無垢なるものよ~『ツォツィ』
ツォツィ


 TSOTSI


 南アフリカ・ヨハネスブルグの貧民街。そこでツォツィ=不良と名乗り、盗みや賭博、
暴力に手を染めた一人の少年の物語。ある雨の日、彼が盗んだ車には赤ん坊が乗
っていた・・・。
 2006年のアカデミー賞において、外国語映画賞を受賞した作品。日本での公開時、
レイティング(R-15)を巡って論争が起きたことも記憶に新しい。監督・脚本は南アフ
リカ出身のギャヴィン・フッド。彼の新作『Rendition』ギレンスプーン主演)は結局
日本公開されないのだろうか? せめてDVDスルーでも・・・。お願いします(泣)。

ツォツィ2

 暴力的な父により、エイズに伏せる母から遠ざけられ、愛犬を傷つけられた少年
デヴィッドは、自らストリート・チルドレンとなる道を選ぶ。名前を捨てツォツィとして、
土管を棲家に成長する。車椅子で物乞いをする老人に「犬のようになってまで何故
生きる?」
と問う彼。それは親の愛情も兄弟の温かさも、教育も宗教もない環境で、
この世に生を受けたことに何の意味がある?
という問いだ。

 そんな彼が、赤ん坊を見捨てなかったのは何故なのだろう。この世界に、たった
ひとりで取り残されようとしている赤ん坊。たった一人、たった一人・・・孤独
自分がそこに投影されているような気がして、きっとどうしても、どうしても置き去り
にして、逃げることができなかったんだね。


 ツォツィには品位がない、と仲間のボストンは言う。品位とは、自らを敬う気持ち
だと。他人を傷つけ、荒れるツォツィには、確かに自分を含めて何かを「大切にする」
という意識が欠けていた。しかし赤ん坊の存在-何かに庇護されなければ生きられ
ない、無垢で弱い存在-
に触れることで、自らもかつては「無垢で弱い、愛されるべき
存在」
だったことを思い知らされる。そこには確かに母の愛があり、愛されていた自分
がいたのだ。

ツォツィ3

 赤ん坊の家に向かうツォツィは白=無垢な色のシャツを着て、更生しようとしてい
るように見える。悲惨な生い立ちや環境に情状酌量の余地はあるけれど、自らが
犯した償わなければならない。だから絶対に、撃たれたり逃げたりして欲しく
ないと、祈るような気持ちで観ていた。DVD特典には2種類の、別バージョンのエン
ディング
が収録されているが、その終わり方でなくて本当によかったと思う。余白
のある、観たものに委ねるラストで。

 高層ビルの立ち並ぶ大都会でありながら、上下水道も整備されていないような
スラムの残る街。アフリカだけでなく世界中に広がる格差のように、ツォツィもまた
この世界のどこかの都市に、今も存在しているのだろう

『ツォツィ』監督・脚本:ギャヴィン・フッド
       主演:プレスリー・チュエニヤハエ/2005・英、南アフリカ)
スポンサーサイト

テーマ:考えさせられた映画 - ジャンル:映画

[2008/03/31 22:59] | DVD/WOWOW | トラックバック(10) | コメント(12) |
逞しくて不幸な女~『ワンちゃん』
ワンちゃん

 第138回芥川賞候補作(受賞作は乳と卵)。著者は中国籍で、日本の大学に
留学後定住し、母国語でない日本語で小説を書いているという。

 主人公「ワンちゃん」中国出身。遊び人のヒモ夫に愛想を尽かし、と言うよりも
夫の女性問題と底知れぬ金の無心恐怖を憶え、故郷も一人息子も捨て、逃げる
ように見知らぬ異国・日本に嫁いで来た。閉鎖的な田舎町無口な夫、「家具のよう
な」夫の兄と同居する毎日に、おしゃべりなだけが心の慰め。その姑も入院してし
まう・・・。

 男女の機微も何もわからぬまま出来婚し、夫に裏切られ、働きづめに働いても
掴めない幸せ。どこまで逃げても夫が追ってくる、この国には逃げ場が無いと感
じるワンちゃんの絶望が切なく、悲し過ぎて胸に迫る。「そんなに働いて、何かいい
ことあった?」
追い討ちをかけるような息子の言葉の残酷さ

 しかし、ワンちゃんは弱く逃げるだけの女ではない。自立すべく、異国で結婚斡旋
を始めるのだ。応募してくる中国の田舎町の女たちの事情がまた、辛く哀しい。
そしてミイラ取りがミイラになり、更に苦しむワンちゃん・・・。

 芥川賞の選評では、日本語が未成熟であるというのが大方の落選理由だった。
しかし小説の核心やテーマ性は多くの選考委員が認めるところで、「中身はある
のに技術がない」
という評が的を射ているのだろう。なかなか引き込まれて読んだ。

 単行本に併録されている書き下ろし作品『老処女』(しかし凄いタイトルだな)も、
40代半ばで異国に暮らす高学歴独身女子の恋愛妄想があまりと言えばあまりに
痛い。逞しいだけでも、弱いだけでも、美しいだけでも、頭がいいだけでも、子ど
もを産んでも産まなくても、易々と幸せにはなれない。価値観が多様化し、混沌
としたこの時代。女は一体、どう生きればいいんだろう。

『ワンちゃん』楊逸・著/文藝春秋・2008)

テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

[2008/03/29 21:09] | 読書 | トラックバック(0) | コメント(0) |
キスまでの距離~『マイ・ブルーベリー・ナイツ』
マイ・ブルーベリー・ナイツ


 MY BLUEBERRY NIGHTS


 ニューヨークで失恋したエリザベス(ノラ・ジョーンズ)に出た。新しい自分
になるために。涙に暮れる彼女を美味しいブルーベリー・パイで慰めてくれた
カフェのオーナー、ジェレミー(ジュード・ロウ)を思いながら、彼女は行く先々で
彼に手紙を書く。そして300日の後・・・。

 香港ニューウェーブの巨匠、ウォン・カーウァイ4年ぶりにして、全世界待望の
新作長編
。昨年5月のカンヌ・ワールドプレミアから約300日、待って、待って、
待ち焦がれて、やっと日本公開! あ~、長かった・・・。

 物語は、失恋した女の子が「道を渡る」ために遠回りした、言ってみればただ
それだけのお話。でもそこにはウォン・カーウァイ独特の何かがある。それを刻印
と呼ぶべきか、魔法と呼ぶべきか。いつもの「ドイルの眼差し」はなくとも、そこに
は間違いなく「ウォン・カーウァイが撮った映像」がある。ジェレミーのカフェにしろ、
ネバダの賭場にしろ、香港やシンガポールといった、今までの作品の舞台と同じ
空気感と色彩を纏っている
。好き嫌いはあれど、自分だけの「色」を持っている彼
は、間違いなく稀有な映像作家だと思うのだ。私はもちろん・・・、ウォン・カーウァイ
の映画、大好きです。


マイ・ブルーベリー・ナイツ2

 映画初主演のノラ・ジョーンズは、ジュードとの相性がとてもよかったのではな
いかな。彼と一緒にスクリーンに納まっている彼女は、コケティッシュでキュート
な女の子に映る。しかし流石に、プロの映画女優であるレイチェル・ワイズナタ
リー・ポートマン
との場面では、野暮ったさや素人臭さを感じてしまった。逆に言
うと、レイチェルやナタリーの美しさがそれだけ際立っているということなのだけれ
ど・・・。もちろん、ジュードは完璧に近い素敵さ、もう、うっとり

 改めて思ったのは、ウォン・カーウァイって「超」が付くロマンティストなんだな、と
いうこと。こんなにストレートで極上な、大甘ラブストーリー(しかも大した筋はない)
が描けるなんて! そして「自分の作品にお互いを繋げる糸を置きたい」と語る彼は、
『2046』でその「涙の記憶」総括したわけではなかったんだ。夜の街に走る電車、
スー・リンやレスリーという役名
。彼の作品を追って来た映画好きならば、うれしい
ような、少し切ないような気分
になったのではないだろうか。

