祝!ISAノミネート~『ラスト、コーション/色|戒』
例年、アカデミー賞の前日に発表される米インディペンデント・スピリット・
アワーズのノミネーションが発表されました!詳細はコチラ⇒

『ラスト、コーション/色|戒』からは、主演男優賞トニー・レオン、主演女優賞
タン・ウェイ、撮影賞ロドリゴ・プリエトの三部門がノミネートされました!
素晴らしい~!!おめでとうございます♪
以前、香港在住で『ラスト、コーション/色|戒』をご覧になった方にコメントを
いただき、「梁朝偉の演技はスゴイ」とおっしゃっておられたのですよ(過去記事)。
トニーも「(撮影は)死にたいくらい、辛かった」と語っておりました。全てをさらけ
出し、身も心もこの作品に捧げたのでしょうね。。ありがとうトニー(涙)。
タン・ウェイ嬢も映画初出演で難役を演じ切り、国際的な賞にノミネートされた
ことは快挙と言っていいと思います。
撮影に関しては、ヴェネチア映画祭でも金オゼッラ賞(撮影賞)を受賞しています
し、ロドリゴ・プリエトさんですから間違いなし、文句なしの素晴らしい映像なの
でしょうね~。わくわく。
ところで、この記事。ちょっと笑ってしまいました。
『ラスト、コーション/色|戒』が「Ang Lee's controversial」って形容されている
んですよ。controversialって、BBMの時にも何度も目にした言葉です。
監督、本当にいつもいつも・・。議論に値する素晴らしい作品を、ありがとう。
まだ観ていないのですが、信じていますよ。
アワーズのノミネーションが発表されました!詳細はコチラ⇒

『ラスト、コーション/色|戒』からは、主演男優賞トニー・レオン、主演女優賞
タン・ウェイ、撮影賞ロドリゴ・プリエトの三部門がノミネートされました!
素晴らしい~!!おめでとうございます♪
以前、香港在住で『ラスト、コーション/色|戒』をご覧になった方にコメントを
いただき、「梁朝偉の演技はスゴイ」とおっしゃっておられたのですよ(過去記事)。
トニーも「(撮影は)死にたいくらい、辛かった」と語っておりました。全てをさらけ
出し、身も心もこの作品に捧げたのでしょうね。。ありがとうトニー(涙)。
タン・ウェイ嬢も映画初出演で難役を演じ切り、国際的な賞にノミネートされた
ことは快挙と言っていいと思います。
撮影に関しては、ヴェネチア映画祭でも金オゼッラ賞(撮影賞)を受賞しています
し、ロドリゴ・プリエトさんですから間違いなし、文句なしの素晴らしい映像なの
でしょうね~。わくわく。
ところで、この記事。ちょっと笑ってしまいました。
『ラスト、コーション/色|戒』が「Ang Lee's controversial」って形容されている
んですよ。controversialって、BBMの時にも何度も目にした言葉です。
監督、本当にいつもいつも・・。議論に値する素晴らしい作品を、ありがとう。
まだ観ていないのですが、信じていますよ。
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強靭な心~『マイティ・ハート/愛と絆』

A MIGHTY HEART
2002年1月、パキスタンのカラチで一人のアメリカ人ジャーナリストが誘拐・
殺害された。夫と同様にジャーナリストである身重の妻、マリアンヌ・パールの
視点から事件を追ったドキュメンタリータッチのドラマ。マリアンヌの手記に感銘
を受けたブラッド・ピットが映画化権を取得、自らの私生活上のパートナーである
アンジェリーナ・ジョリーを主演に製作した「ブランジェリーナ」印の話題作。
監督は英国の俊英(と呼ばれて久しい)マイケル・ウィンターボトム。
夫が誘拐されても冷静さを失わず、気丈に振舞う妻マリアンヌ(アンジェリーナ・
ジョリー)。夫を喪って慟哭はするけれど、テレビのインタビューでは「殺されている
のは夫だけではない」と誰も責めず、恨み辛みを嘆くことはしない。彼女があれほど
強く、寛容でいられるのは、未だ見ぬ我が子の為なのだろうか。

撮影中、自らも妊娠中であり、マリアンヌと親交があったというアンジーは、
特徴ある独特のアクセントとウィグ、ほぼノーメイクに近いやつれた姿で好演。
手持ちカメラと細かいカット割りで、臨場感溢れる映像も悪くは無い。しかし、
誘拐事件発生後はほとんどマリアンヌの(正確にはインド人記者アスラの)自宅で
物語が進行し、ドラマらしい盛り上がりやカタルシスには欠ける。勿論、実話で
あり最悪の結果を迎えた悲劇であるわけだから、エンターテインしろと言うつも
りはない。それでも、観ながら眠気を憶えたというのが正直なところ。マリアン
ヌがお経を唱えている場面で仰天し、眠気は吹っ飛んだのだけれど・・・。
9・11以降の世界は、国家、民族、宗教、様々な対立が止まない。アメリカ人
ジャーナリストを見ればCIAを疑い、ユダヤ人だと言えばモサドを疑い、中東系
の顔立ちを見ればアルカイダを疑う。疑心暗鬼と相互不信に、世界が包囲されて
いるかのようだ。誘拐、殺害、テロリズム。絶え間なき負の連鎖。
登場人物たちのその後を語るテロップによれば、殺害されたダニエル・パール
(『カポーティ』の脚本を書いたダン・ファターマンが演じている)の両親は、文化
相互理解の為の財団を設立したという。互いを知らない、無知から恐怖は生まれ、
憎悪へと煽られる。悲しみ、苦しみ、喪失の痛みを越えて、枠に囚われず互いに
「理解すること」。それこそが、今この世界に求められているのだと思う。
(『マイティ・ハート/愛と絆』監督:マイケル・ウィンターボトム/
製作:ブラッド・ピット/主演:アンジェリーナ・ジョリー/2007・USA、UK)
早く観たい、どうしても観たい~『ラスト、コーション/色|戒』

