風に吹かれて~『アヒルと鴨のコインロッカー』

大学入学のため、仙台に越してきた椎名(濱田岳)は、河崎と名乗る不思議な
雰囲気の隣人(瑛太)に声を掛けられる。「ディラン?」
How many roads must a man walk down ・・・
伊坂幸太郎の同名小説の映画化。『重力ピエロ』がとってもよかったので、録画
したままになっていた本作を観る。う~ん、面白かった!謎めいた展開の前半は
少し吸引力が弱めだけれど、松田龍平が登場する中盤以降は目が離せない。
「そうだったのか・・・」と、オープニングの場面を思い出して納得。しかもチョイ役
(椎名の同級生)で岡田将生くんも出てるじゃない!! まだ磨かれない原石と
いう感じだけれど、すっごく得した気分♪ 観てよかった~。。
私は東京以北は北海道にしか行ったことがないので、東北のイメージってほぼ
ゼロ。でも仙台が大都市なことくらいは知っている。『重力ピエロ』では出演者が
みな標準語をしゃべっていたので、仙台って訛り、ないのかな?と思っていたの
だけれど。「日本さ来たら、日本語しゃべんねぇど~」バスの運転手さんのセリフ
で腑に落ちた。

濱田岳って初めて見た。プロフィールを知ってビックリ、88年生まれって・・・、
ええぇぇ~~~!! なんかもう「10年選手」って雰囲気。若いのか老けてるのか
わからん。。そういえば『鴨川ホルモー』の予告で、チョンマゲ姿だったのが彼な
のか。
松田龍平も、演技しているところは初めて見たような。彼ってなかなかいい
じゃない? 松田優作の長男で、翔太の兄貴、っていう認識しかなかったけど。。
これは『蟹工船』が楽しみだ♪
そして、一番の驚きが瑛太くん。彼ってカッコよかったんですね(爆)。耳の大
きい小松帯刀という印象しかなかったのに、背が高くてスタイルもいいんだな~。
小栗旬くんと、ちょっとキャラがかぶるのかも? まぁあの二人は従兄弟です
からね、磯野家では(笑)。演技も上手だし、今いろんなジャンルの作品で引っ張
りだこなのも、わかる、わかる。プライベートでも、龍平とは親友だとか・・。
二人の共演作『青い春』が観た~い。。瑛太の映画デビュー作でもあるんだよね。

しかしこの映像が、小説ではどんな風に表現されているのか全く予想がつか
ない。ドルジの、河崎や琴美(関めぐみ)への想いが切なくて、愛おしくて・・・。
伊坂幸太郎の小説って、法や世間体で裁けない良心や善悪について書かれた
ものが多いのだろうか。私だって、神様を閉じ込めてしまいたいよ。
The answer is blowin' in the wind.
(『アヒルと鴨のコインロッカー』監督:中村義洋/
主演:濱田岳、瑛太、関めぐみ/2006・日本)
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~ 『1Q84』 ~
5月最後の木曜日、雨。村上春樹の新作を買う。
発売日は「5月29日」金曜日だとばかり思っていた。
Amazonでは予約せず、仕事帰りに買おうかな・・・くらいの気持ちだった。
ところが木曜の朝、NHKのニュース。「村上春樹さんの7年ぶりの新作が、今日から
全国の書店に並びます」 ナニーーーー!!
『消されたヘッドライン』を観に行く予定をヤメにして、書店へ走る。外は雨。
しかも横殴り(泣)。でもそんなのカンケーねぇ。
カウンターの上に、それはひっそりと平積みになっている。上から2冊目を取り
出す(我ながらセコイ)。ずっしりと重い。
発売前から異例の大増刷がなされたという村上春樹の『1Q84』。上巻、下巻
でなく、「BOOK1」「BOOK2」なのがハルキさんらしいのかな。
感想は、またいつか(書けたら)。

