悪魔は何を企てたのか? ~『藍宇』#2
映画『藍宇』のDVDタイトルって、実は『情熱の嵐~LAN YU~』なんですよね。
なんだか脱力。徹底的に的外れというか、ウケ狙いだったら完璧にスベってる。
「藍宇」っていう「悔しいほど魅惑的な名前」が全てなのに。このタイトルをつけた
人って、本当にこの映画を観ているんだろうか? 「嵐は去った」はずなんだけど。
DVDのカバー写真も、何故か黒い下着姿の林静平が登場。三角関係を暗示した
かったのだろうか。。謎

その林静平について、捍東は原作でこう述懐する。「林静平こそが自分を誘
惑したサタンだと思っていた」と。そして「その悪魔は俺自身だった」とも。
初見のときから、妙に気になる人物がいる。劉征。捍東の腹心の部下であり、
映画の中では唯一、友人らしき人物として描かれている。そして捍東と藍宇の
関係の節目には、必ず彼の影がある。
プールバーでの出逢い。「王に紹介する」と言いつつ、劉征は捍東が藍宇に
興味を示すことを最初からわかっていた。天安門事件の日、身重の妻を案じな
がら、「自分には彼女しかいない」と捍東に打ち明ける。愛する者を永遠に失う
ことへの恐れ。この感情は捍東に伝染し、確実にこの夜の彼の背中を押して
いる。
「才媛」林静平を捍東に紹介したのも劉征。捍東が逮捕されるときも、釈放さ
れたときも、会社を再建するときにも、常に劉征は捍東に寄り添う。そんな彼こ
そを「サタン」と呼んでしまうのは過剰反応かもしれないけれど、少なくとも捍東
と藍宇の関係は、彼が仕組んだことだと言えなくはない。
運命を必然たらしめる化学変化。劉征はその触媒であり、伝導体だったのか
もしれない。捍東も、藍宇も、林静平も、劉征という一人の人物に踊らされてい
たのだろうか。そして彼らに魅せられた私は、こうしていつまでも踊り続けてい
る・・・。
なんだか脱力。徹底的に的外れというか、ウケ狙いだったら完璧にスベってる。
「藍宇」っていう「悔しいほど魅惑的な名前」が全てなのに。このタイトルをつけた
人って、本当にこの映画を観ているんだろうか? 「嵐は去った」はずなんだけど。
DVDのカバー写真も、何故か黒い下着姿の林静平が登場。三角関係を暗示した
かったのだろうか。。謎

その林静平について、捍東は原作でこう述懐する。「林静平こそが自分を誘
惑したサタンだと思っていた」と。そして「その悪魔は俺自身だった」とも。
初見のときから、妙に気になる人物がいる。劉征。捍東の腹心の部下であり、
映画の中では唯一、友人らしき人物として描かれている。そして捍東と藍宇の
関係の節目には、必ず彼の影がある。
プールバーでの出逢い。「王に紹介する」と言いつつ、劉征は捍東が藍宇に
興味を示すことを最初からわかっていた。天安門事件の日、身重の妻を案じな
がら、「自分には彼女しかいない」と捍東に打ち明ける。愛する者を永遠に失う
ことへの恐れ。この感情は捍東に伝染し、確実にこの夜の彼の背中を押して
いる。
「才媛」林静平を捍東に紹介したのも劉征。捍東が逮捕されるときも、釈放さ
れたときも、会社を再建するときにも、常に劉征は捍東に寄り添う。そんな彼こ
そを「サタン」と呼んでしまうのは過剰反応かもしれないけれど、少なくとも捍東
と藍宇の関係は、彼が仕組んだことだと言えなくはない。
運命を必然たらしめる化学変化。劉征はその触媒であり、伝導体だったのか
もしれない。捍東も、藍宇も、林静平も、劉征という一人の人物に踊らされてい
たのだろうか。そして彼らに魅せられた私は、こうしていつまでも踊り続けてい
る・・・。
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宙(ソラ)の名前~『藍色宇宙 藍宇・メイキング MAKING BLUE』

「メイキングは必見」 「本編とメイキングで一つの作品」 という多くのレビュー
を読んで、どうしても観たかった映画『藍宇』のメイキング・フィルム。胡軍、劉
のインタビューも併せて、なるほど、これは「必見」。本編以上に詩的な、一つの
「作品」と言えるかもしれない。
胡軍と劉、この二人の「相性」は全く持って完璧。最早私の中では「ニコイチ」
になってしまっているかも。元々私は「のっぽ好き」であるので(照)、二人の身長
が185cm、というだけでもう眼福、眼福。。
ラストシーンに流れる主題歌『你怎麼捨得我難過』を、劉がささやくように歌
う。。心が震えます。一番好きなシーンかも。これ、自分も絶対カラオケで歌い
たい! って思った。最初は「情緒的過ぎる」と思ってしまったメロディなのに、今
じゃ頭の中で無限ループしてる有様。
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『藍宇』を観たいと思ったのもBBMがきっかけだし、『藍宇』とBBMの関連を指摘
する意見も多い。どちらも「ゲイが主人公のラブ・ストーリー」の傑作ではあるけれ
ど、私は『藍宇』を観ている間、正直BBMのことは全く思い出さなかった。と言うか、
私が思い出していたのは他の映画だった。『ブエノスアイレス』。

