テクノロジーの叛乱~『イーグル・アイ』

EAGLE EYE
イリノイ州シカゴ。コピー店員のジェリー(シャイア・ラブーフ)と、シングル
マザーのレイチェル(ミシェル・モナハン)は、携帯に非通知の着信を受ける。
「あなたを”起動”した。今すぐ逃げなさい」
スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めたサスペンスフル・アクション。
監視社会の恐怖とテクノロジーの脅威を描いて「ネタが賞味期限切れ」と評判は
今ひとつ?の本作だけれど、私は面白く観ることができた。D.J.カルーソー監督
の作品は初見。苦手だったシャイア・ラブーフも大人な雰囲気で、初めて「いいか
も?」と思ってしまった(笑)。以下、激しくネタバレします。

人間が作ったコンピュータが意志を持ち暴走を始める、というプロットでまず
思い出すのは『2001年宇宙の旅』のHALだろう。本作のコンピュータは、ペンタ
ゴンのB36に作られた「アリア」。そこから発せられる感情のない不気味な女性
の声は、ノン・クレジットだがジュリアン・ムーアが演じているらしい。
信号を次々青に変えたり、軍用機を勝手に飛ばしたり、生体認証を捏造したり、
「ここまでやるか?」という暴走キャラのアリア。カーチェイスの場面なんて車が
壊れ過ぎで、もうワケわからなかった・・・。ブリーフケースの中身とか、ちょっと
辻褄が合わないのでは? と思わせるシーンも多い。しかしこういう映画は突っ
込みモードになるとキリがないし、楽しめない。何も考えないで観ることにしよう
(爆)。

『ボーン・アルティメイタム』ではCIAが全ての通信の傍受をしている設定だった
けれど、本作でもFBIや国家が絡む盗聴や、電子機器の遠隔操作が大きなポイ
ント。アリアは軍の最高機密だから、軍も当然、諜報活動と無関係ではないだろ
う。こういう作品を観るとホント、アメリカって何でもアリだな、、と思ってしまう。
しかし一度「FBI!」って叫んでみたい(笑)。「CIA!」とは叫べないからな~。
(『イーグル・アイ』監督:D.J.カルーソー/2008・米、独/
主演:シャイア・ラブーフ、ミシェル・モナハン、ビリー・ボブ・ソーントン)
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名も無きレジスタンスたち~『ピエロの赤い鼻』

EFFROYABLES JARDINS
フランスの田舎町。教師のジャック(ジャック・ヴィルレ)は、休日にはピエロの
扮装で人々を笑わせていた。ジャックの息子リュシアンは、道化を演じる父を恥
じ、疎ましく感じている。ジャックの旧友アンドレ(アンドレ・デュソリエ)は、そんな
リュシアンに昔話を聞かせる。それは第二次大戦末期、フランスがドイツ軍に占領
されていた頃のこと・・・。「笑いは最強の武器だ」。
『クリクリのいた夏』のスタッフ、キャストが再結集。悲惨な戦争の時代、正義と
ヒューマニズムのために命を懸けて闘った名も無きレジスタンス=抵抗者たち。
墓標さえない兵士、同胞のために罪を被る老人。彼らへの贖罪のために、道化を
演じ続ける一人の男・・・。フランスの田舎町の美しい映像の中に、平和への切実
な祈りが込められた感動作。監督はジャン・ベッケル。現在公開中の『画家と庭師
とカンパーニュ』早く観たいです。

『ガスパール/君と過ごした季節』にも出ていた素敵なおばあちゃん、シュザンヌ・
フロンが亡くなったことは知っていたのだけれど、同じ年(2005年)にジャック・
ヴィルレも亡くなっていたのですね。まだ50代だったのに、残念・・・。名優のご
冥福をお祈りします。
拘束され、穴に隔離されたジャック、アンドレ、ティエリー(ティエリー・レルミット)、
エミール(ブノワ・マジメル)の4人。「もし、生きて帰れたら・・・」「生まれ変わったら
・・・」彼らの会話は軽妙なようでいて、生きることへの渇望が滲んでいる。中でも、
持病の喘息ゆえに戦地に行くこともレジスタンスに加わることもままならない、若い
エミールの苛立ちがやるせない。「生まれ変わっても、自分を生きたい」。解放され
た後、彼は自らの人生を生き直そうと旅立つ。ブノワ・マジメルが素敵!
ピエロの赤い鼻をつけたドイツ軍の兵士。彼は占領軍の兵士として生きるより
も、ピエロとして、いや真のレジスタンスとして死ぬことを選んだのですね。。
極限状態での彼の選択に、涙が溢れる。「生きている限り希望はある」と、4人を
励ました彼なのに・・・。

ピエロの姿はいつも、ユーモラスでありながらどこか哀愁を帯びている。ジャ
ックが演じるピエロも、自らの犯した過ちを背負って道化を演じている。喪われ
た二つの尊い命は、決して取り返しはつかない。しかしリュシアンは、父の苦悩
と十字架を理解しただろう。戦争とは、生き延びた者にも何らかの犠牲を強い、
傷跡を残して終わる。しかし、理不尽で絶望的な状況下でも、笑いという希望を
忘れなかった兵士の思いもまた、いつまでも消え去ることはない。
(『ピエロの赤い鼻』監督・脚本:ジャン・ベッケル/2003・仏/
主演:ジャック・ヴィルレ、アンドレ・デュソリエ、シュザンヌ・フロン)
ゴヤの亡霊たち~『宮廷画家ゴヤは見た』

GOYA'S GHOSTS
1792年、スペイン。カソリック教会では、ロレンソ神父(ハビエル・バルデム)
の提案で異端尋問が強化され、商人の娘イネス(ナタリー・ポートマン)が捕らえ
られる。
宮廷画家ゴヤ(ステラン・スカルスガルド)が見た、18世紀末から19世紀初頭
のヨーロッパ激動の時代。フランス革命、ナポレオンの侵攻、英国軍による解放
まで。その名前しか知らなかったゴヤという画家の作品を中心に、一人の少女
の悲劇的な運命と、彼女を翻弄した神父の罪と罰が描かれる。監督は巨匠ミロス
・フォアマン。彼の『カッコーの巣の上で』は凄い映画でした。
その製作過程も丹念に描写される銅版画や、戦争の悲惨さを描き出した油絵
の数々。重厚なプロダクション・デザインや衣裳、音楽も素晴らしい。

ハビエル・バルデムって本当に存在感ある俳優ですね。『コレラの時代の愛』で
「いい映画だけどハビエルがキモい」という感想に笑ったけれど、この映画のハビ
エルのほうがもっとキモいよ(笑)。彼が画面に登場した瞬間に、映画の雰囲気が
変わった気がした。映画が始まったと言うか、物語が動き出したと言うか・・・。
美しい少女イネスと、その娘アリシアの二役を演じたナタリー・ポートマンは
裸身をさらしての大熱演。しかし女優って、つくづく因果な商売だと思う。以前、
『アクターズ・スタジオインタビュー』でのナタリーを観た。彼女は自分の「イスラ
エル生まれのユダヤ人」としてのアイデンティティに、強烈な誇りと揺ぎない
自信を持っているように見えた。そんな彼女が、隠れユダヤ教徒であることを
疑われ、拷問によって虚偽の告白をし、15年もの間牢につながれて精神に異常
を来たす役を演じるとは・・・。時代の犠牲者であるイネスの純真さと母性愛が
哀しい。

