息苦しさを感じてしまう。上映時間は105分と決して長い映画ではないのに、
もっと長く感じてしまった。妻の「牛乳買ってきて。1ガロンよ!」ってセリフで
オチがわかってしまうし。橋の上で、ガーバーとライダーが相まみえるクライ
マックスも、ちょっとガッカリ。笑顔で家路に着くガーバーのラストに、引っか
かるものを感じたのは私だけだろうか。たとえ極悪人であろうと、人を殺したのに。。

「守り甲斐のある美しい街」ニューヨークを、もっと見たかったな。ちょっと
期待外れだったけど、体調が悪かったせいにしておこう。←いつもの言い訳
(『サブウェイ123 激突』 監督・製作:トニー・スコット/
主演:デンゼル・ワシントン、ジョン・トラヴォルタ/2009・USA、UK)
ラーメン食べたい!~『南極料理人』

南極・昭和基地からはるか1000キロ、ペンギンやアザラシはおろか、ウィルス
さえいない極寒のドームふじ基地。ここで集団観測生活を送る8人のオヤジたち
の、究極の単身赴任の日々。彼らの胃袋を満たすのは、調理担当・西村(堺雅人)
が作るおいしい料理・・・。
堺雅人を追った『情熱大陸』を観てから、気になっていた作品。運よく観に行く
ことができました。そしてこれがまた、予想以上に面白かった! 絶対に「逃げ場」
のない極寒の地で、もっさいオヤジ(失礼)たちが送るストレスフルな日常。「食」
を中心に回る彼らの生活が、淡々と描かれます。南極にあるのって、昭和基地だ
けじゃなかったんですね。初めて知りました。

雪氷学者の本さん(生瀬勝久)、気象学者の隊長(きたろう)、医療担当のドク
ター(豊原功補)ら、ひと癖もふた癖もある男たち。彼らの三食の面倒を一人で
看る西村は、本当に大変だと思う。おにぎり握るのって、結構体力要るんですよ!
照り焼きに、ジャーっと醤油をかけられた日には(泣)。それでも、西村は来る日
も来る日も、飄々とごはんをつくります。
「おいしいものを食べると、元気が出るでしょ」
何かと言うと皆が「西村く~ん」って言うのが可笑しかった。でもそれは、女っ気
ゼロの場所で、「お母さん」役の彼に皆が甘えているんだよね。特に、みんなを
まとめるはずの隊長が一番子どもっぽいのが笑える。「ラーメンがないと眠れない」
って、涙こぼしてるんだから・・・(爆笑)。彼のために、西村が打ったラーメンのおい
しそうなこと!! 「かんすい」に関するヒントを得た西村の、料理人魂が炸裂した
姿が勇ましい。ラケットをほっぽり出して台所に走る、走る! あの味は、絶対に
全員が、忘れないと思うな~。

1997年当時、まだ南極にネットは繋がってなかったんですね。国際電話が1分
間740円、っていうのが泣ける。メールもないなんて、隔世の感がありますね。
「パチンコ行きてえ~」 「渋谷とか、行きたい・・」 長電話する高良健吾くん、いい
ですね。
朝礼のようだった朝の食事風景が、最後は本物の家族の食卓のように変わる。
黙々と配膳しながら、「呑み過ぎじゃない?」とか「ほらこっち並べて」とか言って
いる西村が、本当に「お母さん」に見えてしまう。ぎこちなかった8人が、それぞれ
の個性をまき散らしながら、すっかり馴染んでいる。この長回しのシーンは最高
だったな。。
食べるってことは、人間の基本であり、原点なんだよね。おいしいものがあれば、
なんとか大丈夫。おいしい料理がでてくる映画、大好きです。
(『南極料理人』 監督・脚本:沖田修一/2009・日本/
主演:堺雅人、生瀬勝久、きたろう、高良健吾、豊原功補)
映画とは別物です~『きのうの神様』

