歌姫参上!~『ドリームガールズ』

本作がデビューとなる新人、ジェニファー・ハドソンがアカデミー助演女優賞を
はじめ、各賞総なめにした話題のミュージカル映画。1960年代のアメリカ、デトロ
イト出身の女性コーラスグループ『ドリーメッツ』のサクセスストーリーに絡む友情、
愛憎、喝采の物語。全編ソウルフルなR&Bのオンパレードで、豪華なキャストによる
極上の歌とダンスの波状攻撃が堪能できる。
カリスマ的なルックスの持ち主だけれど、声に深みがないディーナ(ビヨンセ)、誰
にも負けない声の持ち主だけれど、ルックスがいいとは言い難いエフィ(ジェニファー
・ハドソン)。もう一人のメンバー、ローレルを加えた三人組『ドリーメッツ』のリード、
センターは常にエフィだったが、敏腕マネージャーのカーティス(ジェイミー・フォックス)
により、ディーナがリード&センターに抜擢される。
・・この展開に、我らが日本の「キャンディーズ」を思い出してしまったのは私だけで
しょうか? 昔々、スーちゃんがセンターの頃は啼かず飛ばずだったキャンディーズ
が、ランちゃんをセンターにしたら大ブレイク。スーちゃん派(笑)だった私は、子ども
心になんだか納得いかなかった覚えがある。でも、今になって昔の映像なんかを観る
と、やっぱりランちゃんがかわいいんだよね・・。スーちゃんはエフィほどオーバー
サイズではないけれど、ちょっとアイドルにしては太め。そしてミキちゃんは地味だ
けど実力はあるローレルのポジション。映画を観ながら「スーちゃんも当時は辛かったの
かなぁ」などと思ってしまった。どこの国でも、芸の道はシビアですなぁ。。
と、そんなことはどうでもいいのだが(笑)、ジェニファー・ハドソンである。これだ
け話題になっているのだから、一体どんな歌声を聴かせてくれるのか?と期待も膨ら
むというもの。果たして、その期待は全く裏切られない!まぁ~物凄い声ですよ。声
量がすごい。自信家で我がままなゆえに切られ、落ちぶれてしまう役どころだけれど、
捨てられた男に黙って、一人で子を産み育てるなんて・・。偉いぞエフィ!そしてあの
曲をSNLのライヴで歌い上げたジェイクも凄い!
しかし、私が惹きつけられたのは彼女よりも、ビヨンセの美しさだったりする。
ビヨンセ、本当に綺麗・・。ラスト近く、ディーナが自分の声を見つけて唄う「Listen」、
これは素晴らしい!「りぃすぅ~~ぅぅぅぅんんん~~~」言われなくても聞き惚れて
しまう。美しい。
ストーリーは、成功と挫折、愛と友情、ショウビズ界の光と影を描いてさほど目新
しいところはない。ラストはハッピー・エンディングだし、とにかく音楽(歌)と踊りを
目いっぱい、という感じ。ジェイミー・フォックスが抑えた演技に徹していたのと、
エディ・マーフィーのエンターティナーぶりも印象的。しかし男性陣の中でも一番素敵
に見えたのはエフィの兄、ソングライターであるCC(キース・ロビンソン)だったり
する。ダニー・グローバーも脇をしっかり固めておりました。
エンドロールの最後まで、ジェイミー・フォックスとビヨンセのデュエットが聴け
たり、豪華な衣装のデザイン画が映し出されたりして楽しませてくれる。そしてクレ
ジットの最後に「ご紹介します、ジェニファー・ハドソン!」と出て、ああ、これは彼女
を「発見」した映画なのだなぁ、とつくづく感じられた。モータウンを体験していて
も、いなくても、映画館でどうぞ。
(『ドリームガールズ』監督・脚本:ビル・コンドン/主演:ビヨンセ、
ジェイミー・フォックス、ジェニファー・ハドソン/2006・USA)
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結果&感想など~第79回アカデミー賞#2

終りましたね~。。出先から帰って真っ先に速報のぞいたら「オリジナル脚本賞:
『リトル・ミス・サンシャイン』」っていうのが目に飛び込んできて、思わず「やった
あ~♪」と叫んでしまいました。
映像はNHK7時のニュースをチラリと観ただけですが、ジャック・ニコルソンの
頭が大変なことに(笑)。以下受賞結果&感想です。
---------------------------------------
【作品賞】
★『ディパーテッド』
これはサプライズなのかな? 私はオリジナルもリメイクも好きという変わった奴
なのですっごくうれしかった!
【監督賞】
★マーティン・スコセッシ 『ディパーテッド』
悲願でしたからね。「本当はやりたくなかった」とか言いつつうれしいですよね(笑)
【主演男優賞】
★フォレスト・ウィテカー 『ラストキング・オブ・スコットランド』
【主演女優賞】
★ヘレン・ミレン 『クィーン』
ここはキング&クィーンでガチでした。2作ともこれから公開なので楽しみです♪
【助演男優賞】
★アラン・アーキン 『リトル・ミス・サンシャイン』
これはエディ・マーフィーにあげたかったなぁ~。おじいちゃんもいい味でしたが。
【助演女優賞】
★ジェニファー・ハドソン 『ドリームガールズ』
Dreams come true! エフィ、おめでと~。ここだけは彼女にあげないとね。
【オリジナル脚本賞】
★『リトル・ミス・サンシャイン』
これベタだけど、いいセリフいっぱいだったんですよ!一番うれしいな♪
【脚色賞】
★『ディパーテッド』
これもオリジナルの素晴らしさの証明ということで。うれしいじゃないですか!
【外国映画賞】
★『善き人のためのソナタ』(ドイツ)
ますます観たいです。早く、早く観たい~。オスカー受賞したことでロングラン
になるといいのですが。
以上が直前予想した各賞です。結果をふまえてあとふたつご紹介。
【歌曲賞】
★"I Need To Wake Up" 『不都合な真実』
ええ~、ここビヨンセにあげたかったなぁぁ~~。。
「りぃすぅ~~ぅぅぅぅんんん~~~」って、めちゃいい場面&歌だったのに!
三曲もノミネートしといてあげないって顰蹙ちゃうの?
【作曲賞】
★『バベル』グスターボ・サンタオラヤ
懐かしいお名前は昨年『ブロークバック・マウンテン』で受賞した方ですね。
2年連続、凄い!おめでとうございます♪
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結局、『バベル』は主要部門獲れなかったのですね。今年は各賞割れた印象です。
『硫黄島からの手紙』も残念でしたが、謙さんがプレゼンターされてて感動。。
凛子ちゃんも、これからアカデミーの常連になるくらい活躍して欲しいですね。
3月にNHKで放映の総集編を楽しみに、必ず観たいと思います!
テーマ : 第79回アカデミー賞
ジャンル : 映画
直前予想!素人ですけど~第79回アカデミー賞

いよいよ発表まであと24時間を切った第79回アカデミー賞。楽しみですね~♪
ちなみに、毎年アカデミー賞の前日に発表される「インディペンデント・スピリット・
アワード」は、『リトル・ミス・サンシャイン』が作品賞・監督賞・初脚本賞・助演
男優賞の4冠ゲット!いかにもインディ映画らしい佳作でしたので、この受賞は
とってもうれしいです!
一応映画好きとして、オスカーもギリギリ予想して面白がってみたいと思います。
ノミネート作品、観られるものは全て発表前に観たいと思っていたのですが、まぁ
仕方ない。主要部門だけ、個人的希望的観測で勝手に予想です。
では、スタート!
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★:本命 ☆:真紅的希望
◆作品賞
★ バベル
・ ディパーテッド
☆ 硫黄島からの手紙
・ リトル・ミス・サンシャイン
・ クィーン
GGでドラマ部門作品賞ゲットの『バベル』が本命かな?
でも謙さんや二宮くんが頑張った『硫黄島』に獲って欲しいな~。。
『リトル・ミス・サンシャイン』の線もありそうなので、注目!
◆主演男優賞
☆ ブラッド・ダイヤモンド :レオナルド・ディカプリオ
・ ハーフ・ネルソン :ライアン・ゴズリング
・ ヴィーナス :ピーター・オトゥール
・ 幸せのちから :ウィル・スミス
★ ラストキング・オブ・スコットランド:フォレスト・ウィテカー
ここはもう、前哨戦総なめの鶴瓶師匠に!レオ、明日があるさ。
◆主演女優賞
・ ボルベール :ペネロペ・クルス
・ あるスキャンダルの覚え書き:ジュディ・デンチ
★☆クィーン :ヘレン・ミレン
・ プラダを着た悪魔 :メリル・ストリープ
・ リトル・チルドレン :ケイト・ウィンスレット
ここも女王でガチ。間違いない!
◆助演男優賞
・ リトル・ミス・サンシャイン:アラン・アーキン
・ リトル・チルドレン :ジャッキー・アール・ヘイリー
・ ブラッド・ダイヤモンド :ジャイモン・フンスー
★☆ドリームガールズ :エディ・マーフィ
・ ディパーテッド :マーク・ウォールバーグ
エディ・マーフィにあげたい。アラン・アーキンも怪演でしたが。
◆助演女優賞
・ バベル :アドリアナ・バラーザ
・ あるスキャンダルの覚え書き:ケイト・ブランシェット
・ リトル・ミス・サンシャイン:アビゲイル・ブレスリン
★☆ドリームガールズ :ジェニファー・ハドソン
・ バベル :菊地凛子
アメリカはサクセスストーリーが大好きだから。ジェニファー・ハドソンが
オスカー受賞して初めて、『ドリームガールズ』は完結するんです!
(まだ観てないのに、勝手なこと言ってすみません)
◆監督賞
・ 硫黄島からの手紙:クリント・イーストウッド
・ クィーン :スティーヴン・フリアーズ
☆ ユナイテッド93 :ポール・グリーングラス
・ バベル :アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
★ ディパーテッド :マーティン・スコセッシ
どなたが受賞してもいいと思いますが、イーストウッドは既に2回受賞
していますから。スコセッシが本命だけど、『ディパーテッド』で獲ってもね
・・とも思います。
ポール・グリーングラスだったらサプライズ。ないと思うけどね。
◆脚本賞
★ バベル :ギジェルモ・アリアガ
・ 硫黄島からの手紙 :アイリス・ヤマシタ、ポール・ハギス
☆ リトル・ミス・サンシャイン:マイケル・アーント
・ パンズ・ラビリンス :ギレルモ・デル・トロ
・ クィーン :ピーター・モーガン
ギジェルモ・アリアガは『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』がよか
ったので(理由になってない?)。きっと『バベル』も素晴らしいのだろうと。
『リトル・ミス・サンシャイン』に獲ってほしい。面白かったし、印象的なセ
リフがたくさんありました。
◆脚色賞
・ ボラット :サシャ・バロン・コーエン、アンソニー・ハインズ、
ピーター・ベイナム、ダン・メイザー
・ トゥモロー・ワールド :アルフォンソ・キュアロン、
ティモシー・J・セクストン
☆ ディパーテッド :ウィリアム・モナハン
・ リトル・チルドレン :トッド・フィールド、トム・ペロッタ
・ あるスキャンダルの覚え書き:パトリック・マーバー
『ディパーテッド』しか観ていないのですが、オリジナル『インファナル・
アフェア/無間道』に敬意&感謝ということで!
◆外国語映画賞
・ アフター・ザ・ウェディング(デンマーク)
・ デイズ・オブ・グローリー(アルジェリア)
☆ 善き人のためのソナタ(ドイツ)
・ パンズ・ラビリンス(メキシコ)
・ ウォーター(カナダ)
インディペンデント・スピリット・アワードも『善き人のためのソナタ』が
外国語映画賞を受賞したようです。早く観た~い。
---------------------------------------
明日には結果が出ているわけですが、生中継が観られる皆さん、楽しんで下さいね!
凛子ちゃん、ガンバレ~♪
テーマ : 第79回アカデミー賞
ジャンル : 映画
この愛、観るべし!~『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』

