家族の終わりに~『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』

REVOLUTIONARY ROAD
1955年の夏。ニューヨーク郊外の瀟洒な住宅街に暮らすフランク(レオナル
ド・ディカプリオ)とエイプリル(ケイト・ウィンスレット)夫妻は、美男美女の理想
的なカップル。しかし、その内実は・・・。
「あなたが誰と寝ようと何も感じない。誰とでも好きに寝て」
ケイトの夫であるサム・メンデス監督によるシニカルなドラマ。何不自由ない
暮らしの中で、主人公たちが探し始めてしまった「こんなはずじゃなかった」人生。
『タイタニック』カップルの11年ぶりの再共演というだけで心弾むはずが、予告を
観て「絶対、滅入りそうな映画」とわかってしまった。覚悟して観に行ったのだけ
れど・・・。こんなに虚しい響きの「I Love You」は耳にしたことがない。
副題の「燃え尽きるまで」は意味不明。「燃え尽きるまで大喧嘩」でしょうか。
あの夫婦バトルは、日本人にはちょっと受け入れ難いと思われるほどの迫力。
レオ&ケイトは大熱演、特にケイトは超音波まで出してます。愛の反対は憎しみ
でなく無関心、と言ったのは誰だったか・・・。

設定(郊外の住宅地、専業主婦の不満、浮気、不倫、トーマス・ニューマンの音楽)
が酷似している『リトル・チルドレン』に出演したばかりなのに、ケイトは夫の演出、
レオとの再共演、という企画には抗えなかったのだろうか。GG賞の主演女優賞を
獲得して、十分報われたとは思うのだけれど。
自分たちは「普通の」人たちとは違うんだ、自分たちは特別なんだ、と思い込んで
いる人間の浅はかさよ・・・。「君たちの計画は現実的じゃなかった」周囲の人々が
言うように、今自分が手にしているものをよく見極めてから、現実的な範囲で何かを
始めればよかったのに・・・。そういう選択が許されない時代だったのだろうか?
そしてこの夫婦にとって、子どもって一体ナニ? と激しく疑問に思ってしまった。
子どものために、という視点が全くないし、子どもたちに呼びかける場面すらなく、
名前もわからない。謎。
『タイタニック』からのもう一人の生存者、キャシー・ベイツも相変わらずの怪演。
その息子ジョンを演じたマイケル・シャノンは、アカデミー助演男優賞にノミネート
されている。数学の博士号を持ちながら、精神を病んでいるジョン。しかし、彼の
言う事は登場人物中一番「まとも」なのが何とも皮肉! 本当の事を言えば疎ん
じられ、空気を読めと糾弾され、関係が破綻する大人の世界。その住人であろう
とすれば、心を病んでしまうのも仕方ないと思えてくる。自分を諦められる人は、
補聴器のボリュームを絞って自衛するのだろうけれど。

ジャックとローズが生き残って、結婚していたらどうなったか? という観方も
できる映画、とどこかで読んだ気がする。レオはアゴのたるみ以外は、演技も
容貌もほとんど昔のまま。彼の演技が進化していないというわけではなくて、彼
の演技は最初から完成していた印象が強いから。確かに巧いのだけど、レオか
ら少年っぽさがなくなる日って来るのかな、とも思う。その日が来るのが、少し怖
い気もするけれど・・・。
エンドロールで、「For Mia and Joe」というクレジットを見つけた。でも、
この映画、私だったら捧げられたくないなぁ・・・(苦笑)。劇場は、年配の方が
多かった。若いカップルが観る映画じゃないですね、確かに。
(『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』/2008・米、英/
監督・脚本:サム・メンデス/主演:レオナルド・ディカプリオ、
ケイト・ウィンスレット/原作:リチャード・イェーツ『家族の終わりに』)
スポンサーサイト
二倍の幸せ~『スクスクの掟』

イラストレーター&映画コラムニストの石川三千花さんが45歳で双子のママ
になったことは『石川三千花の勝手にシネマフィーバー』の感想記事で触れた
けれど、彼女が自らの妊娠・出産にまつわる本を出しているとは知らなかった。
↑この表紙、アップするのにちょっと勇気が要りました(汗)。でも中身は変
わらないミチカテイスト満載。イラストあり、本音と辛口のLove&Hateあり。
経産婦が三人集まると「難産自慢」になると言われているが(誰も言ってない)、
自分の身体の変化を冷静に観察し、どんな状況でも前向きに捉えるミチカさん
らしい、楽しくて笑える出産体験記になっている。
ハッピーオーラ満載の本書を読んでいたら、なんだか涙が出てきたゼ、チク
ショー!! 11歳年下の「マサシちゃん」ことダンナさんの、まぁ素敵なこと!
外見は、眉が太~い濃ゆい顔系なんだけど、男前さんです。そしてとっても
ロマンチスト! しし座流星群を眺めながら「ミチカちゃんと結婚して子どもが
生まれますように」なんて願いをかけてくれるねんよ~、ヒェ~~~。。
その思い出にちなんで、双子ちゃんのお名前は「流星」くんと「遊星」くん。
名前に「遊」って漢字を入れたいなんて、秋吉久美子かと思ったわ(爆)。
もちろん、双子ちゃんは滅茶苦茶かわいいです。男の子の一卵性双子なん
で、ちょっと「ザ・たっち」入ってるかも?
「あとがき」でさり気なく明かされる、ミチカさんの超ポジティブシンキング
の理由。人生を二倍エンジョイする、ミチカ家族に幸あれ!
(『スクスクの掟』石川三千花・著/主婦の友社・2004)
天国のほとりで~『そして、私たちは愛に帰る』

AUF DER ANDEREN SEITE
THE EDGE OF HEAVEN
ハンブルグの大学で教鞭を取る、トルコ系ドイツ人のネジャット(バーキ・ダヴラ
ク)。彼はブレーメンに住む年金生活者の父アリ(トゥンジェル・クルティズ)が、
トルコ人娼婦イェテル(ヌルセル・キョセ)と同居を始めたことを知る。イェテルに
は、イスタンブールに残してきた一人娘アイテン(ヌルギュル・イェシルチャイ)が
いた。
トルコ系ドイツ人監督、ファティ・アキンが本作でカンヌ映画祭脚本賞を受賞し
た頃、私は彼の『愛より強く』をDVD鑑賞して衝撃を受け、すぐに『太陽に恋して』
を観た。ドイツに生まれ育ちながら、自らに流れるトルコ人の血を意識した映画
を撮り続ける彼の作品は、静かな情熱とサプライズに満ちている。
長い間公開を待ち望んでいた本作を、劇場で観ることができて感激もひとしお。
哀しい嘘と、不条理で不幸な死を越えて、出逢い、すれ違い、わかり合ってゆく
三組の親子。彼らの深い、魂に根ざした愛の行方が、三部構成で静かに描かれ
る感動作。ゆっくり、ゆっくり、胸に沁み入って、、。終盤は涙、涙。