オフィシャルサイトはもうすぐオープンらしいのですが、特報(ドキドキ)、上映館
情報は見られます。コチラ⇒『ラスト、コーション/色|戒』
TOHOシネマズ系で全国公開とは言え、上映館が少ないですね・・・。上映のない
県もたくさんありますし。
アジアの影帝トニー・レオン主演、オスカー受賞のアン・リー監督、ヴェネツィア
映画祭金獅子賞受賞作であっても、かなりレイティングの厳しい作品ですから仕方
ないのでしょうか。観客層が限られますからね。。
来月にはアン・リー監督初めキャストも来日するようですが、トニーの来日は未定
のようですね。また原作本も集英社文庫より発売されますが、読んでから観るのは
止めておこうと思います。理想としては一度観てから原作を読んで再度鑑賞、なの
ですが、二回以上観に行けるでしょうか。。
上映は正月第二弾ということですが、2月かな? 遅いよ~。どうしてこんなに
日本でだけ公開が遅いのでしょうね? アメリカや香港などで既にご覧になった方
のレビューもネットにかなりアップされておりますが、もう、読むのを我慢するの
に必死です(笑)。
あ~、早く観たい! どうしても観た~い!!(叫)
永遠の一日~『マドモワゼル』

MADEMOISELLE
フランス南西部の都市、トゥールーズの市場を歩く一人の美しい「マダム」。買い物
を終え、車に戻った彼女がふと目を上げると、そこはトゥールーズ国立劇場だった。
公演を告げる「アルメンの赤い灯台」のポスターを目にしたとき、彼女の中に甦る鮮や
かな記憶・・・。
製薬会社に勤める営業社員クレール(サンドリーヌ・ボネール)と、即興劇団で全国
を回るピエール(ジャック・ガンブラン)。偶然の重なりから出逢い、再会し、離れら
れず、24時間を伴に過ごした大人の男女の、短くも永遠に心に残る恋の物語。オリ
ジナルも85分という短さであるらしいが、私が観たDVDは本編が73分弱。ちなみに
オランダのDVDバージョンは94分らしい。中編映画と言ってもいいほどの尺ながら、
薄っぺらさや物足りなさとは無縁の、心地良い余韻を残す大人な佳作。
レンタルDVDには『マドモワゼル 24時間の恋人』という副タイトルがついている。
この映画の中で語られた「灯台守の物語」がモチーフとなり、フィリップ・リオレ監督
が再びサンドリーヌ・ボネールを主演に撮ったのが『灯台守の恋』。互いに姉妹のような、
双子のような作品である。『灯台守の恋』に涙し、忘れられない作品となった私にとって
は大満足の映画でした。フランス映画、いいですね。。本当に、大人な作品です。

夫と二人の子の母であるクレールは、美しく仕事も有能、誰からも好かれる気さく
な女性。そんな彼女が一般的には「不倫」と呼ばれる行為に走る物語、と言えなくもない
のだけれど、画面からウェットな感触や悲観的な印象が微塵も感じられないのはどう
してだろう? それは恋愛先進国フランスの、成熟したお国柄から生み出される空気感
なのかもしれないな・・・、などと勝手に考えてみたりもする。
美しい「マダム」であるクレールが、ピエールとの時間、束の間「マドモワゼル」に戻
る。二人の出逢いは「運命」だった、なんて言うのは陳腐すぎる表現だけれど、ピエール
の何が、彼女を離れがたい気持ちにさせたのか。それは、もしあなたが女なら、彼女
を抱き締める「ジャック・ガンブラン」の表情を観ればわかるだろう。それは言葉や論理
では説明のつかない、根源的な本能とも言える感覚なのかもしれない。二人の出逢い
には思わせぶりな部分もあるけれど、私はピエールの「昨日の晩から」という言葉を信じ
たい。
本作でも、サンドリーヌ・ボネールは輝くばかりに美しい。この映画に「ジュテーム」
という言葉はない。約束も、誓いも、涙さえない。あるのは即興で紡がれた愛の物語
と、スクーターで走った風、回した腕の記憶。もう二度と交わることのないであろう
二人の人生、しかし「崖っぷち」にあった愛は確かに、成就したのだと思う。
(『マドモワゼル』監督・脚本:フィリップ・リオレ/2001・仏/
主演:サンドリーヌ・ボネール、ジャック・ガンブラン)
お知らせ~少しお休みします~
傷を抱え、共に生きる~『こわれゆく世界の中で』

BREAKING AND ENTERING
ロンドンの再開発プロジェクトを請け負う建築家のウィル(ジュード・ロウ)は、
キングス・クロス地区に新しいオフィスを構えるが、2度も強盗に入られてしまう。
私生活では10年来の同棲相手リヴ(ロビン・ライト・ペン)と、その娘ビーとの関係
に息苦しさを感じていた。
アンソニー・ミンゲラが故郷に戻り、現代の大都市ロンドンを舞台に人々が抱え
る様々な問題、とりわけ大人の男と女の、複雑な心の葛藤を描いた作品。彼の代表
作『イングリッシュ・ペイシェント』や『コールド・マウンテン』のような大作感はない
が、登場人物の心情を丹念に掬い取った繊細な作品となっている。主演は監督が
「制作上のパートナーのような関係」だと言うジュード・ロウ。白髪交じりのかつらを
着けても少年のような部分が見え隠れする、なんとも魅力的な主人公を等身大で演
じている。音楽はお馴染み、ガブリエル・ヤレド。淡い金色の光が包み込むような
映像も美しい。