マイ・ブルーベリーナイツ3

 エリザベスはリジーになり、ベスになり・・・。誰かと本当の意味で「別れる」とは
どういうことなのか、新しい、本当になりたい自分は誰なのかを知る。それは元の
「エリザベス」として、新しい恋に向き合うこと。時を同じくして、ジェレミーもまた
の恋
別れを告げる。この元恋人「カティア」が名前も容姿も少し、変わっているな
と思っていたのだが、ロシア人という設定だったのですね。ジェレミーのカフェも、
ハングルのような字体で店名が書かれていた。あれはロシア語(キリル文字)で
書かれた「Key(鍵)」という意味の単語
なのだそうだ。

 音楽はせっかくのライ・クーダーなのに、断ち切るように音が消える場面が多く、
浸り切れなかったのが残念。全世界で3500万枚のアルバムを売り上げていると
いうノラ・ジョーンズの歌声も、もう少し聴きたかったかも。

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』監督・原案・製作・脚本:ウォン・カーウァイ
      編集・衣装:ウィリアム・チャン/音楽:ライ・クーダー
          主演:ノラ・ジョーンズ、ジュード・ロウ/2007・香港、中国、仏)

テーマ:★おすすめ映画★ - ジャンル:映画

[2008/03/27 16:44] | 映画 | トラックバック(31) | コメント(28) |
生ける伝説~『アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生』
アニー・リー



 ANNIE LEIBOVITZ: LIFE THROUGH A LENS


「死にゆくその日も、写真を撮っていたい」

 アメリカで最も有名なフォトグラファー、「リビング・レジェンド」ことアニー・リーボ
ヴィッツ
。彼女の現在の仕事ぶりと、辿ってきた人生を振り返るドキュメンタリー

 ある程度以上の年齢の人なら、デミ・ムーアの妊婦ヌードが当時どれほどの衝撃
をもって受け止められ、どれほどの物議を醸したか憶えていることだろう。アメリカ
では、掲載雑誌を発禁とした州さえあったという。ジョン・レノン暗殺の数時間前に
撮影されたポートレイト
など、アニー・リーボヴィッツを彩る「伝説」は枚挙に暇が無い。
本作では、彼女の仕事ぶりや思い出を錚々たるセレブたち(ミック・ジャガー、ヒラリ
ー・クリントン、ウーピー・ゴールドバーグ
などなど)が語ることで、偉大な写真家の
偉大な仕事の数々
を改めて振り返ることができる。若き日のレオや、ジェイク・ジレン
ホール
のポートレイトを大きなスクリーンで観ることができたのは僥倖だった。
 しかし、私としては少し、不満の残る作品でもあった。

アニー・リー3

 私がアニー・リーボヴィッツを知ったのは数年前。彼女とパートナー関係にあった
アメリカの批評家スーザン・ソンタグの死後、ニューヨークで開催された写真展に
ついての新聞記事だった。

 その記事には、アニーが体外受精を経て51歳で出産(!)した長女サラを抱く、スー
ザン・ソンタグの写真
が掲載されていた。赤ん坊を物憂げに見つめる、老年に差し掛
かった女性(スーザン)の眼差しに、理由も無く心惹かれてしまった。その記事を読む
まで、20世紀を代表する「アメリカの知性」と呼ばれていたというスーザン・ソンタグの
ことも、アニーのこともほとんど知らなかったのに。

スーザン・ソンタグ

 映画の後半、アニーとスーザンの出逢いや永遠の別れについて、写真として残さ
れた記録が紹介される。スーザンの最期を語るアニーのに、もらい泣きもしてし
まう。しかし、もっともっとアニー自身の言葉で、スーザンとの関係や長女サラ、
代理母から生まれたという双子たちについて語って欲しかったと思う。
彼女の偉大
さは、セレブが語らなくとも写真を観れば伝わってくる。被写体を「素敵!」「美しい!」
鼓舞し、時に「感動した」と涙ぐんでファインダーを覗けなくなる、40年のキャリア
持ってしても今だ「撮る」という行為に真摯に向き合うその仕事ぶりを見ればわかる。
人間を描くドキュメンタリーならば、もう少し対象の内部に入り込む--それはまさしく
アニーの真骨頂でもある--撮り方
をして欲しかったと思うのだ。

アニー・リー4

 できれば写真集を探して、この「生ける伝説」偉大さにもう一度、じっくりと触れ
てみたい。

『アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生』
      監督・製作:バーバラ・リーボヴィッツ/2006・USA)

テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

[2008/03/26 00:45] | 映画 | トラックバック(5) | コメント(8) |
マジカル・ミステリー・ジャーニー~『ダージリン急行』
ダージリン急行


 THE DARJEELING LIMITED


 父の葬儀以来、一年間絶交状態だったホイットマン家の三兄弟。再会した彼らは
ヒマラヤで修道女となっている母に会うため、インドを列車で旅するのだが・・・。

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』ウェス・アンダーソン監督・脚本によるロードムー
ビー
。本編前に、ショートムービープロローグとして上映されるという凝った作り。
ホイットマン家の三男ジャック(ジェイソン・シュワルツマン)と元カノのナタリー・ポー
トマン
パリのホテルで再会する。「僕のパリを見て」。マリー・アントワネット
ルイ16世を演じたジェイソンが言うと、なんだか意味深に聞こえるような・・・。
ナタリーのヌードが話題になった短編だけれど、さほどセクシュアルなわけでもな
かった。

ホテル・シュヴァリエ


 『ホテル・シュヴァリエ』

 HOTEL CHEVALIER



 さて本編は、インドの街路を疾走するタクシーで幕を開ける。乗っているのはビル・
マーレイ
。土埃を舞い上げながら走るタクシー、車線も歩道も混沌とした道。人、牛、
車、全てが混然一体となって、無秩序でカオティックなインドという国を象徴するよう
なオープニングの見せ方にうなる。ビル・マーレイはダージリン急行列車に乗り遅れ、
間に合ったのはホイットマン家の次男、ピーター(エイドリアン・ブロディ)。一等客室
では、長男のフランシス(オーウェン・ウィルソン)とジャックが彼を待っていた。

ダージリン急行3

 インドという摩訶不思議な国になんともフィットする、デコボコ三兄弟の掛け合い
が面白い。仕切り屋で、傷だらけの顔に包帯を巻いている長男フランシス、内に
こもるタイプでサングラスの次男ピーター、ちゃっかりタイプで何故か裸足の三男
ジャック。それぞれが家族や人生についての悩みを抱えながらインドを旅し、生や
死と直面
する中で、兄弟のを取り戻してゆく。彼らが走り出した列車に飛び乗る
場面は、リトル・ミス・サンシャインを少し、思い出させる(家族&黄色つながり)

 彼らが、父の形見として旅の道連れにしている旅行鞄がすごい!マーク・ジェイ
コブズ&ルイ・ヴィトンのオーダー
で、イニシャルとシリアルナンバー入りの逸品
ベルトもお揃い。車もポルシェだし、超ハイソであろうホイットマン家の一面が伺え
る。小物のデザインや色も凝っていて、見ているだけで楽しい。『ザ・ロイヤル・テネ
ンバウムズ』
も、衣装がおしゃれだったなぁ。

 インドの黄色い大地に、ダージリン急行の青が映える。ターコイズ、スカイ、ロイ
ヤル、様々な青が美しい。「いかにも」な彼らの母親(アンジェリカ・ヒューストン)
再会し、重い荷物から解き放たれた三兄弟が乗る赤い列車もまたキュート! 
旅のお伴のipodから流れてくる音楽も、シタールの音が聴こえてきそうなオリエン
タルムード
「言葉じゃなくて、もっと自由に表現して」。それはフランシスの言う
「スピリチュアル・ジャーニー(字幕では「心の旅」)」の極意なのかもしれない。

