泣きなさい、笑いなさい~『サラエボの花』

GRBAVICA
「私を捨てるんでしょ?」「お前を捨てない、絶対に。何があっても」
疲れた表情で、目を閉じた「眠れる美女」たち。一人の女性にカメラがフォーカス
し、決意したように彼女は目を開く。この物語の主人公、エスマ(ミリャナ・カラノヴィ
ッチ)。ボスニア・ヘルツェゴヴィナの首都サラエボで、一人娘のサラ(ルナ・ミヨヴィ
ッチ)と暮らすシングルマザーだ。
オープニングで、さり気なくゴールデン・ベアのロゴが映し出される。ベルリン映画
祭で金熊賞を受賞した作品だとは知らなかった。そして、こんなにも心を締め付けら
れる作品であることも・・・。監督は、サラエボ出身のヤスミラ・ジェバニッチ。本作が
長編デビューとなる新人、女性、32歳。

90年代、熾烈を極めたバルカンの内戦から十数年。勝気な少女サラは思春期の
入り口に立ち、時折情緒不安定なところのある母エスマとの関係にも、微妙な距離
が生じ始めている。彼女の修学旅行費用、200ユーロ(約32,000円)を捻出する
ために、トラウマを抱えながらナイトクラブで懸命に働くエスマ。
両親を亡くし、医者になる夢も断たれ、幼馴染のサビーナ以外には心を開かず、
愛に背を向けるエスマ。彼女がたった一人でサラを育てたこと自体、奇跡のような
難行だったと思う。身を裂かれるような体験を、彼女は誰にも語らずに生きてきた。
どれほど凄まじい葛藤が、彼女を苛んできたか。「愛憎」という言葉すら、彼女の前
では生易しく響く。内戦は終結しても、彼女にとっては「生き抜くこと」自体が終わり
のない「闘い」であるのだから。
「やっぱり、君も傷ついているね」

サラが欲しかったのは「証明書」-父がシャヒード(殉教者)だという誇り、自らの
「起源」が知りたいという本能的な欲求-だった。真実を知らされたとき、「父と同じ色」
の髪を自ら剃り落とすサラ。娘から母への、精一杯の贖罪に息を呑む。サラを演じた
ルナ・ミヨヴィッチが素晴らしい。伸びやかな肢体に小さな顔、若さが孕む危うさに満
ちた表情。彼女は、自分の出自をサミルに告白しただろう。彼らの恋が、理不尽な
暴力に汚されないことを祈りたい。
これ以上ないほど残酷な物語でありながら、監督の視線は驚くほど静かで抑制され
ている。母娘の痛みに寄り添いながら、所々に小さな希望を灯してもいる。たった一人
で闘っていたエスマに向けられる、工場で働く女たちの善意。彼女たちの中にも、また
別のエスマがいるのかもしれない。エスマを苦しめる辛い記憶は、映像には描かれな
い。しかし映画全体を支配する空気が、暴力への嫌悪と拒絶に満ちている。
オーストリアに出国する同僚のペルダに「誰が遺体の確認をするの」と言い放つ
エスマ。その言葉は、何千体もの死者が眠るこの「グルバヴィッツァ(原題)」で生
きていく、という彼女の決意表明のように響く。グルバヴィッツァに建つ、砲弾で傷
ついた剥き出しのビルのように、エスマもまた傷だらけで立っている。性的な暴力
の標的となる弱い存在でありながら、いや、であるからこそ、この土地にしっかりと
根を張り、生きていくのだ・・・。一人の女性が生活の中に潜ませた計り知れない
痛みを、全身で体現したミリャナ・カラノヴィッチの演技!
不条理すぎる現実に打ちのめされ、これ以上ないほど傷つきながらも、再生に向
かう母と娘。最後の最後で語られたエスマの体験、流された涙、そしてサラの笑顔。
一人でも多くの人に、この映画を観て「何か」を感じて欲しい。監督が「愛についての
映画」だと語る、この小さな母娘の物語を。
((『サラエボの花』監督:ヤスミラ・ジェバニッチ/
主演:ミリャナ・カラノヴィッチ、ルナ・ミヨヴィッチ/2006・
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、オーストリア、独、クロアチア)
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その名にちなんで~『嵐が丘』

WUTHERING HEIGHTS
「命なしには生きられない」
言わずと知れた、エミリ・ブロンテによる世界的名作の映画化。ヒース・レジャー
の本名(Heathcliff Andrew Ledger)、ヒースクリフは、この作品の主人公の
名前から採られたというのは有名な話。原作の何度目かの映画化である本作は
レイフ・ファインズの映画デビュー作でもあり、以前から観たい、観たいと思って
いた。原作を読んだことがないのに粗筋だけは知っているけれど、今、今こそ、
この映画を観なくては・・・。ヒースが誕生したとき、彼の両親は何を願い、その名
を授けたのだろう?
荒涼とした岩の大地に、どんよりと曇った空、吹きすさぶ風。その英国らしい
寒々とした風景とは対照的に見える、ヒースクリフ(レイフ・ファインズ)とキャシー
(ジュリエット・ビノシュ)の、激しく熱い愛。互いの姿を鏡のように求めながらも、
その過剰さゆえにすれ違い、憎み合い、離れてゆく魂。命の限り、いや命が尽き
てもなお、キャシーの愛だけを求め、彷徨うヒースクリフ。その情念の凄まじさ、
滅びにも似た激情・・・。坂本龍一の静かだけれどドラマチックなスコアが、この
物語に似合い過ぎている。
正直、ここまでヒースクリフという人が、常軌を逸していると感じられるほどに
激しい人物だとは思っていなかった。その復讐心は、執念とか怨念と言い換え
ても過言でない気がする。しかし、ある側面から見れば、たった一人の運命の人
を狂おしいほど求め続ける、純粋で不器用な男だと考えられなくもない。リバプ
ールの浮浪児だった少年は、ヨークシャーの荒野で木や鳥と話し、風の歌を聴き、
嵐を呼ぶ。自分の本能が欲するものへと、神も悪魔も畏れることなく、どこまで
もまっしぐらに突き進む。愚直な生き方しかできない男。しかし、その鋭敏過ぎ
る感性は、触れるもの全てを傷つける。生涯でたった一人の、愛する女さえも・・・。

裕福な領主であるリントンとの結婚という「現実」を選択するキャシーも、ヒース
クリフと同じ激しさを持つ。ヒースクリフこそが自分の命であり、魂であると心では
理解しながらも、別離の道を選ぶ彼女の叫び。"I AM Heathcliff!"
この悲劇の物語が、ヒースの人生にもたらしたものは何なのか。今は考えたく
ないし、考えないでおこう。しかし彼自身が演じるヒースクリフを見てみたかった、
と思ってしまうことだけは、許して欲しい。
「魂なしには生きられない」 ・・・合掌。

(『嵐が丘』監督:ピーター・コズミンスキー/1992・UK、USA/
主演:ジュリエット・ビノシュ、レイフ・ファインズ)
心を残して~『シルク』

SILK
軍隊から故郷の村に帰ってきた青年エルヴェ(マイケル・ピット)は、美しい女性
エレーヌ(キーラ・ナイトレイ)と出会い、結婚する。村で製糸工場を営むバルダビュ
ー(アルフレッド・モリーナ)に乞われ、彼は遠い「地の果て」日本へ、蚕の卵の買い
付けに向かう。極東の地でエルヴェを待っていたのは、不思議な木々、不思議な
人々、そしてミステリアスな少女だった・・・。
アレッサンドロ・バリッコの短編小説を、五カ国合作で映像化した大作。主要な
舞台の一つである日本でもロケが行われ、役所公司、中谷美紀らが出演している。
音楽は坂本龍一、切なくも美しい、透明感あふれるピアノの調べが耳に残る。主演
のマイケル・ピットは、無表情に抑制した演技が「不思議な極東の島国」に惹かれ
る無口な青年にマッチしていたと思う。その妻を演じるキーラ・ナイトレイも、輝く
ばかりの美しさ。自立した職業を持ちながら、心ここに在らずの夫を愛し、待ち続
ける薄幸な女性を演じてさすがの存在感。脱いでます!

