ご挨拶 ~ ☆よいお年をお迎え下さい☆ ~

もういくつ寝ると・・・。新しい年がやってきます。
今年一年、本当にありがとうございました。
年末年始も仕事やん、という方。 お疲れ様です。
海外旅行に行かれる方。 楽しんで来て下さいねー。
お里帰りされる方。 ご実家でゆっくりなさって下さい。
義理を果たさねばならない方。 ご無理のないように。
そして「寝正月」を決め込む方! メタボにご注意(笑)。
いつだって映画三昧、という方。 今年最後に観る作品は何ですか?
そんなこんなで、皆さま、よいお年をお迎え下さい。
また来年、お会いしましょう!
真紅拝
P.S.今年もまた、年内にベストが出せませんでした・・・(泣)。
新年にアップ予定ですので、またその時はお付き合い下さいね♪
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手をつなごう~『ウォーリー』

WALL・E
ゴミだらけで汚染された地球を離れ、人類が宇宙に暮らして700年。地上に残さ
れたゴミ処理ロボット「WALL・E」は、一人(一台?)、黙々とゴミの城を築いていた。
ミラクル技術者集団・ピクサーの新作は、地球と人類の未来に警鐘を鳴らしつつ、
シンプルな愛の素晴らしさを力強く描く感動作。アニメ作品でありながら、今年度
の賞レースでは作品賞候補の筆頭であり、ピーター・トラヴァース、スティーヴン・
キングなど批評家のベスト10にも軒並みランク入り。どんな素晴らしい作品なんだ
ろう?!と期待度100%で吹き替え版を鑑賞。
本編上映前の短編『プレスト』がまず最高に面白くて、ツカミはオッケー!(笑)。
マジシャンとアシスタントのウサギのお話なんだけど、『プレステージ』みたいな
レッド・カーテンの舞台が素敵。アハハと笑っているうちに本編が始まる。

荒廃した地球を一人、黙々と片付けるウォーリーの姿が、セリフなしで淡々と映
し出される。ゴミを一つ一つチェックしながら分別して、気に入ったら宝箱に入れて
いくウォーリー。一日が終わるとキャタピラを脱いで(彼の靴なんだね)、いつもの
VHSテープを再生する。セリフはなくとも、彼の心情がしみじみと伝わってくる。
「ああ、誰かと手をつないで、踊ってみたいな」。。
とにかくウォーリーがかわいい! 太陽電池で充電されながら動くロボットなの
だけれど、愛玩動物のようなかわいらしさ。レトロなショベルカーのプラモデルの
ような造形に命と感情を吹き込む、ピクサーの技術は本当に凄い、としか言いよ
うがない。
そんなウォーリーの前に現れた宇宙船と、彼とは全く違った姿形をしたロボット、
イヴ。初めて見る、自分以外のメカに対する好奇心はたちまち恋心に変わり、イヴ
と「手をつなぎたい」と願うウォーリーの姿が切なくて、もう悶絶!

プログラム通り宇宙に連れ戻されるイヴと離れたくない!一心で、宇宙に旅立つ
ウォーリー。月を越え、太陽に灼かれ、土星の輪に触れてみる。この場面が最高に
素晴らしかった! 個人的に、宇宙って怖いイメージがあるのだけど、そんなこと
は全く忘れてウォーリーと一緒に宇宙を飛んでいる気分。素晴らしい。
人類が暮らす巨大な宇宙船に着いてからは、残念ながらちょっと失速感。超メタ
ボで退化した人間の姿は情けなく、普通のアニメになってしまった感じ。艦長vs.
コンピューター(オート)の場面では『2001年宇宙の旅』の音楽が流れ、スタンリー
・キューブリックの偉大さを感じる。人間に叛乱を起こすコンピュータが、HALを超
える日は来るのだろうか?
この映画が、アメリカでアニメ映画史上最高レベルの評価を受けている理由は何
なんだろう? もちろん、ピクサーの底力を見せつけられた傑作には違いないけれ
ど、それだけじゃ説明がつかない。人類は必ず復活できる、っていう希望を描いた
ラスト。地球規模の環境破壊が待ったなしの状況の昨今だから、それがプラスに
受け入れられたのかな。
(『ウォーリー』監督・原案・脚本:アンドリュー・スタントン/2008・USA)
レオの粉骨砕身~『ワールド・オブ・ライズ』

BODY OF LIES
欧米各国では、イスラム原理主義者による爆破テロが頻発。CIA中東局工作
員のフェリス(レオナルド・ディカプリオ)は、上司のエド(ラッセル・クロウ)から
の指示によりヨルダンに入る。
精力的に新作をリリースしているリドリー・スコットが、ラッセル・クロウと何度
目かのタッグを組み、レオナルド・ディカプリオを迎えて撮ったサスペンス・アク
ション。テロという宣戦布告のない戦争に立ち向かうべく、その明晰な頭脳と
堪能なアラビア語を活かし、中東担当で飛び級の出世を続ける若きCIA工作員
が選んだ生き様を、リアルかつ残酷に描く。
この映画、本国アメリカでは全くの不評で大コケだったらしいけど、私は案外
面白く観ました。しかし、これは大不況下のアメリカで不発だったのも無理はな
い、とは思いましたよ。題材からして、スカっと爽快なエンディングが迎えられ
るわけもなく、カタルシスが得られる作品でもない。しかし、いいではないか!
レオが物凄く頑張ってるんだから(甘)。ちなみに原作は、ワシントン・ポスト紙
の元記者によるフィクション。