 観終わって、感動とか涙とか、心揺さぶられる何かが特別あるわけではない
それでも、「観てよかった・・・」と何故か思える、滋味のある作品だと思う。

『ホテル・シュヴァリエ』監督・脚本・製作:ウェス・アンダーソン
  主演:ジェイソン・シュワルツマン、ナタリー・ポートマン/2007・USA)

(『ダージリン急行』監督:ウェス・アンダーソン/2007・USA/
   脚本・製作:ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ、
      ジェイソン・シュワルツマン/主演:オーウェン・ウィルソン、
               エイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマン

テーマ:★おすすめ映画★ - ジャンル:映画

[2008/03/25 14:26] | 映画 | トラックバック(19) | コメント(14) |
ディズニー・ワールド~『魔法にかけられて』
魔法にかけられて


 Enchanted


 夢と魔法の国「アンダレーシア」のジゼルは、真実の愛で結ばれる相手との出逢い
を夢見るプリンセス。やっとめぐり逢えたエドワード王子との結婚式を目前に、ジゼル
邪悪な女王に井戸に突き落とされてしまう。現実が支配する現代のニューヨーク
舞い降りてしまった彼女の運命は・・・。

 ディズニーが「伝家の宝刀」実写化し、アニメとの融合「夢と魔法と真実の愛の
力」
を描き出すファンタジー。シンデレラ城に光の虹がかかり、『星に願いを』が流れ
るオープニングで「ディズニー・スイッチ」が入る人(私とか)にはもう、たまらない夢の
世界
。世知辛い現実をひととき忘れさせてくれる、素敵なロマンスをどうぞ。

魔法にかけられて3

 この映画は予告からして物凄くウケた。現代のニューヨークに、天然バリバリの
「痛い」キャラ、ディズニー・プリンセスと「タイツ野郎」プリンスが騒動を巻き起こす
プロット、これが面白くないわけがない! そしてなんと、プリンセスが王子と結ば
れてめでたしめでたし、ではなくて、彼女が恋に落ちる相手はバツ一、子持ちの
中年弁護士ロバート(パトリック・デンプシー)
なんですから・・・。

 ジゼルを演じたエイミー・アダムスイノセント・キャラがハマりつつ、隠し切れな
カラスの足跡が笑える。こういう役を30過ぎて、大真面目に演じ切れるってある
意味、凄い才能だと思う。そして私が楽しみにしていたのがエドワード王子を演じた
ジェームズ・マースデン!

魔法にかけられて・ジェームズ



 彼の白い歯はまぶしいほど
 「キラーン」と輝き、
 オーバーアクト気味に歌い
 弾ける
その姿は
 まさに、アニメから飛び出してきた
 王子さま!



 パトリック・デンプシー落ち着きと戸惑いもいいのだけど、私は天然王子エドワー
ドが好きだなぁ♪
 しかし最後はさすがに「ちょっと!誰でもええのん?!」と突っ込
みましたけどね(笑)。

 短い出演時間でも強烈な印象のスーザン・サランドン女王、これもアニメキャラ
そのまんまのティモシー・スポールら、キャストが映画の世界にこれでもか!って
いうくらいフィットしていてうれしくなる。それは現実を描いた映画では当然のこと
だけど、アニメが実写になって違和感がない、って結構凄いことですよ。

 アカデミー賞三曲もノミネートされて、授賞式を華やかに彩ってくれた歌曲も
まさに「ディズニー印」! 乙女の「うっとりのツボ」を心得た、さすがの名曲揃い
した。やっぱり『So Close』がなんとも切なくて、よかったなぁぁ・・・。そしてセント
ラル・パーク
のシーンは、まさにディズニー・ランドのパレードそのもの! 圧巻
です。

 せっかく字幕版で鑑賞したのに、ナレーションがジュリー・アンドリュースだっ
たって、全く気付きませんでした。もったいない! 字幕はちょっと追いついてい
ない感があり、残念な部分もなくはない。けれど、夢の世界を存分に堪能できた
108分。満足!


『魔法にかけられて』監督:ケヴィン・リマ/2007・USA/
   主演:エイミー・アダムス、パトリック・デンプシー、ジェームズ・マースデン

テーマ:魔法にかけられて - ジャンル:映画

[2008/03/24 08:52] | 映画 | トラックバック(23) | コメント(12) |
血と暴力の国~『ノーカントリー』
ノーカントリー


 No Country for Old Men


 が吹き渡るテキサスの荒野。ヴェトナム帰還兵のルウェリン(ジョシュ・ブロー
リン)
は、狩りの途中で死体と共に残された麻薬と200万ドルを見つける。彼を追う
サラサラヘア殺人鬼シガー(ハビエル・バルデム)、理不尽な殺人に戸惑いな
がらも、ルウェリンを護ろうと奔走する老保安官エド(トミー・リー・ジョーンズ)。
血と暴力と恐怖に彩られた、終わりなき追跡劇が始まる・・・。

 第80回アカデミー賞において、作品・監督・脚色・助演四部門でオスカー
輝いた、コーエン兄弟の最新作。噂に違わぬ大傑作でした。いやはや、凄い映画
を観てしまった!
 この時期の公開作は例年オスカー絡みの作品が多いけれど、
今年はやけに良質の作品が多い気がする。2008年、まだ三ヶ月も経ってないのに、
今のところ大豊作でうれしい限り。

 とにかく、画面から伝わってくる緊迫感が半端じゃない。映画全体を通して音楽
がほとんど使われていない
代わりに、風の音が実に効果的に聴こえてくる。心を
ザワつかせる、何処か遠くへ逃げ出したくなるような風の音
。そして風のように
前触れもなく、この男がやってくる。唐突に、無慈悲に、無表情に。おかっぱ頭で。

ノーカントリー2

 最強最悪の暗殺者、いや殺人マシン、シガーは、彼独自の行動規範に則って動
いている。そこには感情や常識の入り込む余地はない。質問も懇願も、動機さえ
意味がない。
ただ神出鬼没に、追いつめ、捕え、トドメを刺すだけ。先が読めない
恐怖に、鑑賞中は身体が硬直し、突然の銃声に何度も座席から飛び上がってし
まった。こんなに怖い映画、滅多にないと思う。シガーの画像も、正面を見据えて
いるものは怖くて貼り付けられない。夢に出て来そうで・・。

 この映画の原題は『No Country for Old Men』。そのOld Menであるところ
の、この物語の語り部である老保安官エド独白は、そのまま私たち観客の心境
でもある。どうして理不尽な殺戮が行われるのか? どうして人を殺めておいて、
感情はフラットだなどと言えるのか。理解を超えた暴力や流された血は、何処か
ら来て何処へ行くのか。老人のための国はない。私たちの全てはいつの日か老い、
死に向かってゆく。
エドが父に倣って保安官になったように、いつかは父の示す道
を目指して、誰もが死なねばならない・・・。そこに希望はあるのか?

ノーカントリー3

 見事にオスカーを受賞したハビエル・バルデムの怪演は言うまでもなく、適材
適所
にキャスティングされた俳優たちが皆、素晴らしい。テンガロンハットが誰
よりも似合うトミー・リー・ジョーンズ、近頃乗りに乗っているジョシュ・ブローリン
(この人がダイアン・レインの夫だとは!)。そして彼らの背景に常にある、米・
メキシコ国境地帯
の荒涼とした風景。暗転したスクリーンに風の音が聴こえてく
るオープニングはブロークバック・マウンテンバベルを思い出させる。
いずれも一筋縄ではいかない、議論を呼ぶ傑作だと言い切ってしまいたい。
が登場人物たちの、そして観るものの心を掻き乱すのだろうか?

