抱きしめたくなる小さな本~『優しい子よ』

大崎善生の作品との出会いは『聖の青春』でした。幼い頃から患う腎臓病と戦い
ながら名人を目指し、志半ばで逝った故・村山聖九段の評伝であり、大崎善生の
ノンフィクションデビュー作です。ドキュメンタリーやTVドラマとして放映もさ
れた話題作でしたから、ご存知の方も多いと思います。主人公の、壮絶でいてどこ
かユーモラスな生き様に胸を打たれたし、それ以上に作者の温かい視線が印象的な
作品でした。
その後講談社ノンフィクション賞を受賞した『将棋の子』を経て、小説家デビュー
作であり吉川英治文学新人賞を受賞した佳作『パイロットフィッシュ』を読む頃に
は、大崎善生は私にとって「新作が出ればとりあえず読んでみる作家」となりました。
作品は全て読んでいるけれども、もちろん、良作ばかりというわけではありません。
ノンフィクションは全て素晴らしいと思うのですが、小説となると首を傾げたくなる
ような作品もあるし、正直「もうこの人の小説はいいわ」と思ったこともあります。
それでも彼の新作が出るとまた手にとって読み始めてしまうのは、『パイロットフィ
ッシュ』を読んだ時の、何ともいえない切なさのような、愛おしさのような気持ちが
忘れられないからなのかもしれません。
『優しい子よ』は、ノンフィクションと小説の間に位置するような私小説です。しか
し読者のほとんどは、ノンフィクションとしてこの小説を捉えるでしょう。主人公で
ある大崎善生やその妻(元女流棋士の高橋和さん)は実名で登場するし、あとがきに
書かれた年表の出来事そのものが、4つの物語として描かれているのですから。
そしてこの作品を読んだ後、おふたりの結婚のニュースを聞いたときにうっすらと
感じていたように、『パイロットフィッシュ』もある意味私小説だったのだ、と理解
しました。19歳という二人の年齢差、二匹の犬の名前、小さな出版社の編集者であり、
退社を決意する主人公「山崎」。当時から恋人であった(のでしょう)奥様に向けた
小説だったのだと思います。プロポーズでもあったのかな?
出会いと永遠の別れ、死と生(または誕生)をめぐる4つの物語。特に表題作であ
る『優しい子よ』は全編号泣警報発令ものであり、『誕生』そして『あとがき』にも、
作者の優しさが溢れています。大崎善生は息子に対し「優しい子になってくれ」と呼
びかけていますが、この二人の子どもであるなら、優しい子、優しい人にならない
わけがない、と心から思うのでした。
これは優しい人が書いた優しい小説であり、理不尽な別れに心を引き裂かれた、
残された者たちのためのレクイエムでもあります。抱きしめたくなる、小さな本。
(『優しい子よ』大崎善生・著/講談社・2006)
追記:大崎善生の小説『アジアンタムブルー』が映画化され、今冬公開される模様
です。こちらはかなり悲しい小説です。
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真紅的昔バトン
いつもお世話になっている大好きなブログ、悠雅的生活の悠雅さまから、初の
バトンをいただきました。落とさぬよう、緊張しながら受け取らせていただきま
す。では、スタート!
【 1】 あなたは昔、何系でしたか?
おっかけ系。とにかくミーハーだったので、田舎にアイドルが来るやホテル、
コンサート会場、空港などなど、、タクシーで追っかけ廻しておりました。
ちなみに「たのきん世代」でございます♪
【 2】 あなたは昔、習い事をしていましたか?
幼稚園から絵画とピアノ、小学校でそろばん。すべて小4までに挫折。
大学生の頃、英会話。これは楽しかった~。。
10年ほど前、着付け、すぐ挫折。
2年ほど前(これは昔じゃないですね)、韓国語。続けたかったけど講座が夜
のみなってしまいこれも挫折。
挫折、挫折、木っ端ミジンコ人生ですわ。。
【 3】 今と昔、いちばん変わったと思うことは?
「パワーがなくなった」「暗くなった」と言われます。
まぁ、昔は『エターナル・サンシャイン』のクレメンタインみたいな女だった
ので、「常識的になった」のだと自分では解釈しています(笑)。
【 4】 今と昔、変わらないと思うことは?
髪型。20年以上変えてません。死ぬまで変えません(キッパリ)。
ちなみにストレートのロングです。
【 5】 昔からのトラウマはありますか?
両親にあまり(全然)かまってもらえなかった。自分はかわいくないんだと拗ね
てました。まぁ、実際かわいくなかったんですが・・・。
【 6】 昔、なりたかったものは?
男の子。
【 7】 あなたの昔の失態を教えてください。
数え切れないくらいあるな~。高校生のとき、部活の卒業アルバム用の写真を撮る
日にちを忘れてしまい、写っていないんです!バカバカ!!
【 8】 今と昔の男性の好みを教えてください。
初めてファンクラブに入会したのは・・

背が高いひとが好きでした。
でも、このひとを好きになって・・

「男はタッパじゃない」事を知りました。
日本人なら・・


酔っ払いダンス、最高!

やっぱり皆背が高いわ。
そして、今、一番好きなひとは・・

フフフ。(かいろさん、かぶってるね~)
【 9】 できるなら、あなたの昔の写真を貼ってください。
高校時代。

彼氏とバスで出逢う。(妄想)