発売日は「5月29日」金曜日だとばかり思っていた。
Amazonでは予約せず、仕事帰りに買おうかな・・・くらいの気持ちだった。
ところが木曜の朝、NHKのニュース。「村上春樹さんの7年ぶりの新作が、今日から
全国の書店に並びます」 ナニーーーー!!
『消されたヘッドライン』を観に行く予定をヤメにして、書店へ走る。外は雨。
しかも横殴り(泣)。でもそんなのカンケーねぇ。
カウンターの上に、それはひっそりと平積みになっている。上から2冊目を取り
出す(我ながらセコイ)。ずっしりと重い。
発売前から異例の大増刷がなされたという村上春樹の『1Q84』。上巻、下巻
でなく、「BOOK1」「BOOK2」なのがハルキさんらしいのかな。
感想は、またいつか(書けたら)。

最強の家族~『重力ピエロ』

「春が二階から落ちてきた」
大学院で遺伝子を研究する泉水(加瀬亮)と、美し過ぎる容姿を持つ春(岡田将生)
は仲のよい兄弟。彼らが住む仙台の街で、連続放火事件が起こる・・・。
新型インフルエンザ騒動?で、一週間映画館に行けなかった(仕事は行ったけど)。
さあ、映画行くゾ!とばかりに最初に選んだのが本作、大人気作家・伊坂幸太郎の
同名小説の映画化。伊坂氏の小説は(なんと)読んだことがない。映画化された作品
も観たことがない! 実は、原作は読んでみようと図書館で借りてあったのだけれど、
やはり「まっさら」状態で映画を鑑賞したいと思い、読まずに返却したのだった。
それが功を奏したのかどうか、伊坂ワールド初体験は大満足。素晴らしい作品だっ
た。原作のファンが、どうご覧になったのかが気になるところ。

桜の花びらが舞い落ちるオープニング。この最初の数分間が、映画全体の伏線
になっている構造が巧い。長身で美しい弟、冴えない眼鏡の理系男子な兄、そして
もっと冴えない父。観始めた頃は「なんで岡田将生の父親が小日向文世なんだ?!
現実味ゼロのキャスティング、ブーー!!」なんて思っていたのに、小日向文世が
だんだんすっごい男前に見えてくる。深刻なことは明るく伝えよう。気休めは大事。
「俺たちは最強の家族だ」
加瀬亮くんの演技を「自然だ」と絶賛することに、私は異議を唱えたい。彼の演技
って、いつもどこか、ぎこちない。でもその「ぎこちなさ」こそが彼の最大の持ち味で
あり、そこから役に対する誠意や熱意、思い入れが透けて見えてくるところが、彼
の得難い才能なんだと思う。
岡田将生。春の抱えるいらだちや苦悩、着火寸前の導火線のような危うさを、
クールな演技で体現してくれた。彼の素材としての素晴らしさはもちろん、演技
も堪能。今年観逃して悔しい映画ナンバーワンはやっぱり『ハルフウェイ』かしら
ん。。ナツコにでもアキヨにでもフユミにでもなって、私は春を抱きしめたい!
そして、久々の渡部篤郎。飄々として掴みどころがなくて、憎々しくて不気味。
相変わらず「絵に描いたような極悪人」を軽々と演じてくれる。それぞれが役に
フィットして、これ以上のキャストは、ちょっと思いつかない。
しかしこの映画の唯一にして最大の欠点は、小日向文世の「ヅラ」。どうして
あんなコントでかぶるようなモノしか用意できないのだろう? もっと予算を割い
てくれと言いたい。

「妻は絶対に自殺なんかしない」と父は言う。私もそう思う。だからこそ、自殺の
ようにも見えてしまう母(鈴木京香)の事故の描写が悲しかった。楽しく生きれば、
重力だって超えられる。きっと自由に、空だって飛べるはず。落ちたんじゃない、
春は「飛んだ」んだ。。オープニングと呼応するラストショット。「俺たち、これから
どうすればいい?」 春、生きろ。これからもずっと。
(『重力ピエロ』監督:森淳一/原作:伊坂幸太郎/
主演:加瀬亮、岡田将生、小日向文世/2009・日本)
水よりも濃く~『レイチェルの結婚』