特筆すべきは、ウィルを巡る二人の女性、リヴとアミラ(ジュリエット・ビノシュ)。
二人は共に問題を抱えた子の母であり、子どものためなら何でもしようとする、強
い女性。リヴの娘ビーは先天的な生き難さを抱えており、ウィルは「二人(リヴとビー)
の輪の中に入れない、そこは檻のようだ」と言う。ビーがウィルの子でないことを気に
かけ、全て一人で抱え込もうとするリヴ。そんな状況から、逃げ場を求めるウィル
の心情もわかる。彼が惹かれたのはボスニア難民のアミラ。壊れたものを繕う仕立
て屋であり、サラエボの生き地獄から生還した、何があっても生き延びようとする
強さを持つ女性。経済的に豊かではあるけれど、無機質で硬い雰囲気のリヴ、貧し
くとも色彩豊かで生命力を感じさせるアミラ。
彼女たちを演じる二人の女優が素晴らしい。苦しさを内に秘め、眼差しで語ろう
とするロビン・ライト・ペン。なんて雄弁な表情を持つ女優なんだろう!逞しさの
中に、孤独と辛い過去を隠すジュリエット・ビノシュ。「私がどんなに孤独だったか!」
静と動、寒色と暖色、娘と息子。対極にキャラクター造形された二人の女性に、見事
な演技力で命を与えたロビンとジュリエットに感嘆する。ウィルの同僚サンディを
演じたマーティン・フリーマン、その野性でウィルの心に揺さぶりをかける娼婦の
ヴェラ・ファーミガも印象的。マーティンは監督曰く「英国のフィリップ・シーモア・
ホフマン」、ヴェラ・ファーミガはケイト・ブランシェットに外見だけでなく、演技
のアプローチも似ているらしい。
自身も移民の子だと言うアンソニー・ミンゲラは、先進国における大都市と移民
の問題も控えめに提示する。古い街を再開発するように、人間関係も一度壊して、
また再生できるのか。主人公たちの選んだ選択には賛否両論あるだろう。雨が降る
と痛む古傷のように、人生には常に苦味がつきまとう。誰かと生きていくことを選
ぶならば、それは引き受けなければならない手形のようなものなのかもしれない。
(『こわれゆく世界の中で』監督・製作・脚本:アンソニー・ミンゲラ/
主演:ジュード・ロウ、ジュリエット・ビノシュ、ロビン・ライト・ペン/
2006・UK、USA)
ラン、ドントウォーク~『走ることについて語るときに僕の語ること』

専業作家としてのキャリアと同時に、マラソンランナーとしてのキャリアも積ん
できた村上春樹。彼が自らに正面から向き合い、「走ること」「書き続けること」につ
いて真摯に書き下ろした「メモワール(個人史)」。
『走れ、歩くな。』というタイトルで「走ること」についての本を出す、というのは、
かなり前から村上朝日堂で予告はされていた。だからファンとしては「遂に出たか!」
という感じ。タイトルは、レイモンド・カーヴァーの著作であり、村上による訳書
『愛について語るときに我々の語ること』のもじり。テス・ギャラガーにきちんと許諾
を得ているというところが、また村上春樹らしい。
私のような運動嫌い、生来のナマケモノからすれば、自らの肉体をいじめ、敢え
て苦しい「走ること」を続ける感覚はよくわからない。よくわからないけれど、作家と
いう職業を続けていくために、村上氏が自らの肉体と「対話」しなければならなかった
のだ、ということはわかるような気がする。「腹が立ったら自分に当たれ、悔しかった
ら自分を磨け」という彼の人生訓。群れず、逃げもせず、孤高な場所にいながら決して
孤独ではない、村上春樹という作家のなりたち。
サロマ湖100キロウルトラマラソンを走ったときの、村上春樹の述懐が興味深い。
限界を超えた肉体の苦痛から「抜けた」ときの彼の境地は、私(たち)が彼の小説を
読んでいるときの独特の感覚に似ている気がした。頭がクリアになって、水の中を
潜っているような、異界に迷い込んだような静けさ。こんな場所に連れ出してくれ
る日本人作家を、私は他に知らない。それは彼の才能の賜物でもあり、日々の努力
の成果でもある。
こうして同時代に村上春樹の作品が読めることに、改めて感謝したい。
(『走ることについて語るときに僕の語ること』村上春樹・著/文藝春秋・2007)
今年の顔~The Sexiest Man Alive 2007
米People誌恒例、「最もセクシーな男」が発表されましたね。今年はこの方。

Matt Damon
The Sexiest Man Alive
2007
『ボーン・アルティメイタム』ジェイソン・ボーン役の超人的アクションも記憶に新し
い、マット・デイモン。
マットと言えばディロン派だった私も『グッド・シェパード』で彼の魅力に開眼しま
したのでもちろん異存はございませんが、彼は「セクシー」っていうのとはちょっと
違う気もします。「質実剛健」って感じかな。
しかしここ数年の彼の活躍ぶりは、誰もが認めるところだと思います。今、ハリ
ウッドが「最も求めている男」なのかも?しれません。
今後も頑張って下さ~い、応援してますヨ♪

Matt Damon
The Sexiest Man Alive
2007
『ボーン・アルティメイタム』ジェイソン・ボーン役の超人的アクションも記憶に新し
い、マット・デイモン。
マットと言えばディロン派だった私も『グッド・シェパード』で彼の魅力に開眼しま
したのでもちろん異存はございませんが、彼は「セクシー」っていうのとはちょっと
違う気もします。「質実剛健」って感じかな。
しかしここ数年の彼の活躍ぶりは、誰もが認めるところだと思います。今、ハリ
ウッドが「最も求めている男」なのかも?しれません。
今後も頑張って下さ~い、応援してますヨ♪
初ボーンでも大丈夫~『ボーン・アルティメイタム』

THE BOURNE ULTIMATUM
「全て思い出した」
記憶を失くした元CIA諜報員ジェイソン・ボーン(マット・デイモン)。過去の
自分、究極の暗殺者となる以前の自分を取り戻すべく世界中を駆け巡っていた彼
は、遂にニューヨークに戻ってくる。
マット・デイモン主演の「ボーン」シリーズは初見。前知識はほとんど無しのまま
の鑑賞となったが、大いに楽しめました。しかし予習して臨んだなら、もっと楽
しめたと思う。マット・デイモンがここまで「動ける」俳優だとは知らなかった、嬉
しい驚き。緊迫感溢れる映像もスタイリッシュで、アクション映画として素晴ら
しい出来だと思う。
ここ数年、マット・デイモンの活躍は目覚ましい。主演作が立て続けに公開さ
れ、つい先日もCIA設立譚である『グッド・シェパード』を観たばかり。この映画で
は同じCIA諜報員でも頭脳派幹部を演じていたけれど、あっと驚く肉体派への変貌、
その演じる役の幅広さはお見事! 今のハリウッドで、彼が若手俳優のトップに
君臨しているのは間違いないだろう。

