![]() PARIS, JE T'AIME フランスの首都・芸術の都パリ。20区からなる街の18区を舞台に、様々な愛の 物語が18編収められたオムニバス。今年の春、私はこの映画が観たくて観たくて・・・。 ポスターに使われた赤のトレンチに似たコートを買い、「パリ、ジュテーム・コート」 と勝手に命名(笑)、毎日着ていた。なのに劇場鑑賞は叶わず・・・。落ち込みの 余り、DVDもなかなか観なかったほど。しかしもうすぐ2007年も終わることだし。。 オープニング、パリの街の遠景、煌くエッフル塔と花火。この映像だけで、既に この映画に魅了されていた。 以下、少し長くなりますが18本の愛すべき短編について。よろしければお付き 合い下さい。 1 ☆「モンマルトル」監督・脚本:プリュノ・ポダリデス いきなりパリへの暴言で始まるこの作品、どうなることかと思ったけれど・・・。 掌の温もりから始まる愛なのでした。 2 ☆「セーヌ河岸」監督・脚本:グリンダ・チャーダ この映画には、移民社会のフランスを象徴するような内容の作品がいくつも含 まれていて、この作品もその一つ。ヘジャブをかぶった美しい女の子と出逢った 大学生が、民族の多様性と個人のアイデンティティの成り立ちに気付く。「どうして 隠すの? 美しいのに」「これは私の意志よ」演ずる若い二人の美しさに目を奪わ れる。恋っていいなぁ、若いっていいなぁ。。 3 ☆「マレ地区」監督・脚本:ガス・ヴァン・サント 「運命を信じる? 魂の片割れがいるって?」ライアン・フィリップ似の青年をひと め見たときから特別な感情を抱き、湧き上がる思いをしゃべりまくるギャスパー ・ウリエル。愛の始まりを予感させる、余韻を残した幕切れが素敵。 4 ☆「チュイルリー」監督・脚本:ジョエル&イーサン・コーエン またまたコーエン兄弟にいたぶられる「ヘン顔」代表スティーブ・ブシェミ。一言 もセリフがない、可哀相な「巴里のアメリカ人」。観光客にとって、やっぱりパリと 言えばルーヴル、モナ・リザですよね。 5 ☆「16区から遠く離れて」監督・脚本:ウォルター・サレス、ダニエラ・トマス こちらも、幼い子どもを抱えて生きる逞しい移民女性の物語。子守唄の旋律と、 意志的な瞳のカタリーナ・サンディノ・モレノが強い印象を残す。 この3、4、5はとても監督の「色」が出ている気がした。「印」と言ってもいい ような・・・。 6 ☆「ショワジー門」監督・脚本:クリストファー・ドイル /脚本:ガブリエル・ケン、キャシー・リー パリの持つオリエンタルのイメージってこうなのかな・・。と、ちょっと寂しく なってしまった一本。杜司風!しっかりしてよ!! 7 ☆「バスティーユ」監督・脚本:イザベル・コイシェ ポスターの赤いトレンチが印象的な作品はこちら。村上春樹ってパリでも人気 なのですね、凄いなぁ、嬉しいなぁ♪ 主演のセルジオ・カステリットは『マーサの 幸せレシピ』の陽気なイタリアン。レオノール・ワトリング、ハビエル・カマラは 友情出演かしらん。。 全編、最初に監督名がクレジットされるので、どうしても監督の過去の作品や お馴染みの俳優さんに注目してしまう。もちろんそんな知識はなくても十分楽し めるのだけど、監督の仕掛けや遊びに気付くのもまた、オムニバス的醍醐味かも。 8 ☆「ヴィクトワール広場」監督・脚本:諏訪敦彦 日本からは諏訪敦彦監督が参加。幼い息子を亡くしたジュリエット・ビノシュ。 うん、うん、うんうん・・・と何度も頷く彼女に涙が。。愛は生死を越えられる。 諏訪敦彦監督作品は初見。監督自身、短編は初挑戦だったということだけれど、 素晴らしい出来だと思います。 9 ☆「エッフェル塔」監督・脚本:シルヴァン・ショメ パントマイマーの赤いベレー、白塗りフェイス、ダークネイビーのマリン。鮮や かな色彩がセピアなパリの街に映える、映える! コミカルで、私はこれ好きだなぁ。 