砂漠の迷えるサンタ~『ジャーヘッド』
ジェイク・ジレンホール主演作ということで、これもDVD化を待っていた作品。
公開当時、見逃して本当に後悔した。監督や出演者はオスカー受賞者がズラリ、で
とても豪華なのだけれど、作品自体は非常に地味な「戦争映画」であり、ひとりの
青年の成長物語でもある。
1990~1991年に起こった、第一次湾岸戦争に派遣された元海兵隊員の手記を元に、
戦場における兵士たちの退屈、欲望、苦悩、挫折、そして忍び寄る狂気を描き出す。
語り部は主人公、トニー・スウォフォード(ジェイク・ジレンホール)。彼のアップ
とナレーションから、映画はスタートする。ジェイクはあるインタビューで、この
ナレーションが一番難しかったと語っていた。原作者本人を演じることと、主人公
と同一人物でありながら、ナレーターとしての客観性を持つことが難しかったのだ
という。なんだか彼の真面目な人柄と、俳優としての真摯なアティチュードが伺える
エピソードだと思う。
一番印象に残ったのは、『ディア・ハンター』(実は家庭内ポルノ)の場面。
「もう一度観ようぜ」と言うスウォフォードを制し、「何故観たいんだ?」と問い
かけるトロイ(ピーター・サースガード)。ふたりの間の空気が徐々に変わり、
もう一度観ることで自分がいかに自分自身を傷つけるかに気付き、子どものような
泣き顔に変わっていくスウォフォード。ここのジェイクの演技は作品の中でも一番
素晴らしかったと思うし、ほとんど変わらない表情で年下の相棒を諭すピーター・
サースガードも同じく素晴らしかった。
そしてこれもジェイクが「全然うまくできなくて、サムに怒られるだろうなぁっ
て思った」と語っているファーガスとのシーン。素と演技の境目が曖昧になって
しまったかのようなジェイクの熱演は、本人でさえ「怖い」と語る彼の激しい内面
の現れのようで、ただただ圧倒されてしまった。髪を切り、体重を増やして筋肉を
つけ、サンタ帽しかつけない身体をさらけ出し、自分の全てをこの映画に差し出し
たようなジェイク。
この映画の中では、兵士は誰も戦場で死なず、血を流す場面もない。その代わり
に燃え盛る油田から霧雨のように降り注ぐオイル、これを「地球が血を流している」
と表現するスウォフォード。カミュの『異邦人』を隠し読むような青年だった彼は
殺人マシーンとなるべく訓練され、狂気のスナイパーに変貌してしまったかのよう
に見える。しかし、この詩の一節のような言葉から彼の本質は変わらず、無意識の
うちに反戦表現をしているような気がした。
一体、戦争とは何なのか。自由の国、自分や家族を守ってくれる「国」とは、何
なのか。自分は「まだ砂漠にいる」と述懐するスウォフォード、もしあの時引き金を
引いていたら、彼は還って来ることができたのか。批評家に大絶賛され、全米ベスト
セラーになったという原作『ジャーヘッド/アメリカ海兵隊員の告白』も是非読んで
みたい。
(『ジャーヘッド』監督:サム・メンデス/主演:ジェイク・ジレンホール、
ピーター・サースガード、ジェイミー・フォックス/2005・USA)
公開当時、見逃して本当に後悔した。監督や出演者はオスカー受賞者がズラリ、で
とても豪華なのだけれど、作品自体は非常に地味な「戦争映画」であり、ひとりの
青年の成長物語でもある。
1990~1991年に起こった、第一次湾岸戦争に派遣された元海兵隊員の手記を元に、
戦場における兵士たちの退屈、欲望、苦悩、挫折、そして忍び寄る狂気を描き出す。
語り部は主人公、トニー・スウォフォード(ジェイク・ジレンホール)。彼のアップ
とナレーションから、映画はスタートする。ジェイクはあるインタビューで、この
ナレーションが一番難しかったと語っていた。原作者本人を演じることと、主人公
と同一人物でありながら、ナレーターとしての客観性を持つことが難しかったのだ
という。なんだか彼の真面目な人柄と、俳優としての真摯なアティチュードが伺える
エピソードだと思う。
一番印象に残ったのは、『ディア・ハンター』(実は家庭内ポルノ)の場面。
「もう一度観ようぜ」と言うスウォフォードを制し、「何故観たいんだ?」と問い
かけるトロイ(ピーター・サースガード)。ふたりの間の空気が徐々に変わり、
もう一度観ることで自分がいかに自分自身を傷つけるかに気付き、子どものような
泣き顔に変わっていくスウォフォード。ここのジェイクの演技は作品の中でも一番
素晴らしかったと思うし、ほとんど変わらない表情で年下の相棒を諭すピーター・
サースガードも同じく素晴らしかった。
そしてこれもジェイクが「全然うまくできなくて、サムに怒られるだろうなぁっ
て思った」と語っているファーガスとのシーン。素と演技の境目が曖昧になって
しまったかのようなジェイクの熱演は、本人でさえ「怖い」と語る彼の激しい内面
の現れのようで、ただただ圧倒されてしまった。髪を切り、体重を増やして筋肉を
つけ、サンタ帽しかつけない身体をさらけ出し、自分の全てをこの映画に差し出し
たようなジェイク。
この映画の中では、兵士は誰も戦場で死なず、血を流す場面もない。その代わり
に燃え盛る油田から霧雨のように降り注ぐオイル、これを「地球が血を流している」
と表現するスウォフォード。カミュの『異邦人』を隠し読むような青年だった彼は
殺人マシーンとなるべく訓練され、狂気のスナイパーに変貌してしまったかのよう
に見える。しかし、この詩の一節のような言葉から彼の本質は変わらず、無意識の
うちに反戦表現をしているような気がした。
一体、戦争とは何なのか。自由の国、自分や家族を守ってくれる「国」とは、何
なのか。自分は「まだ砂漠にいる」と述懐するスウォフォード、もしあの時引き金を
引いていたら、彼は還って来ることができたのか。批評家に大絶賛され、全米ベスト
セラーになったという原作『ジャーヘッド/アメリカ海兵隊員の告白』も是非読んで
みたい。
(『ジャーヘッド』監督:サム・メンデス/主演:ジェイク・ジレンホール、
ピーター・サースガード、ジェイミー・フォックス/2005・USA)
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水のないプール、永遠の夏~『ロード・オブ・ドッグタウン』
ヒース・レジャー出演作ということでDVD化を待っていたこの作品。結構クールな
映画らしい、という評判は聞いていたのだが、これはかなりオススメできる佳作では
ないだろうか。
70年代半ば、アメリカ西海岸ベニス・ビーチ周辺の"ドッグタウン"で、サーフィンと
スケボーに明け暮れる少年たち。サーフショップ経営者スキップ(ヒース・レジャー)
の計らいで"Z-Boys"という名のスケボーチームが結成され、全米のスケート大会に出場
した彼らは、街の不良少年から全米のスターにのし上がってゆく。Z-Boys中心メンバー
のジェイ(エミール・ハーシュ)、トニー(ヴィクター・ラサック)、ステイシー(ジョン
・ロビンソン)を中心に、彼らの友情、恋、別離、そして再びの邂逅を描く、実話に
基づく物語。本作の脚本も、中心メンバーの一人であるステイシー・ペラルタが担当
している。
主役三人がそれぞれに個性的で、魅力十分だ。特にジェイを演じたエミール・ハーシュ
は、『ボーイズ・ライフ』の頃のレオナルド・ディカプリオを彷彿させる目ヂカラの持ち
主で、強烈な印象を残す。一番厳しい家庭環境にあった彼は、大手メーカーと契約してプロ
スケーターとなり、リッチになってゆく他のメンバーとは一線を画し、「金の為には滑ら
ない」と一万ドルのCM出演の話も蹴り、ストリートで技を磨き続ける。その不器用な生き方、
強い自負心と母親への思いなどをリアルに演じていて、一番キャラクターが生きていたと
思う。おくてで生真面目なステイシー(ジョン・ロビンソン)、喧嘩っ早くて血の気の多い
トニー(ヴィクター・ラサック)ももちろんそれぞれ魅力的に描かれている。そして我らが
ヒース・レジャーも、彼らの父親的な役どころ、なだめたり、すかしたりしながら少年たち
を束ね、飛躍への土台を与えた、四六時中アルコールとドラッグでハイなサーフショップ
経営者スキップを存在感十分に演じている(Z-Boysが出場するスケート大会の開催地が
"del mar"だったこと、"Venice"ビーチにちょっと注目)。
圧巻は、やはりスケボーシーン。俳優自身がスケートの訓練を受け、スタントなしで
ほとんどの撮影をこなした様は、特典映像で未公開映像などとともに観ることができる。
そしてこの映画を撮ったのが女性の監督だということ、ディヴィッド・フィンチャーが
プロデューサーの一人であることには驚かされた。ざらついた感じの映像、それにマッチ
した音楽も、全く古さは感じさせない。マーティ・マックフライ『バック・トゥ・ザ・
フューチャー』も、彼らに憧れてスケボー少年になったのかなぁ、などど思ったり。
ラストで、それぞれにバラバラの道を進もうとしてるメンバーを再び結びつける出来事
が起こる。有名になる前、異常渇水の夏、空っぽのプールで技を競い合った頃、夏休みは
20年後も続くのだと信じていた彼ら。少しだけ大人になり、行く道は違っても、嫉妬や
軋轢があっても、同じ夏、同じストリートを共有した記憶が消えることは無い。
車椅子のシド(マイケル・アンガラノ)を水の無いプールに下ろす三人に涙、ナミダ。。
若かったあの夏は一瞬でも、絆は永遠だと信じさせてくれる。
(『ロード・オブ・ドッグタウン』監督:キャサリン・ハードウィック/
主演:エミール・ハーシュ、ヴィクター・ラサック、ジョン・ロビンソン、
ヒース・レジャー/2005・USA)
映画らしい、という評判は聞いていたのだが、これはかなりオススメできる佳作では
ないだろうか。
70年代半ば、アメリカ西海岸ベニス・ビーチ周辺の"ドッグタウン"で、サーフィンと
スケボーに明け暮れる少年たち。サーフショップ経営者スキップ(ヒース・レジャー)
の計らいで"Z-Boys"という名のスケボーチームが結成され、全米のスケート大会に出場
した彼らは、街の不良少年から全米のスターにのし上がってゆく。Z-Boys中心メンバー
のジェイ(エミール・ハーシュ)、トニー(ヴィクター・ラサック)、ステイシー(ジョン
・ロビンソン)を中心に、彼らの友情、恋、別離、そして再びの邂逅を描く、実話に
基づく物語。本作の脚本も、中心メンバーの一人であるステイシー・ペラルタが担当
している。
主役三人がそれぞれに個性的で、魅力十分だ。特にジェイを演じたエミール・ハーシュ
は、『ボーイズ・ライフ』の頃のレオナルド・ディカプリオを彷彿させる目ヂカラの持ち
主で、強烈な印象を残す。一番厳しい家庭環境にあった彼は、大手メーカーと契約してプロ
スケーターとなり、リッチになってゆく他のメンバーとは一線を画し、「金の為には滑ら
ない」と一万ドルのCM出演の話も蹴り、ストリートで技を磨き続ける。その不器用な生き方、
強い自負心と母親への思いなどをリアルに演じていて、一番キャラクターが生きていたと