このひとも結構、好きですよ。
【10】 過去を知りたい10人に回してください。
今回、初のバトンということで、夢の「アンカー」ということでよろしいでしょうか?
鈍足ゆえリレーなど出たことのないワタクシメにバトンを廻していただき悠雅さま
ありがとうございました。
読んでいただいた皆様、失礼いたしました・・・。
(でもバトンって楽しいですね。またやってみたいです)
バトンをいただきました。落とさぬよう、緊張しながら受け取らせていただきま
す。では、スタート!
【 1】 あなたは昔、何系でしたか?
おっかけ系。とにかくミーハーだったので、田舎にアイドルが来るやホテル、
コンサート会場、空港などなど、、タクシーで追っかけ廻しておりました。
ちなみに「たのきん世代」でございます♪
【 2】 あなたは昔、習い事をしていましたか?
幼稚園から絵画とピアノ、小学校でそろばん。すべて小4までに挫折。
大学生の頃、英会話。これは楽しかった~。。
10年ほど前、着付け、すぐ挫折。
2年ほど前(これは昔じゃないですね)、韓国語。続けたかったけど講座が夜
のみなってしまいこれも挫折。
挫折、挫折、木っ端ミジンコ人生ですわ。。
【 3】 今と昔、いちばん変わったと思うことは?
「パワーがなくなった」「暗くなった」と言われます。
まぁ、昔は『エターナル・サンシャイン』のクレメンタインみたいな女だった
ので、「常識的になった」のだと自分では解釈しています(笑)。
【 4】 今と昔、変わらないと思うことは?
髪型。20年以上変えてません。死ぬまで変えません(キッパリ)。
ちなみにストレートのロングです。
【 5】 昔からのトラウマはありますか?
両親にあまり(全然)かまってもらえなかった。自分はかわいくないんだと拗ね
てました。まぁ、実際かわいくなかったんですが・・・。
【 6】 昔、なりたかったものは?
男の子。
【 7】 あなたの昔の失態を教えてください。
数え切れないくらいあるな~。高校生のとき、部活の卒業アルバム用の写真を撮る
日にちを忘れてしまい、写っていないんです!バカバカ!!
【 8】 今と昔の男性の好みを教えてください。
初めてファンクラブに入会したのは・・

背が高いひとが好きでした。
でも、このひとを好きになって・・

「男はタッパじゃない」事を知りました。
日本人なら・・


酔っ払いダンス、最高!

やっぱり皆背が高いわ。
そして、今、一番好きなひとは・・

フフフ。(かいろさん、かぶってるね~)
【 9】 できるなら、あなたの昔の写真を貼ってください。
高校時代。

彼氏とバスで出逢う。(妄想)

