吹替えの理想と現実~ブロークバック・マウンテン#17
 DVDの音声で「吹替え」を初めて選択した。普段なら絶対に字幕なのだが、BBM
の吹替えキャストについては話題になっていたし、「吹替えのほうがセリフを忠実
に訳している場合がある
」というのをかいろさんに教えていただき、一度は聴いて
みることにしたのだ。
20060929152115.jpg

 やはり、最初は違和感でいっぱい。アギーレの声がなんだかやさしいし、イニス
とジャックの声に高低差が無いような。でも女性陣(アルマ、ラリーン、ジャック
ママ)や他のキャストはさほど違和感はなかったから、イニスとジャックのオリジ
ナルの声音
を耳が憶えすぎているのだろうと思う。
 好き嫌いもあると思うが、やっぱり吹替えは難しいと思う。たとえオリジナルの
イメージと合っていたとしても、吹替える声優さんが有名な方だったりした場合、
どうしてもギャップを感じてしまう。先日の地上波『ロック・ユー!』のように、
チョーサーの声がかいけつゾロリ」なんて事も起こりうる。確かに字幕よりも情
報量は多いから、山で混ざった羊が「チリ人」の羊だったことや、アルマが越した
がったリバートンのアパートが「ランドリーの上」なこともわかった。しかしそれ
も程度の問題で、ドライブインシアターの映画の音声まで吹替える意味があるのだ
ろうか? あれはかなり興醒めだった

 そして最後の逢瀬の場面。ここはジャックが積年の思いの丈を早口でぶつけるシ
ーンで、字幕とセリフに一番齟齬があると思い、ちょっと吹替えに期待していたの
だ。案の定、「ローマ法王」なんて言葉まで出てきて、字幕よりははるかに言葉数
が多い。そしてこの吹替えを聴いて初めて、このシーンが理解できた気がした。
 ジャックが「それは前に言ったはずだ」と言った後、イニスがいきなり「メキシ
コに行ったのか?」と言い出す。ジャックはブロークバックで別れてから4年後に
再会した時のキャンプで、一緒に暮らそう、と持ちかけたこと、もしくはイニスの
離婚後、テキサスに誘ったことを言っているはず。それなのに、イニスはついさっ
きジャックが言った「暖かいところ、メキシコで会いたい」という言葉がずっとひ
っかかっていて、「前に言った」=メキシコ、と早合点してしまったのだな、と・・。
何度も観ているのに今更のようだけど、このシーンは、観るたびに、理解するとい
うよりも切なさで、ただただ胸が一杯になってしまっていたのだ。ヒースとジェイク
の演技から目が離せない
のに、字幕も読まなければ、しかも涙もどんどん溢れてく
るし・・。
「数回の行為」を「何回かヤル」とズバリ、言っているのも潔くていい。イニスは
ジャックに責められて、字幕では「俺は負け犬だ、俺はクズだ」と泣くのだけれど、
吹替えの「俺は自分も行き場も見失った」、このセリフはグサリと来た。
 自分=ジャックの半身である自分、行き場=ジャックと一緒にいられるところ
見失ったのではなく、心の底ではわかっていながら、それが認められず、そこにど
うしても辿り着けなかった
。だから、ずっとずっと辛かったんだ・・。今まで、辛
いのはジャックだと思っていた。20年間、辛かったのはジャックだと。先に泣き崩
れるイニスを「ずるい」なんて思ったこともあった。でも本当は、イニスもジャッ
クと同じくらい、苦しくて、日々を耐えていたんだと思う。

 そしてラストのイニスのセリフ。ここが直訳になっていて驚いた。「ジャック、
俺は誓う・・
」。でもやっぱり、日本語で言われると「何か違う」と思ってしまう。
私が一番好きなセリフ
"Truth is, sometimes I miss you so much I can hardly stand it..."
や、映画史に残るこの名セリフ
"Jack, I swear..."
これらは絶対、オリジナルで聴きたい。こうなったら、音声オリジナル、字幕なし
で観るしかない

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【2006/09/29 15:30】 | ブロークバック・マウンテン | トラックバック(1) | コメント(12)
彼らが生きている~ブロークバック・マウンテン#16
 DVD発売から一週間、やっとまた彼らに逢うことができた。今日まで観なかった
のはいろいろとゴタゴタしていた事もあるけれど、DVDのカバーにある言葉を読む
だけでぐっときてしまい、自分がどうなってしまうのか恐ろしくて、開封を躊躇し
てしまったのだ。それでも、映画館で一度観たからの「今日レンタルしてきたよ」
というメールに、とうとう薄いビニールカバーをはがす。

 開けたら最後、やはりTVの前から動けず。特典DISC→日本語字幕→吹替え、と続
けて観てしまった。うちのテレビ(29インチ・ブラウン管)にイニスとジャックが
映っている! それだけでもう、感動してしまう。

 特典DISCのメイキングなどはYou tubeで観ていたものだったけれど、アン・リー
監督のインタビュー
は初めて観た。ちょっとお疲れモードの監督、たくさんお話され
ていてちょっとビックリ。寡黙そうで意外と饒舌な方なんだな、それとも一人での
プロモーション(ヒースもジェイクも来られればよかったのに・・)だったから、
頑張っておられたのかも。しかし、このおじさん(失礼)があの映画を撮ったのか
・・と思うとつくづく尊敬の眼差しを送ってしまう。

この映画はゲイ・カウボーイの映画じゃない、ラブストーリーなんですよ」と何度
も繰り返し語っておられたのがとても印象的だった。特に「ゲイ・シネマではない
との言葉に、彼なりの矜持を感じた。ラブストーリーであることを強調していたのも、
一人でも多くの人にこの作品を観て欲しい、という気持ちの表れだったのだと思う。
「この映画を観た女性は皆怒っている」ともおっしゃっていたけれど、「ここに怒っ
てない女がいますよ
!」と、手を挙げたい気分だった。

 映画館で何度も観た日本語字幕版。画面は小さいけれど、さすがDVD、画像はとて
もきれい。ああ、この空、この雲。この山々だ、私がずっと迷い続けたのは
何度も観ているくせに、今回初めてこの映画で一番最初にしゃべるのはアギーレなん
だ、と思った。BBM#10で「イニスの吸殻」について書いたけれど、BARで彼が吸うの
はやっぱりアギーレの事務所前で吸っていた一本なんだ、とも思った。そんな細かい
確認ができるのも、DVDのいいところだと思う

 幸せな山での時間。体育座りするイニスを迎えに行くジャックに、涙、涙、ナミダ
・・。イニスにとっては生まれて初めての純粋に楽しい時間で、彼にとってジャック
は生まれて初めて出逢った心を許せる人だったんだろうな。初恋でもあったんだろう。
感情を表す術を知らず、抑圧の塊のような彼は、いきなり訪れた楽園の終わりにどう
対処していいかわからなかったのだろう。そんなイニスをいつも笑わせようと頑張る、
頑張り過ぎるジャック。ラストがわかっているから、「シャツを山に忘れてきた」と
言うイニスに対するジャックの表情がまた泣ける
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 ・・と、まぁ全編泣きっぱなしだったわけだけど、字幕もしっかりチェック、とこ
ろどころ変わっている。ラストは私が望んだ直訳ではなかったけれど、「よ」が無く
なっていた。しかし、イニスが沐浴する前にお湯を使うかと問われてジャックが言う
お前はいい」、これはどう考えても間違いでしょう。映画館では「お前にやる」と
なっていた部分だけれど、「俺はいい」の誤植(?)ではないか。ちょっと残念、い
やかなり残念

 アン・リー監督の言う「ケミストリー」、本当に、なんてパーフェクトな二人なん
だろうと思う。ヒースもジェイクも、成り切ってるんじゃなくて、イニスとジャック
を体現している。イニスとジャックが生きている。だからこの映画は、好きな人は何
度も何度も観てしまう映画なんだろう、観ればそこに彼らが生きているんだから。
 長くなりました、#17に続きます

