私の名前はジャイノミカ~『モンスターVSエイリアン』3D版

MONSTERS VS. ALIENS
アメリカのある街。結婚式当日、花嫁であるスーザンは隕石に衝突。式の最中
に身体が巨大化し、身長15メートルの「モンスター」に変身してしまう。軍に捕ら
えられた彼女は他のモンスターたちと出逢い、地球を侵略に来たエイリアンと戦
うのだが・・・。
ドーリームワークス製作では初の3Dアニメ。いや~、面白かった! 実はこ
の作品、観るかどうしようか、かなり迷ったんです。理由は、料金が2000円も
するから。普段、シネコンでは1300円以上は払いたくない私。2D版も上映は
あるけど、やっぱり3D体験してみたい!と思って・・・。結果的に、3Dで観て
正解でした。この映画あまりヒットしてないみたいだけど、夏はやっぱり、アニ
メでしょう!

通常の映画だと、左右の動きはあっても前後の奥行は出せない。これが3D
だと、画面が自分に向かってグワーっとせり出して来るんです! もう、オープ
ニングから私は大コーフンでした。
しかし、これが「映画」を観た感想なのかというと、やはり微妙なところ・・・。
全ての映画が3Dになるべきだとはもちろん思わないし、字幕処理の関係か
吹き替え版での上映しかなく、オリジナル音声で観たい!っていうこだわり
派の方はやっぱり不満だと思うし。今回、主役のスーザンはリース・ウィザー
スプーン嬢が演じていたらしく、それは私も聴いてみたかったかな。3Dメガ
ネも重たくて、普段メガネを掛ける習慣のない私は指でアシストしながらの
鑑賞でした。そしてやっぱり、一番のネックは料金じゃないかなぁ。。2000円
均一で、サービスデイ(レディースとか映画の日とか)も適用外ってのは、ちょ
っとセコイ気がする。まぁ、差別化しないと2Dと3D上映を分ける意味がなく
なる、というのもわかるのですが・・・。
肝心のストーリーは、結婚に憧れていた普通の女の子が、過酷な運命を背
負い、仲間との出逢いを経て自らの意志で人生を選び取る、というもの。小ネ
タ満載で、映画ファンにはうれしい作りなんじゃないかな。スーザンが「私の名
前はジャイノミカ!」と宣言する場面では思わず感動・・・。最後まで大統領が
笑わせてくれるし。この「大統領がアホ」なキャラって、オバマ氏の登場で変わ
って来るのかな~、それってなんか寂しい気も(笑)。

(『モンスターVSエイリアン』 監督・原案・脚本:ロブ・レターマン/2009・USA)
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この親にして~『母』

プロレタリア文学者として『蟹工船』を著し、30歳にして虐殺された小林多喜二
の母、セキ。彼女の言葉を通して多喜二が生きたあの「時代」を描写する、三浦
綾子の長編小説。
三浦氏の小説は『氷点』くらいしか読んだ記憶がない。しかし小林多喜二の母
について書かれている本、とlatifaさんにオススメいただいて、読んでみました。
秋田弁の告白体で書かれているのだけれど、非常に読み易く、心動かされる本
でした。
「あんなひどい殺され方をしなければなんないほど、そんなに多喜二の考えは
悪い考えだったんべか」。母を思い、家族を思い、貧しい人を助けたい、いい世
の中が来てほしい。ただそれだけを願って小説を書いた多喜二が、どうして殺さ
れなければならなかったのか。才能とやさしさに溢れた息子を喪った、母セキの
慟哭の念は察して余りある。しかし彼女は声高に息子の無実を叫ぶでなく、ただ
「自分にはわからない」とつぶやく。この本には、当時過激な思想とされ、弾圧の
対象だった共産主義思想については何も書かれていないし、それが正しいとも、
間違っていたとも書かれていない。しかし少なくとも、多喜二が明るく高潔で、私
利私欲に走るような人物ではなかったことだけは、痛いほど伝わってくる。彼は
生涯を「小さき者」に捧げたのだと。
「信仰は一人一人別々であっていいんですよ。その一人一人の信仰をお互い
に大事にすることが大切なんですよ」
多喜二の義兄、藤吉のこの言葉は、よりよい社会を作るための真理が語られて
いると思う。「信仰」は、様々な言葉に言い換えることができるだろう。信条、思想、
考え方。みんなちがって、みんないい。しかしこの当たり前のことが許されなかっ
た時代があったことを、命を賭して他者のために生きようとした若者がいたことを、
私たちは決して忘れるべきではないだろう。
(『母』三浦綾子・著/角川文庫・1996)
波間の彼方に~『幻の光』