映画はモスクワに始まり、ロンドン、パリ、スペイン、モロッコ(タンジール)、
そしてニューヨークへと世界を巡る。時折フラッシュバックするボーンの失われ
た記憶、彼を追うCIA本部内の緊迫した様、駅の雑踏や家屋密集地帯での逃亡劇、
迫力あり過ぎのカーチェイスなど、もう見どころタップリで全く飽きさせない。
ドキュメンタリータッチのハンディカメラ、細かいカット割りで見たことが無い
ほどスピーディな映像は、動態視力が追いつかないほど。
ジェイソン・ボーンは最強の殺人マシーンであることは間違いないのだけれど、
その強さが生身の人間らしいところがいい。コンピュータを巧みに操ったり、銃
をぶっ放すだけでなく、その腕っぷしと回し蹴りで、アナログに敵をノすのがカ
ッコイイんだ!CIAの面々も、デイヴィッド・ストラザーン、スコット・グレン、
アルバート・フィーニーと、なんとまぁ渋い芸達者を揃えていること。1シーン
だけ登場するダニエル・ブリュールがフランカ・ポテンテの兄、というのだけが
ちょっと。。弟なら納得だけど(笑)。
事件の始まりは、CIAのキーワード傍受。世界の通信網を監視し、暗殺に拉致
に盗聴、CIAって恐ろしいところなんだ・・と今更のように身震いしてしまった。
彼らは「国を守る」という大義名分の下に存在する組織だけれど、ボーンのような
暗殺者を生み出したり、暴走したときの歯止めはどうなっているんだ、と思う。
もちろんこの映画はフィクションではあるけれど、ひょっとしたら現実は映画の
もっと先を行っているのかもしれない。
三部作はこれで完結、らしい。しかしニッキー(ジュリア・スタイルズ)と一緒に
観客も思わずニヤリ、のラストを観る限り、続編は十分あり得る作りになってい
る。マット・デイモン&ポール・グリーングラス監督に、また再登板願いたい。
(『ボーン・アルティメイタム』監督:ポール・グリーングラス/
主演:マット・デイモン、ジュリア・スタイルズ/2007・USA)
テーマ : ボーン・アルティメイタム
ジャンル : 映画
映画好きの端くれとして~『オリヲン座からの招待状』

昭和25年の開館以来、57年に渡って映画をかけ続けた京都の小さな映画館、オリ
ヲン座。館主であり、映写技師でもあった松蔵(宇崎竜童)の死後、その妻トヨ(宮沢
りえ)と見習いの留吉(加瀬亮)が極貧の中で守り続けた灯火も消えるときを迎えた。
閉館と最終興行の知らせが、かつてオリヲン座で遊んだ祐次(田口トモロヲ)と良枝
(樋口可南子)夫婦の元へも届く。
浅田次郎氏の直木賞受賞作『鉄道員』に収録されている短編の映画化。宮沢りえと
加瀬亮の共演作、映画館が舞台ということで、是非劇場で観たいと思っていた。
恩人の妻であった美しい未亡人を一途に愛し抜いた青年の純愛を描いた、静かな
良作であったと思う。
「女優」としての宮沢りえの素晴らしさを、改めて感じた。少女性を残した儚げな
雰囲気と、変わらぬ美しさ。内に秘めた強さも瞳に宿した、いい女優さんだとつ
くづく思う。出演作が目白押しの加瀬亮くんも、こんなに男前だったかと再認識。
映画への思い、トヨへの揺ぎ無い愛を、細身の身体全体で訴えかけてくる。二人
の愛も、映画という灯りも、蛍のようにぼんやりと弱く--、しかし確かにそこに
在ったのだ。

頑固一徹な映写技師と見習い、映写室へ出入りする子どもたちは、『ニュー・シネマ
・パラダイス』を連想させる作り。満員だったオリヲン座が、テレビの普及とともに
斜陽産業となり、留吉とトヨが売店のアンパンで食事を済ませる場面がいい。入場料
が「大人70円、子ども35円」そんな時代があったのですね・・・。
昭和30年代の町の様子は丹念に再現され、京都の川べりの緑に風が吹き渡る情景
も美しい。真摯に作られた映画であることは十分伝わってくるのだけれど、幼い日
の祐次(小清水一揮)が登場したとき、目を疑ってしまった。まさか、いやこの鼻声は
間違いない、鈴木オートの一平くんじゃないか・・・。
田口トモロヲにどことなく似ていて、昭和30年代顔の子役って、他にいなかった
のだろうか? まさか同一公開日の大ヒット映画の続編(しかも同時代な作品)に出演
している子役を起用するとは・・・。ここで、なんだか興醒めしてしまった。残念!
モノクロの8ミリ映像まで同じなのには驚いたけれど、これは仕方ないか。
閉館の挨拶をする留吉(原田芳雄)の「映画人の端くれとして・・」という言葉に胸
が詰まる。今はシネコン全盛、DVDデジタルの時代で、オリヲン座のようにアナログ
な映画館は失われつつある。私も「映画好きの端くれ」として、この映画を劇場で観た
ことに少し、価値があるように思えた。
(『オリヲン座からの招待状』監督:三枝健起/原作:浅田次郎/
主演:宮沢りえ、加瀬亮/2007・日本)
小さな宝石~『愛されるために、ここにいる』

JE NE SUIS PAS LA POUR ETRE AIME
父の跡を継ぎ、裁判所の執行官を勤めるジャン・クロード(パトリック・シェネ)は
バツイチの50歳。医者から運動を勧められ、事務所の向かいのタンゴ教室に通い始
める。そこで出会ったのは、彼の母が子守をしていた女性、フランソワーズ(アン・
コンシニュイ)。互いに好意を持つ二人だが、フランソワーズには同棲中の婚約者
がいた。
フランスで「小さな宝石」と称えられ、半年以上のロングランヒットを記録したとい
う本作。派手さは全くないけれど、独特の抑制された間を保った粋な小品。頭髪は
薄く、眉間に深い皺の刻まれた「仏版ビル・ナイ」といった風情のパトリック・シェネ
と、『灯台守の恋』のアン・コンシニュイとの、オーバー40な大人の恋物語。可憐と
言っても過言でないと思うほどかわいらしいアン・コンシニュイは、プロフィール
によると1963年生まれ!驚きの若さと美しさ。