10☆「モンソー公園」監督・脚本:アルフォンソ・キュアロン 「これは・・、育児の愚痴みたいやなぁ」と思っていると本当にベビーカーが待ってい てビックリ! 見事、鮮やか! アルフォンソ・キュアロン、さすがの長回し、ワン カット。赤ん坊を題材に持ってくるのも『トゥモロー・ワールド』を彷彿させて面白い。 ニック・ノルティもおじいちゃんなのね〜。 11☆「デ・ザンファン・ルージュ地区」監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス 監督はマギー・チャンの元夫。作品は初見。マギー違いのジレンホール姉、流暢 なフランス語が決まってます。トレイラーで脱ぎ捨てたブーツはUGG?と気になり。 12☆「お祭り広場」監督・脚本:オリヴァー・シュミッツ 広場で男性を刺した男が、『隠された記憶』でマジッドの息子を演じた彼だった。 この作品も移民の厳しい生活の一面を描き、胸が痛くなるような作品。 13☆「ピガール」監督・脚本:リチャード・ラグラヴェネーズ 14☆「マドレーヌ界隈」監督・脚本:ヴィンチェンゾ・ナタリ この二本はちょっと中だるんでしまいました。ごめんなさい。でもそれぞれに 印象的ではある。 ![]() 15☆「ペール・ラシェーズ墓地」監督・脚本:ウェス・クレイヴン エミリー・モーティマーとルーファス・シーウェル。この二人の2ショットが見ら れただけで大満足!の作品。巴里の英国人。 16☆「フォブール・サ・ドニ」監督・脚本:トム・ティクヴァ このスピード感、『ラン・ローラ・ラン』を彷彿させるような映像テク。僅か5分の 短編を物凄く贅沢に作り込んでいる。ナタリー・ポートマンって、『レオン』の頃から 印象が全く変わりませんね。 17☆「カルチェラタン」監督:フレデリック・オービュルタン、ジェラール・ドパルデュー /脚本:ジーナ・ローランズ ジーナ・ローランズとベン・ギャザラ、名演。。ジーナ・ローランズは貫禄ですね。 夜の帳に一人紫煙をくゆらす姿・・・。カッコイイ〜〜!! 私がバーテンでも、そりゃ 「お代はいただきません」とも・・。いいもの見せていただきました。 18☆「14区」監督・脚本:アレクサンダー・ペイン デンヴァーで郵便配達をする「フツーのおばさん」が巡るパリ。丈夫な足と独立心 を持つ彼女が、パリという街に癒されながら孤独や自分の人生に向き合う。ああ、 生きてるって、人生って素晴らしい! 人生賛歌な一本。パリよ、ありがとう。。 この作品も、とっても「アレクサンダー・ペイン風味」だったと思う。 私自身、パリは二度ほど訪れたことがある。10年以上前、他にも幾つか欧州内 の都市を回るツアーだったので、滞在は正味2、3日だったか・・・。この映画を観て、 当時を懐かしく思い出した。パリ。愛しのパリ。いつの日かゆっくり、再訪したい街 です。 ![]() (『パリ、ジュテーム』2006・仏、リヒテンシュタイン) ![]() |
![]() Douglas Freeman from 『Rendition』 2007年も押し詰まって参りましたが、皆さま体調はいかがですか? 風邪や インフルエンザなど、お気をつけ下さいね。 さて、今日はジェイクの誕生日です。27歳、まだ27歳なのね。。 先日の朝日ベストテン映画祭では『ゾディアック』が第三位に入選していて驚き ました。とても長い映画で、あまりヒットもしなかったと思うのですが、評価して 下さる方がいてうれしいですね。 さて来年ですが、ジェイクの最新作『Rendition』、日本公開はされないのでしょ うか? こ〜んな豪華キャストなのに〜。 ![]() せめてDVDストレートでもいいので、どうか見せて下さい〜。 『ある愛の風景』も観られますように。。 ![]() |