映画『ディア・ドクター』がなかなかよかったので、西川美和監督自身が書き下
ろした原作『きのうの神様』を読む。
5つの短篇から成る小説で、「ディア・ドクター」はその一篇。しかし、医師・伊野
を思わせる人物が登場はするものの、映画とは全く違った内容であることに驚く。
西川監督が取材を重ねる中で出会った、僻地を中心とする様々な医療現場での
エピソードが基になっているのだろう。しかしほとんどの短編で、ああ、これは映画
の彼(彼女)だな、と思われる人物が出てくる(「ありの行列」だけわからなかった)。
・1983年のほたる (神和田村に暮らす小学生時代のりつ子)
・ありの行列 (三日間だけ離島に派遣された医師)
・ノミの愛情 (大竹朱美が医師の妻だった頃)
・ディア・ドクター (倒れた父の傍で久々に再会した兄弟)
・満月の代弁者 (後日談:そしてまたあの場所へ)
個人的には「ノミの愛情」以降の三篇がよかった! 特に「ディア・ドクター」
はこのまま映像化してもらいたいと思うほど。「満月の代弁者」のラストでは、
何故か涙が・・・。瑛太くんの表情が浮かんできてしまった。
西川監督の中では、登場人物のバックグラウンド--生い立ちから将来まで
--全てが出来上がっていて、その上で映画が生まれているのだな。少し技巧
に走っていると感じさせる部分もあるけれど、人間の老いにまつわる悲喜こもご
もを描いて読ませる。直木賞候補も納得の一冊。映画とは別物として楽しめるし、
こちらを先に読んでいても、映画を観る楽しみは損なわれない。映画を観た人も、
観ていない人も、読む価値のある一冊だと思う。
(『きのうの神様』 西川美和・著/2009・ポプラ社)
いい奴、悪い奴、変な奴~『グッド・バッド・ウィアード』

THE GOOD, THE BAD, THE WEIRD
1930年代、第二次大戦勃発前の満州。「宝の地図」を偶然手に入れたこそ泥、
ユン・テグ(ソン・ガンホ)は、彼に恨みを持つ殺人鬼パク・チャンイ(イ・ビョンホン)
に追われる。チャンイを追うのは賞金稼ぎのパク・ドウォン(チョン・ウソン)。
韓国のトップスター三人が共演した、オリエンタル・ウェスタン。脚本も担当した
キム・ジウン監督の作品は初見。随分前から楽しみにしていた本作だったけれ
ど、期待したほどではなかったかな。でも「変な奴」こと、大好きなソン・ガンホの
「大仏顔」が拝めただけでも満足かも。『大統領の理髪師』でガンホの弟子を演じ
た「ヨングク@冬ソナ」ことリュ・スンスが共演。

お話は単純で、「宝の地図」を巡る男たちの争奪戦。血糊と火薬の量が半端
じゃない。激しいアクションは見物であると同時に、この作品の欠点になってし
まっているかも。動きが激し過ぎて、私の動体視力では何をやっているのか、
よくわからなかった(爆)。それが延々と続くから、正直「長い!」と思ってしまう。
この映画、もう20分くらい短くできたんじゃないだろうか?
悪役続きの「悪い奴」イ・ビョンホン。この作品でも、筋肉隆々の上半身を惜し
げもなく披露してくれる。韓国映画ばっかり観ていた頃はこの俳優さんの良さが
わからなかった私だけれど、最近、いい役者なんだと思えてきた。冷酷非情な
パク・ドウォンになりきった狂気の演技、下瞼の目張りに、彼のプロ根性を見た
ような(気がする)。
大変人気があるのは知っているけれど、何故か好みではない「いい奴」チョン
・ウソン。長身でカッコイイ彼、本作ではずーーーっと爽やかキャラ。ただ一人、
ラスト直前まで汗にも血にもまみれない。馬上での銃の扱いの巧さに感心。

そして、韓国映画の顔、ソン・ガンホ。この人の演技はいつも素だか計算だか
わからない、本当に味のある俳優さん。彼が出ている映画なら観たいと思う、私
の中ではある意味「優良銘柄」のような存在。本作でも、たくさん笑わせてくれま
した。
ひと頃の韓国映画は、劇場に行くといつも観客で溢れ返っていたイメージがあ
る。しかしシネコンで公開された本作、「ビョン様」出演作だというのに場内が閑散
としていてビックリ! 韓流ブームは去ったんだな、でもいい映画は絶対に残る。
これが本来の姿なのかも。
(『グッド・バッド・ウィアード』 監督・脚本:キム・ジウン/
主演:ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ウソン/2008・韓国)
元・少女のヒトリゴト~『女の子ものがたり』#2