エルヴェが旅するエジプトやロシアの風景は壮大で、日本の雪景色も幻想的で
すらある。映像美は素晴らしいのだけれど、日本パートでは少々気にかかる部分
もあった。
蚕業者の元締めである原十兵衛(役所公司)の妻(芦名星)は一言もしゃべらず、
謎めいた行動を繰り返す。エルヴェにとって、彼女は「不思議な国」を象徴する「夢の
女」であるのだろうけれど、私には魅力的に映らなかった。エルヴェと床を共にした
女性と区別がつかず、湯煙と共に消え去ったかのように印象が弱い。
1862年というと、明治維新直前の江戸末期。時代風俗だけでなく、その頃の
日本にあったはずの「礼節」を描いて欲しかったと思うのは、欲張りというもの
だろうか? 製作には日本人プロデューサーも名を連ねているが、この映画の
「オリエンタリズム」について聞いてみたいと思った。上辺の美しさだけでは、
何も伝わらない。それは「ミステリアス」ではなく「まやかし」というものに過ぎない
だろう。
そして観ている途中で気付いたのだが、この映画の舞台はフランス、という設定
に驚いた。だって、皆英語をしゃべっているんですから・・・。まぁ、それは便宜上
のことで、フランス語をしゃべっていると思えばよいのかもしれない。信濃の山奥に
住む原十兵衛がいきなり流暢な英語をしゃべり出すことも、気にしないでおけばいい
のかもしれない。

繰り返し日本を訪れる夫が旅立つ時、「いつも愛している」と声に出して言えなく
なるエレーヌが悲しかった。彼女の夫への愛や、百合の花が咲く庭への思いは、
もっと表現されてもよかったのではないだろうか。物語の最後に、私たちは彼女
の秘め事を知ることになる。多くを語らぬ夫や、子を授からない哀しみ。全てを
ただ受け入れるしかなかったエレーヌを思い、涙が溢れてしまった。
原作は散文詩のような短編らしい。それを美しい詩のように映像化した作品と
言えなくもないけれど、なんとなく消化不良感も残ってしまった。夫婦愛にもっと
フォーカスしてくれたら、と思う。ちょっと残念。
(『シルク』監督・脚本:フランソワ・ジラール/主演:マイケル・ピット、
キーラ・ナイトレイ/2007・カナダ、仏、伊、英、日本)
コーヒーの味~『グアテマラの弟』

『わたしのマトカ』に続く、個性派女優・片桐はいりさんの旅エッセイ。『マトカ』で
少し触れられていた「グアテマラに移住した長年音信不通だった弟」さんと、その
家族との交流を綴っている。
正直、二番煎じの感は否めないし、はいりさんの弟さんの仰天面白エピソードに
編集者が喰い付いて出来た本なのではないだろうか、という気がした。しかし、こ
の読後感の違いは、前作で描かれたフィンランドとグアテマラという国に対する、
私自身の温度差のせいなのかもしれないと思う。グアテマラ、と聞いても中米のど
の辺りにある国なのかもわからないし、イメージが湧かないのだ。
しかし、最後の「おやじと珈琲」のエピソードでは思わず涙が・・・。いつか、片桐
さんのお母さまにもグアテマラを訪ねてほしいと思う。
そしてグアテマラはスペイン語圏だ。文中、たくさん登場するスペイン語の中に
「ポコアポコ」という単語を見つけてうれしくなった。いつもお世話になっている、
大好きなブロガーさんを思い出す。少しずつ、少しずつ・・・。
出逢いも別れもあるけれど、少しずつ、少しずつ・・・。
歩いて行こう、上を向いて。

(『グアテマラの弟』片桐はいり・著/幻冬舎・2007)
~まださよならは言いたくない~

昨日は『シルク』の記事をアップしようとした矢先に悲報を目にし、何も書けない
状態のままヒースのフォトだけアップしてしまいました。
たくさんのアクセスやコメントをいただき、ありがとうございました。表現しようの
ない悲しみというのも、この世にはあるのですね。その気持ちを共有して下さった
皆さまに、深く感謝したいと思います。一日たって、悲しみが癒えるわけでもあり
ませんが、自分の気持ちを整理するため、少しだけ彼について書かせて下さい。
ヒースのことは大好きでした。今、彼のフォトを眺めてみても、「こんなカッコイイ
人が、この世にいるんだなぁ・・」なんて、思います。出演作品全てを観ているわけで
はありませんが、その稀有なルックス以上に、繊細で確かな演技力を持った俳優
さんだったと思います。
今年は彼の出演作品が2本、公開待機中です。『ザ・ダークナイト』『アイム・ノット・
ゼア』。特に『ザ・ダークナイト』の前評判は上々で、ひょとしたら、ヒースはジョーカー
役で来年のオスカーに絡むんじゃないかな? なんて勝手な想像をしていたんです。
彼の映画が待ち遠しいのに、彼はもうこの世にいない・・・。今私が生きているのが、
ヒースのいない世界だなんて・・・。その現実を受け入れることは、なかなかできそう
にないです。まだ、彼にさよならは言いたくないのです・・・!
俳優という職業は、虚構の世界でいかに「生」を輝かせられるか、なんだと思いま
す。だから、実人生と役柄の自分にうまく折り合いがつけられなくなると、どうしても
薬に頼ってしまうことになるのでしょうか。
ヒース、眠れなくて辛かったのかな。そんな時、夜明けまで長電話に付き合って
くれるような人、いなかったのかな? どんなにボロボロになっても、長い間休業
しても、ただ、ただ生きていて欲しかった。でも、もうそれを言うのは酷ですね。。
彼はあまりにも疲れていたのだろうから。今はもう苦しくないよね?
もう少し時間が経ったら、ヒースの出演作品を観てみたいと思います。いつもの
ように映画館に行って、DVDを観て、感動したり眠くなったりしながら、少しずつ・・・。
彼の不在に慣れてゆくのだと思います。彼のいない世界に。
偉大な俳優であり、素晴らしい人だった「ヒース・レジャー」のご冥福をお祈りします。
イニスを生きてくれて、ありがとう。

血まみれジョニー~『スウィーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師』

SWEENEY TODD:
THE DEMON BARBER
OF FLEET STREET
ロンドン・フリート街の理髪師ベンジャミン・バーカー(ジョニー・デップ)は、悪徳判事
タービン(アラン・リックマン)に無実の罪を着せられ、美しい妻と愛する娘を奪われる。
15年後、街に戻ってきた彼は「スウィーニー・トッド」と名を変え、ロンドン一まずいミート
・パイ屋を営むミセス・ラベット(ヘレナ・ボナム=カーター)の手を借り、タービンへの
復讐を模索する・・・。
鬼才ティム・バートンとマスター・ジョニー・デップが6度目のタッグを組み、スティー
ヴン・ソンドハイムのブロードウェイ・ミュージカルを映像化。ジョニーが初の歌声を披露
していることでも話題の本作は、ゴールデングローブ賞の作品賞と主演男優賞(コメディ
/ミュージカル部門)をW受賞している。ティム・バートンの映画なのにR-15に指定さ
れているだけあって、予想以上に血まみれなゴシック・ホラー。「恐怖」というよりは強烈
な「胸のざわつき」を感じさせられた二時間。しかし、監督の美意識と世界観を貫いた
演出、それに応える俳優陣の演技と歌唱、衣装や美術は文句なく一級品。

大ヒットミュージカルの映像化だけあって、どの歌曲もハモリや掛け合いも含めて
素晴らしい。人前で歌うのは初めてだというのが信じられないほどに、情感こもった
歌声のジョニーをはじめ、ヘレナもアラン・リックマンも、皆見事な歌声を響かせて
くれる。ジョニーの声って癖がない中音階だから、高音がきれいなヘレナとも、低音
が渋いアランとも歌声がマッチするんだな、と思った。
ダークで色彩のない、ロンドンの街やスウィーニーの仕事部屋。それらは彼の荒れ
果てた哀しい心象を映し出しているのだろう。妻や娘と共にいたときの柔らかな光や、
ミセス・ラベットが語る夢の場面の天然色とは全く対照的。煙突から吐き出される黒
い煙は、彼のやり場のない怒りのようだ。そしてそこに「これでもか!」とばかりに弾け
飛ばされる鮮血。深紅だけれど「消防車の赤」に近い、ペンキのような色合いの血。
それが少しだけ、猟奇的な印象を薄めているようにも感じられる。それにしても、残酷
で悲惨な狂気の復讐劇であることに変わりはないのだけれど・・・。

スウィーニーの心の中で、妻と娘を失った悲しみよりもタービンに対する憎悪が
肥大し、彼を復讐へと駆り立てる。ミセス・ラベットの献身と愛にも応えられず、妻
の顔を忘れ、娘のことも気付くことができない孤独なスウィーニーの姿が哀しい。
復讐を遂げたことで、彼は一体何を得たのだろう・・・。
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しかし、今更ながらジョニー・デップの人気は凄いですね。小学生でもその名前
を知ってるハリウッドスターって、彼くらいじゃないかな? 今や「カッコイイ人」の
代名詞が「ジョニー・デップ」ですから。R指定の映画がシネコンで2スクリーン上映
されるというのは、彼のネームバリュー、集客力がそれだけ偉大だってことだと思い
ます。
私にとっても、ジョニーはずっと好きな俳優さん。しかしここまでメインストリームな
役者になるとは正直思っていませんでした。永遠の「オルタナ・キング」でいてくれる
のかな、と思っていたのだけれど。。それだけ彼にとって「ジャック・スパロウ」は当り
役だった、ということなのでしょうね。
この映画の撮影中に、娘のリリー・ローズちゃんが入院して撮影が中断しましたよ
ね。彼が今、こうして役者として大成しつつあるのは私生活の安定も大きな要因だと
思うのです。だから、もしジョニーが彼女を失うようなことがあったらどうしよう!と、
私もこんな東洋の片隅で本気で心配していました。紆余曲折はありながらも、この
素晴らしい映画が完成したことを、一ファンとして改めて喜びたいと思います。
ジョニー、監督、おめでとう! 次のタッグも期待していますよ。
(『スウィーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師』監督:ティム・バートン/
主演:ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター/2007・USA、UK)
テーマ : スウィーニー・トッド
ジャンル : 映画
何曲唄えますか?~『村上ソングズ』