原題の「BODY OF LIES=嘘の塊」に象徴されるように、描かれるのは騙し騙さ
れ、嘘で固められた魑魅魍魎の世界。見所はやはり、官僚主義の事務屋・エドと、
現場主義の鉄砲玉・フェリスの対照的な生き様。マイホーム・パパの仮面を被り
ながら、「文明世界を救っている」とうそぶくエド。自らをアメリカの象徴と言わん
ばかりの彼は、中東世界への蔑視を隠そうともしない。男の色気のカケラも感じ
させない、ラッセル・クロウの役作りはさすが。
対するレオナルド・ディカプリオ。演技に力が入り過ぎだと批判されがちな彼
だけど、本作でも眉間の皺を深く刻みながらの大熱演。でもやっぱり、彼には
少年の面影を感じるのは私だけでしょうか。アラブ人助手を捨て駒のように扱
わざるを得なかったフェリスが、愛を知ったときに初めて、身を挺して敵の懐に
飛び込んでゆく。フェリスのアイシャ(ゴルシフテ・ファラハニ)への愛情がどの
程度真摯なものだったか計りかねる印象だったのが、少し残念。そして、フェリ
スが狂犬病の予防注射をちゃんと5回打ったのかどうかも、物凄く気になった。

携帯電話の通信やメールの傍受だけでなく、高度1万メートルから、ピンポイ
ントで監視対象を特定するCIAの諜報技術にはいつもながら驚かされる。しかし
どんなに高度な技術が存在しようと、それを使いこなせる優秀な人材がいないこ
とには意味がない。エドが「誰よりも優秀な」フェリスを、あのまま手放すとは考え
難い。フェリスを利用し、「釣りに行こう」と意味ありげな視線を送るハニ(マーク・
ストロング)も然り。フェリスに安住の地はあるのか、世界にテロの止む日は訪れ
るのか。。
と、絶望的な気分になりつつも、『パラダイス・ナウ』で自爆テロに向かう若者、
サイードとハーレドを演じたカイス・ネシフとアリ・スリマンの顔を見られたことが、
ちょっとうれしかった。
(『ワールド・オブ・ライズ』監督・製作:リドリー・スコット/
主演:レオナルド・ディカプリオ、ラッセル・クロウ/2008・USA)
テーマ : ワールド・オブ・ライズ
ジャンル : 映画
今日も、明日も。~☆ 祝・ブログ三周年 ☆~
早いもので、今日で拙ブログ「真紅のthinkingdays」も三周年を迎えました。
いつも読んで下さっている方、お付き合い下さったブロガーの皆さん、本当に
ありがとうございました。
正直、三年も映画中心のブログを続けるとは思っていませんでした。
この三年間はあっと言う間のようで、濃密な時間だったような気もします。
今後は少しペースが落ちると思いますが、末永くお付き合いいただけるとうれ
しいです。
映画館に行って、あの暗闇に紛れ込む至福のとき。
『カイロの紫のバラ』のシシリアのように。
一本の映画の製作から公開まで、携わった全ての人に感謝を。
違う場所で、違う時間に同じ映画を観て、語り合える全ての友に愛を。
そして私は、これからも時間をやり繰りして、息せき切って映画館に駆けつけ
たい。いつまでも新作の公開に心ときめかせる、青臭い映画好きでいたいです。
明日からも、どうぞよろしくお願いします!

Love actually is all around...
Wish you have a Merry Christmas!
真紅拝
いつも読んで下さっている方、お付き合い下さったブロガーの皆さん、本当に
ありがとうございました。
正直、三年も映画中心のブログを続けるとは思っていませんでした。
この三年間はあっと言う間のようで、濃密な時間だったような気もします。
今後は少しペースが落ちると思いますが、末永くお付き合いいただけるとうれ
しいです。
映画館に行って、あの暗闇に紛れ込む至福のとき。
『カイロの紫のバラ』のシシリアのように。
一本の映画の製作から公開まで、携わった全ての人に感謝を。
違う場所で、違う時間に同じ映画を観て、語り合える全ての友に愛を。
そして私は、これからも時間をやり繰りして、息せき切って映画館に駆けつけ
たい。いつまでも新作の公開に心ときめかせる、青臭い映画好きでいたいです。
明日からも、どうぞよろしくお願いします!