RACHEL GETTING MARRIED
矯正施設で治療中のキム(アン・ハサウェイ)は、一時帰宅を許される。最愛
の姉、レイチェル(ローズマリー・デウィット)の結婚式に出席するために・・・。
アン・ハサウェイがアカデミー主演女優賞にノミネートされた本作は、ジョナサ
ン・デミ監督、製作のドキュメンタリータッチな家族劇。手持ちカメラによるホーム
ビデオ風の映像は、キムの落ち着きのない心のように、揺れ動く。人生最良の
「ハレの日」に向き合わざるをえない、家族の過去と深い傷跡。アンの大きく見
開かれた瞳は、修復しようのない亀裂を覗き続けるように暗く、澱んでいた。

16歳の少女には、それは重すぎる十字架だっただろう。自らの肩に刻印し、決
して消せない傷跡。。それでも父は、義理の母は、そして姉は彼女を受け入れよ
うとする。実母のアビー(デブラ・ウィンガー)以外は・・・。
アビーにとって、幼い息子の死がどれほどの衝撃だったか。彼女が家を出たこ
と、娘を許せないことを、誰も責めることはできないだろう。そして神にもすがれず、
自分自身を責め続けるキムの絶望と孤独・・・。
水よりも濃い血で繋がった家族だからこそ、愛と憎しみは乱高下する。結婚式
の喧噪の中、一人小さな灯籠を流して、弟を弔うキム。後悔と自責の念に苛まれ
続ける彼女の中に、イーサンは生き続けているのだ。だからこそ、父はキムに執着
し、母は彼女を遠ざける。

アンが主演だという以外は、ほとんど予備知識のないまま鑑賞した。だから、
デブラ・ウィンガーが登場したときには、あっと声を出しそうになったほど。
首の皺が年輪のように、彼女から過ぎた時間を語っている。新郎シドニーは
インド系なのだろうか、ナンやサリーやカレーや、象がモチーフになったウェ
ディングケーキが素敵。
ニューイングランドの中流家庭で、ベッドルームが何室あろうと、庭にプール
があろうと、何らかの秘密や確執があるのが家族というもの。結婚して新しい
命が育まれるだけでなく、離婚してさえも家族は拡大してゆく。この、愛おしく
も面倒な繋がり。母を見送るキムのすがるような瞳、そしてキムが去った後の、
レイチェルのなんともすっきりとした表情! この作品はアン・ハサウェイの演技
だけが注目された感があるけれど、全てのキャスト、とりわけレイチェルを演じた
ローズマリー・デウィットの演技も素晴らしかった。妹をいたわりつつも妬み、憎
み、両親の愛を渇望している様が、リアルで、痛々しくて。
音楽とダンスとアルコールが弾ける宴の後で、また新しい家族の一ページが
始まる。人は罪を犯し、苦しみ傷つけ合いながらも求め合う、悲しい生きもの。
きっとみんな、掛け値なしに愛し、愛されたいだけなのにね。
(『レイチェルの結婚』監督・製作:ジョナサン・デミ/2008・USA/
主演:アン・ハサウェイ、ローズマリー・デウィット、デブラ・ウィンガー)
闇夜の疾走~『チェイサー』