登場する三組の親子は、何れも親一人、子一人の関係。記憶の中に存在しない
母、母が拒絶する父。それは予め損なわれた心の片割れだ。欠けたカケラを求め
るように、子は国境を越える。
インテリのネジャットには、形而下で生きているような、粗野な父の態度が受け
入れ難い。偶然とはいえ人を殺めてしまった父を拒絶するように、彼はドイツを後
にする。
反政府運動に身を投じたアイテンは、逃亡先のドイツで母を探す。彼女を助け、
恋した大学生のロッテ(パトリシア・ジオクロースカ)は、母スザンヌ(ハンナ・シグ
ラ)の心配を省みることなく、恋に身を捧げる。
そして、イスタンブール。母を喪った息子と娘は、娘を喪った母と出逢う。予め
損なわれた心を癒すように。
6人の登場人物が絡み合いながら、複雑になることなく淡々と語られるストー
リー。脚本の構成と展開が見事。陽光溢れるイスタンブールの風景が美しい。

「娘の為なら何でもする」と春を売り、「会いたい」と泣いたイェテルの願いが、叶
えられることはなかった。ロッテを喪った慟哭と放心の日々を過ぎ、「死に乾杯」と
言うスザンヌ。悲しみを越え、苦しみを越え、娘が生きようとした人生を彼女は抱き
締める。死が結ぶ、運命の環。和解と再生。
二つの祖国で浮遊していたネジャットは、父の国で自らに捧げられた大きな愛
に気付く。荒れた海に出た船の帰りを待つ彼。波音だけが繰り返す浜辺。ここか
らまた、全てが始まる。
(『そして、私たちは愛に帰る』監督・脚本:ファティ・アキン/
主演:バーキ・ダヴラク、ヌルギュル・イェシルチャイ、ハンナ・シグラ/
2007・ドイツ、トルコ、イタリア)
きっつい、きっつい、芸の肥やし~『必死のパッチ』

「いやぁ、まだこんなアホな子がおったんやねぇ・・・大変よかったですぅ」
落語家・桂雀々の自叙伝。11歳で母親が家出し、父親も蒸発。ライフラインの
止められた家で、借金取りに怯えながら、たった一人で生き抜いた中学時代。
2002年、29年ぶりの母との再会をプロローグに、落語と出逢い、桂枝雀に入門
するまでを描く。帯には「はっきり言ってホームレスの方が楽でした」と麒麟・田村
裕がコメントを寄せている。
『ホームレス中学生』では、家族が「解散」した田村裕が「亡くなったお母さんの
ところへ行きたい」と、「生」よりも「死」に惹かれた部分が印象的だったし、無理も
ないことだと涙した。しかし、本書の松本貢一少年は違う。あくまで「生きること」
しか考えず、ギリギリの状況でも「必死のパッチ」で頑張る。凄いよ。
ちなみに「必死のパッチ」とは昨年、阪神・矢野選手がお立ち台で使ってすっか
り全国区(?)になった言葉。関西における「一生懸命」の最上級語であると、本書
では説明されている。
親に捨てられ、先輩に罵られ、打ちのめされた貢一少年が「落語」と出逢い、水
を得た魚のように活き活きと落語に魅せられてゆく姿。天職と言えば簡単だけれど、
自分の試練を「落語の神様が、ボクを落語に出会わせるために仕組んだ」と彼は
言う。その爽やかなまでの強さ、ひたむきな前向きさに涙し、心打たれない人が
いるだろうか。
願わくば、枝雀師匠と過ごした内弟子時代の話も読んでみたかった。それって
『ホームレス中学生』+『赤めだか』で、最強の自叙伝間違いなしだったのに!
続編で是非、お願いしたいです。
(『死のパッチ』桂雀々・著/幻冬舎・2008)
おばあちゃん、大好き~『西の魔女が死んだ』

学校に行けなくなった中学生のまいは、母方の祖母が暮らす山の家でひと夏
を過ごす。「西の魔女」ことおばあちゃんであるママのママは英国人。規則正しい
生活をし、大好きなおばあちゃんと心を通わせる日々の中で、少しずつ元気を取
り戻してゆくまいだったが・・・。
昨年映画化された『西の魔女が死んだ』の原作。映画を観てすぐにでも読みた
かったのに、こんなに遅くなってしまった。映画も素晴らしかったけれど、原作も
映画以上に名作だと思う。多くの読者に、長く愛され続ける魔法がつまったよう
な小説。
映画は、原作にとても忠実に作られていたのだな、と思った。おばあちゃんや
まいのセリフはほぼそのままだし、ジャム作りやシーツの洗濯など、映画で観
たシーンが映像として立ち上がってくる。原作を読んでから映画を観ると、大抵
がっかりするもの。けれど、この映画は原作ファンの期待をほぼ裏切らなかった
んじゃないだろうか。
「観てから読んだ」私の場合、映画よりも更に感動したと言ってしまおう。ラスト、
おばあちゃんからまいへの伝言のシーンでは、自分でもびっくりするくらい、涙が
噴水のように溢れた。あのときのまいの気持ちに、言葉で、文章で改めて触れ
ることができて本当によかった。
私も、こんなおばあちゃんになりたいな、とは思いつつも・・・。人生は、ままな
らないものですね。
(『西の魔女が死んだ』梨木香歩・著/新潮社・2001)
滅びの美学~『エグザイル/絆』