村上春樹が、その膨大なレコード・CDコレクションから選び抜いた名曲を訳し、
曲にまつわるエッセイと和田誠のイラストを付加した贅沢な一冊。訳詞、原詞、
エッセイの順で数十曲が並び、最後の2曲は和田誠の訳・エッセイ。村上春樹好き
な方はもちろん、音楽好きな方にはたまらない一冊では? 和田誠のイラストも、
いつもながらほのぼのと素敵。
一曲目はザ・ビーチ・ボーイズ(と言うよりブライアン・ウィルソン)の『GOD ONLY
KNOWS』。これを「神さましか知らない」と訳しているから驚いた。「神のみぞ知る」
では詞として固すぎるということなのだろう。
この本で紹介されているアルバムの中で、私が持っているのはこの曲が入って
いる『ペット・サウンズ』のみ。確かに『GOD ONLY KNOWS』は村上氏が言う
ように「何度聴き返しても深い滋養に富んだ」「完璧な音楽」だと思う。もっと言え
ば、『ペット・サウンズ』というアルバム自体がそうなんじゃないかな。
そしてこの曲が使用されている印象的な映画として、イザベル・コイシェの
『死ぬまでにしたい10のこと』が挙げられている。映画を観ていて『GOD ONLY
KNOWS』が流れてくると、間違いなくその映画の評価は2割増しになるような気
がする(私の場合)。『ラブ・アクチュアリー』しかり、『ブギーナイツ』しかり。
『ラブ・アクチュアリー』の中でエマ・トンプソンを号泣させた、ジョニ・ミッチェル
のアルバム『Both Sides Now』も紹介されています。

他の曲の中にも『M★A★S★H』から『キル・ビル』まで、映画の主題歌曲や
挿入曲が数多く取り上げられていて、シネフィルの村上さんと映画監督でもある
和田さんらしいチョイスになっている。音楽好きな方、村上春樹好きな方、そし
て映画好きな方みなさんが楽しめる本だと思う。シリーズ化して欲しいな、なん
て思いました。
(『村上ソングズ』村上春樹・著/中央公論新社・2007)
美しい、全てが。~『アース』

EARTH
英国BBC製作のネイチャー・ドキュメンタリー。北極から南極まで、地球の「瞬間
(いま)」を最新の映像技術で捕らえた必見の作品。ホッキョクグマの親子、トナカイ
の大移動、世界に40頭しか確認されていないアムールヒョウなど、希少な野性動物
と見たこともないような雄大な自然がそこにある。美しい、全てが・・・。自分の住ん
でいる地球、この星がこんなにも美しいなんて、今まで知らなかった。
映画のスタンスとしては、昨秋公開された『北極のナヌー』と非常に近い。北極で生
きるホッキョクグマの子「ナヌー」とセイウチの子「シーラ」を主人公に、ドキュメンタリー
でありながらドラマ仕立てで消え行く北極の氷に警鐘を鳴らした『ナヌー』に対し、本作
はあくまでドキュメンタリーという立ち位置。地球温暖化防止へのメッセージは最小限
に止め、「ありのまま」の自然と動物を見せることに徹している。
「子どもワンコインキャンペーン」が功を奏してか、子連れの観客もチラホラ。『ナヌー』
はガラガラだったが、老若男女でいっぱいの劇場で鑑賞。こういう作品が幅広い層
に受け入れられるのは、素晴らしく有意義なことだと思う。

見たこともないような動物たちのオンパレードに心は浮き立つ。中でも一番印象的
だったのは、熱帯雨林の極楽鳥たち。ユーモア溢れる姿形で求愛のダンスを踊る様
は、まるで宮崎アニメに出てくる想像上の生き物を観ているようだ。
もちろん、楽しい映像ばかりではない。オオカミに捕獲されるトナカイの子や、砂漠
で群れにはぐれた子象。チータの容赦ない狩り。闇夜、巨象に襲い掛かるライオンた
ち、餓死寸前で狩りに失敗し、倒れるホッキョクグマ・・・。美しいだけではなく、弱肉
強食の厳しい野性の法則がそこにある。

50万年前、地球に巨大隕石が衝突した衝撃により地軸が23.5度傾き、四季が
生まれたという。太陽の恵みによる発芽や紅葉、山桜の開花。そして神秘的なオー
ロラ。一度はこの目で見てみたいと願いつつ、叶えられないままの風景が大きな
スクリーンに映し出されていることへの、驚きと感動、そして感謝の念。
NHKへの謝辞をエンドロールに見つけ、日本人としてうれしい気持ちになる。
渡辺謙のナレーションも違和感なく、地球の旅を共にできた。ベルリン・フィル
による壮大な音楽もまた、この美しい自然への讃歌にふさわしい。
スクリーンを眺めながら、誰もがきっと同じ思いに駆られるだろう。この星を
守りたい、と。
(『アース』監督・脚本:アラステア・フォザーギル、マーク・リンフィールド/
日本版ナレーション:渡辺謙/2007・英、独)
5人の愛すべき男たち~『キサラギ』

2007年2月4日、D級グラビアアイドル・如月ミキが焼身自殺を遂げてから一年。
彼女のファンサイトの管理人・家元(小栗旬)の呼びかけにより、サイト掲示板の
常連である5人のファンが集まってくる。オダ・ユージ(ユースケ・サンタマリア)、
スネーク(小出恵介)、安男(塚地武雅・ドランクドラゴン)、イチゴ娘(香川照之)。
ミキの思い出を語り合うはずの場は、「彼女は殺された」というオダ・ユージの一言
で一変する。彼女の死の真相は? 彼女は本当に自殺したのか、それとも・・・。
2007年、最も観逃して後悔している作品。DVDで鑑賞した今、その思いはます
ます大きくなってしまった。映画というより、舞台を観ているような感覚。これは、
「大きなスクリーンで観たかった」というよりも、「劇場で、ライブみたいに観客
みんなと大笑いしながら観たかった」作品だと思う。遅れ馳せながら、2007年・
真紅デミー賞、アンサンブル演技賞受賞作です!文句なし。
もう語り尽くされている事だろうけれど、脚本が秀逸だと思う。テーマや状況
設定の是非はともかく、二転、三転どころか物語は回転し続け、ラストのワンカ
ットまで伏線とその収束が続いていく。5人それぞれのキャラクターもしっかり
立って、それぞれに笑えて泣ける(?)物語が用意されている。誰か一人でも突出
したり、埋没したりということがない、見事なアンサンブル。実は観る前は、日本
を代表する演技巧者・香川照之の存在感が圧倒的で、カリスマ的怪演で彼が画面
を支配しているのでは・・・、と思っていた。もちろん彼は「巧い!」としか言いよう
のない演技を見せてくれてはいる。しかし、他のキャストの演技を薄めたり、全体
のバランスを崩すような過剰な演技は全くしていないのだ。それでいて存在感も
インパクトももちろんピカ一。香川さんありがとう!!
正直、この映画の予告は何回も劇場で観たし、評判も聞こえてきていた。でも
あの頃の私は「主演、小栗旬? 誰ソレ?」くらいの大馬鹿モノだったのです(懺悔)。
沢木耕太郎氏の映画評を読んだ後ですら、劇場に足を運ばなかった。大反省。。
ちょっと苦手だったユースケ・サンタマリアの「味わい」もわかったし、塚地武雅の
お得なキャラも、小出恵介のチャラ男ぶりもよかった。そして小栗旬くん・・・。
「映画スター・小栗旬」は『クローズ ZERO』ではなく、この作品で誕生していたの
かもしれない・・・。劇場では観逃してしまったけれど、今こうして「小栗くん大好き」
目線で観られたことだけはよかったと思う。
この映画、映画ブロガーのみなさんやネット上では非常に評判がいいし、口コミ
で大ヒットしたらしい。にも関わらず、キネ旬ベストや映画賞関係には全くカスリ
もしていない。実はこの作品、「映画」としての出来はそんなによくないですよ、とい
うことなのだろうか? いやいや、映画論や映画批評なんかはこの際無視しよう。
「面白かった!」「めっちゃ笑った!」っていう「映画を心で観る(@映画篇)」人々に
この映画が熱く支持されたことのほうが、名だたる映画賞より大事な気がする。