このひとも結構、好きですよ。
【10】 過去を知りたい10人に回してください。
今回、初のバトンということで、夢の「アンカー」ということでよろしいでしょうか?
鈍足ゆえリレーなど出たことのないワタクシメにバトンを廻していただき悠雅さま
ありがとうございました。
読んでいただいた皆様、失礼いたしました・・・。
(でもバトンって楽しいですね。またやってみたいです)
乗り越えるために必要なもの~『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』
ジェイク出演作ということで、DVDリリースが待ち遠しくて指折り数えた本作。
レンタルの「只今作業中」の棚から無理やり引っ張り出してもらった。
原作は数々の権威ある賞に輝く戯曲で、日本でも寺島しのぶ主演で舞台化されたの
だという。なるほど、舞台劇だけに台詞の多いこと、特に前半。「証明」ならぬほと
んど「説明」に感じられて作劇を苦痛に感じ始めた中盤、ヒロインが発するある一つ
の言葉で、状況は一変する。
「私が書いた」
ここからはラストまで、引き込まれて一気に観てしまった。
主要キャストは4人。シカゴ大学の高名な数学者だが、精神を病み隠遁生活を送る
父(アンソニー・ホプキンス)、その父の介護のため、父譲りの才能を捨て大学を
中退した娘キャサリン(グウィネス・パルトロウ)、遠く離れたNYで成功した姉
クレア(ホープ・デイヴィス、この人女優の朝加真由美さんに見えてしょうがなか
った、相変わらず私の眼はどうかしてるのでしょうか)、恩師の娘であるキャサリン
に秘かに思いを寄せる若手数学者ハル(ジェイク・ジレンホール)。父の残した膨大
なノート、その中から見つかった歴史的「証明」は、誰が書いたものなのか?
グウィネス・パルトロウという女優に対する苦手意識が先に立っていたのかもし
れない、最初はキャサリンがただの「辛気臭い女」に見えて仕方なかった。しかし
中盤からはすっかり彼女に感情移入してしまう。高名な天才数学者である父への畏怖
と愛情、敬意と憎しみ。ドロップアウトしてしまった自分に対する後悔、挫折感、
捨てられないプライド。父の資質を受け継いだことに対する自負と恐怖、姉への失望
と絶望。グウィネスは化粧っ気のない顔(ミア・ファローにもペ・ドゥナにも見える)
と地味な衣装で、キャサリンの苦悩を熱演していたと思う。ジェイクとのベッド・
インシーンは、ちょっと余計に感じたけれど・・。
お目当てのジェイクは、なんだかすっごくカッコよく見えたな~。ジェイクって、
Tシャツ、とくに白の丸首Tシャツが滅茶苦茶似合うと思う。仔犬フェイスに意外
とマッチョなガタイ、とくれば何でも似合うのだろうけれど(ファンの欲目)。
演技に関しては、正直特に目を惹かれるほどではなかったのではないかな。ラスト、
彼の綺麗な手が数式を語り出す。ここでやっぱり、ジョン・マッデン監督はジェイク
の長所を引き出す演出をしてくれていたんだな、だからこんなにカッコいいのね、
と納得。
父の死によって解き放たれるはずが、周囲に溶け込めず、誰からも信用されず、
自ら人生を下りようとするキャサリン。ギリギリのところで踏み止まれたのは、
ハルの愛ゆえなのか?確かにハルは鍵だったと思う、しかし、足を一歩前に踏み出
したのは彼女自身だ。私には、彼女が自分自身を知っていたからこそ、もう一度
スタートラインに立てたのだと感じられた。
「何日無駄にしたのか」。父のために費やした5年の歳月は、世紀の「証明」と
して結実し、決して無駄ではない。一行目から戻ればいい、きっとやり直せる。
邦題にはちょっと不満。メグ・ライアン&ラッセル・クロウの『プルーフ・オブ
・ライフ』と被ってる。『プルーフ』で十分だったんじゃないかな。
★お互いTBできなくて困ってます、チュチュ姫さまの感想はこちら
(『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』監督:ジョン・マッデン/
主演:グウィネス・パルトロウ、ジェイク・ジレンホール/2005・USA)
レンタルの「只今作業中」の棚から無理やり引っ張り出してもらった。
原作は数々の権威ある賞に輝く戯曲で、日本でも寺島しのぶ主演で舞台化されたの
だという。なるほど、舞台劇だけに台詞の多いこと、特に前半。「証明」ならぬほと
んど「説明」に感じられて作劇を苦痛に感じ始めた中盤、ヒロインが発するある一つ
の言葉で、状況は一変する。
「私が書いた」
ここからはラストまで、引き込まれて一気に観てしまった。
主要キャストは4人。シカゴ大学の高名な数学者だが、精神を病み隠遁生活を送る
父(アンソニー・ホプキンス)、その父の介護のため、父譲りの才能を捨て大学を
中退した娘キャサリン(グウィネス・パルトロウ)、遠く離れたNYで成功した姉
クレア(ホープ・デイヴィス、この人女優の朝加真由美さんに見えてしょうがなか
った、相変わらず私の眼はどうかしてるのでしょうか)、恩師の娘であるキャサリン
に秘かに思いを寄せる若手数学者ハル(ジェイク・ジレンホール)。父の残した膨大
なノート、その中から見つかった歴史的「証明」は、誰が書いたものなのか?
グウィネス・パルトロウという女優に対する苦手意識が先に立っていたのかもし
れない、最初はキャサリンがただの「辛気臭い女」に見えて仕方なかった。しかし
中盤からはすっかり彼女に感情移入してしまう。高名な天才数学者である父への畏怖
と愛情、敬意と憎しみ。ドロップアウトしてしまった自分に対する後悔、挫折感、
捨てられないプライド。父の資質を受け継いだことに対する自負と恐怖、姉への失望
と絶望。グウィネスは化粧っ気のない顔(ミア・ファローにもペ・ドゥナにも見える)
と地味な衣装で、キャサリンの苦悩を熱演していたと思う。ジェイクとのベッド・
インシーンは、ちょっと余計に感じたけれど・・。
お目当てのジェイクは、なんだかすっごくカッコよく見えたな~。ジェイクって、
Tシャツ、とくに白の丸首Tシャツが滅茶苦茶似合うと思う。仔犬フェイスに意外
とマッチョなガタイ、とくれば何でも似合うのだろうけれど(ファンの欲目)。
演技に関しては、正直特に目を惹かれるほどではなかったのではないかな。ラスト、
彼の綺麗な手が数式を語り出す。ここでやっぱり、ジョン・マッデン監督はジェイク
の長所を引き出す演出をしてくれていたんだな、だからこんなにカッコいいのね、
と納得。
父の死によって解き放たれるはずが、周囲に溶け込めず、誰からも信用されず、