生後三ヶ月の幼い息子と自分を遺し、自殺した夫。生まれ育った尼崎から、奥
能登の海辺の町に後妻として嫁いだゆみ子(江角マキコ)は、永遠に答えの出な
い思いに囚われる。 「あの人は、何故死んでしまったのだろう・・・?」
宮本輝の原作小説を映像化した、是枝裕和監督の長編デビュー作。第52回
ヴェネツィア国際映画祭において金のオゼッラ賞を受賞、1995年キネマ旬報ベ
ストテン第4位と、国内外で評価の高かった作品。浅野忠信が出演していること
もあり、長い間、ずっと「観たい」と思い続けた映画だった。予想以上の映像美、
心をざわつかせる印象的な音楽。素晴らしい作品です。長編第一作にしてこの
完成度とは、、是枝監督、凄いです。
原作は、主人公ゆみ子の告白体の一人称小説。映画を観てから改めて原作
を読み返してみると、映画が原作を最大限に尊重していると感じた。阪神尼崎
の踏切、奥能登の海鳴り。若い夫婦のつましいアパート暮らし、海辺の古い家。
深緑がかった陰影の濃い映像、固定カメラ、数少ないセリフ。ラスト近くにゆみ子
が感情を爆発させるまで、彼女の心の揺れや残してきた想い、どうしようもない
悔いが、静かに、ゆっくりと浮かび上がる。
原作がそうであるように、この映画は何らかの「解」を提示するために撮られ
たのではないと思う。人は何故死に、生きるのか。生きることと、「暮らす」こと
とは違うのか。人はどうして誰かを「想う」のか。その想いが、断ち切れないの
は何故なのか・・・。どこにも、答えなんかない。ただ、波の彼方に幻の光が見
えるだけ。永遠に。

本作で、一躍人気女優となった江角マキコ。明るいイメージでモデル出身の
彼女はこの静謐な物語にはミスキャストのようにも思えるけれど、虚空を見つ
める表情が思いのほか、いい。期待の浅野忠信は、表情のアップもなく一度も
振り返ることもなく、ただ去って行くミステリアスな存在。しかし、声だけはいつ
もの浅野くん。彼の離婚のニュースはショックだった。。あんなにCharaのこと大好きだった
浅野くんなのに(涙)。。
映画に引き込まれるうちに、奇妙な既視感に捉われた。「この映画は・・・、
侯孝賢ホウ・シャオシェンの映画じゃないのか?」 線路と電車、光差す緑の
風景。印象的な音楽は、『恋恋風塵』と同じ陳明章チェン・ミンジャンによるも
の。是枝監督って、ホウ・シャオシェンが好きなんですね。
人間にとって「死」とは、抗い難い誘惑になり得るのかもしれない。それで
も、冬が過ぎ春が来て「いい日和」になると、全ては解き放たれてゆく。季節
は巡り、人は生き、幼子は成長する。変わらない風景の中に、いつしか光は
甦る。

(『幻の光』 監督:是枝裕和/原作:宮本輝/1995・日本/
主演:江角マキコ、内藤剛志、浅野忠信、柄本明)
人生の音楽~『夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』