最後に、愛すべき5人の決め(?)セリフを。うろ覚えですが。。
家元 「虫ケラだ・・・」
スネーク「俺スネーク、ミキちゃんを愛する気持ちだけは誰にも負けねぇ!」
イチゴ娘「そもそもジョニー・デップを斜め後ろ45度から見たことがない」
安男 「やっくんです」
オダ・ユージ「事件は現場で起こってるんだ!」(やっぱ憧れてんじゃん!)
ねぇ、続編やりませんか? スタッフ・キャストの皆さん!
(『キサラギ』監督:佐藤祐市/原作・脚本:古沢良太/2007・日本/
主演:小栗旬、ユースケ・サンタマリア、小出恵介、塚地武雅、香川照之)
英雄になれなかった男~『ジェシー・ジェームズの暗殺』

THE ASSASSINATION
OF JESSE JAMES
BY THE COWARD ROBERT FORD
19世紀後半、南北戦争に敗れ意気消沈するアメリカ南部。そこに悪の仲間を率い、
列車強盗や殺人を犯しながらも、人々に英雄として祭り上げられていた伝説的人物
がいた。その名はジェシー・ジェームズ(ブラッド・ピット)。彼に憧れてその仲間と
なりながらも、疑心暗鬼の中で暗殺者とならざるを得なかったロバート(ボブ)・フォ
ード(ケイシー・アフレック)の物語。
ブラッド・ピットが興した製作会社・プランBによる作品で、プロデューサーには
ブラピをはじめ、リドリー・スコット、トニー・スコットらの名前も上がっている。
ミズーリ州に実家のあるブラピにとって、ジェシー・ジェームズは思い入れのある
人物だったのだろうか、その狂気を秘めた演技はヴェネチア映画祭にて男優賞を
受賞している。そして彼以上にキャリアのブレークスルーになったのがケイシー・
アフレック。幼い頃からの自らの英雄に近付きながらも死の恐怖と猜疑心に苛まれ、
次第に精神のバランスを失っていく「臆病者」を見事に演じ切っている。
最近、プロデュース業と社会的活動に忙しく、よき家庭人としてのイメージが
すっかり定着した感のあるブラピだけれど、その美貌と演技力を再確認。ケイシ
ーも「その他オーシャン」からすっかり脱皮したようだ。

物語は前半、ジェシーとその仲間たちの生態をじっくりと描写する。ナレーション
に導かれながら、開拓時代の面影を残す南部の風景に眠気を憶えてしまうほどに
スローな展開。それでいて、ジェシーが何故悪行を繰り返すのか、人々が何故彼を
英雄視したのかは描かれないため、誰にも感情移入できないまま、物語が進んで
いくことになる。
ジェシーと手を組みながら袂を分かつ兄フランクを、もったいなくも(!)サム・
シェパードが演じている。その貌に刻まれた年輪はますます深く厳しく、登場後も
一瞬、彼だと確信が持てなかったほど。しかし、しゃべりだすとすぐわかったのだ
が。。あの独特のハスキーヴォイスは健在。
ジェシーの一味は一人欠け、二人欠け、最後まで彼と行動を共にしたのはボブと、
その兄チャーリー(サム・ロックウェル、徳永英明に見えて困った)。眠るときでさえ
銃を握り締めるジェシーは、疲れ果てていたように見える。自分への憧れや畏怖の
念を隠さない若いボブに対し、彼になら殺されてもいい、という諦観のようなものさえ
感じさせる。荒涼とした南部の風景に、暗い運命を感じさせる雲の動き。物悲しい
音楽も印象的な、重い、重い作品だった。

(『ジェシー・ジェームズの暗殺』監督・脚本:アンドリュー・ドミニク/
主演:ブラッド・ピット、ケイシー・アフレック/2007・USA)
愛と死~『アフター・ウェディング』

EFTER BRYLLUPPET
インドでストリート・チルドレンの救援活動に携わるヤコブ(マッツ・ミケルセン)の
元に、故郷デンマークの富豪ヨルゲン(ロルフ・ラッセゴード)から資金援助が打診
される。但し、ヤコブがコペンハーゲンまで来て交渉することが援助の条件だとい
う。20年ぶりに帰国したヤコブはヨルゲンと会うが、話し合いもそこそこに週末行わ
れるヨルゲンの愛娘アナ(スティーネ・フィッシャー・クリステンセン)の結婚式に
招待される。アフター・ウェディング、結婚式の後に、ヤコブを待ち受けていたもの
とは?
『ある愛の風景』に続いてスザンネ・ビア監督作品を鑑賞。その前にDVDで観た『しあ
わせな孤独』と、どの作品も例外なく家族について、彼らを巡る一筋縄ではいかない
愛についての物語である。

20年間音信不通であっても、ヤコブは元恋人のヘレネ(シセ・バベット・クヌッセン)
の指の感触を、片時も忘れたことはなかったのだろう。偶然にしては、出来過ぎて
いる・・・。ヨルゲンは知っているのか? 彼は一体、何が目的なのか。混乱する
ヤコブに対し、私たちは物語のからくりにうっすらと気付きながらも、この複雑な
人間関係の落とし所を探ろうとする。
若い頃にはわからなかったけれど、10年、20年なんて過ぎてしまえば実感として
はあっという間だ。身を置く環境や状況、肩書きは変わっても、心の中のある部分
は全く変わらないままに月日は過ぎて行く。
20年間、よき夫、よき父であり続けたヨルゲンにも、心の葛藤はあっただろう。
命の期限を知ったとき、最愛の家族に最善の道を残すことができた彼は、幸せだ
ったんじゃないだろうか。対して20年間追憶の中で生きていたヤコブは、20年分
の葛藤を一気に背負うことになる。
ヨルゲンは知っていたのだろう。アナの結婚が遠からず破綻するであろうことも、
ヘレネがヤコブに思いを残していることも。幼い息子たちのジッパーを、ヤコブが
上手に直してやれることも。
「家族」とは、「血」で繋がった人間だけで作られるものではない。自分の為だけでな
く、相手のために生きようという思いが芽生えたとき、初めて人は家族を手にする。
死は終わりではない、死は全てを奪うわけでもない。愛は必ず、与えた相手の心に
残るものだ。
「何故言ってくれないの?」アナが父ヨルゲンの秘密を知ったとき、何も言わずに去ろ
うとした父にこう言う。『ある愛の風景』でも、サラはミカエルに話して欲しいと言う。
生きたくても生きられない者、苦しみを抱えて生き続けなければならない者。ここ
にも人生の矛盾があり、支える家族がいる。

(『アフター・ウェディング』監督・原案:スザンネ・ビア/
主演:マッツ・ミケルセン、ロルフ・ラッセゴード、シセ・バベット・クヌッセン
/2006・デンマーク、スウェーデン)
久々バトン~イメージバトン
久々に、バトン記事です。いつもお世話になっております「虎猫の気まぐれシネマ」
のななさまより、初めてのバトンを受け取りました。ななさま、いつもありがとうござい
ます!
今回のお題は「イメージバトン」。以下の項目について「ピピーンときたイメージ」
で答えるそうです。はい、あまり深く考えず、最初に浮かんだ「イメージ」で答えたい
と思います。それではスタート!
1.恋人

情熱大陸での名言「恋がしてぇ~」
まだ恋人募集中ですか?
早く「家元」に会わなくちゃ!
2.お母さん
最近母と交わした会話で一番印象的だったもの。
私: 「昨年読んだ小説ではね、『犬身』が面白かったよ。「犬」の「身」」
母: 「ああ~、家族の中でお父さんだけ犬ってやつ?」
・・・、お母さん、それは「ソフトバンクケータイ」ですよ・・・(脱力)。
ウチの母ってホント天然なんです。。
3.お姉さん

ジェイク~、結婚は慎重になさいヨ!
4.弟

は、はい。わかりました・・・。
5.ペット
『僕はペット』ってドラマがありましたね。観てないけど・・。
6.師匠

紅白の司会、よかったと思いますよ~。
7.非常食

絶対バッグに入っている、私の必需品。
お腹が空いても舐めます。
8.デザート

私の憧れの「デザート」だった
チョコレートファウンテン。
昨秋、念願叶って某ホテルのビュッフェで
いただいたのですが・・・。
感想:「屋台のチョコバナナの味」(爆)
9.桃
桃といえばピンク、ピンクといえばこの映画

PINK FLAMINGOS
『ヘアスプレー』のオリジナルを探していて目についたんです。観るべきでしょうか?
10.萌
石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも
以上です!あまり考えずサクサクとイメージで答えたつもりです。ななさま、こんな
感じでよろしいでしょうか? ありがとうございました。
さて、次に回す方ですが・・・。
「悠雅的生活」の悠雅さま
「Maria」のMariaさま
にお願いしたいと思います!もちろんスルーしていただいても結構です♪ どうぞ
よろしくお願いいたします。
--------> コピペ用 <-----------
1.恋人 6.師匠
2.お母さん 7.非常食
3.お姉さん(またはお兄さん) 8.デザート
4.妹(または弟) 9.桃
5.ペット 10.萌
---------------------------
のななさまより、初めてのバトンを受け取りました。ななさま、いつもありがとうござい
ます!
今回のお題は「イメージバトン」。以下の項目について「ピピーンときたイメージ」
で答えるそうです。はい、あまり深く考えず、最初に浮かんだ「イメージ」で答えたい
と思います。それではスタート!
1.恋人