ロレンソ神父の変わり身と自己保身は滑稽でさえある。しかし彼も結局、国家
と宗教の名の下に裁かれるのだが、彼の最期の心情が今ひとつ掴めなかった
のが残念。ハビエルを始め、マベル・リベラ(『海を飛ぶ夢』)、ブランカ・ポルティ
ージョ(『ボルベール<帰郷>』)などスペイン人俳優も多く出演しているが、
セリフは英語。ゴヤを演じたのはスウェーデン人のステラン・スカルスガルド
という国際色豊かなキャストも見所。
エンドロールの最後まで、スクリーンに映し出されるゴヤの絵画。黒を背景
に描き出される奇妙で残酷な人間像に、最後まで釘付けだった。
(『宮廷画家ゴヤは見た』監督・脚本:ミロス・フォアマン/
主演:ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン、
ステラン・スカルスガルド/2006・アメリカ、スペイン)
隣人Xの犠牲~『容疑者Xの献身』

天才的な数学の才能を持ちながら、高校教師として不遇な日々を送る石神。
孤独に生きてきた彼はある日、アパートの隣室に住む母子が、しつこくつきまとう
元夫を殺してしまったことを知る・・・。
当代きっての人気作家、東野圭吾の直木賞受賞作。福山雅治主演映画『容疑者
Xの献身』の原作小説。映画を観てからの読破ゆえ、映画作品と比較しての感想と
なるのをお許し下さい。
まず、映画が原作にほぼ忠実に作られていることに驚いた。セリフや状況も原作
のまま使われている場面が多く、映像を思い浮かべながら読み進む。石神=堤真一
のキャスティングは、容貌でなく堤さんの演技力を買ってのものであることは明らか。
原作通りの「ダルマの石神」なら、容姿的には木村祐一(キム兄)でしょう。彼も俳優
として評価が高いようなので(私は個人的には好きではないが)、キム兄版石神も
観てみたいような気もする。湯川=福山くんは全く違和感なし。原作ではその人と
なりがイメージし難い靖子も、松雪泰子が演じることで石神の「献身」の為の必要
十分条件が満たされた気がする。
原作との一番の違いは、内海薫=柴咲コウの存在。これはいらないんじゃない
でしょうかね・・・。草薙=北村一輝で十分でしょう。工藤=ダンカンっていうのも、
ちょっと残念な印象。もう少し「バリバリ誠実」オーラが出ている俳優さんのほうが
よかったのでは? 緒方直人とか。上川隆也とかね。
と、なんだかすっかり映画の感想になってしまったが(汗)。。この小説は文庫化
されて以来、150万部売れているそうです。理路整然として難解でなく、エンタメ
に徹した小説であることが人気の秘密でしょうか。
(『容疑者Xの献身』東野圭吾・著/文春文庫・2008)
映画作ろう!~『僕らのミライへ逆回転』

BE KIND REWIND
ニュージャージーの下町に住む廃品リサイクル業のジェリー(ジャック・ブラック)
は、発電所に忍び込んだために身体に電磁波を帯びてしまう。友人のマイク(モス
・デフ)が働くレンタルビデオ店のVHSは、ジェリーの放つ電磁波により、データが
全て消えてしまった。ジェリーとマイクは自分たちで映画のリメイクを撮り、急場を
しのごうとするのだが・・・。
「永遠の12歳」ミシェル・ゴンドリーの新作は、You Tube時代に映画への永遠の愛
を謳った、「新・ニュー・シネマ・パラダイス」。映画を作る喜びと、映画を観るという
「ささやかで小さな幸せ」を抱き締めたくなるような作品。おバカ全開で笑わせながら、
ラストでは涙が溢れる、素敵な映画です。こういう映画を真面目(?)に作るゴンドリ
ー、好きだなぁ。楽しそうに演じてるJBも、ホントにいい奴だ!

ジェリーが「帯電」するまではちょっと今ひとつ感があるけれど、リメイクを始めて
からは面白さ全開! 滅茶苦茶アナログでハンドメイドな自主映画製作現場は、
ドタバタだけど本当に楽しそう・・・。この映画、観る人によっては荒唐無稽で「何じゃ
こりゃ?」な作品かもしれないけれど、何故か私にはリアリティ溢れる映画だった。
ジェリーもマイクもアルマ(メロニー・ディアス)も、演技じゃなくて、自ら進んで映画
を撮っている雰囲気がある。著作権の問題があるゆえ、ハリウッドから弁護士(シガ
ーニー・ウィーヴァー)がやってきて、差し止め請求するのはある意味当然。それな
ら、自分たちで映画を作ろう、オリジナルな作品を作ろう!っていう盛り上がりが、
とても自然な流れに見える。俳優たちが演じる登場人物の感情が、そのまま映画
を観ている私の感情に重なってくる。ダニー・グローヴァーやマーカス・カール・フラ
ンクリンっていう脇役の俳優たちもいい味出しているし、何よりミア・ファロー!
ラスト、闇の中でスクリーンを見つめる彼女は、20年以上前の名作『カイロの紫の
バラ』と同じ、輝く瞳をしている。

段ボールや針金や、廃品を利用したセットはまさに「ミシェル・ゴンドリーの世界」。
彼はどんなに歳を取っても、有名になっても、子どもの頃に夢中で工作したときの
心のまんまでいる人なんだと思う。そんなゴンドリー、雑踏の一場面でカメオ出演
してた気がするのだけど、気づいた方います?(私の見間違いかな~)
意外にも(?)男性客が多かった劇場では、エンドロールの最後の最後まで、誰
も席を立たなかった。私の隣の紳士も、終映後、涙を拭っていたのが印象的。本当
は拍手をして席を立ちたかったくらい、素敵な映画だった。残念なのは邦題だよね。。
原題の『BE KIND REWIND』は、マイクが働くレンタルビデオ店の名前であり、
「巻き戻してご返却下さい」の意味。ジョン・ウォーターズの『シリアル・ママ』で、
「REWIND!(巻き戻せ!)」って言いながらブスリ!の場面を思い出すなぁ~。
DVDが出たら絶対、何度でも観たい映画です。
(『僕らのミライへ逆回転』監督・製作・脚本:ミシェル・ゴンドリー/
主演:ジャック・ブラック、モス・デフ、ミア・ファロー/2008・USA)
名プロデューサーかく語りき~『仕事道楽―スタジオジブリの現場』