EXILED
放・逐
中国への返還間近なマカオ。幼い頃から闇社会でともに育ち、今は袂を分かつ
5人が対峙する。追う者、追われる者、それを護ろうとする者。鈴の音に導かれて、
ノワールの扉が叩かれる・・・。
ジョニー・トー製作、監督の香港ノワール。ロングコートにボストン、サングラスの
男たちが、血と汗と男気をスクリーンいっぱいに撒き散らす。「カッコイイ」「痺れた」
「参った!」どんな言葉でも表現できないこの衝撃。様式美すら感じさせる、群舞
のような銃撃シーンは圧巻の一言! 必見の傑作です。最高。
実はジョニー・トーの監督作(長編)を観るのはこれが初めて。香港ノワールも数
えるほどしか観ていないが、これは『インファナル・アフェア』に匹敵するか、凌駕
するくらいの作品なんじゃないだろうか。ハリウッドリメイクが決定しているらしいけ
れど、返還前夜のあの独特の空気、焦燥と希望と高揚と不安が入り混じった、危
うい雰囲気を壊さないで欲しいと願うばかり。

深い絆で結ばれている男たちは、強面な見てくれとは真逆の、少年のままの心
の持ち主。予め定められた「死」という運命に向かって、最後の「やんちゃ」を楽し
んでいる。「チン○ン見せろー」とズボンを下ろそうとはしゃぎ、記念写真を撮り、
缶を蹴り・・・。ああ、男に生まれたかった。
しかし一度銃を構え、標的に狙いを定める彼らの立ち姿のカッコよさ! いじ
られキャラのファット(ラム・シュー)すらカッコよく見えてくるから不思議。妻子
に心を遺したウー(ニック・チョン)との約束を果たすため、一獲千金のチャンス
もフイにして彼らは滅びへの道をゆく。繰り返される、狂気じみた血まみれの
銃撃戦、それらを美しいとすら感じてしまうのはどうしてだろう。揺らめくカーテ
ン、くわえタバコ、動かない視線、一瞬を永遠にも感じさせるスローモーション・・・。

美しく散る男たちに対し、しぶとく生き延びるのは女たち。帰り道、やっぱり
女は強いなと、地下鉄の階段を無駄に駆け上がりながら考えていた。
(『エグザイル/絆』監督・製作:ジョニー・トー/2006・香港/
主演:アンソニー・ウォン、フランシス・ン、ニック・チョン)
テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画
~ R.I.P. ~
2009-01-22 :
BROKEBACK MOUNTAIN :
コメント : 6 :
自由の国~『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』

米カリフォルニア州在住、映画評論家にしてコラムニストの町山智浩氏が、その
内側から見つめたブッシュ政権下の現代アメリカ。今のアメリカが如何にブッシュ
政権によって疲弊し、荒廃したかが軽妙かつシニカルに綴られている。町山氏の
著作を読むのは初めて。映画が時代を映す鏡であることを、改めて感じさせても
くれた。
第1章 暴走する宗教
第2章 デタラメな戦争
第3章 バブル経済と格差社会
第4章 腐った政治
第5章 ウソだらけのメディア
第6章 アメリカを救うのは誰か
終章 アメリカの時代は終わるのか
前半は、大国の醜悪な部分をこれでもかと見せ付けられてかなりゲンナリ。しか
し、ブッシュをちゃかし、民主党大統領候補オバマが登場してくる後半からは俄然、
面白くなる。アメリカの大統領選って、本当にエンターテインメントだなぁと思う。
特に今回はヒラリーVS.オバマ、どちらに転んでもアメリカ建国史上初の女性 or
黒人大統領の誕生ということで、盛り上がりも最高潮。すっかり脇役に回された感
のある共和党大統領候補・マケインについても言及されていて、せめて4年前、ブッ
シュでなく彼が大統領になっていたら、世界はここまで混沌状態には陥ってなかっ
たのでは? と思わずにいられない。欲を言えば、大統領選をここまで盛り上げた
MVP(?)、アラスカ州知事にして共和党副大統領候補、サラ・ペイリンについて
も書いて欲しかったと思う。
ペーパーバック仕様で読み易いけれど、賞味期限のある本かも。手に取るならば
是非お早めにどうぞ。
(『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』
町山智浩・著/文藝春秋・2008)
異形のダーク・ヒーロー~『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』

HELLBOY II: THE GOLDEN ARMY
1944年、スコットランド沖で保護された異形の少年は「ヘルボーイ」と名付けら
れ、ブルーム教授(ジョン・ハート)に育てられる。成長し、超常現象捜査防衛局
のエージェントとなった「レッド」ことヘルボーイ(ロン・バーマン)。彼が幼い頃、
教授が読み聞かせた「ゴールデン・アーミー」の物語が、闇の世界のヌアダ王子
(ルーク・ゴス)によって甦ろうとしていた・・・。
ギレルモ・デル・トロによる、ダークなファンタジック・アクション。前作『ヘルボー
イ』は未見、しかし一昨年の大傑作『パンズ・ラビリンス』に衝撃を受けた者とし
て、予備知識も何もなく、取り急ぎ劇場へ。う~~ん、これは面白かった!
とにかく映像が、クリーチャーの造形がすごいんです! グロテスクギリギリで、
もしかしたら観る人を選ぶかもしれないけど。作劇の妙よりも、映像だけ観て楽
しんでも、十分満足できる作品だと思う。ギレルモ・デル・トロって、こういう人
だったんだ、っていうのがわかった気がした。

ヘルボーイは、同僚のリズ(セルマ・ブレア)と恋仲。収集癖のあるオタク気質な
ヘルボーイに、リズは文句タラタラ。きっと、これ監督自身のことなんじゃないかな、
なんて思ったりした。
アメコミが原作らしいので、クリーチャーたちの造形がどの程度オリジナルな
ものなのかはわからない。しかし、ダークな色調の画面に煌くような黄金の色彩
が散りばめられた映像は、まさに悪夢のような魔法の世界。ブルックリン橋の下、
トロールの市場に蠢く魑魅魍魎たちの姿にワクワクしてしまう。ヘルボーイの
チョンマゲ姿には侍へのオマージュを感じるし、「め組」と書いてある幟も見えた
ような・・・。「おでき」もかわい~い♪
「ブルー」こと半漁人エイブを演じたのは、『パンズ・ラビリンス』で牧神パンを
演じたダグ・ジョーンズ。繊細な彼の淡い恋が胸キュンなんです。エクトプラズマ
のヨハン・クラウスや、どうして火傷しないのか謎な念動発火能力を持つリズら、
ヘルボーイの仲間は皆愛すべきキャラクター。トゥース・フェアリーは、似たような
妖精が『パンズ~』にも出てきたなぁ。とにかく、監督の「オタク魂」とでも言うべき、
異世界や異形のクリーチャーたちへの愛が大爆発している、そんな印象を受けた。