公開当時からとても気になってはいた映画なのだけれど、ポスターのあまりにも
強烈なビジュアルに引いてしまい、未見だった本作。しかし、こ、これは・・・。
素・晴・ら・し・い。感動した。すごい。なんて形容すればいいのだろう?
とにかく強烈に心に突き刺さって、言葉が出ない。映画館で観ていたら、しばらく
席を立てなかったんじゃないだろうか。これは、騙されたと思って多くの人に観て
欲しい。
ベルリンの壁が築かれた1961年、東ベルリンに生まれたハンセルは、米軍放送の
ラジオでロックを聴いて育ち、アメリカ行きを夢見る少年。米兵と結婚するために
性転換手術を受けるも、彼の股間には怒りの1インチ(アングリーインチ)が残ってし
まう。母の名、ヘドウィグを借りて渡米した後、彼(彼女)が愛、すなわち自分の半身
=the other Harfを求めて彷徨う半生を、グラムロックに乗せて描いてゆく。
原作のミュージカルはオフ・ブロードウェイで大ヒット、ロングランとなり熱狂的な
ファンを生んだ伝説の名作だという。
、という↑の話は全て観終わってから知った。ほとんど予備知識なしで観たため、
エンドロールが上がり始めるや「この主演俳優は誰?」と思って目を凝らしていると、
Hedwig:John Cameron Mitchellのクレジットに驚愕!
な、な、なんという才能なんだ・・。
監督・脚本・主演、ジョン・キャメロン・ミッチェル。『イノセント・ラブ』でジョナサン
を演じたダラス・ロバーツに少し、雰囲気が似ている。

映画冒頭、物凄いメイクとウィッグのヘドウィグが唄い始める。毒気のある、グロ
テスクな容姿に最初は度肝を抜かれるが、彼の歌がもう、文句なしに素晴らしい!
のだ。低く通る声、哲学的な歌詞に乗せた魂の叫びは最高にエモーショナル。観る
ものの胸にガンガン響き渡り、たちまち惹きつけられる。「愛の起源」「ミッドナイト・
レディオ」「薄汚れた街」などなど、一見特異でキワモノ的なストーリーを普遍的な愛の
物語へと昇華させる、魔法のようなナンバーたちだ。
「片割れ」を探し、裏切りに傷つき、自分に無いものを補うかのように奇抜なメイク、
ウィッグ、衣装で武装していたヘドウィグ。彼が自分自身の中に愛を見つけ、全てを
脱ぎ捨てて歩いてゆくラストシーンは静かな感動に胸が満たされる。ラスト直前「全て
のはぐれ者たち」へと、穏やかな表情で唄うヘドウィグに、もう涙、涙・・。
ヘドウィグの独白と歌でストーリーが進んでゆくため、バンド仲間であり夫でもある
イツハク(ミリアム・ショア)とヘドウィグの関係や、かつての恋人であり師弟関係にあ
ったトミー(マイケル・ピット)の心理は描写されない。そのために、物語としてはやや
説明不足な印象は否めない。しかし、それを補って余りあるこの歌の能弁さはどうだ!
ヘドウィグの悲しみ、苦しみ、切なさが渦巻き、無茶苦茶パワフルで、ソウルフル。
まさに「魂の叫び」。時折挿入されるアニメーションも、ヘドウィグの激しさと怒りの
緩衝材となり、物語の印象をやわらげるのに成功している。
この作品、日本でも2004年に三上博史、2007年にも山本耕史主演で舞台化されている。
三上博史は中性的で妖しい魅力の持ち主だからハマっていたのかもしれないけど、「熱い
日本男児」バリバリの山本耕史くんがヘドウィグ、う~ん想像できないなぁ・・。
ジョン・キャメロン・ミッチェル久々の新作も、年内公開予定らしい。昨年のカンヌ
映画祭で上映され、全編性描写満載の映像が話題になったという。日本ではカットなし
では観られないんじゃないか、って話だけど、期待してます。

『Shortbus』(2006・USA)
Directed and written by
John Cameron Mitchell
(『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』2001・USA
監督・脚本・原作戯曲・主演:ジョン・キャメロン・ミッチェル)
★追記:05/Sep/2007:★ 『ショートバス』観ました。感想はこちら⇒
外出できなくても買い物はできてしまう
あ~あ、今年も遂にやってきました、インフルエンザが・・。
毎年毎年予防接種しているのに、どうして罹るんだろう? 流行に敏感なのか?
ああ、『善き人のためのソナタ』が、『幸せのちから』が、『ドリームガールズ』がぁぁ!!
アカデミー賞授賞式までに観たかったんだけどなぁ。。
外に出られないので、思わず『エターナル・サンシャイン』のサントラをポチ、
してしまいました(照)。

Everybody's Gotta Learn Sometimes
オリジナル・スコアを担当したJon Brionって、『パンチドランク・ラブ』の
音楽も担当した人なんですね。あれも音が耳に残る映画だったなぁ~。。映像と
音楽がマッチしてないようで、不思議な感覚に囚われるんですよ。
サントラと言えば『ブギーナイツ』も『ヴァージン・スーサイズ』も欲しいなぁ。
『プルートで朝食を』も欲しい。でもその前にもっと欲しい、ポチ寸前のDVDが
あるんです。あと何日かの引きこもり生活をやり過ごすために、思い切ろうかな。
外出できなくても買い物できてしまう、便利だけど。やっぱ本屋で立ち読みも
したいよね(笑)。
毎年毎年予防接種しているのに、どうして罹るんだろう? 流行に敏感なのか?
ああ、『善き人のためのソナタ』が、『幸せのちから』が、『ドリームガールズ』がぁぁ!!
アカデミー賞授賞式までに観たかったんだけどなぁ。。
外に出られないので、思わず『エターナル・サンシャイン』のサントラをポチ、
してしまいました(照)。

Everybody's Gotta Learn Sometimes
オリジナル・スコアを担当したJon Brionって、『パンチドランク・ラブ』の
音楽も担当した人なんですね。あれも音が耳に残る映画だったなぁ~。。映像と
音楽がマッチしてないようで、不思議な感覚に囚われるんですよ。
サントラと言えば『ブギーナイツ』も『ヴァージン・スーサイズ』も欲しいなぁ。
『プルートで朝食を』も欲しい。でもその前にもっと欲しい、ポチ寸前のDVDが
あるんです。あと何日かの引きこもり生活をやり過ごすために、思い切ろうかな。
外出できなくても買い物できてしまう、便利だけど。やっぱ本屋で立ち読みも
したいよね(笑)。
中東までの距離~『パレスチナ・ナウ/戦争・映画・人間』