スタジオジブリのプロデューサーとして、数々の名作を世に送り出してきた
鈴木敏夫氏。高畑勲、宮崎駿という一筋縄ではいかない天才クリエイターを
叱咤激励し、作品を完成させる「日本一の猛獣使い」。著者自らの歩みはもち
ろん、両監督との出会いと人柄、ジブリ設立や作品製作にまつわる秘話、プロ
デューサーとしての哲学など、ジブリファンならずとも得るところ大と思われる
「聞き書き」形式の新書。写真やイラストも楽しめるし、とっても面白かったです。
日本では「映画は監督のもの」とされ、プロデュース業って滅多に表に出ること
がない気がする。そんな業界の中で、鈴木さんは多分日本で一番有名な(表に
出る)プロデューサーじゃないだろうか。
宮崎駿に較べ、高畑勲の人となりはあまり紹介されたことがなかった気がする
けど、これ程の超「変人」だったとは・・・。でも、そんな高畑さんを宮崎駿は大好
きなんですね。鈴木さんを含めた三人の関係は、「尊敬し合っていない」と言い
つつも、とても強い絆で結ばれている。宮崎駿がどれくらい純粋に、真摯に作品
と向き合っているかも語られていて、私は感動のあまり、読みながら二度ほど
泣いてしまった。
どんなに素晴らしい作品が生み出されても、それがマーケットに乗り、多くの
人の目に触れなければ意味が無い。営業や宣伝で、如何に映画の運命が左右
されるかもよくわかる。鈴木さん、これからもジブリをよろしくお願いしますよ!
(『仕事道楽―スタジオジブリの現場』 鈴木敏夫・著/岩波書店・2008)
天才マックスの世界~『ゲット スマート』

GET SMART
ワシントンD.C.、スミソニアン博物館の地下に本部を置く秘密諜報機関「コント
ロール」。分析官マックス・スマート(スティーヴ・カレル)は、8回目の昇格試験
でようやく念願のエージェントへの道が開ける。
アメリカの人気コメディ俳優、スティーヴ・カレル主演作。おとぼけなのか天才
なのか今ひとつ掴みどころのない「エージェント86」。真面目な顔をして真剣に
面白いことをしてくれる彼の演技は笑えるし、後半のカーチェイスやセスナ機の
アクロバット飛行などは迫力満点。しかし、英語セリフの面白さがわからない
自分の語学力が悲しい。。邦題は原題をカタカナにしただけだけれど、この題名
は元超肥満体でリバウンドを恐れるマックスの「痩せる!」っていうのと、「スマー
トを捕まえろ!」とを掛けているのかな? 他にも意味があったら教えて下さい。

ヒロインは「エージェント99」ことアン・ハサウェイ。任務失敗から内勤に格下げ
され、現場に戻ろうと全身整形した美女。スパイとしての腕は抜群、しかし恋愛
体質なのが玉に瑕。新米エージェントのマックスに反感を持つが、次第に惹か
れてゆく、という役どころ。ただでさえ大きすぎる瞳に、クッキリと引いたアイライン
が凄い! 手足も長く出るところは出た、お色気満点なブルネット。マシ・オカが
オタク諜報員の役で出演しているのもうれしい。
しかし一番驚いたのは「エージェント13」ことビル・マーレイ! 名優が「木の中
で待機している諜報員」の役なんか受けていいの~? もう、ビックリするやら笑
えるやら・・。。
アフガンやイラクじゃなくて、アメリカの敵国はロシア、っていう設定が東西冷戦
時代のようで、今観ると返って新鮮な印象。大統領が非常時に小学校で絵本を
読んでいる、というのは911がネタ? モデルはやっぱりブッシュよね。しかし、
吹き替えで観た方がより笑えた映画だったかもしれない・・・。日曜洋画劇場とか、
でね。

(『ゲット スマート』 監督:ピーター・シーガル/2008・USA/
主演:スティーヴ・カレル、アン・ハサウェイ、アラン・アーキン)
NY子育て事情~『私がクマにキレた理由(わけ)』

THE NANNY DIARIES
新卒ながら就職に失敗したアニー(スカーレット・ヨハンソン)は、NYのセント
ラル・パークで出会ったミセスX(ローラ・リニー)に請われ、ナニー:住み込み
のベビーシッターとなる。「ひと夏だけ」の軽い気持ちで始めたアニーだったが、
彼女を待ち受けていたのは・・・。「楽に見える道ほど、地雷だらけよ」
ハリウッドの若手女優№1、先日ライアン・レイノルズと結婚したスカーレット
・ヨハンソン主演作。「私が邦題にキレた理由(わけ)」を長々と書きたいくらい、
酷い邦題に観に行く気が失せながらも鑑賞。原作通りの『ティファニーで子育てを』
のほうがよっぽどアピールすると思うんですけど。。しかし、これは思わぬ拾い物!
オールNYロケ、色彩のくっきりと際立った美しい映像と、実力派俳優たちの演技。
ただのラブコメでも、自己中な若者の「自分探し」映画でもない。人間として本当
に大切なものは何かを気づかせてくれる、案外大人な映画。観てよかった!

スカーレット・ヨハンソン、いいですね。若いのに演技力は確かだし、背は低い
けどプヨプヨしててグラマー、なのに顔が細いという一番得なスタイル! うらや
ましい。。
最初は手のつけようがないガキだと思った5歳のグレイヤーに泣かされた・・・。
彼の「まことちゃん」風髪型といい、赤い傘が幻想的に降りてくる場面といい、
『赤い風船』のオマージュか? と思いきや、『メリー・ポピンズ』なんだそうです。
パーティの場面で流れるのは♪アルビ~~ン、たちの歌声だと思ったんですが。。
浜辺でグランマが読んでいたのは『プラダを着た悪魔』。洒落てる。
アニーが雇われるX夫妻は、ローラ・リニーとポール・ジアマッティという豪華
さ! 特にミスターXの出し方(?)が上手い! ジアマッティの顔が見えたとき、
意外なキャスティングに「おお~、そう来たか!」という感じ。お金がいっぱい、
いっぱいあっても、ちっとも幸せそうじゃない寂しい大人たち。きっと、彼らは自分
のためだけに生きているから、虚しいんだと思うな。。

ゴールドマン・サックスの面接に行く前から、アニーは自分が金融方面は好き
じゃないことに気づいていたんだと思う。女手一つで自分を育ててくれた母への
気遣いや、高学歴=高収入っていう見えない呪縛に囚われていたんだよね。
でも、将来が見えない仕事でも経験は決して無駄にはならないと思うし、ナニー
って実はすっごく重要で責任重大な仕事だと私は思う。だって、一人の人間を
育てるって本当に大変なことだから。だからこそ、子育てを「放棄」しているX夫妻
に耐え難いアニーの気持ちはよ~くわかる! キレて当然!
ミセスXとか、ハーバードのイケメンとか、この映画は意図的に登場人物の名前
を出さない。人は名前が明かされたときに初めて、相手への情や親近感が生ま
れるもの。しかし匿名で過ごした夏があったからこそ、アニーは人生を軌道に乗せ
ることができたのかもしれない。何事も経験さ、ガンバレ若者!
(『私がクマにキレた理由(わけ)』 2007・USA/
監督・脚本:シャリ・スプリンガー・バーマン&ロバート・プルチーニ/
主演:スカーレット・ヨハンソン、ローラ・リニー、クリス・エヴァンス)
やさしい女神たち~『メゾン・ド・ヒミコ』