北アイルランドの巨石群はド迫力だし、感覚を共有するヌアダ王子(Xジャ○ンの
YOSH○KIソックリ!)とヌアラ王女(アンナ・ウォルトン)の愛憎も切ない。
こんなに面白い映画なのに、私が観た劇場では観客がたった5人でした。何故?
しかもこれ、音楽がダニー・エルフマンなんですよ! DVDで観るには惜しい、
劇場の暗闇の中で、クリーチャーたちと戯れるような時間を過ごして欲しい映画
です。
(『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ/
主演:ロン・バーマン、セルマ・ブレア、ダグ・ジョーンズ/2008・米、独)
テーマ : ヘルボーイ ゴールデンアーミー
ジャンル : 映画
いつも映画がそばにいた~『石川三千花の勝手にシネマ・フィーバー』

石川三千花の映画イラスト&エッセイ、「シネマ通信」シリーズの最新刊。ミチカ
さん(と勝手に呼ばせていただく)のこのシリーズは大好きで、新刊が出たら必ず
読んでいます。本書はCREA誌連載をまとめたもの。
ミチカさんが映画を観始めた60年代から80年代頃の映画が、彼女自身の体験を
絡めて描かれます。タイガース(阪神じゃないほう)に夢中だった中学時代、高校
卒業後、入学したセツ・モードセミナー、三年間のパリ遊学時代。帰国、結婚、離婚。
その時々に観た印象的な映画たち。
あとがきに「私の生きざまなんて誰がおもしろがって読んでくれるんだろう」とあ
りますが、とっても面白く読めました。相変わらずのキレ味&好き勝手なミチカ節
全開。イラストもポップで楽しい。ファッション畑出身らしく、映画も「見た目重視」
を貫いているところも潔くて、スキ。一番素敵だな~って思ったのは、『SATC』を
観た直後、中野翠さんに電話した、ってところ。映画観てすぐに「これをあの人に
伝えたい!」って思うこと、ありますよね。わかるな~。。
ミチカさんは44歳で再婚して45歳で双子の男の子を出産、今54歳で小学校三年
生の息子さんたちのお母さんだそうです。もうねー、彼女の人生そのものが濃ゆく
て濃ゆくて。与えられた人生を、100%目いっぱい、楽しんでる人だな~、って思い
ます。紹介されている映画は未見のものもたくさんあったけど、そんなことは関係
なく、面白く読める本。元気が出ます。
(『石川三千花の勝手にシネマ・フィーバー』石川三千花・著/文藝春秋・2008)
既視感ありでも娯楽の王道~『K-20 怪人二十面相・伝』

K-20
1949年、第二次世界大戦が回避された日本の都市、帝都。19世紀から続く華族
制度のため、人々は貧富の差が激しい、極端な格差社会に苦しい生活を強いられ
ていた。
貧民層出身のサーカス団の男が、覆面の盗賊「怪人二十面相」に間違われたこ
とで、人生を一変させる冒険活劇。怪人二十面相や明智小五郎、少年探偵団など、
知識としては知っていても、江戸川乱歩の小説のファンというわけではなかった。
だから、それほど期待して・・・というわけではなかったのだけれど、これは面白かっ
た! 女性監督による作品であるということにも驚き。エンドクレジットで、「脚本・
VFX協力」に山崎貴監督の名前を見つけて、なるほど~、という感じ。もうちょっと
テンポよく、、と思わないでもなかったけれど、『ルパン』や『バットマン』『スパイダ
ーマン』、宮崎アニメのテイストも楽しめるし、『プレステージ』で登場したテスラコイ
ルがすっごい迫力! 観て損はありません。

全体的に芝居がかっているのは、設定そのものが「架空」なのだから許してしま
おう。主人公・遠藤平吉を演じた金城くんはアクション頑張ってます! 白い鳩を
愛でる姿に、諸葛孔明の姿がダブって笑えた。彼を支える「源じい」國村隼さんが
ね~、またいい味出してるのよ。。
実は私、松たか子嬢があまり好きではないのですよ・・。どこがどう、何が悪い、
って説明はできないのだけど、ただ「なんとなく」好きじゃなかった。でも、この映画
を観て、彼女がすっごくいい女優さんであることはいい加減認めないとな~、と思っ
たのでした。お肌なんかもう、「むきたて卵」よ~、かおりもビックリ(笑)。正真正銘
の「お嬢」な彼女、嫌味のないコメディエンヌがはまり役でした。「平吉さまぁ~~~」
「良家の子女のたしなみですから」。

貧民窟の子どもたちや、泥棒長屋の仲間たち、「よくこれだけ揃えたな~」と思う
くらい、見事な「昭和顔」だったのに感心。そして「帝都」といえば嶋田久作! お
約束ですね(笑)。小日向文世があの後どうなったのかが、ちょっと気になったな~。
しかし、最後の最後まで「怪人二十面相」は「鹿賀丈史」だと思ってた自分って・・・。
ちょっと恥ずかしかった。でも、ホールの床と箱細工の模様が同じなのは、ちゃん
と気付いてましたから。
(『K-20 怪人二十面相・伝』監督・脚本:佐藤嗣麻子/2008・日本/
主演:金城武、松たか子、仲村トオル、國村隼、高島礼子、鹿賀丈史)
テーマ : K-20(TWENTY) 怪人二十面相
ジャンル : 映画
パンチとロン毛の最聖コンビ~『聖☆おにいさん』