思う。おくてで生真面目なステイシー(ジョン・ロビンソン)、喧嘩っ早くて血の気の多い
トニー(ヴィクター・ラサック)ももちろんそれぞれ魅力的に描かれている。そして我らが
ヒース・レジャーも、彼らの父親的な役どころ、なだめたり、すかしたりしながら少年たち
を束ね、飛躍への土台を与えた、四六時中アルコールとドラッグでハイなサーフショップ
経営者スキップを存在感十分に演じている(Z-Boysが出場するスケート大会の開催地が
"del mar"だったこと、"Venice"ビーチにちょっと注目)。
圧巻は、やはりスケボーシーン。俳優自身がスケートの訓練を受け、スタントなしで
ほとんどの撮影をこなした様は、特典映像で未公開映像などとともに観ることができる。
そしてこの映画を撮ったのが女性の監督だということ、ディヴィッド・フィンチャーが
プロデューサーの一人であることには驚かされた。ざらついた感じの映像、それにマッチ
した音楽も、全く古さは感じさせない。マーティ・マックフライ『バック・トゥ・ザ・
フューチャー』も、彼らに憧れてスケボー少年になったのかなぁ、などど思ったり。
ラストで、それぞれにバラバラの道を進もうとしてるメンバーを再び結びつける出来事
が起こる。有名になる前、異常渇水の夏、空っぽのプールで技を競い合った頃、夏休みは
20年後も続くのだと信じていた彼ら。少しだけ大人になり、行く道は違っても、嫉妬や
軋轢があっても、同じ夏、同じストリートを共有した記憶が消えることは無い。
車椅子のシド(マイケル・アンガラノ)を水の無いプールに下ろす三人に涙、ナミダ。。
若かったあの夏は一瞬でも、絆は永遠だと信じさせてくれる。
(『ロード・オブ・ドッグタウン』監督:キャサリン・ハードウィック/
主演:エミール・ハーシュ、ヴィクター・ラサック、ジョン・ロビンソン、
ヒース・レジャー/2005・USA)
人形劇なのにR-18、って何それ?!~『チーム☆アメリカ ワールドポリス』
タイトル通りの理由で公開当時から気になっていた本作、まぁちょっと観てみる
か、くらいの気持ちだったのだけど、恐れ入りました。たかが人形劇、ってなめたら
アカンぜよ!これはかの『パールハーバー』もびっくりの超大作(?)ですね。
誰もが知っている『サンダーバード』のような、木製の操り人形によるちょっぴり
ミュージカル仕立てのブラック・コメディ。世界平和を守るため、大量破壊兵器を
隠し持つテロ国家と戦うチーム・アメリカ。パリやカイロでテロ活動があると知る
や、銃や爆弾をぶっ放し、エッフェル塔もルーブル(ああ、サングリアル、聖杯が~、、
と叫んでしまいそうになる)も、スフィンクスもピラミッドも破壊しまくるチーム
・アメリカ。テロと戦っているんだか街を破壊しに行ってるんだか。。
観ている間、頭にあったのは「これは子どもには見せられないわ(汗)」もう、その
エログロナンセンスっぷりはほとんどアンタッチャブル。爆弾で人形が木っ端微塵にさ
れたり、残酷シーンもテンコ盛り。主人公が酔ってゲロを吐くシーンなんて、ここまで
やるかとさすがに引いた。この場面だけは絶対に食事中に観てはいけない(私は小腹が
空いたので「もずく酢」をすすっていたのだけど、これからもずく酢を見る度にこのゲロ
シーンが浮かぶに違いない。どうしてくれるんだ!)。
前半は対テロリストの大義名分の下、軍事行動に出る「右派」をパロっているから、
そういう映画なのかなと思っていた。すると中盤以降、その軍事行動に反対したハリウ
ッド俳優たち(アレック・ボールドウィン、ティム・ロビンス、ショーン・ペンら)や、
あのマイケル・ムーアまでもが槍玉&血祭りにあげられる。つまり「右」も「左」もか
らかっているわけで、この製作者は一体どういうポリシーの持ち主なんだ?!と思わずに
はいられない。怖い者なしにとことん暴走している。監督・製作のトレイ・パーカーと
マット・ストーンは『サウス・パーク』のクリエイターであるらしいが、その『サウス
・パーク』を未見なため彼らのことがわからず、ちょっと残念。
そして満を持して登場する、北の「将軍様」。この人たち、遂にあの独裁国家まで
コケにするのだ。この「将軍様」人形がよくできていると言ったらもう、目に焼き付い
て離れない。激似。しかもちょっとかわいいキャラなもんだからたまりません。
人形たちはまばたきこそすれ、さほどリアルに作られているわけではないのに、表情
を持ってリアルに演技しているかのように見えてくるのが不思議。子どもには見せられ
ないと思うけど、高校生くらいになら見せてもいいかもしれない。この映画を観て批判
精神に目覚めてもどうかと思うけれど、いろんな考え方や表現をしてもいいんだよ、と
いうことは学べるんじゃないだろうか。こんなに言いたい放題で大丈夫なのかな、とも
思うけれど、こういう映画が出てくるアメリカはやっぱり懐が大きい、自由の国なんだ
な~と改めて思う。製作者に抗議の手紙を送ったというショーン・ペンのほうが、ちょ
っと大人げないのかも。まっと・でいもん(ハーバード大卒)やベン・アフレックより、
扱いは遥かにいいじゃん・・・。
というわけで、決してオススメはできないけれど、存在価値は大きい作品だと思います。
(『チーム☆アメリカ ワールドポリス』監督:トレイ・パーカー/2004・USA)
か、くらいの気持ちだったのだけど、恐れ入りました。たかが人形劇、ってなめたら
アカンぜよ!これはかの『パールハーバー』もびっくりの超大作(?)ですね。
誰もが知っている『サンダーバード』のような、木製の操り人形によるちょっぴり
ミュージカル仕立てのブラック・コメディ。世界平和を守るため、大量破壊兵器を
隠し持つテロ国家と戦うチーム・アメリカ。パリやカイロでテロ活動があると知る
や、銃や爆弾をぶっ放し、エッフェル塔もルーブル(ああ、サングリアル、聖杯が~、、
と叫んでしまいそうになる)も、スフィンクスもピラミッドも破壊しまくるチーム
・アメリカ。テロと戦っているんだか街を破壊しに行ってるんだか。。
観ている間、頭にあったのは「これは子どもには見せられないわ(汗)」もう、その
エログロナンセンスっぷりはほとんどアンタッチャブル。爆弾で人形が木っ端微塵にさ
れたり、残酷シーンもテンコ盛り。主人公が酔ってゲロを吐くシーンなんて、ここまで
やるかとさすがに引いた。この場面だけは絶対に食事中に観てはいけない(私は小腹が
空いたので「もずく酢」をすすっていたのだけど、これからもずく酢を見る度にこのゲロ
シーンが浮かぶに違いない。どうしてくれるんだ!)。
前半は対テロリストの大義名分の下、軍事行動に出る「右派」をパロっているから、
そういう映画なのかなと思っていた。すると中盤以降、その軍事行動に反対したハリウ
ッド俳優たち(アレック・ボールドウィン、ティム・ロビンス、ショーン・ペンら)や、
あのマイケル・ムーアまでもが槍玉&血祭りにあげられる。つまり「右」も「左」もか
らかっているわけで、この製作者は一体どういうポリシーの持ち主なんだ?!と思わずに
はいられない。怖い者なしにとことん暴走している。監督・製作のトレイ・パーカーと
マット・ストーンは『サウス・パーク』のクリエイターであるらしいが、その『サウス
・パーク』を未見なため彼らのことがわからず、ちょっと残念。
そして満を持して登場する、北の「将軍様」。この人たち、遂にあの独裁国家まで
コケにするのだ。この「将軍様」人形がよくできていると言ったらもう、目に焼き付い
て離れない。激似。しかもちょっとかわいいキャラなもんだからたまりません。
人形たちはまばたきこそすれ、さほどリアルに作られているわけではないのに、表情
を持ってリアルに演技しているかのように見えてくるのが不思議。子どもには見せられ
ないと思うけど、高校生くらいになら見せてもいいかもしれない。この映画を観て批判
精神に目覚めてもどうかと思うけれど、いろんな考え方や表現をしてもいいんだよ、と
いうことは学べるんじゃないだろうか。こんなに言いたい放題で大丈夫なのかな、とも
思うけれど、こういう映画が出てくるアメリカはやっぱり懐が大きい、自由の国なんだ
な~と改めて思う。製作者に抗議の手紙を送ったというショーン・ペンのほうが、ちょ
っと大人げないのかも。まっと・でいもん(ハーバード大卒)やベン・アフレックより、
扱いは遥かにいいじゃん・・・。
というわけで、決してオススメはできないけれど、存在価値は大きい作品だと思います。
(『チーム☆アメリカ ワールドポリス』監督:トレイ・パーカー/2004・USA)
温かく心を溶かすクリスマスの奇跡~『ラブ・アクチュアリー』
一年で夜が一番長くなって、でも真冬ほど寒くもなく、街を金色に染めるイルミ
ネーションが美しい、輝く12月。そんな英国のクリスマスシーズンを舞台に描かれる
群像劇『ラブ・アクチュアリー』。ずっと観たいと思いつつ機会を逃し、今回
『クラッシュ』の後に観る作品として選んだけれど、大切な友人へプレゼントしたく
なるような、人生ベスト10に入れてもいいと思ったくらい、大好きな作品になった。
空港の到着ゲート、行き交いハグし合う人々に、ヒュー・グラントのナレーション
がかぶさる。彼の低い声、この導入部でまず引き込まれる。いくつかのエピソードの
後、教会で愛を誓うキーラ・ナイトレイに"ラ・マルセイエーズ"のイントロ、列席者
による"All You Need is Love"が流れ始めたとき、これは間違いなくいい映画だと確信
した。キャストも英国が誇る名優揃い踏みという感じで、なんと贅沢な気分に浸れる
ことか!義理の父子を演じたリーアム・ニーソンとトーマス・サングスター(この子役
は初見、金色の巻き毛と黒い瞳がかわいらしい)、秘書の危険な誘惑に揺れる夫を演
じたアラン・リックマンと、その妻エマ・トンプソン(息ぴったりの二人、特にエマ
の演技は必見)、不器用だけど誠実一路なコリン・ファースの、言語も国籍をも超えた
愛、ロートルなロック・スターを怪演したビル・ナイ(このおっさんがまた最高なん
です)。セクシーとしか形容する術が無いラテンの星ロドリゴ・サントロ(脱いだら
スゴイんです)と、ローラ・リニーの実ることのない長い長い片思い。私は今まで、
彼女がどうも苦手だったのだけれど、この作品で初めていい女優さんだなと思った。
そして恋する英国首相を演じるヒュー・グラントとくれば、これは文句のつけようが
ありません。
監督のリチャード・カーティスは本作が初メガホンとのことだが、脚本も手がける
彼は映画製作のイロハを知り尽くしているのだろう、これだけのキャストをまとめ、
しかし嫌味もケレンもなく、観るものを最高に幸せな気分にさせる手腕は熟練の技と
言ってもいいだろう。群像劇ではあるがキャスト全員のつながりがはっきりと示され
ているわけではなく、計算し尽された、緻密な作品ではないところもかえって好感が
持てると思う。
終盤、サム(トーマス・サングスター)が恋する少女ジョアンナ(オリヴィア・オル