THE CHASER
元刑事で、今は夜の女たちの「元締め」を稼業とするジュンホ(キム・ユンソク)。
店の女たちが次々と失踪し、不審に思ったジュンホは客の電話番号を洗い出す。
韓国で大ヒット、映画賞を総なめにしたというクライム・サスペンス。本当に
久々に、震えるような映画を観た。日常の何もかもを吹き飛ばし、スクリーンに
吸い込まれるような極上の映画体験! R-15指定でも緩いと思うほどに血生
臭く、毒々しい描写も多数ある。しかしそれを補って余りある疾走感、オープニ
ングからラストまで、全く途切れない緊張感、溢れ出るパワー!! まさにこう
いうのを「鷲掴み映画」って言うんだろう、しかもすっごい剛腕。参りました、傑作
です。あと5分短かったら、名作になっていたかもしれない。しかし、何れにしろ
必見ですよ、映画好きの皆さん!
韓国映画、最近『映画は映画だ』を泣く泣く見送ったので、これはどうしても
観たかった。しかし私の「韓国映画ベスト10」もリストアップし直さねば・・・。
当然、本作はベスト入りですね。決して「好きな映画」ではないけれど、凄い
映画であることは間違いないですから。

信じがたいことに、監督・脚本は本作がデビュー作だという。猟奇的殺人、雨の
夜というモチーフから、ポン・ジュノの『殺人の追憶』を想起される方も多いだろう。
しかし、この映画はあの傑作を超えているかもしれない。黒光りする闇は『イース
タン・プロミス』のようでもあり、『オールド・ボーイ』のようでもある。
ジュンホは、無駄に元気な破壊的キャラ。演じるキム・ユンソクは、ソン・ガンホ
とチャン・ドンゴンとチェ・ミンシクを足して3で割ったような風貌。彼の主演作を初
めて観たが、体当たりの大熱演が迫力たっぷり。シリアルキラー、ヨンミンを演じ
るは、『絶対の愛』でモテ男を演じて「?」だったハ・ジョンウ。すみません、私は
あなたを見くびっていました・・・。そして目を引いたのは、拉致されるミジン(ソ・
ヨンヒ)の娘のかわいらしさ! 宮崎あおい似で、ぷくぷくのこまっしゃくれ娘が
もう、最高なんです。

緊迫感を煽る音楽も効果的で、ドキドキが止まらない。ジェットコースターの
ようにスピーディで、なおかつシンプルでわかり易いストーリー運びにも驚愕!
脚本家の頭の中で複雑になり過ぎた「難解な」物語には辟易している。たった
一夜の出来事をこんなにもスリリングに、観る者の予想を裏切り続けながら押
し切る手腕には、脱帽するしかない。声に出して笑ってしまうようなユーモアも
散りばめながら、この作品には生身の人間同士がぶつかり合う生命のエネル
ギーが充満している。それは過剰に描かれる「死」よりも、遥かに観る者の心を
離さない。
観終わって、場内が明るくなっても緊張は解けず、しばし呆然。口に出して
「凄かった・・」とつぶやいた瞬間、何かがほどけて涙になった。
(『チェイサー』監督・脚本:ナ・ホンジン/2008・韓国/
主演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ソ・ヨンヒ)
テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画
あなたはそこに~『君が降る日』

恋人・降一を交通事故で亡くした志保は、大学を休学し、彼の実家の喫茶店を
手伝うことで現実と折り合いを付けていた。そこに現れたのは、事故車を運転し
ていた降一の先輩、五十嵐だった・・・。
島本理生の新作は、三編からなる短編集。表題作は素晴らしい出来だと思うけ
れど、作者自身があとがきで「ハードルが高い」と語っている通り、「恋人の死」と
いうテーマがダイレクトに読後感に影響するタイプの作品。故に、好き嫌いは分
かれるかもしれない。『冬の動物園』は個人的に大好きで、共感を覚えた作品。
そして最後に収録されている『野ばら』は傑作。ラストで主人公・佳乃は泣いてい
ないが、その涙を読み手が引き受ける形で、心に大きな波紋が広がる。最後の
1ページには、しばらく他の本を読む気が起こらなかったほどに、心揺さぶられた。
ここに描かれているのはまさに「青春のリグレット」。島本理生さん、やっぱりあな
たは天才です。
島本さんの作品に登場する男子は「だめんず」であることが多い。『君に降る日』
の五十嵐も、そうであると言えなくもない。しかし『冬の動物園』に登場する高校生、
森谷君のなんと快活で、大人なことか! 私は美穂のことを他人とは思えないこと
もあり(わかるな~、ああいう感じ!)、この短編が与えてくれる希望が大好きだ。
そして『野ばら』。雪の日の出逢いから、祐と佳乃が互いを思いやりながらも分か
りあえなかったこと、踏み出そうとしなかったこと。共有できなかった思い、傷つき、
傷つけ続けた時間の重み。最後までわからなかった佳乃、最初からわかっていた
祐。彼が佳乃に教えた詩『あなたはそこに』。谷川俊太郎のまいた言葉の破片が
形を変えて、痛ましい思春期のためのレクイエムに生まれ変わったような・・・。
もちろん、読了した直後に『あなたはそこに』を探した。その話はまた、別の機会
に。
(『君が降る日』島本理生・著/幻冬舎・2009)
男と女のコン・ゲーム~『デュプリシティ/スパイは、スパイに嘘をつく』