『ブエノ』にも、『摂氏零度』という有名な(有名過ぎる?)メイキングがある。
実は映画冒頭、プールバーで遊ぶサングラス姿の捍東を見て「王家衛みたい」
と思ってしまったのだ。郷哥ホテルの部屋でクローゼットを開ける捍東が、角度
によってはレスリーに似ても見えた。胡軍によると、一番最初に撮影したのは
劉との「初夜」だったという。「一番困難なシーンから入る」という監督の意図
だったらしいが、これもあのショッキングなベッドシーンから撮影に入ったという
『ブエノ』を思い出させる。劉の白ブリーフも、、、ミナマデイウナ
そして、『ブエノ』もまた、エンディングに流れるフランク・ザッパを最初は唐突
に感じたものだった。しかし今では、「あれ以外にはない」と思っている。
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天安門事件の夜の撮影も、真冬に行われたんだな。胡軍の吐く息が白い。しか
も彼はアンダーシャツ一枚! 過酷な撮影の合間の、二人の笑顔が眩しい。
プールバーのホールの向こうに、本当に藍宇は立っていたんだ。所在無げに。
底知れぬ自らの魅力にも気づかないままに。藍宇に「一目惚れ」だった捍東。
藍宇--「なんてセクシーな名前なんだ」。結局、この果てない謎と光と闇を内包
した「藍(色)宇(宙)」という名前、これこそが全てなのかもしれない。
彼に魅せられた者たちが彷徨う、藍色の宇宙。果てなき果てを探し求めて、もう
戻っては来られないのかもしれない。でも、私はそれでもいいかな。行かない?
一緒に。
殉愛~『北京故事 藍宇』

映画『藍宇(ラン・ユー)』の原作小説。インターネット上に覆面作家の作品とし
て発表され、賛否両論を巻き起こしたという問題作。
映画を観て、どうしようもなく心惹かれた私だけれど、何点か疑問に思うところ
はあった。その答えを探しに、80年代後半の北京の街を訪れてみることにする。
冒頭、あれから三年後。捍東ったらいきなり再婚してるよ! あり得ない・・・。
いや、陳捍東のあのキャラクターならあり得るかも、と気を取り直す。
映画では、捍東は正月に藍宇を自宅に招き、家族の皆に紹介している。捍東
が逮捕されたときも、藍宇と捍東の仲は公然のように見えた。21世紀の今以上
に、偏見と差別意識が強かったであろう80年~90年代の北京で、捍東の一家
は特別にリベラルだったのだろうか?
原作では、一家の長男であることや、老いゆく母の言葉にプレッシャーを感じ
る捍東の姿や、家族の偏見が生々しく描かれている。特に、捍東の妻・林静平
が藍宇を陥れた所業は強烈。捍東に何度諭されても、「僕は結婚なんかしない
!」と応える藍宇に涙してしまう。
離婚した捍東は再会した藍宇に、「彼氏はいるの?」と尋ねる。藍宇は「彼は
学生で、海外にいる」と曖昧に答える。この言葉は真実なのか? 原作では、
捍東がその「彼」を目撃する場面や、藍宇の部屋で写真を見つける場面がある。
しかし、「僕はあなたが好きなだけだ!」という、藍宇の言葉に嘘はない。
原作小説は捍東の一人称で描かれているため、当然ながら捍東の視点から
見た藍宇しか描かれない。藍宇の視点から描かれた『北京故事』が読みたいと
思うのは私だけだろうか。
ねぇ藍宇、初めて捍東を見たとき、どんな感じだったの? 彼のどこが一番
好きだった? 捍東はどんな身体つきをして、どんな表情を見せるの? 捍東
と一緒にいて、ずっと不安だった? それとも、ずっと幸せだったのかな。 どう
して「来世ではこういうふうにしない」って言ったの? 捍東は、天国でも地獄で
も、君と一緒にいたいって神様にお祈りしているんだよ・・・。
最初から最後まで、映画で描かれるよりずっとずっと、捍東は藍宇に執着して
いるように思えた。家族や会社や、「世間体」に囚われていた分、捍東の方が苦
悩は深かったのかもしれない。男同士だとか、同性愛だとかではなく、ただ「人間
同士」が愛し合うことが、これほどの苦難と葛藤を伴うなんて・・・。それでも、「現
世では後悔してない」と言った藍宇。彼の魂はどうしようもなく捍東を求め、どん
な困難も二人の愛を砕くことはできなかった。死でさえも。
( 『北京故事 藍宇』 北京同志・著/九月・訳/講談社・2003)
我愛、~『藍宇 情熱の嵐』