四方田犬彦氏が映画史家として自らの映画体験を総括し、とりわけイスラエルと
パレスチナ映画について分析、考察、パレスチナ問題の複雑さを我々に提示してく
れる一冊。我々とは、中東近代史、パレスチナ人とユダヤ人をめぐる体系的な知識
を持つ機会に恵まれず、映画『ミュンヘン』を撮ったスピルバーグに道徳的勇気を認め、
あの映画が「イスラエルとパレスチナを対等に見ようとしている」という素朴な感想を
持った私自身のことだ。
本書ではまず、ここ数年で世界のパレスチナ観に対して最も決定的な影響力を持
ったと思われる映画『ミュンヘン』に対しての論考で始まる。著者はこの映画を、一見
二つの対立しあう民族を公平に描いているように見えて、実は巧妙に歴史を単純化
し、パレスチナ解放闘争の真実を隠微していると説く。ミュンヘンにおける「黒い九月」
人質事件は、シオニストとパレスチナ難民との長年にわたる抗争の一コマに過ぎず、
パレスチナ人の「テロ」行為が諸悪の根源であるかのようなスピルバーグの描き方を鋭
く批判する。
勿論、この本を読んだからと言って私自身の『ミュンヘン』観を取り下げるつもりは
ない。終わり無き負の連鎖が生み出し続ける悲劇を、スピルバーグが彼なりに撮り
切った力作であると思うことに変わりはない。しかし著者の論考は非常に説得力を
持ち、膨大な知識と経験に裏打ちされた文章には無条件に引き込まれる。『ミュンヘン』
に続いて紹介される、「自爆テロ」にいたるパレスチナ人の内面の葛藤を描いた作品
『パラダイス・ナウ』は2007年3月、東京のみで単館公開されるという。DVD化された
ら必ず観たいと思っている。
パレスチナ人とユダヤ人の抗争と共存を主題とする映画たちが語られ、イスラエ
ル建国が生んだ矛盾と破壊、50年以上にわたる支配と抵抗の歴史が浮かび上がる。
バルカン紛争の舞台、旧ユーゴスラビアの映画についても触れながら、最終章では
1970年代から現在までの日本映画とパレスチナとの関わりに言及し、古居みずえ、
佐藤真、足立正生らによって撮られ、2006年に公開された三本のフィルム(『ガーダ』
『OUT OF PLACE』『幽閉者』)が紹介される。
映画はエンターテインメントではあるけれど、政治的背景から完全に自由な映画
もまたあり得ない。映画を観た後、遠い中東世界の成り立ちや戦争と平和について、
時には思いを馳せてみるべきかもしれない。
(『パレスチナ・ナウ/戦争・映画・人間』四方田犬彦:著/作品社・2006)
寄り道、挫折、それもまたよし~『サイドウェイ』

小説家を志すバツイチの英語教師マイルス(ポール・ジアマッティ)とTV俳優の
ジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)は、大学時代からの親友。一週間後に
アルメニア人の令嬢と結婚し、年貢を納めるジャックのために、マイルスはカリ
フォルニア・ワイナリーへの旅を計画する。離婚した妻への未練が断ち切れず、
自作の出版も軌道に乗らず自信喪失気味のマイルスと、独身最後の一週間に発情
気味のジャック。対照的な二人が、ワインと女性を巡る旅に出る。
アカデミー賞の脚色賞をはじめ、多くの賞を受賞した本作、監督・脚本は『アバ
ウト・シュミット』のアレクサンダー・ペイン。
この映画もアメリカが好むロードムービーの一つであり、過剰なまでの成功を
求めるアメリカという国のマインドを反映している。主人公のマイルスは、英語
(アメリカでは国語ですね)教師というインテリジェンスで固い職業に就いていなが
らも、小説を出版できない自分を「海に吐き出される汚物=無価値」だと感じている。
上昇することへの思い入れが強い余りに、失敗したり、「負け犬」と呼ばれることを
恐怖しているマイルスが痛々しい。彼は本能よりも、頭で考えて生きているのだ。
『リトル・ミス・サンシャイン』とこの映画が似ている、と聞き、なかなか手が伸び
なかった本作を観てみる気になったのだが、なるほど、一見「敗北者」な主人公たち
の人生をシビアに切り捨てない視線には、共通するものがあると思う。
対するジャックは、本能剥き出し、「女とやる」ことが一番。嘘がばれて鼻を折ら
れようと、痛み止めを飲みながらでも一夜の相手を探す。「俺にはこれが全てだ。俺
のウズキをわかってくれ」そこまで言うか・・。勝手にやってろ(笑)。
主演のポール・ジアマッティとトーマス・ヘイデン・チャーチの演技が素晴ら
しくいい。ワインおたくな「哀愁の薀蓄王」マイルスに降りかかる不幸の数々、その
度にジアマッティの顔に浮かぶ悲しみと諦念がすっごくリアル。軽々しく生きて
いるように見えるジャックも、婚約者に捨てられたら自分には何も残らないとむ
せび泣く。彼もまた、敗者となることへの過剰な恐れを抱いているのだ。そんな
親友のために、住居不法侵入の危険を冒して一肌脱ぎ、愛車を大破させるマイル
ス。ええ男や・・。旅の終わり、一瞬の間を置いて抱き合う二人が絶妙だ。

「あきらめるなよ
俺にはそんなうまく書けねーよ」
「俺にも無理さ
ブコウスキーをパクッたんだ」
別れた妻に未練タラタラだったり、新しい恋になかなか踏み出せないマイルス
を、私は笑えない。いや、大笑いしながらも、めちゃめちゃ身につまされる。人生
半ばにさしかかり、「何も成し遂げていない」という焦り。「ピークを境にワインは
ゆっくりと坂を下り始める。そんな味わいも捨てがたいわ」最高の理解者を目の前
にしながら、抱き寄せる勇気と行動力がない、考え過ぎてしまう哀しさ・・。
それでも最後には、自分の意志でドアをノックするマイルス。語り過ぎない、観
るものに委ねる終わり方がまた、ニクイのだ。
脚本は、日本語字幕でも十分その素晴らしさが味わえる。シリアスとコミカル
なパートを切り分ける、作劇のバランスが見事。コメディタッチに流れすぎない、
大人のための上質な映画に仕上がっている。傑作です。
(『サイドウェイ』監督・脚本:アレクサンダー・ペイン/
主演:ポール・ジアマッティ、トーマス・ヘイデン・チャーチ/2004・USA)
Happy Together~『アダプテーション』

チャーリー・カウフマンの脚本、クリス・クーパーのアカデミー助演賞受賞など
でかなり話題になっていた本作。観逃していたので『エターナル・サンシャイン』つな
がりで観てみる。『マルコビッチの穴』はあまりにも突拍子も無い話で、面白かったけ
どちょっとついていけなかった。さて、本作はと言いますと・・。
主人公は脚本のチャーリー・カウフマン本人。『蘭に魅せられた男』というこれも
実在の本の脚色を依頼されたものの、スランプで筆が進まない。悩むあまり恋も
うまく行かず、「俺なんかハゲでデブだ」と落ち込むチャーリー。彼とは対照的に
明るい性格の双子の弟ドナルドも、脚本家養成セミナーを受け、兄と同じ道に進
もうとする・・。ノンフィクションのようで実は全くのフィクション、相変わらず
荒唐無稽なストーリー展開。双子のチャーリー&ドナルドを、ニコラス・ケイジが
一人で演じている。
『マルコビッチの穴』の撮影現場が再現され、ジョン・キューザックやキャサリン・
キーナーが本人役で出演していたり、女と寝ることしか考えていないようなスタ
ジオの人間や、脚本家養成講座の大御所に「ボイスオーバーはバカがすることだ!」
と言わせておいて思いっきりチャーリーの語りが入ったり・・、と、かなり「内輪受け&
自虐ネタ」な内容。しかし、メリル・ストリープとクリス・クーパーが演じる『蘭に
魅せられた男』の作者とモデルとの関係が明かされてゆくにつれ、後半はシリアス
でショッキングな展開になってくる。
クリス・クーパーは前歯を抜き、全裸のおしりを晒しての大熱演。メリル・ス
トリープもとても美しかったと思う。ニコ・ケイ演じるチャーリー&ドナルドも、
怠惰で享楽的な性格の弟を疎ましく思っていた兄が、彼の言葉によって意識変革
をなす場面はなかなか感動的だ。そのドナルドのパーソナリティを表す象徴とな
るのがご存知"Happy Together"。この曲がラストでも流れるのだが・・。

♪Imagine me and you, I do
I think about you day and night
It's only right
To think about the girl you love
And hold her tight
So happy together・・・
★以下、映画のラストに言及します★
"Happy Together"とは、王家衛ウォン・カーウァイが撮った『ブエノスアイ
レス』の英語タイトルでもある。『ブエノ』でも、"Happy Together"がラスト
に流れる。主人公のモノローグ、うっすらとした笑み、去ってゆく車(『ブエノ』では
モノレール)、早送りされる街の風景。・・同じじゃん!と思ったのは私だけですか?
スパイク・ジョーンズ、インスパイアされたか? それともオマージュか?
ただの偶然だったら凄いわ。
(『アダプテーション』監督:スパイク・ジョーンズ/
脚本:チャーリー&ドナルド・カウフマン/主演:ニコラス・ケイジ、
メリル・ストリープ、クリス・クーパー/2002・USA)
何度でも観たい~『エターナル・サンシャイン』その2
皆さま、こんにちは。さて、拙宅に来ていただいた皆さまは大抵映画好きだと思
うのですが、映画のDVDってよく買われますか?
私は事情があって(笑)、欲しいのは山々なのですがめったに買いません。CATV
やWOWOWにも未加入なのでもっぱら映画館に行くか、レンタル派。でもやっぱり
「この映画のDVD、欲しい!」と思うことがよくあります。サントラが欲しいと思う
ことも多いです、ほとんど我慢しますけど・・。
でも、今年のバレンタインには、自分の為に(!)DVDを買いました。2月に入る
と、もう我慢できなくなったんです。

『エターナル・サンシャイン』
ETERNAL SUNSHINE
OF THE SPOTLESS MIND
日本公開は2005年3月、私は2006年6月にDVDで観ました。その時の感想は
こちら⇒『エターナル・サンシャイン』
ものすごく心惹かれたり、感動したり、多くの人に観て欲しいと思う映画でも、
自分が再見するのは躊躇する映画もありますよね。でもこの映画は何度でも観た
いし、もちろん多くの人に観て欲しいと思う、私にとってはすごく大切な、特別
な映画の一つなんです。
初めて観たとき、そのままもう一度最初から観ました。今回購入してからも、
日本語字幕、コメンタリ、英語字幕で観ました。これからも何度でも観ると思い
ます。本当に、何度でも鑑賞に耐えうる素晴らしい作品なんです。
物語は2004年の2月、バレンタインの朝に始まります。

"Do I know you?"
脚本のチャーリー・カウフマンがこの作品でオスカーを受賞したこともあり、
「あのチャーリー・カウフマンの・・」と言われることが多い本作です。しかしコメ
ンタリや特典映像を観て、監督であるミシェル・ゴンドリーの映像への並々なら
ぬこだわりが、この名作を生んだのだと改めて感じました。特殊効果はなるべく
使わずカメラにガーゼをかけたり、スモークを焚いたりして工夫したとか。雪へ
の思い入れや、撮影に熱中しすぎてジムとケンカした話なども聴けました。