Nocturnes:
Five Stories of Music and Nightfall
by Kazuo Ishiguro
「次にノーベル文学賞を受賞するのは、ハルキ・ムラカミとカズオ・イシグロの
どちらか?」なんて誰が言ってるのかは知らないけれど、この日本生まれの英国
人作家の作品が世界的に受け入れられ、読まれていることは誰もが認めるところ。
村上春樹がカズオ・イシグロの熱心な読者であることも知られている。
その初の短編集が本作。副題にもあるとおり、音楽をテーマに、失われた愛、届
かなかった想い、叶えられなかった夢が綴られる。5つの曲を集めた、一枚のコン
セプト・アルバムのような作品。ちなみに本作にも『1Q84』で流れるヤナーチェク
の名前が登場する。世界的作家同士のシンクロニシティについて、思いを馳せず
にはいられなかった。
老歌手 Crooner
降っても晴れても Come Rain or Come Shine
モールバンヒルズ Malvern Hills
夜想曲 Nocturne
チェリスト Cellists
正直、こんなにも「笑える」「面白い」小説だとは思っていなかった。オープニ
ングとラストの「老歌手」と「チェリスト」は、イシグロらしい「物悲しさ」が勝るけ
れど、その間に挟まれた三篇は何度声に出して、声を殺して笑ったか。それ
でいて、どこか後を引く余韻が残る。短いけれど印象的な、忘れられない出
来事のような、一日の終わりにふと思い出す、今はもういないあの人のよう
な・・・。
それがきっとカズオ・イシグロの優れた点なのかもしれないけれど、彼の小説
は映像のように、頭の中で立ち上がってくる。特に「降っても晴れても」と「夜想
曲」は、このままでも面白い映画にできそう。
スラップスティック・コメディのノリの「夜想曲」は、ジャック・ブラックとパトリ
シア・クラークソン主演で。「降っても晴れても」の主人公は、ヒュー・グラント
しかいないでしょう。彼の友人夫婦は、ティルダ・スウィントンと・・・、うーん、
うーーーん、コリン・ファースじゃ『ブリジョ』になってしまうけど、まぁ、いいか。
(『夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』 カズオ・イシグロ著/
土屋政雄・訳/早川書房・2009)
選ばれし者~『ノウイング』

KNOWING
MIT宇宙物理学教授のジョン(ニコラス・ケイジ)は、妻に先立たれ9歳の息子
ケイレブ(チャンドラー・カンタベリー)と二人暮らし。ある日ケイレブは、50年前
に埋められたタイムカプセルのメッセージカードを学校から持ち帰る。そこに書
かれていたのは、奇妙な数字の羅列だった・・・。
ニコラス・ケイジの映画を観るのって何年ぶりだろう? 予告を観る限りでは
大がかりなディザスター映画のようだったので観る気はなかったのだが、何と
なく評判よさそう? なので鑑賞。ハラドキの展開で、おお、意外に面白いじゃ
ないか。。しかし、これはラストの展開でドン引きする方もいらっしゃるだろうな。
賛否割れるとは思うけれど、たまにはこういうスペクタクル・SF・サスペンス(3S
ですね)もいいかも。ニコケイ以外、名の知れた役者は出ていない。ちょっと怖
いけど、どうぞ気楽にご覧下さい。

映画の雰囲気は、ちょっと『シックス・センス』系かな? 不安げで不健康そう
な少女ルシンダ(ララ・ロビンソン)のアップ、白く輝く太陽。憑かれたように数字
を書き込むルシンダ、ささやき声、血まみれの指先・・・。冒頭の数分間で、恐怖
がじりじりとせり上がってくる。
皆既日食や、活動が弱まってプチ氷河期が来る、などというニュースで最近
注目の太陽。本作でダイアナを演じたローズ・バーンが出ていた『サイシャイン
2057』を少しだけ思い出してしまう。この映画で描かれた「コロナ噴出」も、現実
にあり得る話なんだろうか? ローズ・バーンと、娘アビー役のララ・ロビンソン
がそっくり! よくここまで似ている子役を見つけてきたな、と感心してしまった
(実はクレジットを観るまで「本物の親子」だと思い込んでた私)。

もし、明日地球が滅亡するとしたら・・・。私なら、家族と普通に、今まで通りの
生活をしながら、世界の皆さんと一緒に逝きたいな。「選ばれし者」にはなりたく
ないかも。。動転し、感情を乱すジョンやダイアナ(大人)に対し、ケイレブやアビー
(子)が冷静で不気味なほど。彼らはもしかしたら、ずっと小さな頃から「ささやき
声」を聴き続けて、全てを予め「知っていた」のかもしれない。
しかし、どうして「ザ・リーダー」が「愛を読むひと」で、「ノウイング」がまんまカタ
カナ邦題なんだろう? よくわかりません・・・(溜め息)。
(『ノウイング』 監督・製作:アレックス・プロヤス/
主演:ニコラス・ケイジ、ローズ・バーン/2009・USA、UK)
立ち上がれ!~『蟹工船』