タンゴを聴けば、台所で踊っていたウィンとファイを思い出してしまうのだけれ
ど・・・。なんと官能的なダンスなのだろう。これは好きな人とじゃなきゃ絶対、踊り
たくない! フランソワーズが、しつこく言い寄ってくる男とは二度と踊りたくな
い気持ちもよくわかる。
結婚間近なフランソワーズが、マリッジブルーであったことは間違いないと思う。
しかし、ダンス教室で一目見てジャン・クロードを思い出した彼女。幼い「ファンファン」
にとって、彼は「テニスの王子様」に見えていたのかもしれない。きっと憧れの人だった
のだろう。フランソワーズの姉や母の、結婚への介入ぶりは意外。フランスはもっと
個人主義なのだと思っていたから、家族を思って式を挙げるなんて驚き。
ジャン・クロードと老いた父とのエピソードがいい。老人施設に入所する老父を
毎週末訪れ、モノポリーの相手をする。去り際、車に乗りこむ前に必ず父の窓を見
上げる仕草、カーテンの影から彼を見送る父、父が隠して飾ったトロフィーを見つ
けても泣き崩れないジャン・クロードに、なんとも言えないリアリティを感じてし
まった。ウェットに流れない淡々とした演出が、親子の深い情や絆をより強く感じ
させてくれたと思う。
ジャン・クロードの父は誰よりも愛を求めていたのに、素直になれなかったのだ
ろう。求め方が間違っていたのかもしれない。執行官という辛い仕事が、長年に渡
って心をすり減らし、やさしさや嗜みというものを奪っていったのかもしれない。
犬連れの秘書と植物好きな息子、孤独な人が集ったような事務所で、それぞれが
大事な選択をする。素直になれなかった父を送り、素直になったジャン・クロード
がフランソワーズと踊る幕切れ。粋です。こんな映画がロングランヒットするフラ
ンスって、いいですね。大人な国なのかな。

(『愛されるために、ここにいる』監督・脚本:ステファン・ブリゼ/
主演:パトリック・シェネ、アン・コンシニュイ/2005・仏)
TVツレヅレ~『情熱大陸』『SP』
我が世界の果て~『灯台守の恋』

L' EQUIPIER
1963年6月、フランス・ブルターニュ地方の島。灯台守のイヴォン(フィリップ・
トレトン)とその妻マベ(サンドリーヌ・ボネール)の元に、灯台守の代替要員として
アルジェリア戦争の帰還兵アントワーヌ(グレゴリ・デランジェール)がやってくる。
目と目が合ったとき、一瞬で恋に堕ちるアントワーヌとマベ。
「昔から君を知っている気がする」
それは「どんなに時が経とうとも君を忘れない」という誓いの言葉でもある。決して
終わることの無い、生涯一度の恋。忘れられない恋をすることは、悲しみを抱えて
生き続けることでもある。
閉鎖的な島の男たちに「よそ者」と呼ばれ受け入れられずとも、微笑を絶やさない
アントワーヌ。いつも静かに微笑んでいる人は、きっと誰よりも多くの悲しみを
胸に抱えた人なのだろう。そんなアントワーヌを敬遠しながらも、心惹かれる島
の人々。彼の孤独や痛み、やさしさを一人理解しながら「(懐くのは)猫だけじゃな
い、みんなそうだ」と言うイヴォンの哀しみ。「みんな」とは誰でもないマベのこと、
イヴォンにはマベが世界の全てで、生きるよすがなのだから。

イヴォンは、これからの人生でたとえどんなことがあっても、「地獄」で暮らそうと
もマベを愛し抜く、と自分に誓っていたのだろう。それはイヴォンが自らに課した
十字架のようにも思える。教会に並ぶイヴォンの椅子は、彼がマベを思い続けた年月
であり、その重みにアントワーヌは圧倒される。
一人娘カミーユ(アンヌ・コンシニュイ)を溺愛したというイヴォン。彼は心底娘を
愛したのだと思う。それはマベが愛したものは全て自分も愛そうとした、不器用だ
けれど素朴で大きな包容力を持った、イヴォンの生き方。
マベもまた、イヴォンを愛していた。それでも「ここではない何処か」へ行くことが
叶わなかった人生を諦観しながら、どこかやり場のない焦燥を抱えているマベ。
あの夏の日から何十年の後、イヴォンとマベは逝き、灯台は自動化され、アコー
ディオンだけが残された。アントワーヌは生涯マベへの思いを胸に抱き、その思い
は一冊の本となる。自身も妻となり、娘の母となったカミーユは、両親ともう一人
の「父」の思いを受け入れる。
誰かの思いが、何十年もの歳月を経て、受け入れられるべきものに受け取られる
素晴らしさ。恋や人生は時に辛い、しけの海のように。しかし人間の様々な側面、
許されない恋、秘めた思い、あるいは裏切り--それらを受容できる人の人生は、
きっと心安らかなものに違いない。イヴォンの人生も、カミーユのこれからの人生
も、穏やかなものであったと信じたい。
マベを演じたサンドリーヌ・ボネールは限りなく美しく、アントワーヌを演じた
グレゴリ・デランジェールはジェラルド・バトラーに似た面差しで、二人の思いが
ただの情事でなく、運命的な恋だと信じさせてくれる。風が吹きすさぶ荒れた海に
も、凪いだ海にも、そこにあなたがいると導いてくれる灯りがあれば、きっと生き
ていける。
いい映画でした。泣いた。

(『灯台守の恋』監督・脚本:フィリップ・リオレ/主演:サンドリーヌ・ボネール、
フィリップ・トレトン、グレゴリ・デランジェール/2004・仏)
「つくりもの」のやさしさ~『ALWAYS 続・三丁目の夕日』