![]() PARADISE NOW ヨルダン川西岸地区、ナブルス。イスラエル占領下の町。銃声が響き、常に緊張 状態にあるこの町で、自動車修理工として働くサイード(カイス・ネシフ)とハーレド (アリ・スリマン)。若い彼らはこの町で生まれ育ち、鬱屈を抱えながら暮らしている。 そんな彼らに、パレスチナ解放を目指す組織から、自爆攻撃の任務が下される。 2005年、ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞したこの作品はアカデミー 賞にもノミネートされ、世界各国で議論を呼んだ。四方田犬彦氏の『パレスチナ・ナウ』 を読んでから、ずっと観たかった本作、DVDにて念願の鑑賞。予想通り、比類なく 重いテーマと主人公達の葛藤を描きながらも、映画作品として素晴らしい傑作だと 思う。特に『ミュンヘン』や『ユナイテッド93』を観て、何か感じるところがあった方 には是非、手にとっていただきたいと思う。 「牢獄にいるのと同じ」占領下の町に住み、何処へも行けない彼らには、神への信仰心 と家族、友との絆しか信じられるものがない。冒頭、イスラエル兵による検問や 自動車修理を巡るやり取りから既に、彼らの焦燥ややり場のない苛立ちが伝わって くる。 町へ入るには、占領軍兵士の銃を突きつけられながら検問を受けなければならな いという屈辱。片足を失ったり、密告者として処刑された彼らの父。繰り返し出て くる「汚染された水」とそれを浄化する「フィルター」の話。彼らは自らを犠牲にして、 自爆攻撃と言う報復の道を選ぶ。しかしそれは彼らにとって単なる「犠牲」ではなく、 神の元で天国に葬られるというたった一つの希望であり夢なのだ。 ![]() 彼らが交わす言葉の一つ一つが、圧倒的な重みを持って胸に迫る。「この議論には 果てがないわ」「平等に生きることはできない、しかし平等に死ぬことはできる」。 彼らにとって死は常に自分たちの傍らに在る日常だ。最後の晩餐で、美しく気高い 母(ヒアム・アッバス)をじっと見つめるサイード。犯行声明を録画するビデオに向か い、手作りのパンを持たせてくれた母へ、新しい浄水フィルターを買えと語りかけ るハーレド。残される家族へ思いを残しつつ、自爆するために身を清め正装する彼 ら。「結婚式だと言うんだ」自爆攻撃が、二人にとっては「ハレの日」に等しいという やり切れなさ・・・。 「何か他に方法はないのかな」作戦直前までそう語っていたサイードと、殉教すること に迷いがなかったハーレドの思いは、作戦の失敗後、スーハ(ルブナ・アザバル)との 関わりによって交錯し、逆転する。弱者である彼らの父とは対照的に英雄だった父 を持ち、外国育ちのスーハ。父祖の土地に対する彼らの思いは同じでも、自分たち が行くべきだと考える道は同じではない。何世代にも渡る家族の抑圧の歴史が、一人 一人の信条に影響を与える「負の連鎖」として暗示され、特にサイードの心境の変化は 強い印象を残す。家族のために密告者となり、同胞であるはずのパレスチナ組織に よって殺された父について、彼が組織のリーダーに語る場面は圧巻。抑圧され続け た年月に澱のように溜まった行き場のない怒りと諦観が、じわじわと伝わる名場面 だと思う。 ![]() サイードの母を演じたヒアム・アッバスは、『マリア』でも母親役を演じていた。 イスラエル生まれのパレスチナ女優だという彼女、撮影風景で見せている笑顔とは 対照的に、演技者として私などには想像もつかないような葛藤を抱えているのだと 思う。サイード役のカイス・ネシフも『マリア』に出演。「ベンジャミン」という役名 は記憶にあるが、どんなキャラクターだったかは思い出せない。 映画製作時から数年経っても、パレスチナの現状は混沌を極めたままだ。今日も また、新たなサイードやハーレドが生まれているのかもしれない。勝利も敗北もな いまま、新たな犠牲者だけが。 (『パラダイス・ナウ』監督:ハニ・アブ・アサド/主演:カイス・ネシフ、 アリ・スリマン/2005・パレスチナ、仏、独、オランダ、イスラエル) ![]() |