Love actually is all around...
Wish you have a Merry Christmas!
真紅拝
人生の旅人~『右岸』

Rive droite
福岡に生まれた祖父江九は、不思議な能力を持つ少年。その宿命ゆえに波乱
の人生を歩む彼の心には、常に幼馴染の兄妹、惣一郎と茉莉の面影があった。
辻仁成が江國香織と『冷静と情熱のあいだ』以来のタッグを組み、男女の異な
る視点から同じ登場人物を描いた長編小説。文芸誌『すばる』に5年に渡って
連載されていただけに、ずっしりと重い二段組、500ページを超える長編。
実は私、こう見えても(?)江國香織さんのファンなんです・・・。彼女の作品
は、全て読んでいると思う。直木賞受賞以来、仕事熱心じゃなくなったな~、と
寂しく思っていたのだが、こんな企画が進行していたとは! 文芸誌って読ま
ないので、全然知らなかった。江國バージョンの『左岸』が読みたいがために、
この長い長い小説、読了しました。長かった~。
「辻仁成ってこんなこと書く人だったっけ?」と驚くほど、スピリチュアルワー
ルド全開です。主人公の九がどうも魅力的な人物に思えず、その九が思い続
ける茉莉も捉えどころがなく・・・。人間関係や年代設定も、よくわからない部分
が多々。しかし読了してしまえば、そう悪い小説でもなかったな~、と思ってし
まう不思議な作品。人がただ生きている、そのことこそが「奇跡」だという真理
を描くのに、随分遠回りしたね、という印象。
さあ、今から『左岸』読むぞ~!(嬉)
(『右岸』辻仁成・著/2008・集英社)
ネットショップでトラブル、ありますか? ~二重請求~
ブロガーの皆さん、非ブロガーさんでもPCを使っておられたら当然、ネット
ショップは利用されますよね。私も、DVDや本はもちろん、食品やコスメ購入
なんかでしょっちゅうお世話になってます(オークションだけはやったことない
んですが)。そんなネットショッピング、今までトラブルは皆無で、全く不安は
なかったんですが・・・。
遂に来ましたよ。二重請求されてしまいました。
迅速に対応はしていただいたので「被害に遭った」というわけではないの
ですが、こういうのって後味悪いですね。「ネットショップ」とはいえ、結局は
人間がやっていることなんですから、ミスはあって当たり前かも。対面販売
で買える物は、ネット利用は控えるようにします。これからは気をつけよう~。
師走です、皆さん風邪など召されませぬよう・・・。
真紅拝

ショップは利用されますよね。私も、DVDや本はもちろん、食品やコスメ購入
なんかでしょっちゅうお世話になってます(オークションだけはやったことない
んですが)。そんなネットショッピング、今までトラブルは皆無で、全く不安は
なかったんですが・・・。
遂に来ましたよ。二重請求されてしまいました。
迅速に対応はしていただいたので「被害に遭った」というわけではないの
ですが、こういうのって後味悪いですね。「ネットショップ」とはいえ、結局は
人間がやっていることなんですから、ミスはあって当たり前かも。対面販売
で買える物は、ネット利用は控えるようにします。これからは気をつけよう~。
師走です、皆さん風邪など召されませぬよう・・・。
真紅拝

愛を悼む~『ハピネス』

HAPPINESS
幸福
不摂生で自堕落な生活がたたり、肝硬変を患ったヨンス(ファン・ジョンミン)は、
田舎の療養所で肺を患う女性、ウニ(イム・スジョン)と出逢う。互いに惹かれ合い、
一緒に暮らし始めた二人だったが・・・。
ホ・ジノ監督のデビュー作『八月のクリスマス』は、一番好きな映画の一つ。難病
を患った主人公が出逢った人生最後の恋、という本作のモチーフは『八クリ』と通じ
るものがある。しかしどこまでも淡く、「愛」という言葉を口にすることなく別れていっ
た『八クリ』の主人公たちとは違い、ウニとヨンスは愛に身を投じる。本作で描かれ
る愛の痛み、心の移ろいは現実的で、シニカルでさえある。純粋な愛の至福だけ
でなく、その危うさと残酷さをも描き出した秀作。必見、必見、必見!!
ロードショー初日の初回に鑑賞、私にとってホ・ジノ作品が特別なものであるこ
とを再確認した。しかしこの映画、心斎橋と六本木でしか公開されていないのだ。
何とももったいなく、残念。。

ヨンスは酷い男だけれど、彼に惹かれる女の気持ちはよくわかる。何とも言え
ないあの笑顔に出逢ったら、その瞬間、恋に落ちるだろう。しかし母親の膝枕で
甘えるだけの彼は、今まで誰一人、心から愛したことはなかったのかもしれない。
ウニはヨンスに言う、「昔付き合っていた人がいるのよ」。「俺は君が初めての相手
だ」。その言葉は明らかに「嘘」だけれど、案外本音だったのかもしれない。
全身全霊でヨンスを愛する、ウニの献身が切ない。しかしその思いは純粋であ
ればあるほど「重荷」となってヨンスに圧し掛かり、愛は彼女から逃げてゆく。夜の
遊園地で、ヨンスに手を振るウニが流した涙の意味。一緒に絶叫マシンに乗れな
い、自らの虚弱に対する悲しみ。愛する人の笑顔を見つめる幸福、そして、別れ
の予感・・・。
「私が死ぬときはそばにいて」 「お前がいないと生きられない」

流行や華やかさとは無縁のウニに対し、スタイル抜群な都会の女・スヨン(コン
・ヒョジン)。ヨンスが「喉もと過ぎれば」ソウルの夜の街とスヨンの元へ戻ったこと
を責める気はない。ある意味、それは極々「当たり前」の選択なのかもしれない。
ウニがヨンスに求めた、たった一つの約束。その願いが叶うとき、ヨンスは初めて
自らが手放した「幸福」の意味を知ることになる。
「自然派」である監督の過去作を思い出させる場面も満載で、ファンとしてはうれ
しい限り。バスの窓からの風に吹かれるウニ、遺影や葬儀、雪、手渡される小さな
白い花。その花が逆さに吊るされてドライフラワーになっていたり、二人が暮らした
家に飾られていた写真盾が、ウニの枕元に立てかけられていたり。小物を使って
さり気なく心情を描く、監督の繊細な演出が光る。フレームの左右に人物を配し、
奥行きを感じさせるショット、鏡を使ったショットもお馴染みだ。