主演のジム・キャリーとケイト・ウィンスレットは、それぞれジムが「ケイト・
ウィンスレット的」な、ケイトが「ジム・キャリー的」な役柄でした。ケイトは自由
奔放にジムに仕掛ける演技、ジムは受ける演技。ジム、ストレス溜まったんじゃ
ないかな?その代わり、撮影の合間に歌い踊ったり、ショート・ムービーを撮っ
て発散していたそうです。そんな苦労の賜物か、もう、この映画のジム・キャリー
ほんとに素敵なんですから・・。

"You miss me?"
"Oddly enough,I do."
この、電話するシーンの
ジムが無茶苦茶素敵なのよ・・
ケイトも、情緒不安定で感情のコントロールが下手で、それゆえ衝動的なクレ
メンタインを熱演しています。「私ってブス?」「愛してる?」怒りにまかせてジョエル
(ジム)との記憶を消してしまったものの、ジョエルの記憶からも自分が消えること
を感じ、狼狽して混乱する彼女には泣けます。

"Bye,Joel."
"I love you."
"Meet me in Montauk."
さよならの代わりに「愛してる」って言うジョエルが最高。このシーンから後は
もう、涙が止まりません。モントークの海もすごく素敵で、海に行きたくてた
まらなくなる。本当に、ロケ地に行けたら一番いいんですけど。。
この映画を観てから、モントークっていう地名につい反応してしまいます。『ドア・
イン・ザ・フロア』にも『グレート・ギャツビー』にも出てきたような・・。

撮影中、偶然サーカス
がNYに来て、この素敵
な場面が撮れたそうで
す。
そんな奇跡もあるので
すね・・。映画の神様
に祝福されたみたい。
音楽も美しく映像を彩り、サントラも欲しいんです、が・・。来年のバレンタイン
かな・・、長!(笑)。
しかしこのエントリもたいがい長いですね(笑)、お付き合いいただき、ありがとう
ございました。未見の方は今すぐ!ご覧になって下さいませ。
(『エターナル・サンシャイン』ETERNAL SUNSHINE
OF THE SPOTLESS MIND
監督:ミシェル・ゴンドリー/脚本:チャーリー・カウフマン/
主演:ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット/2004・USA)
うのですが、映画のDVDってよく買われますか?
私は事情があって(笑)、欲しいのは山々なのですがめったに買いません。CATV
やWOWOWにも未加入なのでもっぱら映画館に行くか、レンタル派。でもやっぱり
「この映画のDVD、欲しい!」と思うことがよくあります。サントラが欲しいと思う
ことも多いです、ほとんど我慢しますけど・・。
でも、今年のバレンタインには、自分の為に(!)DVDを買いました。2月に入る
と、もう我慢できなくなったんです。

『エターナル・サンシャイン』
ETERNAL SUNSHINE
OF THE SPOTLESS MIND
日本公開は2005年3月、私は2006年6月にDVDで観ました。その時の感想は
こちら⇒『エターナル・サンシャイン』
ものすごく心惹かれたり、感動したり、多くの人に観て欲しいと思う映画でも、
自分が再見するのは躊躇する映画もありますよね。でもこの映画は何度でも観た
いし、もちろん多くの人に観て欲しいと思う、私にとってはすごく大切な、特別
な映画の一つなんです。
初めて観たとき、そのままもう一度最初から観ました。今回購入してからも、
日本語字幕、コメンタリ、英語字幕で観ました。これからも何度でも観ると思い
ます。本当に、何度でも鑑賞に耐えうる素晴らしい作品なんです。
物語は2004年の2月、バレンタインの朝に始まります。

"Do I know you?"
脚本のチャーリー・カウフマンがこの作品でオスカーを受賞したこともあり、
「あのチャーリー・カウフマンの・・」と言われることが多い本作です。しかしコメ
ンタリや特典映像を観て、監督であるミシェル・ゴンドリーの映像への並々なら
ぬこだわりが、この名作を生んだのだと改めて感じました。特殊効果はなるべく
使わずカメラにガーゼをかけたり、スモークを焚いたりして工夫したとか。雪へ
の思い入れや、撮影に熱中しすぎてジムとケンカした話なども聴けました。

主演のジム・キャリーとケイト・ウィンスレットは、それぞれジムが「ケイト・
ウィンスレット的」な、ケイトが「ジム・キャリー的」な役柄でした。ケイトは自由
奔放にジムに仕掛ける演技、ジムは受ける演技。ジム、ストレス溜まったんじゃ
ないかな?その代わり、撮影の合間に歌い踊ったり、ショート・ムービーを撮っ
て発散していたそうです。そんな苦労の賜物か、もう、この映画のジム・キャリー
ほんとに素敵なんですから・・。

"You miss me?"
"Oddly enough,I do."
この、電話するシーンの
ジムが無茶苦茶素敵なのよ・・
ケイトも、情緒不安定で感情のコントロールが下手で、それゆえ衝動的なクレ
メンタインを熱演しています。「私ってブス?」「愛してる?」怒りにまかせてジョエル
(ジム)との記憶を消してしまったものの、ジョエルの記憶からも自分が消えること
を感じ、狼狽して混乱する彼女には泣けます。

"Bye,Joel."
"I love you."
"Meet me in Montauk."
さよならの代わりに「愛してる」って言うジョエルが最高。このシーンから後は
もう、涙が止まりません。モントークの海もすごく素敵で、海に行きたくてた
まらなくなる。本当に、ロケ地に行けたら一番いいんですけど。。
この映画を観てから、モントークっていう地名につい反応してしまいます。『ドア・
イン・ザ・フロア』にも『グレート・ギャツビー』にも出てきたような・・。

撮影中、偶然サーカス
がNYに来て、この素敵
な場面が撮れたそうで
す。
そんな奇跡もあるので
すね・・。映画の神様
に祝福されたみたい。
音楽も美しく映像を彩り、サントラも欲しいんです、が・・。来年のバレンタイン
かな・・、長!(笑)。
しかしこのエントリもたいがい長いですね(笑)、お付き合いいただき、ありがとう
ございました。未見の方は今すぐ!ご覧になって下さいませ。
(『エターナル・サンシャイン』ETERNAL SUNSHINE
OF THE SPOTLESS MIND
監督:ミシェル・ゴンドリー/脚本:チャーリー・カウフマン/
主演:ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット/2004・USA)
涙の海で溺れずに~『あなたになら言える秘密のこと』

耐え難い傷を負い、人生を放棄したかのように孤独の中に生きる一人の女性が、
偶然の出会いから愛と希望を見い出し再び歩き出すまでを描く、ある人生の物語。
心に突き刺さる痛み、溢れる涙を抑えがたい作品ではあるけれど、決してただの
「お涙頂戴」映画ではなく、後味も悪くは無い。悲惨な過去、心にも身体にも残る傷、
全てを越えて「生きる」ことの可能性と素晴らしさを教えてくれる感動作。製作総指
揮にペドロ・アルモドバル、監督・主演は『死ぬまでにしたい10のこと』のイザベル・
コイシェとサラ・ポーリー。
★「秘密」には触れておりませんのでご安心下さい★
舞台は海の彼方に浮かぶ油田掘削所。事故で大火傷を負い、一時的に盲目とな
ったジョゼフ(ティム・ロビンス)の元に、看護師としてハンナ(サラ・ポーリー)が
やってくる。誰とも言葉を交わすことなく、心を閉ざしたハンナと、饒舌なジョ
セフ。一見正反対な二人はしかし、内に秘めた過去と傷を持つ似たもの同士でも
あった。その「秘密」の存在が、ふたりの距離を縮めてゆく。
油田掘削所での事故、工場から出てくるヒロインと労働者たち。結末は全く異
なるけれど、ラース・フォン・トリアーの『奇跡の海』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
を思い出させる。音楽も多国籍で、映画全体にもどこかデラシネ的な雰囲気が漂
っている。
主演のサラ・ポーリー、ティム・ロビンスともに、屈託ある演技、役柄がはま
っている。サラ・ポーリーは『スィート・ヒア・アフター』の頃から複雑で繊細さを
持つキャラクターを演じることが多く、内側から滲み出るようなリアリティある
演技を今作でも見せてくれる。彼女を受けるティム・ロビンスも、感情を抑えな
がら内に在る情熱や強い意志を表現させたら天下一品。自らを疎外し、孤独に生
きながらも救いを求めるハンナを理解し、手を差し伸べ、包み込む演技が素晴ら
しい。彼の決意が一時の感傷でないことを示す、カウンセラー役のジュリー・ク
リスティの凛とした演技も効いている。
油田掘削所に働く人々は、それぞれに「訳アリ」な風情で孤独を好む男たち。静か
にハンナを見守る掘削所の責任者、汚染された海を救いたいと願う海洋学者、
陽気な機関室のふたり。中でも、ハンナに「生きる」ことの喜びの一つを思い出さ
せる重要な役どころの料理人、サイモンを演じたハビエル・カマラ。彼は『トーク・
トゥ・ハー』も『バッド・エデュケーション』も苦手なキャラだったが、今回は素直
に共感できる。ハンナとのブランコの場面は特に秀逸。ああいう何気ない日常の
一コマが、一番心安らぎ、幸福感に満たされる時間であるという、監督の思いが
伝わってくるようだ。