厳寒のオホーツク海で、「お国のために」過酷な労働に従事させられる蟹工船
の出稼ぎ労働者たち。人間扱いされないことに不満を抱く彼らは、団結しストラ
イキを起こすが・・・。
雨宮処凛さんの「今のフリーターと状況が似ている」という発言をきっかけに、
ブームとなって文庫本が突発的に売れたという小林多喜二の『蟹工船』。私も
学生の頃、「プロレタリア文学=小林多喜二・蟹工船」と憶えはしたももの、今回
のブームで初めて読んでみた一人。監督は「ポップな映画にしたい」と語ったと
いうSABU。監督の映画は堤真一とのコラボ作は観ているので、キャスト込で
期待度は高かった。

しかし、若干眠気に襲われてしまったかな。。まず、彼らの労働がさほど過酷
なものに見えず、鬼監督の浅川(西島秀俊)が一人、勝手にサディスティックに
なって、ステッキをやたら振り回しているように感じてしまう。彼のことを誰も、
本気で怖がっているようには見えない。しかも「寒い」と言っている割に寒そうに
も見えない(皆汗かいてるし)。貧乏自慢も、あれはギャグのつもりなのか?
出稼ぎ労働者たちが如何に悲惨な暮らしを強いられていたか、ここはユーモラ
スに描くべきではないような気がする。
新庄(松田龍平)と塩田(新井浩文:私はこの人の顔が怖い)がロシア船上
でコサックダンスを観ているとき、あまりのゆるさに睡魔に負けてしまった。
(次に気付いたのは、新庄と塩田が蟹工船に戻ったシーンだった)
船の中って狭いのは当然なのだけど、空間に映画的拡がりがなくて息苦しく
なる。(恐らく)低予算のためか、海のシーンも「ちゃちい」。後で気づいたのだ
が、SABU監督の映画をスクリーンで観るのは初めてなのだった。DVDで観た
『MONDAY』も『ポストマン・ブルース』も好きな作品だし、他の作品も面白く観
られた。でも、もしかしてそれはテレビサイズだったから?

キャストは、松田龍平が断然、いい。彼って本当にカッコイイですね。。作品
を観れば観るほど好きになる。高良健吾の男前も引き立っていた。若い労働者
たちの中に、利重剛が混ざっていたのが少々違和感あり。そしてTKOの木下。
彼はやっぱりミスキャストではないのかな? 彼を見るとどうしても「せんとくん」
を思い出してしまう。
「おい、地獄さ行ぐんだで!」 原作は、冒頭のこの一文が白眉だと思っている。
このセリフを省いてしまったが為に、本当の「地獄」を描き損ねてしまったのでは
ないか。なんだか不完全燃焼な気分。しかし、松田龍平のおかげで、損した気分
にはならない私なのだった。
(『蟹工船』 監督・脚本:SABU/原作:小林多喜二/
主演:松田龍平、西島秀俊、高良健吾、新井浩史/2009・日本)
前人未踏~『劔岳 点の記』

明治39年、陸軍測量部の柴崎芳太郎(浅野忠信)は日本地図を完成させる為、
未だ誰もその頂に立ったことのない立山連峰・劔岳の測量を命ぜられる。彼の
右腕となったのは、地元の案内人・宇治長次郎(香川照之)だった。
新田次郎の実話に基づく同名小説を、長年日本映画界で名カメラマンとして
活躍した木村大作が映画化。CGや空撮を使用することなく、スタッフ・キャスト
が自らの足で登り、カメラに収めた映像は必見。
本作を撮影する監督に密着した『情熱大陸』を観たときから、絶対に観たいと
思っていた作品。質素なワンルームマンションに独りで住み、洗濯機も二層式、
人生の全てを映画に捧げたような監督の情熱を知って、映画好きを自称する
ならどうしても映画館で観たい映画だと思っていた。日本映画の「顔」とも言う
べき魅力的なキャストが、俳優という「職業」や演技という「仕事」を超えて、頂
を見つめている。みんないい顔しています。皇太子さまもご覧になったという
この作品、大ヒットしているようで私が観た劇場も大入り。監督、おめでとうご
ざいます。
「誰かが行かねば道はできない」