小さな塗装会社に勤める沙織(柴咲コウ)のもとへ、春彦(オダギリジョー)と名
乗る若く美しい男が訪ねて来る。彼は幼い沙織と母を捨て、ゲイとして生きた父・
卑弥呼(田中泯)の恋人だった・・・。
観たいと気になりつつ、なんとなく観逃していた本作。実は監督である犬童一心
の『ジョゼと虎と魚たち』は(いい映画だとは思うけれども)世間が大絶賛するほど
には好きでなかったし、『グーグーだって猫である』も期待外れだった。監督独特の
甘さやゆるさが自分とは合わないのかもしれない。本作も、厳しい問題提起はして
いるけれども、なぁなぁで終わっている、という印象は否めない。しかし映像は美しく、
ワケありで生きる人々の姿はどうしようもなく愛おしく、切なく・・・。サンクチュアリ
であり黄泉の国のようでもあるゲイのための老人ホーム「ヒミコ」を描いた、一種の
ファンタジーだと受け止めるべきなのかもしれない。映画館で観たかった。

この映画で一番素晴らしく、特筆すべきはやはり、オダギリジョーの美しさ!だ
ろう。孤独を纏い、自分に必要なのは欲望だと言いつつも、愛を求めて止まない
ゲイの青年。彼といると、柴咲コウが「ブス」に見える。本作の彼女はわざとブス
顔メイクを施しているらしいけれど、例えどんなに美しく飾ったとしても、オダギリ
の醸し出す色気、存在感には負けるんじゃないだろうか。
どこか地に足が着いていないかのような浮遊感、誰がどんな言葉で称賛しよう
と、その喧騒をすり抜け、いつの間にか彼は別のステージへ移動している。特異
な髪型と衣裳で武装し、一瞬も立ち止まることなく、異次元空間で息をしている
ような役者だと思う。彼と浅野忠信がいれば、日本映画のミライはアカルイので
はないだろうか。(もちろん、香川さんも旬くんも西島さんもいてくれなくちゃ困るけど)

そして、沙織の父であり春彦の恋人である卑弥呼を演じた田中泯。その登場シ
ーンのほとんどで横たわっている彼から、発せられるオーラが凄い! キワモノ
ギリギリの衣裳(by 北村道子)、妖気漂うまなざし、紅く塗られたネイル。。田中
泯という役者を「発見」した山田洋次監督の慧眼につくづく畏れ入る。春彦の「孤独」
を癒した唯一のひと、という役柄に全く無理がない。無自覚に、その欲望のみで
生きているような細川専務を演じる西島秀俊も好きだ。近頃邦画を観る機会が多
いせいか、柳澤愼一(『ザ・マジックアワー』)や中村靖日(『運命じゃない人』)の
出演に気づけてうれしかった。
ヒミコの住人たちに受け入れられ、自ら「添乗員」になろうとした沙織の挫折と
傷心を、全てひっくるめて許し、包もうとするやさしい女神たち。あのラストシーン
は反則だ、と思いつつ、声を上げて泣いてしまった。
(『メゾン・ド・ヒミコ』 監督:犬童一心/2005・日本/
主演:オダギリジョー、柴咲コウ、田中泯)
刻まれた味覚~『流星の絆』

横須賀の洋食店「アリアケ」で、経営者夫婦が惨殺された。遺されたのは幼い
兄妹、小学生の功一、泰輔、静奈。
「もし犯人がわかったら、おれたち三人で殺そうぜ」
東野圭吾の最新長編。今月から始まるTVドラマを楽しみにしていたのだけれど、
図書館の順番が案外早く回ってきた! 「観る前には読まない」主義の私だけれど、
この機会を逃せば200人以上の待ち行列、何ヶ月先に読めるか定かでない。禁を
破って読んでしまった。
読み始めると、そこはいつもの「東野ワールド」。殺された被害者、苦悩する被害
者の遺族、復讐を誓う彼ら。そして加害者は、真犯人は一体、誰なのか? ページ
をめくる手が止められない。
大人になった兄妹が、いきなり詐欺師グループになっていたときはガッカリした。
児童養護施設で育ち、後ろ盾を持たない彼らではあっても、それが法を犯し、人を
騙してもいい免罪符にはなり得ないと思う。辛い目にあった彼らだからこそ、真っ
当な人生を歩んで欲しいと思った。最後に彼らは、更正してくれるのだろうか。
それとも、幼い日に誓った通りの行動を起こすのか・・・。祈るような気持ちで読み
進む。
頭が切れて冷静な功一、変身の天才で妹思いの泰輔、美しく成長した静奈。妹を
守ろうとする兄二人の想い、止められない静奈の恋心。作者は細かい伏線を散りば
めながら事件をやや強引に収拾し、最後の最後で三人を救う。ジルコニアの輝きと、
やさしさに包まれたラストに涙。ハヤシライスには醤油を!
(『流星の絆』 東野圭吾・著/講談社・2008)
変人ガリレオの友情~『容疑者Xの献身』

東京・大森の川辺で他殺体が発見された。被害者の元妻が容疑者として捜査線
上に浮かぶが、彼女には完璧なアリバイがあった。帝都大学理工学部物理学科
准教授・湯川学(福山雅治)が事件に挑むが・・・。
東野圭吾の直木賞受賞作『容疑者Xの献身』を、テレビドラマ『ガリレオ』のスタ
ッフ・キャストで映画化。原作は未読、テレビドラマも未見という予備知識ゼロ状態
で映画を楽しみにしていた。一抹の不安もあったけれど、これは実に面白い!
128分、時間を忘れて堪能することができた。しかし、原作ファン、ドラマ版の
ファンの方々はどんな感想を持たれただろう?
メガネに白衣の湯川先生、カッコイイ~。福山くんはデビュー当時から大好き
で応援しているけれども、彼は歳を重ねるごとにますます魅力的になっている気
がする。湯川先生の講義はギャルがいっぱい、劇場もちょっとトウの立ったお嬢
さん方でいっぱいでした。自分もそうですけど・・・。