ソン)が唄う"All I Want For Christmas Is You"のアカペラを聴いた瞬間、何故だか涙
が溢れてきた。泣ける映画がいいと言っているわけではない、音楽のチカラはどうだ
と言いたいわけでもない。作品の中に、俳優たちの演技に、監督の視線の先に、温かく
心を溶かす愛を感じることが素晴らしいのだ。
クリスマスが近づくにつれ、キャストたちが恋する気分を映すように、情熱の「赤」
を身に着けるのも印象的だった。そして遂にクリスマス・イヴ当日、物語はいくつかの
「奇跡」を用意する。サムが空港ゲートを通り抜けられるように現れるローワン・アト
キンソン、遂にチャート一位を獲得したビリー・マック(ビル・ナイ)、サムの同級生
の母として現れる「本物の」クラウディア・シファー。そして一番の奇跡はこの作品
そのものだ。9・11後の世界に向けて、"Love actually is all around"愛は実際、世界
に溢れているんだよ、というメッセージを観るものに届けてくれる。たまにはこんな
(人によっては大甘と感じられるかもしれない)映画で、ひととき幸せな気分に浸るの
もいいんじゃないかな。DVDはもちろん、サントラまでも買ってしまいそうです。
(『ラブ・アクチュアリー』監督:リチャード・カーティス/主演:ヒュー・グラント、
ビル・ナイ、エマ・トンプソン、アラン・リックマン/2003/USA・UK)
ネーションが美しい、輝く12月。そんな英国のクリスマスシーズンを舞台に描かれる
群像劇『ラブ・アクチュアリー』。ずっと観たいと思いつつ機会を逃し、今回
『クラッシュ』の後に観る作品として選んだけれど、大切な友人へプレゼントしたく
なるような、人生ベスト10に入れてもいいと思ったくらい、大好きな作品になった。
空港の到着ゲート、行き交いハグし合う人々に、ヒュー・グラントのナレーション
がかぶさる。彼の低い声、この導入部でまず引き込まれる。いくつかのエピソードの
後、教会で愛を誓うキーラ・ナイトレイに"ラ・マルセイエーズ"のイントロ、列席者
による"All You Need is Love"が流れ始めたとき、これは間違いなくいい映画だと確信
した。キャストも英国が誇る名優揃い踏みという感じで、なんと贅沢な気分に浸れる
ことか!義理の父子を演じたリーアム・ニーソンとトーマス・サングスター(この子役
は初見、金色の巻き毛と黒い瞳がかわいらしい)、秘書の危険な誘惑に揺れる夫を演
じたアラン・リックマンと、その妻エマ・トンプソン(息ぴったりの二人、特にエマ
の演技は必見)、不器用だけど誠実一路なコリン・ファースの、言語も国籍をも超えた
愛、ロートルなロック・スターを怪演したビル・ナイ(このおっさんがまた最高なん
です)。セクシーとしか形容する術が無いラテンの星ロドリゴ・サントロ(脱いだら
スゴイんです)と、ローラ・リニーの実ることのない長い長い片思い。私は今まで、
彼女がどうも苦手だったのだけれど、この作品で初めていい女優さんだなと思った。
そして恋する英国首相を演じるヒュー・グラントとくれば、これは文句のつけようが
ありません。
監督のリチャード・カーティスは本作が初メガホンとのことだが、脚本も手がける
彼は映画製作のイロハを知り尽くしているのだろう、これだけのキャストをまとめ、
しかし嫌味もケレンもなく、観るものを最高に幸せな気分にさせる手腕は熟練の技と
言ってもいいだろう。群像劇ではあるがキャスト全員のつながりがはっきりと示され
ているわけではなく、計算し尽された、緻密な作品ではないところもかえって好感が
持てると思う。
終盤、サム(トーマス・サングスター)が恋する少女ジョアンナ(オリヴィア・オル
ソン)が唄う"All I Want For Christmas Is You"のアカペラを聴いた瞬間、何故だか涙
が溢れてきた。泣ける映画がいいと言っているわけではない、音楽のチカラはどうだ
と言いたいわけでもない。作品の中に、俳優たちの演技に、監督の視線の先に、温かく
心を溶かす愛を感じることが素晴らしいのだ。
クリスマスが近づくにつれ、キャストたちが恋する気分を映すように、情熱の「赤」
を身に着けるのも印象的だった。そして遂にクリスマス・イヴ当日、物語はいくつかの
「奇跡」を用意する。サムが空港ゲートを通り抜けられるように現れるローワン・アト
キンソン、遂にチャート一位を獲得したビリー・マック(ビル・ナイ)、サムの同級生
の母として現れる「本物の」クラウディア・シファー。そして一番の奇跡はこの作品
そのものだ。9・11後の世界に向けて、"Love actually is all around"愛は実際、世界
に溢れているんだよ、というメッセージを観るものに届けてくれる。たまにはこんな
(人によっては大甘と感じられるかもしれない)映画で、ひととき幸せな気分に浸るの
もいいんじゃないかな。DVDはもちろん、サントラまでも買ってしまいそうです。
(『ラブ・アクチュアリー』監督:リチャード・カーティス/主演:ヒュー・グラント、
ビル・ナイ、エマ・トンプソン、アラン・リックマン/2003/USA・UK)
よくできてると思う、それでも~『クラッシュ』
第78回のアカデミー賞で大方の予想を覆し、作品賞を受賞した本作。授賞式で
ジャック・ニコルソンが眉を上げて「クラッシュ」と発表したときのことは記憶に
新しい。どよめく場内、我を忘れたように大喜びする関係者、硬い表情で拍手する
ジェイクとヒース、バックステージで待機していたアン・リー。私自身も、とても
とても残念で、悔しかった。オスカーをさらった本作がどんな映画なのか絶対に確認
したかったのだけれど、劇場での鑑賞は叶わず、DVDでやっと観ることができた。
おまけの「新作ビデオ情報」で、BBMのトレイラーが観られてちょっと得した気分。
クリスマスを前にしたある二日間の、LAを舞台にした群像劇。テーマは「人種差別」。
監督・脚本はオスカー受賞作『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本家ポール・ハギス、
キャストもすごく豪華。ドン・チードル、サンドラ・ブロック、マット・ディロン、
ライアン・フィリップ、テレンス・ハワード、などなど、などなど。この大勢のキャ
ストのエピソードが全てどこかで繋がり、オープニングからラストまで破綻も矛盾も
なくストーリーが流れていく様は、「お見事」としか言いようのない完璧な出来栄え
だ。キャストの演技も皆冴えていると思う、ドン・チードルは黒人刑事の孤独と悲し
みを体現して風格を感じさせるし、本作の演技でアカデミー助演男優賞にノミネート
されたマット・ディロンも、人種差別主義者の白人刑事のいやらしさと苛立ちを押さ
え気味に巧く演じていると思う。中学時代、彼のファンクラブに入っていた身として
は、マットもおっちゃんになったな・・・と哀しくなったりもするが、それでも彼の
長いキャリアが認められたのかと感慨深いものがある。テレンス・ハワードもかっこ
いいしサンドラ・ブロックも悪くないけれど、今回一番印象に残り、見直したのが
ライアン・フィリップ。彼はGG賞授賞式でのホアキン・フェニックスに対する「賭け
金払え!」パフォーマンスがちょっと感じ悪くて「リース・ウィザースプーンの安い旦那」
というイメージしかなかった(すみません)。その彼が若い、正義感溢れる白人刑事
(この役はヒースにも話がきていたらしい)を演じて、主演か?と思わせるほどの
存在感。他の出演作品も観てみたくなった。
物語は、白人、黒人、アジア系、イスラム系、ヒスパニックなどなど様々な人種
の坩堝であるLAで、人々がいかに差別し、差別され、触れ合い、傷つけ合い、わか
り合ってゆくのか。それを淡々と描いてゆく。人を見たら泥棒と思え、という諺では
ないが、黒人を見たら犯罪者と思い、イスラム系を見たらテロリストを疑い、アジア
系がヒスパニックを見下す描写には暗澹たる気持ちになる。それでも「妖精の透明
ガウン」のエピソードには泣かされたし、バスに乗ったギャングスターには救いも
感じられる。人間は一つの側面だけで生きているのではなく、表と裏、善と悪の部分
を持つ多面的な存在であること。それを否定も肯定もせず、欠点だらけでも、希望
より苦悩が大きくても、それでも人はぶつかり合いながら生きていくしかないこと
もよくわかる。よくできた作品だと本当に思う、でも、これが作品賞で本当によか
ったのか?という思いは観る前と全く変わらない。BBMのように心を揺さぶられ
る、何日も何ヶ月も、そして多分何年も胸を離れない"something"もあるとは思え
なかった。ラスト近く、二組の崩壊しかかった夫婦が告げあう"I love you"が安易
過ぎると感じたせいかもしれない。
もちろん、アニー・プルーが言うところの"Trash"だとも思わないが、やはり
オスカーはBBMの元に輝くべきだったのではないかな・・と、あくまで私見を
遠慮がちに言ってみる、小さな声で。
(『クラッシュ』監督:ポール・ハギス/主演:ドン・チードル、
ライアン・フィリップ、マット・ディロン/2005・USA)
ジャック・ニコルソンが眉を上げて「クラッシュ」と発表したときのことは記憶に
新しい。どよめく場内、我を忘れたように大喜びする関係者、硬い表情で拍手する
ジェイクとヒース、バックステージで待機していたアン・リー。私自身も、とても
とても残念で、悔しかった。オスカーをさらった本作がどんな映画なのか絶対に確認
したかったのだけれど、劇場での鑑賞は叶わず、DVDでやっと観ることができた。
おまけの「新作ビデオ情報」で、BBMのトレイラーが観られてちょっと得した気分。
クリスマスを前にしたある二日間の、LAを舞台にした群像劇。テーマは「人種差別」。
監督・脚本はオスカー受賞作『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本家ポール・ハギス、
キャストもすごく豪華。ドン・チードル、サンドラ・ブロック、マット・ディロン、
ライアン・フィリップ、テレンス・ハワード、などなど、などなど。この大勢のキャ
ストのエピソードが全てどこかで繋がり、オープニングからラストまで破綻も矛盾も
なくストーリーが流れていく様は、「お見事」としか言いようのない完璧な出来栄え
だ。キャストの演技も皆冴えていると思う、ドン・チードルは黒人刑事の孤独と悲し
みを体現して風格を感じさせるし、本作の演技でアカデミー助演男優賞にノミネート
されたマット・ディロンも、人種差別主義者の白人刑事のいやらしさと苛立ちを押さ
え気味に巧く演じていると思う。中学時代、彼のファンクラブに入っていた身として
は、マットもおっちゃんになったな・・・と哀しくなったりもするが、それでも彼の
長いキャリアが認められたのかと感慨深いものがある。テレンス・ハワードもかっこ
いいしサンドラ・ブロックも悪くないけれど、今回一番印象に残り、見直したのが