自ら人生を下りようとするキャサリン。ギリギリのところで踏み止まれたのは、
ハルの愛ゆえなのか?確かにハルは鍵だったと思う、しかし、足を一歩前に踏み出
したのは彼女自身だ。私には、彼女が自分自身を知っていたからこそ、もう一度
スタートラインに立てたのだと感じられた。
「何日無駄にしたのか」。父のために費やした5年の歳月は、世紀の「証明」と
して結実し、決して無駄ではない。一行目から戻ればいい、きっとやり直せる。
邦題にはちょっと不満。メグ・ライアン&ラッセル・クロウの『プルーフ・オブ
・ライフ』と被ってる。『プルーフ』で十分だったんじゃないかな。
★お互いTBできなくて困ってます、チュチュ姫さまの感想はこちら
(『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』監督:ジョン・マッデン/
主演:グウィネス・パルトロウ、ジェイク・ジレンホール/2005・USA)
誰が何と言おうと傑作認定~『ブギーナイツ』
こ・・これは凄い映画じゃないだろうか。”Boogie Nights”のピンクのネオン
サインに導かれて、すべるように車が走る。踊るように歩く人々、車から出て来た
のはバート・レイノルズとジュリアン・ムーア。彼らが入ったディスコ、ダンス
フロアで踊っているのはドン・チードルとジョン・C・ライリー!この冒頭シーン
のカッコよさ、これだけでも「役者は揃った」感があり、何度観てもウキウキ、
ワクワクさせてくれる。
1977年、カリフォルニア州サン・フェルナンド・ヴァレー。エディ(マーク・
ウォールバーグ)はポルノ映画監督ジャック(バート・レイノルズ)にスカウトさ
れ、イチモツの大きさだけでポルノ業界をのし上がってゆく。彼と、彼を巡る人々
とで形成された擬似ファミリーの栄光と挫折を描いた作品だ。
主人公エディ=ダーク・ディグラーを演じるマーク・ウォールバーグは、以前
雑誌『Cut』で「最も過小評価されている俳優」に選ばれていただけに(笑)、
主人公にしては印象が薄く、カリスマ性も感じられない。しかしだからこそポルノ
俳優独特の「安っぽさ」みたいなものを体現できていたと思う。レオ・ディカプリオ
と彼がこの役を争っていたらしいが、レオが演じたらもうちょっと芸術っぽくなっ
ていたかもしれない。脇を固めるバート・レイノルズ、ジュリアン・ムーアらも、
オスカーノミネートも納得の存在感だし、ヘザー・グラハムも、かわいらしさと
痛々しさが同居する「ローラーガール」役にとてもマッチしている。そしてなんと
言ってもフィリップ・シーモア・ホフマン。彼がまたやってくれてます。キレる
ダークを見つめる「ああ~!ど、どうすればいいの?ボクちん・・」的な演技は、
もう観てるこっちまで身悶えしそうなくらいうまい、うますぎる。それでいて、
存在が全然過剰じゃないのが、この人の凄いところなんだよね。
栄光の70年代を走り抜け、80年代を迎えるニューイヤー・パーティを境に、彼ら
の運命は暗転する。ドラッグに溺れ、ファミリーを飛び出し、堕ちるところまで堕
ちてゆくダーク。結局彼はファミリーの元に帰るしか道はなく、父であるジャック
に許しを乞い、母であるアンバー(ジュリアン・ムーア)の膝で泣く。この後に続
くファミリーのリユニオンを表すシーンで流れる”God only knows”。『ラブ・ア
クチュアリー』のラストでも流れていたこの曲、聴いているだけで胸にこみ上げて
くるものがある。本当に名曲だと思うし、ここでこの曲を持ってくるセンスにはや
られた。もちろん、音楽は全編カッコイイ!「俺のベスト」にノリノリのアルフレッド
・モリーナの気持ちもよ~くわかる(音楽担当のマイケル・ペンは、ショーン・ペン
の実兄なのだそうだ)。
監督のポール・トーマス・アンダーソンは、26歳の若さでこの作品を撮ったのだ
という。長回しが多く、素人のハンディカムみたいに鈍くさく感じる箇所もなくは
ないけれど、観ている自分もそこにいるかのように感じられるカメラだった。
『マグノリア』がいまひとつ好きになれず、彼の他の作品は観ていなかったのだが、
まさに素晴らしい才能、素晴らしい作品だ。これは『マグノリア』も再見すべきか
もしれない。
(『ブギーナイツ』監督:ポール・トーマス・アンダーソン/
主演:マーク・ウォールバーグ、バート・レイノルズ、ジュリアン・ムーア/1997・USA)
サインに導かれて、すべるように車が走る。踊るように歩く人々、車から出て来た
のはバート・レイノルズとジュリアン・ムーア。彼らが入ったディスコ、ダンス
フロアで踊っているのはドン・チードルとジョン・C・ライリー!この冒頭シーン
のカッコよさ、これだけでも「役者は揃った」感があり、何度観てもウキウキ、
ワクワクさせてくれる。
1977年、カリフォルニア州サン・フェルナンド・ヴァレー。エディ(マーク・
ウォールバーグ)はポルノ映画監督ジャック(バート・レイノルズ)にスカウトさ
れ、イチモツの大きさだけでポルノ業界をのし上がってゆく。彼と、彼を巡る人々
とで形成された擬似ファミリーの栄光と挫折を描いた作品だ。
主人公エディ=ダーク・ディグラーを演じるマーク・ウォールバーグは、以前
雑誌『Cut』で「最も過小評価されている俳優」に選ばれていただけに(笑)、
主人公にしては印象が薄く、カリスマ性も感じられない。しかしだからこそポルノ
俳優独特の「安っぽさ」みたいなものを体現できていたと思う。レオ・ディカプリオ
と彼がこの役を争っていたらしいが、レオが演じたらもうちょっと芸術っぽくなっ
ていたかもしれない。脇を固めるバート・レイノルズ、ジュリアン・ムーアらも、
オスカーノミネートも納得の存在感だし、ヘザー・グラハムも、かわいらしさと
痛々しさが同居する「ローラーガール」役にとてもマッチしている。そしてなんと
言ってもフィリップ・シーモア・ホフマン。彼がまたやってくれてます。キレる
ダークを見つめる「ああ~!ど、どうすればいいの?ボクちん・・」的な演技は、
もう観てるこっちまで身悶えしそうなくらいうまい、うますぎる。それでいて、
存在が全然過剰じゃないのが、この人の凄いところなんだよね。
栄光の70年代を走り抜け、80年代を迎えるニューイヤー・パーティを境に、彼ら
の運命は暗転する。ドラッグに溺れ、ファミリーを飛び出し、堕ちるところまで堕
ちてゆくダーク。結局彼はファミリーの元に帰るしか道はなく、父であるジャック
に許しを乞い、母であるアンバー(ジュリアン・ムーア)の膝で泣く。この後に続
くファミリーのリユニオンを表すシーンで流れる”God only knows”。『ラブ・ア