「ハンナ、」
「何?」
「・・何でもない」
そしてもう一人、「ペドロ・アルモドバル印」と言えば忘れてはならないのがレオ
ノール・ワトリング。登場場面は少ないけれど、壁にかかる笑顔が印象的だ。
一人でいることは癒しのプロセスではあるけれど、人は一人では決して生きら
れない。「ハーゲンダッツのジンジャー&ライチが食べてみたくならない?」ジョゼフ
の言葉のひとつひとつ、ハンナの涙の一筋、ひと粒が心に沁みる。遥か彼方の遠
い国の悲劇は、今も世界中のあちこちで繰り返され、生き続けることは地獄だと
感じる人々がいる。痛みや悲しみが途切れることはない、それでも生きること、
生き残ったことを恥じることは決してない、人はいつでも何度でも「生き直す」こと
ができるのだから。愛だけがなし得る魂の再生、その扉を静かに開いたイザベル
・コイシェの脚本・演出も秀逸。テンポの問題か、中盤少しダレてしまったのは
仕方無いか。
ラスト近くのジョセフのセリフには胸を衝かれる。特に『ブロークバック・マウン
テン』が好きな方(私を含めて)にはうれしい驚きなのでは。はっきりと聴き取れる
ので、是非観て(聴いて)みて下さい。
(『あなたになら言える秘密のこと』監督・脚本:イザベル・コイシェ/
主演:サラ・ポーリー、ティム・ロビンス/2005・スペイン)
ひとつの真実~『ユナイテッド93』

2001年9月11日。世界を変え、本当の意味で20世紀が終ってしまったあの日、
ハイジャックされた飛行機のひとつ、ユナイテッド93機。乗員乗客全員死亡という
惨事のさなかで、何が起こっていたのか。彼らは何を見、何を感じ、何をしたのか。
ポール・グリーングラス監督が徹底したリサーチのもと、物語性を排し、無名の
俳優や関係者をキャスティングすることで、あの日のユナイテッド93機内をドキュ
メンタリー形式で撮りきった作品。製作はワーキング・タイトル。誰もが知って
いる「事実」を描きながら、そこには紛れも無い真実が映し出されている。
ポール・グリーングラスのインタビューが読みたいと思った。彼が何故、この
映画を撮ろうと思ったのかが知りたかった。映画公開時点で9・11から5年。それ
は「たった」5年なのか「すでに」5年なのか。TV中継によって全世界が目撃者と
なった未曾有の大惨事であっても、私たちの記憶は日々薄れてゆく。しかし当事
者や遺族にとっては5年たった今も、事件は昨日の出来事のように生々しい記憶
であるだろう。
結末もストーリーもわかっていながら、どうしても希望が捨てられない。「この
中で、一人でも助かったら・・」そう願わずにはいられない。あの夏、ありふれた
ある晴れた朝、何千と飛び交う飛行機の中でユナイテッド93機を選び、偶々乗り
合わせた40人の乗員・乗客たち。彼らが何故、命を落とさなければならなかった
のか。テロリストの大義とは、何だったのか。緊迫した会話と状況、リアルタイ
ムに進行する映画の中で乗客たちが過ごした時間を追体験し、改めて彼らに与え
られた運命の残酷さに打ちのめされる。
命の期限を悟ったとき、家族や恋人に「愛している、それだけ伝えたかった」と
言う彼ら。自分が同じ状況に立たされたとき、私は誰に電話をするのだろう。
電話をした相手に心から「愛している」と言えるのだろうか。と、ふと思う。幼い
子どもや最愛のパートナーを遺して逝かねばならない彼らの無念に、涙が止まら
ない。極限状況にあっても、生きること、正義を諦めなかった彼らの生き様を、
映画は記憶し続ける。忘れないことが死者にとって一番の弔いであるならば、こ
の映画を世界が観て、心に留めることこそが鎮魂の礎となる、そう監督は願って
いたのだろうか。

世界最大の軍事大国でありながら、数人のテロリストによる凶行を止められな
かったアメリカという国。エンディングに出されるテロップに、監督の怒りが
込められている。あの日から今日までアメリカが辿ってきた道は、犠牲者たち
の眠りを妨げてはいないだろうか?
ポール・グリーングラスのアカデミー監督賞受賞もアリか?と思わせる力作。
時期尚早かもしれない、賛否両論あるだろう。それでも観るべき価値のある作品
だと私は思う。未見の方は是非ご覧になって下さい。
(『ユナイテッド93』監督:ポール・グリーングラス/2006・米、英、仏)
小説だけにできること~マイケル・カニンガム/インタビュー
NHKBSの『週刊ブックレビュー』に、マイケル・カニンガムが出演した。
ほとんど観たことがない番組なのであるが、しっかり録画。「すっごく素敵な紳士」
だという評判であるし、昨年秋の講演に行けなかったので、興味津々で観る。

Michael Cunningham
/この世の果ての家
/めぐりあう時間たち
/星々の生まれるところ
背が高くて、俳優さんみたい。。
柔らかい物腰でインタビューに答える。NY在住、初来日だそうだ。
最新作『星々の生まれるところ』は、小説の持つ娯楽性とシリアスさの融合を目指
した。
今、この時代の生きている感覚を伝えること、ある時、ある場所、ある時代の
人々の心の内側を描けるのは小説だけである。
問題のある政府が治める国に住んでいる作家として、政治的でない小説は書け
なくなってしまったと感じている。9・11後、第二の悲劇を招いたアメリカ政府の
対応への怒りがある。
書くということに対する興味は尽きることがない。尽きることの無い好奇心を
持つことも、才能の一つだと考えるようになった。
若い頃に読んだ本は人生の糧となる、とも語っていた。私はもう若くはないけれ
ど、これからも彼の本は私の人生の糧となり続けるだろう。次回作が待ち遠しい。
★レビューはこちら⇒ この世の果ての家
⇒ 星々の生まれるところ
⇒ イノセント・ラブ

ほとんど観たことがない番組なのであるが、しっかり録画。「すっごく素敵な紳士」
だという評判であるし、昨年秋の講演に行けなかったので、興味津々で観る。

Michael Cunningham
/この世の果ての家
/めぐりあう時間たち
/星々の生まれるところ
背が高くて、俳優さんみたい。。
柔らかい物腰でインタビューに答える。NY在住、初来日だそうだ。
最新作『星々の生まれるところ』は、小説の持つ娯楽性とシリアスさの融合を目指
した。
今、この時代の生きている感覚を伝えること、ある時、ある場所、ある時代の
人々の心の内側を描けるのは小説だけである。
問題のある政府が治める国に住んでいる作家として、政治的でない小説は書け
なくなってしまったと感じている。9・11後、第二の悲劇を招いたアメリカ政府の
対応への怒りがある。
書くということに対する興味は尽きることがない。尽きることの無い好奇心を
持つことも、才能の一つだと考えるようになった。
若い頃に読んだ本は人生の糧となる、とも語っていた。私はもう若くはないけれ
ど、これからも彼の本は私の人生の糧となり続けるだろう。次回作が待ち遠しい。
★レビューはこちら⇒ この世の果ての家
⇒ 星々の生まれるところ
⇒ イノセント・ラブ

本当の自分に会うために~『トランスアメリカ』

LAに暮らすブリー(フェリシティ・ハフマン)は男である自分の身体に違和感を持ち、
心も身体も女性として生きるために、性転換手術を決意している。週末に手術を控
えた彼女のもとに、「あなたの息子さんを引き取りに来て欲しい」という警察からの
電話が入る。ブリーがかつてスタンリーという名の「男」だったとき、恋人との間に
息子が生まれていたのだ。セラピストに背中を押され、17歳の未だ見ぬ息子に会
うため、NYに向かったブリーは・・・。
この映画も、昨年観たくてたまらなかったのに観逃してしまった一本。主演のフェ
リシティ・ハフマンは本作でオスカーこそ逃したもののその演技を絶賛され、数多
くの主演女優賞を受賞した。トランスセクシャルの問題を超えた親子の絆の再生を
描く、心温まるロードムービー。おすすめです。すっごくいい映画です。
今更ながら、フェリシティ・ハフマンの演技は素晴らしい。どう見ても女性にな
りたい「男」にしか見えない、というか、観ているうちに「フェリシティ・ハフマンと
いう女優がブリーを演じている」ということを忘れてしまうのだ。ホルモン剤を飲ま
ないと胸が萎んだり、髭が濃くなったり、髪がぼさぼさだったり。ディテールもリ
アルに作り込まれている。
初めて息子であるトビーの部屋で「スタンリー」だったときの自分の写真を見たとき、
思わず仕草まで男に戻ってしまうブリー。不自然なほど女らしい「しな」を作るブリー
が、ただ一度だけ見せる男の部分だ。ここだけは大いに笑えたけれど、物語は決し
てコメディタッチに流れることなく、ブリーとトビー「親子」の旅を丹念に映しとって
ゆく。
実母は自殺し、継父から性的虐待を受け家を飛び出し、NYで男娼として生きてい
たトビー。彼が若く美しい少年であることに驚きを隠せないブリー。トビーを演じ
たケヴィン・ゼガーズは、ダンカン・タッカー監督に「こんな美しい人は見たことが
ない」と言わせるほどの美貌の持ち主。若さゆえの甘さと鋭さ、大人になりかけた
少年だけが持ち得る純真さと確かな演技力で、未完成だけど魅力的な人物としての
トビーを好演している。「親父と暮らすのが夢」で「動物図鑑」が宝物で、ブロンドに
して映画に出るつもりで、サルのぬいぐるみと寝るトビー。こんなかわいい男の子、
見たことない!もちろん私も「目がハート」状態。リバー・フェニックスの再来と言わ
れているらしいけれど、私には小池徹平くんがちょっと入っているように見えた。

カウボーイハットの
エピソードもいい
ロードムービーは不思議だ。同じ車に乗り込み、同じ方向を向いてただ走るだけ
のようでも、そこには独特の空気と光が生まれる。旅の終着点で何かを得ても、得
なくても、一緒に旅し、共有した時間は何者にも代え難い。ブリーがトビーを心配
し、トビーはブリーを笑わせようとする。もちろん、旅はいつも平穏なわけではな
い。
親子の関係も不思議だ。何年も会うことなく、子の人格を否定しながらも、我が
子が傷つけば庇うのが親なのだ。ましてや、存在さえも知らなかった「孫」が目の前に
現れた瞬間、過剰なまでの親愛の情が溢れ出すのはどうしてだろう?
自らが望んだ身体を得ながら「心の痛み」をも知り、慟哭するブリー。「許していな
い」と言いつつも、父の元を訪れるトビー。抱擁も涙もない、さり気ないラストシーン。
悲しみや苦しみ、痛みを超えた親子の絆の再生を、静かに伝えてくれる。

実はこんなに美しくてゴージャスな
フェリシティ・ハフマン
後ろは本作の製作総指揮を務めた
ウィリアム・H・メイシー
ご夫婦です。ラブラブですなぁ。。
(『トランスアメリカ』監督:ダンカン・タッカー/
主演:フェリシティ・ハフマン、ケヴィン・ゼガーズ/2005・USA)
公開決定!~『Lust,Caution/色・戒』
みなさま、お元気ですか? 上機嫌の真紅です(笑)。その理由はと言いますと・・。
アン・リー監督の最新作『Lust,Caution/色・戒』の、日本での上映が
決まりました!ソースはコチラ
しかも配給は、『ブロークバック・マウンテン』でもお世話になったワイズポリシー
さんです。今年四月に創立10周年を迎えられるそうで、「10周年記念作品の目玉」
だそうですよ!公開は年末かな? ああ~、待ち遠しいですね!