ヨンスを演じたファン・ジョンミンは大好きな俳優さん。素朴さの中に熱さを
感じさせてくれて、とっても魅力的。薄幸なウニを持ち前の透明感で演じ切っ
たイム・スジョンにも大拍手! 歴代ヒロインのイメージに繋がる、いかにも
ホ・ジノの好みのタイプだな~、という感じ(笑)。そして彼の前作『四月の雪』
では、昏睡状態から死に至る、セリフのない役を演じたリュ・スンス。彼が元気
な姿を見せてくれたことに、監督の「情」を感じてうれしかった。
(『ハピネス』監督・脚本:ホ・ジノ/2007・韓国/
主演:イム・スジョン、ファン・ジョンミン)
イカした未亡人~『やわらかい手』

IRINA PALM
ロンドン郊外に住む寡婦のマギー(マリアンヌ・フェイスフル)は、最愛の孫の病
に心を痛めていた。海外治療のためにかかる莫大な渡航費を捻出しようと、彼女
は「高給ホステス募集」の貼り紙がされた店に足を踏み入れる・・・。
英国労働者階級の人々のたくましさと悲哀、真の家族愛を描いた佳作。ユーモ
アは散りばめられているが、予想したよりはシリアスで暗いトーンの作品。ロンド
ン、オックスフォード・サーカス駅からソーホーへ至る街並みに、クリスマス間近
の浮き足立った雰囲気は感じられない。
R-15という厳しいレイティングにも関わらず、エロスとは無縁、いやらしさは
皆無。夫に先立たれた普通のおばあさんが、最愛の孫のために意外な才能-
-その「やわらかい手」で男をイカせる--を発揮するというお話だが、後半は
ちょっと意外(?)な展開。尚、サオは映りませんのでご安心下さい(笑)。観終
わって、思わず自分の掌をまじまじと見てしまった・・・。ナンノタメニ?

主演のマリアンヌ・フェイスフルは伝説のミューズということだけど、私は全
くの初見。でっぷりとした中年太りで、ぬいぐるみ体型のフツーのおばさん。
家族のため、自分を犠牲にして生きてきた人だと一目でわかる。そんな「肝っ
玉母さん」マギーが、自分の才能を活かして稼ぎ、職場の若い先輩ルイザ
(ドルカ・グリルシュ)と飲んで心を交わすうち、少しずつ意識が変わってくる。
最愛の孫の為に身を挺したことは、決して恥じるべきことではない。息子に
なじられようと、近所の茶飲み友達から詮索されようと、そんなことはどうで
もいい! これはシングルマザーのルイザから、仕事を奪ってまで得たお金
なんだ。大事なのは、孫の命を救うこと、ただそれだけ・・・。
マギーの息子トム(ケヴィン・ビショップ)の妻、サラ(シヴォーン・ヒューレット)
が姑を煙たく感じているのもリアル。最後にマギーが彼らと同行しない決断をし
たのは、とても賢明な選択だったと思う。どんなに深く愛していても、いや愛し
ているからこそ、時が来れば親は子から離れなければならないと思うから。
そして、家族のためだけに生きてきたマギーも、自分の幸せを思うべきとき・・・。

強面の風俗店オーナー、ミキ(ミキ・マノイロヴィッチ)がマギーに惹かれてゆく、
というのがまた面白く、意外な展開だった。若くて綺麗なオンナは知り尽くして
いるはずの彼なのに・・・。週払いの賃金のように、ゆっくりと確実に育まれてゆく
彼らの「大人のロマンス」が素敵。しかしあの「ラッキー・ホール」、日本式ってい
うのにビックリ・・・。マダアルノカシラ? ミキが手慰みにしていたのも、スーパー
マリオだったのがうれしかった。彼は「日本びいき」なんだね、いい人だ(笑)。
(『やわらかい手』監督:サム・ガルバルスキ/主演:マリアンヌ・フェイスフル、
ミキ・マノイロヴィッチ/2007・ベルギー、ルクセンブルク、英、独、仏)
イノセンスの終焉~『パラノイドパーク』

PARANOID PARK
オレゴン州ポートランド。17歳のアレックス(ゲイブ・ネヴァンス)はスケボーに
夢中で、離婚間近な両親をもつ「普通の」高校生。ボーダーが集まる「パラノイド
パーク」に出かけた彼は、ある事件の当事者となる・・・。
ガス・ヴァン・サントは好きな映画監督であるにも関わらず、カンヌでパルムドー
ルを受賞した『エレファント』はじめ近年の作品は未見。久々のガス作品鑑賞とな
った本作、見事にやられました、と言う感じ。ドキュメンタリータッチの映像を手が
けたのは名手クリストファー・ドイル。アレックスのおじさん役でチラリと顔を見せ
てくれる彼が映し出す、変幻自在な光と影に耽溺。イノセントな思春期の終焉を、
残酷な形で迎えた一人の少年の姿が、痛々しいまでにフィルムに刻み込まれて
いる。