クチュアリー』のラストでも流れていたこの曲、聴いているだけで胸にこみ上げて
くるものがある。本当に名曲だと思うし、ここでこの曲を持ってくるセンスにはや
られた。もちろん、音楽は全編カッコイイ!「俺のベスト」にノリノリのアルフレッド
・モリーナの気持ちもよ~くわかる(音楽担当のマイケル・ペンは、ショーン・ペン
の実兄なのだそうだ)。
監督のポール・トーマス・アンダーソンは、26歳の若さでこの作品を撮ったのだ
という。長回しが多く、素人のハンディカムみたいに鈍くさく感じる箇所もなくは
ないけれど、観ている自分もそこにいるかのように感じられるカメラだった。
『マグノリア』がいまひとつ好きになれず、彼の他の作品は観ていなかったのだが、
まさに素晴らしい才能、素晴らしい作品だ。これは『マグノリア』も再見すべきか
もしれない。
(『ブギーナイツ』監督:ポール・トーマス・アンダーソン/
主演:マーク・ウォールバーグ、バート・レイノルズ、ジュリアン・ムーア/1997・USA)
本当は怖いお伽話~『ブラザーズ・グリム』
ファンタジー作品にはあまり/ほとんど興味がなく、ハリー・ポッターシリーズ
もLOTRシリーズも未見。『白雪姫』はグリム童話だったかアンデルセン童話
だったかも定かでなく、アンデルセンといえばベーカリーだと思ってしまう。そん
な私だけど、本作はヒース・レジャー出演作というだけの理由で観てみようかな、
と思ってしまった。
19世紀初め、フランス占領下のドイツ。現代では童話作家として知られるグリム
兄弟は、詐欺まがいの魔女退治を請け負っていた。呪われた森で、本物の魔女と戦
う羽目になった彼らの奮闘を描く。ウィルとジェイコブのグリム兄弟を演じるは、
マット・デイモンと我らがヒース・レジャー。正直、マット・デイモンは苦手なの
だけれど、このしっかり者で現実的なお兄ちゃんは、今まで観た彼の出演作の中で
は一番好きな感じだった。片や夢見がちでへなちょこな弟を演じたヒースは、相変
わらずの芸達者ぶり。演じる役の幅が本当に広いな~、と感心する。最初の魔女退治
のシーン、魔法にかかってしまった演技がワザとらしくて「あれ?ヒース下手やな」
と思っていたら、実は「魔法にかかったふり」をしていたのだった。やられた。
注目はやはり、ポストプロダクションに一年半かけたという特撮、もといVFXだ
ろう。木が動いたり、無数の虫(ギャー!)が蠢いたり、特にお婆さんカエル、あれ
って本物なのだろうか?作りモノだとしたらAIBOより全然凄いんじゃないだろうか。
凄いといっても全体的にはチープな感じ、というか、素朴で古めかしい感じの映像
だったと思う。もちろんそれはテリー・ギリアム監督の意図するところでありこだ
わりでもあるだろうし、チープな感じとはいえさすがにワイアーは見えなかったか
らいいと思うけれども(笑)。
鏡の魔女(モニカ・ベルッチ)、男前なヒロイン?アンジェリカ(レナ・ヘディ)
もよかったけれど、個人的には『パイレーツ・オブ・カリビアン』の呪われた海賊
の一人、目玉が転がる男がグリム兄弟の助手役で出演していて目を引いた。そして
ウィルがジェイコブに「ジェイク」と呼びかけるのがナンとも言えずツボ。ヒース
にジェイクと呼びかけるなんて・・。「ジェイク」と言えばジェイク・ジレンホール
でしょう!ジェイクの本名も確か「ジェイコブ」なんだよね。
テリー・ギリアムといえば「鬼才」が枕詞のようになっているし、玄人受けする
カルト作家、という印象があった。しかし本作は題材が「グリム童話」だけに、間口
は広めに作ってあるなと思った。ハリー・ポッターも観てみようかしらん。。
(『ブラザーズ・グリム』監督:テリー・ギリアム/主演:マット・デイモン、
ヒース・レジャー/2005・USA)
もLOTRシリーズも未見。『白雪姫』はグリム童話だったかアンデルセン童話
だったかも定かでなく、アンデルセンといえばベーカリーだと思ってしまう。そん
な私だけど、本作はヒース・レジャー出演作というだけの理由で観てみようかな、
と思ってしまった。
19世紀初め、フランス占領下のドイツ。現代では童話作家として知られるグリム
兄弟は、詐欺まがいの魔女退治を請け負っていた。呪われた森で、本物の魔女と戦
う羽目になった彼らの奮闘を描く。ウィルとジェイコブのグリム兄弟を演じるは、
マット・デイモンと我らがヒース・レジャー。正直、マット・デイモンは苦手なの
だけれど、このしっかり者で現実的なお兄ちゃんは、今まで観た彼の出演作の中で
は一番好きな感じだった。片や夢見がちでへなちょこな弟を演じたヒースは、相変
わらずの芸達者ぶり。演じる役の幅が本当に広いな~、と感心する。最初の魔女退治
のシーン、魔法にかかってしまった演技がワザとらしくて「あれ?ヒース下手やな」
と思っていたら、実は「魔法にかかったふり」をしていたのだった。やられた。
注目はやはり、ポストプロダクションに一年半かけたという特撮、もといVFXだ
ろう。木が動いたり、無数の虫(ギャー!)が蠢いたり、特にお婆さんカエル、あれ
って本物なのだろうか?作りモノだとしたらAIBOより全然凄いんじゃないだろうか。
凄いといっても全体的にはチープな感じ、というか、素朴で古めかしい感じの映像
だったと思う。もちろんそれはテリー・ギリアム監督の意図するところでありこだ
わりでもあるだろうし、チープな感じとはいえさすがにワイアーは見えなかったか
らいいと思うけれども(笑)。
鏡の魔女(モニカ・ベルッチ)、男前なヒロイン?アンジェリカ(レナ・ヘディ)
もよかったけれど、個人的には『パイレーツ・オブ・カリビアン』の呪われた海賊
の一人、目玉が転がる男がグリム兄弟の助手役で出演していて目を引いた。そして
ウィルがジェイコブに「ジェイク」と呼びかけるのがナンとも言えずツボ。ヒース
にジェイクと呼びかけるなんて・・。「ジェイク」と言えばジェイク・ジレンホール
でしょう!ジェイクの本名も確か「ジェイコブ」なんだよね。
テリー・ギリアムといえば「鬼才」が枕詞のようになっているし、玄人受けする
カルト作家、という印象があった。しかし本作は題材が「グリム童話」だけに、間口
は広めに作ってあるなと思った。ハリー・ポッターも観てみようかしらん。。
(『ブラザーズ・グリム』監督:テリー・ギリアム/主演:マット・デイモン、
ヒース・レジャー/2005・USA)
続編に超・超期待!~『バットマン ビギンズ』
「バットマンシリーズ新作のジョーカー役にヒース・レジャーが決定」のニュース