主役の面々
★注:モノクロ作品ではありません

監督のダウンは
「色・戒」のロゴ入り
ご存知、アジア人で初めてアカデミー賞監督賞を受賞したアン・リーと、同じく
アジア人で初めてカンヌ主演男優賞を受賞した影帝トニー・レオンとの初タッグ!
これは期待するなと言うほうがおかしい!
撮影はBBMでも監督とコンビを組んだロドリゴ・プリエト。製作は『グリーン・ディス
ティニー』『HERO』のビル・コン。今秋全米(フォーカス・フューチャーズ配給)・アジア
同時公開(日本を除く)が決定しているそうです、、(日本を除く)って、他国は秋頃
公開なのかな?
どんなお話かと言うと、「1940年前後の日本占領下の上海と香港を舞台に、2人
の立場の違う男と、その間で揺れる女スパイとのスリリングな心理的駆け引きを描く」
のだそうですよ(同じくコチラより)。
ああ~、ホントに待ち切れない、早く観たい!でもその前に『傷城』かしら♪
アン・リー監督の最新作『Lust,Caution/色・戒』の、日本での上映が
決まりました!ソースはコチラ
しかも配給は、『ブロークバック・マウンテン』でもお世話になったワイズポリシー
さんです。今年四月に創立10周年を迎えられるそうで、「10周年記念作品の目玉」
だそうですよ!公開は年末かな? ああ~、待ち遠しいですね!

主役の面々
★注:モノクロ作品ではありません

監督のダウンは
「色・戒」のロゴ入り
ご存知、アジア人で初めてアカデミー賞監督賞を受賞したアン・リーと、同じく
アジア人で初めてカンヌ主演男優賞を受賞した影帝トニー・レオンとの初タッグ!
これは期待するなと言うほうがおかしい!
撮影はBBMでも監督とコンビを組んだロドリゴ・プリエト。製作は『グリーン・ディス
ティニー』『HERO』のビル・コン。今秋全米(フォーカス・フューチャーズ配給)・アジア
同時公開(日本を除く)が決定しているそうです、、(日本を除く)って、他国は秋頃
公開なのかな?
どんなお話かと言うと、「1940年前後の日本占領下の上海と香港を舞台に、2人
の立場の違う男と、その間で揺れる女スパイとのスリリングな心理的駆け引きを描く」
のだそうですよ(同じくコチラより)。
ああ~、ホントに待ち切れない、早く観たい!でもその前に『傷城』かしら♪
香港的十年愛に涙、涙~『ラブソング』

1986年3月、天津から香港へ出稼ぎに来た青年シウクワン(黎明レオン・ライ)。
彼は初めての給料日に入ったマクドナルドで、アルバイトのレイキウ(張曼玉マギー・
チャン)と出会う。彼女も広州からやってきた大陸出身者だった。友達も顔見知り
もいない香港で、ふたりは友情を育み、やがてそれは自然と愛情に変わる。しか
し、シウクワンには故郷に残してきた恋人がいるのだった。
香港とニューヨークを舞台に、一組の男女の10年に渡る愛と別離、再会を描き、
1997年度香港アカデミー賞ではグランプリをはじめ、9部門を独占したという
大ヒット作。またひとつ、忘れられない映画に出会った。
改めて、マギー・チャンという女優の美しさ、演技力に感動した。ハリウッド
ではチェン・ツィイーやコン・リーのほうが知名度は高く、日本でもメジャーな
女優というわけではないかもしれない。しかし彼女の表情、笑顔や泣き顔、手の
動き、髪の一本一本までが、レイキウの歓び、悲しみ、戸惑い、心の揺れを表現
していて素晴らしい。レイキウの初登場シーン、マクドナルドの制服を着た彼女
のかわいらしさ。シウクワンの心を瞬時に捉えたのは、懐かしい北京語の響きだ
けではないだろう。私は断然、彼女をこそ「アジアナンバーワン女優」と呼びたい。
『天使の涙』や『インファナルアフェアⅢ/終極無間』での、クールで冷徹な雰囲気
の印象が強いレオン・ライも、朴訥で心やさしい、まっすぐな青年を好演してい
る。正直言って、こんな素敵な俳優さんだとは思わなかった。(実は、彼に魅力を
感じていなかったから、今までこの作品を未見だったのだ・・)
この映画は恋愛の本質を描いていると思う。一般的に、恋愛において女は引き
ずらないとか、ウジウジ後を引くのは男だとか言われているけれど、決してそう
とばかりは言えないと思う。ずっと一人の相手だけを思い続ける女もいれば、あっ
さり恋人を捨てる男もいるだろう、もちろん逆もある。でも誰だって一度くらい
は忘れられない人に出会い、その人の記憶を生涯、心のどこかに留めているもの
ではないだろうか。映画の中で、シウクワンの先輩が「縁があれば、またいつか会
えるさ」と言うシーンがある。そう、あなたがその人を忘れていなければ、相手も
きっと忘れていない。そしていつかまた必ず会える、それが本当の恋だったなら。
★以下、内容に触れています★
レイキウは、気丈でしっかり者だが、とても繊細で脆い。彼女はシウクワンを
心の底から愛していたのに、借金まみれでマッサージ嬢となった負い目や、彼の
故郷の恋人を思い、身を引く。そこに、あのミッキーマウスの刺青・・。大きな
背中に滑稽なほど不似合いなそれを最後に目にしたときの、彼女の慟哭。一緒に
家族を作ろうと決心したのに。人生は時に残酷で、ままならない。自分の愛する
女が、心の底で忘れられない誰かを愛していると知りながら、全てを受け入れて
包み込む男もいる。曾志偉エリック・ツァンが演じたパウの愛の形も、紛れもな
い愛の本質だ。
そう、この映画の登場人物は、誰一人愛を偽らない。シウクワンは故郷の恋人
も、もちろんレイキウも愛していたのだし、レイキウもシウクワンを愛し、パウ
にもただの情ではない、愛を感じていたのだと思う。人間誰しも、何十年と生き
ていれば、たった一人の相手だけに純粋培養された愛情を注ぐことは難しいだろ
う。いろんな愛の形があっていい、たとえそれが世間から拒絶されようと、結果
的に誰かを傷つけようと。

レイキウと初めて結ばれた翌朝、故郷の恋人に電話し「愛している」と継げるシウ
クワン。それはただの友情の延長だと思い込もうとして、彼はずっと後、結婚し
てから間違いに気付く。あれは真実の、たった一つの愛だったのだと。それがわ
かってからのシウクワンは、もう迷わない。人生にはやがて終わりが来る。なら
ば新しい土地で、新しい人生を始めよう。心の中にあの日の歌と思いを秘めて、
ニューヨークに生きる彼は、すっかり大人の男になっている。
映画冒頭、クレジットに杜司風クリストファー・ドイルの名前を見つけ、撮影
はドイルか!と喜んでいたら、俳優として出演していて驚いた。二人の心を繋ぐ
モチーフとして、テレサ・テンの歌が印象的に使われている。日本の歌のメロデ
ィーも聴こえてきてうれしい。ラストシーンのレイキウの笑顔が、10年という
歳月を飛び越えて光り輝いている。運命という言葉を、もう一度信じてみよう。
そんな気持ちにさせてくれる、涙、涙の傑作。この映画を勧めてくれた方々に、
心から感謝します。
★2007年4月20日、この映画のDVDが再発売されるようです★
(『ラブソング』監督:陳可辛ピーター・チャン/
主演:黎明レオン・ライ、張曼玉マギー・チャン/1996・香港)
心を描き、心を映す~『真珠の耳飾りの少女』