ライアン・フィリップ。彼はGG賞授賞式でのホアキン・フェニックスに対する「賭け
金払え!」パフォーマンスがちょっと感じ悪くて「リース・ウィザースプーンの安い旦那」
というイメージしかなかった(すみません)。その彼が若い、正義感溢れる白人刑事
(この役はヒースにも話がきていたらしい)を演じて、主演か?と思わせるほどの
存在感。他の出演作品も観てみたくなった。
物語は、白人、黒人、アジア系、イスラム系、ヒスパニックなどなど様々な人種
の坩堝であるLAで、人々がいかに差別し、差別され、触れ合い、傷つけ合い、わか
り合ってゆくのか。それを淡々と描いてゆく。人を見たら泥棒と思え、という諺では
ないが、黒人を見たら犯罪者と思い、イスラム系を見たらテロリストを疑い、アジア
系がヒスパニックを見下す描写には暗澹たる気持ちになる。それでも「妖精の透明
ガウン」のエピソードには泣かされたし、バスに乗ったギャングスターには救いも
感じられる。人間は一つの側面だけで生きているのではなく、表と裏、善と悪の部分
を持つ多面的な存在であること。それを否定も肯定もせず、欠点だらけでも、希望
より苦悩が大きくても、それでも人はぶつかり合いながら生きていくしかないこと
もよくわかる。よくできた作品だと本当に思う、でも、これが作品賞で本当によか
ったのか?という思いは観る前と全く変わらない。BBMのように心を揺さぶられ
る、何日も何ヶ月も、そして多分何年も胸を離れない"something"もあるとは思え
なかった。ラスト近く、二組の崩壊しかかった夫婦が告げあう"I love you"が安易
過ぎると感じたせいかもしれない。
もちろん、アニー・プルーが言うところの"Trash"だとも思わないが、やはり
オスカーはBBMの元に輝くべきだったのではないかな・・と、あくまで私見を
遠慮がちに言ってみる、小さな声で。
(『クラッシュ』監督:ポール・ハギス/主演:ドン・チードル、
ライアン・フィリップ、マット・ディロン/2005・USA)
何を食べ、どう生きるか~『食品の裏側:みんな大好きな食品添加物』
「飽食の時代」と言われて久しい。コンビニは24時間、空腹を即座に満たしてくれ
るし、ファミレスやファーストフードも日常生活の一部だ。主婦向けの雑誌には
『食費をいかに削るか』が特集され、食品は底値で買うのが賢い主婦の務めだと
喧伝されている。
そんな世の中に「待った」をかける本書。食品添加物商社のトップセールスマン
だった著者は、業界のまさに「裏側」から、溢れかえる「加工食品」と「食の崩壊」
に警鐘を鳴らす。
告発本といえば、『買ってはいけない』シリーズや、最近では『脳内汚染』など
が記憶に新しい。思えば、『買ってはいけない』を読了後は何ともいえない不安で
頭がいっぱいになった記憶がある。人間の身体に悪いものを、平気で売って利益を
上げる大企業に対する怒りや不満は理解できるが、「じゃあどうすればいいの?」
買ってはいけないと槍玉になった商品を買わないという選択しか読者には提示され
ておらず、それでは消費者は置き去りにされるだけだ。
『脳内汚染』に至っては、テレビ、ゲーム、パソコン(インターネット)を利用すれ
ばするほどこの世は恐ろしいことになっていく、という不安を煽りに煽り、あまり
にもその語り口が大袈裟で、矢追純一のUFO番組を観ているかのような気分になって
くる(例えが古過ぎ、笑)。もちろん、書いてある内容の多くは納得できるもので
あったことは間違いないのだけれど・・。
これらの本と『食品の裏側』の異なる点は、告発の元になる食品添加物をただの
悪役にせず、その利点も明らかにしながら消費者が取るべき態度にまで言及してい
ることだ。食品添加物は便利で安価な商品であり、今更これなくして食生活を営も
うと思えば無人島にでも行くしかない、と著者自身も認めている。その上で、添加
物を複合摂取する場合の安全性や味覚の麻痺などの問題、食育の重要性などの観点
から「食品添加物とどう付き合うか」を読者に語りかけてくる。
「どうしてこんなに安くできるのか、どうしていつまでも腐らないのか。疑問に思っ
てみませんか?」と。
本書に「ドレッシングくらい手作りしましょう」という一文がある。これは効い
た、かなり痛い。恥ずかしながら、ドレッシングを作ったことがない。ほとんど
毎週末ファーストフードに行っているし、おやつも手作りしない。ダメダメな私で
ある。実際「ドレッシングくらい、買わせてよ(安いし)」というのが多数派の本音
ではないだろうか?しかし本書を読んで「手間をとるか、添加物をとるか」と問わ
れれば、少なくとも「一回作ってみるか」と思わずにいられないだろう。
飽食の時代であればこそ、「安く買えるのがいい」という価値観や、便利で手早く
食事が作れる食材を求める傾向を根本から考え直すべき時期にあるのかもしれない。
食べ物を安価に手早く得られた反面、我々が失いつつあるものは何なのか?
一読の価値ある本だ。
(『食品の裏側:みんな大好きな食品添加物』安部司・著/東洋経済新報社/2005)
るし、ファミレスやファーストフードも日常生活の一部だ。主婦向けの雑誌には
『食費をいかに削るか』が特集され、食品は底値で買うのが賢い主婦の務めだと
喧伝されている。
そんな世の中に「待った」をかける本書。食品添加物商社のトップセールスマン
だった著者は、業界のまさに「裏側」から、溢れかえる「加工食品」と「食の崩壊」
に警鐘を鳴らす。
告発本といえば、『買ってはいけない』シリーズや、最近では『脳内汚染』など
が記憶に新しい。思えば、『買ってはいけない』を読了後は何ともいえない不安で
頭がいっぱいになった記憶がある。人間の身体に悪いものを、平気で売って利益を
上げる大企業に対する怒りや不満は理解できるが、「じゃあどうすればいいの?」
買ってはいけないと槍玉になった商品を買わないという選択しか読者には提示され
ておらず、それでは消費者は置き去りにされるだけだ。
『脳内汚染』に至っては、テレビ、ゲーム、パソコン(インターネット)を利用すれ
ばするほどこの世は恐ろしいことになっていく、という不安を煽りに煽り、あまり
にもその語り口が大袈裟で、矢追純一のUFO番組を観ているかのような気分になって
くる(例えが古過ぎ、笑)。もちろん、書いてある内容の多くは納得できるもので
あったことは間違いないのだけれど・・。
これらの本と『食品の裏側』の異なる点は、告発の元になる食品添加物をただの
悪役にせず、その利点も明らかにしながら消費者が取るべき態度にまで言及してい
ることだ。食品添加物は便利で安価な商品であり、今更これなくして食生活を営も
うと思えば無人島にでも行くしかない、と著者自身も認めている。その上で、添加
物を複合摂取する場合の安全性や味覚の麻痺などの問題、食育の重要性などの観点
から「食品添加物とどう付き合うか」を読者に語りかけてくる。
「どうしてこんなに安くできるのか、どうしていつまでも腐らないのか。疑問に思っ
てみませんか?」と。
本書に「ドレッシングくらい手作りしましょう」という一文がある。これは効い
た、かなり痛い。恥ずかしながら、ドレッシングを作ったことがない。ほとんど
毎週末ファーストフードに行っているし、おやつも手作りしない。ダメダメな私で
ある。実際「ドレッシングくらい、買わせてよ(安いし)」というのが多数派の本音
ではないだろうか?しかし本書を読んで「手間をとるか、添加物をとるか」と問わ
れれば、少なくとも「一回作ってみるか」と思わずにいられないだろう。
飽食の時代であればこそ、「安く買えるのがいい」という価値観や、便利で手早く
食事が作れる食材を求める傾向を根本から考え直すべき時期にあるのかもしれない。
食べ物を安価に手早く得られた反面、我々が失いつつあるものは何なのか?
一読の価値ある本だ。
(『食品の裏側:みんな大好きな食品添加物』安部司・著/東洋経済新報社/2005)
予習!復習!準備OK?~『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』
夏休みも目前、大作の上映が続々と始まっている。ピクサーの『カーズ』、人気
シリーズ『M:I:Ⅲ』、33年ぶりのリメイク『日本沈没』。今後もジブリの新作『ゲド
戦記』、そして三年前の夏に公開され、世界的に大ヒットした『パイレーツ・オブ・
カリビアン/呪われた海賊たち』の続編『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ
・チェスト』も先行上映が始まっている。本国アメリカでは興行新記録を打ち立てる
人気ぶりだそうで、未見の前作を「予習」することにした。観に行けるかどうかは
微妙なんですけど・・。
ストーリーは至ってシンプル。時は18世紀、カリブ海の港町ポートロイヤル。ブラック
パール号の船長バルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)ら、呪いをかけられた海賊たちは、
呪いを解くための鍵である失われたメダルを奪い返そうとしていた。そこにバルボッサ
に裏切られた孤高の一匹狼ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)、海賊の血を引く
若者ウィル・ターナー(オーランド・ブルーム)、彼に惹かれている総督の娘エリザベス
(キーラ・ナイトレイ)らが絡む冒険活劇だ。TDLのアトラクション『カリブの海賊』が
下敷きになっているらしい。
今回、コレクターズ・エディションをお借りして鑑賞したが、これ某アマゾンでは
¥1,120ポッキリで入手可能、安い!コメンタリは収録されていないが、NG集や撮影
風景など、2枚組みでこの値段は相当お買い得だと思う。何より本編が面白いから。
TDLにはもう何年も行けてないし、『カリブの海賊』にも長年乗っていないけれど、
あの雰囲気は十分過ぎるほど再現されている。これでもかと製作費をかけ、細部に
までとことんこだわり、これだけの作品を作って世界的大ヒットに導くジェリー・
ブラッカイマーというプロデューサーの手腕はさすが。もちろん、出演者も皆役に
はまっている。飄々というかヘロヘロ、フラフラの怪演を魅せるジョニー・デップ、
本作で初のオスカーノミネートも納得。オルタナ傾向だった彼が家庭を持ち、大作
志向になってしまったのか?と思っていたけれど、芸達者ぶりは相変わらず。芸術家
が娯楽大作に出たっていいではないか。若手男前俳優代表・オーリー、若手美人女優
代表・キーラともに頑張っていて、絵になる美男美女カップルに溜め息が出そう。
オーリーってほんっと顔が小さいなぁ・・。ラストのマントと帽子は素敵すぎる。
今回ジョニーの見かけが「汚い」ため、実際以上にオーリーが美しく見えていると
思う。キーラはやっぱり、目元以外はウィノナ・ライダーを彷彿させて、私は彼女を
観るとちょっとおセンチモードが入ってしまう。ジョニー・デップは彼女をどう思っ
ていたのだろう??