世紀末を無事に終え、天界から下界に「有給休暇」を取って降りてきた神の子
ふたり、イエスとブッダ。東京の立川にアパート(風呂なし)をシェアする二人の
毎日が、ほのぼのと描かれるギャグ漫画。2巻まで出ていますが、今月3巻が
出るらしい。早く読みたいな~。「天上天下唯我独尊!」←産声
普段、コミックはほとんど読まないのだけれど、latifaさんが「昨年面白かった
本」に堂々ベスト1に挙げてらしたので読んでみました。これは面白かった!
(latifaさん、いつもありがとう~)
ふたりの「おにいさん」は滅茶苦茶キャラが立ってます、神の子だけに(笑)。
締まり屋さんのブッダと、オタク気質のイエス。あくまで生真面目なんだけど、
ちょっとズレてるふたりの生活ぶりが笑いを誘います。
あり得ない設定、というか、こんなアイデアよく思いついたな~、という感じの
プロット。『夢をかなえるゾウ』で、ガネーシャと釈迦が遊園地に遊びに行った
場面をちょっと思い出してしまった。とは言っても実は私、思い出しはしたもの
の、釈迦とブッダが同一人物かどうかわからなかったんです(調べました、恥)。
まぁ、その程度の宗教的知識しかなくても、十分笑える漫画です。それも大爆
笑、というわけではなく、クスクス笑いが止まらない、という感じかな。
これ、ドラマ化か映画化するなら(不可能だと思うけど)誰がいいかな~って
久しぶりに考えてみました。脚本はもちろんクドカン! いえっさ(HN)はジョニ
デ似だけど、日本人キャストで考えるともうこの二人しかいないでしょ!
イエス:オダギリジョー
ブッダ:浅野忠信
ジョーくんは今の髪型にエクステをちょっと足してもらって。そして大仏パンチ
に付け耳(ひんやり仕様)で、なお高貴な雰囲気を醸し出せる役者は浅野くん
以外にいない(断言)。
または中村七之助がイエス、勘太郎がブッダでもいいかも。ということは、
勘三郎が神ですね。。ハハハハハ。
いやもう是非、騙されたと思って読んでみて下さい。ホントに全編笑えます
から!
(『聖☆おにいさん①②』中村光・著/講談社・2008)
その男、ゲバラ~『チェ 28歳の革命』

CHE: PART ONE
アルゼンチン出身の若き医師、エルネスト・ゲバラ(ベニチオ・デル・トロ)は、
南米大陸縦断の旅の途中でキューバ人革命家のフィデル・カストロ(デミアン
・ビチル)と出逢い、共にキューバ革命を闘う同志となる。
20世紀最高のカリスマ、エルネスト・チェ・ゲバラの半生を描く、二部作の第
一部。製作・主演のベニチオ・デル・トロはカンヌ映画祭において男優賞を受賞。
監督はスティーヴン・ソダーバーグ。フィデルの弟にしてゲバラをフィデルに引
き合わせ、2009年現在、キューバ国家元首に当たる国家評議会議長のラウル
を「南半球で一番美しい男」ロドリゴ・サントロが演じていたのはうれしいサプラ
イズ。後にゲバラの妻となるアレイダ・マルチはコロンビアの若き至宝、カタリー
ナ・サンディノ・モレノが演じている。

Tシャツのプリントで、顔だけは誰でも知っているチェ・ゲバラ。しかし、その人生
の軌跡はどれだけ知られているだろう。若き日々、彼が革命的思想を持つきっか
けとなった南米大陸縦断の旅を描いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』は大好
きな映画。「その後」の彼、カリスマ的革命家となったゲバラを描く本作には、とて
も惹かれるものがあった。
カストロ宅でのフィデルとの出逢いのシーン、デル・トロがとても28歳には見
えないのが苦しいところ(このシーンだけでも、ガエルくんにカメオ出演願いたか
った)。バチスタによる独裁政権を倒し、革命国家樹立を実現するために、ゲバ
ラは同志とともにキューバへ上陸する。ゲリラ戦を経てサンタクララを制圧し、
ハバナへと向かうまでの革命戦線に、1964年、ニューヨーク国連総会での演説
シーンがモノクロで挿入される。マスコミとのインタビューを前に、メイクアップを
断りながらも「やっぱりちょっと頼もうかな」なんて、人間味のあるゲバラ像も描
かれていて思わず笑顔。しかしやっぱり感動的なのは、あくまで清廉で心やさ
しいゲバラという人そのもの、なのだった。

アルゼンチンの裕福な家庭に生まれながら、貧しく学もなく、弾圧された市井
の、それも異国の人々の為に身を捧げたゲバラ。祖国に帰って医師として暮ら
せば、何の不自由もなく生きられたことだろう。しかし、彼の理想主義的精神は
それを許さなかった。自らも喘息持ちなのに、ゲバラが自分の薬を旅で出会った
貧しい人にあげてしまう場面が『モーターサイクル・ダイアリーズ』にある。ゲリラ
戦の最中、咳き込む彼を観ながら、そのシーンを思い出していた。彼の心の中
には、あの旅で出逢ったたくさんの、名もなき貧しい人々の顔が刻まれていたの
だろう。
戦闘シーンは迫力満点で、戦争映画と見紛うほど。略奪や盗みを許さず、富に
興味はなく私腹を肥やすこともなく、あくまで「自由と平等」の精神の元、行動する
ゲバラの姿に素直に感動する。132分はあっと言う間で、第二部も続けて観たか
った。ラスト、ゲバラの「信じられん」というセリフで映画は終わる。そして私も
「え~、ここで終わり?! 信じられん!」と叫びたかった。早く続編が観たい!
(『チェ 28歳の革命』監督:スティーヴン・ソダーバーグ/
主演:ベニチオ・デル・トロ、ロドリゴ・サントロ/2008・仏、西、米)
女の一念~『聖女の救済』

IT企業社長、真柴義孝の遺体が自宅で発見された。捜査線上に浮かんだのは
第一発見者で被害者の愛人、若山宏美と、パッチワーク作家で被害者の妻、真柴
綾音だった。完璧に見えた綾音のアリバイ、しかし。。
東野圭吾によるガリレオシリーズ最新長編。湯川准教授や草薙刑事ら、お馴染
みのキャラクターに加え、映画化された『容疑者Xの献身』の原作には登場しなか
った刑事、内海薫が登場。彼女がipodで福山雅治を聴く場面や、湯川が眼鏡を押
し上げる仕草など、映像が小説に与えた影響の大きさを感じる。本作も、映画化
もしくはドラマ化されるのは間違い無いだろう。
「おそらく君たちは負ける。僕も勝てないだろう。これは完全犯罪だ」
相変わらず読み易く、面白い小説だけれど、犯行のトリックがなかなか明かさ
れないのでイライラしてしまった。犯人は冒頭で提示されているので、早くネタを
教えてくれー、と叫びたいような気分。実際の捜査となると、もっと地道で退屈な
ものなのだろうけれど・・・。湯川先生は、三分の一近く読み進んでやっとご登場。
事件のキィとなる人物、綾音の友人である津久井潤子に内海たちが辿り着いて
からは怒涛の展開。
★以下、激しくネタバレします。未読の方はご注意下さい★
実は私、綾音と潤子は同一人物なんじゃないか、と予想して見事に外しまし
た(爆)。『幻夜』の美冬みたいにね、整形して他人に成りすましてるんじゃない
かと思ったんですよ。全然違ったけど・・・。ストレートヘアの和風美人、っていう
のが東野さんの女性の好みですね(笑)。これは間違いなく。
ラストで初めてわかる、タイトルの意味。納得行かない部分もあるけれど、
虚数解を導き出す作者の手腕、お見事でした。
(『聖女の救済』東野圭吾・著/文藝春秋・2008)
僕の彼女を紹介します~『ラースと、その彼女』