昭和34年、完成した東京タワーに程近い夕日町三丁目。駄菓子屋を営む文学
青年茶川(吉岡秀隆)は淳之介(須賀健太)と暮らしている。淳之介の実父から安定
した生活を保障するよう求められた茶川は、夢だった芥川賞獲りを宣言する。
一方、向かいの鈴木オートでは親戚の娘、美加を預かることになった。
前作から2年、待ちに待った夕日町三丁目への再訪。素朴で人情味溢れる人々
との再会は、やはり涙・ナミダでありました。
冒頭、ラジオの警戒放送が流れる中、避難する鈴木家の人々。オート三輪に乗
った鈴木(堤真一)が目にしたのはなんと、東京タワーを破壊するゴジラ!自宅を
破壊された鈴木が、怒りのあまり『大日本人』になる。。いきなり場内は大爆笑、ツカミ
はオッケー!堤さん大好きだ~(叫)。
淳之介の父(小日向文世)が茶川の小説をこう批判する場面がある。「甘いよ。現実
はこんなもんじゃない」
この映画も、もしかしたら同じように批判されるのかもしれない。甘い、ベタだ、
予定調和だ、非現実的過ぎる・・・。でも、この映画に関してだけは「それのどこが悪い?」
と私は言いたい。現実が厳しくて辛いから、映画や小説で夢見たいんじゃないか。
この時代を知らないはずの山崎貴監督が創り出した物語とVFX映像は旧くて新しく、
「つくりもの」としての慈愛とやさしさに満ちている。六子(堀北真希)は茶川の小説
を評して「なんだが、ごごろ(心)があっだがく(温かく)なるような」と言う。それ
でいいじゃないか。

キャストの演技は、前作よりも数段よくなっているように感じた。特に鈴木(堤真一)
とトモエ(薬師丸ひろ子)の夫婦がいい。夫婦それぞれが、戦争によって心を残さざる
を得なかったものに思いを馳せる。トモエは本当にいいお母さんだけど、彼女にも
秘めた思いがあったのだな・・・。一平を含めた三人が、本当の家族のように見える。
これはチームワークというものだろうか。美加の「お母さん」にも涙、ナミダ・・・。
淳之介の父(小日向文世)は悪役として描かれてはいるけれど、彼も彼なりに子を思
う親心から茶川を批判するのであり、根っからの悪人ではない。前作では氷屋さん
だったピエール瀧が、アイスキャンディーを売って頑張っていたのもうれしい。
タバコ屋の看板娘(婆?)、もたいまさこの存在感も増している。淳之介役、須賀健太
の背が伸びて、一平と同級生という設定はちょっと辛かったのは仕方ないか。
夕日に染まる東京タワー、三人で見る夕日の美しさ。BUMP OF CHICKENの
『花の名』が流れるエンドロールでは満員の観客が誰も席を立たず、歌詞がまた涙を
誘う。モノクロの8ミリ映像に、撮影する鈴木のやさしさをしみじみと感じる。
ヒロミ(小雪)、ホントによかったね、引き返してきてくれてありがとう・・・。
もしもまた続編があるならば、宅間先生(三浦友和)に新しい家族を。村上春樹だっ
て芥川賞獲ってないんだよ、頑張れ、茶川!
(『ALWAYS 続・三丁目の夕日』監督・脚本・VFX:山崎貴/
主演:吉岡秀隆、堤真一、薬師丸ひろ子、小雪、堀北真希)
テーマ : ALWAYS 続 三丁目の夕日
ジャンル : 映画
跳べ!~『クローズ ZERO』

crows-ZERO
黒いガクラン姿の不良たちが集まる鈴蘭男子高等学校の入学式、一人の転入生が
やってくる。ヤクザの組長である父親さえも取れなかった「鈴蘭の天頂(てっぺん)」
を目指し、自らの手で学内を制覇しようとする源治(小栗旬)。待ち受ける歴戦のツワ
モノたちとの、誇りと友情を賭けた喧嘩(バトル)が始まる・・・・・・。
小栗旬くん、カッコイイ~~~~!!(絶叫)。
この映画タイトル、『クローズ』はcloseじゃなくてcrowsなんですね、タイトル
バックが出て初めて気付きました(汗)。黒いガクラン着たカラスたち。

ブログのお友達だけでなく、リアル友達でも「オグシュン、かっこいい~」と言って
いるコ(オーバー30ですけど)が多いんです。私は正直、さほど興味はなかったのだけ
ど・・・、やっぱり、みんなに言われると気になるじゃないですか?ミーハーとしては(笑)。
結構楽しめた『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』の三池崇史監督だし、封切り第一週
は興行成績一位を取ったらしいし、これは観ておかねば・・・、と劇場へ。シネコン
は長蛇の列だったのですが、ほとんど三丁目方面に流れてこちらはそこそこの入り。
黒い特攻服にタオル鉢巻姿の若者などもチラホラ。エンケンさんのアップで本編が
始まります。
小栗旬くんもうすぐ25歳、カッコイイです。。とにかく背が高くて、スタイルが
いい!足、なっがあぁ~。。正統派二枚目フェイスというわけではないのだけれど、
すっきりとした切れ長の瞳、スクリーン映えするその立ち姿!オーラが出てました。
眼光も鋭く、闘争本能を剥き出しにして肩をいからせる源治だけれど、何故か母性
本能をくすぐるようでもあり・・・。う~ん、カッコイイなぁ。。演出家の蜷川幸雄氏
は小栗旬をこう語り、絶賛しています。
「オレはみんなが騒ぐ前から小栗を発見していた。今の人気は当たり前だと思っている。
悪そうで、利口で、セクシャルで、芝居のうまい男だ」
物語は、今や絶滅危惧種なんじゃないか?と思うほど熱い、アツ~イ男子たちの
バトル・ロワイヤル。『電車男』山田孝之くんが鈴蘭最強の男、ってどうなん?と思っ
ていたのだけれど、ビンボーでも、背が低くても、友情に厚くて信義を重んじる芹沢
多摩雄に結構はまっていました。源治と心を通わせる鈴蘭OBのチンピラ、拳さん(やべ
きょうすけ)もいい味。クソッタレな人生だけど、夢を託せる男に出会えて幸せだ、
ってところは共感できたなぁ。源治も多摩雄も、「男が惚れる男」なんですよね。
流血や殴り合いの本気度は半端じゃないけれど、最後まで誰も死ななかったのも
好印象。冒頭シーンで冷血な男だったエンケンさんも、実は・・・ってところもよか
った!源治の父(岸谷吾朗)の部屋のインテリアなんかも妙にリアルでした、あの雑多
な感じが。ラストのリンダマンとのバトル、「跳んだ」後、源治は天頂取れたのでしょ
うか? あのストップモーションもカッコイイ!
『おしゃれイズム』『スマスマ』はチラリとしか観られなかったのですが、11日に
放映予定の『情熱大陸』、最高画質で録画してしまうかも?しれません(笑)。そして
今年一番観逃して悔しい映画は『キサラギ』に確定(泣)。
(『クローズ ZERO』監督:三池崇史/2007・日本/
主演:小栗旬、やべきょうすけ、山田孝之、黒木メイサ)
阪急沿線のひと~『宙飛ぶ教室』