立山信仰の象徴であり、「死の山」と恐れられていたという劔岳。一心不乱に
祈りを捧げる行者(夏八木勲)と同じように、何度跳ね返されても頂を目指す測
量隊の姿は、過酷と言うより「狂気」さえ感じさせる。彼らの足元は地下足袋と
草鞋。昔の人は、凄いなぁ。。
しかし、測量隊と競うように劔岳を目指す日本山岳会のメンバーは、ヨーロ
ッパ製の最新の装備で彼らを挑発する。若い測夫信(松田龍平)は苛立ち、
柴崎も焦りから判断ミスを犯してしまう・・・。しかしやんちゃだった信も父とな
り、見下していた長次郎から「自然への畏怖」とも言うべきものを学び、成長
してゆく。
その眼差しからいつも「涼」という字を連想してしまう浅野忠信、相変わらず、
いつも、憎たらしいほど巧い香川照之。松田龍平のスラリと伸びやかな身体、
そして彼以上にロングショットが様になる仲村トオル。いや~、贅沢なキャスト
です。ただ、陸軍少将が笹野高史っていうのだけ、ちょっと弱いかな、と感じ
てしまった(あまり偉い人に見えなかったので)。

難関不落の劔岳なのに、いざ頂上へ、となったときあまりにもアッサリと到着
したような気がして、そこは残念だった。クラシックで統一された音楽も、合っ
ているようなうるさいような、微妙な感じ。しかしシネスコに映し撮られた山々は
荘厳なまでに美しく、人間の小ささを思い、自然の偉大さに感嘆せずにはいら
れない。事故やトラブルはあっても、取り返しのつかない悲劇が描かれていなか
ったのも後味がいい。もっとも、実際は山で命を落とした人も多かったのだろう
けれど。。
「何をやったかでなく、何のためにやったかが重要だ」。何度か語られる「仲間」
という言葉、上も下もなく、同じ使命に向かう人間同士という価値観が、エンドロ
ールまで貫かれていて感動するのだった。
(『劔岳 点の記』 監督・脚本・撮影:木村大作/2009・日本/
原作:新田次郎『劔岳 点の記』/主演:浅野忠信、香川照之、松田龍平)
自由人~『決めないことに決めた つれづれノート16』

「このシリーズも16冊目ともなると、まるで読者の方々と身内のように深い
信頼と愛情でつながっているような気がしてきます。なにがあっても離れない。
暗号さえも、通じるのでは? 永遠の、友達でいましょう。」
カバー裏のこの文章がとってもうれしかった。つれづれ15の感想で私は「大
きな家族」と書いたけれど、銀色さんも同じように感じてくれているんだな、って。
今回も、発売日にダッシュで購入。旧友からの長い、長い近況報告を読むよう
な気分でページをめくる。やっぱりつれづれは面白いなぁ。
しかし今回は泣きましたよ、さくちゃんがかわいそうで・・・。転校先でいじめ
られたって、ホントに辛かったよね。銀色さんも悩んだ様子がよくわかる。でも
あそこで「明日引越します」って言える銀色さんは、凄いよね。尊敬します。
きょうだいがバラバラになったとしても、銀色さん一家ならきっと、うまく行く
んじゃないかな。
私がいつも肯くのは、銀色さんの死生観みたいなもの。孤独死が悪いことだと
は思わない、と何回か書かれていて、それは私も同感。だから『イントゥ・ザ・ワイ
ルド』の批評には唸ってしまった。『ラースと、その彼女』に喰いつく人についても
書かれていて、笑った。私も観ましたよー。
写真は、今回もさくちゃんが麗しく撮られている。さくちゃんって岡田将生くん級
の超・美少年に成長するんじゃないかな。カーカが「ママはさくが好きだよね」って
泣くところもかわいそうだったな~。。さて、カーカは進級できたのか、否か?
17が楽しみです。
(『決めないことに決めた つれづれノート16』 銀色夏生・著/角川文庫・2009)
情熱の国~『それでも恋するバルセロナ』

VICKY CRISTINA BARCELONA
正反対の恋愛観を持つヴィッキー(レベッカ・ホール)とクリスティーナ(スカー
レット・ヨハンソン)は親友同士。ひと夏のバカンスにNYからスペイン・バルセロ
ナにやって来たうら若き美女二人は、セクシーな画家フアン・アントニオ(ハビエ
ル・バルデム)と出逢う・・・。
ウディ・アレンがペネロペ・クルスにアカデミー助演女優賞をもたらしたロマン
ティック・コメディ。私はスペインに行ったことがないので、ヴィッキーとクリスティ
ーナと一緒に観光気分で鑑賞。ああ~、やっぱり行きたい、情熱の国!
言葉遊びのような原題の通り、この映画の主役はヴィッキーとクリスティーナ
と、バルセロナっていう街なんだな~。ガウディの魔法か、濃過ぎて苦手なは
ずのハビエル・バルデムが素敵に見えた・・・。♪バルセロ~~ナ~♪