DUPLICITY
MI6諜報員のレイ(クライヴ・オーウェン)は、デュバイでCIAエージェントの
クレア(ジュリア・ロバーツ)に騙され、民間企業の諜報部門に転職する。NY
で活動中のレイの前に、再びクレアが現れ・・・。
クライヴ・オーウェンとジュリア・ロバーツが『クローサー』以来久々に共演
したサスペンス。先月公開された『ザ・バンク』ではインターポール捜査官だっ
たクライヴは、今回は元MI6諜報員という役どころ。NY、ローマ、チューリッヒ
等々、世界の都市を駆け巡るところも『ザ・バンク』とかなり似ている。役名も
「ルイ」と「レイ」だし。ラスト近く、ウルリッヒ・トムセンまで出てきたのには
ビックリ、もう、被り過ぎ(笑)。ストーリーはちょっと時制がややこしいけど、
面白かった、かな。監督・脚本はトニー・ギルロイ。ジェームズ・ニュートン・
ハワードの音楽もいい。

ライバル企業同士の情報戦に便乗して、一儲けしようと企む二人の元スパイ。
愛し合ってはいても、スパイの習性からどうしてもお互いを信じ切れない。彼ら
は本当に愛し合っているのか、それともどちらかが相手を出し抜くのか。それは
結局、最後の最後まで観ている私たちにもわからない。
久々のジュリア・ロバーツは、容姿は劣化気味ではあるにしても、まだまだ
存在感十分。しかし本作で一番感心したというか、唸ったのはポール・ジアマ
ッティの演技。いつも巧い役者さんだけど、今回も本当に、すごく巧い!
新興企業のCEOとしての焦燥や劣等感、老舗企業B&R社のCEO、ハワード・
タリー(トム・ウィルキンソン)を出し抜いたときの優越感、株主総会演説での
恍惚。ラストの脱力まで、全ての感情の表わし方がやり過ぎ寸前でリアリティ
を保っていて、もう、最高! 出演場面は少ないけれど、トム・ウィルキンソン
の老獪さ、狡猾さもさすが。クライヴ&ジュリアよりも、この二人の演技合戦
をもっと観たかった気がするのだった。

しかしこの映画、時制の崩し方で故意にストーリーを分かり難くしているよ
うな印象を受けた。何年前、何ヶ月後、というテロップは出るのだけれど、レ
イとクレアの容貌も変化しないし、彼らがその時点でどういう状況にいるのか
がイマイチ判らない。スパイ映画だから、分かり難くて当然なのかな? それ
とも分からなかったのは私だけ? いやいやそんなハズはない、隣の席の
奥様なんて、途中から爆睡状態でしたよ。
(『デュプリシティ/スパイは、スパイに嘘をつく』監督・脚本:トニー・ギルロイ
/主演:クライヴ・オーウェン、ジュリア・ロバーツ/2009・米、独)
カンヌとか、松ケンとか。 ~ 再開します ~