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【2006/09/29 00:07】 | ブロークバック・マウンテン | トラックバック(0) | コメント(9)
初アーヴィング~『未亡人の一年』
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 世界的ベストセラー作家ジョン・アーヴィング。映画化された彼の作品は
ホテル・ニューハンプシャー』『ガープの世界』『サイダーハウス・ルール』を観
ているが、長い長い原作には今まで手が出せず、自称「ハルキスト」の割には
村上春樹訳の『熊を放つ』も未読。先日ドア・イン・ザ・フロアを鑑賞したことで、
やっと長年の「目の上のコブ」を手に取ることができた。

 読み始めてまず、その簡潔にして明瞭な文体に驚かされた。アーヴィングとい
えばとにかく長編、大長編だから、文章もさぞ長文・難解だという先入観を持っ
ていたのだ。考えてみれば、長文・難解な文体の作品がこれだけ世界的に受け入
れられるわけがないのだが・・。思い込みって恐ろしい。

 物語は、1958年夏のロングアイランドから、1990年のニューヨーク、アムステ
ルダム、そして1995年、37年の時を経て秋、再びロングアイランドで幕を閉じる
主な登場人物は主人公ルース、ルースの父テッド、母マリアン、マリアンに恋す
エディ、ルースの親友ハナ。彼らの37年間に渡る「愛と追憶の日々」を綴った
作品だ。映画ドア・イン・ザ・フロアは、この物語の約3分の1を映像化した
ものだが、ほぼ原作通り、忠実に映画化されている。そして映画で描かれる結末
の後、世界的人気作家となった36歳のルースを軸に、エディとの再会、父テッド
との愛憎、母マリアンの不在、作家としての葛藤、結婚への迷い、息子の誕生と
夫の死、再婚、感動的なラストへと物語は流れていく。

 登場人物の中で、私はエディに一番心惹かれた(感情移入したのはルースだっ
たけれど)。純粋で朴訥で大ボケで、人生でたった一つの愛を信じ、慈しみ続け
るエディ
。そのせいか、彼の登場しない中盤、アムステルダムの飾り窓地区での
ルースの体験などは退屈に感じられた。この辺りをコンパクトにまとめたなら、
もっとすっきりとした作品になるのだろうが、この長さが「アーヴィング節」の
真骨頂であり、ファンにはたまらない部分なのかもしれない。ルースに与えられ
た余りにも過酷な人生、特に「最後の悪い恋人」スコットとのエピソードなどは
読み進むことを躊躇してしまうほどだが、アーヴィングはこれを「少しばかりの
不運
」と呼び、ルースに少しずつ、愛を学ばせていく。そしてこれだけの長大な
ストーリーを、大団円のハッピーエンディングに持っていく力技はさすが。最終
章「七十六歳のマリアン」を読むためだけにこの長いページをめくってきたのだ
としても、本を閉じたあと、決して後悔はしないはずだ。これは愛の物語であり、
愛とは決して後悔しないこと」であるはずだから。

 都甲幸治氏による「訳者あとがき」も素晴らしい。私は単行本を借りて読んだ
が、文庫も出ていて訳が一部訂正されている模様。文庫版を買うかもしれない。

 ★おまけ~絶対実現不可能・勝手にキャスティング~
     ルース:ケイト・ブランシェット
     エディ:ライアン・ゴズリング
     ハナ :レイチェル・ワイズ
     アラン:ジェリー・ブラッカイマー
     ハリー:イーサン・ホーク

(『未亡人の一年ジョン・アーヴィング著/新潮社・2000
         "A Widow for One Year"by John Irving/1998・USA)

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【2006/09/27 09:46】 | 読書 | トラックバック(2) | コメント(6)
最後に辿り着く場所~『コールドマウンテン』
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 チャールズ・フレイジャーのベストセラー小説を、アンソニー・ミンゲラ
映像化したこの作品は、戦争映画であり、恋愛映画でもあり、女同士の友情物語
でもある。南北戦争の末期、南軍兵士であるインマンジュード・ロウ)は、
愛する女性エイダニコール・キッドマン)の元へ帰るために、脱走という重罪
を犯し故郷コールドマウンテンへと向かう。『コールドマウンテン』とは、ノー
スカロライナ州の街の名前であると同時に、「寒山」という中国の修行僧の名前
でもあり、魂が最後に辿り着く場所、という意味もあるという(コメンタリより)。
エイダを助け、友人となり家族となるルビーを演じたレネー・ゼルウィガーは、
本作の演技でアカデミー助演女優賞を受賞している。

以下ネタバレあり
 
 物語は、戦場から脱出したインマンの逃避行と、農場で奮闘するエイダを交互
に描写する。重苦しい場面の連続に沈み込みそうになったとき、救世主のごと
く現れるのがルビー(レネー・ゼルウィガー)だ。親に見捨てられ、自分の足
で強く生きていく術を知り尽くしているルビーによって、お嬢様育ちで生活力
に乏しいエイダは力強く、たくましい女へと変わってゆく。そして、現実的で
精神的世界や芸術には無関心だったルビーも、エイダの朗読する『嵐が丘』に
心を奪われ、やがて恋を知る。一見正反対のエイダとルビーが、互いを尊重し
つつ相手に無いものを与え合い、固い友情を育んでゆく過程
は見応え十分だ。

 片やインマンの苦難の旅路にも、様々な人々との出会いが描かれる。罪深い
牧師(フィリップ・シーモア・ホフマン)、渡し舟の少女(『ドニー・ダーコ』
でジェイクのGF役を演じたジェナ・マローン)、若き未亡人セーラナタリー
・ポートマン
)、北軍の兵士(キリアン・マーフィー)。インマンを支えたの
がエイダへの一筋の愛であり、エイダを支えたのもインマンを「待つ」という
たったひとつの希望だ。そしてその「待つ」ことさえ許されない、戦争未亡人
を演じたナタリー・ポートマンのエピソードがひときわ胸を打つ。互いに温も
りを求めながらも、エイダへの愛に心中立てるインマン。「金物(=剣や銃)
が人間を悪くしている」と、銃に触れることさえ嫌悪していたセーラが、北軍
の、実は心優しい兵士を銃殺してしまう狂気。戦争という暴力の犠牲者である
者が、加害者へとあっけなく転換してしまう恐ろしさ。戦争は兵士だけでなく、
その家族、土地、全てを蹂躙するのだ

 義勇軍に撃たれ、精根尽き果てたように倒れこむインマン。エイダの腕の中
で"I came back."とつぶやき、"I Love You."と返すエイダ。お互いに、その
言葉を言うためだけに生き延びてきた年月を、傷ついたインマンの魂を、真っ
白な雪が覆い尽くす。美しい二人の演技が、素晴らしい

 陽光に溢れた明るいラストには救いを感じた。それでも、ルーカス・ブラッ
ドナルド・サザーランドら、豪華すぎるキャストが並ぶエンドクレジット
が終っても、涙はしばらく止まらなかった

(『コールドマウンテン』監督:アンソニー・ミンゲラ
  主演:ジュード・ロウ、ニコール・キッドマン、レネー・ゼルウィガー
                             /2003・USA)

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【2006/09/25 21:50】 | DVD | トラックバック(5) | コメント(10)
これぞHappy Ending~『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』
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 前作と同じキャストでの続編。敏腕弁護士マークコリン・ファース)と結ばれ、
浮かれっぱなしのブリジットレネー・ゼルウィガー)。完璧な恋人とのゴールイン
を夢見る相変わらず太めな彼女に、新たな試練が・・。ブリジットの恋の行方は??