LARS AND THE REAL GIRL
アメリカの田舎町で、実家の離れに一人暮らす物静かな青年ラース(ライアン・
ゴズリング)。ある日彼は、母屋に住む兄夫婦、ガス(ポール・シュナイダー)と
カリン(エミリー・モーティマー)に告げる。「外国から友達が来てるんだ」。その
「友達」とは、ネット通販で手に入れたリアル・ドールだった・・・。
心に傷を抱えたまま大人になった青年が、自らの殻を破り、成長してゆく様を、
絶妙なユーモアと限りないやさしさを持って描いた佳作。ナンシー・オリヴァー
によるオリジナル脚本は、アカデミー賞にもノミネートされた。リメイクや続編が
大量生産される「ネタ切れ」傾向のアメリカ映画だけれど、こんなにも独創的で
心温まる物語を生み出してくれたことを、しみじみとうれしく思う。

細面な印象が強いライアン・ゴズリングが、ほっぺがまん丸な純情青年を好演。
彼ってこういう「何を考えているのかわからない」人物を演じるのが巧い。リアル・
ドールのビアンカに話しかけたり、甲斐甲斐しく世話を焼いたりする姿に、全く
わざとらしさや嫌味がないのだから。
ビアンカの登場直後は、ガスとカリンと同じように驚き、笑い転げていた私な
のに、バーマン先生(パトリシア・クラークソン)の所見に従ってビアンカを自然
に受け入れてゆく街の人々を観ているうち、不思議な気分に襲われた。人間っ
てこんな風に、他者や「異物」を受け入れることができるんだ・・・。絵空事だと
笑う人もいるかもしれない。でもこれって、無さそうでありそうな、素晴らしいこと
なんじゃないかな。ラースは自分が街のみんなに愛されていることを、しっかり
と実感できただろう。
パトリシア・クラークソンの低い声と、薄くて紅い唇が大好き。本当に、得難
い存在感を持つ素敵な女優さんだと思う。世話好きでおせっかい焼きのカリン
も、エミリー・モーティマーが適役。

ラースは、身ごもったカリンに母親の面影を感じたのだろう。冒頭、彼は自身
の一部と言っても過言でない「ブランケット」をカリンに貸す。自分を産んだ直後
に亡くなってしまった母を思い、無意識のうちに自身を責め続けていたのだと思
う。気難しい父親との二人暮らしの中で、他人との距離の取り方や感情のぶつ
け方を学べないまま、彼は成長してしまったのかもしれない。
カリンの出産を受け入れるために、誰かを愛し、関わり、「永遠に別れる」経験
がラースには必要だった。ただそれが「生身の」人間では刺激が強過ぎるから、
彼は「触媒」としてビアンカを必要としたのだと思う。大声で喧嘩したり、デートし
たり、秘密の場所に案内したり・・・。そして彼は自然と、好意を寄せてくれていた
同僚のマーゴ(ケリ・ガーナー)と付き合うようになる。
「何もかもラースが決めていた」ラストに、物語は柔らかく着地する。やさしさに
満ちた、一人の青年の成長譚。2008年に映画館で観た最後の作品。いい映画
でした。
(『ラースと、その彼女』監督:クレイグ・ギレスピー/2007・USA/
主演:ライアン・ゴズリング、ビアンカ、エミリー・モーティマー)
遠くに行くこと~『左岸』

Rive gauche
小さな頃から踊ることが好きで、奔放に生きる寺内茉莉。兄惣一郎を亡くし、
高校中退、家出、同棲と、波乱万丈の彼女の人生が綴られた長編。
辻仁成の『右岸』と対をなす、江國香織の新作。二冊合わせて1000ページ
を軽く越え、両方読むのに2週間以上かかってしまった。疲れたけれど、心地
良い充足感が得られる。人生における、恋愛の占める比重が高い江國ワールド、
江國節が全開。
母(茉莉)と娘(さき)の生活風景は、『神様のボート』を彷彿させた。髪を
ピンク色に染めて、汗びっしょりになるまでクラブで踊る少女、というのも何
かの作品で読んだはず。
私が江國さんの小説が好きなのは、彼女と感覚を共有しているという思い
があるからだと思う(おこがましいけど)。隣家に住んでいた幼馴染、九を思う
と「心が温かくなる」という茉莉。離れていても、ずっと会えなくても、その人を
思うと心が温かくなる、ってすごくわかる。人生でそういう人に出逢えたって、
奇跡なんだと思う、運命じゃなくて。
ずっと茉莉を導いてきた惣一郎の言葉「遠くへ行くんだ」。それが距離でなく、
時間だったということがわかるラストに感動。生き急いだ兄は、最愛の妹に
「何があっても生きて行きなさい」とずっと伝えていたんだと思う。
よかったね、遠くに来られて。一人ぼっちでも。
(『左岸』江國香織・著/集英社・2008)
生き直すということ~『BOY A』

BOY A
長い長い年月、少年刑務所に収監されていた青年(アンドリュー・ガーフィールド)。
保釈が決まった彼は、保護監察官テリー(ピーター・ミュラン)と共に、自分に新しい
名前「ジャック」を与える。
「ジャック。過去の君は死んだ。君には幸せに生きる資格がある」
少年時代に罪を犯した人間は、更正すれば社会に受け入れられるのか。罪と罰、
更正、孤独、良心の呵責、赦し、逃避。それら全てを真摯に問うた英国の小品。
死刑制度と同じかそれ以上に、その是非が議論される少年法についても考えさせ
られる。考えても、考えても、答えの出ない問いかけではあるけれど・・・。それで
も、多くの方に観て、考えていただきたい作品。他人事だと思わないで。