1665年オランダ、デルフト。タイル職人の娘グリート(スカーレット・ヨハンソン)
は、病を得た父の代わりに家を出、画家ヨハネス・フェルメール(コリン・ファース)の
家に雇われる。忙しい労働の合間の僅かな時間、フェルメールの芸術に触れたグリ
ートは、やがて彼にインスピレーションを与え、使用人以上の存在となってゆく・・。
日本でも人気の高いフェルメールの名画『真珠の耳飾りの少女』(または『青いターバン
の少女』)の誕生の秘密を描き、圧倒的な映像美で観るものを官能の世界へと誘う秀作。
天才画家フェルメールを演じたコリン・ファースと、彼と心を通わせる少女、グリ
ートを演じたスカーレット・ヨハンソンが見事。僅かに触れる指先や、色や光を共有
することで、二人の精神的な昂ぶりを表現している。グリートを見つめるフェルメ
ールの眼差しは溜め息もの。スカーレット・ヨハンソンも、無垢で清楚な少女であり
ながら、フェルメールとの出会いによって内に秘めた情熱や恋心を開いてゆくさま
には感嘆させられる。彼女が若手ナンバーワン女優だと評される所以がわかる。
★以下、内容に触れています★
グリートの鋭い感覚は、映画のオープニングから観るものに提示される。リズミ
カルに刻んだ野菜を、バランスよく皿に並べる仕草。肉の鮮度をかぎ分ける嗅覚、
ただ与えられた仕事をこなすだけでなく、「窓を拭く」という行為は画家にとって「光を
変える」行為に等しいということを理解している。そしてフェルメールの妻の母、一家
の家計を取り仕切り、パトロンとの交渉も受け持つマーリアも、グリートの感覚を
見抜いていた。そしてもうひとり、精肉店の息子ピーター(キリアン・マーフィー)も。
彼はグリートの聡明さに惹かれながら、彼女の心には届かないことを悟っている
かのようだ。「彼(フェルメール)に近付き過ぎないで」という言葉、「一緒に暮らそう」
というプロポーズに肯かないグリート。彼女にとってピーターとの逢瀬は、フェル
メールとの代償行為に過ぎない。意識しているのか、無意識なのか。台詞は最小限
に、微妙な表情と仕草でのみ描き出される官能的な世界に釘付けになる。
デルフトの街並みや運河、人々の暮らしぶりは17世紀にタイムスリップしたかの
ように完璧に再現されている。そして光と影を絶妙に配した映像が素晴らしい。
「まるで絵画のような」という言葉があるが、まさしく絵画のような、いや絵画以上に
美しい映画だったと言えるかもしれない。


(『真珠の耳飾りの少女』監督:ピーター・ウェーバー/主演:コリン・ファース、
スカーレット・ヨハンソン/2003・イギリス、ルクセンブルグ)
レオ、明日があるさ~第64回ゴールデン・グローブ賞授賞式
先日BSで放映された第64回ゴールデン・グローブ賞授賞式。映画好きで、視聴可能
な方はご覧になったのではないでしょうか? 私もしっかり録画して鑑賞しました。
昨年の放送では、アン・リー監督の受賞コメントに涙、涙でしたが、今年も最初の
受賞者、助演女優賞のジェニファー・ハドソンに早くももらい泣き。

ジェニファー・ハドソン
ビヨンセも涙してました。
ゴールデン・グローブはTV部門もあるため、たくさんのスターが拝めるのもうれ
しいところ。ビル・ナイ、渋くてカッコイイ~。。ケヴィン・ベーコンの奥様キラ・
セジウィックもTV部門で主演女優賞受賞、スピーチに感動しました。。なんて素敵
な夫婦なんだ!!!
『プラダを着た悪魔』が初見だったエミリー・ブラントも受賞、実力のある女優さん
なのですね。アレック・ボールドウィンも汗をかきかきうれしそうでした。
そしてやっぱり注目は映画部門!マーティン・スコセッシのマシンガントーク、
フォレスト・鶴瓶師匠・ウィテカーの絶句、イーストウッドが渡辺謙に感謝の言葉を、
などなど見所たっぷり。『ラスト・サムライ』のときは完全にお客さん状態だった謙さん
がセンターテーブルに陣取り、すっかり周囲のハリウッドスター達と馴染んでいるの
も感無量です。プレゼンターで登場したジェイクが、ちょっと居心地悪そうだったの
が気懸かりでした。誰かヒラリー・スワンクに新しいスタイリストを!

「俺は満足しちゃいない」と
さり気なくアピールする
ところも、さすが巨匠!
一番印象的だったのはメリル・ストリープのスピーチ。
「この映画(プラダを着た悪魔)がヒットしたのは、アメリカ中の映画館で上映されたか
ら。限られた場所でしか観られない、いい映画が多過ぎる。みんなで声を上げましょう」
アメリカも、日本と同じ状況なのだな~、と思いました。観たい映画が単館ロードシ
ョーなのはしょっちゅう。地方在住者としては、もっともっとシネコンで多くの映画
を観られるようにして欲しい。
そして締めはあの決め台詞「That's all.」かっこいい~。。カ・ン・ロ・ク。

こちらはヘレン・ミレン。
TVと映画、双方でエリザベス女王
を演じ、どちらも受賞。お見事!
作品賞は、それまで主要部門でことごとく賞を逃していた『バベル』。場内がどよめい
ておりました。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(長い、苦笑)が、しっか
り役所公司さんの名前も挙げていたのにも感動。公開が楽しみです。
そして今月末はいよいよアカデミー賞授賞式!私は総集編しか観られないのですが、
楽しみにしております!
な方はご覧になったのではないでしょうか? 私もしっかり録画して鑑賞しました。
昨年の放送では、アン・リー監督の受賞コメントに涙、涙でしたが、今年も最初の
受賞者、助演女優賞のジェニファー・ハドソンに早くももらい泣き。

ジェニファー・ハドソン
ビヨンセも涙してました。
ゴールデン・グローブはTV部門もあるため、たくさんのスターが拝めるのもうれ
しいところ。ビル・ナイ、渋くてカッコイイ~。。ケヴィン・ベーコンの奥様キラ・
セジウィックもTV部門で主演女優賞受賞、スピーチに感動しました。。なんて素敵
な夫婦なんだ!!!
『プラダを着た悪魔』が初見だったエミリー・ブラントも受賞、実力のある女優さん
なのですね。アレック・ボールドウィンも汗をかきかきうれしそうでした。
そしてやっぱり注目は映画部門!マーティン・スコセッシのマシンガントーク、
フォレスト・鶴瓶師匠・ウィテカーの絶句、イーストウッドが渡辺謙に感謝の言葉を、
などなど見所たっぷり。『ラスト・サムライ』のときは完全にお客さん状態だった謙さん
がセンターテーブルに陣取り、すっかり周囲のハリウッドスター達と馴染んでいるの
も感無量です。プレゼンターで登場したジェイクが、ちょっと居心地悪そうだったの
が気懸かりでした。誰かヒラリー・スワンクに新しいスタイリストを!

「俺は満足しちゃいない」と
さり気なくアピールする
ところも、さすが巨匠!
一番印象的だったのはメリル・ストリープのスピーチ。
「この映画(プラダを着た悪魔)がヒットしたのは、アメリカ中の映画館で上映されたか
ら。限られた場所でしか観られない、いい映画が多過ぎる。みんなで声を上げましょう」
アメリカも、日本と同じ状況なのだな~、と思いました。観たい映画が単館ロードシ
ョーなのはしょっちゅう。地方在住者としては、もっともっとシネコンで多くの映画
を観られるようにして欲しい。
そして締めはあの決め台詞「That's all.」かっこいい~。。カ・ン・ロ・ク。

こちらはヘレン・ミレン。
TVと映画、双方でエリザベス女王
を演じ、どちらも受賞。お見事!
作品賞は、それまで主要部門でことごとく賞を逃していた『バベル』。場内がどよめい
ておりました。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(長い、苦笑)が、しっか
り役所公司さんの名前も挙げていたのにも感動。公開が楽しみです。
そして今月末はいよいよアカデミー賞授賞式!私は総集編しか観られないのですが、
楽しみにしております!
テーマ : 第64回ゴールデングローブ賞
ジャンル : 映画
アナタは人を裁けますか~『それでもボクはやってない』

周防正行監督11年ぶりの新作。「どうしても観たい!」というわけではなかったのだ
けれど、あまりの評判のよさに劇場に出かけた。実は劇場の会員ポイントがたまっ
ていたのでタダ(しかもポップコーン付き)で観たのだけど、これは1800円出し
ても惜しくなかったなと思える、評判通りの力作だった。
26歳のフリーター金子徹平(加瀬亮)は、ある朝の満員電車で痴漢に間違われ、
警察に連行されてしまう。「ボクは絶対やってないんだ」示談を勧める当番弁護士や、
自白を強要する刑事の取調べにもめげず、裁判で闘う決意をする徹平。しかし彼
を待っていたのは、「無実=無罪」ではない、日本の司法制度の現実だった・・・。
「自分だって、やってないものをやりました、なんて絶対言わない!」と思いながら
意気込んで観始めたものの、その気持ちは段々萎えてくる。人権を無視した取調べ、
何ヶ月もの長期に渡る拘留、その間は当然、プライバシーの確保も外出することも
ままならない。一方、痴漢をやっていようがやっていまいが、認めさえすれば即日
、誰にも知れることなく釈放される。何百万という金を積んでの保釈後、裁判とな
れば更に長期に渡り、精神的にズタズタにされ、自らの出世と「被告人は無罪か有罪か」
ではなく「被告人の刑の軽重」だけを考えているような、法の精神もへったくれも持ち
合わせていないような裁判官に裁かれる。「怖いのは、99.9%の有罪率が、結果でなく
前提になってしまうことなんです」役所公司演じる弁護士はこうつぶやくが、この映画
を観る限り、もう既に「前提」となってしまっているではないか。
一体、この国の司法はどうなっているのだ?
この映画を観た誰もがそう感じるだろう、そしてその思いこそが、周防監督をし
て11年ぶりに映画製作に向かわせた原動力なのだ。
監督自らが手がけた脚本が凄い。専門用語はさりげなく登場人物たちに説明させ、
周防正行という一人の人間の「これを描きたい!」という思いがつまったセリフの数々
は長い法廷劇を飽きさせず、観客を傍聴人さながらに引っ張っていく。観客は自然、
徹平の支持者となるような流れではあるが、敵役となる刑事や裁判官、検察を真っ
向から「悪」として描いているわけでもない。彼らもそれぞれに、職務を全うしている
ことはキチンと描写されているのだ。
この脚本を自らの言葉として演じる俳優陣がまた凄い。スクリーンから、これほ
どまでにビリビリした緊張感が伝わってきた映画は初めてかもしれない。それは主
人公・徹平を演じた加瀬亮自身の緊張であり、怒りであり、祈りでもある。これだけ
の熱演なら、撮影中は金子徹平の人生を生きたかのように、さぞ辛かったのではな
いだろうか。脇役陣もそれぞれに素晴らしいが、裁判官を演じた正名僕蔵と小日向
文世、このふたりが対照的なキャラクターを実に巧みに演じていて見事と言うほか
ない。迫真の演技を観た。兎にも角にも、必見の映画であることに疑いはないだろう。
★以下、ネタバレします。未見の方はご注意下さい★
ほとんど完璧とも思える完成度だが、このタイトルはどうだろう。観る前からラ
ストのネタバレになっているのではないだろうか?実は観る前から「最後は有罪になっ
て、徹平の「それでもボクはやってない」のモノローグで終るんじゃないかな?」と思
っていた。実際その通りなラストなのだけれど、もちろんがっかりしたわけではな
い。無罪になってしまっていたら、カタルシスどころか白け切ってしまっていただ
ろう。だからこの結末に異存はないのだけれど、タイトルはどうだろう?いいタイ
トルだと思うのだけれど。
そしてこの映画が問いかけてくるもう一つの重い問いは「人が人を裁くことの難しさ」
だ。裁判官の判決文に、徹平のモノローグが重なる。
「ボクだけが真実を知っている、だからボクはこの裁判長を裁くことができる、彼は
間違いを犯したのだ」このようなセリフだったと記憶するが、徹平が裁判長を「裁くこと
ができる」と言ったことに少し違和感を覚えた。徹平の気持ちはよくわかる。無実であ
るにも関わらず有罪を宣告される悔しさ、情けなさ、絶望感。真実は彼と、神のみぞ
知る、であろう。だからと言って、徹平は裁判官を裁くことができるのだろうか?
もうすぐ、日本でも裁判員制度が始まる。そして痴漢事件にかぎらず、冤罪はある
日突然私の身にも降りかかってくるかもしれない。他人事ではないのだ。周防監督が
抱いた疑問や怒りが、少しでもほどかれていくことを望んで止まない。
(『それでもボクはやってない』監督・脚本:周防正行/
主演:加瀬亮、役所公司、瀬戸朝香/2007・日本)
テーマ : それでもボクはやってない
ジャンル : 映画
忘れんぼのルーシー~『50回目のファースト・キス』