 しかしこのキャスト、完璧ですね。親しみやすい顔つき(身体つきも)、虚栄心の
ない、欲望にまっしぐらな「全世界的女子代表」ブリジット・ジョーンズ=レネー・
ゼルウィガー
高身長高学歴、無骨で生真面目、それでいて超セクシーなマーク・ダ
ーシー=コリン・ファース。そして軽薄、二枚舌だけど憎めない、愛すべき色男ダニ
エル・クリーヴァー=ヒュー・グラント。ヒュー様がちょっとお疲れ(?)ルックス
なのが気になったけれど、最高の組み合わせです、この三人。同い年(1960年生まれ)
で、誕生日も一日違いのヒューとコリンは「永遠のライバル」と勝手に認定させてい
ただきましょう! 特典映像でも、お互いの悪口を真面目な顔して言い合うふたりが
なんとも?)コンビなんだな~。ちなみに監督(女性)はヒュー様にゾッコンの
ご様子で、「私だって彼に惚れるわ!」「彼は優等な遺伝子を受け継ぎすぎよ!」と、
手放しの褒め称えぶりでございました(コメンタリより)。

 ところで『ラブ・アクチュアリー』って、『ブリジョ』のパロディ部分があるんだな、
と今更気付いてしまった。妻を寝取られるコリン・ファースに、太めな女性に惹かれる
ヒュー・グラント。そして『ブリジョ』にはBBC制作のドラマ『高慢と偏見』のパロディ
部分があるらしい。コリン・ファースが大人気を博したというこのドラマ、う~ん、観
たい・・。

 音楽もまたいいんです。前作でも『All By Myself』とか『I'm every woman』などの
曲が印象的に使われていたけど、今回は特にキスシーンの時に流れる音楽がよかった!
ブリジットがダニエルと、タイのホテルで・・という場面。私が一番好きな曲の一つで
ある『I'm not in Love』ですわ。そしてラスト、ブリジット&マークには『Your Love
is King
』ですよ!もう~うっとり(笑)。

 レネー・ゼルウィガーは、かわいらしい声ヒョコヒョコした走り方がなんとも言え
ず、とっても魅力的。前作では「なんでブリジットばっかりモテルのさ!」とも思った
けれど、彼女なら誰にでも愛され、共感を得られるだろうな、と納得。このキャラクタ
ーを創り上げたレネーに改めて拍手! そしてヒュー様とコリン、また共演して~!!
お二人の「へなちょこファイト」が観たいんです。ワーキングタイトルさま、どうぞ
よろしくお願いします。

(『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』監督:ビーバン・キドロン
    主演:レネー・ゼルウィガー、コリン・ファース、ヒュー・グラント/2004・USA)

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【2006/09/21 16:51】 | DVD | トラックバック(2) | コメント(6)
Just as you are.~『ブリジット・ジョーンズの日記』
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 本国イギリスは勿論、日本でもベストセラーとなったヘレン・フィールディングの
同名小説を映画化した本作。原作者・監督とも女性で、オースティンの『高慢と偏見』を
下書きにしつつ、現代の「30代独身・子無し・キャリア有り=負け犬」の本音とラブ・
ライフ
を描いた本作。主演はアメリカ人女優レネー・ゼルウィガー、製作はおなじみ
魔法使い集団ワーキング・タイトル。レネーを受け止めるイギリス紳士は、同い年の
コリン・ファースヒュー・グラントの両氏、とくればもう、気楽に安心してご覧いた
だけるラブコメの王道であるのは間違いない。

 出版社勤務の32歳のブリジットレネー・ゼルウィガー)は、煙草とアルコールが止
められない、ぽっちゃり体型の独身女性。恋人を求めてやまない彼女は、自分の本音を
日記に綴っている。幼馴染の敏腕弁護士マークコリン・ファース)と再会し、ハンサム
な上司のダニエルヒュー・グラント)からはメールが届き、なにやら恋の予感・・。

 本作の魅力は、体重を増やし、イギリス英語をマスターし(「最初はエリザベス女王
かと思った」by ヒュー・グラント)、文字通り「体当たり」で役に臨んだレネー・ゼル
ウィガー
が創り上げたブリジット像にあるだろう。しかし彼女、実はすっごく恵まれた
境遇のラッキー・ガールなのである!NYに本社を構える出版社の宣伝部員としてのキャ
リア
はあるし、いつでも慰めあったり、バカ騒ぎできる友人もいる。恋人がいないだけ
で、彼女は全然孤独じゃない!転職しようと思えば数回の面接でTVのリポーターという
花形職業に就き、なんと言っても、一年間で二人のケンブリッジ卒男性と恋のチャンス
が訪れているではないか!どこが負け犬やねん!(←うらやましくてやたら力説)
 その二人の男性、片や真面目で堅物なマーク、片やハンサムだけどいい加減で女たら
しのダニエル。マークを演じたコリン・ファース、初登場シーンで彼が振り向いたとき
には思わず笑ってしまったけれど、なんとまぁ素敵なこと!意外に背がとても高いこと
も発見。今まで見くびっておりました、というかどこ見てたのか?反省。。ダニエル
演じるはご存知タイプキャスト王ヒュー・グラント。今回は薄っぺらな嫌な奴を巧く演
じて、これも本人?と思わせるほどのハマリ役。ヒュー様以外にこの役ができる俳優、
思いつかない・・。いややっぱり本人なのかもしれない、ケンブリッジかオックスフォ
ードかの違いだけで(笑)。とにかく、こんないい男ふたりに囲まれて、アンタ幸せモノ
だよブリジット


 出版パーティでサルマン・ラシュディ氏らしき人物がいたのと、『いつか晴れた日に
でもお母さん役だったジェマ・ジョーンズが、全然違うタイプのお母さん役を楽しそう
に演じていたのが面白かった。いくつになっても、皆の関心は「ラブ・ライフ」なんだ
よね。それがなけりゃあ日々が輝かないんです、わかるわかる。新しいブリジットの日記
も、早速読ませていただきましょう!

(『ブリジット・ジョーンズの日記』監督:シャロン・マグワイア/
  主演:レネー・ゼルウィガーコリン・ファースヒュー・グラント/2001・USA)

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【2006/09/19 21:49】 | DVD | トラックバック(4) | コメント(5)
乗れませんでした~『グエムル-漢江の怪物-』
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殺人の追憶』『ほえる犬は噛まない』のポン・ジュノ監督の新作で、随分前から
楽しみにしていた本作。おなじみソン・ガンホペ・ドゥナが主演と聞くや、期待
も高まるというもの。韓国では興行記録を大幅に塗り替える超特大ヒットになって
いるらしい。しかし日本ではいまいちパッとせず、何やらクリーチャーの盗作疑惑
まで持ち上がっている。これは絶対にこの眼で確認せねば。。
 韓国映画を劇場で観賞するのは半年振り。3月に『美しき野獣』を観て以来、す
っかりご無沙汰していた。それまで約2年間韓国映画漬けだったのに、山で遭難
てしまって・・。韓国語の響きが懐かしい。

 ソウルの漢江沿いで売店を営むパク一家。突然現れた謎の怪物に、怠け者の長男
カンドゥ(ソン・ガンホ)の娘ヒョンソ(コ・アソン)がさらわれる。怪物から病
原体ウィルスが発見され、カンドゥらは隔離されるが、ヒョンソから携帯に着信が
入り・・・。怪物とパク一家との戦いの結末は如何に? というのがストーリー。