しかしね。。どんなに真面目でやさしくてお金持ちでも、あの婚約者では・・・。
ヴィッキーは中産階級の人間で、あくまでスクエアな価値観の持ち主。でもバル
セロナに住んだら最後、自分でも気づかなかった情熱が抑えられない。婚約者が
いるのに、結婚したのに・・・。どうしようもなく、フアン・アントニオに惹かれてゆく。
ヴィッキーのロールモデルのような叔母ジュディを演じるは、パトリシア・クラーク
ソン。大好きな女優さん。
クリスティーナはどうして、フアン・アントニオと、マリア・エレーナ(ペネロペ・クル
ス)との円満に見えた三角関係を解消したのだろう? 奔放に見える彼女も、結局
は「厳格で物質主義的」なアメリカ文化からは抜けきれないということなのかな。
絵になる三人が、男×女、女×女で愛し合う様は完璧に映ったのだけれど・・・。
「成就しない恋愛だけがロマンティック」。激情家のマリア・エレーナは、最愛の
フアン・アントニオとの関係において、永遠のロマンスを求めていたのだろうな。
もちろん、無意識に。泣いたり、喚いたり、暴れたりしていないと、生きているとい
う実感が持てないタイプの女性なんだろう。でも、それがまた魅力的なんだなぁ、
困ったことに。

この映画、私は全く笑えなかったし、物凄い皮肉で嫌味な物語のような気もす
る。エンディング、ヴィッキーとクリスティーナの浮かない表情! バルセロナ到着
直後のタクシーの中で、二人が見せた浮き立つような明るさは皆無。帰国して、
今まで通りの生活を選んだのは自分たちなのに、そのこと自体に絶望しているよ
うな・・・。半端な覚悟じゃ、愛には生きられない。メイドイン・ジャパンな私も、観光
くらいにしておこう。。♪バルセロ~ナ~~♪
(『それでも恋するバルセロナ』 監督・脚本:ウディ・アレン/
主演:スカーレット・ヨハンソン、レベッカ・ホール、
ペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム/2008・西、米)
母なる記憶~『八日目の蝉』

不倫相手の子を連れ去った野々宮希和子は、赤ん坊を自分の子だと偽って
育てる決心をする。薫と名付けた娘との逃避行は綱渡りであると同時に、愛情
に満ちた日々だった。
『森に眠る魚』同様、実在の事件にヒントを得て紡がれたサスペンス。赤ん坊
の連れ去り、カルト的な新興宗教団体などの現代的な要素を散りばめながら、
母と子の愛情、家族の絆についての感動的な物語になっている。冒頭から引き
込まれ、滂沱の涙を流しながら読了。しかし、私のツボは一般的なそれとは少し
異なるかもしれない。
『クリクリのいた夏』の感想にも少し書いたけれど、幼い頃、夏中を海辺の祖父
母の家で過ごした。そこは瀬戸内海に浮かぶ島(小豆島ではないけれど)で、
本作に描かれる風景は私が幼い頃から見慣れたものと同じだった。
あまりにも懐かしく、情景がありありと浮かんで来て、思わず追憶に浸る。神奈
川出身だという角田さんは、かなり丹念に取材されたのではないだろうか。瀬戸
内の風景だけでなく、関西弁にも全く違和感はなかった。
橙の夕日
鏡のような銀の海
丸みを帯びた緑の島
母って、故郷のことなんだな。私の心の故郷は、瀬戸内の海だ。
(小説とは関係ないことばっかり書いてしまった・・・感想になってないですね)
(『八日目の蝉』 角田光代・著/中央公論新社・2007)
秘密と嘘と罪~『ディア・ドクター』

Dear Doctor
水田が連なる僻村の診療所に、研修医の相馬(瑛太)がやってきた。彼を迎え
たのは、善良そうな医師の伊野(笑福亭鶴瓶)。村の人々が「神さんより、仏さん
より大事」と崇める彼はしかし、大きな嘘を抱えていた。
日本映画を背負って立つ才媛・西川美和監督の最新作。僻地の偽医者を主人公
に、人間の心に潜む「悪意」をあぶり出す「西川調」は健在。震える携帯電話、台所
の流しで溶け出すアイスクリームなど、映像面でも「らしさ」が垣間見える。
先日放映されたNHK『トップランナー』では、本作は「自分のことを描いた」と語って
いた監督。『ゆれる』でいきなり脚光を浴び、世間の考える「才能溢れる若き女性監
督」像と、自分自身とのギャップに悩み、本作を執筆したという。小柄で浅香唯似の
かわいらしい外見とは裏腹な、自信に満ちた受け答えが印象的だった。