 ただ一点、エドが旧知の同僚を訪れる場面だけは唐突に感じた。ルウェリンの
最期、彼の妻とシガーとの対決、シガーの事故、エドの自宅での朝食の場面、と
いう流れの方がスムーズだったのではないだろうか。エドが保安官を辞する心理
は、あの場面がなくても十分伝わってくるのだし・・・。

 などと言ってはみるものの、この作品が稀に見る傑作であることは間違いない
と思う。必見です。

『ノーカントリー』監督・製作・脚色:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
   製作:スコット・ルーディン/原作:コーマック・マッカーシー/2007・USA/
      主演:トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン

テーマ:ノーカントリー - ジャンル:映画

[2008/03/21 09:24] | 映画 | トラックバック(34) | コメント(28) |
~訃報~ アンソニー・ミンゲラ
イングリッシュ・ペイシェント




 THE ENGLISH PATIENT

 by Anthony Minghella
   (1954-2008)



 また、PCの前で声を上げてしまった。「嘘、なんで?」 涙がこぼれる・・・。

 英国の映画監督であり、脚本家でありプロデューサーでもあったアンソニー・ミンゲラ
が亡くなったそうです。享年54歳。早過ぎるよ・・・。残念でなりません。

 彼のフィルモグラフィーを改めて眺めてみると、監督作は意外に少ないのですね。
デビュー作『愛しい人が眠るまで』だけ観れていません。これは絶対にDVD化して欲しい
と願っています。絶対に観たい。

 代表作というと、やはり『イングリッシュ・ペイシェント』ということになるのでしょうか。
アカデミー賞9部門を制覇した名作です。レイフ・ファインズ、クリスティン・スコット・トー
マス主演、北アフリカの壮大な砂漠の風景
が心に沁みる、素晴らしい映画でした。

 楽しみにしていた『朗読者』の映画化に際してはプロデュースに回っていたようですが、
彼が関わった最後の作品として、心して観たいと思います。

 今日は『ノーカントリー』の記事をアップしようと思っていましたが、また明日にでも。
『魔法にかけられて』『ダージリン急行』も観ているのですが、なかなかアップできず・・・。
後日、追々記事にしていきますね。

 改めて、アンソニー・ミンゲラ氏のご冥福をお祈りします。たくさんの素晴らしい映画
をありがとうございました。合掌・・・。

テーマ:映画ニュース - ジャンル:映画

[2008/03/19 09:56] | 映画雑談 | トラックバック(3) | コメント(11) |
偶然の目撃者~『バンテージ・ポイント』
バンテージ・ポイント

 Vantage Point



 スペイン・サラマンカマイヨール広場。各国の首脳を集めたサミットが開催
される中、アメリカ大統領が狙撃される。現場で事件に遭遇し、関わった8人の
視点
でそれぞれの「真実」が描き出される・・・。

 映画はサミットを取材する中継車の中から始まる。私たち観客はテレビモニタ
ーから事件を「目撃」し、あの場で何が起こったのか、何が始まろうとしているの
かを知りたいと願う。そう、気付いた時には、すっかりこの映画に引き込まれてし
まっているという巧い「ツカミ」。そして事件当日の午前11時58分57秒に時間が
巻き戻され、同じ出来事が違う角度から繰り返し描かれていく

 オスカー級の豪華キャストが集った上質のサスペンスということで評判も上々、
期待しまくって鑑賞したけれど、私にはちょっと不満も残る映画だった。

バンテージ・ポイント2

 冒頭から何回かの「巻戻し」まではハラハラドキドキが持続するのだけれど、犯人
(裏切り者)
が明かされてからはサスペンスも終わってしまい、普通のアクション
映画
になってしまったような印象。カーチェイスはボーン・アルティメイタムのノリ
だし、大統領警護のSS、トーマス・バーンズ(デニス・クエイド)ダイ・ハーダーな
不死身ぶり
には笑った。トラックに衝突し、潰れた車からスタスタと歩き出す様には
超人ジョン・マクレーンか!と思わずツッコミ。彼のトラウマはどこに消えてしまった
んだ?

 大統領に替え玉がいることや、警備の隠語にはなるほど~、と感心させられた
けれど、ホテルのセキュリティが甘いのにはビックリ。大統領(ウィリアム・ハート)
が意外に強くて事なきを得たものの、あんなに易々と拉致されたらダメでしょう。

バンテージ・ポイント3

 ホテルのベルボーイがテロリストの「末端」で、テロ幹部が彼らの自尊心をうまく
操り、として使い捨てているところが何とも腹立たしい。9・11の実行犯たちも
あんなふうに言いくるめられていたのだろうし、「この闘いは終わらない」という
テロリストのセリフには現実味があった。超大国・アメリカよ、そんなに急いで何処
へ行く・・・?

 突っ込みどころもあるけれど、90分の尺で巧くまとめられたサスペンス・アクシ
ョン
ではあると思う。テロリストたちの目的や背景など、ラストにもう一捻り欲し
かったと思うのは贅沢かな?

『バンテージ・ポイント』監督:ピート・トラヴィス/2008・USA/
    主演:デニス・クエイド、フォレスト・ウィッテカー、ウィリアム・ハート

テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

[2008/03/15 07:46] | 映画 | トラックバック(31) | コメント(21) |
一番近い他人~『クローサー』
クローサー


 CLOSER

 "Hello,Stranger"


 ロンドンの交差点。通りの向こうから赤毛の若い女性が歩いてくる。
ダミアン・ライスによる"I can't take my eyes off of you" のリフレイン
彼女を見つめているのは誰・・・?

 この限りなく映画的でドラマティックなオープニングの映画『クローサー』は、
パトリック・マーバーの戯曲を原作にした台詞劇二組のカップル虚実織り交ざ
った愛憎を、巨匠マイク・ニコルズ生々しく映像化している。アンサンブルを演じ
るはジュリア・ロバーツ、ジュード・ロウ、ナタリー・ポートマン、クライヴ・オーウェン
という当代の芸達者たち。

 ジュリアが演じた役、フォトグラファーのアンナは当初ケイト・ブランシェット
オファーされていたという。しかしケイトは第二子妊娠により(泣く泣く)降板
その結果、英国男VS.アメリカ女というわかり易い構図になっている。ケイトの演技
ももちろん観たかったし、彼女が演じていたならアンナという女性のキャラクターに
より深みが増したのだろうけれど・・・。

クローサー3

 彼らを繋いでいるのは果たしてなのか? 肉体的な繋がりがなければ大人の愛
は成り立たないと言われるのなら、それは間違いなく愛なのだろう。そしてそれは
当然、美しいだけのものではない。嫉妬や裏切り、不信、不実、憎悪が入り混じっ
「B面の愛」とでも呼んでみたいような感情。彼らは一見、立派な社会的地位の
ある大人を装っているけれど、同時にいつも、とても、不安そうに見える。「A面の愛」
に自信がなくて、その不安を隠すかのように饒舌でもある。

 結局は似たもの同士の英国男二人。作家志望の新聞記者ダン(ジュード・ロウ)
自分しか信じられるものがなく、最後に愛を失う。皮膚科医のラリー(クライヴ・オー
ウェン)
はダンよりも一枚も二枚も上手で、欲しいものを力づくで手に入れる。性欲
強くていつもギラついた目をしていて・・・。実はクライヴ目当てで(ジュードじゃなくて!)
この映画を観たのだけれど、ここでの彼は残念ながら素敵じゃない。いや、好みで
はない、と言ったほうがいいかもしれない。素敵じゃなく見せる彼の演技そのもの
は素晴らしい
のだから。

 新しい自分になりたくて、ひとりロンドンにやってきたアリス(ナタリー・ポートマン)。
彼女の「全部嘘よ」という言葉の意味が最後の最後で明かされる。ナタリーはデビュ
ー作『レオン』の時と同じ髪型で同じ涙を流しながら、愛を乞う「ストレンジャー」
見事に演じていると思う。クライヴとナタリーはゴールデン・グローブ賞にて助演男女
優賞を受賞、アカデミー賞にもノミネート
された。