★以下ネタバレあります★

 結論から言うと、私はこの映画に乗れなかった。モンスターパニック映画であり
つつ、家族の結束を描く人間ドラマでもある、はずなのであるが、今回その人間ド
ラマの部分が首を傾げたくなる感じなのだ。グエムルの造形やVFXは凄い。『ジュ
ラシック・パーク
』の世界もここまで来たか、全く不自然でないグエムルの動き、
怖すぎる。盗作疑惑については、元ネタになったという作品を知らないし、怪物な
んて似たりよったりだと考える私のような人間には、そんなことは気にならない。
まぁ、グエムルの口元(?)が『エイリアン』みたいだなぁ、とは思ったが・・。
デモや環境問題や賄賂や家族で囲む食卓など、韓国らしさ満載の映画なのだけれど、
どうもパク一家の絆や、ヒョンソが生き残っている理由がわからない。冒頭で古い
携帯を登場させておいて、その携帯で連絡がある、というところも解せない(防水
機能付き?まさかね)。存在そのものが、もはや画になる(笑える?)ソン・ガン
は相変わらず存在感十分だし、次男ナミルのパク・ヘイルや一家の主・ピョン・
ヒボン
も悪くない。しかし、肝心の長女ナミル、ペ・ドゥナ輝きがない!子役の
コ・アソンの方が光っていたと思う。ラストの食卓で、カンドゥがセジュと食卓を
囲んでいるのはいい。カンドゥが改心して髪を切り、再出発したということなのだ
ろう。ではナミルやナムジュは何処へ行ったのだ? これも納得行かない。

 社会と弱者(パク一家)とのギャップや、アメリカに対するアンチテーゼなども
盛り込みつつ、ユーモアも忘れない作劇は確かに面白いと感じる人もいるだろう。
評価の高い作品だし、ニューヨーク・タイムズに楯突く気は毛頭無いが、私は駄目
だった
乗れなかった。期待していた分、とても残念だけれど・・。
 もしかしたら、今の自分が求めているものと『グエムル』の方向性が違っている
だけだったのかもしれない。『マイアミ・ヴァイス』を観てコン・リー姐さんを拝
んだ方がよかったのかな。。などと思いつつ、帰路についたのでした。
 あ、でも『トンマッコルへようこそ』と『王の男』は絶対観ますよ!

(『グエムル-漢江の怪物-』監督:ポン・ジュノ/主演:ソン・ガンホ、
                 パク・ヘイル、ペ・ドゥナ/2006・KOREA)

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【2006/09/17 05:35】 | 映画 | トラックバック(5) | コメント(19)
ネタバレ全開で、ヒース愛を叫ぶ~『パトリオット』
 ヒースの出世作で、メル・ギブソンの長男を演じた、ってことは知っていたのですが、
未見でした。メル・ギブソンの主演映画って、ちょっと苦手だし・・戦争映画だし。BS
で放映が無ければ観なかったと思います。でも、でも、本当に観てよかったです、だっ
ヒースがかっこいいから!! いや、「かっこいい」どころか、「今まで観た出演作
の中で一番かっこいい
」かもしれません! ガブリエル・ヒース、一番好きかも・・っ
て、間違ってますか?(『悪霊喰』のヒースが一番、というご意見も散見するのですが)
しかもこんなにもヒースの出演場面が多いとは・・。準主役ですね。

 1770年代、アメリカ。独立戦争時、イギリス軍と戦った民兵たちのお話。こんな時代
があったのですね・・。なんと言っても、あの戦い方に目が点でした。だって敵に向か
ってお互い一列に並んで打ち合うねんよ~、そんなん絶対当たるって!! で、弾に限
りがあるからか、ひとしきり打ち合った後は刀や短剣で切り合うんですね・・。いやは
や。勝敗(退却しどころ)って、一体どう見極めるのでしょうか?

 とまぁ、そんな話は置いといて。ヒースです! ちょっと~、むっちゃかっこよくな
い? ガブリエル。初登場シーンではまだ少年の面差しなんですけど、段々大人の男に
成長していくんですね・・。もう、あの反則技の笑顔! 共演した女優さん、うらやま
しい~。。マジで惚れますよね~。ガブリエルの恋人アンリサ・ブレナー)って、か
なりうれしそうじゃなかった? あれって演技? えぇ~、怪しいなぁ。まぁ、共演し
た女優さんのハートをたっくさん打ち抜いてきたヒースですけど、ミシェルに落ち着い
てますね~、今のところは不謹慎)。
 復讐に燃えたガブリエルが敵にとどめを刺そうとするところ、表情にはまだ「人を殺
める」ことへの畏れみたいなものが伺えます。そこで死んだフリしてた悪役(ジェイソン
・アイザックス
、憎々しい演技が巧いです)にやられてしまうんですね・・。
お父さん、トマスのこと、ごめんなさい」もう、号泣です、うぉおおお。。
ロード・オブ・ドッグタウン』のスキップは、スキップさんご本人がこの作品を観て
「自分の役はヒースに演じて欲しい」と希望されたそうですが、お目が高い!この作品
のおかげでスキップ・ヒースが観られたわけで、感謝・感謝です。

 物語としては、「アメリカ万歳」な「愛国心発揚映画」ですね。泣かせどころも巧い
です、トマスの死でホロリ、スーザンの「パパ~」でボロボロ、で、ガブリエルの死で
号泣、と単純な私はまんまと泣かされてしまいました。黒人の兵士が最後まで「自由意志」
で参戦して、白人の兵も「名誉だ」と返すのですが、独立戦争後も差別は歴然と(もし
かしたら21世紀の現在でも)残ったことを思うと、ちょっと複雑でした、ここは素直に
観られなかったな。。
 
 ジェイクの『デイ・アフター・トゥモロー』も監督したローランド・エメリッヒ
ドイツ人なのですね。メル・ギブソンとヒースはオージーだし、シャーロット叔母さん
役のジョエリー・リチャードソンもイギリス人(ってこの方、バネッサ・レッドグレイブ
の娘さんなのですか!)。監督と主要キャストがアメリカ人じゃない、ってなんだか
不思議な感じです。まぁそんなことはどーでもよくて、ヒース、ホントによかったよ~、
かっこよかったわ~
、な作品でした!
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拡大してご覧下さいませ

(『パトリオット』監督:ローランド・エメリッヒ/
         主演:メル・ギブソン、ヒース・レジャー/2000・USA)

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【2006/09/15 13:48】 | DVD | トラックバック(6) | コメント(12)
各方面大絶賛も納得の傑作~『わたしを離さないで』
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私の名前はキャシー・H」。「介護人」である31歳のキャシーの一人称で語られる、この
静かで切なくやるせなく、どうしようもなく愛おしい物語は、発売と同時に英米で
ベストセラーとなり、絶賛の嵐を巻き起こしたという。日系イギリス人作家である
カズオ・イシグロによるこの本の存在を知ったのは、村上春樹のHP(現在は閉鎖中)。
彼が本書を「本当に美しい文体」と絶賛していたのだ。他にもよしもとばななや、解説
を書いている柴田元幸らも「イシグロの最高傑作」と称賛を惜しまない。ヘールシャム
という施設で育ったキャシールーストミーの三人を主人公に、彼らの思春期から
数十年に及ぶ愛と絆永遠の別離までを描く物語だ。

 何故彼らは施設で生活しているのか。不思議な授業や「保護官」と呼ばれる先生たち、
提供者」とは、「介護人」とは何を意味するのか。物語は様々な謎をはらんでいくつ
もの伏線を張りながら、少しずつ真実を読者に提示していく。彼らはどのように生を受
け、何のために生き、どんな風に「使命」を終えるのか。彼らに与えられたあまりにも
残酷な運命と結末に息を呑みながらも、抑制された語り口美しい描写に引き込まれ、
この物語世界に完璧に取り込まれてしまうまでには、読み始めてからそう時間はかから
ないだろう。正直、読了しこうして感想を書きながらも、胸がいっぱいで涙が表面張力
になるのを抑えるのが難しい。しかしこの状態を「キャシーに感情移入してしまった」と
書くのが安易だとはばかられるほど、彼らに与えられた人生は厳しく、やるせない。

 キャシーとルースは、女同士の、一見どこにでもありがちな関係に描かれている。友情
のなかに潜む嫉妬、羨望、悪意、それらを覆い隠して二人を結び付けている深い愛情。
それでも、ルースの複雑な感情(キャシーとトミー、それぞれへの思い)から、「ずっと昔
からそうなるべきだった
」キャシーとトミーが共に過ごせた時間があまりにも短く、遅
すぎたことを思うと切なさで苦しくなる。老いることすら許されず、どうして感傷的に
ならずに過ごせるのかと不思議に思えるほど、運命を受け入れて淡々と生きていく主人公
たち。彼らに所有することが許されるものは唯一「記憶」であり、空想や感情の爆発や、
涙さえも「甘え」だと自分に許さないキャシー。どこまでも冷静で、常に自制しつつもやさ
しく繊細で、周囲の仲間を思いやる彼女の姿。失い続ける人生、行きたいところではなく、
行くべきところ」しかない人生。

 入念に、完璧に構成されたストーリーは驚嘆ものだ。主人公たちの心象も緻密に描か
れ、風景描写は映像が頭の中に立ち上がってくる。一章一章、読み進む毎に心に水が満
ちるような感覚
を憶え、読み終わるのが惜しいような気分で随分と時間をかけて読んだ。
文体の美しさは語り尽くされていると思うが、難しい語彙を排した平易な文章で、ここ
まで感動的な作品を成す作者の力量と、土屋政雄氏による流麗な翻訳には心から敬意を
表したい。かなり複雑で繊細なテーマであるが、それ故に、現代において必ず語られる
べき物語である本作の、映画化は困難だろうか?