主役・アレックスを演じたゲイブ・ネヴァンスの何とも魅力的なこと! 撮影
地ポートランドでの公募で選ばれたという素人な彼をキャスティングしたことが、
この映画の成功を運命づけている。不気味にも崇高にも見える無表情、演技
とは信じられないほど自然な佇まい。ガスは、一体どうやって彼に演技指導
したのだろう? カメラはまるで吸い付くように、幼さの残るアレックスの表情
を捉えてゆく。
アレックスは決して感情を剥き出しにすることはない。しかし孤独で内省的
な彼の精神世界の先に透けて見えるのは、大人への絶望、何処へも行けな
い悲しみ。両親の離婚も、本当はあまり好きじゃない彼女と寝ることも、イラク
戦争も、何もかもが現実離れしている。そして彼にとっての「リアル」は、最も
悲痛な形でもたらされることになる。

物語はアレックスを裁くことも、護ることもせず、静かに寄り添いながら彼を見つ
め続ける。ただ結論を下さないからと言って、それは単に「丸投げ」しているという
ことではない。いや逆に、作り手はアレックスを全くこちら側に「渡していない」。
その視線は彼の一挙手一投足を見つめ、慈しみ、包み込んでいるようにさえ映る。
出来事の一部始終を書き終え、焼いた後、初めて安堵したように瞳を閉じるアレッ
クス。教師の呼びかけに応えない彼の中で、何かが確実に「死んで」しまったかの
ように。
ミステリー風味だった予告編とは随分手触りの違う、実験的とも言うべき作品。
時制をバラバラにし、映画の核となるはずの事件も過度にエキセントリックには
描かれない。少年犯罪が絡むことも含め、好き嫌いがはっきりと別れる映画かも
しれない。しかし敢えて「傑作」と書いておこう、ガスの映画人としての姿勢、彼が
見つめようとしたものを、私は讃えたい。
(『パラノイドパーク』監督・脚本・編集:ガス・ヴァン・サント/
撮影:クリストファー・ドイル/主演:ゲイブ・ネヴァンス/2007・仏、米)
遅咲きの乙女たち~『マルタのやさしい刺繍』

DIE HERBSTZEITLOSEN
スイス・エメンタール地方の小さな村。最愛の夫を亡くして9か月、鬱々とした
毎日を過ごす80歳のマルタ(シュテファニー・グラーザー)。そんなある日、彼女
は若い頃の夢を思い出す。それは自分でデザインした刺繍を施した、ランジェリー
の店を開くこと・・・。
合作でない、純粋なスイス映画を観るのは初めてかもしれない。2006年にスイ
ス国内動員数№1ヒットを記録したという本作は、元気いっぱいのおばあちゃんた
ちが「自分の人生」を生きようと奮闘する上質なコメディ。想像以上に素敵な映画
だった。大阪では単館公開ながら、ロングランしているのも納得の作品。個人的に
は、昔母と一緒にスイスのベルン、ルツェルン、グリンデルワルトなどを回った思い
出があるので、母に是非観せたいなと思った。懐かしいスイスの風景。。緑に映え
る民族衣装や、窓辺のカラフルなお花たちがとてもかわいい。

ヨーロッパでも、「男は仕事、女は家庭」という固定観念が根強いことに少々驚く。
マルタは若い頃に好きだった裁縫を「夫に言われて」諦め、マルタの友人ハンニは
「夫に反対されて」運転免許を持てなかった。しかし彼女たちは夫をちゃんと愛して
いるし、今までの人生が最悪だったと思っているわけでもない。ただ、「自分の意志
で何かをしたい」と思っているだけ。
マルタたちの子の世代に至っても、保守的な価値観はなかなか変わってはいな
いようだ。牧師や村の青年会(?)のリーダーという立場の彼らは、身勝手で醜悪
な俗物。この辺りが類型的に描かれすぎているような気がしないでもないが、観て
いて心底ムカつくほど、旧態依然とした彼らの姿は見苦しい。

80歳を過ぎたおばあちゃんたちが、ネットを駆使してランジェリーの通販なん
て、最高にクール! マルタが忘れかけていた自分の夢を叶えたことも素敵だけ
れど、世間体や周囲の妨害にもめげず、彼女が自分の意志を貫いたことが素晴
らしい。やりたいことは、誰が何と言おうと、いくつになってもやっていいんだ。
生き甲斐をもつ喜びを感じることに、年齢なんか関係ない! 頬に積もる陽射し
を気持ちよさそうに受ける、ラストのマルタの表情がいい。彼女の側には温かい
お茶とパイ、そしてかけがえのない友人たち。。
願わくば、ウィリアム・H・メイシー似のヴァルターの妻にも、何らかのエピソード
があって欲しかったなと思う。夫に裏切られ、村を去る彼女だけがちょっと心配。
そして誰の人生にも、美しい花が開く時期がありますように。たとえどんなに
遅咲きでも。
(『マルタのやさしい刺繍』監督:ベティナ・オベルリ/2006・スイス/
主演:シュテファニー・グラーザー、ハイジ・マリア・グレスナー)
砂漠の女王たち~『プリシラ』