クローサー2

 観終わって後味がいいわけでも、胸にこみ上げてくるものがあるわけでもない。
それでも、NYの交差点を歩くアリスに重なるファーストシーンと同じ歌声が、いつ
までも耳に残るような・・・。好きとは言いたくないけれど、どこか心にひっかかる、
大人の映画
です。

『クローサー』監督・製作:マイク・ニコルズ/衣装デザイン:アン・ロス/
       原作戯曲・脚本:パトリック・マーバー/主演:ジュリア・ロバーツ、
       ジュード・ロウ、ナタリー・ポートマン、クライヴ・オーウェン
/2004・USA)

テーマ:考えさせられた映画 - ジャンル:映画

[2008/03/13 17:07] | DVD/WOWOW | トラックバック(6) | コメント(15) |
いつまでも たくさん~『ガスパール/君と過ごした季節(とき)』
ガスパール


 GASPARD ET ROBINSON


 南仏の海辺の町。息子夫婦に捨てられたおばあちゃん(シュザンヌ・フロン)
出会った失業中のロバンソン(ヴァンサン・ランドン)は、見捨てることができずに
車に乗せてしまう。妻に去られた元同僚のガスパール(ジェラール・ダルモン)
が待つ、レストランを開くために改修中の廃屋に連れ帰るのだが・・・。

 トニー・ガトリフ監督、脚本による1990年の作品。心に傷を抱え、社会から
はみ出した人々が集い、新しい家族を作ってゆく様を温かく見つめた佳作。音楽
ミシェル・ルグラン。ガトリフ作品お約束のロマ音楽も使用され、美しい映像
共に胸を打つ。ビデオタイトルは『海辺のレストラン/ガスパール&ロバンソン』
であったものが、DVD化を機に公開時のタイトルに戻されたらしい。
トランシルヴァニアのように圧倒的な激しい情感や、ほとばしるような鋭い愛
描かれているわけではない。けれど「はみ出しもの」たちへの心に染み入るやさしさ
と、慈愛のような温かさに満ちた、素晴らしい作品。オススメです。隠れた秀作って
あるものですね。できればモンドとともに観ていただきたい。画像が見つけられ
なくて残念!

ガスパール2

 冒頭のシーンから、「ああ、この光・・・」と思いながら見入ってしまう。透明で
柔らかな白い光
。同じような光を『モンド』でも見た。舞台は南仏、家族の絆という
ものに絶望しているガスパールと、母に捨てられたロバンソン。いつも素寒貧
二人だけれど、困っている人を見ると放ってはおけない。いや、人だけではない。
ガチョウや、ニワトリだって彼らの家族だ。 

 若い頃はさぞかし美しかっただろうと思わせる、チャーミングなおばあちゃん
との海辺のダンス。青空に舞うピンクの白い浜辺に敷き詰められた色とりど
りのテーブル、数え切れない椅子。夕日、蝋燭の炎、波。全てが美しく、やさし
く、キラキラ輝いている


 妻を忘れられないガスパールに、ロバンソンとおばあちゃんはしつこいくらい
「サヴァ(元気)?」と問いかける。夜更け、寝静まった街へ盗みに入り、食べ物と
ワインを失敬して秘密のパーティを開く中年男二人。何がそんなに可笑しいのか、
子どものように笑い転げる姿にこちらまで笑顔になる。

 ロバンソンが頭をブルブル震わせるは、まるでワンコ(犬)のよう。12歳で家を
失くし、野宿をしていたという彼は、モンドの成長した姿なのではないか。そして
その思いはラストシーンで確信に変わり、表面張力になっていたが溢れ始める。
ひとりじゃないよ・・・。

 野良犬の姿に投影された、トニー・ガトリフ社会的弱者への思い。互いに寄り
添い、分け合い、与え合う
彼らの生き方。モンドの何年も前にこの映画が作ら
れていたことに、ガトリフの変わらない「魂の芯」を感じる。

『ガスパール/君と過ごした季節(とき)』監督・脚本:トニー・ガトリフ
         主演:ジェラール・ダルモン、ヴァンサン・ランドン/1990・仏)

テーマ:★おすすめ映画★ - ジャンル:映画

[2008/03/12 10:23] | DVD/WOWOW | トラックバック(1) | コメント(2) |
祝☆つれづれ復活!~『子どもとの暮らしと会話』
子どもとの暮らしと会話


 終息宣言から何年経ったのかな?

 何はともあれ銀色夏生「つれづれノート」
 シリーズ復活ですよ~。うれしいな♪


 つれづれを止めてからの銀色さんは精力的に様々な企画の本を出し続けて
きたけれど、やっぱり還ってきてくれたか~、という感じ。今回はタイトルの通り、
カーカ(カンチ)とさくちゃん、二人のお子さんとの会話、エピソードが中心で、
はじめのうちは日付もない。しげちゃんやセッセはどうなったのかな?っていう
のだけが気懸かりだけど、潔くて銀色さんらしいかも。と言うより、書いていた
当初はそんなつもりはなかったけど、結局つれづれの形に戻ったということなの
でしょう。

 全くタイプの違う二人のお子さんに対する銀色さんの気持ちがリアルで、ぐん
ぐん引き込まれて一気に読んでしまう。特に、子どもに厳しく接すると家の中の
雰囲気が悪くなるし、楽しく過ごそうと思えば躾けられない
し、っていう下りは首が
折れそうなほど頷きながら読む。365日、「脱いだ靴下を洗濯籠に入れなさい」
と言い続けても、366日目にはまたリビングに靴下が脱ぎ散らかしてあるときの
挫折感がわかる人に読んで欲しい(笑)。もちろん銀色さんの子育てに対して、
全面的に共感できるわけではないですよ。自分の子(特にカンチ)に対するあまり
突き放した視線にはたじろいでしまうほど。
「子どもの受験なんて、自分には関係ない」って、そこまでドライに割り切れるもの
なのかなぁと思う。

 銀色さんって、詩とか文章だけでなく、生活の、衣食住のすべてが作品という
意識なんじゃないかな。子どもたちさえも。一時期、書くものに説教臭さが感じ
られたこともあったけれど、自由で何者にも捉えられず、媚びないところが彼女
のよさだと私は思っている。だからこれからも伸び伸びと、好きなことを書き続
けて欲しいと思う。

「自分たちのことが書いてある本が売れるんだよ」とカンチが言っているのが笑え
た。子どもってホント、わかってるよなぁ~と感心する。本は図書館で借りることが
多い私も、つれづれだけは絶対に買ってしまうもんなぁ。500円ちょっとだし、気軽
に、気楽に読めるし、面白いから買っても絶対損した気分にならないし。毎年楽し
みにしていたシリーズ
なので、復活は本当にうれしいです。
銀色さん、角川文庫さん、ありがとう♪

『子どもとの暮らしと会話』銀色夏生・著/角川文庫・2008)

テーマ:紹介したい本 - ジャンル:本・雑誌

[2008/03/11 10:36] | 読書 | トラックバック(0) | コメント(0) |
伝説のはじまり~『鰐~ワニ~』
鰐


 CROCODILE


 漢江の橋の下に住むホームレスヨンペ(チョ・ジェヒョン)は、川に身投げした
遺体から財布を抜き取ったり、同じくホームレスの少年にガムを売らせたりして
糊口をしのぐ「悪い男」。ある日、若い女が川に身を投げる。彼女を助け上げ、陵辱
するヨンペ。女は別の男の名を呼ぶ。「ジュノ・・・」。