情熱大陸での名言「恋がしてぇ~」
まだ恋人募集中ですか?
早く「家元」に会わなくちゃ!
2.お母さん
最近母と交わした会話で一番印象的だったもの。
私: 「昨年読んだ小説ではね、『犬身』が面白かったよ。「犬」の「身」」
母: 「ああ~、家族の中でお父さんだけ犬ってやつ?」
・・・、お母さん、それは「ソフトバンクケータイ」ですよ・・・(脱力)。
ウチの母ってホント天然なんです。。
3.お姉さん

ジェイク~、結婚は慎重になさいヨ!
4.弟

は、はい。わかりました・・・。
5.ペット
『僕はペット』ってドラマがありましたね。観てないけど・・。
6.師匠

紅白の司会、よかったと思いますよ~。
7.非常食

絶対バッグに入っている、私の必需品。
お腹が空いても舐めます。
8.デザート

私の憧れの「デザート」だった
チョコレートファウンテン。
昨秋、念願叶って某ホテルのビュッフェで
いただいたのですが・・・。
感想:「屋台のチョコバナナの味」(爆)
9.桃
桃といえばピンク、ピンクといえばこの映画

PINK FLAMINGOS
『ヘアスプレー』のオリジナルを探していて目についたんです。観るべきでしょうか?
10.萌
石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも
以上です!あまり考えずサクサクとイメージで答えたつもりです。ななさま、こんな
感じでよろしいでしょうか? ありがとうございました。
さて、次に回す方ですが・・・。
「悠雅的生活」の悠雅さま
「Maria」のMariaさま
にお願いしたいと思います!もちろんスルーしていただいても結構です♪ どうぞ
よろしくお願いいたします。
--------> コピペ用 <-----------
1.恋人 6.師匠
2.お母さん 7.非常食
3.お姉さん(またはお兄さん) 8.デザート
4.妹(または弟) 9.桃
5.ペット 10.萌
---------------------------
うちへ帰ろう~『ある愛の風景』

BRODRE
「人生はいつだって矛盾に満ちている。けれど、この愛は変わらない」
職業軍人のミカエル(ウルリク・トムセン)は美しい妻サラ(コニー・ニールセン)
と二人の娘に恵まれ、幸せな日々を送っていた。服役していた弟のヤニック(ニコ
ライ・リー・コス)が出所した日、ミカエルはアフガニスタンへと派遣される。
ヘリが撃墜されミカエルは捕虜となるが、サラはミカエルが死亡したと知らされ
る・・・。
『しあわせな孤独』のスザンネ・ビアによる2004年の作品。ドグマ映画ではないが、
限りなく自然光に近い照明で撮影された映像が荒々しくもリアル。ハリウッドでも
ジム・シェリダン監督、デイヴィッド・ベニオフ脚本、トビー・マグワイア、ジェイク・
ジレンホール、ナタリー・ポートマン主演によるリメイクが製作中の注目作。

兄弟二人、賢兄愚弟、豹変する兄、刑務所。どこか『ゆれる』に似ている話だなと
感じながら観入っていると、エンドロールとともに「WHEN I'M COMING HOME」
という歌声が流れて更に驚いた。憶えていますか、「テクテクテクと、うちに帰ろう・・」
という歌詞。しかも両作とも女性監督であり、こんな偶然の一致ってあるのだな、と
感心してしまった。
『硫黄島からの手紙』でも、栗林中将が自宅の「お勝手」の不具合を案じていたけれど、
ミカエルも派兵前、キッチンのリフォームを気にかけている。彼らにとって台所とは
愛する妻を象徴する場所なのだろうか。正気を失ったミカエルが破壊するところもま
た、そのキッチンだ。
矛盾。確かに人生は矛盾に満ちている。サラの元に帰るために犯した罪がミカエル
を壊し、彼女と家族から一番遠いところに心を吹き飛ばしてしまう。「皆殺しだ!」と
言われたサラや、幼い娘たちの心の傷を思う。そして、ミカエルの心の傷も。疎まれ
ていたはずの弟が家族の中心にいて、妻や娘たちと笑い合う風景。ミカエルは妻と弟
の仲を疑ったのではなく、自分の居場所が誰かに取って代わられたことが虚しかった
のかもしれない。命懸けで守ろうとした場所なのに・・・。
ヤニックもサラも、お互いに惹かれ合っていたのだろう。それでもギリギリで、真
っ赤なバスルームの扉の前で踏み止まったのは、兄への、夫への愛なのか。そんな
二人の微妙な心の揺れを、しっかり見抜いている娘のナタリー。その幼い心の揺れも
また、痛ましい。
何があったか、サラは話して欲しいと言う。話さなければ永遠に会わないと。しか
し極限状態で生きるか死ぬか(殺すか殺されるか)を選択させられたミカエルにとって、
自分のしたことを愛する妻に告白すること、それがどんなに残酷なことか・・・。
しかし、ミカエルが打ち明けなければ二人は決して向き合うことも、再び愛し合うこ
とも出来ないという矛盾。一度破壊された家族の絆を再生させるために、ミカエルは
ありのままの姿をサラに晒すしか術がない・・・。
「愛している。何があろうと」
これはミカエルのセリフだけれど、サラもきっとそう言うだろう。葬儀に普段着で
臨んだ彼女は、とても柔軟な考え方をする女性だと思う。彼女なら、きっとミカエル
を受け入れられると信じたい。

ミカエルを演じたウルリク・トムセンはロビン・ウィリアムズに似ているが、その痛ま
しいが決して過剰でない演技は素晴らしかった。コニー・ニールセンはキム・ベイシン
ガーやモデルのSHIHOのような美しい人。彼らを若いトビーやナタリーが演じるとは、
リメイクはまるで違う色合いの物語になりそうな気がする(弟役のジェイクはまだしも)。
もう少し上の年代、いっそロビン・ウィリアムズが演じてくれたらよかったのに。
とは言いつつ、物凄く期待しています。
(『ある愛の風景』監督・原案:スザンネ・ビア/2004・デンマーク/
主演:コニー・ニールセン、ウルリク・トムセン、ニコライ・リー・コス)
奇妙な冷淡さ~『テレビの中で光るもの』

銀色夏生のテレビ批評+似顔絵の本。『つれづれノート』の中に時折書かれてい
たテレビ批評が面白かったので、つれづれが終わってしまった今、それがまとめて
読めると喜んで手にとってみた。
テレビ批評といえば、やはり故・ナンシー関さんが第一人者だったし、視点や
語り口が独特で鋭く、とっても面白かったと思う。銀色さんも確かナンシーさん
の書くものは好きと言っていたように思うから、ナンシーさん亡き後、彼女の本
が読めない代わりに自分で似たような本を出したくなったのだろうか。小栗旬く
んのことを「今、いまいましい顔をさせたら、鼻持ちならない男を演じさせたら
ナンバー1の小栗旬」だって。プププ。
全体的にそこそこ面白いけれど、途中で挿入されるコラムは要らないと思った。
銀色さんは今子育て真っ最中だから、人生や生きていく上での姿勢みたいなこと
に関心が向いているのかな? 最初はうんうんと頷きながら読んでいたのに説教
調の文章に食傷してしまい、最後のほうのコラムは斜め読み。でも、この構成っ
て著者と言うよりは編集者の責任のような気もする・・・。似顔絵は見ようによって
は「ヘタウマ」だけど、絵の横に名前が書いてなかったら誰だかわからないものが
多数(笑)。松坂慶子だけは巧いと思った。
タイトルにした「奇妙な冷淡さ」というのは、中居くんを評しての銀色さんの褒め
言葉。そしてそれはかつての銀色さん自身の魅力でもあったと思う。だから、あと
がきで「テレビの中で光る人たち」に謝る必要はなかったんじゃないかな。
(『テレビの中で光るもの』銀色夏生・著/幻冬舎・2007)
奏で、歌い、生きる~『僕のスウィング』