![]() 川本三郎氏が『キネマ旬報』誌で連載中のコラムをまとめた二冊目の本。一冊目は もちろんロドリゴ・ガルシア監督作『彼女を見ればわかること』からタイトルをアレンジ した『映画を見ればわかること』。印象に残った映画のディテイルが大切に、丁寧に語ら れている。 私は映画好きではあるけれど、『キネマ旬報』という雑誌を一度も買ったことがない! ので(立ち読みすることはあります)、全てのテキストを新鮮な感触で読むことができた。 但し、観る予定のある未見作品については斜め読みで(笑)。 一番嬉しかったのは、ずっと念願だった『ブロークバック・マウンテン』についての 川本三郎氏の文章を読むことができたこと。以前、川本氏のBBM評を読みたい!と 記事にも書いたことがあるのだけれど、やっと宿題を果たした気分。西部劇における 「サドルパル」(馬上の友、くらいの意?)とからめて、イニスとジャックの「友愛」と、 アメリカ中西部の風景についてサラリと綴られている。サラリとはしているけれど、 最後に原作の話が出てくるところを見れば、川本氏もBBMには相当心動かされたの ではないか、と想像してうれしくなる。 邦画、洋画というジャンルにこだわらず、たくさんの愛すべき映画について語られ ていて、いつまでも読み続けていたい気分になった。感じたこと、印象に残った文章 はたくさんあるのだけれど、この辺りで止めておきます。映画を愛する方々に、是非 読んでいただきたいな。 (『映画を見ればわかること 2』川本三郎・著/キネマ旬報社・2007) ![]() |
![]() 小説家・金井美恵子氏による身辺雑記エッセイ+時事・映画評論批評集。 ラスト・エンペラーこと老猫トラーの介護、締め切りに追われながらもゆるゆると やり過ごす小説執筆、欺瞞に満ちた者たちへの怒りと軽蔑、ユーロ・サッカーへ の傾倒の日々が、忌憚なき筆致で縦横無尽に綴られる。 実姉である金井久美子氏による、手作り感溢れるブックデザインがいい。 『目白雑録』を初めて読んだときには、その歯に衣着せぬ物言いにこちらが冷や 汗をかきそうだったけれど、この『2』では某小説家Sや政治家諸氏への罵詈雑言 ぶりは少し、トーンダウンした感じ。しかしどうして著者でなく、私がビビッて伏字に しているんだろう(笑)。 何気なく読んだこの本に、先月観た『呉清源 極みの棋譜』に関する記述があって 驚いた。シネフィルの著者は映画全般について造詣が深いが、2004年に近江八幡 でロケをしていた田壮壮監督にインタビューしたのだという。雑誌「文学界」に掲載 されたというそのインタビューを、私は勿論読んでいない。そしてそれよりも、 インタビュー前日に著者が主演の張震チャン・チェンくんとしたという「雑談」の方 が興味深く、どんなオハナシをしたのか興味津々、知りたくてたまらないのであ った・・・。 、と書きながらつくづく、私のような「ミーハー」読者は金井氏に忌み嫌われる のだろうな、と思いつつ馬鹿文章(哀)。 (『目白雑録(ひびのあれこれ)2』金井美恵子・著/朝日新聞社・2006) ![]() |
![]() THE NATIVITY STORY 今から約2000年前、イスラエル・ナザレの人々はヘロデ王の課す重税に苦し んでいた。貧農の娘である少女マリア(ケイシャ・キャッスル=ヒューズ)は大工 職人ヨセフ(オスカー・アイザック)と婚約するが、ある日聖天使ガブリエルから 受胎告知を受ける。両親や周囲が冷たい視線を浴びせる中、ヨセフだけは苦悩 しながらもマリアを信じるのだった・・・。 イエス・キリスト降誕にまつわる物語を、母マリアとその夫ヨセフの信仰と夫婦 愛の物語として描いた作品。クライマックスには「Silent Night」も流れ、クリ スマスも間近なこの時期に鑑賞するにはピッタリな、清らかで荘厳な雰囲気が漂 う。監督は『ロード・オブ・ドッグタウン』のキャサリン・ハードウィック。 聖母マリアが処女のまま、12月25日に馬小屋でイエス・キリストを生んだ事は、 知識として知ってはいた。