 韓国の鬼才「忠武路のワニ」ことキム・ギドク監督デビュー作。昨年日本でも
遂に劇場初公開され、ギドクマニアの間で大きな話題となった作品をようやくDVD
にて鑑賞。水辺、小動物、青、痛み、怒り、性と生。映画デビュー作ながら、現在
に至る「ギドクテイスト」満載の一作。主演はギドクの初期作品に欠かせない存在
であり、「ギドクのペルソナ」とも呼ばれたチョ・ジェヒョン。若い。

 デビュー作でこんな作品を撮ってしまったら、当時は本国でさぞかし毀誉褒貶
凄まじかっただろう。男は常に凶暴で粗雑で激高していて、自分よりも弱い立場
のもの(女、老人、少年)から惜しみなく奪う。暴行を受け、一度は死を覚悟した
女は助けられ、さらなる暴行を受ける。しかしヒョンジョンという名の女はそこから
去ることなく、男と老人、少年と四人の奇妙な共同生活を始める。言葉少なに
うっすらと笑みさえ浮かべ、同じラーメンの鍋を囲むのだ。

 普通に考えてみれば、こんな酷い話もない。「女をバカにしてんのか!」という
声が聞こえてもおかしくはない。しかし、そんな(私の)小賢しいフェミニスト的感覚
を吹き飛ばしてしまうほど、ギドクの映画には恐るべきパワーがある。一度嵌ると
抜け出せない、麻薬のような中毒性。この魅力は、一体何なのだろう?

 私が初めて観たギドク作品は『悪い男』だった。トラックが遠景になってゆくあの
ラストシーンを観た時の衝撃は忘れられない。「こ、これは究極の恋愛映画だ!」
という思いと、そう思う自分への戸惑い。以来、私はギドクのになった。

鰐2

 本作は、ストーリーとしては分かり難い部分(子どもを使った殺し屋が突然出て
来たり、ヨンペが牢獄からすぐに解放されたり)があったり、ご都合主義的な流れ
になってしまっている部分もある。しかし、そんなの全てを帳消しにしてしまうほど、
幻想的で印象的な美しい場面がある。の上では常に苛立っているヨンペが、
の中で見せる穏やかで安らいだ表情
。ゴミが浮き、濁って見える川も、潜ってしまえ
ば清らかで美しい。その「青い世界」こそが、人間本来の棲家だと言いたげに。

 漢江に架かる大きな橋が見えて、グエムル-漢江の怪物-を思い出す。
ギドクは最先端のVFXも巨額の製作費も使うことなく、これからも怪物よりも恐ろ
しい「人間の業」
を描き続けてゆくのだろう。ついて行きますよ。

『鰐~ワニ~』監督・脚本:キム・ギドク
        主演:チョ・ジェヒョン、ウ・ユンギョン/1996・韓国)

テーマ:韓国映画 - ジャンル:映画

[2008/03/10 09:57] | DVD/WOWOW | トラックバック(8) | コメント(12) |
予告で十分~『ジャンパー』
ジャンパー


 JUMPER


 物静かでいじめられキャラの高校生デヴィッド(ヘイデン・クリステンセン)は、
ある日自分が瞬間移動できるテレポート能力を持っていることに気付く。銀行に
入り込み大金をせしめた彼は、世界を「ジャンプ」しながら自由気ままに、孤独
生きていたのだが・・・。

「どこでもドアがあったらな~」なんて、誰もが思うを叶えてしまった「ジャンパー」
の物語。初恋の女性ミリー(レイチェル・ビルソン)との再会、ジャンパーたちを抹殺
しようと暗躍する組織・パラディンローランド(サミュエル・L・ジャクソン)との死闘、
同じ能力を持つグリフィン(ジェイミー・ベル)との出会いと決別。東京を含む世界的
ロケーション
と、VFXを駆使した迫力映像テンコ盛りのアクション映画。初デートに
ピッタリ? ポップコーンとご一緒にどうぞ。そうでない方は日曜洋画劇場でいいか
も?!

 この映画、尺が90分弱と非常に短いのですが、なんだか2時間はあったような気
が。。しかも、画面は滅茶苦茶揺れるし、ダイ・ハード並みの破壊・炎上シークエンス
がいっぱいなのに、なんと眠くなってしまいました。必死で目を開けて、寝なかった
自分を褒めたいような罵倒したいような(笑)。

ジャンパー2

 スフィンクスやらコロッセオやら、世界中のいろんなところにジャンプするデヴィ
ッド。一番羨ましかったのは↑の画像、ビッグ・ベンの時計の針につかまってロン
ドン
の夜景を見下ろす場面。ちょっと怖いけど、命綱なしで世界の何処にでも下
りて行けるんです! ありえへん。。けど、やってみたい

 ヘイデン・クリステンセン暗い瞳がちょっと不気味ジェイミー・ベルも、いい
奴だか悪者だか計りかねる微妙な表情。後半は彼のほうが頑張ってるじゃないか!
と思えたほど、アクションに身体張ってます。ダイアン・レインがヘイデンのママ
っていうのは、ちょっと若過ぎるんじゃないかと思ったけど・・・。サミュエル・L・
ジャクソン
も(いつも通り)怖過ぎ。しかしあまりの荒唐無稽さ、ありえなさに、途中
から笑えて仕方なかったです。

 しかしこの映画本編よりも、『インディ・ジョーンズ4』の予告が観られたことの方が
うれしかったりして(笑)。あの有名すぎるメロディ、♪た~たたったー、た~たたー
が聴こえた瞬間に顔がニヤケました。ケイトがね、な~んかカッコよさげだったわ~。
劇場ではかなり前からインディのトランクとかハットとかオブジェして、盛り上げ
てますよね。しかし前作ってどんなんでしたっけ? 全然思い出せない。もしかし
て観てないとか・・・?


 あ、ジャンパーでしたね。最後、グリフィンってどうなったんだっけ? ま、どー
でもいいか
(笑)。

ジャンパー3

『ジャンパー』監督:ダグ・リーマン/2007・USA/
     主演:ヘイデン・クリステンセン、ジェイミー・ベル、レイチェル・ビルソン)

テーマ:ジャンパー - ジャンル:映画

[2008/03/08 10:33] | 映画 | トラックバック(35) | コメント(14) |
僕のお父さんは世界一~『お父さんのバックドロップ』
お父さんのバックドロップ


 Backdrop del mio papa


「1980年。山口百恵が引退して 松田聖子がデビューした
 テレビが漫才をやらない日はなかった
 たのきんトリオがいて シャネルズがいた」


 大阪の弱小プロレス団体に所属する悪役レスラーの父と、そんな父が大嫌いな
息子。父は息子と亡き妻のため、命懸けのリングに上がる決心をする・・・。

 故・中島らもの同名短編小説の映画化(原作は未読)。らも氏も理髪店主人の役
で出演している。荒っぽいけれど心やさしい父・下田牛之助宇梶剛士、その息子
で繊細な少年・一雄神木降之介がいずれも好演。祖父南方英二、牛之助に秘
かな想いを寄せる幼馴染・英恵南果歩、新世界プロレスの社長・菅原生瀬勝久
と、達者な大阪弁を操る脇役陣、子役たちも素晴らしい

 映画館で観るのもいいけれど、たまたま観た深夜のテレビ映画に感動した・・・
いう感じが似合う、心温まる作品ディープ大阪な雰囲気に引く方も多いかもしれな
いが、今や絶滅危惧種となった「半ズボン姿」の少年を、神々しいまでの存在感
演じた神童・神木降之介くんだけでも観る価値はアリかも。