ブラックパール号をはじめとするセットや18世紀の衣装、メイクなども凝っている
し、何より骸骨となる海賊たちのCGがすごい。これは一見の価値あり。と言うか、
特典映像を観るまでここがCGだということに全く気付かなかった。ここまで自然に
見せるVFX技術に驚愕、三年前でこれなら、今ではさらに進歩しているのだろう。
『デッドマンズ・チェスト』、さてどんな冒険で、私たちをどこへ連れて行ってくれ
るのか?楽しみです。
(『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』監督:ゴア・ヴァービンスキー
/主演:ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム/2003・USA)
シリーズ『M:I:Ⅲ』、33年ぶりのリメイク『日本沈没』。今後もジブリの新作『ゲド
戦記』、そして三年前の夏に公開され、世界的に大ヒットした『パイレーツ・オブ・
カリビアン/呪われた海賊たち』の続編『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ
・チェスト』も先行上映が始まっている。本国アメリカでは興行新記録を打ち立てる
人気ぶりだそうで、未見の前作を「予習」することにした。観に行けるかどうかは
微妙なんですけど・・。
ストーリーは至ってシンプル。時は18世紀、カリブ海の港町ポートロイヤル。ブラック
パール号の船長バルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)ら、呪いをかけられた海賊たちは、
呪いを解くための鍵である失われたメダルを奪い返そうとしていた。そこにバルボッサ
に裏切られた孤高の一匹狼ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)、海賊の血を引く
若者ウィル・ターナー(オーランド・ブルーム)、彼に惹かれている総督の娘エリザベス
(キーラ・ナイトレイ)らが絡む冒険活劇だ。TDLのアトラクション『カリブの海賊』が
下敷きになっているらしい。
今回、コレクターズ・エディションをお借りして鑑賞したが、これ某アマゾンでは
¥1,120ポッキリで入手可能、安い!コメンタリは収録されていないが、NG集や撮影
風景など、2枚組みでこの値段は相当お買い得だと思う。何より本編が面白いから。
TDLにはもう何年も行けてないし、『カリブの海賊』にも長年乗っていないけれど、
あの雰囲気は十分過ぎるほど再現されている。これでもかと製作費をかけ、細部に
までとことんこだわり、これだけの作品を作って世界的大ヒットに導くジェリー・
ブラッカイマーというプロデューサーの手腕はさすが。もちろん、出演者も皆役に
はまっている。飄々というかヘロヘロ、フラフラの怪演を魅せるジョニー・デップ、
本作で初のオスカーノミネートも納得。オルタナ傾向だった彼が家庭を持ち、大作
志向になってしまったのか?と思っていたけれど、芸達者ぶりは相変わらず。芸術家
が娯楽大作に出たっていいではないか。若手男前俳優代表・オーリー、若手美人女優
代表・キーラともに頑張っていて、絵になる美男美女カップルに溜め息が出そう。
オーリーってほんっと顔が小さいなぁ・・。ラストのマントと帽子は素敵すぎる。
今回ジョニーの見かけが「汚い」ため、実際以上にオーリーが美しく見えていると
思う。キーラはやっぱり、目元以外はウィノナ・ライダーを彷彿させて、私は彼女を
観るとちょっとおセンチモードが入ってしまう。ジョニー・デップは彼女をどう思っ
ていたのだろう??
ブラックパール号をはじめとするセットや18世紀の衣装、メイクなども凝っている
し、何より骸骨となる海賊たちのCGがすごい。これは一見の価値あり。と言うか、
特典映像を観るまでここがCGだということに全く気付かなかった。ここまで自然に
見せるVFX技術に驚愕、三年前でこれなら、今ではさらに進歩しているのだろう。
『デッドマンズ・チェスト』、さてどんな冒険で、私たちをどこへ連れて行ってくれ
るのか?楽しみです。
(『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』監督:ゴア・ヴァービンスキー
/主演:ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム/2003・USA)
テーマ : パイレーツ・オブ・カリビアン
ジャンル : 映画
Go!Go!トム・クルーズ~『M:I:Ⅲ』
「トム・クルーズの、トム・クルーズによる、トム・クルーズのための」M:Iシリーズ
第三弾。私はぶっちゃけ、このシリーズ大好きなのでウキウキしながら鑑賞。だって
掛け値なしに「面白い!」から。今回も魅せてくれました。
監督が降板したり、トムがソファで飛び跳ねたり、トムとケイティ・ホームズの
間にお嬢さんが産まれちゃったりと公開前から何かと話題をふりまいていた本作。
本国アメリカでは期待されたほど興行成績が伸びなかったという。ハラハラドキ
ドキ、ドッカンドンパチ、こんなに面白いにもかかわらず。トムの「奇行」のせい
で映画館から「引いた」アメリカの皆さん、それはそれ、映画は映画で楽しみまし
ょう、損はさせませんよ~!・・・と私が呼びかけても仕方ないのであるが。。
映画の感想を書くとき、「ネタバレ」に関してほとんど配慮しない拙ブログである
が(いつもすみません)、本作ほど「バラすネタが無い」作品も珍しいかもしれない。
「イーサン・ハントの人間性を描いた」とか「チームワークの原点に帰った」とか喧伝
されているけれど、そこは言われているほどの新鮮味はない。見所はやはりトム・クル
ーズの身体を張ったアクション、諜報員たちの技術や作戦、悪役との対決場面などなど
アクション大作の「お約束」的側面だろう。
もちろん突っ込みどころも多い。"ラビットフット"って一体何?あの『ダ・ヴィンチ
・コード』で登場したクリプテックスみたいな物体は何やったん?結局デイヴィアン
(鳴り物入りのオスカー俳優フィリップ・シーモア・ホフマン)って何者?性格の
超悪い、ただの嫌なヤツにしか見えない。一般人のはずのイーサンの妻ジュリア
(ミシェル・モナハン)が、銃の扱い方が上手すぎ、ラストで「実は私もIMFの諜報員
なの♪」っていうオチなのかと思ったけど違うし。イーサンのあまりの超人ぶり(並み
の諜報員なら5、6回は死んでいるだろう、1回ちょっと死んだけど)に、これは予告で
観た『スーパーマン・リターンズ』か?と思ったり。それでもスピーディな展開と
テンポの良さで、ドイツ、ローマ、上海と世界を巡る映像に目が離せないまま、2時間
余りをノンストップで駆け抜けてみせる作劇はさすが。娯楽大作はこれでいいんです!
「チーム・イーサン」の面々、ジョナサン・リース・マイヤース、ヴィング・レイムス
らもすごくいい。特に女スパイを演じたマギー・Qのカッコイイこと!顔は伊東ゆかり
だけど。
今や「お騒がせ男」トム・クルーズだが、そのプロ根性は絶賛モノ。長きに渡って
ハリウッド・スターとして君臨し続け、俳優としてだけでなく、プロデューサーとし
てもコンスタントに良作を生み出し続けているそのパワー、サービス精神はもっと
評価されてもいいと思う。私はオススメします、この作品。そしてこのエントリは
読了された5秒後、自動的に消滅する(嘘)。
(『M:I:Ⅲ』監督:J.J.エイブラムス/主演:トム・クルーズ、
フィリップ・シーモア・ホフマン/2006・USA
第三弾。私はぶっちゃけ、このシリーズ大好きなのでウキウキしながら鑑賞。だって
掛け値なしに「面白い!」から。今回も魅せてくれました。
監督が降板したり、トムがソファで飛び跳ねたり、トムとケイティ・ホームズの
間にお嬢さんが産まれちゃったりと公開前から何かと話題をふりまいていた本作。
本国アメリカでは期待されたほど興行成績が伸びなかったという。ハラハラドキ
ドキ、ドッカンドンパチ、こんなに面白いにもかかわらず。トムの「奇行」のせい
で映画館から「引いた」アメリカの皆さん、それはそれ、映画は映画で楽しみまし
ょう、損はさせませんよ~!・・・と私が呼びかけても仕方ないのであるが。。
映画の感想を書くとき、「ネタバレ」に関してほとんど配慮しない拙ブログである
が(いつもすみません)、本作ほど「バラすネタが無い」作品も珍しいかもしれない。
「イーサン・ハントの人間性を描いた」とか「チームワークの原点に帰った」とか喧伝
されているけれど、そこは言われているほどの新鮮味はない。見所はやはりトム・クル
ーズの身体を張ったアクション、諜報員たちの技術や作戦、悪役との対決場面などなど
アクション大作の「お約束」的側面だろう。
もちろん突っ込みどころも多い。"ラビットフット"って一体何?あの『ダ・ヴィンチ
・コード』で登場したクリプテックスみたいな物体は何やったん?結局デイヴィアン
(鳴り物入りのオスカー俳優フィリップ・シーモア・ホフマン)って何者?性格の
超悪い、ただの嫌なヤツにしか見えない。一般人のはずのイーサンの妻ジュリア
(ミシェル・モナハン)が、銃の扱い方が上手すぎ、ラストで「実は私もIMFの諜報員
なの♪」っていうオチなのかと思ったけど違うし。イーサンのあまりの超人ぶり(並み
の諜報員なら5、6回は死んでいるだろう、1回ちょっと死んだけど)に、これは予告で
観た『スーパーマン・リターンズ』か?と思ったり。それでもスピーディな展開と
テンポの良さで、ドイツ、ローマ、上海と世界を巡る映像に目が離せないまま、2時間
余りをノンストップで駆け抜けてみせる作劇はさすが。娯楽大作はこれでいいんです!