けれどマリアに夫がいたことや東方の三賢人について、 生まれたばかりのイエスを抱えた夫婦がエジプトに身を隠したことなどは、この 映画を観るまで知らなかった。亡くなった私の父方の祖母はプロテスタントで、 小さい頃は教会にお伴したりしたこともあったのだけれど、恥ずかしながら私自身 は全くの宗教音痴、歴史音痴なのです。 ![]() ごく普通の少女だったマリアが、ナザレからベツレヘムへの厳しい旅の中で母 となる覚悟と、夫ヨセフへの尊敬と愛を育む。ヨセフはごく普通の、丈夫な足を 持った青年。しかし彼の「自分より他人を思いやる」その高貴な心が感動的に描き出 されるのだ。川を渡り、山を越え崖を下り、ロバに自分の僅かな食料を与える。 マリアの夫に彼を選んだのは、間違いなく神の御意志なのだな、と思える。いつ も眉を八の字に、口を硬く結んだマリアが、ヨセフの側で徐々に柔らかい表情へ と変わってゆく。そして出産を終えた後の、なんとも安らかな三人の姿・・・。 髭もじゃのヨセフも、驚くほどハンサムに見えてくる。 惑星の大接近による光が、天使の梯子のようにイエスの生まれた厩に注ぐ映像 は神々しく美しい。この夫婦のその後や、イエスの生い立ちについて、もっと知 ってみたいと思った。もうすぐクリスマス、2000年以上前の出来事に、今年は 思いを馳せてみよう。 ![]() (『マリア』監督・製作総指揮:キャサリン・ハードウィック/2006・USA 主演:ケイシャ・キャッスル=ヒューズ、オスカー・アイザック) ![]() |
![]() TIME 恋人同士のセヒ(パク・チヨン)とジウ(ハ・ジョンウ)は、付き合って2年。 セヒはジウが自分に飽き、彼の心が他の女に奪われるという恐怖心に慄き、嫉妬に 苛まれていた。永遠の愛を求める彼女は、ジウの心を繋ぎ止めるため全身整形を施 し、スェヒ(ソン・ヒョナ)と名乗る別人となってジウの前に現れる・・・。 キム・ギドク13番目の作品は、表向きは「整形」がテーマ。しかし本当の主題は、 移ろい行く「時間」に対し、恋人たちは「永遠の愛」を成就できるのか、というところ にある。寡黙な主人公のいる寓話的世界が今までのギドク作品の背景であったけれ ど、本作は現代韓国の都市が舞台。主人公たちはあり得ないほど饒舌(カメラ目線で語 り出す!)でときに爆発し、ギドク作品に慣れ親しんでいる人なら誰しも、最初のうち は戸惑ってしまうだろう。しかし、次第にこの「純情・愛情・過剰に異常」な愛のカタチ と、彷徨う恋人たちに私は寄り添っていた。観終わった後、間違いなく確かな満足 感が得られる秀作だと思う。 ![]() 恋人が「他の女を見た」「他の女と話した」と言っては嫉妬して激高するセヒの気持 ちはなんとなくわからないでもない。「人はみんな同じだ」という印象的なセリフには、 結局人間は「見た目」を重視するのであり、整形する人もしない人も心の内は同じです よ、といったニュアンスも込められているような気がした。いつも困ったような顔 をして、私にはさして魅力的には映らないジウがモテモテなのがちょっと不思議。 整形後、自信満々なスェヒの表情が、ジウを待つ6ヶ月の間にジワジワと狂気に誘 われていくのが凄い!捨てられると思った過去の自分に恋人は心を残し、嫉妬して いるのは誰でもない自分自身にであるという、なんともねじれた皮肉! スェヒが セヒ=過去の自分のお面をつけて現れるシーンには思わず息を呑んだ。冷静に見れ ば常軌を逸した笑える状況なのだけれど、スェヒの心の叫びは痛すぎる。顔と名前 が変わってもジウを愛する心は変わらないのに、彼はそれに応えてくれない。。 一体どうすれば、過ぎ去ってゆく時間と愛を止められるのだろう? そして物語はメビウスの輪のように、彼女の元へと還ってゆく・・・。 ![]() スェヒを演じたソン・ヒョナが、激し過ぎる怒りとパッションが空回りする哀し い女を演じて目を奪われる。ジウがパソコンで観ているのは主人公が一言も言葉を 発しないギドク作品『うつせみ』であったり、スェヒに喫茶店で声をかける青年が『弓』 の青年で、ちょっと男前に成長していたりするのも見どころ。フェリーで渡る彫刻 の島のオブジェも興味深い。波間に置かれた手のひらと、空へと昇る階段・・・。 その先は天国? そこに永遠はあるの? (『絶対の愛』監督・製作・脚本:キム・ギドク/ 主演:ソン・ヒョナ、ハ・ジョンウ、パク・チヨン/2006・韓国、日本) テーマ:この映画がすごい!! - ジャンル:映画 ![]() |