お父さんのバックドロップ4

 亡くなった母への想いを、英恵に語る一雄の言葉がいい。母親ってこういうも
のだよね。

「僕のお母さんね いっつもやさしかったわけじゃない
 時々すっごく怒って 時々お父さんとケンカして
 時々僕のこと ぶったりした
 でも・・・・・ 大好き」


 試合を優先し、そんな大好きなお母さんの死に目に会わなかった父が許せない
一雄。自分の仕事を「学校の便所掃除係みたいなもん」だと言い、どんな仕事であ
ろうと誇りを持って取り組む大切さを、自分の言葉で語ろうとする牛之助。口喧嘩
は日常茶飯事でも、固い男の友情で結ばれた牛之助と菅原が、背中で語る場面
も最高!
 家族への愛を身をもって体現しようとする父の姿に、思わず走り出す
一雄はベタだけど、泣ける。飄々としたおじいちゃんのボケ(ツッコミ?)も冴えて
ます。予定調和でもいい、それが親子なんだから。

「僕は10歳だった
 お父さんが世界で一番強いと信じていた
 お父さんが世界で一番の僕のヒーローだった」


『お父さんのバックドロップ』監督:李闘士男/原作:中島らも
                主演:宇梶剛士、神木降之介/2004・日本)

テーマ:日本映画 - ジャンル:映画

[2008/03/07 12:00] | DVD/WOWOW | トラックバック(2) | コメント(4) |
知り合い以上・友達未満~『カツラ美容室別室』
カツラ美容室別室

 第138回芥川賞候補作(受賞は川上未映子著乳と卵)。カツラをかぶった美容
、桂さんが高円寺で営む「カツラ美容室別室」。そこで出会った男女の交流を描く。
「大人の男女の友情」は成り立つか? 著者の答えは如何に。

人のセックスを笑うながなかなか好きだったので読んでみたのだけれど、これは
芥川賞落選も仕方ないかなー、と思わせる微妙さ。選考委員からは「スカスカで何も
ない」
という散々な評価だったらしい。私はもちろんそこまでは言えないけれど、
足りなかったのは確か
。登場人物たちの魅力が伝わって来なかったし、共感でき
たり好きだったりする人物が一人も出てこない。そして何よりも物凄い「既読感」
あった。

 そう、この小説、もう何年も前に芥川賞を受賞した藤野千夜さんの『夏の約束』
似ていると思ったんです。詳細は憶えてないのだけれど、全体の雰囲気というか
何と言うか・・。

 まぁ、著者の今後に期待ということで。キャスティングもしません。

『カツラ美容室別室』山崎ナオコーラ・著/河出書房新社・2007)

テーマ:文学・小説 - ジャンル:小説・文学

[2008/03/06 09:42] | 読書 | トラックバック(2) | コメント(4) |
哀しみの青~『キムチを売る女』
キムチを売る女


 GRAIN IN EAR
 
 芒種



 中国の田舎町で、息子を一人で育てながら無許可でキムチの露天商をする朝鮮族
の女性、チェ・スンヒ(リュ・ヨンヒ)。男たちによって蹂躙される彼女の孤独な生き様を、
乾いたタッチで静かに見つめるアート映画青みがかった映像、少ないセリフ、性と
暴力、春をひさぐ女たち
キム・ギドク作品と大いに通じるものを感じた。作家性が強く
エンタメ性は皆無
であるため、賛否が分かれることは必至。監督は自らも朝鮮族であ
る中国のチャン・リュル

 タイトルからして韓国映画だとばかり思っていたが、映画の最初のセリフ、子どもたち
の唄う歌がどうも韓国語に聴こえない。ここでやっと、これは中国の朝鮮族を描いた
作品
なのだと気付く。

 数年前、韓国語を習っていたときの先生が朝鮮系の中国人女性だった。彼女は
留学中の学生であったから、半年ほど通ったところで先生の卒業と共に講座は終わ
ってしまった。「お前は朝鮮族なんだから、ハングルを覚えなさい」息子のチャンホ
厳しく躾けるスンヒを見ながら、先生のことを少しだけ思い出してしまった。

キムチを売る女2

「テレビでしか見たことがなかった」と言われてしまうほどに、マイノリティである
朝鮮族。夫は人を殺めて罪を受け、母子で故郷を離れたことがほんの少し、スンヒ
の口から語られる。スンヒはシングルマザーであり、露天商の許可証も、テレビも
ない困窮した生活。そこで差し伸べられる手はスンヒの身体を「見返り」として求め、
工場で働く同胞の男キム愛人関係となりながらも、無残に裏切られる

 映画はしかし、彼女の絶望悲哀も、セリフや表情のアップで追うことはしない。
固定カメラで絵画的なアングルを切り取り、登場人物たちはその枠の中で静かに、
でも確かに生きている。理不尽な運命に翻弄されながらも、スンヒは涙を流したり、
感情をあらわにすることはない。ただ、息子を喪うまでは

 窓枠や鶏、椅子や自転車など、「青」が印象的に多用されている。装飾のない、
シンプルな画面と斬新な構図
が、言葉にならない感情や悪意、憎悪を示唆する。
キム・ギドクのように、監督は映画作りに関しての専門教育を受けていないらしい。
余計な技術や知識がない分、作家性が全面に押し出されたアート色の強い作品
として成功しているのではないだろうか。

 ラストシーンの長回しは圧巻。断ち切るような終わり方も、スンヒの行き場のない
絶望
のようで・・・。しばし、呆然とする。

『キムチを売る女』監督・脚本:チャン・リュル/2005・中国、韓国/
                主演:リュ・ヨンヒ、キム・パク、ジュ・グァンヒョン)

テーマ:韓国映画 - ジャンル:映画

[2008/03/05 09:42] | DVD/WOWOW | トラックバック(5) | コメント(12) |
母と娘て、ええね。。~『乳と卵』
乳と卵

 第138回芥川賞受賞作。もうすぐ40歳になるシングルマザーの巻子はホステス
をしながら生計を立て、豊胸手術を受けようとしている。その娘、12歳緑子は誰
とも口を利かず、ノートに思いを綴っている。夏休み、二人は大阪から東京にいる
「わたし」、巻子の妹で緑子の叔母、「夏ちゃん」の元へやってくる・・・。

 女三人だけの世界で展開する、身体と性をめぐる物語大阪弁の口語文体独特
の、息継ぎなしの長文で、ここが受け付けられない方には評価が難しい作品だと思
う。女性の生理をあまりに生々しく描いていることに拒否反応を示す方もおられるだ
ろう。しかしそれらを補って余りある豊かな情感が、この小説には備わっていると思う。
五千円札の顔、樋口一葉へのオマージュや哲学的な思索、最後に用意される、母と
との感動的な愛情の交感。電車の中で読みながら、を抑えることができなかった。
日本で一番注目される文学新人賞である芥川賞にふさわしい、斬新な才能ほとばし
る一篇。支持!

 ちなみに私は雑誌「文藝春秋」掲載分にて読了したので、単行本に収録されている
受賞第一作は読んでいない。しかし文春では著者インタビューや、芥川賞選考委員
による選評も読めるので、お買い得です。

 自分の内に満ちてくる性徴を恐れ、「自分の身体の中に閉じ込められている」と感じ
緑子にハッとしてしまう。自分の身体なのに、その変化を自分でコントロールできな
矛盾。自分とはどこにあるのだろう、いっそ生まれてこなければよかったのに、とい
出口のない哀しみ。思春期の私は表面的には明るい子どもだったけれど、その内側
には緑子と同じく暗いものを抱えていたから、彼女の苦しみがダイレクトに胸に迫って
くる。呼び覚まされた古い記憶のように・・・。

 そして逆に、年齢的には自分と近い、母親である巻子にはほとんど共感できなか
った。彼女については「わたし」や緑子の視点で描写されるだけで、内面的なものは
推し量るしかない。働きづめで咳止めシロップに依存し、何かの代償行為のように
豊胸手術にこだわる彼女の「ほんまのこと」。それは私にもわからなかった。
それでも、母の不在に怯え、母を思う緑子の言葉には涙、涙・・・。彼女は声を出さ
ないことで、溢れそうになる思いを必死に抑えていたのだろう。