に驚喜した今月始め。『バットマン』のジョーカーと言えばジャック・ニコルソン
のイメージが強い。ヒースが一体どんな風にジョーカーを演じてくれるのか、今か
ら興味津々なのだけれど、まぁそれはまだまだ先のお話。続編は監督・主演も続投
だと聞き、取り敢えず本作を観てみることにした。
渡辺謙が出ていて、クリスチャン・ベールが主演、ということ以外は予備知識ゼロ
のまま観始めたら、驚きの連続。まぁなんとも豪華なキャスト!マイケル・ケイン、
リーアム・ニーソンくらいで驚いてちゃいけません。おお、ゲイリー・オールドマン、
お久しぶり。おお、トム・ウィルキンソンが悪役か。モーガン・フリーマンまで出て
くるのね。そしてこの眼鏡の精神科医は・・もしかして今、旬の男(?)キリアン・
マーフィー?!えぇー、ビックリ。ホンマ、凄い面子です。
本作はタイトルの通り、如何にしてバットマンが生まれたか、その誕生の秘密を描
いている。主人公ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)は架空の街・ゴッサム
シティに富豪の跡取り息子として生まれるが、両親を眼前で射殺されてしまう。成長
した彼は世界中を放浪し、アジアの山中で謎の軍団(忍者?)とともに修行し、心身
を鍛え上げて故郷に戻るも、そこは悪が蔓延る街となっていた。そこでブルースが選
んだ道とは・・というストーリー。
バットマンのスーツや翼はご本人がデザインして、オーダーメイドだったのね、だ
とか、剣道の防具みたいなのを着けて刀で修行する様は、スター・ウォーズのライト
セーバー振り回してるみたいだな、とか、渡辺謙が意味不明の言語をしゃべってるけ
ど、どうせアジアのどこかっていう設定なら日本語しゃべらせれば?とか、ゴッサム
・シティは『2046』に出てきた未来都市みたいだな、とか、ストーリーが単純なだけ
に突っ込みどころも多いけれど、それはアメコミ原作ゆえのご愛嬌、とサラリと流す
べきだろう。そんなことより、細かく豪華に作り込まれたアイテムの数々を純粋に楽
しむべき娯楽作品なんだと思う。脇役の俳優もこれだけ多彩な面々が揃えばそれぞれ
の役者ぶりも堪能できるし、つくづくお金がかかってるなぁ・・と感心することしきり。
ただ一点、ブルースの幼馴染であり、正義感の強い検事補レイチェルを演じるケイティ
・ホームズ。熱い心と強い意志を持ったヒロインを巧く演じているとは思ったけれど、
どこかもう一つ、魅力に欠ける気がした。この人、笑うと顔が歪むんだよね・・。
『スパイダーマン』シリーズのMJ(キルスティン・ダンスト)といい、この影の薄さ
はアメコミもののヒロインの宿命なんだろうか。
ラストでいよいよジョーカー登場、を匂わせ、To be continuedな終り方。ここで
俄然、続編への期待が高まる。ああ~、ヒースのジョーカー。。早く観たい、観たい
です。
(『バットマン ビギンズ』監督:クリストファー・ノーラン/
主演:クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン/2005・USA)
に驚喜した今月始め。『バットマン』のジョーカーと言えばジャック・ニコルソン
のイメージが強い。ヒースが一体どんな風にジョーカーを演じてくれるのか、今か
ら興味津々なのだけれど、まぁそれはまだまだ先のお話。続編は監督・主演も続投
だと聞き、取り敢えず本作を観てみることにした。
渡辺謙が出ていて、クリスチャン・ベールが主演、ということ以外は予備知識ゼロ
のまま観始めたら、驚きの連続。まぁなんとも豪華なキャスト!マイケル・ケイン、
リーアム・ニーソンくらいで驚いてちゃいけません。おお、ゲイリー・オールドマン、
お久しぶり。おお、トム・ウィルキンソンが悪役か。モーガン・フリーマンまで出て
くるのね。そしてこの眼鏡の精神科医は・・もしかして今、旬の男(?)キリアン・
マーフィー?!えぇー、ビックリ。ホンマ、凄い面子です。
本作はタイトルの通り、如何にしてバットマンが生まれたか、その誕生の秘密を描
いている。主人公ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)は架空の街・ゴッサム
シティに富豪の跡取り息子として生まれるが、両親を眼前で射殺されてしまう。成長
した彼は世界中を放浪し、アジアの山中で謎の軍団(忍者?)とともに修行し、心身
を鍛え上げて故郷に戻るも、そこは悪が蔓延る街となっていた。そこでブルースが選
んだ道とは・・というストーリー。
バットマンのスーツや翼はご本人がデザインして、オーダーメイドだったのね、だ
とか、剣道の防具みたいなのを着けて刀で修行する様は、スター・ウォーズのライト
セーバー振り回してるみたいだな、とか、渡辺謙が意味不明の言語をしゃべってるけ
ど、どうせアジアのどこかっていう設定なら日本語しゃべらせれば?とか、ゴッサム
・シティは『2046』に出てきた未来都市みたいだな、とか、ストーリーが単純なだけ
に突っ込みどころも多いけれど、それはアメコミ原作ゆえのご愛嬌、とサラリと流す
べきだろう。そんなことより、細かく豪華に作り込まれたアイテムの数々を純粋に楽
しむべき娯楽作品なんだと思う。脇役の俳優もこれだけ多彩な面々が揃えばそれぞれ
の役者ぶりも堪能できるし、つくづくお金がかかってるなぁ・・と感心することしきり。
ただ一点、ブルースの幼馴染であり、正義感の強い検事補レイチェルを演じるケイティ
・ホームズ。熱い心と強い意志を持ったヒロインを巧く演じているとは思ったけれど、
どこかもう一つ、魅力に欠ける気がした。この人、笑うと顔が歪むんだよね・・。
『スパイダーマン』シリーズのMJ(キルスティン・ダンスト)といい、この影の薄さ
はアメコミもののヒロインの宿命なんだろうか。
ラストでいよいよジョーカー登場、を匂わせ、To be continuedな終り方。ここで
俄然、続編への期待が高まる。ああ~、ヒースのジョーカー。。早く観たい、観たい
です。
(『バットマン ビギンズ』監督:クリストファー・ノーラン/
主演:クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン/2005・USA)
昔、高校生だったすべての人へ~『リンダ リンダ リンダ』
奈良で起こった自宅放火事件の犯人の少年に対し、「論語ではなくブルーハーツ
を届けたい」という投書が少し前の新聞に載っていて、とても心に残った。ブルー