![]() TRANSYLVANIA 「どうして心が惹かれるの?」 フランスから強制送還された恋人のミラン(マルコ・カストルディ)を探しに、ジン ガリナ(アーシア・アルジェント)は彼の故郷である、閑散としたトランシルヴァニア の村へやって来る。「何しにここへ?」「愛を探しに」 しかし、再会したミランはジンガリナを拒絶し、絶望と混乱の中で音楽だけが鳴り 響いていた。 『ベンゴ』に続き、トニー・ガトリフ監督作品2作目。本作でも、監督のルーツである ロマの音楽と風俗が、映像の中に叩きつけられるように盛り込まれている。そして、 荒涼としたトランシルヴァニアの風景。本作は大阪では11月半ばにひっそりと公開 されていたが、こんなに早くDVD化されるとは、うれしい驚き。愛を喪って道には ぐれ、自らの内なる激情と折り合いがつけられないジンガリナと、彼女に寄り添い ながら共に生きようとする強い風のような男・チャンガロ(ビロル・ユーネル)。 二人の自由な魂の彷徨、トランシルヴァニアを巡る「愛より強い旅」が描かれる。 ![]() ミランの子を身籠るジンガリナは両手の10本の指全てに指輪をはめ、左手の平 には「お守り」だと言う目のタトゥーを入れている。自分へと流れ込む全ての感情・ 視線を拒絶し、今にも爆発しそうな彼女の生き様が危うすぎる。「悪魔がいる!」 と叫んで森でのた打ち回るジンガリナ。痛々しく、孤独過ぎて目を背けたくなる。 ジンガリナを演じたアーシア・アンジェルトが、エキセントリックでエモーショ ナルなヒロインに、はまり過ぎるほどはまって見事。祈祷を受けた後、彼女は「ど うしても心惹かれる」ロマの女に成り切ったように見える。 チャンガロを演じるビロル・ユーネルも、粗野な中年男のようでいて、純粋さ と弱さ、やさしさを併せ持つ男を演じてなんとも魅力的。彼が作る料理の荒々し いこと!玉ねぎを叩き潰し、トマトをぶち込み、レシピなんかクソ食らえ!とい う感じ。それでもジンガリナのために、シャンデリアを灯すロマンテイストも持 ち合わせているのだ。 彼もジンガリナもロマ民族ではない。しかし定住をよしとせず、村から村へさ すらう姿はロマそのもの。二人のあてもない旅は、差別を受けたり、熊に遭遇し たり、おじいさんの自転車を運んだり・・・。少しずつ膨らんでいくジンガリナの お腹とともに続いていく。 ![]() トランシルヴァニアが真っ白な雪に閉ざされようとした頃、新しい生命が生ま れようとする。動揺し、タバコの吸い口が逆になっているのも気付かないチャン ガロの表情がいい。ギターを持った熊の人形に導かれて、ジンガリナの元へ帰る チャンガロ。彼を迎えるラストのジンガリナの微笑みは、憑き物が落ちたように 清々しく、神々しくさえ見える。彼女が何故トランシルヴァニアという土地に惹 かれたのか。その答えはやさしげな視線の先にある。 (『トランシルヴァニア』監督・脚本・音楽:トニー・ガトリフ/2006・仏/ 主演:アーシア・アンジェルト、ビロル・ユーネル、アミラ・カサール) ![]() |