しかし、主役のはずの湯川先生も本作では狂言回し的役どころ。殺人を犯して
しまう薄幸の美女・花岡靖子(松雪泰子)と、彼女の隣人石神(堤真一)が本当の
意味での主役だった。松雪さん、いつも思うけど本当に細くて綺麗。娘を守ろう
と懸命に、健気に生きている女性を好演。娘役の女の子もかわいい。
原作のおかげではあるだろうけれど、物語が本当に面白かった!「簡単なひっ
かけ問題」であり、見方を変えればすぐに解ける事件の鍵。それなのに、観る者
は刑事の内海(内海薫)や草薙(北村一輝)と同じく、アリバイに翻弄される。
湯川による「証明」が終わったとき、ブルーテント脇の無人のベンチがやけに長く
映っていたことを思い出し、なるほど・・・、という気分。
観る前は「福山vs.堤」の男前対決、なんて勝手に思っていたのだけれど、堤さん
の役作りには驚いた。孤独で、夢に敗れた冴えない数学教師。家族も友達もいな
い暮らしの中で、たった一つの「愛」に献身的に生きようとする石神。こういう堤さん
が観たかったんです!『クライマーズ・ハイ』よりも、断然いい演技だったと思う。
私は石神の献身愛に、何度か涙してしまった。

石神の献身愛と完璧なトリックは、ラストでどちらも破れたかのように見える。
靖子の自白に慟哭する石神。しかしどう考えても、孤独な人生を生きてきた彼に、
形はどうあれ「一緒に償う」と靖子は言ったのだ。それは彼が人生で、ほとんど
唯一愛した女性からの言葉。それだけで、彼は報われたのではないだろうか。
人間は、自分の為だけに生きているときでなく、誰かの為に生きたときにだけ、
幸福感や充足感を得られる生き物なのかもしれない。たとえそれが法を犯し、
人の道を外れる行為であったとしても・・・。
自殺を図るほど追い詰められた石神の過去や、靖子の娘の心情をもう少し描写
して欲しかったという思いもある。しかし、論理や科学では証明不可能な「愛」とい
う感情に身をやつす天才の悲しみ、苦しみは十分、描き出されていたのではない
だろうか。リリーさんはご愛嬌。
(『容疑者Xの献身』 監督:西谷弘/原作:東野圭吾『容疑者Xの献身』/
音楽:福山雅治/主演:福山雅治、堤真一、柴咲コウ、松雪泰子/2008・日本)
鹿男、世界を救う~『鹿男あをによし』

The fantastic Deer-Man
あをによし 奈良の都は 咲く花の 薫ふがごとく 今盛りなり
研究室に居られなくなり、奈良の私立女子高に赴任することになった大学院生
(筑波大学?)の「おれ」。長月(九月)の終わりのある日、彼は鹿に話しかけられ
る。「さあ、神無月だ--出番だよ、先生」
TVドラマ化もされた、万城目学氏の第三作にして直木賞候補作。いや~、面白
かった! 図書館での予約待ちが非常に長かったのですが、待っていた甲斐があ
りました♪ 『鴨川ホルモー』の京都から、同じ関西の古都・奈良に舞台を移し、展開
される「ザ・マキメワールド」。万城目さん、間違いなく進化していてうれしい。
私は大阪在住者ですが、実は京都よりも奈良の方に親しみを感じていたりしま
す。それ故、本作のロケ地マップ(?)が頭に浮かび易かった、というのも、非常に
面白く読めた理由の一つかもしれません。JRの「三都物語」といえば京都・大阪・
神戸だし、ちょっと影が薄い感がある(かもしれない)奈良ですが、甘く見てはいけ
ません!「大和は国のまほろば」ですから!! そこには「神の使い」である鹿がたく
さんいらっしゃいます。神無月(十月)に本作を読むことができたのも、神の思し召し
かもしれません(笑)。
ラストがいきなり『紅の豚』になってしまったことと、奈良が舞台なのに会話文まで
標準語なことだけ、少し残念に思いました。しかし、豊富な歴史的知識に裏打ちさ
れた、千年の時空を越えるストーリーの奇想天外なこと! これでマキメワールド
はコンプリートしてしまった(4冊だけど)、寂しいな~。次はウワサの森見ワールド
突入、かな。
(『鹿男あをによし』 万城目学・著/幻冬舎・2007)
色彩の叙事詩~『落下の王国』

THE FALL
昔々のロサンゼルス。スタントマンのロイ(リー・ペイス)は映画撮影時の事故で
入院中。恋人も主演俳優に奪われ、失意のどん底にあった。そんな彼が、腕の
骨折で入院している5歳の少女アレクサンドリア(カティンカ・ウンタルー)と出会う。
橋から落ちた男、落とされる手紙、繰り返される落下のイメージ。ロイが語り、
少女の空想の中で広がる一大叙事詩。18カ国26ヶ所以上をロケし、CGを一切
使用していないという見事な映像美! 稲垣ゴローちゃんが「月イチゴロー」で
一位に推し、「自分の今年のベストかも」と発言していた作品。とても気になって
いたので、劇場鑑賞できてよかった! 冒頭にはスパイク・ジョーンズ&デイヴィ
ッド・フィンチャーPresentsとクレジットされる。

まぁ、この映像美をとくとご覧下さいませ・・・。世界遺産の数々と、見事に調和
した登場人物たち。現実と空想の世界がリンクし、不可思議ワールドへと誘う。
実際にこの目で見たことがある場所は、コロッセオ(ローマ)とエッフェル塔(パリ)
くらい。万里の長城なんて、一瞬しか出てこなかったんじゃないだろうか。なんと
贅沢な作りなんだろう・・・。溜め息。
ロイを演じたリー・ペイスは、少しクラシックな顔立ち。だからこういう近時代もの
(?)が似合う気がする。黒山賊の衣裳も、とっても素敵。彼の語る壮大な物語
に惹かれる少女アレクサンドリアは、ルーマニア出身の無名の女の子。この子
がね、、めっちゃメタボ体型なんです。手の甲にエクボがある子どもを久しぶりに
見た。自分の娘だったら間違いなく「おやつ禁止令」(笑)。彼女よりも、私はダー
ウィン(レオ・ビル)のお猿、ウォレスにときめいてしまった。『種の起源』の著者
ダーウィンの共同研究者である、アルフレッド・ラッセル・ウォレスにちなんだ名前
のウォレス。アメリカーナ・エキゾティカ・・・(涙)。

そしてこの映画のもう一つの主役、石岡瑛子氏のデザインする衣裳がなけれ
ば、この物語は絶対に成り立たなかったと思う。色使いのインパクト、奇抜で
あり、エレガントでもあるデザイン。多国籍で変幻自在な、この映画の世界観
にハマリ過ぎている衣裳の数々。。素晴らしいの一言!
モノクロのサイレント時代から、VFX全盛の現在まで。映画は人々に愛され、
生きる希望と勇気を与え続けてくれた。人間の想像力が生み出す、絶景と色彩
の叙事詩。私もアレクサンドリアと一緒に、ありがとうと何度も言いたい。
(『落下の王国』 監督・製作・脚本:ターセム/2006・印、英、米/
主演:リー・ペイス、カティンカ・ウンタルー)
テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画
その男、凶暴につき~『血と骨』