 カセットテープがいっぱいに描かれ、本作中で最も感動的な場面を思い起こさせる
印象的なカバー。間違いなく後世に読み継がれる傑作であるし、残されるべき作品だ
と思う。是非、ぜひ、読んで下さい

(『わたしを離さないでカズオ・イシグロ著/土屋政雄・訳/早川書房・2006、
 『NEVER LET ME GO』by Kazuo Ishiguro/2005・UK)

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【2006/09/14 06:01】 | 読書 | トラックバック(3) | コメント(8)
悲しみの果てで「扉」を開く~『ドア・イン・ザ・フロア』
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読んでから観るか、観てから読むか」。原作がある映画の場合、これはかなり重要な
問題。前者なら大抵、「イメージと違う」とがっかりすることになるし、後者なら映像
のイメージを持ちつつ読み進むことになるから、物語の世界に入り込みやすい。しかし
結末がわかってしまっているから、読了する必要性を感じなくなってしまうのが難点だ。
最近では『ジャーヘッド』の原作がそう。あまりにも映画が原作に忠実で、あえなく前半
で挫折。面白い本だとは思ったのだけれど。。
 ジョン・アーヴィングの『未亡人の一年』を原作に持つこの作品は、予告で観たキム・
ベイシンガー
の美しさに惹かれて観たいと思ったけれど、原作が読みたいがために先に
映画を観た、と言えるかもしれない。

 絵本作家であるテッド(ジェフ・ブリッジス)とその妻マリアン(キム・ベイシンガー)
は、娘のルース(エル・ファニング)とともに海辺の家で暮らす。ある夏、作家志望の学生
エディ(ジョン・フォスター)がテッドの助手として雇われ、それぞれの人生が動き始め
る・・・。

 メインキャスト4人が、それぞれ適役でいい。ジェフ・ブリッジスは女好きで、浮気を
繰り返す中年のスケベ親父でありながら、娘の良き父でもあり、内面に苦悩を抱えてい
るテッドをどこか憎めないキャラとして演じることに成功している。テッドがイカ墨で
描いていた絵は、ジェフ・ブリッジス本人によるものだとエンドロールで知り、巻き戻
して観てしまった。『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』ではピアノも
弾いていたし、この人才人なのですね・・。キム・ベイシンガーも衰えない美しさだけ
でなく、悲しみと喪失感で心を閉ざし、娘を愛せない自分に苦しむ母親を演じて説得力
十分。テッドとマリアンに出逢うことで、未知だった大人への「」を開け、新たな世界
を知る代償にイノセンスを喪っていくエディ。彼を演じたジョン・フォスターも好演し
ていると思う。そして何と言ってもエル・ファニング。ダコタ・ファニングの妹だとい
う幼い彼女の奇跡的なかわいらしさと、まだ「生まれる前」=「死後の世界と繋がって
いるかのような名演技。なんという恐るべき姉妹であろう。

 喪失の痛みや悲しみを共有できるたった一人の相手と向き合えない苦しさ。再生を願っ
て産んだ新しい命を愛せない自責の念。マリアンの中で冷たく澱んでいた生命力は、エディ
との関係のなかで温かく流れ始めたのか?亡き息子に似た少年を妻に与えたテッドのほん
とうの願いとは、何だったのか。出逢った瞬間、マリアンに恋したエディの想いは、運命
だったのか、それともただの「ひと夏の恋」に過ぎないのか?「来年の夏は私とどうぞ」
誘惑するかのように髪を下ろす額縁屋の女、それと似たようなものなのか。ラスト、「ドア
・イン・ザ・フロア
」へ消えてゆくテッドは何処へ、何を求めて去ったのか・・。

 この作品は、原作の前半部分のみを映画化したものだという。ジョン・アーヴィング
作品は映画化されたものは観てきたが、小説は読んだことがない。これは読まねばなりま
せぬ


(『ドア・イン・ザ・フロア』監督:トッド・ウィリアムズ/
           主演:キム・ベイシンガージェフ・ブリッジス/2004・USA)

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【2006/09/12 12:29】 | DVD | トラックバック(2) | コメント(4)
人生の黄昏に、何を想う~『日の名残り』
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 イギリス文学の最高峰であるブッカー賞に輝いたカズオ・イシグロによる原作を、
ジェームズ・アイヴォリーが映像化した名作。いきなり名作と言い切ってしまえる
ほど、「大英帝国」そのもののように重厚で荘厳で、人生における普遍的な「喪失
を描き切った作品だ。

 かつては貴族の社交場であり、非公式の国際会議も行われていた英国のダーリントン
・ホール
。主人であったダーリントン卿の死後、富豪のアメリカ人議員ルイス(クリス
トファー・リーヴ
)に買い取られた屋敷で、20年以上に渡り執事であり続けるスティー
ブンス(アンソニー・ホプキンス)。人手不足解消のため、スティーブンスはかつての
女中頭ミス・ケントン(エマ・トンプソン)からの手紙を頼りに、彼女に会うための旅
に出る。スティーブンスの頭をよぎるのは、第二次大戦直前、ダーリントンホールが
一番賑わっていた日々。それはスティーブンスにとっても、人生で一番輝いていた日々
だった・・。

 自らを「無」、もしくは「透明な存在」に徹するかのような執事という職業。主人へ
の忠誠を誓い、自分の意思や考えを放棄して仕えるスティーブンスの姿は修行僧のよう
でもある。責任感と自負から感情を抑圧し、生涯たった一度の愛からも目をそらし続け
たスティーブンス
彼の元を去り、結婚という道を選びながら、その選択は間違ってい
たと悔やみ続けているミス・ケントン
。「あれからもう20年」「あの頃が一番幸せだった」
と語り合うふたりは、やがてそこにはもう二度と戻れないと悟る。
 私には、この二人、とりわけスティーブンスが、BBMのイニスに重なって仕方なかった。
自分を抑えて感情を押し殺し、一番必要なものから目をそらし続け、結局は失ってしま
う。これは誰にでも起こりうる悲劇であり、いつもは遅れて来るはずのバスがその日に
限って定時に到着するように、ままならない人生の悲哀が降りしきる雨と離れてゆく手
に凝縮されている。

 語り尽くされていることかもしれないが、この作品のアンソニー・ホプキンス、エマ
・トンプソンの演技は凄い。誰もが息を呑むであろう「」のシーン。二人の緊張感と
内にたぎる性的衝動、抑えに抑えた感情が画面を越えて伝わってくる。奇跡のような、
完璧なシーンだと思う。

 1930年代のヨーロッパ、ナチズムの台頭し始めた時代に、ユダヤ人の迫害や戦争の影
を絡めながら、理想と現実、選択と後悔、別離と喪失を描いて胸に迫る。イギリス貴族
社会の優雅で格調高い生活ぶりも溜め息が出るほど美しい。タイプキャスト王に君臨す
る直前のヒュー・グラントの演技も、脇役ながら秀逸だと思う。
 