THE ADVENTURES OF PRISCILLA,
QUEEN OF THE DESERT
オーストラリア、シドニー。若い恋人に死なれたばかりのベルナデット(テレンス
・スタンプ)と若くて口の悪いフェリシア(ガイ・ピアース)は、ドラッグ・クィーン仲間
のミッチ(ヒューゴ・ウィーヴィング)から地方公演に誘われる。「砂漠の女王・プリ
シラ号」と名づけたおんぼろバスで、砂漠の町アイススプリングスを目指す三人。
ベルナデットは「運を変えるため」、フェリシアは「砂漠の岩の上にド派手な衣裳で
立つ」夢を叶えるため、そしてミッチは・・・。
全く知らない映画だったのだけれど、観て本当によかった! 教えて下さった
方に感謝です! う~ん、これはすごくいい映画ですね。オーストラリア大陸の
赤い土、どこまでも広く青い空に映える、クィーンたちの原色の衣裳! 懐メロ
感とビートの効いた音楽、踏まれても、倒れても起き上がる、いやタダでは起き
ない三人に、笑わされて、ホロリとさせられて・・・。心温まり、元気がもらえる
ロード・ムービーの傑作です。超・オススメ。

若いガイ・ピアースが物凄くハジケているのだけど、彼ってキャラがマーク・
ウォールバーグとカブるんですよね。今までそんなこと思ってもみなかったん
だけど、この映画ではめっちゃ被ってる。ミッチもね、「どっかで見た顔よね・・」
と思ってたら、なんとエージェント・スミス! もう、大爆笑。
昔の映画を知らないので、テレンス・スタンプって悪役のおじさん俳優のイメ
ージだったのですが、こんな役も演じていたとは・・・。しかし「伝説のDQ」にし
ては、踊りがイマイチ、弾けてないぞ(笑)。

アジア人(日本人?)女性の「ピンポン玉」のシーンだけはさすがに「ギョギョ!」
だったけど、「旅は道連れ、世は情け」みたいな東洋的情緒も感じさせてくれた。
そして今、シネコンに行く度に予告がかかる『マンマ・ミーア!』でもお馴染み、アバ
の音楽! 北欧で生まれた彼らの音楽って、どうしてこれほど世界中で愛され続け
ているんだろう? フェリシアなんてアバのうん○まで持ってましたから(爆)。
三人三様、それぞれの再スタートを切るラスト。自分らしく、好きな場所で、好きな
誰かと、好きなように生きればいいんだね。
(『プリシラ』監督・脚本:ステファン・エリオット/1994・豪/
主演:テレンス・スタンプ、ヒューゴ・ウィーヴィング、ガイ・ピアース)
愛しき者はすべて去りゆく~『ゴーン・ベイビー・ゴーン』

GONE BABY GONE
ボストンの下町で、4歳の少女が失踪した。被害者の伯母から捜査を依頼され
た私立探偵のパトリック(ケイシー・アフレック)は、相棒のアンジー(ミシェル・
モナハン)と気の進まないまま聞き込みを始めるのだが・・・。
ボストン出身の俳優、ベン・アフレックが監督デビュー作にして高い評価を受け
たサスペンス。日本では劇場公開されずDVDスルーとなったが、これは納得行か
ないな~。あまりに哀切で残酷な物語ではあるけれど、物凄く完成度の高い傑作
だと思う。公開されていたら、年間ベストに入れる方も多かったのではないかな。
これは是非DVDでご覧になっていただきたい。

ボストンが舞台、誘拐で始まる物語とくれば、クリント・イーストウッド監督の
『ミスティック・リバー』が思い出される。陰影の深い映像から受ける、重苦しく
暗い印象も同じ。観終わって知ったが、本作と『ミスティック~』は原作者が同
じなのだ。自らと同じ、俳優出身の巨匠の代表作にガチンコ勝負を挑むとは・・・。
ベン・アフレック、男前やな~。
公開されなかったために事前情報がほとんどなく、これほどの豪華キャストで
あることにも驚かされた。モーガン・フリーマンとエド・ハリスの二人は、重鎮ら
しいさすがの演技。中でも、オスカー候補となったエイミー・ライアンの演技が
やはり印象的。彼女は『その土曜日、7時58分』でも、脇役ながらシングルマザー
(イーサン・ホークの元妻)を好演していたのも記憶に新しい。しかし、一番驚い
たのはビー役のエイミー・マディガン。彼女エド・ハリスの奥方なのですね。。シラナカッタ

ボストンの下町を、ゆっくりとパンしてゆくカメラ。掠れた声でそれとわかる、
ケイシー・アフレックのナレーションで幕を開けるこの映画は、最後までそのや
るせなさと不条理で観る者を惹き付ける。「子どもたちは何も求めず許し、左の
頬を差し出す」。子の親への愛こそ無償なのに、喉元過ぎれば熱さを忘れ、
アマンダを抱き締めることさえしない愚かなヘリーン(エイミー・ライアン)。
「正しいこと」は必ずしも「善きこと」ではなく、「成すべきこと」は時には違法
ですらある。狼たちの中の羊として、鳩のように素直には生きられても、蛇の
ように賢くは生きられなかったパトリック。アンジーを引き留めようとする彼の
哀願が切ない。ドイル刑事が言うように、30年経てばパトリックの考えも変
わるのだろうか。青臭いままで生き続けることは、罪深いことなのか。。。
映画は再びファースト・シーンへと廻り、冒頭の牧師の言葉が想起され、
改めて胸に迫る。リアリティを求めたアフレック兄弟の、ボストンへの愛が
作り上げた映画。そしてボストンという街もまた、彼らを愛しているようだ。
(『ゴーン・ベイビー・ゴーン』監督・脚色:ベン・アフレック/
原作:デニス・レヘイン『愛しき者はすべて去りゆく』/2007・USA・未/
主演:ケイシー・アフレック、ミシェル・モナハン、エイミー・ライアン)
テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画
あなたならどうする~『この自由な世界で』