1923年、金俊平は「君が代丸」に乗り、韓国・済州島から大阪へ渡る。剥き出し
の暴力と欲望に支配された「男の一生」。
梁石日氏が自らの父をモデルに描いた半自伝的小説の映画化。原作は随分前
に読み、心の真ん中を握り潰されたような衝撃を受けた。凄い小説であることは間
違いないけれど、強烈過ぎて正直二度と読み返したくない。映画化を知っても、
映画賞受賞を知っても「観たい」と思ったことは無かったのだけれど・・・。
「ニッポンの映画監督」と題されたAERAの映画ムックがある。その中で21世紀の
日本映画ベスト作が掲載されており、未見だったのが1位の『ユリイカ』と9位の
本作。先日『ユリイカ』を観たので、どうせならベスト10くらいはコンプリートして
しまおうと思った次第。ちなみに、ベスト10は以下です。
1位 『EUREKA/ユリイカ』
2位 『誰も知らない』
3位 『ゆれる』
4位 『下妻物語』
5位 『それでもボクはやってない』
6位 『ハッシュ!』
7位 『いつか読書する日』
8位 『パッチギ!』
9位 『血と骨』
10位 『フラガール』

役者陣は演技派がズラリ、だけれど、短い出演時間で恐ろしいほど鮮烈な印象を
残すのがオダギリジョーだろう。私はてっきり、彼は新井浩文が演じた正雄(長男)に
キャストされているものだと勘違いしていた。
好き放題な男、耐える女という構図の中で、男に利用されながらもしたたかな妾、
定子を演じた濱田マリもいい。潔い脱ぎっぷりは、主演女優であるはずの鈴木京香
が最低限の肌の露出しかしていないことと較べても好感度大。しかし、あの墨汁を
垂らしたようなボカシはなんとかならなかったのだろうか(鈴木京香の濡れ場にボカシ
はない)。大阪の在日コリアン社会を描いた映画であるため、韓国語もポンポンと
飛び出すが、寺島進の韓国語が一番流暢に聴こえた。そして原作で唯一「好人物」
として描かれる高信義を演じた松重豊、いい味出てます!

原作を読んだとき、金俊平のような「怪物」の姿をイメージすることができなかっ
たし、これは誰にも演じることなど出来ないだろうと思った。だからビートたけし
以外にこの人、とは誰も浮かばないのだけれど・・・。彼の演技はちょっと残念。
二時間半近い長尺を観終えたとき、よくできた面白い映画だったというそれなり
の満足感もあった。しかし改めて題名の『血と骨』に思いを巡らせたとき、そこにあ
る「思想」のようなものが描かれていたのかというと疑問が残る。
「血は母より受け継ぎ、骨は父より受け継ぐ」。この言葉の意味を、もっともっと深く
掘り下げて描いて欲しかったと思う。正雄(新井浩文)が父・金俊平(ビートたけし)
から、そして母・李英姫(鈴木京香)から受け継いだものとは、何だったのか。その
ためには、もっと原作を端折って、登場人物を整理する必要があったのかもしれな
い。その辺りのバランス、匙加減は難しいと思うけれど・・。
しかしそれでも、この作品の映画化は崔洋一監督にしかできなかっただろうし、
許されなかったと思う。想像を絶する重圧の中、映画を完成させたであろう監督
に敬意を表したい。
(『血と骨』 監督・脚本:崔洋一/原作:梁石日『血と骨』/
主演:ビートたけし、鈴木京香、新井浩文、オダギリジョー/2004・日本)
大人なヒーロー~『アイアンマン』

IRON MAN
兵器製造会社スターク・インダストリーズのCEO、トニー・スターク(ロバート・
ダウニー・Jr)は、MIT首席卒業の天才かつ大金持ちのセレヴリティ。兵器が平和
をもたらすと信じる彼は、演習先のアフガニスタンで武装ゲリラに拉致される・・・。
アメリカで今年大ヒットした、マーベルコミック原作のアクション映画。『ダーク
ナイト』といい、観逃してしまった『インクレディブル・ハルク』といい、昨今のアメ
リカ映画はスーパーヒーロー物全盛という感じ。本作はRDJ主演で、ちょっと
大人なヒーロー。お茶目なところもあり、意外なキャスティングだと思ったけど
案外好きでした♪ アフガンに自社製品が流されている事に主人公が気づく、
なんてところが逆『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』みたいで面白かった。

大金持ちの若き社長がハイテク・スーツを纏って悪を討つ、っていうプロットは
『バットマン』シリーズのブルース・ウェインと同じだけれど、こちらのトニー・スタ
ークは天才発明家でもあり、自前でパワード・スーツを造ってしまうんですね。
試行錯誤しながらの開発過程も見所のひとつ。出来上がったスーツの造形は
『ロボコップ』みたいだなぁと思ってしまった・・・。しかし、あのスーツの燃料は
一体何なの??? マリブからアフガンまでひとっ飛びなんて、、あり得ん(笑)。
スキンヘッドで、最初は誰だかわからなかったジェフ・ブリッジス(声でわかりま
した)、相変わらずキュートな魅力を振りまくテレンス・ハワードと、脇役陣もいい
んです。中でも、トニーの秘書(執事?)ペッパー・ポッツ役のグウィネス・パルト
ローがよかった! この役、監督はレイチェル・マクアダムズをご希望だったそう
だけれど(その気持ちよーくわかる!)、彼女とRDJの2ショットってちょっと想像
がつかない。お嬢さんだけど地味目な容姿で、ちょっとトウが立った感じのグウィ
ネスがハマリ役! 好きな女優さんではないけれど、彼女は出産してから、グッ
と綺麗になった気がします。

しかし何と言っても、この映画はやっぱりRDJでしょう。完全復活おめでとう!
「エンドロールの最後に続きがあります」って、あれは続きではないのでは?
しかし続編、絶対あるでしょうね~、期待してますよ~♪
"The truth is... I am Iron Man."
(『アイアンマン』 監督:ジョン・ファヴロー/2008・USA/
主演:ロバート・ダウニー・Jr、ジェフ・ブリッジス、
テレンス・ハワード、グウィネス・パルトロー)
記録はウソをつく~『悪意』

人気作家・日高邦彦が自宅で殺害された。被害者の幼馴染で、第一発見者である
野々口修によって記録された事件は、野々口の元同僚、加賀恭一郎刑事によって
推理される。誰が、一体何の為に? 動機に潜む「悪意」の正体とは・・・。
「東野圭吾の作品はこれで一区切り」などと言いながら、手持ちの本がなくなると
つい、彼の作品を手に取ってしまう。読み始めたが最後、一気読み。面白いんだ
なぁ、困ったことに。。
推理小説というジャンルはさほど好きではないので、謎解きは得意ではないし、
読みながら真相を考えたりすることはほとんどない。しかし、この作品にはすっ
かり騙された! 人間の「思い込み」や第一印象がいかに頼りないものであるかを
痛感させられるし、記録(手記)とは人間の主観や私意抜きには残されないものだ
と思い知らされる。鉄則。記録は疑ってかからねば。。
人間の心に巣食う悪意。偏見というものの理不尽さと不条理。「理由なき悪意」に
身震いする結末。お見事・・・。
(『悪意』 東野圭吾・著/講談社文庫・2001)
~ポール・ニューマン追悼~BUTCH CASSIDY AND THE SUNDANCE KID

先月26日、ポール・ニューマンが亡くなりました・・・。享年83歳。彼の出演作は
あまり観ていないのですが、一番好きなのはやはり『明日に向って撃て!』です。
アメリカン・ニューシネマの傑作と誉れ高い、ご存知「涙の大天才」ジョージ・ロイ・
ヒル監督による1969年の映画。鮮烈なラストはもちろんですが、忘れ難いのは
ポール・ニューマン扮するブッチとエッタの自転車のシーン。そう、バート・バカラ
ックです。
Raindrops Keep Fallin'on My Head♪
観たのは随分前ですが、また観てみたいな・・。新たな発見があるかも。
名優が去るのは悲しく寂しいですが、映画は永遠に残りますから。
BUTCH CASSIDY,as the Eeternal. R.I.P.