ハーツって、今でも多くの人の心の支えなんだろうなぁ・・と思う。私自身は彼ら
にさほど思い入れはないけれども、それでも何曲かは唄える。『TRAIN-TRAIN』が
一番好きかな。いわゆる「ブルーハーツ世代」でなくとも、この映画にシンパシー
を感じる人は多いのではないだろうか。高校時代、学園祭、手紙(メモ)での呼び
出し、誰もいない廊下、靴箱、自転車置き場。あの頃の空気が丸ごとそこにあって、
全く嘘臭くない。ただの「ゆるい青春映画」とだけ評するにはあまりにももったい
なく感じてしまう、心に残る作品だ。
学園祭を明日に控えた芝崎高校。ささいな出来事から軽音楽部の女子が仲違いし
てしまい、学祭での演奏をやる/やらないという瀬戸際に追い込まれてしまう。
ドラムの響子(前田亜季)、ベースの望(関根史織)、本来はキーボードなのにな
りゆきでギター担当の恵(香椎由宇)らは、韓国人留学生のソン(ペ・ドゥナ)を
ヴォーカルに引き込んで・・という、学祭のステージまでの三日間の彼女達を描く。
カセット(!)に入っていたブルーハーツに盛り上がるところ、ソンがヘッドフ
ォンをつけたまま泣くところ、ラストの観客の熱狂など、これはやっぱりブルーハ
ーツじゃなきゃ成り立たないな、と随所で思わせる。ソンが漫画で日本語を覚えて
いるところ、やけに存在感のあるダブリの先輩が制服のスカートの下にジャージ、
なんていうのもすごくリアルだ。
バンドメンバー4人、それぞれいい味出しているのだけれど、やはり魅力的なのは
ソンを演じたペ・ドゥナと、一番怖くて一番優しい(つまり中森明菜キャラ?)恵
だ。ペ・ドゥナは『仔猫をお願い』が最高だったが、この作品でもちょっと外した
やや不思議ちゃんキャラの少女をまさしく等身大で素直に表現していると思う。誰も
いない体育館のステージでメンバー紹介をする彼女からは、孤独だった留学生活の
中でやっと仲間を得た喜びが溢れている。恵を演じた香椎由宇は、その存在感と美
しさ(ほぼスッピンで演じていると思う)で圧倒的。前田亜季も高校生らしいかわ
いらしさを、えなりかずき似の関根史織も、口数は少ないがここぞという時のまとめ
役を自然体で演じていて、4人それぞれの制服の着こなし(着崩し)方のように、そ
れぞれの個性が自然に際立っている。
一番印象に残る場面は、洗面所の鏡のシーン。恵とソンが鏡に向かいながら、そ
れぞれお互いに感謝の言葉を口にする。韓国語と日本語、通じないはずなのにお互
いがお互いの気持ちを理解していて、心が通じ合っているのだ。ソンがある男子に
呼び出され、韓国語で告白される場面で、言葉は通じているはずなのに気持ちが通
じない様と対になっているシーンでもあり、ふたりの表情が素晴らしい。改まって
向かい合うよりも、同じ方向を見て話そうよ、という日韓に対する監督のメッセージ
なのかもしれない。
ブルーハーツのヴォーカル、甲本ヒロトの実弟である甲本雅裕が軽音楽部の顧問
として顔を出し、いい味出しているのもニヤリとさせる。「あっという間に終る本番
より、こういう時間のほうが後で残るんだよね」という望のセリフ。高校時代がバラ
色だった人、受験に失敗して失意の日々だった人、なんとなくダラダラ過ごしてしま
った人、全ての人がどこか共感することができて、あの時間、あの場所へと少しだけ
還ることができる作品だと思う。もちろん、あの少年にとっても。
(『リンダ リンダ リンダ』監督・山下敦弘/
主演・ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織/2005)
を届けたい」という投書が少し前の新聞に載っていて、とても心に残った。ブルー
ハーツって、今でも多くの人の心の支えなんだろうなぁ・・と思う。私自身は彼ら
にさほど思い入れはないけれども、それでも何曲かは唄える。『TRAIN-TRAIN』が
一番好きかな。いわゆる「ブルーハーツ世代」でなくとも、この映画にシンパシー
を感じる人は多いのではないだろうか。高校時代、学園祭、手紙(メモ)での呼び
出し、誰もいない廊下、靴箱、自転車置き場。あの頃の空気が丸ごとそこにあって、
全く嘘臭くない。ただの「ゆるい青春映画」とだけ評するにはあまりにももったい
なく感じてしまう、心に残る作品だ。
学園祭を明日に控えた芝崎高校。ささいな出来事から軽音楽部の女子が仲違いし
てしまい、学祭での演奏をやる/やらないという瀬戸際に追い込まれてしまう。
ドラムの響子(前田亜季)、ベースの望(関根史織)、本来はキーボードなのにな
りゆきでギター担当の恵(香椎由宇)らは、韓国人留学生のソン(ペ・ドゥナ)を
ヴォーカルに引き込んで・・という、学祭のステージまでの三日間の彼女達を描く。
カセット(!)に入っていたブルーハーツに盛り上がるところ、ソンがヘッドフ
ォンをつけたまま泣くところ、ラストの観客の熱狂など、これはやっぱりブルーハ
ーツじゃなきゃ成り立たないな、と随所で思わせる。ソンが漫画で日本語を覚えて
いるところ、やけに存在感のあるダブリの先輩が制服のスカートの下にジャージ、
なんていうのもすごくリアルだ。
バンドメンバー4人、それぞれいい味出しているのだけれど、やはり魅力的なのは
ソンを演じたペ・ドゥナと、一番怖くて一番優しい(つまり中森明菜キャラ?)恵
だ。ペ・ドゥナは『仔猫をお願い』が最高だったが、この作品でもちょっと外した
やや不思議ちゃんキャラの少女をまさしく等身大で素直に表現していると思う。誰も
いない体育館のステージでメンバー紹介をする彼女からは、孤独だった留学生活の
中でやっと仲間を得た喜びが溢れている。恵を演じた香椎由宇は、その存在感と美
しさ(ほぼスッピンで演じていると思う)で圧倒的。前田亜季も高校生らしいかわ
いらしさを、えなりかずき似の関根史織も、口数は少ないがここぞという時のまとめ
役を自然体で演じていて、4人それぞれの制服の着こなし(着崩し)方のように、そ
れぞれの個性が自然に際立っている。
一番印象に残る場面は、洗面所の鏡のシーン。恵とソンが鏡に向かいながら、そ
れぞれお互いに感謝の言葉を口にする。韓国語と日本語、通じないはずなのにお互
いがお互いの気持ちを理解していて、心が通じ合っているのだ。ソンがある男子に
呼び出され、韓国語で告白される場面で、言葉は通じているはずなのに気持ちが通
じない様と対になっているシーンでもあり、ふたりの表情が素晴らしい。改まって
向かい合うよりも、同じ方向を見て話そうよ、という日韓に対する監督のメッセージ
なのかもしれない。
ブルーハーツのヴォーカル、甲本ヒロトの実弟である甲本雅裕が軽音楽部の顧問