![]() 「梅はその日の難逃れ」って言葉、知ってました?『かもめ食堂』のスタッフ、一部 キャストが再結集して製作された本作は、携帯の繋がらない南の島が舞台。風変 わりな宿「ハマダ」に、二人の女性客がやって来ます。一人は常連客のサクラ(もたい まさこ)、もう一人は都会から初めてやってきたタエコ(小林聡美)。「たそがれる」 しかすることのない毎日に、一度は音を上げたタエコでしたが・・・。 「二番煎じ」だとか「雰囲気ばかりで内容がない」などという批判も目にしていまし たし、何となくスルーしていた本作。9月公開でしたから封切りから三ヶ月近く たっていますが、これは観に行って大正解でした! 劇場で観たせいか私は『かもめ』より好きかも?です。かなり前に観た予告篇で、 宿の主人ユージ(光石研)の作るちらし寿司に既に目眩がしていたので、鑑賞前には しっかり腹ごしらえ(笑)。それでも「これは拷問か!!」と叫びたくなるくらいに、 おいしそうなものたちのオンパレードでした・・・。 だいたい、あんな見事な伊勢海老を「持って来てくれた」近所の人ってダレ? しかも宿に来たばっかりなのに、茹で上がった海老を目の前に一番に手を出す加瀬 亮くん、いかんなぁ・・・、それ、私にくれ!!! ![]() トップクレジットは(相変わらずもち肌の)小林聡美だけれど、この映画の主役は 「たそがれのカリスマ」サクラを演じたもたいまさこだと思います。メルシー体操、 覚えたい! アズキ氷、食べたい! 赤く長いマフラーをなびかせて歩く姿は「帰っ てきたタソガレの教祖様」という趣。タエコがサクラさんの自転車(三輪車)の後ろ に乗ったと言って焼きもちを焼いているハルナ(市川実日子)の気持ちが、なんとな くわかるようなわからないような・・・。雨が降って春が終わりを迎え、サクラさんは 去ります。その時のユージの表情が、ちょっと過剰だったかな。もう少しアッサリ していたほうがよかったかも(また次の春には会えるのだし)。 タエコは結局、あの島に居付くわけですが、あの近辺の人たち、お金はどうして いるのでしょうか・・・。それに「コージ」って名前だけど、牝犬じゃん!!などと 細かいことを気にしていると楽しめない映画です。まったり観るには最高、ああ、 海に行きたい、(誰かが作ってくれた)おいしい朝御飯が食べた〜い!!(叫) (『めがね』監督・脚本:荻上直子/主演:小林聡美、もたいまさこ、 光石研、市川実日子、加瀬亮/2007・日本) ![]() |
![]() IM JULI. ドイツ・ハンブルグの教育実習生ダニエル(モーリッツ・ブライブトロイ)は、学校 では生徒にバカにされ、夏のバカンスの予定も皆無の冴えない青年。そんな彼が恋 に落ちたのはトルコ人女性メレク(イディル・ユネル)。イスタンブールに住む彼女を 追って、太陽と月に導かれながら、ダニエルは東洋と西欧が出合う街を目指す。 『愛より強く』で魂を揺さぶってくれたファティ・アキンが監督・脚本を務めたロード ムービー。その突き抜けた明るさ、コメディセンスは重厚で灰色なイメージのドイ ツ映画とは思えないほど。時に大笑いしながら、青年の成長物語を見せてもらった。 ビロル・ユーネルもチョイ役で出演。監督自身もルーマニアの国境警察官役で出演 している。オススメです。なんだか元気になれる。 ![]() ヘタレ全開の自称「平和主義者」だったダニエルが、旅の道連れ・ユーリ(クリスティ アーネ・パウル)と一緒にいるうちにどんどん変わっていく、その過程がいい。 ハッパを吸ってプチトリップし、身包み剥がされてもトラックや車を強奪して旅を 続けるその逞しさ!最後には車でジャンプして川を渡ろうとするなんて、ほとんど 暴走状態。しかし理系教師らしく、一応速度計算するところなんて大笑い。メレク に会いに行く、と言うのが旅の目的のはずなのだけれど、途中から旅を続けること 自体が目的のように錯覚してしまうのが、ロードムービーの不思議なところ。 島国ニッポンに生まれ育った我が身には、欧州の陸続きの旅、国境越えが本当に 羨ましく、旅情を誘われる。ダニエルを乗せる謎めいた女性・ルナ(ブランカ・カティ ッチ)のトラックには「YU」のシール。今は崩壊した国家、ユーゴスラビアだ。「あの 辺りは戦時下だ」とか、トルコを「クソ南」と表現するセリフに、欧州の複雑な政情を 少し、感じたりもする。 ![]() ダニエルに関わる三人の女性、ユーリ、メレク、ルナがそれぞれ美しくて素晴ら しく魅力的。それぞれ七月、天使、月の意味を持つ三人のうち、やっぱりダニエル の「太陽」はユーリだった。それはユーリが仕掛けた罠でもあるのだけれど、恋愛 なんて、思い込みが強い方が勝ちなのさっ! ラストのダニエルの告白は旅の途中でユーリに与えられたものではなく、彼の心 から生まれた新しい言葉なんだな、と思った。ジーンと来ます。 いとしい人 僕は何千キロも遠くから 幾つもの川を渡り 山を越えてきた 苦しみやつらさに耐え 誘惑に打ち勝ち 太陽を追って旅をした 君の前に立ち 想いを告げるために (『太陽に恋して』監督・脚本:ファティ・アキン/2000・独/ 主演:モーリッツ・ブライブトロイ、クリスティアーネ・パウル) ![]() |
![]() THE GO MASTER 中国・北京に生まれ、その天賦の才を買われ14歳で囲碁修行のために来日した 呉清源(ご せいげん)。川端康成を始めとする文豪に愛され、昭和囲碁界最強の 打ち手と呼ばれ、囲碁界に革新をもたらした天才棋士である。激動の昭和を生き、 90歳を越えた今も囲碁の研究に邁進する彼の人生を綴った伝記ドラマ。監督は 中国の「第五世代」の一人、田壮壮。囲碁には全く明るくなく、田壮壮監督作品も 初見、ただただ主演の「アジア映画界若手ナンバー1」こと張震チャン・チェンくん 観たさという不純な動機で鑑賞したが、参りました。スクリーンが暗転して場内 が明るくなった時、打ちのめされたような感覚を憶えた。素晴らしい作品です。 衣装・プロダクションデザインはワダエミが担当している。 その青緑がかった映像は限りなく丹念に写し撮られ、やわらかな光に包まれて 幻想的でさえある。細部にまで行き届いた繊細さ。張震が体現する呉清源の静謐 な佇まいに、映画全体が支配されているかのようだ。 ![]() 対局中、対戦相手が昏倒しても、自分自身の「勝負の世界」から決して顔を上げ ない、呉清源の凄まじいまでの囲碁への執念。まさしく勝負の鬼であり、その姿 は「非人間的」でさえある。そう、彼はもはや人間や俗世間を超越した、仙人のよう に見えるのだ。彼はススキの野原や海辺にはとても調和しているが、街中ではど こか落ち着かなく見えてしまう。そしてその街中で、彼は後遺症によって棋力を 奪われることになる交通事故に遭遇する。 人間的な感情や煩悩を超越してみえる呉清源も、戦前、戦中の対日関係の悪化 による、帰化人としての苦悩があったのだろう。生死を賭した、息詰まるような 孤独な対局の果てに、心の拠りどころとして新興宗教にのめりこんでいく彼の心 の葛藤、囲碁と距離を取ろうとする微妙な心の揺れが、少ないセリフの中で丁寧 に描かれてゆく。 中国映画でありながら日本が舞台である本作には、日本人俳優も数多く出演し ている。中でも、呉清源を公私に渡ってバックアップした棋士・瀬越憲作を演じ た柄本明がいい。原爆の爆風を受けても、何食わぬ顔で防空頭巾を被り「対局を続 けましょう」と言う彼の演技。人間離れした棋士たちの生態を、飄々と軽々とみせ てくれる。童顔の野村宏伸が川端康成、というキャスティングだけはちょっと首 を傾げるかもしれない。 神秘的とも言えるその映像世界は、観る人によっては「退屈」で、「睡眠作用」も あったりするのかもしれない。しかしそれは田壮壮監督が観客に媚びず、自らの 世界観を信じて真摯に、誠実に自らの作品と向き合っている証ではないだろうか。 (『呉清源 極みの棋譜』監督:田壮壮/原作:呉清源『中の精神』/ 主演:張震チャン・チェン、柄本明、伊藤歩/2006・中国、日本) テーマ:この映画がすごい!! - ジャンル:映画 ![]() |
| 真紅のthinkingdays |
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