「チーム・イーサン」の面々、ジョナサン・リース・マイヤース、ヴィング・レイムス
らもすごくいい。特に女スパイを演じたマギー・Qのカッコイイこと!顔は伊東ゆかり
だけど。
今や「お騒がせ男」トム・クルーズだが、そのプロ根性は絶賛モノ。長きに渡って
ハリウッド・スターとして君臨し続け、俳優としてだけでなく、プロデューサーとし
てもコンスタントに良作を生み出し続けているそのパワー、サービス精神はもっと
評価されてもいいと思う。私はオススメします、この作品。そしてこのエントリは
読了された5秒後、自動的に消滅する(嘘)。
(『M:I:Ⅲ』監督:J.J.エイブラムス/主演:トム・クルーズ、
フィリップ・シーモア・ホフマン/2006・USA
テーマ : M:i:III(ミッション・ インポッシブルIII)
ジャンル : 映画
"eros"アジアの華~『愛の神、エロス』
イタリアの映画作家ミケランジェロ・アントニオーニの発案による、エロスを巡る
オムニバス。いづれもカンヌ映画祭受賞者である監督らによるこの作品は、トリロジー
という形をとってはいるがそれぞれ独立した短編である。
大ファンである王家衛ウォン・カーウァイも参加していることで、前々から観たい
と思いつつ、やっと鑑賞。彼のパート「エロスの純愛・若き仕立て屋の恋」(原題は
The Hand「手」)は、期待を裏切らない素晴らしい出来ばえだった。
1960年代の香港、高級娼婦ホア(鞏俐コン・リー)のもとに通う若き仕立て屋チャン
(張震チャン・チェン)。出逢ったその日にチャンを虜にするホア。「女を知らない
手ね」「ズボンを脱ぎなさい」・・・。
それからの長い年月、チャンはホアの服を仕立て続け、一人前の仕立て屋に成長
する。対してホアはパトロンに去られ、街娼として身を立てる日々。彼女の住む宿
に毎月の家賃を払い、報われることのない愛を静かに抱えて生きるチャン・・・。
とにかく、映像の美しさ、とりわけ鞏俐コン・リーの美しさが圧巻。彼女はどちら
かと言うと地味な容姿の持ち主だと思っていたのだが、豊かな黒髪、白い肌、紅い
唇とネイルがなんとも妖艶。同じ王家衛ウォン・カーウァイ監督の『2046』(鞏俐コン・
リーも出演している)で、章子怡チャン・ツィイーも同じようなメイクで同じような
高級娼婦を演じていたが、もう「小娘と大女優」くらいの差がある。鞏俐コン・リーの
圧勝。仕立て屋チャンを演じた張震チャン・チェンも、すっかり大人の魅力を湛えて
アジアを代表する俳優に成長していると思う。彼も『2046』に出演していて、少し顔が
変わったな、という印象を持ったのを憶えているが、この作品の影響があったのかも
しれない。
そしてこの作品から受けた一番の印象は、王家衛ウォン・カーウァイが実は物凄く
真面目で誠実なひとなのだな、ということだったりする。このプロジェクトのオファー
を受けたとき、彼は大作『2046』の撮影中だったという。SARS渦やレスリーの死、限られ
た撮影期間などという困難にもめげず、ミケランジェロ・アントニオーニという敬愛
する作家に捧げるべく、一片の妥協も無く本作を撮り切っているのが画面からビリビリ
と感じられる。それはスティーヴン・ソダーバーグ編の「エロスの悪戯・ペンローズの悩み」
が、とても「軽い」ノリで撮られていると感じられるのと対照的だ。
ミケランジェロ・アントニオーニ編の「エロスの誘惑・危険な道筋」では、女たちが
惜しげもなく一糸まとわぬ姿になったり、絡みの描写も多いが全くエロスは感じなか
った。ストレートな性描写よりも、ストイックな情感の表現に官能を感じるのは、や
はり東洋的な感性だと言えるだろう。
胸を病み、全てを喪ったホアに仕立てたドレスを届けるチャン。「尽くしてくれたのに
何も返せなかった」と悔やむホアが、唯一残った「手」でチャンに快楽を与えようとする。
唇を求めるチャンをその「手」で圧しとどめるホア。二人の間に流れた年月、出逢いから
この日まで、喪ったもの、求め続けたもの、後悔、懺悔、全ての感情が溢れるような
二人の演技に、いつの間にか涙がはらはらと流れていた。こんなふうに、頭で考える
ことなく、身体が心より先に反応する作品はめったにないと思う。
エンドロールで劉嘉玲カリーナ・ラウに謝辞が贈られているのが気になった。鞏俐
コン・リーのスタンド・インだったのか? ともかく、短編で終るのは惜しい、約2時間、
たっぷりとこの「エロスの純愛」を堪能したかったと思わせる作品。やっぱりさすが、
王家衛ウォン・カーウァイ。彼の新作が待ち遠しい。
(『愛の神、エロス』「エロスの純愛・若き仕立て屋の恋」監督:王家衛ウォン・カーウァイ
/主演:鞏俐コン・リー、張震チャン・チェン
「エロスの悪戯・ペンローズの悩み」監督:スティーヴン・ソダーバーグ
/主演:ロバート・ダウニーJr.、アラン・アーキン
「エロスの誘惑・危険な道筋」監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
/主演:クリストファー・ブッフホルツ、レジーナ・ネムニ
/2004・香港・米・伊)
オムニバス。いづれもカンヌ映画祭受賞者である監督らによるこの作品は、トリロジー
という形をとってはいるがそれぞれ独立した短編である。
大ファンである王家衛ウォン・カーウァイも参加していることで、前々から観たい
と思いつつ、やっと鑑賞。彼のパート「エロスの純愛・若き仕立て屋の恋」(原題は
The Hand「手」)は、期待を裏切らない素晴らしい出来ばえだった。
1960年代の香港、高級娼婦ホア(鞏俐コン・リー)のもとに通う若き仕立て屋チャン
(張震チャン・チェン)。出逢ったその日にチャンを虜にするホア。「女を知らない
手ね」「ズボンを脱ぎなさい」・・・。
それからの長い年月、チャンはホアの服を仕立て続け、一人前の仕立て屋に成長
する。対してホアはパトロンに去られ、街娼として身を立てる日々。彼女の住む宿
に毎月の家賃を払い、報われることのない愛を静かに抱えて生きるチャン・・・。
とにかく、映像の美しさ、とりわけ鞏俐コン・リーの美しさが圧巻。彼女はどちら
かと言うと地味な容姿の持ち主だと思っていたのだが、豊かな黒髪、白い肌、紅い
唇とネイルがなんとも妖艶。同じ王家衛ウォン・カーウァイ監督の『2046』(鞏俐コン・
リーも出演している)で、章子怡チャン・ツィイーも同じようなメイクで同じような
高級娼婦を演じていたが、もう「小娘と大女優」くらいの差がある。鞏俐コン・リーの
圧勝。仕立て屋チャンを演じた張震チャン・チェンも、すっかり大人の魅力を湛えて
アジアを代表する俳優に成長していると思う。彼も『2046』に出演していて、少し顔が
変わったな、という印象を持ったのを憶えているが、この作品の影響があったのかも
しれない。
そしてこの作品から受けた一番の印象は、王家衛ウォン・カーウァイが実は物凄く
真面目で誠実なひとなのだな、ということだったりする。このプロジェクトのオファー
を受けたとき、彼は大作『2046』の撮影中だったという。SARS渦やレスリーの死、限られ
た撮影期間などという困難にもめげず、ミケランジェロ・アントニオーニという敬愛
する作家に捧げるべく、一片の妥協も無く本作を撮り切っているのが画面からビリビリ
と感じられる。それはスティーヴン・ソダーバーグ編の「エロスの悪戯・ペンローズの悩み」
が、とても「軽い」ノリで撮られていると感じられるのと対照的だ。
ミケランジェロ・アントニオーニ編の「エロスの誘惑・危険な道筋」では、女たちが
惜しげもなく一糸まとわぬ姿になったり、絡みの描写も多いが全くエロスは感じなか
った。ストレートな性描写よりも、ストイックな情感の表現に官能を感じるのは、や
はり東洋的な感性だと言えるだろう。
胸を病み、全てを喪ったホアに仕立てたドレスを届けるチャン。「尽くしてくれたのに
何も返せなかった」と悔やむホアが、唯一残った「手」でチャンに快楽を与えようとする。
唇を求めるチャンをその「手」で圧しとどめるホア。二人の間に流れた年月、出逢いから
この日まで、喪ったもの、求め続けたもの、後悔、懺悔、全ての感情が溢れるような
二人の演技に、いつの間にか涙がはらはらと流れていた。こんなふうに、頭で考える
ことなく、身体が心より先に反応する作品はめったにないと思う。
エンドロールで劉嘉玲カリーナ・ラウに謝辞が贈られているのが気になった。鞏俐
コン・リーのスタンド・インだったのか? ともかく、短編で終るのは惜しい、約2時間、
たっぷりとこの「エロスの純愛」を堪能したかったと思わせる作品。やっぱりさすが、
王家衛ウォン・カーウァイ。彼の新作が待ち遠しい。
(『愛の神、エロス』「エロスの純愛・若き仕立て屋の恋」監督:王家衛ウォン・カーウァイ
/主演:鞏俐コン・リー、張震チャン・チェン
「エロスの悪戯・ペンローズの悩み」監督:スティーヴン・ソダーバーグ
/主演:ロバート・ダウニーJr.、アラン・アーキン
「エロスの誘惑・危険な道筋」監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
/主演:クリストファー・ブッフホルツ、レジーナ・ネムニ
/2004・香港・米・伊)
ヒースってジャニーズ系だったの?!~『ロック・ユー!』
BBMでヒースを知っても、出演作にはどうも興味が湧かなかった。時代劇は
和洋問わず苦手だし、コスプレにも無関心。しかし皆さんのオススメと、『ダ・
ヴィンチ・コード』で俄然、注目のポール・ベタニーも御出演、ということで観
てみることにしたら・・。こ、これはビックリ、何て面白い作品なんだ!
舞台は14世紀、中世ヨーロッパ。貴族しか出場できない馬上槍試合に、突然亡
くなった主人の身代わりに出場し、優勝する平民ウィリアム(ヒース・レジャー)。
従者仲間や自称文筆家ジョフリー・チョーサー(ポール・ベタニー)、女鍛冶屋ら
とともに故郷ロンドンで行われる世界選手権を目指すが、ライバルによって出自
を暴かれ、処刑される運命に・・。貴族の姫君との恋、仲間との友情、ライバル
との対決などなど、ストーリーは王道を行くアクション活劇だ。
BBMでもヒースのカッコよさは十分伝わってきたし、『カサノバ』でも堪能した。
それでもこの作品のヒース、撮影当時21歳だったらしいけど若い!輝いている。
「踊れないんだ」と言いつつ踏むステップの軽やかさ、会えない姫君の返事のキス
に「Yes!Yes!」と大喜びする無邪気さ。誰もが逃げろと言っても決して逃げない、
その真っ直ぐな瞳。この「アイドル」そのものの彼が数年後、ワイオミングの片隅で
トレーラーハウスに住み、若さと愛を喪った孤独なカウボーイを演じ切るとは
一体誰が予想できただろう?インタビュアーたちが「ヒースとジェイクは今まで
演じた役柄とは正反対のキャスティングですけど・・」と口を揃えて質問していた
意味がようやくわかった、誰もが疑問に思うはず。アン・リーはやっぱり凄い。
一番感動したのは、さらし台に繋がれたウィリアムを群衆から守ろうとする
「チーム・ウィリアム」の姿。紅一点の女鍛冶屋さんが綺麗な人なのに、彼女が
最後まで(エンドロールの最後まで!)仲間の一人であり、ありがちな「チーム内
恋愛」にならないところもよかった。そして特に口上師ジョフリーを演じたポール・
ベタニー。彼はちょっと不思議な存在感で、スティーブ・ブシェーミほど「ヘン」
でもなく、巧いけれど主役より出過ぎることもなく、素晴らしい役者さんだな、
と今更ながら感心する。
敢えて難癖をつけるとしたら、邦題と似非アンジーみたいな姫君。原題の『A
Knight's tale(ある騎士のお伽話)』がいいし、「運命を自分で変える」っていう
ウィリアムの座右の銘(?)もよかったので、何とか活かして欲しかった。
姫君には魅力が感じられなくて、ファンタジー度が10ポイントくらい低下して
る気がする。それでも本当に面白かった、楽しめました。予定調和的なハッピー
エンドだけど、それでいいんです!と言い切ってしまおう。ああ、もっと早く
観たかったな~。
(『ロック・ユー!』監督:ブライアン・ヘルゲランド/
主演:ヒース・レジャー、ポール・ベタニー/2001・USA)
和洋問わず苦手だし、コスプレにも無関心。しかし皆さんのオススメと、『ダ・
ヴィンチ・コード』で俄然、注目のポール・ベタニーも御出演、ということで観
てみることにしたら・・。こ、これはビックリ、何て面白い作品なんだ!