絶賛開幕中のカンヌ映画祭。
今年のラインナップはめちゃくちゃ
豪華なメジャー路線な気がします。
パルムドールの行方は??
気になりますね~。
『ノルウェイの森』、主役は松ケンに。。ワタナベくんには松ケンか、加瀬亮くん
しかない! と思っていたので正直うれしいです。しかし、直子が凛子さんか・・・。
どっちかというと彼女は緑な気がするのですが。
レイコさんが霧島れいかさん、というのも驚き。『運命じゃない人』しか知らない
けど、全然イメージじゃないよ。。私の中では、もっと年齢高めの女優さんを想定
していたので。。余貴美子さんとかさぁ。
気になるのは、ハツミさんをどなたが演じるのか? ということです。「ミッドナイ
ト・ブルーっていうのよ」

公開は2010年秋か。。
首が伸びそう。
スタッフ、キャストの皆さん、
いい映画撮ってね。
さて。拙ブログ、なんとか再開することができました。
休止前は、なんだかすごく疲れていて・・・。『レッドクリフ』で寝た自分が信じ
られなかったし、『バーン・アフター・リーディング』も楽しめなかったし。
「これはイカン!」と思ってしまったんですね。でも、いただいたコメントやTBを
放置するのは自分自身が耐えられないんですよ。だから、休止の告知をさせ
てもらいました。休止中は、温かなコメントをありがとうございました。
今後もマイペースで続けていきたいと思っています。疲れたら、休む。書きた
いことを書く。無理しない。みんな違って、それでいい!
今後ともよろしくお願いします。
真紅拝
巨匠の遺言~『グラン・トリノ』

GRAN TORINO
妻を亡くしたウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)は、偏屈で差別
主義的な悪態をつく「頑固ジジィ」。移民ばかりになった町を嘆く彼の隣家には、
モン族の一家が暮らしていた。
ハリウッドの巨匠、クリント・イーストウッドが「俳優としては最後の作品」と語
る本作は、監督自身が自らの生き方と、理想の「死に様」を投影したかのような
作品。賞レースで、全くと言っていいほど話題に上らなかったことには首を傾げ
てしまう。アメリカでもその存在を知る人は少ないというモン族の俳優を起用し、
たとえ低予算でも、物語の「芯」を観る者に伝えようとする製作者の心意気を感
じる。
映画の日、レイトショーの劇場は人いきれで息苦しいほど。客層は男性率高く、
前方席を除けばほぼ満席状態での鑑賞。イーストウッド人気、健在なり。

ピアノの音色とともに、静かに物語は幕を開ける。妻の葬儀、喪主として立つ
ウォルトは、孫たちの立ち振る舞いに我慢ならない。妻を亡くした悲しみも忘れ
て「ガルルルル・・・」と猛犬のように唸る。全く枯れていないおじいちゃん。
そんな彼が、隣家の娘、モン族のスーと交わす友情は温かい。頭が良くて気丈
な彼女は、ポーリッシュの頑固ジジィだろうが、フォードで熟練工だった帰還兵
だろうがお構いなし。「ウォ~リィ」なんて呼ばれて、ウォルトが彼女のペースに
はまる過程が微笑ましい。ラブラドールの老嬢、デイジーの演技も最高!
教会、家族と距離がある孤独な老人、一度は拒絶した若者を育てる姿に、名作
『ミリオンダラー・ベイビー』がだぶる。あの作品を「恋愛映画」だと評した人がい
たけれども、ウォルトがスーに感じたのもある種の「恋愛感情」だったんじゃないか。
変わり果てたスーの姿を見たウォルトの狼狽、一筋の涙。いつも彼を気にかける
神父が駆けつけた時、まだ彼の瞳は濡れていた。