 人生の後半、『日の名残り』を感じたとき、尚一層の深みと重みを感じられるであろ
う一作。原作も読まねば。

(『日の名残り』監督:ジェームズ・アイヴォリー
        主演:アンソニー・ホプキンスエマ・トンプソン/1993・USA)

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【2006/09/11 09:08】 | DVD | トラックバック(3) | コメント(6)
ヒュー様の職人芸~『アバウト・ア・ボーイ』
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 ロマコメにおけるタイプキャスト王ヒュー・グラント。気弱で優柔不断で、ど
こか大人になり切れていない、ダメ男なんだけど憎めないホントはいい奴、しかも
ハンサムだし・・、みたいな。どんな役を演じても、これって、本人??と思わせ
るのは別に素で演じているわけではなくて、彼が巧い俳優だからなのは言うまでも
ない、もはや職人。でももしかしたら、映画製作会社ワーキング・タイトルが作る
映画には、俳優を魅力的に見せる魔法がかかっているからなのかもしれない。

 ロンドンに住む独身男ウィルヒュー・グランド)は、父親がヒットさせたクリス
マス・ソングの印税のおかげで一度も定職に就くことなく、自由気ままな悠々自適
の生活を送っていた。そんな彼の前に、母子家庭に育ついじめられっ子の少年マーカ
ニコラス・ホルト)が現れ、ウィルの生活と内面に少しずつ変化が見え始め・・、
というストーリー。ウィルとマーカス、二人の「少年について」の物語だ。

 映画の冒頭で映し出されるのはウィルの部屋。モデルルームのように整然とした
部屋の壁一面の本棚にヒュー・グラントの影が映る。小道具ひとつひとつに至るま
で凝っていて、プロダクション・デザインが素晴らしい。
 お洒落なウィルに対して、マーカス少年のダサいこと。髪型なんて「どこの鋏で
切ったん?」と聞きたくなるくらいダサい。三角形の眉、ぷっくりしたほっぺ。典型
的ないじめられっ子
だ。いじめを知ったウィルがマーカスを連れ出す先は間違いな
く美容院だと思った(靴屋だったけど)。それでも母親への想いは強く、ママが死
なないように、ママが希望を抱けるように・・と自らを犠牲にしようとする姿には、
ウィルでなくても応援したくなる。気楽な独身貴族であるウィルが、彼と出会い関
わり合うことで、人生における真の幸せとは何か?自分の為だけでなく、誰かの為
に自分を差し出すことを学んでゆく
過程は説得力十分だ。勿論、お涙頂戴でも説教
臭くもなく、様々に伏線をちりばめながらその過程を自然に描いてゆくところがい
い。マーカスを救うため、ウィルがギター片手に自分を「やさしく殺す」場面では、
さすがにウルウルしてしまったけれど。。
 ウィルが恋に落ちるのが、鬱病で菜食主義者のマーカスの母フィオナトニ・コ
レット
)でなく、「才媛」の代名詞のようなレイチェルレイチェル・ワイズ)で
あることも、ロマコメの定石を外していていい!それでいてラストに、フィオナに
も恋人ができる可能性を示唆するところも、いい!

 マーカスが「ふたりじゃダメだ」と言うように、少年が真っ当に育つためには、
いろんなタイプの人間と関わり合うことが不可欠なのだろう。親や祖父母、友達だ
けでなく、時にはウィルのような「おじさん」も必要なのかもしれない。そして実
は、ウィルにもマーカスのような「子ども」が必要だったのだ。ラスト、ウィルの
モノローグ。島(人間)は孤島でなく鎖状であってもいいし、海の下では実は繋が
っているのだと
。マーカスの満面の笑みに、こちらも笑顔になる。髪型は、やっぱ
りダサいけど


(『アバウト・ア・ボーイ』監督:クリス&ポール・ウェイツ/
             主演:ヒュー・グラント、ニコラス・ホルト/2002・USA)

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【2006/09/08 21:57】 | DVD | トラックバック(5) | コメント(8)
次も観るっきゃない!~『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』
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 夏ももう終ろうとしている今日この頃、やっと観に行けました、この夏の超話題作
パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』。これを観ないことには
Cut』9月号が読めないし(笑)。公開から一ヶ月半たつけれど、結構な入りで、
改めて『パイレーツ』人気を実感いたしました。いや~、凄い。お金のかけ方がもう、
ケタ違いです。ここまでやるか、、っていうくらい、突き抜けている。お金をかけれ
ばいい映画が撮れるのか?というのはまた、別の話ですが。

 ストーリーは、帰ってきた我らが"キャプテン"、ジャック・スパロウジョニー・
デップ
)が、自らの魂を奪おうとする深海の悪霊ディヴィ・ジョーンズビル・ナイ
から逃れる為に「デッドマンズ・チェスト(死者の宝箱)」の鍵を奪うべく、ウィル
オーランド・ブルーム)やエリザベスキーラ・ナイトレイ)を巻き込んでまたま
た大騒動を繰り広げます。そこにウィルの父ビルステラン・スカルスゲールド)や
ラストにあの人まで登場して、こりゃ一体どうなるの??ハラハラ・ドキドキ、の一
大エンターテインメント、大冒険活劇です。
 実は途中、ちょっと眠くなってしまいました。尺が長い(2時間35分)のはいいんで
す、壮大な物語を描こうとしたらある程度の長さは必要だろうし。でも本作はちょっと
間延びしてしまったかな? 中盤、画面が暗い場面が多くてそう感じてしまったのかも
しれませんが。
 セットやVFXは前作よりさらにパワーアップしています。特に凄かったのはあの大蛸
クリーチャー
、ちょっと『グエムル』かと思いましたが(笑)。しかしビルのフジツボ
メイク
や、ディヴィ・ジョーンズの蛸仮面はちょっとグロテスク過ぎたのではないでし
ょうか。ビル・ナイが入ってるってわかりません()。ステラン・スカルスゲールド
も誰かわかりませんでした()。ジェフリー・ラッシュに似てるけど二役?まさかね、
とか思いながら観ていたし。

 ジョニー、オーリー、キーラの史上最強・三枚看板は相変わらず美しい!ジョニーの
ヘロヘロ・フラフラ演技はますます磨きがかかって、あの走り方はもはや芸術の域
オーリーも今回ますますカッコイイです、キーラも女海賊っぷりがハマって、すっかり
板についてきました。この三人が三角関係の様相を呈してきたわけですが、この恋の行
方は果たして次作でどうなるのか?見所です。ジョニーとオーリーって、なんて贅沢な
選択肢なんでしょう。。そりゃエリザベスも両方目移りするってもんです。 

 この作品、全世界で大ヒットしているらしいですね。魅力的なキャストに壮大なセッ
ト、最新技術を駆使したVFXと、「映画にできる凄い事」を全て詰め込んだような作品
だけに、大きなスクリーンで観たいと思うのは当然でしょう。尺が長いとか、演出や
脚本がどうのとか言いたい事もあると思いますが、それは次作を観てからにしません
か? 本作を観た人は続編にも必ず足を運んでしまうはず、これも一つの「映画と観客
のお約束
」ということにしておきましょう。
 こうなったら、次作では映画における一つの「到達点」を目指して欲しいです、
期待してますよ両キャプテン! 傑作じゃなかったらホンマに火あぶりじゃ!!