湿潤な田園風景が映し出される冒頭シーンから、まさしく「邦画!」という印象。
よくこんな絵になるロケ地を探して来たな、と感心するほど美しい。そこに現れた
黒づくめの刑事。松重豊、岩松了と言えば『転々』での軽妙な「ボケたおし」が思
い出されるが、本作では一転、シリアスな雰囲気。この二人をはじめ、小さな役
にも邦画の「顔」とも言うべき役者が出演し、細部から映画を支えている。
主演の鶴瓶はもちろん、瑛太も香川照之も、持ち味を十二分に発揮した演技だ
ったと思う。そして、彼女がいなければ医師としての伊野が成り立たなかったと
同様に、やつれ気味のシングルマザー、看護師を演じた余貴美子の存在がなけ
れば、絶対にこの物語は成立しなかったと思う。抑制された、しかしリアルな演技。
余さんは本当に、本当に素晴らしい女優さんだと改めて思う。

地域でたった一人の医師である伊野に頼り切っていたのに、真実を知った途端、
手の平を返す村の人々。この辺りの描き方は、相変わらず容赦ない。伊野の失踪
から時間を遡って出来事を描写し、登場人物たちの心情に迫ってゆく構成も巧い。
しかし惜しむらくは、監督自身を描いたという伊野という人物、彼自身の内面には
今一つ迫れていないし、暴き切れてないような気がした。彼は何故、嘘をついたの
か。彼の目的は何だったのか。金、名誉欲、善意、愛情。それら全てを内包した
伊野の内面に、もっともっと迫って欲しかったと思う。正解を示せと言っているわけ
ではない。秘密と嘘を抱えた人間の心の荒波を、もう少し観たかったと思うのだ、
『ゆれる』のように。
平日にも関わらず、満席だったことに驚き、うれしくも思う。地味だけれど、強い
引力を持った作品であることは間違いないだろう。本作の原作が収められている
短編集『きのうの神さま』は直木賞候補。是非読んでみたい。
♪どんな道草にも花は咲く・・・
(『ディア・ドクター』 監督・原作・脚本:西川美和/2009・日本/
主演:笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、松重豊、岩松了、香川照之、八千草薫)
最強のコスメ~『世界一の美女になるダイエット』

日本在住12年、ミス・ユニバースジャパン公式栄養コンサルタントのオースト
ラリア人女性、エリカ・アンギャル氏。知花くららや森理世を送り出した彼女の、
「内面から美しく」なるための秘訣とは?
いや、別にミス・ユニバースに出たいとか、世界一の美女になりたいとか思っ
ているわけじゃないんですよ(当たり前)。でもね、せっかく女に生まれたからに
はやっぱり、いつまでもキチンとしていたいじゃない!? しかし幻冬舎は宣伝
が巧いわ。いつもいつも、乗せられる私・・・。ただし、この本はオススメですよ。
見開き一ページ毎に、美しくなるための項目が書かれ、とてもわかり易い。難し
い理論やエクササイズは一切ナシ。自分も、できることから始めてみよう!と思
えます。
意外だったのは、良質の油(ナッツ類も)を積極的に摂ることが薦められてい
ること。ナッツなんて、昔は食べたら顔にブツブツができる!って敬遠されてい
たんじゃないかな~? そして、今大ブームのコラーゲン飲料(フラコ○とか)よ
りも、青汁が推奨されていること。特にファンケルのものがオススメだそうで、
早速購入、人生初☆青汁体験しました。めっちゃクセのある緑茶(笑)と思えば、
飲めますよ~!
高価な美容液やクリームを使うのではなく、内面から変わろう、というコンセ
プト。結局、なるべく自然でオーガニックなものを、バランスよく摂ろう、これに
尽きる。「最強のコスメは食卓の上にある」という考え方なんですね~。
う~ん、超・甘党のワタシ、アイスクリームが止められるかなぁ。。
(『世界一の美女になるダイエット』 エリカ・アンギャル・著/幻冬舎・2009)