恩寵としての恋の病~『コレラの時代の愛』

LOVE IN THE TIME OF CHOLERA
19世紀末のコロンビア。電信局配達員のフロレンティーノは、美しい少女フェル
ミーナを見初め、恋に落ちる。フロレンティーノの情熱的な手紙に、心動かされた
フェルミーナだったが・・・。
コロンビアのノーベル賞作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスの同名小説の
映画化。主演はオスカー俳優、ハビエル・バルデム。色んな意味で興味深く、面
白い映画だった。舞台と原作と主演俳優からスペイン映画だと思い込んでいたの
で、登場人物が英語をしゃべっているのにビックリ! これアメリカ映画なのです
ね。
オープニングのお花のアニメーションが綺麗で、『ボルベール』を思い出してし
まった。ペネロペは出ていないけれど、コロンビアの至宝、カタリーナ・サンディノ
・モレノがヒロインの従姉妹役で出演している。ブラジルの大女優、フェルナンダ・
モンテネグロは主人公の母親役。豪華キャストです。

主人公フロレンティーノは物凄いロマンチストで、数字にこだわる記録魔。それ
が高じて代筆業を始めるのだけれど、母親役のフェルナンダ・モンテネグロも名作
『セントラル・ステーション』で代筆業をしていたのが面白い符丁。
初恋の女性を思い続けた一人の男の生涯を描いているのですが、その男フロ
レンティーノがメチャメチャ面白いキャラなんです。父親に結婚を反対され、フェル
ミーナはコレラ治療の第一人者である医師の下に嫁いでしまう。フロレンティーノ
は一歩間違えばストーカーになるくらいフェルミーナを思い詰め恋焦がれながら、
50年間で622人(!)の女性と性的関係を持つ。しかも関係した女性たちの名前
と特徴をノートに記録しているんです! 日本にも昔、そんな脚本家がいましたね
(爆)。
70歳を過ぎても、孫のような年齢の女子大生と関係を持っているフロレンティ
ーノ。ロマンチストであることに加え、相手に何も求めないから彼は滅法モテる。
不特定多数の女性とまぐわるのは、彼の論理で言うとフェルミーナへの想いから
の逃避であり、ある種の「習慣」でしかない、らしい。

フェルミーナの夫が亡くなり、葬儀のまさにその日、遂にフロレンティーノは
思いを告げる。「51年9ヶ月と4日、この日を待っていた」(正確に数えている
ところが凄過ぎて笑える)。当然、フェルミーナは激怒し、彼を拒絶する。
しかし、ここからのフロレンティーノがまた凄い! 若い愛人と切れ、得意の
手紙攻勢。「私の人生から消えて」なんて言っていたフロレンティーノも、次第
にほだされていく。古今東西、押しの一手に女は弱い・・・。
そしてとうとう、フロレンティーノが思いを遂げる日がやって来ます。老いた
フェルミーナを抱き、フロレンティーノはささやく。「君のために純潔を守った」。
ここで私、思いっきり吹き出してしまいました・・・よく言うよこのエロ親父(笑)。
この映画はある種の狂気、「恋の病」を描いているのだけれど、フロレンティ
ーノはそれを「恩寵」だと語り、明るく希望に満ちた生を謳歌しているように見
える。それは主人公の「形而上」と「形而下」を「分裂した愛」だと割り切る、
おおらかな気質に依るところが大きい。共感できる、できないはまた、別の話。
19世紀末から20世紀初頭の南米の風俗や大自然、コスチュームも興味深い。
ラストでフロレンティーノは真理に辿り着く。「無限なのは死ではなく生なのだ」。
生=性、なんだなと私は解釈した。ちょっとおちゃらけて書いてしまったけど、
物凄く面白い、オススメ映画です!
(『コレラの時代の愛』監督:マイク・ニューウェル/2007・USA/
原作:ガブリエル・ガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』/
主演:ハビエル・バルデム、ジョヴァンナ・メッツォジョルノ)
思想の軌跡~『折り返し点 1997~2008』

最新作『崖の上のポニョ』が大ヒット中、世界の巨匠・宮崎駿の12年間に渡る
思想の軌跡。この12年間は『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動
く城』、『崖の上のポニョ』の製作期間であり、その間に宮崎駿が残した企画書、
対談、エッセイ、インタビューなど、内容は多岐に渡る。何度も「子どもたちの
ために作りたい、子どもたちを祝福したい」と語る著者。熱く映画を語る様から、
彼の「映画監督」としての矜持が伝わってくる。しかし著者本人は「この本を出す
ことは、ぼくの本意ではありません」とあとがきで語っているのだが。
印象に残った言葉、共感した文章をメモ。抽象的だけれど彼の映画論のようで
もある。
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・「浮き世のうさを晴らすだけじゃなくて、心の渇きを気づかせる力が映画にはある」
・「映画というものは、作品としての価値が真空の中に存在しているんじゃない。
どういう人間とどういう状態のときに出会うかによって意味は変わるんです」
~『もものけ姫』
・「無垢であることは至上のことなんですよ」
~『千と千尋の神隠し』
・「子どもの魂に触れたいんですよね」
・「子どもたちに「生まれてきてよかったんだよ」と言える映画を作るしかない、そう
するとますます映画の方程式とか文体からはずれていくんですよね」
・「映画的体験というのは、その瞬間しか見られないから生まれるものなんです」
・「やっぱり人に喜んでもらうということは、一番大きな、大事なモチベーション
なんですね。自分の主張を伝えるために映画を作っているんじゃないんです」
・「前よりちょっとましな人間になるために映画を作り、映画を見るんです」
~『ハウルの動く城』
・愚直な手数をかけた画面はあたたかく、観る者を解放する。精度をあげた爛熟
から、 素朴さへ舵をきりたい。
~『崖の上のポニョ』
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さて。「折り返し点」を過ぎた宮崎駿の次回作は如何に。
(『折り返し点 1997~2008』 宮崎駿・著/岩波書店・2008)
荒野へ~『イントゥ・ザ・ワイルド』