として顔を出し、いい味出しているのもニヤリとさせる。「あっという間に終る本番
より、こういう時間のほうが後で残るんだよね」という望のセリフ。高校時代がバラ
色だった人、受験に失敗して失意の日々だった人、なんとなくダラダラ過ごしてしま
った人、全ての人がどこか共感することができて、あの時間、あの場所へと少しだけ
還ることができる作品だと思う。もちろん、あの少年にとっても。
(『リンダ リンダ リンダ』監督・山下敦弘/
主演・ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織/2005)
男前!な映画人たち~『シネマ、シネマ、シネマ』
梁石日の小説・エッセイは何冊か読んでいるが、どの作品も例外なく面白く読め
る。本作もその分厚さ(388ページ)に一瞬たじろぐが、あっと言う間に読了してし
まった。私小説かつエンタテインメントとして、上質の作品だと思う。
題名が表している通り、ストーリーは映画をめぐる「エトセトラ」である。小説家
である主人公・ソンヨンスの元に、ある日自作の映画化の話が持ち込まれる。映画
製作にまつわる様々な逸話、騙す人、騙される人、一本の映画が何年もかかって完成
するまでの関係者の苦労、製作現場での過酷な撮影風景、完成した映画を配給・上映
にこぎつけるまでの紆余曲折・・などなどが、作者の体験を元にテンポよく描かれて
いく。
登場人物や作品名を、誰が、どの作品がモデルなのか類推するのも面白い。主人公
・ソンは勿論作者の梁石日であり、『クレイジーホース』は小説『タクシー狂騒曲』、
映画『月はどっちに出ている』である。映画監督・申勝鉉は崔洋一、小説『肉親』は
『血と骨』などなど、実際の映画製作をめぐる裏話を知るような面白さもある。一番
印象に残るエピソードは、金策に困ったソンと製作会社社長・李允和(この人物は
シネカノン社長・李鳳宇だと思われる)が、静岡まである経営者のもとに赴く場面だ。
映画製作に協力して欲しい、と言うソンと李に対し、借用書もなしで五百万円を援助
するその経営者の男前っぷり。その後に詳述される映画『アパッチ族』(『夜を賭けて』)
の製作過程で、映画とはいかに金がかかるものか、ヒットするか、配給できるかさえ
もわからないままに製作陣の気力と情熱で作り上げるものであるかがわかるだけに、
金の貸借でなく「気持ちの問題」で資金協力をする経営者の姿勢には胸打たれる。
また、日韓合作映画『ファミリー』(『家族シネマ』)の撮影現場での、国民性の違い
による両国スタッフのいざこざ、両者の間に立って孤軍奮闘する在日スタッフの苦労
もリアルに描かれている。殴り合い、いがみ合いながらも、結局彼らを結びつけるの
もまた映画という魔法なのだ。
どうして、人はこれほどまでに映画に惹き付けられるのか。スティーブン・ソダー
バーグが『トラフィック』でアカデミー賞監督賞を受賞した時の、彼のスピーチが
とても印象に残っている。彼は言った、「僕は芸術無しでは一秒も生きられない」。
映画がこの世になくても、人は息をすることはできるだろう。しかし、映画という
芸術無しには、息はしていても生きてはいけない人が、この世界にはたくさんいる。
そしてこの小説に描かれる映画人たちも、映画無しでは生きられない人々なのだ。
特に美文でもなく、ストーリーも完璧とは言い難いが、梁石日の文体には何故だ
か惹き付けられる。それは彼の破天荒に見えて繊細で、自分のルーツや夢を忘れな
い人間性の魅力に他ならないだろう。まさしく「男前」な梁石日の、映画への愛が
詰まった作品だ。
(『シネマ、シネマ、シネマ』梁石日・著/光文社/2006)
る。本作もその分厚さ(388ページ)に一瞬たじろぐが、あっと言う間に読了してし
まった。私小説かつエンタテインメントとして、上質の作品だと思う。
題名が表している通り、ストーリーは映画をめぐる「エトセトラ」である。小説家
である主人公・ソンヨンスの元に、ある日自作の映画化の話が持ち込まれる。映画
製作にまつわる様々な逸話、騙す人、騙される人、一本の映画が何年もかかって完成
するまでの関係者の苦労、製作現場での過酷な撮影風景、完成した映画を配給・上映
にこぎつけるまでの紆余曲折・・などなどが、作者の体験を元にテンポよく描かれて
いく。
登場人物や作品名を、誰が、どの作品がモデルなのか類推するのも面白い。主人公
・ソンは勿論作者の梁石日であり、『クレイジーホース』は小説『タクシー狂騒曲』、
映画『月はどっちに出ている』である。映画監督・申勝鉉は崔洋一、小説『肉親』は
『血と骨』などなど、実際の映画製作をめぐる裏話を知るような面白さもある。一番
印象に残るエピソードは、金策に困ったソンと製作会社社長・李允和(この人物は
シネカノン社長・李鳳宇だと思われる)が、静岡まである経営者のもとに赴く場面だ。
映画製作に協力して欲しい、と言うソンと李に対し、借用書もなしで五百万円を援助
するその経営者の男前っぷり。その後に詳述される映画『アパッチ族』(『夜を賭けて』)
の製作過程で、映画とはいかに金がかかるものか、ヒットするか、配給できるかさえ
もわからないままに製作陣の気力と情熱で作り上げるものであるかがわかるだけに、
金の貸借でなく「気持ちの問題」で資金協力をする経営者の姿勢には胸打たれる。
また、日韓合作映画『ファミリー』(『家族シネマ』)の撮影現場での、国民性の違い
による両国スタッフのいざこざ、両者の間に立って孤軍奮闘する在日スタッフの苦労
もリアルに描かれている。殴り合い、いがみ合いながらも、結局彼らを結びつけるの
もまた映画という魔法なのだ。
どうして、人はこれほどまでに映画に惹き付けられるのか。スティーブン・ソダー
バーグが『トラフィック』でアカデミー賞監督賞を受賞した時の、彼のスピーチが
とても印象に残っている。彼は言った、「僕は芸術無しでは一秒も生きられない」。
映画がこの世になくても、人は息をすることはできるだろう。しかし、映画という
芸術無しには、息はしていても生きてはいけない人が、この世界にはたくさんいる。
そしてこの小説に描かれる映画人たちも、映画無しでは生きられない人々なのだ。
特に美文でもなく、ストーリーも完璧とは言い難いが、梁石日の文体には何故だ
か惹き付けられる。それは彼の破天荒に見えて繊細で、自分のルーツや夢を忘れな
い人間性の魅力に他ならないだろう。まさしく「男前」な梁石日の、映画への愛が
詰まった作品だ。
(『シネマ、シネマ、シネマ』梁石日・著/光文社/2006)