舞台は14世紀、中世ヨーロッパ。貴族しか出場できない馬上槍試合に、突然亡
くなった主人の身代わりに出場し、優勝する平民ウィリアム(ヒース・レジャー)。
従者仲間や自称文筆家ジョフリー・チョーサー(ポール・ベタニー)、女鍛冶屋ら
とともに故郷ロンドンで行われる世界選手権を目指すが、ライバルによって出自
を暴かれ、処刑される運命に・・。貴族の姫君との恋、仲間との友情、ライバル
との対決などなど、ストーリーは王道を行くアクション活劇だ。
BBMでもヒースのカッコよさは十分伝わってきたし、『カサノバ』でも堪能した。
それでもこの作品のヒース、撮影当時21歳だったらしいけど若い!輝いている。
「踊れないんだ」と言いつつ踏むステップの軽やかさ、会えない姫君の返事のキス
に「Yes!Yes!」と大喜びする無邪気さ。誰もが逃げろと言っても決して逃げない、
その真っ直ぐな瞳。この「アイドル」そのものの彼が数年後、ワイオミングの片隅で
トレーラーハウスに住み、若さと愛を喪った孤独なカウボーイを演じ切るとは
一体誰が予想できただろう?インタビュアーたちが「ヒースとジェイクは今まで
演じた役柄とは正反対のキャスティングですけど・・」と口を揃えて質問していた
意味がようやくわかった、誰もが疑問に思うはず。アン・リーはやっぱり凄い。
一番感動したのは、さらし台に繋がれたウィリアムを群衆から守ろうとする
「チーム・ウィリアム」の姿。紅一点の女鍛冶屋さんが綺麗な人なのに、彼女が
最後まで(エンドロールの最後まで!)仲間の一人であり、ありがちな「チーム内
恋愛」にならないところもよかった。そして特に口上師ジョフリーを演じたポール・
ベタニー。彼はちょっと不思議な存在感で、スティーブ・ブシェーミほど「ヘン」
でもなく、巧いけれど主役より出過ぎることもなく、素晴らしい役者さんだな、
と今更ながら感心する。
敢えて難癖をつけるとしたら、邦題と似非アンジーみたいな姫君。原題の『A
Knight's tale(ある騎士のお伽話)』がいいし、「運命を自分で変える」っていう
ウィリアムの座右の銘(?)もよかったので、何とか活かして欲しかった。
姫君には魅力が感じられなくて、ファンタジー度が10ポイントくらい低下して
る気がする。それでも本当に面白かった、楽しめました。予定調和的なハッピー
エンドだけど、それでいいんです!と言い切ってしまおう。ああ、もっと早く
観たかったな~。
(『ロック・ユー!』監督:ブライアン・ヘルゲランド/
主演:ヒース・レジャー、ポール・ベタニー/2001・USA)
ミルクか、レモンか?私の場合~『ダ・ヴィンチ・コード』
芸術方面、宗教方面、ミステリー方面全てに疎いので、縁遠いなと感じていた
本作。それでも原作(ダン・ブラウン著、角川文庫)をやっとの思いで読了し、
勢いで映画館に向かう。どうせなら観ておこうか、というノリで。
映画になっていない(そこまで言うか!)、30分でついていけなくなる、などなど
酷評も聞いていたし、トンデモ作品なのかもしれないと思っていたが、そこはさ
すがにロン・ハワード監督、力技で超特急をなんとか脱線させずにゴールしてい
る感じだ。
ルーブルで撮影した、というのが目玉の一つだったから、名画の数々を観られ
るのかな、という期待だけはして行ったのだが、これは期待外れ。セリフと字幕
も多過ぎると思った。吹替えで観たほうが、内容をより理解できるのかもしれない。
2時間半という時間でよくまとめたな、とも思うし、退屈はしなかったけれど、
原作のエピソードを詰め込み過ぎて消化不良を起こしている感は否めない。では
どこを削ったらよかったのか?と言われても困るけれど・・。
映画化のニュース、キャストも知ったうえで原作を読んでいたので、主演の二人
に違和感はなかった。しかしオスカーを2度も手中にしている名優、トム・ハンクス
はやっぱり「ロバート・ラングドンを演じている」トム・ハンクスで、『グリーンマイル』
のときに母が彼につけたキャッチ「トム・ハンクス、相変わらず上手いやら下手やら
わかりません」これを思い出して苦笑する。ソフィーを演じたオドレイ・トトゥは、
あのキュートな『アメリ』とは思えない知的な雰囲気と美しく細い脚を見せてくれ
てはいたが、キャラクターに深みが感じられなかった。フランス司法警察暗号解読官
という役どころにも関わらず、フィボナッチ数列を見つける以外は何もしていない
(シラスを殴る以外)。「ミスキャスト」と言うほどではないけれど、この二人にケミ
ストリーは無い。そして一番ハマリ役で、印象的だったオプス・デイの修行僧シラス
(ポール・ベタニー、熱演)。彼とアリンガローサ司教(アルフレッド・モリーナ)、
ソフィーと祖父ジャック・ソニエールの関係をもう少し丹念に描いていたなら、少
なくともカンヌでの失笑は起こらなかったのではないだろうか。ジャン・レノの
ファース警部といい、豪華キャストがもったいない。
気になったのは、原作で「シオン修道会」「シラス」と表記されているところが
「サイオン修道会」「サイラス」と聴こえたところ。字幕でも「シオン」「シラス」
となっていた。「ジェイク・ギレンホール」にしてもそうだけど、どうして発音通り
「ジェイク・ジレンホール」と表記しないのか?カタカナ表記が悪いのか。
いづれにしろ、原作は未読で鑑賞するほうが、純粋に娯楽作品として楽しめたのか
もしれない。
そして最後にサー・リー・ティービング(イアン・マッケラン)に一言。アール
グレイはストレートでお願いします。
(『ダ・ヴィンチ・コード』監督:ロン・ハワード/
主演:トム・ハンクス、オドレイ・トトゥ/2006・USA)
本作。それでも原作(ダン・ブラウン著、角川文庫)をやっとの思いで読了し、
勢いで映画館に向かう。どうせなら観ておこうか、というノリで。
映画になっていない(そこまで言うか!)、30分でついていけなくなる、などなど
酷評も聞いていたし、トンデモ作品なのかもしれないと思っていたが、そこはさ
すがにロン・ハワード監督、力技で超特急をなんとか脱線させずにゴールしてい
る感じだ。
ルーブルで撮影した、というのが目玉の一つだったから、名画の数々を観られ
るのかな、という期待だけはして行ったのだが、これは期待外れ。セリフと字幕
も多過ぎると思った。吹替えで観たほうが、内容をより理解できるのかもしれない。
2時間半という時間でよくまとめたな、とも思うし、退屈はしなかったけれど、
原作のエピソードを詰め込み過ぎて消化不良を起こしている感は否めない。では
どこを削ったらよかったのか?と言われても困るけれど・・。
映画化のニュース、キャストも知ったうえで原作を読んでいたので、主演の二人
に違和感はなかった。しかしオスカーを2度も手中にしている名優、トム・ハンクス
はやっぱり「ロバート・ラングドンを演じている」トム・ハンクスで、『グリーンマイル』
のときに母が彼につけたキャッチ「トム・ハンクス、相変わらず上手いやら下手やら
わかりません」これを思い出して苦笑する。ソフィーを演じたオドレイ・トトゥは、
あのキュートな『アメリ』とは思えない知的な雰囲気と美しく細い脚を見せてくれ
てはいたが、キャラクターに深みが感じられなかった。フランス司法警察暗号解読官
という役どころにも関わらず、フィボナッチ数列を見つける以外は何もしていない
(シラスを殴る以外)。「ミスキャスト」と言うほどではないけれど、この二人にケミ
ストリーは無い。そして一番ハマリ役で、印象的だったオプス・デイの修行僧シラス
(ポール・ベタニー、熱演)。彼とアリンガローサ司教(アルフレッド・モリーナ)、
ソフィーと祖父ジャック・ソニエールの関係をもう少し丹念に描いていたなら、少
なくともカンヌでの失笑は起こらなかったのではないだろうか。ジャン・レノの
ファース警部といい、豪華キャストがもったいない。
気になったのは、原作で「シオン修道会」「シラス」と表記されているところが
「サイオン修道会」「サイラス」と聴こえたところ。字幕でも「シオン」「シラス」
となっていた。「ジェイク・ギレンホール」にしてもそうだけど、どうして発音通り
「ジェイク・ジレンホール」と表記しないのか?カタカナ表記が悪いのか。
いづれにしろ、原作は未読で鑑賞するほうが、純粋に娯楽作品として楽しめたのか
もしれない。
そして最後にサー・リー・ティービング(イアン・マッケラン)に一言。アール
グレイはストレートでお願いします。
(『ダ・ヴィンチ・コード』監督:ロン・ハワード/
主演:トム・ハンクス、オドレイ・トトゥ/2006・USA)
テーマ : ダ・ヴィンチ・コード
ジャンル : 映画
真紅、内田先生に会いに行く~『態度が悪くてすみません-内なる「他者」との出会い』
某日、大ファンである内田樹先生の講演に行ってきた。JR京都駅近くの某所。
久しぶりに京都まで電車で行った(前回いつ行ったか思い出せない)けれど、すご
いことになってる、京都駅。シャルル・ド・ゴールみたい(全然違)。バックパ
ッカーの外国人観光客と修学旅行生がたくさん、さすが京都。今回はとんぼ帰り
だったけれど、いつかゆっくり歩きたいなあ。もちろん、涼しくなってから。
今回の講演のチケットは、僅か三分でソールド・アウトだったらしい。メール
での申し込みのみ受付で、勿論私もNTTの時報と同時にメール送信した。運よく
チケットをGETできたけれど、キャンセル待ちも相当数あったらしい。
会場で受付をしていると、なな、なんとアコガレの内田先生がいらっしゃった
ではないか!一瞬にしてミーハー根性炸裂、「ウ、ウチダ先生!大ファンなんです!」
と声をかけてしまう。内田先生、目を点にしておられた・・。すみませんでした。
ああ、恥ずかしい、反省。
内田先生は白のボタンダウンのシャツにノーネクタイ、ジーンズにネイビーの
麻(多分)のジャケット、といういでたち。このボタンダウンシャツの襟のボタン
が片方止まってなくて、お話の間時々触っておられた。駆け寄って止めて差し上げ
たかった(馬鹿)。
講演のテーマは「記憶・時間・父性」。一番最近読んだ内田先生の著作は『態度
が悪くてすみません-内なる「他者」との出会い』で、この本は比較的わかり易い
のだが、ご専門のフランス現代思想、構造主義関係の著作となると何がナンだか?