SWING
夏休み。そばかす顔の少年マックス(オスカー・コップ)は、祖母の家に預けられ
ている。ある日、バーでミラルド(チャヴォロ・シュミット)が奏でるギターを聴い
たマックスは、彼に弟子入りを志願。川向こうのジプシー居住区で、スウィング
(ルー・レッシュ)という名の少女に出逢う・・・。
思春期の入り口に立つ少年が、ギター(音楽)を通じて異文化と出会い、初めての
恋と別れを経験するひと夏の物語、というのがこの作品の一つの側面。祖母の家
に預けられた少年が、男勝りの女の子と出逢う夏の物語、という部分はラッセ・
ハルストレムの佳作『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』を思い出させるが、そこは
トニー・ガトリフ。もう一人の主人公、ギター弾きのミラルドを中心としたジプシー
(ロマ)音楽が全編に響き、アラブ、ユダヤ、ロマという少数民族の音楽による
融合と、疎外の歴史にも触れた意欲作でもある。
本作で奏でられる音楽は、正確にはジプシー音楽とスウィング・ジャズが融合し
た「マヌーシュ・スウィング」「マヌーシュ・ジャズ」と呼ばれるジャンルのものらしい。
マックスのギターの師、ミラルドを演じるチャヴォロ・シュミットは、マヌーシュ・
ジャズ・ギタリストの名手。劇中、幾度も挿入される彼のライヴ場面は圧巻。魂が
はじけ、歓びが爆発する唄とリズム。彼らにとって生きること=音楽であり、その
旋律に心動かされずにはいられない。

トニー・ガトリフの作品を観始めてまだ4作目だけれど、それぞれの作品は有機
的に結びついているような気がする。この作品も、子どもの目線で自然を美しく、
瑞々しく捉えた場面は『モンド』と似ているし、パーティでのライヴ場面は『ベンゴ』
『トランシルヴァニア』。ミラルドの最期はやはり『ベンゴ』のカコを思い出させる。
特に、少年が眠り「夢」の中で語られる幻想的な物語が『モンド』と共通していること
が一際強い印象を残す。本作では更に踏み込んで、魂の跳躍(幽体離脱)と死との
相似を描いて感動的だ。
トレーラーハウスに住み、福祉局への手紙も読み書きできない彼らの生活。一日
中椅子に座って外を眺めているチェーンスモーカーのおばあさんが語る、ナチスに
よる迫害、虐殺。音楽と自然を美しく描くだけでなく、ロマ民族の直面する現実や
歴史の暗部にもさり気なく踏み込んでいるところにも注目すべきだろう。
そしてやはり、黒い大きな瞳を持つスウィングが素晴らしく魅力的。鈴を鳴らし
たように弾ける子どもたちの笑い声も、ギターの音色と同じくらい耳に残る。それ
が地上で最も美しい音楽であることを、トニー・ガトリフが知っているかのようだ。
かけがえのない、子ども時代の夏の日々。それらがまぶしいほど輝いているから
こそ、断ち切られるようなラスト・シーンがまた、痛ましい。

(『僕のスウィング』監督・脚本・音楽:トニー・ガトリフ/2002・仏、日本/
主演:チャヴォロ・シュミット、オスカー・コップ、ルー・レッシュ)
行動力と好奇心~『わたしのマトカ』

個性派女優・片桐はいりによる初めてのエッセイ。映画『かもめ食堂』のロケで
訪れたフィンランドでの一ヶ月余りの旅の記憶が、ユーモア溢れる文体で活き活
きと描き出される。『かもめ』が好きだった方、旅好きの方には是非読んでいただ
きたい、オススメの一冊。ブックデザインもとっても素敵。ちなみに「マトカ」とは
フィン語で「旅」の意味だそうだ。
旅って、本当はこういうものだよなぁ・・、としみじみ思いながら読んだ。基本
は一人で、現地で知り合った人々と交流し、現地の食べ物・飲み物をいただく。
道に迷ったり、あわや・・という怖い目に遭うのも旅の醍醐味。私は「生まれ変わっ
たら男に生まれて、世界を放浪してみたい」なんて思っていたのだけれど、それは
勇気のない自分に言い訳してるだけなんだな、と反省する。行動力と好奇心を持
てば、男だろうと女だろうと、言葉が通じようと通じまいと、異国も旅もきっと
受け入れてくれるのだろう、片桐さんが乗ったバスの運転手さんのように。
彼女は自分のことを「大して過去のない女」なんて自嘲するけれど、この旅の経験
は何ものにも変えがたい、誇ってもいい「過去」なんじゃないだろうか。
フィンランドという国は、ムーミンとアキ・カウリスマキの映画の世界でしか
知らない。カウリスマキの映画では、なんでこんなに皆が無表情なんだろう(そこ
が面白いんだけど)と思っていたけれど、フィンランドの人々は本当に皆が素で
照れ屋さんで、おとなしくて無口で内気なんだそうだ。
私もいつか、フィンランドに行ってみたい。無口で内気な、アルコールが入る
と人が変わったように能弁になる、不思議な人たちに会ってみたい・・。
それまでは、カウリスマキの映画を観て夢を膨らませることにしよう。
(『わたしのマトカ』片桐はいり・著/幻冬舎・2006)
記憶が紡ぐ物語~『クリクリのいた夏』

LES ENFANTS DU MARAIS
フランスの片田舎、ある沼地の畔。復員兵のガリス(ジャック・ガンブラン)はここ
へ辿り着いて12年。隣に住む厄介者、でも憎めないリトン(ジャック・ヴィルレ)一家
を助けながら、豊かな沼地の自然の中で自給自足の生活を送っていた。五月の唄、
雨上がりのエスカルゴ狩り、鈴蘭のブーケ。自然と人間の共生、富と貧しさ、自由
と友愛とプライド。人間が生きる上で、本当に大切なものとは何か。シンプルでい
て大切な真理を美しい映像に託して示唆してくれる、過不足のない秀作。
なのにこの映画は邦題でかなり損をしていると思う。オノマトペのような愛称「クリクリ」
は「ファンファン」や「ミュウミュウ」「キョンキョン」と同じくかわいいけれど、あっさり
と「マリの子どもたち」でいいのではないだろうか。残念。
この映画の一番の魅力は、なんと言ってもジャック・ガンブラン演じるガリスの
キャラクターだろう。戦争の影と心に受けた傷を感じさせながらも、翳りや憂いの
ない表情。幼いクリクリを抱き上げ、頓珍漢なリトンを常に助け、さり気なく導く
やさしさ。資産家で、音楽と本と自由を愛するアメデ(アンドレ・デュソリエ)や、
沼地に住んでいた昔を懐かしむ老人ペペらと友情を育み、横柄なボクシングチャン
ピオン・ジョー(エリック・カントナ!)に対しても決して臆することはない。人間
としての格や、質のよさを感じさせるその立ち振る舞い。彼は一体何者で、何処か
ら来たのだろう。最初はそんなことが気になるけれど、それも次第にどうでもよく
なってくる。ガリスがそこにいてくれるだけでいい、ずっと側にいたい・・・。
彼と知り合った誰もが、そう思ったことだろう。

この映画を観ながら、私自身の「思い出の夏」について、思いを馳せずにはいられな
かった。私や姉や従兄弟たちがまだ幼かった頃。夏休みを待ちかね、私たちは海辺
の祖父母の家で過ごした。そこには祖父母と、物静かな叔父(母の弟)がいた。
叔父は漁をしたり、海苔の養殖を手伝ったりして生活していた。小器用な人で、
近所の家の改築など、大工仕事もしていたと思う。午後になって時間ができると、
私たちを小舟に乗せ、釣りに連れて行ってくれた。ガリスがクリクリにしてあげた
ように、庭にブランコを作ってもくれた(古タイヤではなかったけれど)。どこか訳あり
で、でも包容力のあるまなざしや、魂の澄んでいる感じがガリスに驚くほどそっくり
で・・・。映画を観ながら、心はあの遠い夏の日々に飛んでいた。
ナチスドイツの台頭を知らせるラジオ放送から、時代は第二次大戦勃発前である
ことがわかる。世界大戦の合間の、束の間の平穏な日々。ガリスは今、どうしてい
るのだろう? 懐かしさに膨らんだ私の心は、エンドロールと共に涙ではじけた。

(『クリクリのいた夏』監督:ジャン・ベッケル/1999・仏/
主演:ジャック・ガンブラン、ジャック・ヴィルレ)
ニックが降板、代役はケイト!~『朗読者』続報
青春ツインズ~『クローバー』