『ウェディング・シンガー』を観て、いい!と言ったら「アダム・サンドラー&ドリュー
・バリモアのコンビならこっちのほうがいいよ」と何人もの方に言われたのがこれ、
『50回目のファースト・キス』。うん、確かに!これ凄くいいです。
ハワイの水族館で獣医をしているプレイボーイ、ヘンリー・ロス(アダム・サン
ドラー)は、ある日カフェでルーシーという女性と出会い、意気投合。翌日も会う
約束をして別れるが、彼女は眠ると前日のことを憶えていられない、短期記憶喪失
障害を抱えていた。「あなた、誰ですか?」ヘンリーは毎日毎日、彼女の気を惹こう
と一生懸命になるのだが・・。というちょっと重いテーマの本作ですが、そこはアダム
&ドリューの黄金コンビ。笑えて、泣けて、ラストは何ともいえない幸せな気分に
なれる作品です。もう、私はいつものように号泣(笑)。
あの温かく、ぽわ~んとしたウクレレのメロディーが流れるオープニング。初め
の何分かはちょっとテンポが悪いな、と感じたのですが、ドリュー演じるルーシー
が登場してから、物語は心地よく動き始めます。
とにかく何がいいって、アダム&ドリューが作り出す空気!初めて出逢った日、
二人が同じように恋の予感にうきうきと踊り出す姿。夜の水族館で、ウクレレを抱
えてヘンリーが唄う『忘れんぼルーシー』。このシーンのうれしそうな幸せそうなルー
シーは、ドリュー本人でもあると感じました。心の底から楽しそうに笑っている、
本物の笑顔。このカップル最高です。

アダム・サンドラーは特に美形でもなくかっこよくもなく、卵頭の普通の兄ちゃ
んなのですが、ルーシーをただひたすらに愛し慈しみ、大切にケアする姿に涙チョ
チョ切れ、惚れない女がいるでしょうか。ドリュー・バリモアも、相変わらず超キュ
ート!ペンギンやセイウチなど、動物たちも芸達者でビックリです。動物といえば、
ヘンリーの親友ウーラ(ロブ・シュナイダー)、私にはイノシシにしか見えません
でした(笑)。
娘の行く末を案じる父、このキャラも泣かせます。新聞を特注し、壁を塗り替え
毎夜『シックス・センス』に付き合う。ヘンリーの夢のため、愛し合っているのに別れ
を選択したふたり。娘とその恋人を思い、父が出した精一杯のサイン。そしてラス
トシーンにもこのお父さんがいてくれて、大変な人生を歩むであろうルーシーも、
きっと大丈夫だと心から思えるのでした。
この映画の温かな雰囲気は、ハワイという土地が持つ温かさとイコールなのだと
思います。そしてやっぱり、いい映画にはいい音楽!The Beach Boysの
『Wouldn't It Be Nice』、これ最高です!ブライアン・ウィルソンとハワイ、
もう怖いものなし!ヘンリーの肖像画で溢れたルーシーのアトリエ。そして
涙、涙のエンドクレジットにかぶさる名曲中の名曲The Police
『Every Breath You Take』のカバー。もう、言葉もないですね。
(『50回目のファースト・キス』監督:ピーター・シーガル/
主演:アダム・サンドラー、ドリュー・バリモア/2004・USA)
幸せの黄色いミニバス~『リトル・ミス・サンシャイン』

崩壊寸前の機能不全一家が、娘のミスコン出場のため、おんぼろのミニバスに
乗り込んだ。旅の途中で起こる様々な困難にぶつかりながら、家族が一つに再生
してゆく過程を描いたハートフルなロードムービー。
この映画、前評判が高かったのでどうしても観たかったのですが、昨年末の公開
で鑑賞は諦めていました。しかし、ロングランとなり無事観ることができました!
ノー・スターの低予算映画でありながら本国アメリカでは賞レースの大本命となり、
あの『ドリームガールズ』を蹴散らして(?)アカデミー賞の作品賞候補にも選ば
れています。期待通りの良作でした。
主人公であるフーヴァー一家、これがもう笑ってしまうくらいバラバラの個性派
揃い。「人生、勝ち馬に乗るか負け犬に成り下がるか、どっちかだ!」といつも説教し
ている父(グレッグ・キニア)、ドラッグとポルノが大好きで老人ホームを追い出され
たおじいちゃん(アラン・アーキン)、自称「世界一のプルースト研究家」で、恋人に振ら
れて自殺未遂したばかりのゲイの伯父さん(スティーヴ・カレル)、ニーチェに傾倒し、
口を閉ざした引きこもりの息子(ポール・ダノ)、そして一家のオアシス、ミスコン
優勝を夢見る、ぽっちゃり体型でメガネっ子のオリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)。
そんな彼らをなんとかまとめようとする気丈な母(トニ・コレット)。それぞれのキャ
ラが立っていて、見事なアンサンブルが出来上がっています。
この映画の脚本は、元は父役にビル・マーレイを想定して書かれたのだそうです。
彼が演じてもインディペンデントな雰囲気は損なわれなかったと思いますが、父役
のグレッグ・キニア、とってもよかったと思いました。このお父さん、「成功」という
概念を土台として成立しているアメリカのマインドを象徴するような人物なのです
が、家族との旅を経てどんどん変わっていくんです。自らが一番忌み嫌っていた「負け
犬」に堕ちてしまった後、それでも旅を続け、娘を見守る彼は人生で一番大切なもの
が何かを悟ったんだと思います。スティーヴ・カレルは抑えた演技ですが、ここ一番
の見せ場(コンテスト会場まで走る、走る!場面)では大いに笑わせてくれました。
『40歳の童貞男』未見なので絶対チェックだ!と思いましたね。その彼とコンビ(?)を
組むポール・ダノ、彼はエドワード「暗黒王子」・ノートンを彷彿させるダークなキャラ。
そしてやっぱりオリーヴちゃん、アビゲイル・ブレスリン!お腹ポッコリ、キューピー
さんみたいなんですけど(笑)、超かわいい。オスカーの助演女優賞候補にノミネー
トされて驚きましたが、かわいいだけじゃなく、確かな演技でした。そんな彼らを
支えるトニ・コレット、彼女も文句なし。
この映画、アカデミーの脚本賞にもノミネートされている通り、セリフがとっても
いいんです。特に息子と伯父さんが海辺で会話するシーンや、おじいちゃんの孫娘
に対するセリフなど、心に残る言葉がたくさんありました。
そしてもう一つの主役、黄色のミニバス。このバスのおんぼろ加減が一家を象徴
していると思うのですが、このバスが画面左から右に走り、家族一人ひとり飛び乗
る場面なんかは、ポスターにもなっている通り画的にすごく印象的です。傷心の兄に
オリーヴが無言で寄り添う場面も、構図が完璧でした。
この映画のテーマは「努力して挑戦したなら、それだけでもう負けじゃない」って
ことに尽きます。でも全く教訓的ではなく、あからさまなハッピー・エンドでもな
く、笑いの中にさりげなくメッセージがこもっているところがいい。大笑いしなが
ら、あれ、なんだか涙が出てきた・・、みたいなさり気なさ。観終わってからも、
じわじわ心に沁みてくるような素敵な作品です。上映館が少ないことが残念ですが、
観られない方もDVDで是非ご覧下さい!

★!! 以下、ネタバレです。未見の方はご注意下さい !!★
実はずっと「おじいちゃん、いつ生き返るんかな~?」と思いながら観てました(笑)。
ホントに昼寝してただけ、というオチかと。あと、オリーヴちゃんのダンス、あり
得ないほど下手でした(爆笑)。あれで予選2位って、どんなレベルやねん(笑)。
(『リトル・ミス・サンシャイン』監督:ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス
/主演:グレッグ・キニア、トニ・コレット、スティーヴ・カレル、
アビゲイル・ブレスリン/2006・USA)
テーマ : リトル・ミス・サンシャイン
ジャンル : 映画