IT'S A FREE WORLD...
33歳のシングルマザー、アンジー(カーストン・ウェアリング)は、職業紹介所
の仕事を突然、解雇されてしまう。男社会に嫌気が差した彼女は、ルームメイト
のローズ(ジュリエット・エリス)を誘い、自ら派遣会社を立ち上げるのだが・・・。
私の「お父さん」こと英国の名匠、ケン・ローチの最新作。脚本はケン・ローチ
作品の語り部ポール・ラヴァーティ。ヴェネチア映画祭において、本作で脚本賞
を受賞している。
「ケン・ローチやなぁ。。」突き放すような幕切れと、短いエンドロールの間に頭を
よぎったのはそれに尽きる。もう、思いっきり「ケン・ローチ印」の秀作でした。
しかし、七転び八起きのヒロイン・アンジーをどう捉えるかによって、この映画は
好き嫌いが分かれるかもしれない。秀作であることは疑いようがないにしても。

直情径行型で、無鉄砲なアンジー。「躊躇」なんて言葉は、彼女の辞書にはない。
思い立ったら即、実行。計画性がなく無防備で、「石橋を叩いても渡らない」くらい
腰が重い自分にしたら、彼女の行動力は凄いとしか言いようが無い。以前、派遣
で働いていた頃、仲間と「自分たちで派遣会社やろう!」と一瞬、盛り上がったこと
があった。「使われている」立場、即ち搾取されている「損な側」にいることを自覚
したとしても、なかなか彼女のように行動には移せないものだと思う。もちろん、
その当時の自分はアンジーほど「崖っぷち」ではなかったけれど・・・。
アニマルプリントのコートを着て、大型バイクを乗り回す奔放なアンジー。私は
応援したいと思っていた、あのシーンまでは・・・。「もしもし、移民管理局ですか」

一度甘い汁を吸うことを憶えたら、その味を忘れることはできないのかもしれ
ない。もう二度と苦い汁を吸おうなど、誰も思わないだろう。大口の派遣会社が
組織的に行っていることを、アンジーは身の危険を冒しながら、個人で請け負っ
ているに過ぎない。しかしそれが人間としてどうかと問われたとき、自分は「嘘
つき」ではないと言い切れるのか。最愛の息子に、自分の職業を誇れるのか?
それでも彼女は行く、スーツケースを引いて一人、ウクライナへ・・・。アンジー
を演じたカーストン・ウェアリングは初めて観た女優さん。「この自由な」現代の
英国を身一つで生き抜こうともがく、蓮っ葉なようで情の厚い女性を熱演している。
ケン・ローチはいつもと同じスタンスで、登場人物たちと距離を取る。しかし
その眼差しは、厳しくもやさしく、温かい。観終わった後、やるせないけれども
荒んだ気分に陥ることがないのは、彼の人間描写の温かさゆえだと思う。
「あなたもご自分で考えてみて下さい」。そう言われたような、この余白。素晴ら
しい映画です。 IT'S A WONDERFUL CINEMA・・・
(『この自由な世界で』監督:ケン・ローチ/2007・英、伊、独、西、
ポーランド/主演:カーストン・ウェアリング、ジュリエット・エリス)
自分らしく、ありのままで~『ペネロピ』

PENELOPE
名家の一人娘ペネロピ(クリスティナ・リッチ)は、先祖に掛けられた呪いの為に、
豚の鼻をして生まれてきた。まさに「深窓の令嬢」として25年間、一度も外の世界
を知らずに育った彼女の元へ、花婿候補の青年マックス(ジェームズ・マカヴォイ)
が現れる・・・。
リース・ウィザースプーンが立ち上げた製作会社の第一作。リースはプロデュー
サー兼端役で出演もしている。個人的には、彼女は製作に専念してもよかったの
では? と思わないでもないけれど、恋に、人生に迷える女子必見のファンタジー。
映画館で観たかった映画だけれど、正直、ここまで素敵な作品だとは思っていな
かった。色彩設計やプロダクション・デザインもかわいらしく、乙女心ときめく作り。
ちょっぴりティム・バートン風味もあり。英米合作映画ではあるけれど、ヨーロッパ
映画の小品の雰囲気です。この映画大好きだ~。