都内の大学に通うために実家を離れ、アパートで二人暮らしをする華子と冬冶
は双子の兄弟。気丈で根拠のない自信とコンプレックスを持つワガママな華子に
対し、高校時代の失恋を引き摺り、恋愛にも人生そのものにも一歩引いたところ
のある心優しき冬冶。恋と人生に漠然とした不安を抱えつつ、今こそが光輝く「青春」
だと気付かないままに日々を過ごす二人。
あとがきで著者・島本理生は「この小説は青春小説でも恋愛小説でもなく、モラ
トリアムとその終わりの物語」だと語っている。
力作だった『ナラタージュ』以降の著者の作品は、性的虐待やDVなど暗い主題の
ものが続いていた。しかし本作は月9でドラマ化されても不思議はないくらい、
軽くて明るいラブコメ調。映画化もされた江国香織の『間宮兄弟』と似たテイスト
を感じた。しかし軽いストーリーの中にも、時折キラリと光る表現にハッとさせ
られる。青春の綾のようなものが、見事に描き出された作品だと思う。
主人公の冬冶が、なんとも言えず魅力的。実験やレポートに追われ、大学院に
進学していった理系の男の子たちが懐かしい。登場場面は少ないが、華子と冬冶
の従兄弟・史弥というキャラクターもいい。冬冶の恋人・雪村さんが「同病相哀れ
む、か・・」と言う台詞の意味が鈍い私にはすぐにはわからなかった。しかしその
後の展開で、この言葉がなんとも切なく効いてくるのだ。
ラストはちょっと納得いかなかったのだけれど、「モラトリアムの終わり」には
ふさわしい結末なのかもしれない。冬冶を小栗旬くんのイメージで読んでしまっ
た私なのだが、実際にドラマ化(もしくは映画化?)されるとしたら、こんなキャ
スティングでいかがでしょうか。
★勝手にキャスティング★
冬冶: 松山ケンイチ
華子: 上野樹里
雪村: 蒼井優
熊野: 塚地武雅(ドランクドラゴン)
藤森: 瑛太
史弥: 岡田将生(特出するのではなく欠点を最小限に止めた顔;本作より)
(『クローバー』島本理生・著/角川書店・2007)
世界はこんなにも美しい~『モンド』

MONDO
南仏の海辺の町に、黒い瞳と黒い髪を持つ一人の少年がやって来る。何処から
来たのか、家族はいるのか、誰にも、彼自身にもわからない。少年の名は「モンド」。
雑踏を彷徨い、海岸や庭先で眠り、市場をうろつく彼は、いつのまにか町の人々
の心に溶け込んでゆく・・・。
フランスの作家、ル・クレジオの『海を見たことがなかった少年~モンドほか少年
たちの物語』の一編を、トニー・ガトリフが映像化した作品。画面から溢れそう
な南仏の光、雨水や波、沈む夕日、雑草の葉脈の一筋まで、瑞々しく自然を捉え
た映像が素晴らしい。ロマの少年である「モンド」、彼を彩るロマ音楽の調べも、ど
こか懐かしくやさしく響く。大人はもちろん、子どもでも十分理解可能なストー
リーではあるが、詩的で哲学的な作品でもある。それでいて心の奥、深い部分に
沁み渡り、忘れ難い印象を残す佳作。今、心が少し弱くなっている全ての人に観
て欲しい。愛する人との別離を経験したり、大切な人を喪ったり、家庭や学校で
疎外され、自分にはどこにも居場所がないと思っている人に。世界はこんなにも
美しく輝いていて、誰もが心の中に「思い出の石」を持っていることを思い出させ
てくれるはずだから。
私ももちろん、何度でも観たい。原作も読みたいと思う。こういう映画こそが、
真の意味でスピリチュアルな作品なんじゃないだろうか。超オススメです。

何と言っても、モンドの笑顔が素晴らしい。彼に微笑みかけられると、誰でも
その瞳の虜にならずにはいられないだろう。自然と共に生き、自由を謳歌してい
るように見える彼。しかし、時折見せる物憂げな表情や暗い瞳、「ボンジュール、僕
を養子にして」という言葉に切なくなる。港で釣りをする「船のない水夫」や、時折
英語をしゃべり、つがいの鳩とともに生きるホームレスの「ダディ」、不法移民であ
る「大道芸人」。どこか世間から距離を置いて生きている彼らと、モンドは心を通わ
せる。小宇宙のような彼らを取り巻く世界と、幸福な季節は永遠に続くかのよう
に思われたけれど・・・。
そこには、「あっ!!」と驚く一瞬が待っている。
モンドを屋敷に迎え入れるティ・チンも、カルフールのある町にはどこかそぐ
わない風貌の女性。「お前を待っていたのよ」「どこにも行かないで」それでもモンド
は安住することなく、孤独を愛するように路地へと飛び出してゆく。
ストリートに生きるモンドを見ながら、『トランシルヴァニア』のヴァンダナを思
い出さずにはいられない。ジンガリナと共に生きる道を選ばず、彼女の元を走り
去ったヴァンダナ。もしかしたら、彼女もモンドと同じ「生き物」だったのかもしれ
ない。
トニー・ガトリフは、その作家性が色濃く作品に投影される映像作家だと思う。
描きたいテーマへのアプローチは全く違うけれど、どこかキム・ギドク作品にも
共通する、独特の個性を感じる。彼らは映画作家としては異端なのかもしれない、
それでも彼らの描く「世界=MONDO」に、どうしようもなく惹かれ、囚われてし
まうのだ。。抗いようのない、その圧倒的なパワーに。

はみ出し者を受け入れない世界は、徐々に荒廃してゆく。それは、枠に囚われ
ない人間を疎外する「非寛容の精神」が、諸刃の剣となって世界を傷つけるからなの
だろう。失って初めてわかる、ささやかで大切なものの存在。でも、きっと・・・。
信じて待っていれば、必ずまた会えるだろう。扉を開き、信じて待つものの元へ
と訪れるだろう。
”Toujours beaucoup”
(『モンド』監督・脚本:トニー・ガトリフ/原作:ル・クレジオ/
主演:オヴィデュー・バラン/1996・仏)
真紅的本のベストテン~2007
拙ブログの読書カテゴリもやっと感想が50を越えました。2007年に読んだ本
は51冊です。ブログを始めて以来、読書数が激減した上に、本の感想はなかなか
書き難いものを感じています。紹介できなくて残念な本もありますので、ベストテン
の形でここでご紹介したいと思います。作品名クリックで感想記事に飛びます。
1.映画篇
2.ロング・グッドバイ
3.字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ
4.パレスチナ・ナウ/戦争・映画・人間
5.犬身
6.走ることについて語るときに僕の語ること
7.クローバー
8.菫色の映画祭-ザ・トランス・セクシュアル・ムーヴィーズ

石原郁子・著
/フィルムアート社
/1996
少し古い本ですが、その情報量に圧倒されます。映画を観る上で、傍流のエピ
ソードにこそ真のメッセージが込められていることを教えてくれた本。
9.村上春樹のなかの中国

藤井省三・著
/朝日新聞社
/2007
現代アメリカ文学との親和性において語られることの多い村上春樹文学を、
中国との距離や関連性について論じた意欲作。感想書きたかった・・・。
10.酔いがさめたら、うちへ帰ろう。

鴨志田譲・著
/スターツ出版
/2006
三月彼岸の頃、新聞の訃報記事を見て驚きました、合掌。西原理恵子さんの
『毎日かあさん』シリーズと合わせて読んでみて下さい。
今年はもう少し頑張って感想を書いて、読書カテゴリの記事も増やしたいと
思っています。目指せ、100記事!
というわけで、やっとまとめが終わりました~。皆さま、本年もどうぞよろ
しくお願いいたします♪
真紅拝
は51冊です。ブログを始めて以来、読書数が激減した上に、本の感想はなかなか
書き難いものを感じています。紹介できなくて残念な本もありますので、ベストテン
の形でここでご紹介したいと思います。作品名クリックで感想記事に飛びます。
1.映画篇
2.ロング・グッドバイ
3.字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ
4.パレスチナ・ナウ/戦争・映画・人間
5.犬身
6.走ることについて語るときに僕の語ること
7.クローバー
8.菫色の映画祭-ザ・トランス・セクシュアル・ムーヴィーズ

石原郁子・著
/フィルムアート社
/1996
少し古い本ですが、その情報量に圧倒されます。映画を観る上で、傍流のエピ
ソードにこそ真のメッセージが込められていることを教えてくれた本。
9.村上春樹のなかの中国

藤井省三・著
/朝日新聞社
/2007
現代アメリカ文学との親和性において語られることの多い村上春樹文学を、
中国との距離や関連性について論じた意欲作。感想書きたかった・・・。
10.酔いがさめたら、うちへ帰ろう。

鴨志田譲・著
/スターツ出版
/2006
三月彼岸の頃、新聞の訃報記事を見て驚きました、合掌。西原理恵子さんの
『毎日かあさん』シリーズと合わせて読んでみて下さい。
今年はもう少し頑張って感想を書いて、読書カテゴリの記事も増やしたいと
思っています。目指せ、100記事!
というわけで、やっとまとめが終わりました~。皆さま、本年もどうぞよろ
しくお願いいたします♪
真紅拝
発表!~2007年真紅デミー賞~