一人の老人の、人生の「落とし前の付け方」を描くと同時に、この作品は「移民
国家」アメリカの「今」を映し出しているのだろう。イタリア系、アイリッシュ系、
ユダヤ系、アフリカ系、ラティーノ、そして「イエロー」。変化し、混じり合うから
こそ強くなり、淘汰されていく世界。ウォルトの息子や、モン族のワルたちが乗
っているのが日本車(TOYOTA、HONDA)であることが申し訳ないような、肩身
が狭いような気分になる。日本で暮らしているとわからないけれど、アメリカでは
私だって「イエロー」なんだな。。なんて考えてしまう。
ウォルトが「旅支度」を始めた頃から涙腺は決壊し、劇場が明るくなっても涙は
止まらなかった。エンディングで聞こえてきたイーストウッドの歌声が、いつまで
もいつまでも、リフレインして・・・。大勢の人たちとエレベーターに乗る気がしな
くて、階段で一人、劇場を後にした。タイトル通り、この映画は誰もが振り向き、
羨望と憧れの眼差しを送るヴィンテージ・カーのよう。「続き」は若い世代に託し、
自らの「葬儀」まで演出してみせた、イーストウッドの映画人魂にただ、ただ、脱帽。

So tenderly
Your story is
Nothing more
Than what you see
Or
What you've done
Or will become
Standing strong
Do you belong
In your skin
Just wondering
Gentle now
The tender breeze
Blows
Whispers through
My Gran Torino
Whistling another
Tired song
Engine humms
And bitter dreams
Grow heart locked
In a Gran Torino
It beats
A lonely rhythm
All night long
It beats
A lonely rhythm
All night long
It beats
A lonely rhythm
All night long...
(『グラン・トリノ』監督・製作:クリント・イーストウッド/2008・米、豪/
主演:クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン、アーニー・ハー)
同行二人~『悼む人』

日本中を徒歩で旅しながら、行く先々で死者を悼む青年、坂築静人。彼と出会
い、戸惑いながらも共に旅をする女性、彼を追う雑誌記者、そして末期癌を患う
母・・・。
寡作の作家・天童荒太が七年ぶりに世に問う、生と死を巡る物語。第140回
直木賞受賞作。 「悼ませていただきます」
各章のタイトルが「目撃者」「保護者」など、全て「~者」となっているところが、
先日本屋大賞を受賞した湊かなえ著『告白』と同じで面白い。(『告白』は少し
前に読了したが、感想は書いていない)
天童荒太といえば『永遠の仔』。児童虐待とそのトラウマについての、長い、長い
物語は衝撃的だった。あの小説に書かれたような酷い虐待がフィクションでなく、
事実だと当時は信じ難かったけれど・・・。残念ながら、子どもたちを取り巻く環境
は更に悪化していると言えるかもしれない。しかし、人間の心の成り立ちを、深く
長い視点で見つめようとする作者の真摯な文体は変わることがない。
静人の「悼む旅」を全肯定はできないし、共感もできない。しかしさほど違和感
もなかったのは、静人の姿に四国八十八か所を巡るお遍路さんを連想したから
かもしれない。
四国を車で走っていると、歩き遍路さんをたくさん見かける。最初は珍しく
て見かける度にビックリしていても、そのうちに彼らは風景に馴染んでくる。
愛媛県出身だという作者にも、お遍路さんの姿は心の原風景としてあるんじゃ
ないかと感じた。
本作の主人公は「悼む人」である静人であるけれど、彼は狂言回しのようにも
感じられる。彼を巡る人々、、とりわけ母の巡子の物語が心に残る。死は終わ
りではなく命は巡り、たとえ肉体は滅んでも、その人の魂は今と別の場所で
存在し続ける。そんな死生観が、「巡子」という名前に込められている気がした。
きっと何年も、何年もリサーチし、リライトしながら書き上げたであろうこの
作品。私もじっくりと、噛みしめるように読んだ。賛否両論あることは想像に
難くない、しかし私は、作者の提示した「光」をただ、受け止めたい。
(『悼む人』天童荒太・著/文藝春秋・2008)