(『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト
        監督:ゴア・ヴァービンスキー/主演:ジョニー・デップ
             オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ/2006・USA)

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【2006/09/07 21:24】 | 映画 | トラックバック(7) | コメント(11)
もうすぐ逢える~ブロークバック・マウンテン#15
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 BBMの日本版DVD発売日まで、あと2週間と少し。まだまだ全国あちこちで上映
されているようで、「日本版DVD発売日まで、日本のどこかでBBMを上映していて
欲しい
」という私の願いも叶えられそうでうれしい。10月以降も上映予定はあり、
私も、もう一度大きなスクリーンで彼らに会えるかもしれない。
 発売日が近づくにつれ、BBM好きな方々のブログも盛り上がってきている。こ
れもうれしく、いつも楽しませていただいている。皆様、本当にありがとうござい
ます
。それにしても9月22日、まさしくXデー。今からちょっとドキドキしている。

 ネットの世界をウロウロしていると、自然といろんなレビューを目にする。いつ
もはBBM好きな方々のブログにばかりお邪魔しているので、BBMについて否定
的なレビューを目にすると本当に・・・、驚いてしまう。物事の捉え方や感性は人
それぞれだと頭では理解しているつもりでも、少なからずショックを受けたりする
自分は、まだまだ修行が足りないのだな、とも思う。それでも・・・。

 BBMを観て、心揺さぶられない人がいる、それも少なからず、という事実。
 何故か寂しい。受け入れられないのかなぁ・・・、と思う。

 BBMが好きな人であっても、全てが大好き、完璧、という人もまた少ないのか
もしれない。ジャックは好きだけどイニスは許せない、ラリーンは素敵だけどアル
マは好きじゃない、キャシー、イニスに近づくな!、これは私(笑)。どのキャラ
クターが好きか嫌いか、というのは、誰に感情移入して映画を観るか、という話に
なるのだろうか。
 以前、「自分はイニスに似ている」と書いた。怖がりで神経質で「ヘタレ野郎」な
私。そして今まで意識的に考えるのを避けてきたけれど、一番似ているのはアルマ
かもしれない。私だって、美人でお金持ちでバリバリの経営者であり、夫を広い器
で受け止めて添い遂げたラリーンは本当にカッコイイ女性だと思う。憧れる。でも
でも、アルマも彼女なりに、一生懸命生きていたと思うのだ。貧しくて、弱くて、
あんまり美人じゃなくても。「彼女は悪くない」、そう、イニスもちゃんとわかって
いたように

 近所に子どもの遊び友達もいない、風の吹き荒ぶ一軒家で、泣き叫ぶ娘達を横目
に洗濯するアルマ。4年ぶりの「釣り仲間」と一夜を過ごした夫を一睡もせずに待ち、
帰ってくるなり再び出て行く夫に娘を託され、ドアが閉まった瞬間娘を抱きしめて
泣くしかないアルマ。とっくに別れた夫だけれど、まだ悔しくて恨めしくて、つい
つい怒らせてしまうアルマ。もう、身につまされ過ぎてしまう。それでもアルマに
感情移入し、彼女の立場からこの作品を観たことは一度もないし、アルマがどんな
に泣こうと、可哀想だとわかっていようと、イニスとジャックを責める気持ちには
一瞬たりともなれない。それはきっと、私も彼らと一緒にあの山で迷ってしまった
からなのだろう、彼らがあの夏に戻りたいと終生願い続けたように
。そして未だに、
自分が山から降りられないでいるのを知る瞬間がある。他の作品にBBMを感じる
とき、カレンダーの22日、金曜日に目が行くとき、何を聴こうか迷っても、結局は
BBMのサントラを手にするとき・・・。

 DVDが届いたら、また新しい発見や、違った視点からBBMを観ることができるの
だろうか。きっとうれしくて、しばらくは封が開けられないかもしれない、いや、
届いた瞬間に観てしまうのかも。楽しみなようで、再会がちょっと怖いような気も
している。そして、劇場に足を運ぶことが叶わず、DVDで初めて彼らに出逢う人の心
にも、この物語がまっすぐに届いて欲しいと願っている

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【2006/09/06 02:13】 | ブロークバック・マウンテン | トラックバック(1) | コメント(12)
奇妙なPTA的ラブ・ストーリー~『パンチドランク・ラブ』
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ブギーナイツ』を観た後だけに、ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)に対し
て甘くなってしまっているかもしれない。それにしてもこの『パンチドランク・ラブ』、
なかなかシュールで可笑しくて可愛くもある、なんとも言えない不思議な雰囲気の、
奇妙なラブ・ストーリーだった。奇妙すぎて途中、眠くなってしまったほどに(笑)。
それでも後味は決して悪くはないのだ。

 バリーアダム・サンドラー)は7人の姉に囲まれて育ち、彼女達のおしゃべり・
おせっかいに時々キレてしまう、精神的に不安定な男。ある朝出逢ったリナエミ
リー・ワトソン
)と恋に落ちるが、はずみで電話してしまったセックス・ダイアル
の黒幕(これがまたフィリップ・シーモア・ホフマン、PSH)の手下らに執拗な嫌が
らせを受けるようになり・・・。

 静かなオープニングから、いきなり車が事故ってピアノ(ハーモニウム)が路上
に置き去りにされ、一人の女が走ってくる。序盤がもう、思いっ切りシュールで
「このまま突っ走るのか?」と思いきや、物語はゆっくりと、時として凶暴に、時
としてやさしく流れてゆく。この「凶暴」パートを受け持つアダム・サンドラー。
始終着ているコメディアンのような青いスーツも現実派離れしているし、突然キレ
る暴力衝動も怖い。身近にいたら嫌なタイプだけど、あの姉達に虐げられて育った
彼にはちょっと同情もしたくなる。片や「やさしい」パートのヒロイン、エミリー
・ワトソン。『奇跡の海』の神がかり的乗り移り演技に魅了されて以来、私はこの
女優さん、大好きなんだけど、今作ではバリーの青スーツに対してほんわかピンク
やオレンジがかった赤系のスタイリングで、キャリアウーマンを抑え気味にかわい
く演じていたと思う。リフトアップなんか絶対してなさそうな笑い皺や、意外と背
が高いこともわかって、ますます好感してしまった。そしてお約束、PSHも存在感
バッチシ。声がデカイ。無精髭がキタナイ。ありがとうPSH、あなたが大好き。
 しかしこのバリーのキャラクター、ジェイクに是非是非演じてもらいたいと思い
ました。ジェイクって、こういうちょっと変わったエキセントリックな役柄って、
むっちゃハマルと思うのですが。顔もちょっと変(失礼!)なファニーフェイス系
だし、青のスーツも似合いそう。
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 バリーの元に訪れる幸せの象徴のようなハーモニウム、綺麗な音色だったけれど、
これって『ブギーナイツ』のオープニングで『ベスト・オブ・マイ・ラブ』に入る
前に静かに流れている音なんだろうか?『ブギーナイツ』では終盤でも同じ音が流
れ、この音の正体がずっと気になっている。

 何とも言えないヘンテコな登場人物と、ヘンテコなストーリー。ヘタレなバリー
と、女神のようなリナ。ひょっとして、PTAの理想の恋愛像なのかも。PTAって変わ
りモノだけど、結構純な人なのかな、などと微笑ましく思ってしまった。次回作も
期待してます。おっと、その前に『マグノリア』再見??う~む。。

(『パンチドランク・ラブ』監督:ポール・トーマス・アンダーソン
          主演:アダム・サンドラー、エミリー・ワトソン/2002・USA)

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【2006/09/04 23:42】 | DVD | トラックバック(7) | コメント(14)
犠牲~『スリング・ブレイド』
 母親とその不倫相手を殺害したために、施設に収容されていた知的障害者カール
ビリー・ボブ・ソーントン)。退院し、25年ぶりに故郷へ戻ったカールだったが、
父親に見放されて行き場がない。そんな彼が、母親と二人で暮らす少年フランク
ルーカス・ブラック)と出会い、心を開いてゆく。しかし、フランクの母親の恋人
であるドイルドワイト・ヨーカム)がフランクと母親を傷つけるのを目にしたカ
ールは、ある決心をする・・・。
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 この作品を観よう、いや観ねばと思ったきっかけは、先日紹介した『スクリーン
の向こう側
』の中で、戸田奈津子氏が「大好きな作品」として解説・紹介されてい
たこと。すごく惹かれてしまった。ビリー・ボブ・ソーントンといえば、『チョコ
レート
』やアンジーの元夫、というイメージくらいで、特に興味は持っていなかっ
た、しかし・・・。自作自演の出世作があるとは知っていたが、このことだったの
か。ヤラれた。地味で静謐ながら、心に突き刺さるような物語だ。