名著『結婚の条件』の著者、小倉千加子氏による最新刊。タイトルからして講義録
のような内容を期待していたのだけれど、身辺雑記のようで決して学術的な内容
ではない。しかし時折、キラリと光る考察の欠片も垣間見られる。
小倉千加子といえば誰もが認めるであろう、日本を代表するフェミニストの論客
の一人。『結婚の条件』は2004年に私が読んだ本の中で、最も印象に残る一冊だった。
少子晩婚化を憂う政治家の方々全員に、この本を読んでいただきたいと思ったほど。
同じ年に、女性を「負け犬・勝ち犬」とカテゴライズする分かり易さが大ブームとなっ
た酒井順子氏の『負け犬の遠吠え』が出て、その影に隠れてあまり注目されなかったの
が個人的にとても残念だった。未読の方は是非読んでみて下さい。
日本を代表する知性のような小倉先生でも、自分のしている仕事が「虚業」であり、
「実業」ではないことに劣等感を抱いているようで心底驚いた。そして実家が経営し
ている保育園の事務をやったりするのだ(これは「働く母と保育園児」に対するフィー
ルドワークなのかもしれないけど)。
大阪が好きで、阪神タイガースも阪神間という場所が持つ独特な空気と文化も
愛しているけれど、やっぱり東京に出なければ・・と思う気持ちはよくわかる。
もっとも小倉先生の場合「阪急沿線の人」であり、関西圏以外の人がイメージするで
あろう「コテコテの大阪人」とは少し異なるのだけれど。
私にとっては「関西アーバン銀行の人」だった元宝塚宙組トップスター、和央ようか
への入れ込み方も半端ではない。宝塚を全く知らない、興味のない人にとっては
まさしく「あなたの知らない世界」であろう。(ちなみに私は一度だけ観たことありま
す、宝塚。涼風真世のサヨナラ公演だった。天海祐希が抜きん出て目を引いたのを
よく憶えている)
もう一冊『シュレーディンガーの猫-パラドックスを生きる』。こちらは様々な
媒体への寄稿文をまとめたエッセイ集。山本文緒氏との対談など、盛り沢山でこち
らも楽しめました。

『シュレーディンガーの猫-パラドックスを生きる』
/小倉千加子・著
/いそっぷ社・2005
(『宙飛ぶ教室』小倉千加子・著/朝日新聞社・2007)
英国の中のもう一つの国~『アナザー・カントリー』

ANOTHER COUNTRY
1983年、モスクワに一人の女性ジャーナリストがやってくる。彼女がインタ
ビューするのは、年老いた英国紳士。特権階級に在りながら、スパイとしてソビ
エトに亡命した彼の、昔語りが始まる・・・。
1930年代、英国上流階級の子弟が通う全寮制のパブリック・スクール。最上
級生たちの関心の的は、寮長・幹事など、学校を自主運営する自治会の人事だった。
『資本論』を読み、共産主義に傾倒するジャド(コリン・ファース)と、成績優秀な
がら同性愛者としての一面も持つガイ(ルパート・エヴェレット)は、傍から見れば
奇妙な友情で結ばれていた。
選ばれた者たちだけが「入国」できるパブリック・スクールという場所の内情を
描いた、コリン・ファースの映画デビュー作であるこの作品。ずっと探し続けて、
もうネットレンタルに頼るしかない、と思っていた。ところが近場のレンタル店
で「旧作入荷」の棚にDVDを発見!思わず心拍数が上がってしまった(笑)。しかも
レンタル中だったということは、密かに探していた人が多いのかも・・・。コリン
もルパートも若く見目麗しく、キラキラと輝いている。しかしコリンの低い声、
気難しげな横顔は、驚くほど変わっていない。

英国の美しく短い夏が、同じく美しい青年たちとともに切り取られた絵画のよ
うな映像。柔らかい光、白いユニフォーム、月夜に浮かぶボート。都会の喧騒と
は別世界の、選ばれたものしかその中に入れないもう一つの国。見た目には楽園
のようなその国でも、内部では様々な権力闘争や政治的駆け引きが行われている。
この国で上に立つものは、英国での出世コースに乗ることができるのだ。
帝国主義を批判し、革命を信じるジャドにも、ブルジョワ的野心を隠そうとも
しないガイにも、それぞれに若さ故の青臭さを感じる。特権階級にありながら自
らを異端だと自覚し、メインストリームから距離を置くジャド、フランス大使の
夢に賭けているガイ。その夢が砕けたとき、涙ながらに自身のセクシャリティを
宣言し心情を吐露するガイと、精神的に彼を受け止めるジャドが切ない。
戯曲の映画化であるこの作品、舞台のモデルは英王室の子弟も通う名門中の
名門、イートン校であるという(ロケは許可しなかったらしい)。しかも主人公
ガイは実在した人物で、ケンブリッジ大学在学中から諜報活動に従事、50年代
にソビエトへ亡命したスパイだったとDVD解説で知り、驚愕してしまった。
最後に「クリケットがしたい」とつぶやくガイは、青春の蹉跌から国を捨てて
も、上流階級の人間として生涯を全うするのだろう。内容もさることながら、
「ああ、私は今あの『アナザー・カントリー』を観ているんだ・・」という感動
に浸った90分間だった。
(『アナザー・カントリー』監督:マレク・カニエフスカ/
主演:ルパート・エヴェレット、コリン・ファース/1984・UK)
復讐の後に~『サイボーグでも大丈夫』

I AM A CYBORG, BUT THAT'S OK
風変わりな精神病院を舞台に、自分をサイボーグだと信じる少女ヨングン(イム・ス
ジョン)と、他人のものは何でも盗む、アンチソーシャル(社会不適合)な青年イルスン
(チョン・ジフン)との間に繰り広げられる、ちょっとシュールなラブコメディ。
『JSA』、復讐三部作で世界に名を馳せた韓国の名匠、パク・チャヌク監督待望の新作
ということで、久々の韓国映画劇場鑑賞。作品のテーマカラーと思われるグリーンの
歯車に、ハングル文字が浮かび上がるオープニングにワクワクさせられる。
妄想系ラブコメディとして真っ先に思い浮かぶのは、「永遠の12歳」ことミシェル・
ゴンドリーの『恋愛睡眠のすすめ』。夢とリアルが逆転している妄想青年ステファンを
あくまでラブリーに描いたあの映画に対し、こちらは愛する肉親から引き離された
トラウマ故に、リアルで妄想している青年と少女をポップかつシュールに描く。