作品賞: 『パンズ・ラビリンス』
監督賞: ファティ・アキン『愛より強く』『太陽に恋して』
音楽賞: トニー・ガトリフ『トランシルヴァニア』『僕のスウィング』『ベンゴ』
特別賞: ケン・ローチ(私のお父さん)
主演女優賞: マリオン・コティヤール『エディト・ピアフ 愛の讃歌』
主演男優賞: ウルリッヒ・ミューエ『善き人のためのソナタ』(ご冥福をお祈りします)
助演女優賞: マルティナ・ゲデック『善き人のためのソナタ』
助演男優賞: 堤真一『ALWAYS 続・三丁目の夕日』『舞妓Haaaan!!!』
新人賞: 小栗旬『クローズ ZERO』
ファティ・アキン、トニー・ガトリフは2007年に出会い、今後も観続けていきたいと
思った作家です。ケン・ローチ作品は旧作がほとんどDVD化されていない上にビデオも
入手困難、なんとかして欲しいと願います。他にもトム・テクヴァ、ギレルモ・デル・トロ
などの才能に感嘆しました。
2008年も素晴らしい映画作品との出会いを楽しみにしています。
テーマ : 2007年度 ベストムービー
ジャンル : 映画
真紅的DVDベストテン~2007
続いてDVD鑑賞作品のベストテンを。
拙ブログでは劇場鑑賞作を「映画」、DVD鑑賞作を「DVD」としてカテゴライズして
います。よって2007年中に劇場公開された作品であっても、DVD鑑賞した場合はこち
らに入ります。基本は一監督一作品、同監督で他に印象的な作品がある場合は併記
します。作品名をクリックすると感想記事に飛びます。
1.愛より強く (+『太陽に恋して』)
2.ノッティングヒルの恋人
3.ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ (+『ショートバス』)
4.ヘヴン (+『ラン・ローラ・ラン』『パフューム/ある人殺しの物語』)
5.SWEET SIXTEEN (+『マイ・ネーム・イズ・ジョー』『やさしくキスをして』)
6.灯台守の恋 (+『マドモワゼル』)
7.モンド (+『トランシルヴァニア』『ベンゴ』『僕のスウィング』)
8.パラダイス・ナウ
9.プルートで朝食を (+『ブレイブ ワン』)
10.パリ、ジュテーム
他、特に好きだった作品を+10として順不同で・・・。
・スターリングラード
・ぼくを葬る
・ラブソング
・トランスアメリカ
・サイドウェイ
・弓
・2番目のキス
・百年恋歌
・Dear フランキー
・クリクリのいた夏 (後日感想アップ予定)
そして次回は栄えある(?)真紅デミー賞2007の発表です!
拙ブログでは劇場鑑賞作を「映画」、DVD鑑賞作を「DVD」としてカテゴライズして
います。よって2007年中に劇場公開された作品であっても、DVD鑑賞した場合はこち
らに入ります。基本は一監督一作品、同監督で他に印象的な作品がある場合は併記
します。作品名をクリックすると感想記事に飛びます。
1.愛より強く (+『太陽に恋して』)
2.ノッティングヒルの恋人
3.ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ (+『ショートバス』)
4.ヘヴン (+『ラン・ローラ・ラン』『パフューム/ある人殺しの物語』)
5.SWEET SIXTEEN (+『マイ・ネーム・イズ・ジョー』『やさしくキスをして』)
6.灯台守の恋 (+『マドモワゼル』)
7.モンド (+『トランシルヴァニア』『ベンゴ』『僕のスウィング』)
8.パラダイス・ナウ
9.プルートで朝食を (+『ブレイブ ワン』)
10.パリ、ジュテーム
他、特に好きだった作品を+10として順不同で・・・。
・スターリングラード
・ぼくを葬る
・ラブソング
・トランスアメリカ
・サイドウェイ
・弓
・2番目のキス
・百年恋歌
・Dear フランキー
・クリクリのいた夏 (後日感想アップ予定)
そして次回は栄えある(?)真紅デミー賞2007の発表です!
テーマ : 2007年度 ベストムービー
ジャンル : 映画
真紅的映画ベストテン~2007
すっかり遅くなってしまいましたが、昨年のまとめとして映画・DVD・本のベストを
自分の覚え書きも兼ねて記録しておきたいと思います。
昨年劇場で観た作品は71本、DVD鑑賞は91本、合わせて162本鑑賞しました。
観逃した作品も多いのですが、自分としてはたくさん観ることができた年だったと
思います。ベスト作は作品の良し悪しというよりも、観た後で自分が受けた衝撃度
や、単純な「好き」度で選んでみました。作品名をクリックすると感想記事に飛びます。
では、早速スタート!
1.パンズ・ラビリンス (文句なしの大傑作!)
2.ヘアスプレー (文句なしの楽しさ、オリジナルが観たい)
3.ミス・ポター (文句なしの清々しさ)
4.恋愛睡眠のすすめ (天才ミシェル・ゴンドリーの作家性大爆発!)
5.レミーのおいしいレストラン (作品への敬意を持とう、というメッセージに共感)
6.プレステージ (見事としか言いようのない構成、やられました)
7.主人公は僕だった (主人公がジム・キャリーだったら3位くらいだったかも)
8.善き人のためのソナタ (あんなにもさり気ないのにあり得ないほど感動的なラスト!)
9.呉清源 極みの棋譜 (画面から監督と俳優の覚悟と心意気が伝わってくる、凄い!)
10.バベル (日本では評判が悪かったけれど、めったにない壮大な映画だと思う)
次点として+10作品を順不同で・・・。
・題名のない子守唄 (観るのが辛い、でも秀作)
・キャンディ (観逃した皆様、DVDで是非!)
・ゾディアック (ジェイク~♪)
・ラブソングができるまで (ラブコメキング・ヒューさま万歳!)
・リトル・ミス・サンシャイン (黄色いミニバスが素敵なアンサンブル劇)
・ボルベール<帰郷> (ペネロペが最高の演技、逞しき女性讃歌)
・街のあかり (不器用で一途な主人公に一粒のあかりが・・・)
・あるスキャンダルの覚え書き (二大女優のガチンコ演技合戦、必見!)
・グッド・シェパード (セクシーというより質実剛健なマット・デイモン)
・クィーン (ヘレン・ミレンの女王さまぶりを観て!)
別枠として邦画のベスト作も。。
1.それでもボクはやってない (画面から伝わる、稀に見る緊迫感)
2.東京タワー オカンとボクと、時々、オトン (ボクとオカンが最高でした)
3.ALWAYS 続・三丁目の夕日 (前作を超えたスケール・完成度)
4.めがね (かもめよりめがね)
5.クローズ ZERO (私は目撃した、「映画スター・小栗旬」誕生の瞬間を!!)
次点:ピアノの森 (まさに"Into the Music")
次回、旧作DVDのベスト記事行きます!
自分の覚え書きも兼ねて記録しておきたいと思います。
昨年劇場で観た作品は71本、DVD鑑賞は91本、合わせて162本鑑賞しました。
観逃した作品も多いのですが、自分としてはたくさん観ることができた年だったと
思います。ベスト作は作品の良し悪しというよりも、観た後で自分が受けた衝撃度
や、単純な「好き」度で選んでみました。作品名をクリックすると感想記事に飛びます。
では、早速スタート!
1.パンズ・ラビリンス (文句なしの大傑作!)
2.ヘアスプレー (文句なしの楽しさ、オリジナルが観たい)
3.ミス・ポター (文句なしの清々しさ)
4.恋愛睡眠のすすめ (天才ミシェル・ゴンドリーの作家性大爆発!)
5.レミーのおいしいレストラン (作品への敬意を持とう、というメッセージに共感)
6.プレステージ (見事としか言いようのない構成、やられました)
7.主人公は僕だった (主人公がジム・キャリーだったら3位くらいだったかも)
8.善き人のためのソナタ (あんなにもさり気ないのにあり得ないほど感動的なラスト!)
9.呉清源 極みの棋譜 (画面から監督と俳優の覚悟と心意気が伝わってくる、凄い!)
10.バベル (日本では評判が悪かったけれど、めったにない壮大な映画だと思う)
次点として+10作品を順不同で・・・。
・題名のない子守唄 (観るのが辛い、でも秀作)
・キャンディ (観逃した皆様、DVDで是非!)
・ゾディアック (ジェイク~♪)
・ラブソングができるまで (ラブコメキング・ヒューさま万歳!)
・リトル・ミス・サンシャイン (黄色いミニバスが素敵なアンサンブル劇)
・ボルベール<帰郷> (ペネロペが最高の演技、逞しき女性讃歌)
・街のあかり (不器用で一途な主人公に一粒のあかりが・・・)
・あるスキャンダルの覚え書き (二大女優のガチンコ演技合戦、必見!)
・グッド・シェパード (セクシーというより質実剛健なマット・デイモン)
・クィーン (ヘレン・ミレンの女王さまぶりを観て!)
別枠として邦画のベスト作も。。
1.それでもボクはやってない (画面から伝わる、稀に見る緊迫感)
2.東京タワー オカンとボクと、時々、オトン (ボクとオカンが最高でした)
3.ALWAYS 続・三丁目の夕日 (前作を超えたスケール・完成度)
4.めがね (かもめよりめがね)
5.クローズ ZERO (私は目撃した、「映画スター・小栗旬」誕生の瞬間を!!)
次点:ピアノの森 (まさに"Into the Music")
次回、旧作DVDのベスト記事行きます!
テーマ : 2007年度 ベストムービー
ジャンル : 映画