 最初に書いたあらすじ、これが全てで、後は「こうなるのかな・・?」と思って
いた通りにストーリーは流れてゆく。序盤、薄暗い部屋でカールが語る自らの"history"、
この場面の緊迫感は凄い。ここで一気にこの物語とカールに引き込まれてしまう。
舞台はビリー・ボブ・ソーントンの出身地でもあるディープサウス、アーカンソー州
の小さな町。この辺りは「バイブルベルト」とも呼ばれる地域で、信心深い人が多
い半面、マイノリティに対する偏見や差別主義者も多いらしい。当然、作品の中にも
聖書(神)」の占める意味合いはとても大きい。
 カールは何度か「聖書を読んだ。わかったところもあるし、わからないところも
ある」と言う。これは「正しいところもあるし、正しくないところもある」という
意味なのだろう。作品の中にはいわゆる「罪人(つみびと)」、神に許されず地獄
に落ちると言われている人々がいる。殺人者(カール)、同性愛者、自殺した者。
しかし彼らはそうでない人々より、本当に許されない者たちなのか?この作品はそう
問いかけているかのようだ。そもそも宗教とは、罪人のためにあるべきものじゃな
いのか?

 フランクと母親のために、カールは彼らを自分の弟と母親に重ねていたのだろう、
彼らの為に「スリング・ブレイド」を手にするカール。周囲は(殺されようとして
いるドイルですら)そのことにうっすら気付きながら、誰も彼を止めようとはしない。
犠牲」という言葉が胸に浮かぶ。フランクの母(『遠い空の向こうに』でジェイクの
母親役を演じたナタリー・キャナディ)に「ビスケットを焼いてくれ」と言うカール。
全てが終った後、カラシを付けてビスケットを食べるカール。もう、涙が止まらない

 ほとんど無名だったビリー・ボブ・ソーントンは、この作品でアカデミー主演男優
賞、脚色賞にノミネートされ、後者は受賞している。重いテーマだけに語るのが難
しい作品ではあるが、多くの人にその存在を知って欲しいと思う作品だ。
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 このDVD(レンタル)には特典映像としてビリー・ボブ・ソーントンのドキュメン
タリーが含まれている。それ自体はたいした内容ではなく、様々な俳優、監督仲間
らがビリー・ボブ・ソーントンをたたえる、というお決まりのパターンなのだが、
あるおじさんのクレジットに「スティーブン・ギレンハール」と出てビックリ!
ジェイクの、お父様じゃないの!「ギレンホール」でも「ジレンホール」でもなく
「ギレンハール」でした。お、お義父さま・・←違うって
 カールと心を通わせる少年フランクを演じたルーカス・ブラック。『スタンド・
バイ・ミー
』のリヴァー・フェニックスも顔負けの眉間の皺を持つこの少年、どこ
かで見覚えが・・、と思っていたら!まぁ、『ジャーヘッド』でCAをナンパしてい
たジェイクの同僚の彼だったとは・・。大きくなったねぇ、と感慨無量。意外な
ジェイクつながりでした。あとジム・ジャームッシュがカメオ出演していて「貴重
なものが観れた」感もあり。
--------------------------------------

 田舎町の寒々とした風景、木々の緑、画面のトーンなど、どこかBBMを思い出
させる。差別と偏見、根底に横たわる宗教など、静かで地味ながら観る者に衝撃と
重いメッセージを残すところも、BBMに通じると感じた作品だった。

(『スリング・ブレイド』監督:主演:脚色:ビリー・ボブ・ソーントン/1996・USA)

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【2006/09/04 00:29】 | DVD | トラックバック(2) | コメント(4)
読んでも面白い映画たち~『スクリーンの向こう側』
 映画を観るのが大好きで、本を読むのも同じくらいに好きなので、映画関連の
書籍をよく読む。この夏手に取ったのは、『スクリーンの向こう側』戸田奈津子、
淀川長治映画ベスト1000』、『この映画観た?』川本三郎。あと中野翠『コラム
絵巻20年SPECIAL
』の中にも「映画ベストテン'96~'05」が収録されており、面白
く読んだ。少しご紹介します。

スクリーンの向こう側』。戸田氏が字幕翻訳した作品の裏話や、親交のある映画
人との交流などが読めます。スピルバーグトム・クルーズら、ハリウッドの大御所
との「よろしくね」「伝えておくよ」的なお付き合いから、リチャード・ギアの親日
家ぶりなど、映画の一番近くにいる戸田氏ならではのエピソード満載で、とても面白
く読みました。写真入りで綺麗な本だし、読み易いしオススメ。戸田氏がモンゴメリ・
クリフト
の大ファンだったこともわかったし。私の母が(そしてかいろさんのお母様
も)大好きだというモンティ。モテモテですな。

淀川長治映画ベスト1000』。淀川氏の没後、まとめられた評論集。評論と言って
も一作品300字程度にまとめられた短いもの。しかしその数、圧倒的。淀川氏の意外
(?)な好みもわかって面白かった。『妹の恋人』の頃からジョニー・デップを高く
評価されていて、今の日本でのジョニーの人気ぶりを天国で見守っていらっしゃるの
かなぁ・・、などとシミジミしてみたり。ミケランジェロ・アントニオーニとヴィム
・ヴェンダースをはっきり「嫌い」とおっしゃっていてビックリしたり。映画の字引
書籍です。
20060901160146.jpg

 ちなみに私が今まで読んだ中で一番好きな映画関連本は、川本三郎氏の『美しい
映画になら微笑むがよい
』。アジア映画、とりわけ出版当時一番勢いがあった韓国
映画を中心とした評論集で、監督インタビューが秀逸。川本氏はインタビュアーと
しても素晴らしい方だと思います。『この映画観た?』は、その川本三郎氏による
1983年から17年間の雑誌連載コラムをまとめたもの。こちらも監督、製作年、原題
など詳しく網羅されており、映画資料としても読めます。アン・リーを評して
イギリス人以上にイギリス的な映画(『いつか晴れた日に』)を作り、WASP以上
にWASP的な映画(『アイス・ストーム』)を作った
」とあるのがすごく印象的。
川本氏のBBM評を読んでいないのですが、彼がどんな風にBBMを評しているのか、
すごく興味があります。

 中野翠氏は、石川三千花氏とのコラボ本が大好きでほとんど読んでいますが、中野
氏単独の映画評をまとめて読むのは初めてかもしれない。アキ・カウリスマキが大
好きだったり、シャロン・ストーン版『グロリア』に激怒したり(私もこの映画が
許せない一人)、『ムーラン・ルージュ』がワーストだったり(私はバズ・ラーマン
がちょい苦手)、中野氏とは好みが似ているのかも?知れない。『恋する惑星』の
トニー・レオンを「どこがいいの?」とおっしゃった中野氏だけど、実は私も初見
ではそう思ったし(懺悔)。そして何より、先日勝手に傑作認定した『ブギー・ナイツ
が'98のベストワンだなんて!キャ~、うれしい♪ この作品は題材がポルノなだけ
に、特に女性は敬遠してしまいがちだと思うけれど、絶対に観て損はない作品だと
改めて思いました。

 というわけで、「読んでも面白い」映画たち。やっぱり映画って、最高ですね

(『スクリーンの向こう側』/戸田奈津子/共同通信社・WOWOW/2006)

テーマ:紹介したい本 - ジャンル:本・雑誌

【2006/09/01 16:12】 | 読書 | トラックバック(1) | コメント(8)
真紅のthinkingdays


いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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