 才能ある監督の手で映画化されたら、とってもいい作品になるんじゃないかと思
う。では恒例の・・・。

★勝手にキャスティング★

川上未映子



 巻子:寺島しのぶ

 わたし(夏ちゃん):川上未映子

 緑子:オーディションで無名の子役を抜擢希望



 巻子は、寺島しのぶさんにしかできないんじゃないかとさえ思う。もうちょっと
先なら常盤貴子嬢でもいいかも?「わたし」フォトジェニックな著者自身に、
是非演じていただきたい。

『乳と卵』川上未映子・著/文藝春秋・2008)

テーマ:文学・小説 - ジャンル:小説・文学

[2008/03/04 16:58] | 読書 | トラックバック(5) | コメント(6) |
戦争が終わったら~『ヒトラーの贋札』
ヒトラーの贋札


 DIE FALSCHER

 THE COUNTERFEITER


 第二次大戦中、ナチス・ドイツによって行われた、国家による史上最大の大量贋札
偽造事件「ベルンハルト作戦」
強制収容所で贋札作りに従事させられたユダヤ人
たちの苦難と葛藤、その生き様を描く、実話に基づく物語。原作は本作の主要な
登場人物でもあるアドルフ・ブルガー氏による『ヒトラーの贋札 悪魔の工房』
本年度のアカデミー賞外国語映画賞受賞作品(オーストリア代表)。

 オスカー受賞の報に「見逃した!」と地団駄踏んでいたら、ラッキーにもまだ上映
していたので滑り込みセーフ!で鑑賞。受賞も納得の素晴らしい作品だった。

ヒトラーの贋札2

 『シンドラーのリスト』、『ライフ・イズ・ビューティフル』、『戦場のピアニスト』
ナチスのユダヤ人強制収容所を描いた映画は数多く作られてきたけれど、まだ語
られていなかった、そして語られるべきこのような史実があったことに驚く。原作者
であるアドルフ・ブルガー氏は戦後を生き抜き、まだご健在で昨年には来日も果た
したという。
 
 しかし本作の主人公は印刷技師であったブルガーではなく、贋作師のサロモン
・ソロヴィッチ
だ。ドイツに暮らすロシア系ユダヤ人である彼は、ユダヤ教徒である
ことを隠すために「サリー」と名乗っていた。1936年、ベルリンでドル紙幣偽造の
により逮捕され、ユダヤ人強制収容所に送られる。移送先で彼を待っていたの
は、温かい上着と靴、柔らかい清潔なベッドといった驚くべき好待遇。そして、
ポンド紙幣偽造の任務
だった・・・。

ヒトラーの贋札3

 無口で無愛想、孤高な贋作師サリーが徐々に、滅法カッコよく見えてくる。
「命惜しさにへつらいやがって」とナチス隊長は言う、しかし彼の「今日銃殺される
なら、明日ガス室のほうがいい」
というセリフに、私はリアルな生への本能を感じる。
一日でも生き延びる、ただ生き抜く、戦争が終わるまで。そして彼はただ運命に
流されているだけの男ではない。結核に侵された美大の後輩のために将校と取引
して薬を調達し、ドル紙幣の偽造を拒み、仲間を窮地に晒すブルガーをも守ろうと
する。理想主義的でエゴイストにさえ映るブルガーに対し、サリーの現実主義
仲間を救うのだ。ギリギリの、究極の選択が迫られる極限状態の収容所で、彼
人間性を失わずに生き抜いたのではないだろうか。

 戦争は終わった。モンテカルロのカジノで、過去を清算するかのようにドルを使い
果たすサリー。「金がなくなれば、また作ればいい」

「命は一つしかないから大切だ」と言い切っていた彼の、リアリズムとダンディズム
ラストシーンでアルゼンチンタンゴを踊る彼の姿は、哀愁を背負いつつもなの
だった。

『ヒトラーの贋札』監督・脚本:ステファン・ルツォヴィツキー
  主演:カール・マルコヴィクス、アウグスト・ディール/2007・オーストリア、独)

テーマ:この映画がすごい!! - ジャンル:映画

[2008/03/03 09:18] | 映画 | トラックバック(19) | コメント(16) |
詩の魂は蝶の夢を見る~『夜になるまえに』
夜になる前に


 BEFORE NIGHT FALLS


 キューバからアメリカに亡命し、ニューヨークで自由を得ながら47歳の若さで
この世を去った作家、レイナルド・アレナス自伝小説の映画化。極貧の幼少時代
から詩作の才能を現していたレイナルドはキューバ革命を経て、カストロの社会主義
政権下で成長
する。芸術家は「反革命分子」として迫害される国で、同性愛者でも
あったレイナルドは逮捕・投獄される・・・。

 2000年のヴェネチア映画祭に於いて、男優賞審査員グランプリW受賞した
名作。主演はご存知スペインの名優『ノーカントリー』で遂にオスカー・ウィナー
となったハビエル・バルデム。監督は潜水服は蝶の夢を見るジュリアン・シュ
ナーベル


 つい先日、フィデル・カストロキューバ国家評議会議長を退任する旨の声明
を発表した。東西冷戦、ソ連の国家崩壊、アメリカによる経済制裁といった国際
情勢の波にもまれながらも、半世紀に及ぶ社会主義独裁体制を貫いたキューバ
という国。そこで生まれた「詩の魂」は、生きながら葬られることを拒否し、果てし
ない自由を求めた。

夜になる前に3

 キューバ情勢については全く詳しくはないけれど、この映画に描かれているよ
うな迫害「革命」の名の下に行われていたことに、驚きと怒りを憶える。独裁者が
才能ある人間から芸術を奪おうとしても、抑圧されたエネルギーは力を蓄え、更
優れた芸術を生む。

 レイナルドの生き様は、私たちに「芸術は死なない」ことを教えてくれる。作家は
人間の最後の職業だと誰かが言っていたけれど、プライバシーも灯りもない監獄
の中で、ただ紙とペンを持ち、言葉を綴り続けたレイナルドは徹頭徹尾、作家以外
の何者でもない。
たとえ友人の言葉を盗んででも、作家で在り続けようとするその
執念!

夜になる前に2

 この映画では、ジョニー・デップ女装の囚人と同性愛者の軍人という二役で
出演していることでも興味津々だった。ジョニーはどんな役柄でも怜悧な美しさ
を醸し出し、特別な才能とオーラを持った俳優だと改めて感じる。そして私がジョ
ニー以上にその登場に驚喜したのが、レイナルドの初恋(?)の少年カルロス
演じたディエゴ・ルナ!出演しているのは知らなかったので、若き日の彼が観ら
れてうれしかった。

 亡命後のレイナルドの生活は詳細には描かれないが、キューバで暮らしていた
時よりも幸せだったとは決して言い切れないだろう。自由には代償が伴う。病に
倒れたレイナルドが、保険がないことで病院から追い出されるのが何とも切なく
やり切れない。彼を看取ったラサロ・ゴメス・カリレス(オリヴィエ・マルティネス)
が、脚本で本作に参加しているのにもまた感動してしまう。

 政治的な「反カストロ」よりも、「芸術の自由」を訴えるメッセージをより強く感じ
た作品。耐え難い痛み、絶望、闘い、渇望、終焉。片時も芸術への憧れを失わな
かった一つのが、ハビエル・バルデムの名演詩的に描き出された映像により、
見事に甦っている。

『夜になるまえに』監督:ジュリアン・シュナーベル
   主演:ハビエル・バルデム、オリヴィエ・マルティネス/2000・USA)

テーマ:この映画がすごい!! - ジャンル:映画

[2008/03/01 11:08] | DVD/WOWOW | トラックバック(2) | コメント(4) |
| ホーム |
真紅のthinkingdays


いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

Recent Entries

Categories

What's New?

真紅

Author:真紅
Every cloud has a silver lining.

Recent Comments

Recent TrackBacks

Archives

My Favorite

Search this site

RSS

Thank You!