映画を観ても、私の場合感想をすぐにアップすることは滅多にない。観た直後
に感想を書いたとしても、大抵数日は「寝かせて」おく。
でも、9月1日、映画の日に観た『女の子ものがたり』は例外だった。今すぐに、
この思いを誰かに伝えたい・・・。そんな気持ちでいっぱいになった作品は、久しぶ
りかもしれない。

私はいわゆる地方都市(県庁所在地とも言う)に育ったので、なつみたちのように、
海と山に囲まれた自然が身近だったわけではない。彼女たちほど「ド貧乏」でも、複雑
な家庭環境だったわけでもない。それでも、なつみの故郷を自分の生まれ故郷だと
思い込んでしまいそうになるほど、この映画に入り込んでしまった。
学校帰りに、ねこじゃらしを摘んだな。
瓶に手紙を入れて、海に流すことに憧れたな。
ちょっとヤンキーな先輩たちを、遠くから見ていたな。
私も。
でも、「お母さんみたいになるよ」って言われるのって、やっぱり嫌かなぁ(自戒)。
江戸っ子だったり、地方に生まれても地元で結婚して実家の近くに住んでいる人
にとっては、それほど心を打つ物語ではないのかも、なんて一瞬、思ったりもした。
でもやっぱり、この映画に描かれている「痛み」は、何処に生まれ育っても共通の
ものかもと思ってみたりする。小学校、中学校時代を過ごさずに、大人になる人は
いないものね。
「なつみは、なんか違うぞ。人とは違った人生、歩けるかもしれん」
事ある毎に、呪文のようになつみに言ってくれた義父(板尾創路)。言葉のチカラ
って、すごい。その言葉があったから、なつみは東京で頑張れたんだと思う。ダメ
親父でも、義理の関係でも、彼は子どもの心に魔法をかけた、いいお父さんだった
んだと思う。(板尾さんが登場したとき、ちょっと胸が痛んだ。娘さんのご冥福をお祈
りします)
自堕落ぶりが『恋ノチカラ』の籐子さんみたいだった深津絵里。彼女は本当にいい
女優さんだけど、主演(助演?)女優賞はきーちゃんを演じた波留にあげたいな。
あのセリフ、本当に心に突き刺さったよ・・・。サイバラさんの登場は、ご愛嬌♪

バスの最後列、窓際になつみ、その隣に彼氏。髪を揺らす窓からの風。「うわ~、
これって『冬ソナ』やん!」って思ったのは私だけ?(笑)。青春ですね。。それでも、
キスを交わしたその後に、男(きーちゃんの彼氏)が振るう暴力を目の当たりにする
なつみ。別れの予感・・・。
「寿」と大書された黄金のどんぶりが、さりげなく「くーちゃん」のエサ入れだった
り。でも結婚式のシーンでそのどんぶりを大写しにしない、監督の慎ましさがいい
な。
映画の日だというのに、観客が少なかったことが残念。持田香織のやさしい歌声
に浸りながら、「このヒドイ顔をどうしよう」と、ぐじゃぐじゃになったハンカチを握りしめ
ながら、思案していた私なのだった。
しあわせの道~『女の子ものがたり』

高原菜都美(深津絵里)は、スランプ中の漫画家。担当編集者、財前(福士誠治)
に「友だちいないでしょ」と言われた彼女は、幼かった故郷での日々を回想する・・・。
西原理恵子の同名コミックの映画化。『いけちゃんとぼく』は未見(絵本は持っ
てます)、原作は未読のダメダメサイバラ信者ですけれども、観てきました。
う~ん、これは・・・。すっごくよかった。泣いた。涙と洟水とで、息ができないくら
い。エンディングテーマが終わり、場内が明るくなっても、私は涙を止めることが
できなかった。個人的に、今年の邦画のベスト作かも。心がかきむしられるよう
な、痛みと再生の物語。
今でも謝りたいふるさとの友だち、いませんか? 幼い頃、小さなその胸に
不安な気持ちを抱えていた、全ての女の子に観て欲しい。大人になることも、
そこに留まることも、不安だったアナタに。