ペネロピの『紅の豚』な容姿から、てっきり呪いの解き方はそういうことだろうな、
と予想していたら・・・。「ありのままの自分を受け入れよう」っていうテーマは、
いい意味で期待を裏切ってくれた。
女の子の自立についての物語だけれど、子育てとの親のスタンスについても
考えさせられるものがあった。ペネロピのママ、ジェシカ(キャサリン・オハラ)は
娘に「本当の容姿」を取り戻して欲しくて、花婿候補を選び続ける。でもそれは
「娘のために」と言いながらも、実は「美しい娘であって欲しい」という母親として
の願望だったんだと思う。親が、子どものために出来ることはなんでもしてやりた
い、と願うことは決して間違いではない。けれど、それが本当に「子どものために」
なっているかどうか。声を失う前に、立ち止まって考えてみたほうがいい。

プロデューサーのリースが自らオファーしたというペネロピ役のクリスティナ・
リッチは、この作品のイメージにピッタリ。豚の鼻も次第に違和感がなくなって、
目元が土屋アンナに似てるな~、なんて思いながら観ていた。最後には普通の
鼻のペネロピの方に違和感があったりして(笑)。そして何と言っても素敵なのは
ジェームズ・マカヴォイですよ~。今まで観てきた中で、一番いいと思う。碧い瞳
が美しい小柄な彼は、この映画のファンタジックな世界観にピタリとはまる。
かわいらしいだけじゃなく、差別や偏見についての現実をも描くこの映画。是非、
観てみて下さい。
(『ペネロピ』監督:マーク・パランスキー/2006・UK、USA/
主演:クリスティナ・リッチ、ジェームズ・マカヴォイ)
歩く速さが同じだった~『きみの友だち』

小学四年生で交通事故に遭い、松葉杖で歩く恵美。彼女には、いつも影のよう
に寄り添う由香がいた。しかし、彼女たちの関係は、長くは続かなかった・・・。
恵美と彼女の弟ブンを中心に、彼らに関わりのある子どもたちを巡る物語。連作
短編が、最後に一つの大きな形に収束する。
重松清さんの本は読み始めたばかりだけれど、一気読みというのができない。
何故なら、涙が溢れて全然、進まないから。この本は、友だちと自分について、
悩んだり、苦しんだりした経験がある人には、きっと共感できるところがあると
思う。
「同級生だから友だち---嘘だと思う、絶対に」
「親友」だとか「友だち」だとか、そもそも「みんな」って一体、何だろう?
気が合う、ってどういうことなんだろう。ずーっと一緒にいるから友だちなんじゃ
なくて「一緒にいなくても寂しくない」のが友だちなんだ。そう頭の中ではわかっ
ていても、「みんな」の中で一人でいるって、すっごく勇気がいることだと思う。
特に中学生の女の子だったりしたら。
「いじめの一番怖いところは、性格を変えられてしまうところ」っていう言葉も
印象的。最近ではモラハラっていう言葉も定着してきて、無視や人格攻撃が
被害者の精神を破壊するってことも認識されて来ているとは思う。でも、学校
の中の教室っていう場所ではまだまだ、無邪気な悪意がはびこっているのだ
ろう。
この小説の好きなところは、どんな子どもにも弱みも長所もあるんだよ、と言
ってくれているところ。文武両道、何をやらせてもトップのブンやモトにも、勉強
もスポーツも今ひとつの三好くんにも、先輩風を吹かすだけのような佐藤くんに
も。それぞれに事情があって、それぞれの悩みがある。そして、そんな一人一人
に、きっといいところがあるんだよ、って。
私はもう、とっくの昔に大人になった。だけど今でも「友だちって何だろう」って
考えてしまうことがある。特にブログを始めてからは、匿名の繋がりではあって
もネット上にもいろんな人間関係が見えて、勝手に傷付いたり、落ち込んだりす
ることもある。でも私は、親しくコメントやTBをやりとりした方々のことを「友だち」
だと思っています。勝手に。たとえブログを止めることがあっても、忘れへんよ、
絶対。
(『きみの友だち』重松清・著/新潮社・2005)
闘神~『最後のブルース・リー/ドラゴンへの道』

猛龍過江
THE
WAY
OF
THE
DRAGON
先週、NHK-BSで放映されたものを録画鑑賞。あまりのカッコよさに、思わず
二回観てしまった。
今の30代、40代男性で、李小龍ブルース・リーに憧れた、という方は多いの
ではないかな。私の弟も小さい頃からヌンチャクを振り回し、カンフーの真似事
が高じて空手を習い、絡んできた不良に二段キックをお見舞いして撃退、なんて
武勇伝をいくつか持っている。そんな弟を「寄るな~」なんて思いながら横目で
眺めていた淑女な姉の私だけれど(笑)、この映画を観ればあれは「日本男子
が歩むべき正しき道」だったような気がする。弟よ、アンタは偉かった!(?)
今更書くのも野暮だが、李小龍ブルース・リーの肉体・・・、凄い。限りなく体
脂肪率ゼロに近いであろう筋肉質の身体。逆三角形の上半身は、翼を拡げた
ように筋肉が隆起する。踊るような身のこなし、高速の蹴り。打撃音よりも甲高
い、代名詞ともいうべき怪鳥音。まさに闘神!! スティーヴ・マックィーンが彼
の弟子だった、というのも納得。
ラスト十数分、コロッセオでのチャック・ノリスとの死闘は必見。闘い終わっ
た後の、ロンの表情がいいんです。
(『最後のブルース・リー/ドラゴンへの道』1972・香港/
監督・脚本・製作・音楽・主演:李小龍ブルース・リー)