藍宇
LAN YU
1988年、北京。特権階級に属し、貿易会社を経営するプレイボーイ、捍東
ハントン(胡軍フー・ジュン)は、東北出身の貧乏学生、藍宇ラン・ユー(劉
リウ・イエ)と出逢う。
自らも同性愛者であることをカミングアウトしている關錦鵬スタンリー・クワ
ン監督による、100%のラブ・ストーリー。熱烈なファンを持ち、その素晴らし
さは恐らく語り尽くされているであろう、間違いなくクラシックとなる本作を、や
っと観ることが叶った。予想通り、完膚無きまでに叩きのめされました。我愛
藍宇。
「お前が去っても 思い出は去らない 今も心の内にいる 本当だ」
捍東のモノローグ。物語は、二人の「最後の朝」から始まる。身支度を整え、
まだベッドで眠る捍東を起こさないように、そっと上着を羽織る藍宇。
物語は一気に、10年の時を遡る。出逢いのシーン。金と欲望を持て余し、
精気に満ちた男がピンボールに興じている。「赤はまずい、黒を持って来い」。
女でなく、男が欲しいという隠喩。モノにした女の名前は憶えもしない男、捍東
が尋ねる。
「彼の名前は?」 「藍宇」。 運命の一瞬。
場面は転換し、不安と緊張で今にも泣き出しそうな表情の、藍宇のクローズ
アップ。この流れるようなオープニングの演出で、既に私の心は鷲掴みにされ
ていた。
伏線に満ちたセリフと構成、鏡を使って画面に奥行きと拡がりをもたらし、ガ
ラス越しの映像で閉塞感を表現する。最小限かつ的確なモノローグ、アクセン
トとなる切り返しやジャンプカット、微妙に変化する色彩。監督がこだわり、愛
し抜き磨き上げた作品だということがよくわかる(美術・編集は張叙平ウィリア
ム・チャン)。
そして何よりも私をノックアウトしたのは、胡軍と劉、主演二人の「演技を越
えた」演技。自信と欲望に満ちた捍東の視線、純粋で仔犬のように真っ直ぐな
藍宇の眼差し。再会の時、「4か月」と即答する藍宇、「2週間ぶり」と息を切ら
しながら、捍東のマフラーを首に掛けてやってくる藍宇。彼がどんな思いで、そ
の日々をやり過ごしてきたか。1989年6月4日、傷ついた藍宇を抱きしめる
捍東、彼の腕の中で嗚咽する藍宇。。
「全部貯金してる」 「俺が落ちぶれたら貸してくれ」。 「死んだら終わりだ」
「記憶に残っている間は、終わりじゃない」。 「言っておくが、好きだ」 「泣か
せないで、僕も大好きだ」。 「もう、知り過ぎた?」 捍東にとっては遊びにしか
過ぎなかった二人の関係は、藍宇にとっては唯一無二の絆だった。傷ついて
去り、傷つけられて去っても、運命は必然と化して二人を繋ぎとめる。車を呼
ぶと言いながら、捍東を絡め取る藍宇の黒い瞳。その穏やかな慈愛に満ちた
強烈な磁力に、一体誰が抗えるというのだろう? 藍宇の瞳には、捍東しか映
っていない。初めての夜から、最後の朝まで。「こんなに好きだなんて」。自分
でも「変」だと感じてしまうほどに。
どん底に落ち、捍東がようやくその「運命」を悟ったとき、唐突に二人の関係
は幕を閉じる。たった一つの愛に生きた藍宇、彼を近くに感じながら、穏やかな
心で生きようとする捍東。身も心も捧げ、役を生き抜いた胡軍と劉。それは
「迫真」ではなく「真実」だった。彼らの献身に、心からの感謝を。關錦鵬の信念
に、心からの敬意を。何度も、何度でも繰り返し観たい、愛の刻印。
( 『藍宇(ラン・ユー) 情熱の嵐』 監督:關錦鵬スタンリー・クワン/
主演:胡軍フー・ジュン、劉リウ・イエ/2001・香港、中国)
前言撤回・・・
すみません・・・。
録画したDVDを溜め込んだりしない、買ったことに満足するだけなんだから
DVDは買わない、「どうしても観たい映画があれば、レンタルに行けばいい」
なんて、前回の記事で中途半端な「断捨離」宣言してしまいましたが・・・。
その舌の根も乾かぬうちに、DVDを購入してしまいました。。だってだって、
あまりにも素晴らしくって、どうしてもメイキングが観たい! と思ってしまっ
たのです。傑作って罪作りだわ。
購入した物はまだ届いていないのですが、レンタルの方でリピート中。

録画したDVDを溜め込んだりしない、買ったことに満足するだけなんだから
DVDは買わない、「どうしても観たい映画があれば、レンタルに行けばいい」
なんて、前回の記事で中途半端な「断捨離」宣言してしまいましたが・・・。
その舌の根も乾かぬうちに、DVDを購入してしまいました。。だってだって、
あまりにも素晴らしくって、どうしてもメイキングが観たい! と思ってしまっ
たのです。傑作って罪作りだわ。
購入した物はまだ届いていないのですが、レンタルの方でリピート中。

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