現在のなつみ、小学生時代、高校生以降と、3世代の女優が同じ役を演じ分け
ているが、違和感はほとんどない。それぞれに個性的で美しく、魅力的な女の子
たち。特に高校時代を演じた3人が素晴らしかった。
「お前なんか、友だちでもなんでもない。ここから出て行け。
そんで、二度と帰って来るな!」
ガチの喧嘩シーンが凄い。ドロドロになりながら、大切な「友だち」を突き放し、
必死で救おうとするきーちゃん(波瑠)。彼女と、同じような境遇のみさちゃん(高
山侑子)。ド貧乏でも、生まれたときからお父さんがいなくても、内にこもることな
く、暗く落ち込むでもなく、女の子たちは自らを笑い飛ばせるくらい、強くて、悲し
い。緑の草っぱらに、白い雲が浮かぶ青い空に、彼女たちの笑い声が響く。しか
しこの町にいる限り、彼女たちがなつみ(大後寿々花)の母(奥貫薫)のような
「人生に疲れた主婦」となるのに、そう時間はかからなかっただろう。

みかん色のバスが、海沿いの道を行く。その画だけで、もう私の涙腺は決壊
状態。「なっちゃん」を捉えた瞬間の、深津絵里の表情がいい。そこで涙を見せ
ないなつみの潔さがまた、私の涙腺をなぎ倒す。川辺の焚き木、山の中で明
かした一夜の冒険。親友の死を想うなつみの表情。
ああ、これは女の子版『スタンド・バイ・ミー』なんだ、と鈍い私がやっと気づい
たとき、たたみかけるようななつみの独白が、そのことを証明してくれた。
「あんな友だち、一生できない」
(『女の子ものがたり』 監督:盛岡利行/原作:西原理恵子/
主演:深津絵里、福士誠治、大後寿々花、波瑠、高山侑子/2009・日本)
あたしはココにいる~『すーちゃん』

カフェに勤めるすーちゃんは、一人暮らし、30代の独身女性。マネージャーに
片思いし、女ばかりの職場を上手くやり過ごしながら、すーちゃんは考える。
「今よりいい私になるには、一体どうすればいいのだろう?」
精神科医・香山リカ氏が「えーんと声を上げて泣いた」と絶賛した『結婚しなくて
いいですか。すーちゃんの明日』。その前篇『すーちゃん』が文庫になった!
『結婚~』は私も本屋で立ち読みしながら泣いたけれど、『すーちゃん』は読んで
なかったんだった。。ということで早速購入♪
恋人がいなくて先が見えず、「変わりたい」すーちゃん。営業職で不倫中、「変わ
ってしまった」自分に涙するまいちゃん。ご近所に住む友人同士の二人。ときどき
部屋で鍋なんかしながらも、馴れ合わないこの二人の距離感がいい。
「親友という言葉で 友達をしばってはいけないんだ」
「大嫌い」 「嫌なやつら!」 「24歳のブスより34歳の美人のほうが、女のラン
キングは上なんだから」。彼女たちが吐くセリフは、結構辛辣。しかしそんな言葉
を使ってしまう自分を省みることを彼女たちが忘れないから、嫌な読後感は残らな
い。シンプルな描線の絵も、好感度高し。
晩婚化傾向が強まり、一見、多様な生き方が許されているような現代。それで
も、今はかつて「女の子」だった彼女たちが生き易い時代では決してない。セクハ
ラ、パワハラ、「結婚まだ?」攻撃。傷つき、痛みながらも「世界にたったひとりきり
の自分」として生きていくすーちゃん。不倫を解消したまいちゃん。愛おしい彼女
たちに、私なりのエールを送りたい(相田みつを風に)。
「いいんだよ そのまんまで」
(『すーちゃん』 益田ミリ・著/幻冬舎文庫・2009)