一見ファンタジーの形を取ってはいるもののそこはパク・チャヌク、暴力描写は
やっぱり抜かりない。目を背けたくなるようなヨングンの自殺未遂シーンに始まり、
憎きホワイトマンたちを蜂の巣状態にする「指先から散弾銃」な場面は圧巻。しかしそ
れらはあくまでディテールで、基本的には壊れ行くサイボーグ・ヨングンと、彼女
を自分なりの方法で救おうと奔走するイルスンの一生懸命な恋物語が展開する。
自分を機械だと思い込み、食事代わりに乾電池を舐め「充電」するヨングン。「ご飯
食べた?」が挨拶がわりの韓国で、食べないということは日本以上に大きな意味を
もつのだろうな、と想像する。ヨングンから同情心を盗んだイルスンが、彼なりの
方法でヨングンにご飯を食べさせる場面がいい。もっとも彼が盗んだのは「同情心」と
言うよりはむしろ「共感力」「共鳴力」という感じ。
主演のチョン・ジフン、イム・スジョンはともに初見。イム・スジョンはかなり
美しい容姿の持ち主らしいが、脱色眉毛にガリガリに痩せた身体、ウィッグバリバリ
のボサボサ頭に入れ歯までして女優根性を見せてくれた。一方、歌手の「ピ(Rain)」
として日本でも名の知れた存在であるチョン・ジフンも、身体能力の高さを感じさ
せるしなやかな身のこなしで、映画初主演とは思えない演技を披露してくれている。
脇役陣も「SK-Ⅱ」命のコプタンとか「申し訳なくて前向きに歩けない」キャラだとか
もう、爆笑モノ。しかし場内、笑っているのは私だけだったような・・。全体的に、
ちょっと引いている雰囲気があったような気がする。
一つ一つのエピソードは面白いし映像も凝っているのに、全体としてテンポが遅く、
間が悪い印象だったのが残念。これはシュールな世界を表現するために、故意にそう
したのだろうか? 今まで観たパク・チャヌク作品には強烈で過剰な物語性があった
けれど、その強烈さが薄れている分、説得力に欠けるような気がするだけだろうか?
ハングル文字が映し出される場面が多かったのに、意味がわからなくて残念に思う。
もう少し、工夫して字幕を挿入して欲しいかな・・。というのは韓国語学習挫折者の
ワガママでしょうか。
((『サイボーグでも大丈夫』監督・脚本:パク・チャヌク/
主演:チョン・ジフン、イム・スジョン/2006・韓国)
境界を越える~『ブレイブワン』

THE BRAVE ONE
エリカ(ジョディ・フォスター)はニューヨークの街を愛し、自ら録音した街の音を
ラジオ番組でリスナーに届けるパーソナリティ。ある夏の夜、愛犬と婚約者のディ
ヴィッド(ナヴィーン・アンドリュース)と夜のセントラルパークを散歩中、三人組の
暴漢に襲われディヴィッドは死亡、エリカも意識不明の重傷を負う。ディヴィッド
の不在と警察の対応に絶望したエリカは、自ら生き抜くため、違法に銃を入手する・・・。
アメリカを代表する演技派女優、ジョディ・フォスターが主演と製作総指揮を務
めた犯罪ドラマ。サスペンスでもあり、心理劇でもある本作は、主人公の行為や選
んだラストが議論を呼ぶことは容易に想像できる。心身に傷を負い、生きるために
手にした一本の銃が、人間そのものを変えてゆく。「美しさは私にはわからない、リアル
な人間を演じたい」と言うジョディの、強さと弱さ、善と悪、対極にあるものを内包
した繊細かつ渾身の演技が胸に痛い。監督はニール・ジョーダン。

エリカの行為を許されない蛮行だと言う人もいるだろう。確かに、彼女のした事
は法を遵守する警察の「代行」などでは決してなく、許されざる行為だ。常識的に
は彼女を批判するべきだろう。
ジョディ・フォスターがそうであるように、エリカは精神的に自立した女性だ。
婚約者を喪っても、彼女には「自殺」という選択肢はない。上司のキャロル(メアリー
・スティーンバージェン)が訝るほど、早々に仕事に復帰しようとする、生きるために。
「女は絶対に顔を撃って自殺しない、心臓を撃つ」というセリフにエリカの結末がある
のかと怖れたが、彼女は最後まで生き抜こうとする。
理不尽な暴力に晒されたとき、悪いのは向こうだ、自分は悪くない、と考えて強
く生きるのが善い人間なのだろうか? 誰でも恐れ、傷つき、世界が一変してしま
ったように感じるのではないか。エリカは決して善ではない、しかし生き抜く強さ
を手に入れるために、彼女自身が悪を持って悪を征するしかなかったのかもしれな
い。影のようにエリカを見守るアフリカ出身の隣人は言う、「銃を持てば、誰でも境界
は越えられる。けれど死は、心に空洞しかもたらさない」。銃を手にしても失いこそす
れ、何も得られなかった。復讐することで終わらせるのではなく、その先にたとえ
困難でも、生きることを選択するエリカ。しかし昔の彼女には、二度と戻ることは
ない。彼女は最後に「(銃を撃つと)手が震える」自分を取り戻した。彼女が銃を手に
することは二度とないだろう。
エリカと友情を育むマーサー刑事(テレンス・ハワード)がいい。こんないい男と別
れた奥さんの気が知れない(笑)。虚しさを抱えた二人の友情が、安易に愛情へと変化
しないところもいい。しかしこのカタカナ邦題、なんとかならなかったのだろうか。
(『ブレイブワン』監督:ニール・ジョーダン/製作総指揮・ジョディ・フォスター/
主演:ジョディ・フォスター、テレンス・ハワード/2007・米、豪)