INTO THE WILD
優秀な成績で大学を卒業したクリストファー・ジョンソン・マッカンドレス(エミール
・ハーシュ)は、誰にも告げることなく放浪の旅に出る。彼が目指したのはアラスカ、
北の荒野だった。
1992年、アメリカで実際に起こった事件を基にしたノンフィクションを、名優
ショーン・ペンが映画化。若さ故の純粋さと無謀さで厳しい大自然の中に身を置き、
「幸福とは何か」を探ろうとした一人の青年をエミール・ハーシュが演じる。裕福な
中産階級家庭に生まれ、ハーバード・ロースクールに入学出来るほどの頭脳を持
ちながら文明社会に背を向け、究極の自由を求めて彷徨うクリス。乾いた広大な
土地、どこまでも広く、高い空。永遠に降り注ぐ太陽の光・・・。詩的な映像に、アメ
リカそのもののようなカントリー・ミュージック。鮮烈なラストショットまで、2時間半
の長尺を忘れさせてくれる真のロード・ムービー。まごうことなき傑作。間違いなく、
今年のベスト作の一本。

エミール・ハーシュは、やっぱりレオナルド・ディカプリオに似ているなと思い
ながら観ていた。ショーン・ペンもそう思っていたのかどうか、彼が最初にこの
作品の映画化を思い立ったとき、浮かんだキャストがクリス=レオだという。そ
して、映画終盤、クリスと深い関わりを持つ退役軍人ロンにマーロン・ブランド。
それ、もの凄く観たかった・・・。しかし、マッカンドレスの家族の許しを待って
10年の時が過ぎ、ショーンの願望は違った形で叶う事になる。ロンを演じたハル
・ホルブルックは、本作の演技によりアカデミー助演男優賞にノミネートされた。
『スピード・レーサー』では精彩を欠いていたエミール・ハーシュも、スタントを一切
使わなかったという気合の入れよう。体当たりの演技は絶賛に値すると思う。
憑かれたように禁欲的に、自然へと導かれるクリス。「放浪するアレックス」アレ
キサンダー・スーパートランプと名乗り、家族も学歴も捨てた彼を、映画は一定の
距離を置きながらも温かく見つめる。ひょっとしたら、ショーン・ペンがもっと若かっ
たら、自らこの主人公を演じたかったのではないだろうか。クリスを慕うヒッピーの
少女(クリステン・スチュワート)は『フォレスト・ガンプ』のジェニーのようで、どこと
なくショーンの妻、ロビン・ライトの若い頃を彷彿させる。一人荒野を行くことを選択
したクリスだけれど、旅の途中で出会った人々と共にいる彼の表情は穏やかで、
厭世的な雰囲気の若者では決してない。多分に頭でっかちで、理想主義的では
あるけれど。。

映画はクリスの妹カリーン(ジェナ・マローン)のナレーションに導かれて進む。
家族--クリスの両親や妹--の立場で考えると、彼のしたことは罪なのかも
しれない。マッカンドレス家が映画化を承諾するのに10年、というのも無理はない
と思う。愛する家族が突然消えたら・・・。現実を受け止めるのに、私なら何年かか
るだろう。
クリスは多分、頭が良すぎたんじゃないだろうか。「自然が与えてくれるものだけ
で生きる」という自分の理想とする生き方に、満足な経験の無いまま飛び込んでし
まうある種の「無謀さ」。それは自己の能力を過信した、秀才のあやまちだと言え
なくもない。マテリアルな社会を否定し、身一つで自然=神と対峙しようとした彼が、
最後まで本を手放せず、「文字」という文明から離れられなかったのは皮肉だろう。
しかし彼は最後に、真理に辿り着いた。「幸福とは、それを誰かと分かち合うこと」
旅と自然に殉じた、一人の美しい青年。最期にクリスの胸に去来した思いが何だっ
たのか、誰も知る由も無い・・・。
不思議なバスの前、微笑む青年のストップモーション。それがエミール・ハーシュ
ではないと気づいた瞬間、涙が溢れて止まらなかった。
(『イントゥ・ザ・ワイルド』 監督・製作・脚本:ショーン・ペン/
原作:ジョン・クラカワー『荒野へ』/主演:エミール・ハーシュ/2007・USA)
嵐の夜に~『最後の初恋』

NIGHTS IN RODANTHE
ノースカロライナ州ロダンテ、海辺のコテージ。生活に疲れた主婦エイドリアン
(ダイアン・レイン)は、人生に行き詰った外科医のポール(リチャード・ギア)と
出逢う。
リチャード・ギア&ダイアン・レインの主演、原作は『きみに読む物語』でお馴染
みのニコラス・スパークス、とくればお決まりの「大人の」恋愛物語だと想像はつく
し、この邦題にはなんだか嫌な予感がする。でもでも、やっぱり観に行ってしまった。
ラブストーリーは好きだし、予告を観て、ギアの息子役がジェームズ・フランコだと
知ってしまったから。しかし案の定、これは予告を観れば本編は観なくてもよいタ
イプの作品だった。と言うか、予告でネタバレし過ぎじゃないですか(怒)。

リチャード・ギアは相変わらず素敵です。銀色の豊かな髪、整った顔立ちでは
ないのに、何故か心を掴まれる微笑。来年は還暦を迎える年齢だというのに、
ベタなラブロマンスの主役を演じても全く違和感がないのですから。彼の息子が
ジェームズ・フランコって、本当によくできたキャスティングだなぁと思う。感心。
ダイアン・レインは大好きな女優さん。ボトックスなんて無縁の小皺、ごく自然
に年齢を重ねた大人の女性に見える彼女もまた魅力的。『運命の女』では夫婦
役を演じた二人は、息も相性もピッタリの共演者だと思う。
しかし、それがこの作品に奇跡的なケミストリーをもたらしたか。否。ストレン
ジャー同士の男女が恋に落ちていく、そのときめきや高揚感がどうしても伝わ
って来なかった。二人とも、まるで旧知の間柄のような空気感。いや、実際そう
なのだから仕方がないし、こちらの思い込みが悪いのかもしれないけれど。。
あんな素敵な男性が現れて、しかも数日間は確実に二人きりだなんて・・。
そんな状況、私なんてもう挙動不審間違いなしですから!(笑) エイドリアンよ、
どうしてそんなに冷静でいられるんだ~?!

野性の馬が繁殖しているという海辺、そこに建つコテージはまさに夢のリゾー
ト。大西洋の風や海の光、朝日や夕暮れの浜辺を、もっと美しく映像で表現して
欲しかったことも残念。スコット・グレンがかなりの老け役で登場したのにはビッ
クリ! 『マディソン郡の橋』とは似て非なる作品なのでした。残念。いややっぱ
り、イーストウッドが凄いのだろうな。
(『最後の初恋』 監督:ジョージ・C・ウルフ/2008・米、豪/
主演:リチャード・ギア、ダイアン・レイン、ジェームズ・フランコ)