少年犯罪を題材にした作品を観たとき、必ず考えてしまうのが彼らの家庭環境
について。エリック(ジャックの本名)も、彼の「相棒」となるフィリップも、家庭内に
居場所がなく、心がギザギザに傷ついている。親にネグレクトされた子どもが必ず
しも非行に走るとは言い切れないけれど、一つの原因であることは間違いないだ
ろう。
エリック(とジャック)の、オドオドと気弱で繊細そうな佇まいからは、とても残忍
な犯罪を犯すような雰囲気は感じ取れない。とりわけ純粋で、素朴でさえある
ジャックを見ていると、「護ってあげたい」と母性愛が疼くほど。難しい役を演じ
切った、アンドリュー・ガーフィールドの存在感は絶賛に値すると思う。過去を
捨てろ、未来だけを見ろと繰り返しジャックに諭すテリーの立場で、私はスクリ
ーンを見つめていた。この映画を観たいと思った動機であるピーター・ミュラン
の演技の素晴らしさは、勿論言うまでもないだろう。

そして悲劇は結局、またしても家庭内の軋轢から生み出される。仕事人間であ
る余りに、家庭を顧みなかったテリー。「親に愛されていない」という思いは子の
心に深く斬り込み、その傷口から新たな不幸の連鎖を生む。一度犯した罪は、どう
すれば償うことができるのだろう? どうすれば、社会から赦しを得ることができる
のだろうか? 欧米の映画には珍しく、「神の赦し」という視点がなかったことが気
にかかった。
愛を知って初めて生まれる、「本当の自分」を偽って生きているという苦悩。誠実
であるがゆえの悲しみが辛い。しかし「本当のこと」を知ったとき、自分が立ち竦ま
ずにいられるか、というと全く自信はない。私もジャックの同僚たちのように、怯え
て彼を遠ざけてしまうかもしれない。ラストシーン、運河を見つめるジャックの姿に
息を呑む。フィリップの墓前で、彼がつぶやいた言葉が甦る。「罪悪感に耐え切れ
なくて」。どうしようもなく、胸が、痛い・・・。
(『BOY A』監督:ジョン・クローリー/2007・UK/
主演:アンドリュー・ガーフィールド、ピーター・ミュラン)
真紅的本のベストテン~ 2008 ~
さて。2008年のまとめも最後、読んだ本のベストです。
昨年のベスト記事で、「目指せ、(読書カテゴリ)100記事!」と書いたのですが、
それは達成することが出来ました♪ 2008年に読んだ本は82冊です。まだまだ
読みたい~。しかし、読んだ本全ての感想を書くというのはなかなか難しいもの
がありますね。以下、作品名クリックで感想記事に飛びます。

1.シズコさん 【佐野洋子】
2.潜水服は蝶の夢を見る 【ジャン=ドミニック・ボービー】
3.青い鳥 【重松清】

4.役にたたない日々
佐野洋子・著
/朝日新聞出版
/2008
新聞書評には「シズコさん」と並んで紹介されていましたが、私も続けて読みま
した。「シズコさん」の毒消しにいいです。
5.ザ・万歩計 【万城目学】
6.人のセックスを笑うな 【山崎ナオコーラ】
7.乳と卵 【川上未映子】
8.阪急電車 【有川浩】
9.衣裳術 【北村道子】
10.赤めだか 【立川談春】
今年は自分の覚え書きという意味でも、なるべく読んだ本は紹介だけでもして
いきたいと思っています。
これにて2008年のまとめは終わりです。でも、まだ年末に観た映画の感想を
アップしてないのだった。。はぁ~。
昨年のベスト記事で、「目指せ、(読書カテゴリ)100記事!」と書いたのですが、
それは達成することが出来ました♪ 2008年に読んだ本は82冊です。まだまだ
読みたい~。しかし、読んだ本全ての感想を書くというのはなかなか難しいもの
がありますね。以下、作品名クリックで感想記事に飛びます。



1.シズコさん 【佐野洋子】
2.潜水服は蝶の夢を見る 【ジャン=ドミニック・ボービー】
3.青い鳥 【重松清】

4.役にたたない日々
佐野洋子・著
/朝日新聞出版
/2008
新聞書評には「シズコさん」と並んで紹介されていましたが、私も続けて読みま
した。「シズコさん」の毒消しにいいです。
5.ザ・万歩計 【万城目学】
6.人のセックスを笑うな 【山崎ナオコーラ】
7.乳と卵 【川上未映子】
8.阪急電車 【有川浩】
9.衣裳術 【北村道子】
10.赤めだか 【立川談春】
今年は自分の覚え書きという意味でも、なるべく読んだ本は紹介だけでもして
いきたいと思っています。
これにて2008年のまとめは終わりです。でも、まだ年末に観た映画の感想を
アップしてないのだった。。はぁ~。
発表!~ 2008年真紅デミー賞(縮小版) ~

さて、栄えある(?)真紅デミー賞の発表です!、と行きたいところなのですが。。
実は、リュカさんからコメントをいただくまで、自分が「真紅デミー賞」なんて作って
たのを忘れ切っていました(馬鹿)。全然考えてなかった・・・。
なので今回、「個人賞+おまけ」というカタチにしたいと思います。悪しからず。作品
名クリックで感想記事に飛びます。
監督賞: ジュリアン・シュナーベル 『潜水服は蝶の夢を見る』
主演男優賞: ヴィゴ・モーテンセン 『イースタン・プロミス』 萌え~♪
主演女優賞: チョン・ドヨン 『シークレット・サンシャイン』
ドヨンさんは「真紅的世界三大女優」の一人です!
助演男優賞: ヒース・レジャー 『ダークナイト』 言わずもがな・・・。
助演女優賞: マリサ・トメイ 『その土曜日、7時58分』 無駄にセクシーで賞
<おまけ:ワースト3>
1.TOKYO! ←人生ワースト映画(メル怒)
2.ジャンパー (続編ってマジですか)
3.シルク (音楽と映像は美しかったが・・・)
辛口の批評は書くほうも読むほうも面白いでしょう。しかしどんなに三流の映画
でも、その批評よりは価値があります(『レミーのおいしいレストラン』より)。
今年も作品への敬意を忘れず、作り手に感謝しながら映画を観ていきたいと思
います。どうぞよろしくお付き合い下さいませ!
真紅拝
真紅的DVDベストテン+α~ 2008 ~