というものもある。しかしお話は本当にわかり易く、時に笑いを取り、エンター
ティナーのような語り口。先生は1950年生まれで、ご自分のことを「老狐」などと
表現されることもあるのだが、その声の若々しさにも驚く。
「死者とのコミュニケーション」がここ数年の研究テーマとのことで、興味深いお話
がたくさん。「忘れない」ことが死者にとって一番の弔いであること、正しい弔いを
すれば死者はあの世へ行くし、正しくない弔いをすればこの世に残って災いを
成す。記憶の再構築は一人では不可能であり、人が過去について語るときはその
相手に惹かれているのだということ。複式夢幻能と精神分析との関係。父的な
ものとの確執について書かれた作品ではカミュの『異邦人』が優れていること、この
作品はフランス語で書かれた小説の中では一番の世界的ベストセラーであること・・。
などなど、あっと言う間に楽しい時間は過ぎゆくのでありました。
もちろん『異邦人』は再読決定。この作品は高校生のとき読んだと思うのだけれど
全く何も憶えていない。また内田先生の著作は「週刊内田」かというほど出ているの
で、『9条どうでしょう』『街場のアメリカ論』などなど未読のものをどんどん読ん
でいきたいと思った。そしてまた是非講演でお話を聴いてみたい。
講演者と聴衆という立場であっても、実際にお会いしているんだという感覚が、
難解なテキストとの距離も縮めてくれるような気がしたから。
内田先生、ありがとうございました。
(『態度が悪くてすみません-内なる「他者」との出会い』
内田樹・著/角川書店/2006)
久しぶりに京都まで電車で行った(前回いつ行ったか思い出せない)けれど、すご
いことになってる、京都駅。シャルル・ド・ゴールみたい(全然違)。バックパ
ッカーの外国人観光客と修学旅行生がたくさん、さすが京都。今回はとんぼ帰り
だったけれど、いつかゆっくり歩きたいなあ。もちろん、涼しくなってから。
今回の講演のチケットは、僅か三分でソールド・アウトだったらしい。メール
での申し込みのみ受付で、勿論私もNTTの時報と同時にメール送信した。運よく
チケットをGETできたけれど、キャンセル待ちも相当数あったらしい。
会場で受付をしていると、なな、なんとアコガレの内田先生がいらっしゃった
ではないか!一瞬にしてミーハー根性炸裂、「ウ、ウチダ先生!大ファンなんです!」
と声をかけてしまう。内田先生、目を点にしておられた・・。すみませんでした。
ああ、恥ずかしい、反省。
内田先生は白のボタンダウンのシャツにノーネクタイ、ジーンズにネイビーの
麻(多分)のジャケット、といういでたち。このボタンダウンシャツの襟のボタン
が片方止まってなくて、お話の間時々触っておられた。駆け寄って止めて差し上げ
たかった(馬鹿)。
講演のテーマは「記憶・時間・父性」。一番最近読んだ内田先生の著作は『態度
が悪くてすみません-内なる「他者」との出会い』で、この本は比較的わかり易い
のだが、ご専門のフランス現代思想、構造主義関係の著作となると何がナンだか?
というものもある。しかしお話は本当にわかり易く、時に笑いを取り、エンター
ティナーのような語り口。先生は1950年生まれで、ご自分のことを「老狐」などと
表現されることもあるのだが、その声の若々しさにも驚く。
「死者とのコミュニケーション」がここ数年の研究テーマとのことで、興味深いお話
がたくさん。「忘れない」ことが死者にとって一番の弔いであること、正しい弔いを
すれば死者はあの世へ行くし、正しくない弔いをすればこの世に残って災いを
成す。記憶の再構築は一人では不可能であり、人が過去について語るときはその
相手に惹かれているのだということ。複式夢幻能と精神分析との関係。父的な
ものとの確執について書かれた作品ではカミュの『異邦人』が優れていること、この
作品はフランス語で書かれた小説の中では一番の世界的ベストセラーであること・・。
などなど、あっと言う間に楽しい時間は過ぎゆくのでありました。
もちろん『異邦人』は再読決定。この作品は高校生のとき読んだと思うのだけれど
全く何も憶えていない。また内田先生の著作は「週刊内田」かというほど出ているの
で、『9条どうでしょう』『街場のアメリカ論』などなど未読のものをどんどん読ん
でいきたいと思った。そしてまた是非講演でお話を聴いてみたい。
講演者と聴衆という立場であっても、実際にお会いしているんだという感覚が、
難解なテキストとの距離も縮めてくれるような気がしたから。
内田先生、ありがとうございました。
(『態度が悪くてすみません-内なる「他者」との出会い』
内田樹・著/角川書店/2006)
嗚呼、タバコが吸いたい~『コーヒー&シガレッツ』
『ブロークン・フラワーズ』に行けなかった腹いせ第二弾、『コーヒー&シガレッツ』。
珈琲と煙草、私の人生の枠外にあるもの。珈琲は何故か胃が受け付けないし、
煙草は吸ったことがない。子どもの頃、大人になったら珈琲はおいしく感じる
ようになるのだろうと思っていたけれど、結局そうはならず、飲めないまま。
煙草はなんとなく吸う機会がなく今に至るが、おばあちゃんになったら吸って
やろうと目論んでいる。
カフェを舞台に、様々な登場人物が珈琲(たまに紅茶)と煙草を手に、会話を繰
り広げる、11話からなるオムニバス。ロベルト・ベニーニ、スティーブ・ブシェーミ、
アルフレッド・モリーナらおなじみの顔ぶれが、どうでもいいような、ちょっと
外したゆる~い雰囲気で煙草吸って、珈琲飲んで、会話して、終わり。それが延々
11話続くわけだけど、「身体に悪い」「いとこ同士」など会話の共通テーマと、
モノクロの映像、頭上からとらえたチェッカー柄のテーブルなどが決まってい
て、飽きることがない。そしてカフェに行って、煙草吸いながらコーヒー、飲み
たいなと思う・・もちろん名前を知らない出演者のバージョンでは、早送りし
たいと思わないでもなかったけれど。
面白かったのは、アルフレッド・モリーナ&スティーブ・クーガンのエピソード
と、トム・ウェイツ&イギー・ポップ、そして御大ビル・マーレイ。ケイト・
ブランシェットもすごいすごいとみんな言うけど、彼女にしたらあれくらいは
「想定内」でしょう。ちなみにビル・マーレイ編は特典映像のほうがより面白い。
面白すぎて本編に入れられないなんてこと、あるんだなあと変に感心する。
アメリカの雑誌の表紙にビル・マーレイが載って、「誰かこの男にオスカーをあげ
てください」と見出しがついていたらしいが、同感(笑)。
監督であるジム・ジャームッシュに関しては、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』
『ダウン・バー・ロー』『ミステリー・トレイン』『ナイト・オン・ザ・プラネット』
(ちなみにこの作品のウィノナ・ライダーとジーナ・ローランズは最高!キーラ・
ナイトレイを見るとナタリーよりも、ウィノナを思い出してしまう私)しか観て
おらず、自分にとっては短編作家、オムニバスの名手という感じだ。
だからこそ長編『ブロークン・フラワーズ』はとてもとても観たかったのだけれど・・。
DVDを気長に待ちます。
(『コーヒー&シガレッツ』監督:ジム・ジャームッシュ/主演:
トム・ウェイツ、ビル・マーレイ、ケイト・ブランシェット/2003・USA)
珈琲と煙草、私の人生の枠外にあるもの。珈琲は何故か胃が受け付けないし、
煙草は吸ったことがない。子どもの頃、大人になったら珈琲はおいしく感じる
ようになるのだろうと思っていたけれど、結局そうはならず、飲めないまま。
煙草はなんとなく吸う機会がなく今に至るが、おばあちゃんになったら吸って
やろうと目論んでいる。
カフェを舞台に、様々な登場人物が珈琲(たまに紅茶)と煙草を手に、会話を繰
り広げる、11話からなるオムニバス。ロベルト・ベニーニ、スティーブ・ブシェーミ、
アルフレッド・モリーナらおなじみの顔ぶれが、どうでもいいような、ちょっと
外したゆる~い雰囲気で煙草吸って、珈琲飲んで、会話して、終わり。それが延々
11話続くわけだけど、「身体に悪い」「いとこ同士」など会話の共通テーマと、
モノクロの映像、頭上からとらえたチェッカー柄のテーブルなどが決まってい
て、飽きることがない。そしてカフェに行って、煙草吸いながらコーヒー、飲み
たいなと思う・・もちろん名前を知らない出演者のバージョンでは、早送りし
たいと思わないでもなかったけれど。
面白かったのは、アルフレッド・モリーナ&スティーブ・クーガンのエピソード
と、トム・ウェイツ&イギー・ポップ、そして御大ビル・マーレイ。ケイト・
ブランシェットもすごいすごいとみんな言うけど、彼女にしたらあれくらいは
「想定内」でしょう。ちなみにビル・マーレイ編は特典映像のほうがより面白い。
面白すぎて本編に入れられないなんてこと、あるんだなあと変に感心する。
アメリカの雑誌の表紙にビル・マーレイが載って、「誰かこの男にオスカーをあげ
てください」と見出しがついていたらしいが、同感(笑)。
監督であるジム・ジャームッシュに関しては、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』
『ダウン・バー・ロー』『ミステリー・トレイン』『ナイト・オン・ザ・プラネット』
(ちなみにこの作品のウィノナ・ライダーとジーナ・ローランズは最高!キーラ・
ナイトレイを見るとナタリーよりも、ウィノナを思い出してしまう私)しか観て
おらず、自分にとっては短編作家、オムニバスの名手という感じだ。
だからこそ長編『ブロークン・フラワーズ』はとてもとても観たかったのだけれど・・。
DVDを気長に待ちます。
(『コーヒー&シガレッツ』監督:ジム・ジャームッシュ/主演:
トム・ウェイツ、ビル・マーレイ、ケイト・ブランシェット/2003・USA)