DVDでは洋画40本、邦画11本を鑑賞。こちらは洋邦合わせてのベスト10+αで。
作品名をクリックで感想記事に飛びます。劇場で観た映画のベスト10はこちら⇒
1.ゴーン・ベイビー・ゴーン (なんでこの傑作がDVDスルーなんだ!)
2.ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた (インディ映画の必見作)
3.パラノイド・パーク (ガスとドイルの映像美に耽溺!アレックスにKO!)
4.ONCE ダブリンの街角で (映画館で観たかった・・・)
5.EUREKA/ユリイカ (青山真治監督の北九州サーガは傑作です)
6.ペネロピ (キラッキラのマカヴォイくん!)
7.花蓮の夏 (台湾発、珠玉の青春映画)
8.君のためなら千回でも (ハッサンのザクロ)
9.ファウンテン 永遠に続く愛 (天才・アロノフスキーの頭の中)
10.転々(ムーンライダーズがいいのです)
次点:ガスパール/君と過ごした季節 (モンドつながり)
劇場鑑賞が追いつかないので、今年も旧作DVDはできるだけたくさん観たいと
思っています! オススメ映画、教えて下さいね♪
さて、次回のエントリーは。。
真紅的映画ベストテン+α ~ 2008 ~
どうしても年内にアップできないベストテン、2008年も年明けになってしまい
ました。
昨年劇場で観た映画作品は107本(邦画17本)、DVD鑑賞は51本(邦画11本)、
合わせて158本鑑賞していました。劇場鑑賞が100本を越えていたのは自分でも
驚きです。学生の頃、「映画は映画館で、年間100本以上観ることにしています」
とおっしゃる先輩がいて、「どーやったらそんなことできるんだ?!」と思ったもの
でしたが。
ベスト作は、異論・反論様々あると思いますが昨年と同じく「観た後で自分が受
けた衝撃度や、単純な「好き」度」で選びました。
どうしても後半観たものが有利になるので、昨年最後に観た2本の映画(感想は
まだアップしていません)なんかベストに入れてもいいくらいの作品だったのです
が、敢えて外しました。以下、真紅的2008年映画ベストテン+αです。作品名を
クリックすると感想記事に飛びます。

1.ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
2.イントゥ・ザ・ワイルド
3.イースタン・プロミス
ベスト3は濃い目の「漢」映画ですね。1位は意外でしょ? ブロガーの皆さん
の評価もまちまちだったようですが、真紅的にはベストでした。

4.潜水服は蝶の夢を見る
5.ダークナイト
6.赤い風船
「潜水服」は上半期ではベストでした。TDKはなかなか観る勇気が出なかった。
「赤い風船」はリバイバル上映ですが、京都まで観に行ってDVDも買ってしまい
ました(まだ観てないけど)。

7.ラスト・コーション/色・戒
8.僕らのミライへ逆回転
9.ハピネス
「色・戒」も賛否両論でしたが、トニーとアン・リーに敬意を込めて。「逆回転」
は邦題が酷すぎる、素敵な映画なのにー。「ハピネス」は、ホ・ジノの集大成と
いう印象。

10.サラエボの花
次点:ある愛の風景、マイ・ブルーベリー・ナイツ
「サラエボの花」を観たのは1月でしたが、絶対に年間ベストに入れようと思っ
た作品です。産む性である女性を巡る物語はたくさん作られていますが、私は
この映画本当に素晴らしいと思いますし、好きです。どんなことがあっても、母親
は子を愛するものだと信じたい。私もエスマのようでありたい。
次点の2作、味わいは全く違いますが、それぞれに映画的高揚を与えてくれま
した。
続いて邦画のベスト5+を。昨年は邦画も面白い作品、たくさんありましたよ
ね?

1.ぐるりのこと。
2.歩いても 歩いても
3.崖の上のポニョ
4.山のあなた 徳市の恋
5.人のセックスを笑うな
次点:西の魔女が死んだ

以上です。そして、ここに記せなかった全ての映画に、ありがとう~!
次回、DVD鑑賞のベスト行きます!
ました。
昨年劇場で観た映画作品は107本(邦画17本)、DVD鑑賞は51本(邦画11本)、
合わせて158本鑑賞していました。劇場鑑賞が100本を越えていたのは自分でも
驚きです。学生の頃、「映画は映画館で、年間100本以上観ることにしています」
とおっしゃる先輩がいて、「どーやったらそんなことできるんだ?!」と思ったもの
でしたが。
ベスト作は、異論・反論様々あると思いますが昨年と同じく「観た後で自分が受
けた衝撃度や、単純な「好き」度」で選びました。
どうしても後半観たものが有利になるので、昨年最後に観た2本の映画(感想は
まだアップしていません)なんかベストに入れてもいいくらいの作品だったのです
が、敢えて外しました。以下、真紅的2008年映画ベストテン+αです。作品名を
クリックすると感想記事に飛びます。



1.ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
2.イントゥ・ザ・ワイルド
3.イースタン・プロミス
ベスト3は濃い目の「漢」映画ですね。1位は意外でしょ? ブロガーの皆さん
の評価もまちまちだったようですが、真紅的にはベストでした。



4.潜水服は蝶の夢を見る
5.ダークナイト
6.赤い風船
「潜水服」は上半期ではベストでした。TDKはなかなか観る勇気が出なかった。
「赤い風船」はリバイバル上映ですが、京都まで観に行ってDVDも買ってしまい
ました(まだ観てないけど)。



7.ラスト・コーション/色・戒
8.僕らのミライへ逆回転
9.ハピネス
「色・戒」も賛否両論でしたが、トニーとアン・リーに敬意を込めて。「逆回転」
は邦題が酷すぎる、素敵な映画なのにー。「ハピネス」は、ホ・ジノの集大成と
いう印象。



10.サラエボの花
次点:ある愛の風景、マイ・ブルーベリー・ナイツ
「サラエボの花」を観たのは1月でしたが、絶対に年間ベストに入れようと思っ
た作品です。産む性である女性を巡る物語はたくさん作られていますが、私は
この映画本当に素晴らしいと思いますし、好きです。どんなことがあっても、母親
は子を愛するものだと信じたい。私もエスマのようでありたい。
次点の2作、味わいは全く違いますが、それぞれに映画的高揚を与えてくれま
した。
続いて邦画のベスト5+を。昨年は邦画も面白い作品、たくさんありましたよ
ね?



1.ぐるりのこと。
2.歩いても 歩いても
3.崖の上のポニョ
4.山のあなた 徳市の恋
5.人のセックスを笑うな
次点:西の魔女が死んだ



以上です。そして、ここに記せなかった全ての映画に、ありがとう~!
次回、DVD鑑賞のベスト行きます!